魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
権太くんと私は、悪戯はしないという約束を取り付けて、彼をアルバトロス王国に遊びに連れて行くと交わした。あと他国の友人――フィーネさまたち――をフソウに連れてきても良いのかと確認を取り、帝さまとナガノブさまから了承を頂いている
鰻重美味しかったと心を満たしてフソウからアルバトロス王国王都にある子爵邸に戻っている。特に問題なく毛玉ちゃんたちはフソウに残ってくれて、いつものメンバーで『また来るからね』と別れを告げていた。
雪さんと夜さんと華さん曰く、松風と早風はフソウに永住する決意はできているそうだ。仲良くなった権太くんを一頭にするのは気が引ける――権太くんは二頭の気持ちを知らない――そうである。松風と早風はヴァナルと似て優しい仔に育ったようだ。楓ちゃんと椿ちゃんと桜ちゃんはどこに住むのか迷っているようで、フソウとアルバトロス王国以外の場所に移り住む可能性も十分ある。
別れは寂しいけれど、毛玉ちゃんたちが大人になって成長した証拠だ。まだ先は分からないし、彼らには弟や妹が増える可能性だってある。未来が楽しみだと私は執務室で書類を捌きながら考え事をしていると、寒さに当てられたのか気落ちしている方がいる。
「はあ……カエデとツバキとサクラの可愛い姿が見えないのは寂しいですわ。ナイの側で尻尾を振っていた姿はとても良いものでしたのに」
セレスティアさまのぼやき声にソフィーアさまが呆れ、家宰さまが苦笑し、ジークとリンは壁際でいつものことだとしれっとした顔のまま微動だにしない。私も彼女の態度はいつものことだから問題にしていないけれど、律儀に彼女の声に答えてくれる者がいるわけで。
『セレスティア、寂しいのは分かるけれど元気だして?』
クロが私の肩の上で彼女に声を掛けると、ヴァナルも床からのそりと起き上がりセレスティアさまの隣に座って顔を覗きこんでいる。雪さんたちは『あらあらまあまあ』という雰囲気で見守るだけに徹するようだった。
「クロさま。お声掛けは嬉しいのですが、やはりあの仔たちが居なければ子爵邸内は静かになります……ジャドさまとエルさんとジョセさんもわたくしを気に掛けてくれて嬉しい限りですけれど……やはり寂しいのですわ」
セレスティアさまがクロの声に答えるとドリル髪がしょぼんと垂れた。ソフィーアさまと家宰さまが彼女の髪の仕組みはどうなっているのかと首を傾げているのだが、多分魔力的要素で気分の上下で動くようである。
少し前、西の女神さまと南の女神さまがセレスティアさまの髪が動く瞬間を目撃して、あんな器用なことができるんだと凄く感心していた。どうやらセレスティアさまの髪の状態は神さまでも表現が難しいようである。
『ジャドたちは外で過ごしているから……小さい竜を呼んでみるって言いたいけれど、お屋敷の中だと大きいもんねえ』
クロが私の肩の上でこてんこてんと首を傾げながら悩ましそうに考えている。そういえばクロとアズとネルと同じ体格の仔竜さんを見たことがない。小さくても一メートル以上の体長を有している。尻尾も長くてお屋敷の中で過ごすには少々手狭だから、彼らが子爵邸に遊びにきたとしても外で過ごすことになる。
『大きい竜だと騒ぎになっちゃうし。難しいねえ』
「ご心配、ありがとうございます。セレスティア、滂沱の涙で枕を濡らしながら耐え抜いてみせますわ」
クロが長い尻尾でぱしぱし私の背中を叩いて悩んでいると、セレスティアさまが少々泣きそうな顔をして冗談――に聞こえないのが彼女らしい――を飛ばした。あまり要領の得ない彼女の言葉にクロは『重症だねえ』と私の耳元で呟いた。
