魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0594:招待状。

 招待状が届いたと、私は心の底から安堵の息を吐く。

 

 アストライアー侯爵から届いた招待状の内容は、ミナーヴァ子爵領に新しく建てた屋敷の完成披露パーティーを開くとのこと。もちろんアルバトロス王家も新しい屋敷を建てるために出資しているのだから当然招待状が届くべきだが、貴方たちに信を置けませんと暗に伝えるべく招待状を出さない場合もあった。

 

 彼女がアルバトロス王国を裏切るとは考え辛いが、もしもの場合を考えていた私の胃は割とキリキリ痛みを叫んでいた。アストライアー侯爵がトラブルに巻き込まれて引き起る波乱には慣れたものの、流石に世界を創造した神と出会うとか、その神さまの娘である女神さま――しかも大陸を管理している――と面会することになるとは……三年前の私に伝えても信じてくれなさそうである。

 

 そのくらいアストライアー侯爵が起こした奇跡は偉大なものだが、当の本人はあまり自覚していない。いや、彼女は分かっていながら見ていないフリをしている可能性もあるのでなんとも言えないが、創造神さまや女神さまと縁を繋いでいるというのに、まるで利用しようとしない。

 普通の貴族であれば創造神さまと女神さまとお会いしたことで、方々に自慢話をしそうなものだが、アストライアー侯爵は王都の子爵邸で領地運営をしながら日々を過ごしている。

 

 本日の執務を終え、私の叔父であるハイゼンベルグ公爵とヴァイセンベルク辺境伯に宰相と内務卿と外務卿と財務卿が神妙な顔をして執務室に集まっている。

 叔父上は相変わらず面白そうな表情で周りを見渡しているのだが、宰相と内務卿と外務卿に財務卿の顔色はあまりよろしくない。ヴァイセンベルク辺境伯はアストライアー侯爵の後ろ盾を務めているので他の者より顔色はマシだが、いろいろと頭の中で考えを巡らせているようである。

 

 「良かったな、甥よ」

 

 「本当に良かったです……しかし、完成披露の宴の場には女神さま方もいらっしゃる可能性が……」

 

 叔父上がくつくつと笑いながら私に声を掛けてきた。陛下と彼が呼ばないのは、私的な時間であると周りの者たちに主張しているのだろう。

 叔父上以外は苦笑いを浮かべているが、鳩尾の下を押さえている者がいた。もしかして彼らの下にはアストライアー侯爵からの招待状が届いていないのかもしれない。彼らとアストライアー侯爵との接点は薄いため仕方ないのだろう。王城に勤めている彼らであるが、少しばかり彼女と話していたに過ぎないのだから。

 

 とはいえ貴族という者は招待状が送られてくるのではと期待してしまうものなのだ。アストライアー侯爵が彼らと縁を深めたいと考えていれば、招待状が届いていたはず。それがないということは興味がないか、彼らからアプローチをして侯爵に気付いて貰うしかない。

 

 「いるだろうな。西の女神さまは王都のミナーヴァ子爵邸で日々を過ごしておられるし、南の女神さまは西の女神さまほどではないが良く顔を出しているそうだぞ」

 

 叔父上が良い顔で笑い髭を撫でている。ミナーヴァ子爵邸には他にも北と東の女神さまもこられたと聞いているし、創造神さまの声が時折届くこともあるそうだ。創造神さまの奥方さまも顔を見せたようだし、本当に数々の奇跡が王都のミナーヴァ子爵邸で起きている。

 アルバトロス王国にも『話は本当なのか!?』と各国から問い合わせがきており、友好国には真実を告げ、それ以外には情報の取捨選択を執り行っていた。馬鹿なことを仕出かしそうな国には言わない方が良いと、アルバトロス王国上層部の者たちが全会一致で首を縦に振ったためである。

 

 「……他にも他国の高貴な者がきますよね?」

 

 私は叔父上に問う。アストライアー侯爵の交友関係はアルバトロス王国だけに留まらない。何故、そのように縁が繋げられるのか、そして保つことができるのか本当に不思議だった。彼女の性格上、割と薄い付き合いで済ませそうなのだが……本当に意外である。

 

 「ああ。亜人連合国の者とアガレス帝国の皇帝陛下に招待状を送っていると、ナイからの報告に上がっていたな。彼らは参加するだろうし、濃い面子が揃いそうだな」

 

