魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0585:暇な方。

 ミナーヴァ子爵邸お泊り会は夜の帳が降り、皆さまそれぞれの寝床で夢の中へと誘われているのだろう。私も私で意識が落ち、陽が昇り始めた薄明かりを感じ取り目覚めた所なのだから。

 

 もぞりと寝返りを打てばリンの顔が私の視界に映り込み、頭の上ではクロとネルが一緒に丸くなって寝ている。床ではヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたち三頭とセレスティアさまが寝ているだろうし、他のベッドではソフィーアさまとフィーネさまとアリサさまとウルスラさまに、アリアさまとロザリンデさまに西の女神さまと南の女神さまが寝ているはずである。起床の時間にはまだ早いともう一度目を瞑れば、直ぐに意識が落ちていく。

 

 一時間後。また目が覚めると、リンが覚醒していたようで耳の近くで彼女がおはようと小さな声で囁いた。私も他の方を起こしては不味いと小声で挨拶を返す。

 顔を動かしてリンと視線を合わせると彼女の赤い髪が一房ちょこんと跳ねていた。珍しいなと私は手を伸ばしてリンの髪を梳けば、彼女はなされるがままで受け入れてくれている。

 私が笑いながら彼女の髪を直して手を離せば、今度はリンの手が私の髪に伸びてくる。特に問題はないし、いつものことだと判断して私も彼女になされるがまま受け入れていると、床の上でもぞりと身体を動かしている気配を感じ取った。

 

 『!』

 

 どうやら桜ちゃんが目を覚まし、私とリンが目を覚ましていることを感知した桜ちゃんはベッドの上に顎を乗せている。尻尾はもちろんぶんぶんと扇風機の様に回っているので朝から元気一杯だった。

 寝返りを打って桜ちゃんの方へと向いて布団の中に入ったまま撫でていると、椿ちゃんと楓ちゃんも身体を起こして『撫でて!』と訴えてくる。はいはいと三頭をまんべんなく撫でていれば、リンの腕が私の腹に回ってぎゅっと抱きしめられた。リンはなにも言わないし特に文句はないようだと毛玉ちゃんたち三頭を撫でていれば、今度はヴァナルがベッドの上に顔を置いて片耳を倒しながら撫でてと訴えてきた。

 

 『主、おはよう』

 

 「おはよう、ヴァナル。眠れた?」

 

 ベッドの端に顔を乗せているヴァナルと視線を合わせて挨拶を交わす。彼は一晩中セレスティアさまの側で寝ていたのだが、お腹を枕替わりに提供していたので疲れたのではなかろうか。

 大丈夫でないなら魔術を施すけれど、彼はロングコートの長い毛に包まれているので見た目は全く分からない。私が毛玉ちゃんたちの頭からヴァナルの頭に手を移せば、彼は目を細めて受け入れてくれる。ウリウリと気持ち良い所を撫でていると、気持ち良いのか両耳が後ろに倒れ込んでいる。ヴァナルも毛玉ちゃんたち三頭の喜ぶポイントは分かり易いので有難い。

 

 『寝た』

 

 「そっか」

 

 ふふふと笑い合えば、床の上から起き上がった方の姿が視界に映り込む。側で寝ていた雪さんたちは顔を起こしてあらあらまあまあという雰囲気で、起き上がった彼女を見上げている。

 

 「は! ヴァナルさんの貴重な枕が!?」

 

 セレスティアさまの開口一番だった。まだ堪能できていると思っていたけれど、ヴァナルが私の側にきたことによって枕を失ってしまっている。申し訳ないことをしたのかもしれないが、ヴァナルも辛かった可能性があるので仕方ない。

 きょろきょろと周りを彼女が見渡してヴァナルの姿を認めればほっと息を吐いていた。ヴァナルも彼女を放置しては駄目だと気付いて、ベッドの側から彼女の下へとゆっくり歩いて行った。

 

 『セレスティア、おはよう。眠れた?』

 

 「ヴァナルさん、おはようございます。はい。とても良く眠れましたし、素敵な夢を見ることができました」

 

