魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
テラさまとの面会は神さまの島に赴くことになったのだけれど、そうなった経緯に随分と周囲の皆さまには驚かれてしまった。グイーさまはテラさまがこちらの世界にきてくれるため超ご機嫌――北大陸の北端では青いオーロラが最近良く現れて、凄く綺麗だと観光客に人気らしい――なのだそうだ。
北と東の女神さまも楽しみにしていると、日程を調整してくれたジルケさまから教えて頂いている。西の女神さまであるヴァルトルーデさまも久方振りに戻るし、グイーさまが話が終わったらまたバーベキューをしたいとのことなので、ロゼさんには大量の食材を預けている。
前回より人数は少なくなってしまうものの、テラさまがいらっしゃるなら大丈夫だろう。地球のバーベキューに敵うかどうか心配だが、美味しい品が多いし鰻をこっそりロゼさんに持って頂いているので楽しみである。
そうしてヴァルトルーデさまとジルケさまの転移で移動をして、一瞬で神さまの島へと辿り着いた。北大陸の大陸鉄道に乗ってゆっくりと移動しても風情があって良いものだけれど、今回は大事な話となるので一気に移動を選択した。
大陸鉄道の話を聞いたヴァルトルーデさまが乗りたそうにしていたから、いつか彼女は北大陸も視察の場所に選ぶ可能性があった。
神さまの島は相変わらず北大陸の北端の位置より更に北の位置にあるというのに、随分と暖かい気候である。グイーさまの屋敷にまで向かう道程には、見たことのない草木が生えていて目に新鮮だ。飛んでいる虫も珍しい形をしていたり、色合いの綺麗な蝶がたくさん飛んでいる。グイーさまの趣味にしては随分と美しい配色のような気がした。
今回のメンバーはフィーネさまとエーリヒさまと私である。護衛役としてジークとリンに側仕えのソフィーアさまとセレスティアさまにアストライアー侯爵家の護衛の方々と聖王国のフィーネさまを護衛している方々だ。
信仰心の高いウルスラさまには申し訳ないけれど、子爵領の領主邸新築祝いパーティーで我慢して欲しい。一応、誰彼に聞かせられる話ではないと編成は最小限の人数にしておいたのだ。
ということは、アルバトロス王国最強の魔術師である副団長さまが一緒なのは明白で、猫背さんもルンルンで護衛役に勤しんでいる。副団長さまは理解できるけれど、戦力という意味では猫背さんは平場の魔術師団の方と同レベルと聞いていた。猫背さんは戦力というよりも副団長さまと一緒に神さまの島を目に焼き付けて、研究対象にするために選ばれたのかと割と失礼なことを考えてしまっていた。
一行はグイーさまの屋敷に辿り着く。門扉を潜って玄関前まで歩いて行けば、正面の扉が勢い良く開いてグイーさまが私たちを出迎えてくれる。
「ナイ! みんな! 直接会うのは三度目だな! 人間なら、久しぶりと表現する方が良いのかの?」
彼が言い終えると同時にテラさまも姿を現して、ひらひらと私たちに向けて手を振っていた。私たちが軽く頭を下げたことを認めて、テラさまはグイーさまの方へと顔を向ける。
「グイー。随分とナイを気に入っているのねえ」
肩を竦めるテラさまにグイーさまが豪快に笑う。私の目に映っている光景は本当に美女と野獣という表現がピッタリで、なんとなくお似合いの夫婦である。少し遅れて屋敷の中から北と東の女神さまが姿を現した。二柱さまは少し呆れた様子でグイーさまとテラさまへ視線を投げていた。
「娘の引き籠もりを解消してくれたからな! それに他の皆も面白い人間が揃っているぞ!」
グイーさまがヴァルトルーデさまに一瞬視線を向け直ぐにテラさまへと戻した。ヴァルトルーデさまは少し恥ずかしそうに照れていて、彼女のそんな姿は初めてみたかもしれない。
「強制的に引き摺り出すこともできたでしょうに」
「最後の手段じゃよ」
テラさまが片目を瞑って両肩を竦める。やはりグイーさまは強制的にヴァルトルーデさまを部屋から出すこともできたようだが、彼女を無理矢理部屋から出した所でなにか意味はあったのだろうか。終わったことだし、今は地球の乙女ゲームの謎を解き明かそうと私は首を軽く振る。
「東屋に行こう。部屋の中より外の方が良いだろう」
グイーさまの声に誰も反対する方はおらず、そのままお屋敷の東屋へと移動する。グイーさまが他の方にお茶を淹れて欲しいと頼んでいる所にテラさまが呼び止めた。
「あ。あっちからいろいろと持ってきているの。安物だけれど気に入っているから、みんな飲み食いしながら喋りましょ!」