 叔父上の話によればフソウ国の者にも招待状を送っているそうだ。どうやってくるのか疑問になるが、アストライアー侯爵ならば飛竜便を手配できる。きっと大型の竜の背に乗ってやってくるのだろうし、アガレス帝国の者たちは飛空艇でやってくるはずである。また騒ぎになりそうだと息を吐けば、財務卿が私を見ながら口を開いた。

 

 「た、他国の者もミナーヴァ子爵領へ赴くのですか」

 

 彼は理解しているものの、聞かずにはいられなかったようである。確かに女神さま方以外にも他国の王族クラスが小国の子爵領へとくるのだから、彼の信じ難い気持ちは理解できた。

 

 「ああ、それはもう。警備面に心配があるからと、アストライアー侯爵から王家とハイゼンベルグ公爵とヴァイセンベルク辺境伯に人員を貸出て欲しいと打診があってな」

 

 私が財務卿に答えると口の端を歪に伸ばして黙り込んだ。

 

 「アストライアー侯爵ならば、心配は要らない気がしますが」

 

 今度は宰相が少し呆れた顔になりながら言葉を放つ。確かに、アストライアー侯爵と彼女の護衛であるジークフリードとジークリンデだけで警備面は十分に足りている。だが三人だけでは手が回らないし、アストライアー侯爵家の者たちだけでも足りないようだ。

 恩を売るわけではないが、なにか問題があってはいけないと王家と叔父上とヴァイセンベルク辺境伯は彼女の打診を受けている。というか断る方が損をする状況だろう。最近はアストライアー侯爵と知り合いであると言うだけで、一目置かれるようになっているのだから。

 

 「体面もあろう。国内だけではなく国外からくる者たちもいる。案内やらで人員が必要だろうしな」

 

 「侯爵位にたった三年で就いたからなあ。人手不足は仕方あるまいて」

 

 叔父上と私は集まった皆に声を掛けた。本当に身一つで聖女から侯爵位まで良く昇りつめたものである。しかも三年という短い期間で。

 

 「……我々には招待状が届きませんでした」

 

 「私の部下であるベナンター卿には届いたようです……やはり私の存在感が薄いためでしょうか」

 

 私と叔父上とヴァイセンベルク辺境伯以外が眉尻を落として落ち込んでいる。確かに招待状が届かなかったことは悔やまれるが、アストライアー侯爵と接点を中々持てずにいるのだから仕方ない。

 

 「落ち込むな。これから先、アストライアー侯爵と関わる機会は多くある。彼女は受けた恩を忘れることはない。なにかしら売れそうな物を見つけておけ」

 

 私は皆を励ますために声を掛けるものの、彼らは微妙な視線を向けている。食べ物関係であれば侯爵は凄く喜ぶはずと、私は言葉を付け加えておいた。皆は私の声を聞いてなにかあったかと頭の中で考えているようである。

 そんな彼らを叔父上は面白そうな顔で、辺境伯は大丈夫かと心配そうな視線を向けている。暫く彼らの様子を見守っていると、宰相がはっとして私に顔を向けた。

 

 「では、陛下自ら赴かれると?」

 

 「いや、行きたい気持ちはあるのだが……私よりゲルハルトの方が適任だろう。若い者同士の方が話が弾む」

 

 もちろん直接パーティーに参加してアストライアー侯爵と仲を深めるのが定石である。しかし年の離れた男と政治の話をした所で彼女が楽しめるとは考え辛い。

 それならば我が息子であり王太子を務めているゲルハルトの方が適任だろう。アストライアー侯爵と長い付き合いになるのは私よりもゲルハルトなのだから。王太子妃であるツェツィーリアにも良い機会で、他国の者に顔を売るべきである。

 

 部屋に居る者たちが私がパーティーに赴かないことに驚きの視線を投げているが、叔父上だけは『逃げたな』と苦笑いを浮かべている。

 

 「流石に皆が赴いて、事故が起これば大問題となろう。今回は遠くから見守る立場でいてくれ。ゲルハルトに頼んで、侯爵が主催する催しに皆が興味を持っていると、それとなく伝えてくれと頼んでおこう」

 

 私はアストライアー侯爵から招待を受けていない面々に真剣な眼差しを向けると、彼らはぱあっと顔を明るくしている。女神さま方がいらっしゃるのに、彼らの肝は随分と太いのだなと私は遠い目になってしまう。決して私自身がパーティーに赴けば胃の痛みが酷くなるからゲルハルトを名代として送るわけでは決してないのだ。