 ヴァナルがセレスティアさまと挨拶を交わせば、彼女は幸せそうな顔を浮かべながら答えている。ヴァナルもヴァナルでスキンシップのつもりなのか、セレスティアさまの肩の上に顔を寄せてぐりぐりと好意を示していた。

 ぺしんぺしんとヴァナルの尻尾が床を叩いていると、毛玉ちゃんたちがソレを目掛けて一斉に襲いかかった。ヴァナルは三頭の攻撃を物ともせず、セレスティアさまとじゃれ合っている。雪さんたちはセレスティアさまとヴァナルのやり取りが羨ましかったようで、一人と一頭の間に顔を三つ割り込ませるとヴァナルも雪さんたちと鼻先を当てて挨拶をしていた。

 

 「――ふはっ!!?」

 

 ヴァナルと雪さんたちとの挨拶に挟まれているセレスティアさまが妙な息を吐いて、床にゴロンと寝転がる。お行儀が悪いですよと言いたいけれど、お泊り会なので無粋なことを言っても意味はない。

 

 『大丈夫ですか?』

 

 『どういたしました?』

 

 『あら、どういたしましょうか……』

 

 雪さんと夜さんと華さんが床に寝転がったセレスティアさまを覗き込んでいるのだが、彼女は両手で鼻を押さえていた。感動に打ち震えているように見えるけれど、多分鼻血が出てしまったのではなかろうか。

 興奮すると人間は鼻血が出てしまうから、ヴァナルと雪さんたちの至近距離のスキンシップを頂けば仕方ないのだろうか。とりあえず鼻血がずっと出ているのは不味いと、私はリンの腕をタップしてベッドから起き上がる。

 

 『セレスティア、起きて』

 

 ヴァナルの声にセレスティアさまがゆっくりと床から身体を起こしているのだが、やはり鼻から手を離すことはない。むっとしているリンに苦笑いを浮かべた私はベッドを降り、ティッシュの入った箱を取ってセレスティアさまに手渡した。申し訳ありませんとくぐもった声でティッシュを受け取ったセレスティアさまに、私は凄く魔力を制御した魔術を施しておく。

 

 「止まりました……不思議ですわ」

 

 「血止めの魔術ですからね」

 

 不思議そうな顔をしたセレスティアさまが私の顔を覗き込んでいる。何故そんな顔になっているのかと私が問うてみれば、彼女は治癒魔術を受ける機会は滅多にないことなので新鮮だったとのこと。

 流石に私から受けた魔術が無報酬では駄目だと彼女は仰ってくれているが、特に問題はないし、そもそも私の増え過ぎた魔力の影響があるかもしれないから実験台であると告げる。

 

 「ナイの魔術を受けて強くなれるのであれば、問題どころか益しかありませんわよ?」

 

 「不利益だったらどうするんですか……」

 

 セレスティアさまが機嫌良く言い切るが、私は問題が起こった場合を考えてしまう。

 

 「その時はその時です。加減をしてくれているでしょうし」

 

 気にしすぎと言いたげな彼女はベッドの上にいるリンの方に視線をやって『取りやしませんわ』と無言で告げていた。リンもリンでむっとしているものの、最終的に私はリンとジークの下へ行くと知っているのでなにも言わない。一先ず、起きて着替えをしようかとベッドに一度戻れば、他の面子も目が覚めているようだった。

 

 「いただきます!」

 

 今日も今日とて料理長さんたちが心を込めて作ってくれた朝ご飯を頂く時間がやってきた。いつもと違うのは幼馴染組だけではなく、女神さま二柱さまとソフィーアさまとセレスティアさまに、エーリヒさまとフィーネさまとアリサさまとウルスラさまに、アリアさまとロザリンデさまがいることだろう。

 女性比率が高めだが、こうして沢山の方と一緒に食べるのは良いことである。食事をしている所を見ていると、それぞれの所作や好きな食べ物が分かるので結構楽しい。

 