そう言ったテラさまの胸の谷間――テラさまの本日の衣装は薄着なので谷間が見えている――から、スーパーで売っている緑茶と缶入りの粉末レモンティーが現れ、これまた日本の有名菓子メーカーのポテトチップスやクッキーにチョコレート菓子がたくさん出てきた。
久しぶりに見た懐かしい商品に私が目を輝かせていると、フィーネさまとエーリヒさまも目を輝かせながら商品を見ている。ジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまに護衛の方々と副団長さまと猫背さんは懐疑な表情を浮かべて見ている。確かに包装はアルミの袋やプラスチックの包装である。中を開けて個包装している所まで見れば『どうしてそこまで?』と心の中で考えていそうである。――一先ず。
「お心遣い、ありがとうございます」
「郷愁に駆られて落ち込んじゃうことも考えたけれど、娘とナイから聞いた話から大丈夫かなーって。二人に余計なことだったらゴメンね」
私がテラさまに頭を下げると、苦笑いを浮かべた彼女がフィーネさまとエーリヒさまに視線を向ける。もしかして彼らと円滑に話をするためか緊張を取り除くために、テラさまは持参してくれたのか。
なににせよ、世界の謎が解き明かされることを願おう。話はフィーネさまとエーリヒさまに丸投げという情けない形だけれど。
「い、いえ! 凄く懐かしいですし、日本のお菓子とお茶は久しぶりです!」
「ええ。食すのが凄く楽しみです」
フィーネさまとエーリヒさまが伸ばしていた背をさらに伸ばしてテラさまへと返事をすれば、神さま方がお二人を見て笑っている。嘲笑ではなく、微笑ましそうに見ているから、たんとお食べと考えているのかもしれない。
「よろしくね~」
「畏まりました」
テラさまが他の方に軽い調子で語り掛けると、その方は恭しく頭を下げてお茶とお菓子を受け取って屋敷の方へと下がって行く。きちんとお茶を淹れてくれるようで安心だ。
グイーさまなら創造すれば良いかと言い出しそうだけれど、こういう所はちゃんと淹れたお茶やお菓子を出してくれる。彼からすればお酒を飲みたい所だろうけれど、真面目な話なのでお茶を飲むらしい。お茶とお菓子が届かぬまま、テラさまがこほんと一度咳払いをした。
「で、私に聞きたいことって?」
本当は私が答えることかもしれないが、今日の主役はフィーネさまとエーリヒさまだとグイーさま方には伝えて貰っている。なので私はどうぞという意味を込めて、お二人に視線を向けた。
ごくりと息を呑んだような気もするが、フィーネさまとエーリヒさまは二人で視線を合わせて頷き、男性であるエーリヒさまが先に口を開いた。
「この度はこのような場を設けて頂き感謝致します」
「気にしなくて良いわ。私が気軽に君たちの魂をグイーの世界に送ったことも関係しているしね。もし転生したことが余計なことだって言うなら怒っても良いのよ」
エーリヒさまの口上にテラさまが肩を竦めた。少し申し訳なさそうな顔をしたテラさまだけれども私は感謝していた。転生して間もない頃は大変だったけれど、今は大事な人や物がたくさんあるし、守らなければならないことも増えた。
意味をあまり感じていなかった前回の人生よりも日々が充実しているのだから。ふとフィーネさまとエーリヒさまはどうなのかと彼らに顔を向ける。他の方も心配しているようで彼らに視線が集まっていた。
「生まれ変わった頃は便利だった日本に未練がありましたが、でも俺は事故で死んでしまった。だから次を頂けたことに感謝しています。それに今、楽しいですから」
エーリヒさまが穏やかに告げた。彼はきちんとした場なのに『私』という言葉を用いていない。もしかして自分の意見を伝えるためにワザと『俺』という人称を使ったのだろうか。一度そう考えると、それしかないような気がしてならない。
「……私は正直、後悔している所があります。家族と友人に別れを告げられなかったことは残してきたみんなに申し訳なくて。私がいなくなって、私に囚われて前に進めていなければどうしようって」
フィーネさまが眉を八の字にしながら、顔を下げ手元を見ながら声を絞り出している。テラさまもグイーさまも四女神さまも彼女の声を聞き逃さないようにと黙って聞いていた。
「私なんかが神さま方にこんなことを言ってしまえば不敬になるかもしれませんが……お願いです!」
がばっと顔を上げたフィーネさまがテラさまとグイーさまに視線を投げた。
「家族や大切な友人が私のことを引き摺っていないかだけは知りたいのです! 会えなくても、せめて彼らの状況を……!」