 

 ◇

 

 ――亜人連合国領事館。

 

 「ナイちゃんから手紙がきたよ~」

 

 「あら。早速読みましょう」

 

 「珍しいな。彼女からの正式な手紙は」

 

 「ええ。一体どうしたのでしょうか、若」

 

 「考えるより読んだ方が早いよー」

 

 「そうね。竜は本当に用心深いわ」

 

 「……」

 

 「…………」

 

 「えーっと、前に誘いを受けていた子爵領領主邸の完成披露パーティーにきてくださいって~」

 

 「ナイちゃんは相変わらず、文字が力強いわねえ。ま、当然……」

 

 「参加だな」

 

 「参加ですね、若」

 

 ◇

 

 ――アガレス帝国・執務室

 

 「愛らしいナイさまからお手紙が届きましたわ! とにもかくにも内容を確認して、目に焼き付けなければ!」

 

 「ウーノ姉さま、私にもあとで読ませて頂けると嬉しいです」

 

 「……見せたくない気持ちと、見せびらかしたい気持ちがせめぎ合っていますが手紙の内容次第かしらね。誰彼に言えない内容だと、ナイさまにご迷惑を掛けてしまいますもの」

 

 「もちろんです。差し支えない範囲で教えてくだされば」

 

 「――まあ! まあまあまあまあまあ、まあっ!」

 

 「う、ウーノ姉さま?」

 

 「ふふふ。ナイさまの領地で開かれる、領主邸完成披露パーティーにお誘いをようやく受けました!! まだ二ヶ月先のことですから、予定などどうにでもなります!」

 

 「良かったですね、お姉さま」

 

 「あ。あなたたちも予定が合って興味があれば遊びにきて下さいと、ナイさまが仰っております。本当にナイさまは気遣いのできる優しいお方! 嗚呼。直ぐにでもお会いして、わたくしの腕に抱き留めたい気持ちがとめどなく溢れてしまいますが、ナイさまとわたくしの立場が邪魔を致します……くっ!」

 

 「一先ず、必要な物やナイさまに贈る品を考えましょう。ウーノ姉さま」

 

 ◇

 

 ――フライハイト男爵領、領主邸。

 

 「ひょっ!??」

 

 「父上、どうなされたのです?」

 

 「あ、あ、あ、あ、あああああ!」

 

 「落ち着いてください、父上! ほら深呼吸して!!」

 

 「あ、アストライアー侯爵から子爵領に建てた新しい領主邸の完成祝いのパーティーに……参加しないかと……!?」

 

 「な、なんですってぇぇええええええええ!!!」

 

 ◇

 

 ――アルバトロス王都、リヒター侯爵邸。

 

 「ぶふっ!!」

 

 「ご当主さま、大丈夫ですか!?」

 

 「アストライアー侯爵からパーティーに参加しないかと打診された…………!」

 

 「おや。これはこれは、おめでとうございます。飛ぶ鳥を落とす勢いどころか、竜をオトしたアストライアー侯爵閣下主催のパーティーに誘いを頂くとは」

 

 「仕立て屋を呼んでくれ」

 

 「では奥方さまもご一緒に?」

 

 「もちろんだ。妙な恰好で赴くなどできぬ。金に糸目を付けぬから最高の仕上がりを目指せと、仕立て屋には伝えてくれ」

 

 ◇

 

 ――聖王国、フィーネ・ミューラー私室。

 

 「アリサ、ウルスラ。ナイさまから手紙が届いて、子爵領の領主邸の完成披露パーティーに参加して欲しいと。私は話を元々頂いているけれど、アリサとウルスラも参加しないかって」

 

 「え、フィーネお姉さま、私たちが参加しても良いのでしょうか? ナイさまの貴族の交友関係は高位貴族と王族の方々しかいないような……?」

 

 「あ、あはははは……」

 

 「丁度良い機会だし、西の女神さまも参加が決まっているそうで、この機会にと教皇猊下も同じ内容の手紙が届いているわ」

 

 「え、どうして教皇猊下に?」

 

 「聖王国には興味がないと女神さまは仰っていたのにですか?」

 

 「ナイさまが聖王国の内情を西の女神さまに伝えてくれたみたいなの。そうしたら教皇猊下には確りして貰わないと、という話になって、西の女神さまと教皇猊下との顔合わせの機会の場にしようってなったみたいよ」

 

 「猊下も苦労なされていますからね……」

 

