魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――権太くんのお母さんを祀っている社の近くに辿り着く。
ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんの背中から降りて、私たち一行は森の中を歩いていた。きょろきょろと権太くんがいないかと辺りを見渡すものの、彼の姿は確認できないでいる。松風の通訳を担ってくれているヴァナルと雪さんたち――森の中を歩くため普段のサイズに戻っている――曰く『動いちゃ駄目ってゴンタに伝えている』『多分、動かないはずです』『しかし権太ですからねえ』『心配です』と教えてくれている。
案内役の松風が先頭を小走りで歩き早く来てと言いたげに後ろを振り返るのだが、人間の足では草木が生い茂る場所を歩くのは少々難儀していた。獣道すらないようだし、完全に人間の出入りはないようである。そうなると権太くんを襲った者は人間でない可能性がでてくる。ならば、気性の荒い熊にでも襲われたのだろうか。なににせよ権太くんの容態が心配だと、松風の後ろを必死に歩く。
一応、松風の後ろに雪さんたちが歩いて、続いてジークとリンが歩いて仮の道を作ってくれているものの、やはり歩き辛いことには変わりない。最後尾にはなにかあっては危険だとヴァナルが歩いてくれている。なにが襲ってきても問題なく対処できる面子だろうし、ヴァルトルーデさまとジルケさまもいらっしゃる。凄い面子だなと感心していると、松風が何度か軽く咆えてもう直ぐだと教えてくれた。
『無事だと良いけれど』
私の肩の上でクロが心配そうな声を上げる。確かに無事でいて欲しいと願っているけれど、口に出されると不安に駆られてしまう。大巫女さまとフソウの皆さまも心配そうな顔をしているので、権太くんは朝廷と幕府の皆さまの間で馴染んていたようである。
悪戯好きで迷惑を掛けているものの、彼の見た目の愛らしさから憎むことはできなかったようだ。おそらく妖狐の仔という産まれも関係しているのだろうけれど、朝廷と幕府の皆さまから勝ち取ったものは権太くんが自分で手に入れたものだ。権太くんが築き上げた物を壊したくないなと前を向いて、草むらを分け進めば権太くんと早風の姿が見えた。
『……あ』
ぺたんと地面に座り込んだ権太くんと心配そうに彼を見ている早風の姿を見て、私は安堵の息を吐き口を開いた。
「権太くん、大丈夫!?」
私がいの一番に声を上げると、ぴくんと権太くんが片耳を揺らす。尻尾は痛みに耐えているのか全く動かしていない。普段であれば三本の尻尾がゆらゆらと動いているというのに。
早風に怪我はないようだとチラリと横目で確認して私は権太くんの下へとしゃがみ込んだ。単衣の着物から覗く肌を覗けば、肌の色が青くなっている部分があった……殴る蹴るの暴行を受けた人の怪我にそっくりだと、暴力沙汰を起こして怪我を負った男性が教会に駆け込んだ時のことを思い出す。
『平気や! なんできたんや!?』
権太くんは喋ることができるので一安心である。彼の着物の合わせの部分から二匹の仔狐が私たちの顔を覗き込んでいた。不安そうに打ち震えているのだが、一体どうしたのだろうか。あとできちんと話を聞かなければと私は小さく息を吐いてから、権太くんの疑問に答える。
「松風が権太くんを心配して、急いで朝廷に駆け込んできたから。みんなも権太くんが怪我を負ったって聞いて、ヴァナルと雪さんたちの背に乗ってここにきたんだ……って可愛い仔たちだね」
『べ、別に大した怪我やあらへんし!』