 次に遊びにきてくれた時にまた同じ料理を出して貰おうと料理長さまたちに伝えるのが面白いのだ。他にも他愛のない話に耳を傾けていても十分楽しいのである。クロたちにも果物が用意されているし、美味しいねえと楽しんでいるその時だった。

 

 「あれ?」

 

 「ん?」

 

 西の女神さまと南の女神さまの食事の手が止まった。いつもなら綺麗に食べ切ってから二柱さまの手がようやく止まるのに、珍しいこともあるものだと私は彼女たちに視線を向ける。

 

 「どういたしましたか?」

 

 私が声を上げると、二柱さまは不思議そうな顔を浮かべてこてんと首を傾げた。

 

 「なんだろう。多分、気の所為」

 

 「なんか気配を感じたんだが……姉御も気の所為なら勘違いだな」

 

 特に問題がなければ良いかとご飯が残っているお皿に目をやろうとすると、毛玉ちゃんたちが窓の外を見て尻尾を振っている。庭にエルたちかジャドさんたちでもいるのかなと首を傾げていると、廊下がバタバタと音が鳴り騒がしくなってきた。

 その音にジークとリンが一言告げて立ち上がり、セレスティアさまも鉄扇を握り直して椅子から立ち上がった。三度のノックが食堂に響き渡るのだが、ノックが三度あったということは緊急事態を示している。

 

 私はジークとリンに視線を向け一つ頷き、他の方たちを守れるようにと扉の前に立てば、ソフィーアさまが私の横に並んだ。そうしてジークが食堂の扉を開き、リンは彼の半歩後ろでぎゅっと拳を握り締める。

 

 「ご当主さま! た、た、たたたた大変でございます!!」

 

 息を切らした騎士爵家出身の侍女の方が慌てた様子で立っていた。ジークが落ち着いてくださいと声を掛けているものの、彼女はそれどころではないようである。彼女以外は誰もいないため、とりあえず使い走りにでもされたのだろうか。

 

 「どういたしましたか?」

 

 一先ず話を聞かねばと私が代表して声を上げた。他の面々は並ならぬ様子に固唾を飲んでいる。いろいろと口を挟まれるよりは良いけれど、みんなの身の安全は確保しないと。ちなみに他の皆さまは、女神さま方以外は目を丸く見開いて驚いていた。

 

 「き、北の女神さまと名乗るお方と東の女神さまを名乗るお方が、門扉の前でご当主さまに遊びにきたと伝えて欲しいと……!」

 

 騎士爵家の侍女の方は慌てたまま教えてくれる。曰く、北と東の女神さまのご本人確認はエルとジョセが行ってくれたようである。そして女神さまが待っている間は彼らが対応してくれているようだ。

 門番の方は女神さまとお会いする機会が少ないためか驚いたまま固まっているらしい。屋敷への連絡もジョセが担ってくれたようだし、騒ぎを聞きつけたジャドさんも女神さまと挨拶を交わしていたとのこと。

 

 もしかして先程、西の女神さまと南の女神さまが感じていたナニかは北と東の女神さまが御降臨された気配を察知したからかと納得できてしまった。現にバツの悪そうな顔をしている南の女神さまに朝食を摂り続けている西の女神さまがいる。私は二柱さまに視線を向ければ、西の女神さまはこてんと首を傾げ、南の女神さまは盛大に溜息を吐いた。

 

 「あー……姉御たちの出迎え行ってくる。中に入れても良いよな?」

 

 それは構わないが、当主の私が女神さまを出迎えしないというのも不味い気がしてきた。

 

 「私も行きます。門前払いをしたなんて噂は立って欲しくないですし」

 

 妙な噂が立っても困るし、他の皆さまにココで待っていて欲しいと私は告げて南の女神さまと一緒に玄関の先にある門扉を目指して歩き始めるのだった。

 

 ◇

 

 いつも通りの朝と言いたい所だけれど、東と北の女神さまがいらしたことで子爵邸内は大騒ぎになっていた。既に西の女神さまと南の女神さまが滞在しているから、気絶する方はいなかったのが救いだろう。