 「教皇猊下と西の女神さまとの顔合わせが叶えば、聖王国内での猊下の発言力が高くなるからでしょうか?」

 

 「そういうことね。アリサとウルスラはどうするの?」

 

 「フィーネお姉さまの行くところに私アリです!」

 

 「私も参加したいです! でも夜会に赴く衣装なんて……」

 

 「聖女の衣装で十分よ。私もいつも通り、大聖女の衣装で赴くもの」

 

 ◇

 

 ――聖王国、アルバトロス王国外務官控室。

 

 「ユルゲン、これ読んでくれ」

 

 「エーリヒ。構いませんが、どうしたので……アストライアー侯爵閣下からですか」

 

 「そうなんだ。まあ、なんだ、気軽に読んでくれれば良い内容じゃないかと」

 

 「――全然、気軽な内容ではないですよ! どうして僕がアストライアー侯爵主催のパーティーに誘われているんですか!?」

 

 「ジークフリードと仲が良いからだろ。あと俺一人だと居心地が悪い、とか考えてくれたんじゃないかな」

 

 「そんなことで?」

 

 「ナイさまだからな。そんなことで誘いを受けるんだよ。ユルゲンはどうする?」

 

 「エーリヒはどうするんです?」

 

 「前に打診されていたから参加する。ナイさまの気遣いもあるし、ジークフリードにもいろいろと話をしたいことがあるしな」

 

 「では、僕も参加させて頂きます。しかし……二ヶ月先ですか。いろいろと動きがありそうですねえ」

 

 「亜人連合国とアガレス帝国の方々は確実に招待状を出すだろうなあ……」

 

 ◇

 

 ――フソウ国、朝廷。

 

 「み、帝さま!!」

 

 「ナガノブ、どうなさったのです?」

 

 「ナ、ナイから領地の屋敷が完成したからアルバトロス王国のミナーヴァ子爵領に遊びにこないかと! あと要人が参加予定の宴にも参加しないかと打診がきておりますぞ!!」

 

 「おや。しかし私がフソウを離れるのは難しいこと。ナガノブ、貴方いってらっしゃいな。国外に赴いてみたいと前々から言っておりましたし、ナイの領地ならば安心でしょう」

 

 「……よ、よろしいのですか!?」

 

 「ええ。しかしフソウの代表として恥ずかしくないように務めなさい。ねえ、松風、早風、権太」

 

 『――!』

 

 『!!』

 

 『ナガノブは立派、一緒に行くって松風と早風が言うとる。ナガノブは偶にキレるやろ……オイラは心配や。丁度良いからオイラも松風と早風と一緒に行ってええか?」

 

 「ナイに聞いて許可が下りれば構わないでしょう。しかし権太に懐いている二頭の仔狐はどうするのです?」

 

 『一緒に行けばええやろ。ご飯はこっちで用意しとけば問題ないやろし。な、松風、早風』

 

 「松風と早風がいるなら権太も大丈夫でしょう。あとはナイの許可だけですな」

 

 ◇

 

 ――リーム王国・執務室

 

 「兄上! 兄上!!」

 

 「ギド、もう少し声量を落としてくれ。うるさいぞ」

 

 「兄上大変です!! アストライアー侯爵閣下から手紙が届いておりますよ!! 早く目を通してください!!」

 

 「分かった。分かったから、顔が近いぞ、ギド――は?」

 

 「良かったですね、兄上! アストライアー侯爵閣下から誘いを受ければリームの名が大陸中の王たちの噂になるかと!」

 

 「…………せ、聖樹脱却を目指して三年しか経っていないが、アルバトロス王国とアストライアー侯爵には多大な恩がある。参加せぬわけにはいくまい」

 

 「ええ、ええ! 俺の下にも同じ内容の招待状が届いております! 兄上、一緒に参りましょう!」

 

 「ああ。しかしアストライアー侯爵の下には西の女神さまがいらっしゃると噂が流れているが……」

 

 「あ、おそらく女神さまも参加なされるかと。俺は近くで拝見したことがありますが、本当に凄く雰囲気のある方でした」

 

 「…………女神さまがいらっしゃる夜会?」

 

 ◇

 

 ――ヤーバン王国・執務室。

 

 「やったああああぁぁあああああ!!! アストライアー侯爵から招待状が届いたぞ! ジャドさまにも会えるし、侯爵にも会える!」

 

 「陛下、良かったですな。しかし……ヤーバン以外の夜会に参加となれば、相手方の文化に合わせる必要がありましょう」

 