権太くんは声を荒げるが、喋り終えたあとに胸を手で抑えた。もしかして折れていると心配が募るけれど、勝手に治癒魔術を施す訳にはいかないと先に説明しておく。
「でも、青痣がいろんな所にできているし、下手したら骨が折れている所があるかもしれない。今は痛くないかもしれないけれど、あとで痛くなることもあるから、きちんと治そう?」
私の言葉に後ろで大巫女さまがうんうんと頷いているようである。フソウの面々も『強がらずとも良いのに』と少し呆れた雰囲気を醸し出していた。とりあえず権太くんは無事と分かったから、取れる態度なのだろう。
『…………』
無言を貫く権太くんに松風と早風が鼻先を彼の顔に当てて心配そうにしている。本当に仲が良いので、彼らの関係を壊すようなことにはなって欲しくない。椿ちゃんと楓ちゃんと桜ちゃんも権太くんの側で心配そうにしている。
いつもであれば飛び掛かってペロペロ攻撃をしているのに、今日の彼女たちは凄く大人しい。無言のままの権太くんに困っている私の横に雪さんたちが立つ。
『権太、意地を張っていないで治して頂きましょう』
『怪我を治して、状況を教えてください』
『場合によってはわたくしたちが動きます』
雪さんたちからゴゴゴという圧を受けている気がする。ヴァルトルーデさまとジルケさまからも感じるが、頑張って抑えてくれているようだった。一応、介入する気はないようだけれど権太くんが怪我を負った理由が酷ければ、北の女神さまを
強制的に召喚された北の女神さまが困るのではと私が聞けば、神さまの島でのんびり過ごしているから問題ないとのこと。
雪さんたちが言い終えると、大きな前脚を差し出して権太くんにちょこんと触れる。
『痛いやんけ!! ……っは!』
権太くん、痛みを我慢しているのがバレバレだよと私は苦笑いになる。さて、雪さんたちが治そうと仰ってくれたので、勝手に術を掛けてしまっても良いだろう。一先ず大巫女さまに治癒は可能かと聞いてみると、権太くんの方が力が強いので術を施しても効果が薄いとのこと。
ならばと私は権太くんの前に右手を差し出し、三節の治癒魔術を詠唱した。一応、怪我に対応している術なので、暫くすれば青痣は消えるし、折れた骨もくっついているはず。暫くの間動き回らないで欲しいけれど、外で暮らしている権太くんには無理な話かもしれない。
『痛いのがのうなった』
術を掛け終えると権太くんが不思議そうな顔を浮かべて、手をグーパーグーパーと動かして胸の辺りをすりすりと自分で擦っていた。権太くんのお腹の位置にいる仔狐二匹がびくっと身体を固まらせると『脅したつもりはないねん。悪いなあ』と語りかけた。
仔狐二匹は権太くんの言葉を理解しているのか、ピッと耳を立てて権太くんから離れようとしない。よほど権太くんのお腹が気持ち良いのかと私は苦笑いを浮かべる。
「良かったです。でも暫くは激しく動いては駄目ですからね」
『……頑張ってみるわな』
ふうと息を吐いた権太くんが胸元を開いて、二匹の子狐をお腹の上から降ろした。仔狐たちはこてんと首を傾げているので、今の状況を読み込めていないようである。権太くんはどうするつもりかとみんなが黙って見守っているれば、権太くんは仔狐に優しい視線を向けた。
『ほら、どこにでも行きや。悪い奴に捕まったらアカンで』
彼の言葉にぺこぺこと頭を下げた子狐たちが暗い森の中へと消えていく。
「大丈夫なの?」
私は草むらの中に入って行った仔狐二匹が心配になって、権太くんに聞いてみる。仔狐たちを権太くんが助けたのは同族だからだろう。しかし権太くんは尻尾が三本も生えている妖狐だ。彼に怪我を負わせるなんてどんな者なのだろうか。権太くんより確実に強いはずだし、まだ森の中にいるなら危ない気がする。
