魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0578:静かな冬の午後。

 十二月中旬。昼下がりの午後に、南の女神さまがひょっこり神の島からアルバトロス王都のミナーヴァ子爵邸に戻ってきた。

 

 最初、南の女神さまは正門から入ることを考えていたそうだが、確実に騒ぎになると考えて子爵邸の中庭へと転移したそうだ。確かに南の女神さまが正門から入ろうと試みれば門兵を務める騎士の方が腰を抜かすだろう。

 貴族の屋敷で護衛を務める方が腑抜けていると噂される可能性があるし、南の女神さまが気を使ってくれて良かったと彼女をお迎えした玄関ホールで私が安堵の息を吐いていると西の女神さまが姿を現した。どうやら南の女神さまが戻ってきたことに気付いたようで、図書室から出てきたようだ。

 

 「おかえり」

 

 西の女神さまがへらりと笑って南の女神さまに声を掛けた。南の女神さまも西の女神さまを見て、にっと笑い片手を上げた。なんだかんだ言いつつ、神さま姉妹は仲が良いよねと様子を見守っていると南の女神さまが私に視線を向けた。

 

 「おう、姉御。ただいま。ナイの家の飯が恋しくなったから、また一、二週間くらい世話になる。確か、年の瀬とか忙しいよな?」

 

 南の女神さまが私に許可を問うているけれど、駄目ですと否定したら神さまの島へ戻ってくれるのだろうか。でも子爵邸の料理が美味しくて恋しいと願ってくれるのは素直に嬉しいし、お喋りできる方が増えるのは良いことだろう。

 

 「親父殿がアガレス帝国から貰った酒を甚く気に入っていたぞ。できれば追加で欲しいとも言っていたんだが……飲み過ぎると性質が悪いからな。酒を送る数は誤魔化してくれ」

 

 呆れながら溜息を吐いた南の女神さまはグイーさまがアガレス産のお酒を甚く気に入ってくれたことを教えてくれた。とりあえずウーノさまに連絡を取ってみると私は南の女神さまに伝えると、玄関ホールに集まっていた皆さまは解散となる。

 それぞれのお仕事に戻って行くのだが私の執務は終えているし、なにをしようかと頭を捻る。南の女神さまは庭に出て、エル一家とジャドさん一家とポポカさんたち一族と遊んでくると言い残して姿を消している。夕飯が楽しみだと言い残していたから、本当に子爵邸の食事が気に入ったようだ。なんだか頻繁に食事にきそうだなという心配はさておいて、側に控えていたジークとリンの顔を見上げれば、二人は小さく顔を右側に傾げる。

 

 「なにをしようか?」

 

 「そういえば黄色い花は大丈夫なのか?」

 

 「庭師の小父さんの悲鳴がまた聞こえてくるかもしれない……」

 

 ジークとリンが少し困ったような顔をして、大木の精霊さんから頂いた黄色い花の種について言及した。プランターに植えた黄色い花の種はすくすくと育ち一週間程度で開花したのだが……一株の苗が付けた花の数が半端ない量になっていたのだ。

 そして繁殖力も強かったようでプランターに植えていた花が枯れ、ポトリと種を落とせば地面からまた生えてくる。頭を抱えた庭師の小父さまに相談されて、私たちは仕方ないと地面に落ちた種を回収し、プランターはブロックを敷き詰めた上に置くように対策を取った。

 

 ちなみに副団長さまの研究結果はまだ提出されていない。首を長くして待っているのだけれど、流石に研究となると時間が掛かるようである。

 ブロック敷き詰めで解決できるか分からないけれど、精霊さんに話を伝えると気落ちしそうなためまだ言えていない。ただやはり花の匂いは子爵邸で働く皆さまに好評で、特に女性陣から人気が出ていた。

 

 「母さんの件もあったから。ナイ、彼を気に掛けて欲しい」

 

 『精霊も悪気はないんだけれど、力が強過ぎちゃったのかもしれないねえ~』

 

 西の女神さまが声を上げ、私の肩の上にいるクロも声を上げた。確かに庭師の小父さまには災難続きだった気がする。庭が全壊したことはないが、大事に育てている草木が蔑ろにされるのは心を痛めてしまうだろう。人手が足りないならお弟子さんを雇うのもアリか。これは庭師の小父さまの後進を育てるやる気次第だからあとで相談してみよう。