 「確かに我が国の正装では問題があるわね。アルバトロス王国に詳しい者はいるか?」

 

 「いませんね。アルバトロス王に直接尋ねるのが一番の早道かと」

 

 「そうしよう。迷惑を掛けてしまうが、参加者を驚かせるわけにもいかぬ」

 

 ◇

 

 ――アルバトロス王都、ミナーヴァ子爵邸、執務室。

 

 いつも通りに私は執務室で仕事を捌いていた。いつも通りのメンバーが揃って、大量の仕事を凄い勢いで終わらせている。優秀な方たちの足手纏いになるわけにはいかないと、私も必死で作業を進めて一段落した頃だった。家宰さまが数枚の手紙を持って私の前に立つ。

 

 「ご当主さま、各国、各人より返事が届き始めておりますよ」

 

 「本当ですか? 皆さま返信が早い気がします」

 

 どうやら送っていた招待状の返事が戻ってきているようだ。遠い地に送った手紙はもう少し時間が掛かると考えていたのだけれど、流石魔術が存在する世界である。アルバトロス王国を経由して私の下へ渡るようにと手配したようである。なににしても参加者把握は大事なので有難いことだと、手紙を開封して参加の是非を確かめた。

 

 「ご当主さまが初めて主催して客人を招きますからね。当然のことかと」

 

 にこりと笑う家宰さまに私は苦笑いを返した。まあヴァルトルーデさまとジルケさまが興味があると言い、パーティーに参加することになったので割と凄い面子が揃うことになったのだ。

 アルバトロス王家からはゲルハルト王太子殿下が陛下の名代を務めてきてくださるし、ハイゼンベルグ公爵さまとヴァイセンベルク辺境伯さまも参加する。

 

 亜人連合国からはディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんが、アガレス帝国からはウーノさまと第二皇女殿下が、フソウからはナガノブさまと九条さまが、リームからはリーム王とギド殿下も参加する。他にもラウ男爵さまにフェルカー伯爵、リヒター侯爵さまとフライハイト男爵もである。あと個人的にフィーネさまとアリサさまとウルスラさまとエーリヒさまと緑髪くんも誘っている。

 

 本当は下位貴族、子爵位や男爵位の方が侯爵家主催のパーティーに参加するのは稀であり得ないのだが、女神さま方が参加する時点でお貴族さま世界のルールから外れるから、家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまは構わないだろうと判断してくれた。

 そんなことなので、裏ではクレイグとサフィールもくるようにと誘っている最中だけれど果たして彼らはきてくれるのか。あとソフィーアさまとセレスティアさまも今回は私の側仕えではなく、個人的に参加して頂く予定だ。

 

 なににせよ、凄い面子が揃うのだし気合を入れなければ。招待し忘れている方はいないよねと、お世話になっている面々の顔を思い浮かべる。多分きっと大丈夫だけれど、私はうっかりミスを起こしてしまうので怪しいなあと窓の外を見るのだった。

 

 ◇

 

 ――某所、某部屋。

 

 「親父、誘われているのか?」

 

 「エーリヒ?」

 

 「いや、なんでもないよ、ユルゲン」

 

 ◇

 

 ミナーヴァ子爵領領都の新領主邸完成披露パーティーまで一ケ月を切っている。

 

 招待した方たちに持ち帰って頂く品の用意や、当日提供する軽食を考えたり、入場順を考えてみたり、陛下の名代であるゲルハルト王太子殿下が座す場所を考えたりと割と頭を使う日々が続いている。

 こういう時は激甘な共和国のチョコレートが凄く良い感じに効果があり、作業が二割増しで進んで三十分程度で効果が切れていた。効果が切れそうになると私がチョコレートを口に含もうとするので、ソフィーアさまとジークと家宰さまから止めておけとストップが掛かった。どうやら妙に私の作業が進むので変に思われたようである。化学薬品はない時代だし、天然由来の食品が多いので健康被害はないはずだ。単純に甘過ぎて頭が妙な方向へと飛んで行っただけである。

 

 そんな忙しい日々を過ごしているのだが、他にもやるべきことがあった。

 

 そう。テラさまと通信してみようと計画しているのだ。一応、ヴァルトルーデさまとジルケさまによれば通信し易い時期がそろそろくるそうである。何故、分かるのかと問うてみれば『なんとなく分かるよ』という曖昧な回答だった。