『ん。巣に帰るだけやろ。心配いらへんわ。それに自然の中で生きとるなら弱いもんから死ぬんは当然や』
「じゃあ、どうして権太くんは彼らを助けたの?」
自然の摂理に従うべきというならば、権太くんはどうして仔狐二匹を助けたのだろうか。
『食べるんじゃなくて、遊びでアイツらを殺そうとしとった奴がおんねん。見てられんかったから助けに入ったんやけど……』
権太くんは仔狐が無残に殺されようとしていた所を森の中で見てしまい、彼らを庇うために身を挺したようだ。仔狐二匹を逃がしてから権太くんも逃げるという戦法を取りたかったのだが、複数で取り囲まれていたため庇うことしかできなかった、と。
権太くんと遊ぼうと偶然、社の近くにきていた松風と早風が取り囲まれている彼らに出会い助けに入ってくれたとのこと。そうして早風は見張り役で権太くんの下に残り、松風はドエの街を目指して走って傷だらけの権太くんを助けて欲しいとお願いしに行ったようだ。一先ず、偶然がいろいろと重なったなと息を吐くが、小さい命を無駄に奪おうとしたのは一体誰なのだろう。
権太くんに普通の人間が殴る蹴るの暴行をできるはずはない。おそらく魔力を放出すれば、すっとんで逃げていくはずだから。むうと犯人は誰だと考え込んでいると、魔力制御の指輪にまた皹が入る。ジークとリンが落ち着けと私の肩を軽く叩いて、クロが『犯人を見つけよう』と顔をすりすりと擦り付けた。
ソフィーアさまとセレスティアさまも怒ってくれているものの、私が魔術具に皹を入れてしまったことには呆れている。ヴァルトルーデさまとジルケさまは黙って私たちの様子を眺めているので、なにを考えているのか分からない。
『……アイツらより怖いで?』
「……酷い」
権太くんが私の顔を見上げながら呆れた顔になっている。どうにも犯人は誰だと意識すると、私の身体の中で魔力が勝手に巡っているようだ。魔術具の指輪に皹が入ったのは、余剰魔力の排出が追いついていないためだろうか。魔術具の指輪に入った皹は一先ず置いておき、詳しい話を聞きたいともう一度願い出る。
『なら社に行こや。そっちの方が話しやすいで。母ちゃんにも会って欲しいしな』
権太くんのお誘いに一同が頷く。彼が言った通り、お母さまに手を合わせておきたいので丁度良い。
『早よ行くで!』
『ゴンタ、乗る』
森の外に指を指している権太くんにヴァナルが声を掛けた。声を掛けられた権太くんは言葉の意味が咀嚼できなかったようで、不思議そうな顔をしていた。雪さんたちがヴァナルの横に並んで権太くんに顔を寄せるのだが、顔が三つ並んでいるせいか威圧感が凄い。
『癒えた傷が悪化しても問題でしょう』
『番さまに乗せて貰いなさい』
『少し羨ましいですね』
なんだかんだ言いつつも、雪さんたちは権太くんに甘いような気がする。彼とは百年近く付き合いがあるようだから当然かもしれないが。雪さんが権太くんの着物を首を食んで、ゆっくりとヴァナルの背中に落とした。
ヴァナルの背中に乗せられた権太くんはきょろきょろと周りを見渡して、少し恥ずかしそうな顔になっている。とりあえず移動しようと、私たち一行は権太くんのお母さまを祀る社を目指して歩き始めるのだった。
◇
権太くんから二頭の子狐を襲った者について詳しく聞き出していた。彼の三本生えた尻尾はぺしょんと下がっているけれど、誇れる行動なので気落ちしないで欲しい。とはいえ彼から話を聞き出すことが先決と私はなにも言わずにいた。
――悪鬼羅刹。
フソウでは鬼に近しい存在と言われているそうだが、鬼とはまた別であるそうだ。悪逆非道を尽くした人間が最後の最後に辿り着く成れの果て。人間でありながら人間でない存在。それが悪鬼羅刹なのだとか。