まあ、以前も毛玉ちゃんたちがフソウで過ごしていた時の彼女は今と同じ様子だったから、そのうち慣れていくだろうと話題を変えるため私は口を開く。
「家宰さま、子爵領での顔見世会の準備が整ったと聞きましたが」
私が家宰さまに問うたことは、子爵領で婚活パーティーを開こうと計画していたことである。農繁期に入ると、領地の皆さまは忙しくなるため冬季に行う方が都合が良かった。大枠は私が取り決めをしたけれど細かな調整は家宰さまにお願いしており、日程が決まったと小耳に挟んだのだ。
「はい。ラウ男爵にもご協力を頂き、年頃の独身男女をミナーヴァ子爵領にある広場に参集するようにと手配しております」
家宰さまがにこりと笑い、日程や集まる人数にラウ男爵領から訪れる人数を教えてくれた。お試しで開催するだけだし上手くいくか分からないけれど、私が強制指名して婚姻を果たすよりは良いはずだ。
「上手くことが運べば良いが」
「やってみないことには分かりませんわよ、ソフィーアさん」
ソフィーアさまが私がわざわざ手間を掛けて行う理由を知っているためか、少しだけ心配そうな顔になりながら婚活パーティーの成功を願ってくれる。そしてセレスティアさまは寂しさから少し復活したのか、ソフィーアさまに突っ込みを入れていた。本当にどうなるのか分からないので成功すれば良いなと願いつつ日々が過ぎ、婚活パーティー当日となったのである。
――ミナーヴァ子爵領領都。
毛玉ちゃんたち三頭がいない日々に寂しさを覚えながら婚活パーティー当日がやってきた。ハイゼンベルグ公爵さまが私が企画を立てたと知り、領地の者よりも己の婚約者を気にしなさいとチクリと釘を刺されてしまった。
確かに婚約者もいない侯爵家当主となれば、当主本人が相当難のある人物と周りから評されていそうである。ただ私は三年間で成り上がった身のため、陛下とアルバトロス上層部の皆さまから婚約者や結婚については見逃されている節がある。
今は自分のことは棚の上に置いて、もう直ぐ開催される婚活パーティーである。
当主の私がいれば領地の若者の皆さまが緊張するだろうと、旧領主邸でお留守番という形を取っている。西の女神さまも興味があったようだけれど、女神さまがいると私よりきっと皆さまが腰を抜かしてしまう。
そのため彼女も現地見学は遠慮を頂いて、私と一緒に子爵領の領主邸で報告待ちとなっていた。南の女神さまも同席しているのだが、西の女神さまより興味がなさそうである。ソフィーアさまとセレスティアさまも子爵邸のお屋敷で報告を待っている状態で、現地の指揮は村の名主の方と領都のお偉いさんの部下の方が行っていた。あまり高貴な人間がいては、話が弾まないという気遣いだった。
「しかしまあ、ナイは良くこんなことを思いつくな」
南の女神さまが緑茶を飲んで羊羹を口の中へと放り込む。フソウから結構な量を買い付けたのに、南の女神さまが羊羹を気に入ったらしく消費量がガツンと上がっている。確かに美味しいけれど、女神さまの外見と相反している渋さだなと私は目を細めながら口を開く。
「正確に言ってしまうと私の政策ではないです。元の場所だと、普通に男女の逢瀬を手引きする会があるんです。独身率が高くて公的機関が開催することもありますしね」
私の声にふーんと南の女神さまが納得したのかしていないのか、良く分からない返事をくれた。西の女神さまは檸檬を入れた紅茶を一口飲んで、私と視線を合わせる。
「どうして夫婦にならない人間が多くなるの?」
西の女神さまの疑問に私は答える。文明や文化が成熟したことにより、男性も女性も働きに出ていること。生活費や教育費が上がっていること。他にも様々な要因があり、一つ解決したところで上手くことが運ぶことはないのだろう。領主として解決しろと言われれば超難しい問題である……強権を発動させればできないことはないが、やりたくない。