 

 私は地球に未練は殆どないけれど、フィーネさまとエーリヒさまは気になることがあり、テラさまに質問したいことが沢山あるそうだ。ならば二人でと言いたいものの、彼らにテラさまとの面識がない上に通信手段もない。

 

 ヴァルトルーデさまも心残りがあるのならば手伝うよと仰ってくれているし、私もお二人が悩んでいるままの姿は見たくない。ならばと私からテラさまに話を聞いてみませんかとフィーネさまとエーリヒさまに申し出たのが、新領主邸完成披露パーティーの手紙を送った時期と同じ頃だ。

 

 そして新領主邸完成披露パーティー参加の返事が戻ると同時に、知りたいとお二人から手紙も届いている。

 

 今日はお二人がテラさまと会話する下準備の日だ。いきなりテラさまと通信して『答えたくない』と仰られても困るし、期待外れとなるから先に通信して地球について聞きたいことがあるのですがとお伺いをするのだ。

 子爵邸の廊下を歩いて庭を目指す。私の後ろにはジークとリンがいて、ソフィーアさまとセレスティアさまは執務室で結果待ちをするとのこと。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたち三頭も行く末を見守ってくれるそうだ。外に出ればエルとジョセとルカとジアにジャドさんとアシュとアスターとイルとイヴも顔を出してくれるはず。なににせよワイワイと騒ぎながらテラさまとの通信を試みることになりそうだ。

 

 『テラさまとお喋りできると良いねえ』

 

 「うん。できても断られる可能性もあるから、そうなった時のことも考えておかないと」

 

 クロが私の肩の上でこてんと首を傾げた。大丈夫だと良いねえと言ったクロの長い尻尾が私の背中をぺしぺし叩いている。一応、通信の補助はヴァルトルーデさまが担ってくれるとのこと。

 

 ジルケさまは見守り役で、テラさまと通信をすると知った東の女神さまと北の女神さまも子爵邸の庭に顔を出してくれるとのこと。なんだかアルバトロス王国のミナーヴァ子爵邸は女神さまが姿を現す場所と化しているような。

 私たちが引っ越しを済ませれば、侯爵邸の方も女神さまの居場所になってしまうのだろうか。未来のことはさておいて、今やるべきことをしなければと前を向き、私は長い廊下を歩き続ける。

 

 ジークとリンはテラさまとの通信に関して複雑な心境のようであるが口には出さない。リンには向こうに渡る時は一緒に行こうと伝えているのに心配は尽きないようだ。

 

 歩くこと暫く庭に出る扉を開けば、昼下がりの陽の光を浴びながら庭師の小父さまが地面に花の苗を植えている。彼に話を聞けば、まだ寒いけれど春先には成長して可愛らしい花を咲かせてくれるとのこと。

 庭師の小父さまにお話ありがとうございますと私が伝えていると、ふいに誰かの気配を感じる。人の気配を感じた方向に顔を向ければ、ヴァルトルーデさまがいつもの顔で私の下を目指して歩いていた。幽霊でなくて良かったと私が軽く息を吐けば、丁度話が出来る距離になった。

 

 「ナイ」

 

 「ヴァルトルーデさま。南のめ……ジルケさまは?」

 

 ヴァルトルーデさまがジルケさまの名前を間違える――正しいけれど――と目を細めて私を見下ろしているので、言い直す羽目になった。あれ、名前を間違えると手刀を入れるというジルケさまの約束はヴァルトルーデさまにも波及しているのか。言い切らなかったためなのか手刀が私の頭に降ろされることはなく、地面にめり込むことはないので一安心である。

 

 「天気が良いから東屋で待っているって。父さんは母さんに会いたいみたいだから、母さんと話ができたなら伝えて貰っても良い?」

 

 「そんな大役を私が担って良いんですか?」

 

 大事な話はヴァルトルーデさまが伝えた方が良いのではと、私は彼女の顔を見上げる。こてんと不思議そうに彼女は首を傾げながら口を開いた。

 

 「今日はナイが母さんと話すからね。私は邪魔をする気はないし、母さんも気にしないから構わない」 

 

 気にしてくださいと心の底から言いたいけれどぐっと我慢をする。テラさまはどうやら細かいことを気にしない性格のようだった。でも確かに気にしなさそうだという気持ちが湧いてくるのは、短い邂逅の中で私がテラさまに対して抱いたイメージのお陰なのだろう。