生まれた時から心が曇っていたのか、それとも生きていく中で心が汚れてしまったのか。悪事を悪事とも思えない人間が罪を犯し重ね、フソウにいる妖怪にすら悪鬼羅刹は嫌われていると教えて貰った。権太くんはその悪鬼羅刹に襲われていた仔狐を助けるべく身を挺したようである。
『普通は弱い子狐なんか相手にせーへんのやけど襲いよってん』
多分、心が極限まで醜くなってしまったのだろうと権太くんから話を聞いていれば、彼のお母さまを祀っている社に辿り着いた。
大きな赤い鳥居の奥には九尾の狐を祀る本殿がある。長い階段を登り切った場所には駒狐の像があり神社そのものであった。神社が珍しいメンバーは階段上にあるであろう本殿を見上げ、初めて見る光景に息を呑まれていた。
建て直されているので新しいけれど、独特なフソウ建築に目を奪われているようである。私は元居た場所で見慣れているのだが、真新しい神社を見る機会はなかった。綺麗な神社だなあと感心しつつ、なんとなく本殿はなんとなく亡くなられた権太くんのお母さまの気配があるような気がする。天に召されているのに世に痕跡を残しているのならば、相当に偉大な方だったのだろう。
「大きいね」
『大きいやろ。偶に近くの村の人間がお参りにきてくれるねん。お供え物くれるから有難いで』
私の感嘆の声に権太くんがにししと歯を見せながら笑う。彼の隣には松風と早風がちょこんと座って尻尾をぶんぶん振っていた。椿ちゃんと楓ちゃんと桜ちゃんは待ち切れないのか、私たちより先に階段を勢い良く登り、上がり切った先で『早くきて!』と三頭並んで下にいる私たちを見ている。
咆えないのが椿ちゃんたちの良いところだよねえと感心していると、権太くんが『上がろうや』と声を上げ、私たちは彼の後ろを歩いて階段の端をゆっくりと昇る。
「……運動不足かも」
『ナイは歩く機会が少ないよねえ』
階段の数はさほど多くないけれど急だったことと、一段の高さが大きかったことで登り切ると息が上がっていた。他の面々は平気そうな顔をして私が息を切らしていることに苦笑いを浮かべている。
最近まで引き籠もりだったヴァルトルーデさまも平気な顔をしているし、身長が私と変わらないジルケさまも平然としている。何故、こんなに体力の差が如実に出ているのかと無性に言いたくなるが、運動していないのはガチの事実だった。
とりあえず本殿まで行こうと参道の片端を歩いて目指すのだが、やはりアストライアー侯爵家の面々は整備された参道の端を歩いていることに『何故』と首を傾げているようだ。理由はあとで告げようと決めて本殿まで辿り着く。
「先に参拝させて貰って良いかな?」
『構わへんで。逃げていかんけど、挨拶は大事やからな』
私が権太くんに問い掛ければへへんと鼻を高くしている。そんな彼を苦笑いしながら見て前へと向き直れば、宮司さんがいるようで私たちの姿を確認して慌てて駆け寄ってきた。
「な、ど、え?」
宮司さんは珍しい恰好をしている私たちを見て驚いている。驚いている彼と挨拶をするのが先だなと私は彼に向き直れば、大巫女さまが経緯を説明してくれて宮司さんは私たちが敵ではなく、参拝客であると分かってくれたようだった。
大巫女さまはフソウ国内の神社では顔が知れ渡っているそうで、宮司さんは凄く恐縮しているようだ。どうやら神社の宮司さんたちは帝さまをトップとし、直下に大巫女さまがいるという認識なのだとか。
「権太さま、襲われたんでっしゃろ!?」
『松風と早風に助けてもろたし、ナイに治してもろたから平気やさかい。それよりな、お茶出してもろてもええか?』