 

 クロも大木の精霊さんの力が存外に強かっただけで、悪意はなかったと言いたいようである。精霊さんは自身の力の加減を掴み切れていないようだ。私も自分の力を制御できていない所があるので、精霊さんを責めるのは筋違いだし好意でくれた種である。なにか効能がないか調べて貰っているのは失礼かもしれない……。

 

 やはり種の件を副団長さまに調べて貰っていることを精霊さんに伝えるのはもう少しあとにしておこうと決めて、ユーリの部屋へ行こうとなった。玄関ホールを抜けて廊下を歩いていると、私の後ろにはジークとリンではなく西の女神さまがいて、更にその後ろにそっくり兄妹が歩を進めている。

 

 「女神さま?」

 

 私が後ろを振り返り女神さまを見上げると、彼女はこてんと首を傾げる。

 

 「女神さまもユーリの部屋に?」

 

 「うん。慣れないといけないから」

 

 どうやら西の女神さまもユーリと会いたいらしい。会いたいというよりは、今後西大陸を闊歩する予定だから小さい子に慣れておきたいという気持ちが強いようである。以前、かちんこちんに固まっていた西の女神さまはユーリに対して少しだけ慣れている。

 ユーリはユーリで西の女神さまを意に介さず、自分のやりたいことをしているのだから本当にユーリは将来大物に育ちそうだ。西の女神さまも小さい子に対する苦手意識が消えると良いのだが……長い時間拗らせていたから少々難儀しそうである。

 

 「慣れました?」

 

 「……まだ少し苦手」

 

 私が後ろを振り返りながら会話していることに気付いた西の女神さまが隣に並ぶ。転倒する危険は減ったけれど、身長差があるのは変わりないので首は上げなければならない。

 

 「ゆっくり慣れていきましょう」

 

 首を上げるのはそっくり兄妹で慣れているから良いけれど、西の女神さまが慣れるのはいつになるのやらと前を向く。そうして辿り着いたユーリの部屋の前に立ち、ノックをすれば乳母さんが出迎えてくれる。

 西の女神さまが同席することに一瞬驚いていたものの、一度や二度ではないので乳母さんは普通に対応してくれる。慣れは偉大だなと感心しながらユーリの部屋の中へと進むと、床の上で遊んでいたユーリが訪問者に気付いて、ハイハイしながらこちらへ歩み寄っていた。

 

 「ユーリ、お昼ご飯は食べた? そろそろオネムの時間かなあ……仏頂面になってるよ~」

 

 私がユーリの下にしゃがみ込むと、クロがジークの方へと飛んで行った。私がユーリを抱き抱えると、彼女の興味は確実にクロに向く。ユーリにぺちんと顔を両手で挟まれたり、脚をにぎにぎされるものだからクロも西の女神さま同様にユーリを苦手としていた。

 クロの場合は万が一ユーリを傷付けてしまう可能性があると分かっているからのような気もするけれど。件のユーリはご飯を終えて人心地が付いたのか少し不機嫌な様子であった。お昼寝の時間がそろそろ近づいているから仕方ない。そのまま寝落ちできるか、なにかの拍子に機嫌を更に悪くして大泣きしてからの寝落ちになるのかは賭けだろう。私が両腕をユーリに差し出すと、遊びの邪魔をするなと彼女に手を払われてしまった。

 

 「ありゃ。フラれた」

 

 私の声にジークとリンが仕方ないと言いたげな顔をしている。西の女神さまはどうしてだろうと首を傾げていた。どうやらユーリは私たちが部屋にやってきたことが気になったけれど、相手にはして欲しくなかったようである。

 これで抱き上げると大泣きコースは確実なので、床に散らかっている玩具を拾おうと私は少し移動して、部屋の真ん中に立つ。ユーリがさきほどまで遊んでいた場所には積み木やぬいぐるみが転がっている。その中にグイーさまが媒介としていたクマのぬいぐるみも一緒に転がっていた。散らばった積み木を少し片づけて、転がっているぬいぐるみをいくつか拾い上げる。

 

 私がごそごそしていると西の女神さまは部屋の扉の側で固まったままだ。

 