 

 ただ信仰心の高いウルスラさまが若干キャパオーバー気味なのか、食堂で目をグルグル回していた。フィーネさまとアリサさまたちの手によって、どうにか立ち直っていたけれど大丈夫だろうか。ま、なるようになるかとちゃんとした身なりになるようにと着替えをして、南の女神さまとリンと私は一緒に廊下を歩く。肩の上にはクロがいるし、後ろにはヴァナルと雪さんと夜さんと華さんに毛玉ちゃんたち三頭も一緒だ。

 

 「ジークはくるよね?」

 

 「兄さん、くる」

 

 私がリンの顔を見上げて問えば、彼女が律儀に答えてくれた。双子故のシンパシーなのか即答である。ジークもきちんとした格好をしてくると一旦部屋に戻っているのだ。行こうと先を促すリンに連れられていると、隣を歩いている南の女神さまがにやりと笑っていた。

 

 「本当にお前らいつも一緒だなあ」

 

 呆れ声を上げながら南の女神さまが呟いた。確かにジークとリンと私は行動を起こす際はいつも一緒である。ずっと続いている習慣のようなものなので、一人欠ければ違和感を受けてしまう。クレイグとサフィールもいなければ寂しいが、なんとなく彼らとの距離とジークとリンとの距離は違う気がするのだ。

 

 『ボクたちも一緒だよー。ねー?』

 

 「そうだね、一緒だ」

 

 クロが南の女神さまの言葉に対抗するためだったのか珍しく声を上げる。ご機嫌そうに私の顔にクロは顔をすりすりさせて、尻尾もぺしぺし動かしていた。リンの肩の上にいるネルもクロと同じように顔をすりすりしている。どうやら仲良しアピールのために声を上げたようだと苦笑いになった、その時だった。

 

 「ナイ、リン」

 

 ジークが姿を現して声を上げた。きちんとした格好、ようするに騎士の格好になっているので、門扉まで向かっても問題ないだろう。

 

 「行こうか、ジーク」

 

 一度立ち止まり、私がジークの顔を見上げると彼は小さく笑う。

 

 「分かった」

 

 「悪いな、朝から騒がせて」

 

 ジークが私に返事をくれると南の女神さまが小さく息を吐けば、彼がゆるゆると首を横に振る。

 

 「いえ。俺は慣れているので」

 

 彼の物言いだと、ジークは平気だけれど他の面子は驚いていると言っているようなものだ。まあエーリヒさまもクレイグとサフィールも食堂で固まっていたけれど。そうしてまた私たちは子爵邸の廊下を進む。

 

 「やっぱ、騒がしいよなあ……あまり気を張らねえで欲しいんだが……」

 

 南の女神さまがお屋敷の中を見ながらぼやいていた。確かに普段の朝より、子爵邸で働いている皆さまが忙しなく動いている。家宰さまはいらっしゃらないので、侍従長さまが皆さまの指揮を執っているようだ。

 毎日掃除を綺麗にしてくれているけれど、女神さまをご招待するとなれば更に磨き上げようとするのだから大変である。ただ今日はもう時間がないし、汚れている所やゴミが落ちてないか確認をと命が出ていそうだ。

 

 「仕方ないです。女神さまが御降臨されたのですから」

 

 私は呆れ顔の南の女神さまに苦笑いを向ける。もし仮にミナーヴァ子爵邸以外の場所に女神さまが御降臨なされたらどうなるのだろう。今までの比じゃないほどに大騒ぎになりそうだし、やはり子爵邸を訪ねて貰って正解なのだろうか。なんだか腑に落ちないけれど、グイーさまご家族と縁を持ったのだから当然のことなのだろう。神さまとして威厳は十分にある方々だけれど、威張ったり、信仰を強いることはないのだから。

 

 「ウルスラは滅茶苦茶驚いていたな。姉御たちに会ったらどうするつもりなんだ……」

 