「そうなっちゃうんだね……なんだか少し寂しいかも」
西の女神さまは文化の成熟を見届けることより、人や生き物が生きて子を成し一生を終える様を見ている方が良いようだ。南の女神さまも仕方ねえよなあという意見で、大陸文化の流れをどうこうするつもりはないようである。
二柱さまの姿を見ていると、星が生まれ生物が誕生し、生き物や人間が多く生き文明が成熟した様を見ていただろうテラさまは凄い方なのだろう。考え方、捉え方次第でメンタルを病んでしまいそうだ。
そんなこんなで、子爵領領都の旧領主邸で女神さま方と話していると時間が随分過ぎており、扉を二度ノックする音が聞こえた。部屋に控えてくれていたそっくり兄妹のうちジークが対応してくれると、ソフィーアさまとセレスティアさまが姿を現す。
「ナイ。無事に顔見世会が終わったようだ」
「二組ほど、気が合った男女がいたそうですわ」
お二人からの報告によると、要望を受けていた村から男性が四名ほど領都まで赴き、領都内とラウ男爵領からきた女性が十名ほどいたようである。そうして始まった顔見世会なのだが、男性側の自己紹介から始まり村の特産物の紹介やら、一年を通しての仕事内容に女性側に求めていることを告げて頂いている。
女性側は気になる男性の下にいき話をする形を取っていただいた。どうなるか分からなかったけれど、二組のカップルが成立したならば良い結果だろうか。
「ラウ男爵領から訪れた女性たちは?」
「既に帰路に就いているな。ナイの要望通り、手土産を渡しておいた」
「領から出ることが先ずないですものねえ。物凄く顔を輝かせていたそうですわ」
私の疑問にソフィーアさまとセレスティアさまが答えてくれる。ラウ男爵領の女性陣にはお土産を渡すようにとお願いしていた。数日分の塩や小麦という生活必需品であるが、妙な品を渡すよりも喜ばれるとのことで家宰さまがチョイスしてくれた。
今のアルバトロス王国の平民の皆さまは、農作業に従事している方が多数を占めているため自領から出る機会は限りなく少ない。ラウ男爵領からミナーヴァ子爵領を訪ねてくれた女性陣はちょっとした冒険だっただろう。残念ながら今回男性と意気投合することはなかったが、好評だったなら次回も開催しようとなるだろう。
「婚姻に至ると良いのですが」
私の声に西の女神さまが一つ頷き、南の女神さまがそう上手くいくのかと首を傾げていた。ソフィーアさまとセレスティアさまはなるようになる、というよりも婚姻するだろうと予想を立てているようだ。
今回は村名主の方が相談を持ち掛け私が企画したものだから、領主の面子を潰さないように取り計らうだろうと。強制的に婚姻を結んだならば、今回計画した意味が薄れてしまうのだが致し方ないのだろうか。
「新しい試みだったから、上手くいったかどうかは少し先にならないと分からないだろうな」
「試した価値はあったのでは。なにもせぬまま、強制的に婚姻させることも可能だったのですから」
ソフィーアさまとセレスティアさまが顔を見合わせながら肩を竦めた。確かに私が無理矢理独身の男女を婚姻させよと命じることもできたのだから、今回成立した男女二組には幸せになって欲しいと願うのだった。
◇
毛玉ちゃんたちをそろそろお迎えに行かなければという頃である。
年が明け、そろそろ一ケ月が経とうとしていた。エーリヒさまが聖王国から一時帰国なさるそうで、丁度良いとテラさまについて直に話し合いをしようとなった。そんなことなのでフィーネさまも少し日を置いてアルバトロス王国にくる予定となっている。