 大丈夫かと心配になるけれど、ユーリは動かない女神さまを置き物と認識しているようだった。女神さまは女神さまでユーリが気になるけれど、手を出す勇気はないらしい。

 不機嫌なユーリを抱き上げて貰って大泣きして貰うという荒療治も考えたが、更に苦手意識が悪化しそうなため暫く置き物でいて頂こうと片づけを続ける。ジークとリンは邪魔をしては駄目だと壁際に控えているので、護衛として部屋に滞在するようだった。

 

 「あ、船を漕ぎ始めた」

 

 ユーリが床の上でこっくりこっくりと顔を上下させている。ユーリは半目になりながら、ちょこちょこと歩いて女神さまの足下に辿り着く。そうして彼女は女神さまの足に寄りかかって寝息を立て始める。

 乳母の方とジークとリンと私はユーリの行動を見て唖然としていた。まさか西の女神さまの足を背凭れ替わりにして寝入るとは……ユーリはなにが起こっても動じない子に育ちそうである。公爵さまと凄く気が合いそうだなあと考えて直ぐに首を振り、私は乳母の方を見る。

 

 「アンファンの様子は如何ですか?」

 

 一先ず、状況は落ち着いたのでアンファンの最近の様子は如何なものかとなったのだ。乳母の方は急な話題の逸らしに驚きつつも、答えようと口を開く。

 

 「ユーリさまの面倒を良くみていますよ。サフィールさんが小さい子に対してのアドバイスを送っているようで、同年代の子よりも知識が豊富な気がします」

 

 どうやら順調にアンファンの教育も進み、周りの方のフォローもきちんと入っているようである。アンファンはもう私の心配は必要なさそうだなと小さく笑った。とはいえユーリの側仕えを目指すならば、いろいろと学ばなければいけないことが沢山ある。

 数年後、アンファンはアルバトロス王立学院の普通科を目指しても良さそうだと候補のひとつに入れておく。侍女見習い学校でも良さそうだが、アンファン次第だろうか。

 

 「ナイ、どうすれば良い?」

 

 西の女神さまが小さくか細い声を上げた。どうやらユーリを起こしてはいけないと考えてのことだったようである。ユーリは一度寝入ると目覚めるまでぐっすり眠るタイプだ。

 だから少し部屋の中でお喋りしようとも起きないのだが、女神さまはユーリが目覚めるのは可哀そうだと判断してくれたようだ。私は玩具を綺麗に仕舞って、ぬいぐるみは所定の位置に戻して女神さまの下へ行く。

 

 「ユーリの目が覚めるのは数時間後ですね」

 

 「良かった。一年寝てるとかだと流石にキツイ。起きるまで待ってるね」

 

 いやいや。時間単位がおかしいですし、ユーリが一年も寝るのは異常である。私が苦笑いを浮かべながらユーリを抱き上げると、寝て脱力している分いつもより重い。抱き上げてもすこーと寝ているユーリに苦笑いをして、女神さまの方へとユーリを向けた。

 西の女神さまはおずおずと手を差し出して彼女のもちもちの頬を撫でた。気持ち良いですよねえと言いたいのをぐっと堪えて、女神さまとユーリのふれあいを見守る。眠っている所しか触れないなんてちょっとおかしいけれど、まあ西の女神さまが赤子に少しでも慣れるのならばと、もう少しだけユーリの部屋で過ごそうと決めるのだった。

 

 ◇

 

 西の女神さまはアリアさまのご実家であるフライハイト男爵領の視察に向かいミナーヴァ子爵邸にはいない。私が女神さまに同行しておらず子爵邸でまったりと過ごしている。アリアさまなら問題なく西の女神さまの接待を成し遂げられると判断しているし、彼女自身も私が同行しなくても問題ないと言い切ってくれた。

 いつまでも一緒に西の女神さまと行動を共にするわけにはいかないし、私はアリアさまに任せようと決断をくだした。アリアさまは子爵邸で西の女神さまとお喋りしているから特に心配することはないのだが、フライハイト男爵さまとご家族の皆さまがぶっ倒れてしまわないか心配なだけである。

 