 南の女神さまが歩きながら、ボリボリと後ろ手で頭を掻いている。確かにみんなで朝食を一緒に摂ることになるだろうから、ウルスラさまの信仰心が天元突破して昇天してしまわないか心配だ。

 彼女の信仰心は篤く、西の女神さまに敬意を払い、南の女神さまにも凄く丁寧に接している。少し離れた場所で二柱さまの行動を見逃さないと眺めていることもあれば、西の女神さまが彼女に話しかけるとアワアワしている姿は面白……可愛らしくある。ただやはり信仰心が高いため、妙なことを口走れないと南の女神さまがぼやいていた。だから南の女神さまは北と東の女神さまが彼女を揶揄わないか心配なのだろう。

 

 「一度お会いしていますし、以前よりはマシかと」

 

 私は南の女神さまと視線を合わせると、彼女から本当にという懐疑の視線を向けられた。まあ、なるようになるはずと無言で伝えれば、いい加減だなあと言いたそうに南の女神さまが深く息を吐いて顔を上げた。

 

 「現界してテンション高いだろうしな。なにしだすか分からねえから、気を付けてくれ」

 

 「分かりました」

 

 南の女神さまの忠告に私は素直に頷いて、お屋敷の外へと出た。外は陽の光が差し込み始めているものの、冬の朝陽の陽射しは優しい。少し暖かさを感じつつ、南の女神さまとジークとリンと私は庭を真っ直ぐ進んで門扉の前へと辿り着くのだった。

 一先ず、門の前で立ち尽くしている門兵の方二名を私が呼び止めると、ぐるんと顔と身体を回して私の方へと向き直った。びしっと敬礼をした門兵の方二名は、真冬の時期というのに汗を掻いている。

 

 「ご、ご当主さま。ご足労お掛け致し申し訳ございません!」

 

 「いえ、ご苦労さまです」

 

 門兵の方二名は私の声を聞き敬礼を解いた。彼らの向こう側にはにこにこと機嫌良く笑っている北と東の女神さまが小さく手を振っている。そんな二柱さまの姿を見た南の女神さまがふうと息を吐いて、彼女たちの方へと歩いて行く。

 私も当主として北と東の女神さまに挨拶をせねばと、南の女神さまの後ろを歩いて行く。もちろんジークとリンも一緒で、距離にすると十歩くらいだった。

 

 「姉御たち、朝からなんの用だよ。ナイの屋敷の中、みんな右往左往してるぞ。せめて連絡を入れてくれ」

 

 はあと南の女神さまが溜息を吐きながら、二柱さまの顔を見上げている。本当に身長差が凄いと感心しているが、私もジークとリン相手だと同じなのだろう。

 

 「あら。ごめんなさい、おチビちゃん」

 

 「人間のルールをあまり知らないのよ。許して頂戴な、お嬢ちゃん」

 

 北の女神さまが南の女神さまを見下ろしながらくすくす笑い、東の女神さまが南の女神さまから私へと視線を変えて許しを請うていた。

 東の女神さまが私に許しを請うているのは、断れないと分かっているからではないだろうか。現に南の女神さまがバツの悪そうな顔を浮かべて私を見ているのだから。

 

 「いえ。北の女神さま、東の女神さま、お久しぶりでございます」

 

 きてしまったものは仕方ない。とりあえず私は北と東の女神さまに礼を執り歓迎しますの意を込める。みんなで朝食を採っていた途中だから一緒に食べませんかと二柱さまを誘い、子爵邸に御降臨した理由を知りたいと伝えると『そうね』『ではお喋りしながら』と二柱さまが仰る。

 とりあえず来訪理由は知ることができそうで私が安堵していると、南の女神さまが手を頭の後ろに回して妙な顔を披露している。

 

 「姉御たちを甘やかさなくて良いのに……飯、食わなくても死にはしないぞ」

 

 「なら南の女神さまが抜きます?」

 

 むっとした顔の南の女神さまに私はつい突っ込んでしまう。すると南の女神さまが頭の後ろで組んでいた手を離し、北と東の女神さまが面白いものを見ている顔をしていた。

 