関西弁っぽい喋り方の宮司さんが大きく息を吐いていた。そして権太くんがお茶を用意して欲しいと願い出る。ちゃんと私たちを迎え入れようとしてくれている権太くんが凄く男前に見えた。
「へいへ。承知したさかいに。一度社務所に戻りますわ。境内でええですか?」
『お天道さまが出てるさかい。陽浴びながら飲む茶は美味いもんな。そこでええわ』
関西弁のやり取りに目を細めていると、権太くんが本殿に行くでと声を上げる。今度こそ参拝できるようで、本殿の前に立ち二礼二拍手一礼を執った。お願いごとを叶えて欲しい訳ではないし、お邪魔しますと心の中で声を掛けるだけに留める。
他のアストライアー侯爵家のメンバーも私に倣って参拝をして、フソウの面々もお参りをしていた。二柱さまも私たちを真似ているのだが、神さまが参拝して良かったのだろうか。まあ、気持ちの問題かなと苦笑いを浮かべていれば、嬉しそうな顔を浮かべた権太くんが頭に両手を回してにししと笑っている。
『今日はようけ人がきたから、母ちゃんも喜んどるやろ。あっちの廊下で話そうや』
権太くんが指を指した先は本殿にある外廊下のような場所である。小上がりがあるし、草履も置いてあるので人の行き来がある場所だと分かった。雨が降っているのかと思いきや、晴れているので丁度良いかと権太くんの案内に従う。
私はアルバトロス王国の人間だし、あとはフソウの皆さまの問題なので話を聞くだけになるだろう。それでもまあ権太くんを傷付けた者の顛末は見届けたいので、話が聞けるだけ有難い。
「お茶をお持ちしましたで」
『ありがとうな』
宮司さんの声に権太くんが軽い調子で告げた。そうして宮司さんも加わり、権太くんによる詳しい状況説明が始まるのだった。
森の中で遊ぼうと社を離れて道なき道を進んでいると、仔狐の鳴き声が聞こえたそうだ。この辺りで小さい仔が産まれたなんて聞いたことはないが誰かが産み育てていたのだろうと、権太くんは妖狐として挨拶しておこうと声が聞こえた方へと移動した。
茂みを掻き分けて立ち入った場所では悪鬼羅刹と化した人間が仔狐を放り投げ、きゃん! と痛みで鳴く姿を楽しんでいた。権太くんは食べるためではなく、遊んでいるだけと判断したし、悪鬼羅刹を放っておけば碌なことにならないと間に割り込んだ。仔狐二頭を抱えてさっさと逃げて、朝廷にいる帝さまに報告をと頭の中で思い描いていたが事は上手く運ばなかった。
『人間の成れの果てやから、人間が最後を下さんといかんやろ。せやから逃げてから、婆ちゃんに知らせよって考えたんやけど捕まってもうたんや』
権太くんは朝廷の方たちと縁を持っていなければ、力を使って悪鬼羅刹を退治することができたそうだ。でも仔狐を守りながら戦うのは難儀したかもしれないとのこと。
丁度、遊びにきた松風と早風が運良く気付いてくれて、悪鬼羅刹に噛みついて追い払ってくれたようである。松風と早風にみんなが頼もしいねという視線を向ければ、二頭は少し顔を上げて尻尾をばっしんばっしんと地面に叩きつけていた。褒められていると分かったのか凄く嬉しそうだった。巣立ちは早かったけれど、まだまだ幼いなあと笑っていると、大巫女さまが大真面目な顔をして口を開く。
「悪鬼羅刹がのさばっているのは巫女としてもフソウの民としても見過ごせません。九条、同心の皆さま、状況は理解できましたか?」
「はい。おそらくは森の中に隠れ住み、いずれは人間を喰らいましょう」
「手早く居場所を突き止めて、退治せねば」
大巫女さまの声に九条さまと同心の代表者が声を上げた。悪鬼羅刹は最初は動物を食べて力を付けるけれど、物足りなくなると最後には人間も食べるようになるそうだ。