 寒さが一段と厳しくなっているので、お昼の自由時間は部屋でお茶を飲んでいた。暇をしていたクレイグも誘っているのだけれど、アリアさまの話題になると彼は渋い顔をしている。

 

 「大丈夫なのかぁ?」

 

 クレイグがティーカップをソーサーの上に置いて怪訝な表情で声を上げた。クレイグが優雅に紅茶をしばいている姿に吹きそうになるが、どうにも本気でアリアさまのご実家を心配しているようだった。

 私は笑っては駄目だと自分の心に言い聞かせ、彼と同じようにティーカップをソーサーの上に置きお茶菓子を手に取る。ジークとリンも私室にいるのだが、会話に加わる気はないようで紅茶の味を楽しんでいた。

 クロとアズとネルもお茶と一緒に出して貰った果物に集中していて、クレイグの声は全く聞こえていないようだった。床の上でまったりしているヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたち三頭はあくびをしたり、後ろ脚を器用に動かして顔を掻いている。

 

 「心配しなくても大丈夫だよ。アリアさまだし。その辺りはちゃんと判断してるつもりだよ。あと南の女神さまが同行してくれているから、大概のことは対応できるはず」

 

 私はクレイグと視線を合わせてアリアさまなら大丈夫と伝えて、手に持っていたお茶菓子を口に放り込む。料理長さんたちが丹精込めて焼いてくれたスコーンは美味しい。ジャムを乗せるとさらに美味しい。ちなみにジャムは子爵領で採れた果物で作って貰っている。

 咀嚼している私をクレイグは呆れた視線を寄越しつつ、はあと溜息を吐く。一体どうして彼はアリアさまかフライハイト男爵領を気にしているのだろうか。いつもであれば『ま、なんとかなるだろ』と割とあっさりとした言葉を口にするはずなのに。むうとクレイグの顔を見ながら私が悩んでいることに、本人が気付いてまた溜息を吐いて口を開いた。

 

 「ナイ。普通、女神さまが領地の視察に赴くことなんてねえからな!」

 

 「でも東の女神さまもアガレス帝国をウロウロしているみたいだよ。ウーノさまから手紙が届いてる」

 

 確かに神さまが地上を物見遊山しているなんて珍しいのだろう。でも西の女神さまは随分と昔は人間を導くために各地を回っていたと聞く。東と北の女神さまは知らないが、南の女神さまは地上に干渉していたようだから、気になることがあれば南大陸に降臨したはずである。

 そして今、東の女神さまは東大陸のアガレス帝国のどこかで街や村を見て回っているのだとか。騒ぎになるのは嫌らしくかなり力を抑えており、東の女神さまに同行している方から定時連絡がアガレス帝国の皇宮に入っているそうである。

 

 テラさまは日本の文化好きが高じてアパートに住んでゲーム三昧しているようだし、割と地上で好き勝手しているような。でも文化が成熟して放置しても大丈夫と判断したから女神さま方は神さまの島で過ごしていた。数百年単位で見れば珍しいことかもしれないのか……と私が頭を悩ませているとクレイグがまた口を開く。

 

 「それは例外だ。男爵家の領地に女神さまが訪れたなら大騒ぎになるし、あとが大変だぞ?」

 

 確かに女神さまを接待しなければならないから、いろいろと大変だろう。でも西の女神さまは不器用な態度でも、相手に下心とかない限り特に気にしない方である。

 ご自身が女神という存在で人間からは畏まられていると学んだようで、大陸の魔素が濃くならないかと最近は考えているようだった。しかしあとが大変ってなんだろう。クレイグに聞いてみた方が早いと私は彼ときちんと視線を合わせた。

 

 「例えば?」

 

 「他の領地から信仰の篤い連中がこぞってくるんじゃねえか。聖遺物が残っているかもとか考えそうなことだろ?」

 

 クレイグがいいか良く考えろと前置きしてから教えてくれた。確かに信仰心の篤い方が大勢やってくるかもしれない。アリアさまなら宿代で稼げるとか言い出しそうだけれど、男爵さまに儲けようとする考えはなさそうである。