 「それは駄目だ!」

 

 「おチビちゃんは相変わらずねえ」

 

 「成長しないわねえ」

 

 南の女神さまに北と東の女神さまも突っ込んだ。むーと口を膨らました南の女神さまはぷいと顔をそっぽに向けて口を開く。

 

 「うっせーよ、姉御!」

 

 二柱さまはなんだかんだで南の女神さまを妹として可愛がっているなあと微笑ましい視線を向けていると、二柱さまが私に中に案内して欲しいと願い出た。あ、客人を放っておくところだったと私は申し訳ありませんと伝えて彼女たちを敷地の中へと導く。

 

 通りは誰もいなかったので今のやり取りを見ていたのは子爵邸の門兵の方二名だけと信じたい。噂になるより前に、アルバトロス王国上層部に報告するので内緒にしておくのは無理である。ミナーヴァ子爵邸が四女神さまが過ごした場所と聖地のように扱われてしまう日がくるのかどうか。ないと信じて、三女神さまとジークとリンと私はまたお屋敷を目指して歩いて行く。

 

 『四女神さまが揃うなんて凄いねえ』

 

 クロが私の背中を尻尾でぺしぺし叩きながら、北と東の女神さまを見上げている。私の身長が低いのでクロも必然的に見上げる形になっていた。

 

 「クロちゃんはご機嫌ねえ」

 

 「大きいより小さい方が可愛いわよねえ」

 

 北と東の女神さまが目を細めてくすくすと笑いながらクロを見下ろす。クロは可愛いのことは確かだし、大きいと可愛いよりカッコ良いが勝ってしまう。

 大きいクロも見たいけれど、アガレス帝国に拉致された時のような事態にならなければ難しそうだ。クロは大きくなったことで魔力を使い切り、また力を溜めると言っていたが、どれ位溜まったのだろうか。今度聞いてみようとクロに顔を向けると、こてんと首を傾げてさらに続けた。

 

 『大きくもなれるけれど、小さい方が都合が良いから。グイーさまはこないの?』

 

 「お父さまは島から離れられない身ですもの」

 

 「わたくしたちがお父さまの代わりに地上を楽しみますわ」

 

 『残念だねえ。またぬいぐるみを通してお話できると良いんだけれど』

 

 クロが女神さまのお相手を務めてくれるので私は足を前へと進めるだけである。王都の子爵邸なので広さはないが、それでも門から屋敷の玄関までは良い運動になる。

 起きてから暫く時間が経っているし、そろそろお腹の虫が鳴きそうだとお腹を擦れば玄関前へと辿り着いていた。エルとジョセとルカとジアに、ジャドさんとアシュとアスターとイルとイブがおり、ジャドさんの背の上にはポポカさんたちも乗っていた。

 

 どうやら女神さまと挨拶をするために、こちらまできたようである。しれっとジルヴァラさんとお猫さままで彼らの中に交じっていた。軽く彼らとやり取りをしたのち、私がドアノブに手を掛けて扉を開けて前へと進む。玄関ホールには、お泊り組のメンバーと子爵邸で働いている皆さまと微妙な表情の西の女神さまが勢揃いしている。

 

 「ようこそおいでくださいました。き、北の女神さま、東の女神さま」

 

 家宰さまが留守のためか、侍女頭さまが音頭を取ってみんなが頭を下げている。屋敷の皆さまを認識した北と東の女神さまはキリっとした顔になって半歩前に進み出た。

 

 「急にお邪魔してごめんなさいね」

 

 「楽しそうだから、お嬢ちゃんの家にきてみたの。二、三日、よろしくね」

 

 なんだか対応が私に向けたものより丁寧なような……と微妙な心境に陥っていると、南の女神さまと西の女神さまが前に出てきて『迷惑を掛けるなよ』『ナイは割と忙しい』と二柱さまに声を掛けている。

 有難いような、妙な方向へ話が進みそうだなと苦笑いを浮かべていると私のお腹が悲鳴を上げて、一先ずみんなで朝食を再開しようとなるのだった。

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