 移動の途中、東屋に寄ってジルケさまを迎えに行くと午後の陽射しの気持ち良さに負けたようで寝落ちしていた。彼女の膝上にはちゃっかりとお猫さまが丸くなっており、側には精霊のジルヴァラさんがくすくす笑いながら立っていた。起こそうかどうしようか迷っていると、ヴァルトルーデさまがジルケさまの肩を問答無用で揺らす。

 

 「んぁ……なんだよ、すげえ気持ち良かったのに……誰だ」

 

 肩を揺らされたジルケさまの意識が浮上するが、起こした方の特定まではできなかったようである。起こされたことに対して少し怒気を孕んだことを私はありありと感じてしまうし、ジルケさまの膝の上で寝ていたお猫さまががばりと顔を上げ小さくなっていた。

 ジルケさまを起こしたヴァルトルーデさまの背を見守っている私たちには表情を伺い知ることはできない。ジルケさまの表情は見えるけれど、ヴァルトルーデさまは彼女に対してどう感じているのだろう。

 

 「あ? なんだ姉御かよ……って、ああ忘れてないからな! ナイが母上殿と話すんだろ? 行く、行くに決まってる!」

 

 意識が覚醒してきたジルケさまが自身を起こしたのはヴァルトルーデさまであると分かったようである。厳しい表情から目を丸く開いて驚きの表情に変わり、ヴァルトルーデさまを見上げていた。

 ヴァルトルーデさまの顔は相変わらずうかがい知れないが、慌てているジルケさまを見てしまい怒っているのかもと彼女の背を見る。特にいつもと変わりはないし、ジルケさまが慌てて椅子から立ち上がればお猫さまが膝上から追い出されていた。

 とはいえお猫さまは一応猫なので、上手に地面に着地して間を置かずにジルヴァラさんの腕の中へと逃げ込んでいる。地面の冷たさに耐えられなかったようで、ジルヴァラさんの温かさにお猫さまはほっと息を吐いていた。

 

 「行こう」

 

 「あいよ、姉御。悪いな、ナイ。気持ち良くて寝ちまった」

 

 くるりと踵を返したヴァルトルーデさまと後ろ手で頭を掻くジルケさま。ヴァルトルーデさまはいつも通りだし、ジルケさまも寝てしまって悪かったと謝ってくれる。特に問題はないけれど、私はふるふると顔を横に振って気にしないで欲しいと無言でジルケさまに伝えた。そうして私たちは庭の隅にある、なにもない場所へと足を向ける。

 

 「けどよ、いくら母上殿と話がし易い時期だつっても、ナイにできるのか?」

 

 「やってみないと分からない。ナイの力なら十分に母さんに届くはず」

 

 ジルケさまの言葉は尤もだし、ヴァルトルーデさまの試してみなければ分からないという台詞にも納得できた。一応、通信の補助はヴァルトルーデさまが担ってくれるそうである。

 彼女の話によると私の魔力を地球の方へと向けてくれるとか。難しいことは分からないけれど、テラさまに気持ちが届きやすいようにと調整してくれるのだ。有難い限りだが、こういうこともお仕事になるだろうから、あとでヴァルトルーデさまに報酬の話を持ち掛けてみよう。

 

 「ここなら庭に影響はないかと」

 

 辿り着いた先で私は念を押すように口を開く。場所は子爵邸の庭の端っこで、少し開けた空間だった。庭師の小父さまの話だとまだ手を付けられていない場所である。割と建屋が多い子爵邸なので、今の場所があるのは奇跡に近いだろう。

 

 「話の流れ次第では母さんがくる可能性もあるからね」

 

 「母上殿の行動は突飛だからなあ」

 

 ヴァルトルーデさまは微笑み、ジルケさまは呆れ顔になっている。以前は話し合いをということだったけれど、テラさまが娘に会いたいという理由で地球からグイーさまの星に飛んできたものなあ。今回、同じことが起こっても不思議ではない。

 

 「じゃあ、ナイ。始めようか」

 

 「はい。ヴァルトルーデさま、手解きよろしくお願い致します」

 

 私は部屋から持ち出していた錫杖を握り込む。

 

 「ん」

 

 ヴァルトルーデさまに私が頭を下げると短く返事が戻ってきた。最初は自身の魔力を細く長く空に向かって伸ばしていき、大気圏を抜けて宇宙を走りテラさまの星の気配を探るそうである。