 確かに少々心配であるが、フライハイト男爵領には鉱山開発のためアルバトロス王国から派遣された護衛の方や高官の方が駐在している。男爵領が妙なことに巻き込まれたならば、直ぐにアルバトロス王国上層部と鉱山利権に噛んでいるリヒター侯爵家が睨みを利かせているので大丈夫なのだ。だから妙な人たちについては対処できるが、聖遺物って大層な物があっただろうか。槍とかならあり得るかもしれないけれど。

 

 「聖遺物ってどんなものが?」

 

 「女神さまが触れた品とかがそうなるだろうよ」

 

 私の言葉にクレイグが一瞬考える仕草を見せるが直ぐに答えをくれた。しかし、それだと。

 

 「ウチの屋敷には沢山あるね…………」

 

 私たちが住んでいる王都のミナーヴァ子爵邸には沢山あるのだが。女神さまが触れただけでも聖遺物認定してくれるものなのか疑問だが、確かに有難がる方には貴重なものである。

 女神さま方が使っている部屋に衣服にカトラリーやお皿とかが選ばれるのだろうか。それを言い始めると二柱さまが歩いている廊下だって足が触れている。調度品にも西の女神さまはよく触れているし、図書室の本は全部聖遺物になってしまうのだが。いやいや、あり得ないと頭を振るものの聖王国の聖職者の方であれば泣いて喜びそうだなと、私の顔がだんだん渋くなっていく。

 

 「ナイ……今の今まで気にしてなかったのかよ……」

 

 クレイグが呆れた顔で私を見ていた。流石に日用品が聖遺物というのはあり得ないだろうし、女神さまたちが大事にしている物が聖遺物と言われれば納得できるけれど……今の所、子爵邸で出されるご飯が気に入っている。

 あれ、ミナーヴァ子爵邸のご飯は世界文化遺産のようになってしまうのかと首を捻るものの、とりあえず話の軌道を元に戻さなければ。

 

 「なににせよ、アリアさまなら大丈夫。フライハイト男爵さまは心配だけれどね。というか珍しいよね、クレイグが誰かに言及するなんて」

 

 うん。アリアさまなら大丈夫だ。きっと西の女神さまと笑い合いながら会話しながら、フライハイト男爵さまとご家族は青い顔をしつつ彼女と女神さまの後ろを歩いているのだろう。私はそんな光景を思い浮かべながら笑っていると、クレイグが席から勢い良く立ち上がる。

 

 「うっせ。気になっただけだっての! 茶、ごちそうさん! 仕事戻る!」

 

 彼が少し顔を赤らめながら同席していたジークとリンと私に背を向けて部屋を出て行く。私はお茶菓子に手を伸ばしながら、ジークとリンの顔を見る。

 

 「どうしたんだろ……クレイグ。変な物でも食べた?」

 

 私がそっくり兄妹の顔を見れば、ジークが苦笑いを浮かべながら『さあな』と言い、リンがふるふると首を振っている。食事は料理長さんを筆頭とした料理人の方々が徹底管理しているから、変な物は食べていない。

 お腹が空いて機嫌が悪いわけでもないだろうし、そもそも何故アリアさまのことをクレイグが心配するのだろうか。そういえば以前クレイグはアリアさまの方を見ていたようなと記憶を掘り返すが、なにかあったのだろうか。クレイグの謎の行動に私が頭を捻っていると、ジークが口を開いた。

 

 「クレイグもなにか考えがあるんじゃないか?」

 

 ジークがクレイグが出て行った扉を見つめながら小さく肩を竦める。

 

 「そうなのかな。ねえ、ジーク」

 

 「ん?」

 

 「クレイグ『も』ってことは、ジークにもなにかあるの?」

 

 「そういう意味の『も』じゃないさ」

 

 私が彼に問えば、ジークは私から気持ち視線を逸らしながら答えてくれる。ジークが話の最中に視線を逸らすのは珍しい。やはりなにかある気がするけれど、突っ込むのは野暮だと考えて、手に持っていたお茶菓子を口に放り込むのだった。

 

 ◇

 

 アリアさまのご実家であるフライハイト男爵領の視察を終えた西の女神さまと南の女神さまが戻ってきた。アリアさまも一緒に戻っていたのだが、以前より彼女たちの距離が縮まっているような気がする。

 仲良くなれたならなによりと感心していると、アリアさまはアガレス帝国で買い付けた天然石を天馬さまたちが凄く気に入ってくれたと教えてくれ、西の女神さまは天馬たちが素直で可愛かったと感想をくれた。