場所はミナーヴァ子爵邸でということになり、参加者は西の女神さまと南の女神さま――南の女神さまはしょっちゅう屋敷に顔を出している気がする――とエーリヒさまとフィーネさまと私となっていた。アリサさまとウルスラさまも一緒にくるとのことで、話し合いの間はアリアさまとロザリンデさまに彼女たちの相手を務めて貰うようにお願いしていた。
朝。子爵邸の食堂で美味しいご飯を食べ終えて、私は椅子の上にまったりしている。今日の朝ご飯はパンと紅茶をいうシンプルな内容だけれど、ハムやチーズを用意してくれているので飽きることはない。
少し温くなった紅茶を飲みながら、食堂に集まっている面子の顔を私は見た。幼馴染組は当然同席しているのだが、西の女神さまと南の女神さまがいらっしゃる。彼女たちは偶に私たちの会話に加わったり、知らない世間の様子をクレイグとサフィールから聞いて面白そうな顔を浮かべていることもある。女神さまと随分と打ち解けたなと感心しながら口を開く。
「みんな、元気だと良いけれど。大丈夫かな聖王国……」
今日の朝の話題はフィーネさまとエーリヒさまが子爵邸にくると伝えた。ジークは個人的にエーリヒさまと顔を合わせているので、久方ぶりの再会は楽しみだろう。クレイグとサフィールも南の島で顔を合わせている。男性同士だし、エーリヒさまは地位を振りかざさない方なので割と打ち解けていた。あまり話はできないかもしれないけれど、子爵邸での話が終われば男性陣で遊びに出掛けても良い気がする。
しかしまあ、聖王国は大丈夫だろうか。どうにも西の女神さまが私の屋敷に滞在していると噂が漏れており、彼の国の立つ瀬がない状況になっている。
一応、聖王国が肩身の狭い思いをしていると西の女神さまに伝えたのだが、アルバトロス王国の聖女のお金を盗んでいたのだからご自身から聖王国へ向かう気はないとのことだ。本当に聖王国は傾いて滅びてしまわないかと心配になるけれど、一番聖王国にダメージを入れたのは私だから大っぴらに聖王国のことを心配できずにいる。
「聖王国って名前の割にはやらかしているからな」
「ナイの心配な気持ちは分かるかも。でも自分たちで立ち直らないとね」
クレイグが呆れ顔を浮かべ、サフィールが苦笑いを浮かべながら私の声に答えてくれる。二人も信仰心は薄い上に、女神さまと直接会っているから余計に聖王国を慮ることはできないようである。
私的には国一つ潰れると面倒になること、フィーネさまとアリサさまとウルスラさまという友人が聖王国にいるので亡国となって貰っては困る。ジークはエーリヒさまと緑髪くんが心配だろうし、リンは……フィーネさまたちが無事なら聖王国はどうなっても良いと考えているかもしれない。
『ナイ、この果物美味しかった~』
クロは果物を食べることに必死だったようである。クロの隣でアズとネルも食べ終えて、機嫌良く一鳴きしてジークとリンの肩の上に戻って行った。美味しい果物を食べれて機嫌の良いクロを西の女神さまは目を細めながら見ている。やはり西の女神さまにとってご意見番さまは特別だったのだなあと感心しながら私はクロの方へと向く。
「本当? ディアンさまがクロとアズとネルにって南の島から持ってきてくれたんだ。お礼、言わなきゃね」
今日の朝に提供された果物はディアンさまとベリルさまがクロたちにと持ってきてくれた品だ。珍しい果物でトゲトゲが付いた真っ赤な実だけれど、クロたちは器用に爪と牙を使って中身を食べていた。良かったねえとクロと視線を合わせていると西の女神さまが身動ぎする。
「南の島って、なに?」
「えっと、西大陸と東大陸の間にある小島……? ですね」
西の女神さまの質問に私が答えたものの、少し疑問形となってしまったのはご愛敬である。発見時はさほど大きくない島だったが、私が魔力を注ぎ込んだ所為で島の地殻が活性化したのか日々島の面積が広くなっていた。だから小島と呼んで良いものか分からないが、小島だったのだから良いはずである。そういえば島の話題が出た時に西の女神さまは引き籠もっていたから知らなくて当然だ。