 なんて壮大なと気が遠くなりそうになるけれど、テラさまと話をしてみたいのだからヴァルトルーデさまとジルケさまに試みて貰うのではなく私がすべきことである。有難いことに魔力量は多い方だから、もしかすればテラさまと繋がれる可能性があるようだし。

 

 私はふうと息を吐き気持ちを無にして、錫杖を持つ右手を空へと伸ばした。すると私の肩の上からクロがヴァルトルーデさまの肩へと移動する。ヴァルトルーデさまの機嫌が凄く良くなった気がするが、集中集中と細く長く練った魔力を空の上へと放つ。

 一瞬にして私の魔力は空へと駆けあがり、雲を貫いて行く。魔力は目に捉え辛いので王都の街の方々は気付くまい。ならば遠慮は必要ないと『テラさまに届け!』と魔力に強い意思を込め、宇宙に魔力が届くようにと更に魔力を放った。

 

 「すごいね」

 

 「すごいな、ナイは。気絶しそうにねえのが、またなあ……」

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまが私になにか言及しているようだが、気を張っているため内容は聞き取れない。なんとなく私の魔力が宇宙に届いたと分かり、地球はどこだろうと触覚のように魔力を移動させてみる。

 できているのか分からないし、テラさまと繋がれるのかも定かではない。広大な宇宙でちっぽけな私の魔力ができることなんてなにもない気がするけれど。でも、やるしかない。

 

 ――テラさま!

 

 と心の中で叫んでも変化はなかった。不意に私の腰に腕が回る。

 

 「少しは届きやすくなるかな。私の力を感じてみて」

 

 その声と共に私の視線の位置が高くなる。どうやらヴァルトルーデさまが私を抱え上げて一緒に空を見上げる形となっているらしい。なんとなく彼女の力が私の中へと流れ込んできて、私の視界に映っていた空の光景が真っ暗な闇へと変わった。

 驚く暇もないまま宇宙空間が目に見えていると分かり、きょろきょろと青い星はないかと探してみた。えっと地球は銀河系にあるというけれど、今いる場所は果たしてどこだろうか。ヴァルトルーデさまの力を借りているのに地球の場所が分からず仕舞となれば情けないことこの上ない。暗い宇宙空間を見つめて上下左右右左と私は余すことなく宇宙空間を見つめる。

 

 「あれ?」

 

 ふいに以前感じたテラさまの気配を悟る。

 

 「掴んだかな。そのまま感じたものを意識してみて」

 

 「こう、ぐわーっとな」

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまの助言が聞こえ指示に従う。少し抽象的だけれどイメージはなんとなくできた。そうして。

 

 『あら、誰かが私を呼んだと思いきや。ナイじゃない。どったのー?』

 

 調子の軽い声が子爵邸の庭の隅っこで聞こえた。ヴァルトルーデさまとジルケさまが『良かったね』『本当に母上殿と繋がった』という声も私の耳に届いた。ジークとリンも驚いているようで、クロも『凄いなあ』と感心している。

 私は驚きつつも失礼がないように挨拶をしなければと、ヴァルトルーデさまに抱き抱えられたまま頭を下げた。テラさまに見えているか分からないけれど。

 

 「以前、お話をさせて頂きましたが、テラさまにお聞きしたいことが沢山出てきまして。我々の力が足りぬため、地球に赴くことはできません。お時間があれば話しをさせて頂けないかと連絡を入れました」

 

 『んー……」

 

 テラさまが考え込んでいる。もしかして難しいのかなと、諦めようとしたその時だった。

 

 『今ね、新作の乙女ゲームをプレイしているのよ。凄くカッコいいヒーローなの!』

 

 テラさまがきゃっと声を上げると、ジルケさまがドン引きし、ヴァルトルーデさまが楽しんでいるようでなによりと耳を傾けていた。

 

 「えーっと、では?」

 

 『ゲームをコンプできるまで待って頂戴な。それからなら良いわよ~って。また私と接触を試みるのは大変でしょうし、私がそっちに行くわね。総プレイ時間が六十時間って言われているから、そう掛からないはずよ』

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまがなんのこっちゃと首を傾げていた。なんとなく話が分かってしまうことに乾いた笑いが私の口から漏れて、流石に急にこられると大騒ぎになると伝えれば、それならグイーさまの島に赴いてそこから連絡を入れると返事が戻ってくる。

 本当にテラさまはフットワークが軽いなあと今いる場所で今いる面子と顔を合わせて苦笑いを浮かべるのだった。

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