そうなれば行きつくところまで行きついた存在なのだなと、彼らが急ぎ事を処理しようとしていることが分かる。松風と早風も捜索に参加してくれるようだし、雪さんと夜さんと華さんは社のある藩の藩主とドエの都に戻って、事情を話してくれるそうだ。状況次第で応援を呼べるように態勢を整えてくれるらしい。
「ナイさま、申し訳ありませんが、我々はドエの都に戻るわけにはいかなくなりました」
「できることならば、解決するまでこの場で待機するか、私たちアストライアー侯爵家の面々も大巫女さまと一緒に行動を共にしたく」
大巫女さまが丁寧に私に礼を執る。まだ時間はあるので残るのは平気だが、事の顛末を見届けたい気持ちがある。
「……それは構いませんが、捜索に時間が掛かる場合もありましょうし、御身に危険が迫る場合もありましょう」
返答に少し間を必要としたが大巫女さま的には私たちが一緒に行動しても構わないようである。あとで帝さまに彼女が私たちと行動を共にしたことを責められないように根回しはしておかないと。私たち一行はフソウの客人になるので危険な目に合えば、きっと大巫女さまが責められることになる。
「ナイ。大丈夫、私も行く」
「あたしも行くぞ。強い奴が弱い奴に手を出すのは見てられねえし、アッキラセツがどんな奴か気になるしな」
ヴァルトルーデさまとジルケさまも事の顛末がきになるようで、一緒にきてくれるようだ。二柱さまが一緒なら一騎当千どころか一騎当那由他くらいの戦力になりそうである。
しかし二柱さまの発言に真っ先に反応をしたのはフソウの方々だった。大巫女さまが顔を青くし始めて、ぎょぎょぎょと今にも声を上げそうな勢いである。
「め、女神さま! よ、よよよよよ、宜しいのですか!?」
テンパっている大巫女さまにヴァルトルーデさまとジルケさまは構わないと伝えている。大巫女さまは女神さまのご意思を曲げる訳にもいかず、承知しましたと口にするしかない。
『ん?』
ふいに権太くんが明後日の方向を見た。彼の視線の先には庭木の低木が綺麗に植栽されていて、簡易の壁のようになっていた。私も彼の視線の先を見ながら口を開く。
「どうしたの、権太くん」
『なんかきたで』
権太くんの声と同時に庭木の一部がガサガサと音を立てる。ヴァナルと雪さんたちと毛玉ちゃんたちが警戒していないし、クロも特に気にした様子はないので敵意はない者のようである。大巫女さま方は揺れた庭木の先を見てごくりと息を呑んだ。姿を現したのは仔狐二頭だった。ちょこんと庭木の前に座って、こちらをじっと見ている。
「さっきの仔たち?」
私は権太くんを見やる。毛色も同じだし、大きさも同じだから先程、権太くんが助けた仔たちかと確認を取る。
『せやな。どしたんやろ』
権太くんが先程の仔たちだと教えてくれると、こっちにおいでと彼らを手で招く。二頭の仔狐は顔を見合わせて、てててと小走りで権太くんの前に座る。
松風と早風も彼らが気になるのか、ゆっくりと近づいてきて権太くんの横に腰を下ろした。椿ちゃんと楓ちゃんと桜ちゃんは邪魔をしてはならないと、ヴァナルと雪さんたちの間にいるままだ。仔狐は身体と同じ長さのある尻尾をふりふり振って、口に咥えていた白い花を権太くんに差し出した。
『なんや、オイラにくれるんか? もしかして助けた礼なんか?』
権太くんも器用に三本のモフモフ尻尾をゆらゆらと動かしながら、二頭の仔狐の前にしゃがみ込み差し出された花を受け取った。雪さんたちが権太くんに微笑ましい視線を向けていることに、本人が気付いてがばりと立ち上った。
『お前らはここにおりっ! ほな、行くで!』
顔を真っ赤にしている権太くんに私たち一同は微笑んで、森のどこかに潜んでいるであろう悪鬼羅刹を探すことになるのだった。