「姉御、ナイが魔力を注いだ所為で小島じゃないらしいぞ。まあ、親父殿も悪いともいうが」
南の女神さまが呆れ声を上げると、私以外の幼馴染組も呆れた顔になっていた。酷くないかなと言いたくなるが、『もっと魔力をと言われて、阿呆ほど注ぎ込む馬鹿がどこにいる』と突っ込みを入れられるだけだ。だから私は黙って南の女神さまと西の女神さまのやり取りを見守ることしかできない。
「ナイ……無茶をして。よく生きているね……」
西の女神さまが困惑しながら私の顔を覗き込む。
「流石に二日ほど寝込みました」
私は西の女神さまを真面目な顔で見る。流石にリスクはあったようで島に魔力を注いだ際は二日ほど気絶していたのだから、そうおかしなことではないはず。むむむとお互いに視線を合わせていると、南の女神さまが小さく息を吐く音が私の耳に届いた。
「二日寝ただけで済んでるのがおかしいだろ」
呆れ声を上げながら南の女神さまはずずずと紅茶を啜る。なんとなくだけれど南の女神さまに紅茶のイメージはなく、炭酸飲料を飲んでいる姿の方が凄く似合いそうだった。
西の女神さまも紅茶を一口飲んでティーカップをソーサーの上に戻すのだが、彼女曰く最近は珈琲がブームなのだとか。西大陸には存在していないようで、共和国のお金持ちの方が好んで飲む嗜好品である。西の女神さまならば紅茶でも珈琲でも絵になるなと私が頭の片隅で考えていると、なにか彼女が言いたげである。
「うん。でもナイの魔力量を考えると不思議じゃないかも。変だけれど」
西の女神さまの言葉に南の女神さまとクレイグが息を吹き、ジークとリンとサフィールが苦笑いを浮かべている。どうして西の女神さまはオチを付けてしまうのかと私は抗議したいが、おそらく西の女神さまの発言には裏も表もない正直な感想なのだろう。
私が微妙な顔になっていると西の女神さまが綺麗に笑っている。私は彼女に揶揄われていたようであると、むっと顔を顰めていると西の女神さまが小さく声を零しながら笑っている。
「姉御。楽しんでいるようでなにより」
南の女神さまが紅茶を一気に飲み干して席から立ち上がり、美味しかったと声を残して食堂を去って行く。最近、朝ご飯を終えお茶を一杯飲めば解散という形になっているので、いつも通りと言えばいつも通りの行動である。
「ナイの魔力量なら母さんに声が届くかも?」
「まさか……と言い切れないですね」
西の女神さまが私の顔を見ながらこてんと首を傾げた。女神さまの長い髪がサラサラと肩から零れ落ちているのだが、見る人が見れば見惚れるような光景なのだろう。
「試してみる?」
「用事もないのにテラさまと交信するのは如何なものでしょうか」
「母さんなら気にしないはず。ナイの気が向けばやってみよう」
流石にお試しでテラさまと通信を試みるわけにはいかないだろうに、西の女神さまも軽く言ってくれるものだ。まあ強制されないのは有難いかと私は残っていた紅茶を飲み干した。
「今日も仕事なの?」
「はい」
今度は逆の方向に西の女神さまが首を傾げながら私に問うた。
「人間は大変」
目の前の女神さまは渋い顔をしているのだが、文化の醸成過程でお金が生まれて価値を持ったし、お金がなければ文化的な生活もできない。
「仕方ないです。お金がないとご飯も寝床も手に入れられないですから」
私が答えると西の女神さまがはっとした顔になり私を真剣に見つめる。
「私……お金稼いでいない……」
「そこは女神さまが気になさらなくても良いかと」