 

 南の女神さまはあっちこっち行き来する西の女神さまに振り回されたようで、少々疲れた様子を見せている。大丈夫ですかと南の女神さまに私が問いかけると『あたし一人で姉御を御すのは難しい』と眉間に皺を寄せながら教えてくれた。ならば東と北の女神さまを呼べば良いのではと私が南の女神さまに言葉を返せば、余計に酷くなると言われたのだが、そんなに酷くなるものなのだろうか。

 

 良く晴れている日の午後、子爵邸の東屋でフライハイト男爵領に赴いた話を私は西の女神さまと南の女神さまとアリアさまと次に視察に向かう予定のロザリンデさまたちとお茶を飲みながら話を聞いている所である。

 一先ず、問題なくフライハイト男爵領の視察を終えたようである。アリアさまは狭い領地で恐縮ですと仰っているが、魔石鉱山の見学は女神さま的に面白かったとのこと。アガレスの銅鉱山は違う目的があったので、楽しめなかったようである。

 

 アリアさまが次はロザリンデさまの番ですねと笑顔で会話を投げると、当のご本人は引き攣った顔で女神さま二柱によろしくお願いしますと頭を下げている。

 アリアさまと私は目配せをして『凄く緊張していらっしゃいます』『真面目な方ですからねえ』と無言で会話を交わしていると、西の女神さまがアリアさまもリヒター侯爵家の視察に同行しないかと誘っている。

 問われた本人は女神さまとリヒター侯爵家が問題ないのであれば是非! と力強く伝えると、ロザリンデさまが凄く良い顔になった。どうやらロザリンデさまお一人で女神さまの案内を務めるのは心細かったようで、アリアさまが一緒なら少しマシになるらしい。リヒター侯爵家の視察も私の同行は必要なさそうだなと安堵して――ふと、不味いことを考えてしまった。

 

 最近の西の女神さまは各地を転々としているが、西の女神さまを讃えている聖王国に一度も行っていない。聖王国の不真面目な方はどうでも良いのだが、フィーネさまとアリサさまとウルスラさまは困ってはいないだろうか。

 一応手紙でやり取りをしているものの、女神さまの話題はなるべく避けるようにしていた。教皇猊下も困っているかもしれないし、少し西の女神さまの意思を聞いてみようと私は一つ咳払いをする。

  

 「西の女神さま、少し問題が出てきたような気がします」

 

 「急にどうしたのナイ。神妙な顔してる。珍しい」

 

 西の女神さまは私の顔を見て、熱でもあるのと言いたげだった。熱や風邪は生まれ変わってから引いた記憶がない。馬鹿は風邪を引かないというが、魔力量のお陰で免疫が高いのかもしれないなと一人で納得する。

 いや、風邪の話はどうでも良くて聖王国のことをきちんと確認を取らなければと西の女神さまと視線を合わせると、何故か南の女神さまが私の顔を覗き込む。

 

 「本当にな。どうしたんだ、ナイ」

 

 珍しいと言いたげな南の女神さまに、アリアさまとロザリンデさまもいきなりどうしたのかと困惑している。護衛として後ろに控えてくれているジークとリンもだし、ソフィーアさまとセレスティアさまも妙な雰囲気を醸し出していた。私のことはどうでも良いから聖王国と気を取り直して背をピシっと伸ばす。

 

 「今更なのですが……というか怖くて聞けなかった側面もありますけれど……聖王国の立場が凄く不味いような?」

 

 「聖王国ってフィーネがいる国だよね」

 

 西の女神さまが私の言葉に疑問符を浮かべているようだった。南の女神さまは私の言いたいことを理解してくれたのか、後ろ手で頭をボリボリ掻き始めた。

 

 「あー……姉御、聖王国に行ってねえだろ」

 

 「うん」

 

 「一応、姉御を祀っている国だからな。行かねえと向こうの立つ瀬がねえんじゃねえか?」

 

 南の女神さまの援護に感謝しつつ私はうんうんと頷いていると、西の女神さまが不思議そうな顔をして『行っても良いけれど、行く意味あるの?』という爆弾発言を放つのだった。

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