流石にテラさまのように、西の女神さまが働きに出ると大騒ぎになってしまい、卒倒者も続出しそうである。西の女神さまの声に同席しているクレイグとサフィールとジークとリンは『西の女神さまは働くつもりなのか!?』と身構えていた。
「なにかできること、ある?」
西の女神さまが真剣な眼差しで問いかけてくるのだが、果たして彼女にできる仕事を私は紹介できるだろうか。なににせよ、関わる所の皆さまが大騒ぎしそうであるが……一先ずは企業面接でお決まりの台詞を使って聞いてみよう。
「女神さまはどんなことが得意ですか?」
「…………なんだろう」
私の質問に女神さまが床を見ながら悩み始めた。いつもならば毛玉ちゃんたちがどうしたのーと尻尾をぶんぶん振りながら女神さまに駆け寄るのだが、彼らは今フソウで過ごしている。
ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんが床の上で女神さまは大丈夫かと心配しているものの、毛玉ちゃんたちのように無邪気に駆け寄ったりはしない。癒し枠がいないと私は少し慌て始めれば声を上げる人がいた。
「お、おい、ナイ! 女神さまが固まっちまったじゃねえか!」
「どうしたんだろう、女神さま……」
クレイグとサフィールが女神さまに聞こえないように声を私に向けた。私の責任になるのかと言いたいが、どうやら私の質問がド直球過ぎたようである。もう少し具体的に調理場に入るか、庭師の小父さまを手伝うか、執務を手伝うかと聞けば良かっただろうか。
『大丈夫かなあ……』
クロも私の肩の上で心配そうな声を上げるのだが、西の女神さまの耳には届いておらず、彼女はまだ考える仕草を見せていた。
「急にどうしたんだ」
「さあ?」
ジークとリンが不思議そうに声を上げる。本当に大丈夫かと本気で心配し始めれば、西の女神さまが椅子から立ち上がり『もう少し、考える』と言い残して食堂を出ていこうとして、扉に身体をぶつけていた。女神さまの身体の方が強いようで、扉の蝶番が外れてしまったのはご愛敬なのだろう。扉は職人さんに直して貰うとして、フラフラと姿を消した西の女神さまは大丈夫だろうか。でも。
「考えることは悪いことじゃないから……」
「本当かあ? 相手は女神さまだぞ?」
私が自分を納得させるように言葉を呟けば、クレイグがすかさず声を掛けてくる。疑いの眼差しを彼は私に向けているのだが、きっと女神さまは答えを導きだしてくれるはず。
一先ず、自分たちの仕事を開始しようとみんなと別れて、それぞれの持ち場へと足を進める。クレイグは自身の執務室へ、サフィールは託児所へと向かい、ジークとリンと私は執務室へ向かい本日のノルマをこなしていく。仕事は大変だけれど集中すれば直ぐにお昼の時間が近くなって、少し休憩をしようと背を伸ばしたその時だった。執務室に二度ノックの音が響いてリンが応対すると、南の女神さまが訪ねてきたようだ。
「ナイ。姉御になにを言ったんだ?」
南の女神さまが片眉を上げながら困った顔になっている。どうやら西の女神さまはサンルームでジャドさん一家とポポカさんたちとエル一家に見守られながら、朝からぼーと過ごしているそうだ。
南の女神さまは何度かサンルームの前を通ったのだが、通る度に同じ格好をしたままの西の女神さまを見て気になったようである。そしてご本人にどうしたと問えば、私の質問の答えを探していると言ったらしい。
「どんなことが得意ですか、と。しかし今の今まで悩んでいるとは……」
「あー……姉御、一通りのことはなんでもできちまうから、得意なことなんて聞かれたら悩むのは当然だわな」
南の女神さまがはあと深く息を吐いて後ろ手で頭をボリボリと掻き始めた。とりあえず西の女神さまの下に行って話をしようと私は椅子から立ち上がり、本日の仕事は終了と告げて執務室をあとにするのだった。