普段より大きな声量でフィーネさまが言葉を紡ぐ。以前のみんなの前で泣いた彼女は転生自体に納得していなかった気もするが、少し時間が経って落ち着きを取り戻せたようだ。元の世界への未練は立ち切れていないかもしれないけれど、フィーネさまは確りとした表情で目の前の方々を見据えている。
確かに大切なご家族がフィーネさまの死に囚われたまま生活しているとなれば、どうにかしたいと考えるのが普通なのだろう。
「娘たちから聞いた話だと貴女は少し危なっかしいかもって考えていたけれど……今の君なら大丈夫かな。でも君たちがいた時間とグイーの世界の時間の流れが同じとは限らない」
テラさまが真面目な顔を浮かべて答えてくれる。テラさまのできうる範囲で調べてくれるそうだが、少し時間が掛かるとのこと。最悪の場合も考えて欲しいとテラさまがフィーネさまに伝えていたので、地球とグイーさまの星との時間が同じ流れではない可能性もある。
「ありがとうございます! 本当にありがとうございます!!」
フィーネさまがテラさまの言葉で顔を明るくする。時間の流れや別の地球だったらどうするのかと悩むが、テラさまであればいろいろと理由を付けてフィーネさまを納得させてくれそうである。
彼女の心が軽くなるなら良いことなのだろう。今日は乙女ゲームの世界の舞台がどうしてグイーさまの世界に流れたのかをエーリヒさまが問い質すために神さまの島にやってきたのだ。フィーネさまを気遣いつつ、エーリヒさまが口を開く。
「では本題に」
彼の声にグイーさまとテラさまが頷く。ヴァルトルーデさまとジルケさまと北と東の女神さまは東屋を囲う縁に腰掛けて立ったまま話を聞くようだ。お茶が用意されてそれぞれの前へと置かれ緑茶の良い匂いが漂ってくる。ティーカップに入っていることに違和感を覚えるけれど、今は気にする時ではない。
さて、どんな話が飛び出てくるのかと背をまっすぐに伸ばして私はエーリヒさまとテラさまの顔を見つめるのだった。
◇
――どうして世界は乙女ゲームを模しているのか。
原因がテラさまだと分かったけれど深いところの理解が足りておらず、こうして神さまの島で説明会を開いて頂いた。私は件の乙女ゲームをプレイしていないので、ジークとソフィーアさまとセレスティアさまがゲームの登場人物なんて実感はなく不思議な感じである。
とはいえヒロインちゃんのようなゲームのキャラクターに転生して浮足立つ人がこれから出てくるかもしれない。エーリヒさまとフィーネさまも危惧していることだし、二人が知るゲーム以外に新作や外伝作品の発売があるのかどうかも聞きたいと仰っていた。
「説明が難しいのですが私たちの置かれている状況を把握して頂きたいので、先ずは聞いて頂ければと」
エーリヒさまの一人称が戻っていた。真面目な顔をしている彼の隣では神妙な表情のフィーネさまが座している。更に隣に私が座り、三人の前にはグイーさまとテラさまが座している。
二柱さまとも真剣な顔で話を聞いてくれているし、周りにいるヴァルトルーデさまとジルケさまと北と東の女神さまも同様だった。そして私たちと一緒にきているジークとリンにソフィーアさまとセレスティアさまもである。副団長さまと猫背さんは興味が凄くありますよという表情になりながら護衛を務めてくれている。
「おっけ。私は理解できるけれど、グイーたちは良く分からないでしょうからね。私が説明すると事を凄く単純化させるから、君たちの説明の方がみんなに分かり易いかもしれないね」
「テラ。肝心なことを凄く軽く流す癖、直ってないのか……ぬ、すまん。話を続けてくれ」
ぱちんと片目を瞑ったテラさまが軽い調子で言葉を放てば、グイーさまと四女神さまが呆れ顔になっていた。テラさまは奔放そうな方なのでグイーさま家族は振り回されていそうだと想像できてしまう。
今回の私は話を聞く側に回るだろうと、エーリヒさまがゲームについて語り始めることを待っている。一応、ゲームがなにかはテラさまがグイーさまたちに軽く説明してくれており、どんなものかは理解してくれているはず。
「では。テラさまがとある乙女ゲームのキャラを見たいと、グイーさまに頼んで舞台を再現できるように情報を渡した、と」
エーリヒさまが少しだけ不思議そうに声を上げた。確かにゲームの情報を渡しただけで乙女ゲームを再現できるなんて、神さまは凄い存在である。
「うん。好きな乙女ゲームのシリーズがあったんだけれど、三作目のクソゲ……シナリオの駄目さとかいろいろと頭にくることがあって。ちょっとグイーに頼んで再現できるように星の時間の流れに組み込んで貰ったの」
「テラの頼みだし、おとめげーむ? 通りになる可能性は低いぞと伝えて再現しようと試みたな。懐かしい」
テラさまが乙女ゲームに苦言を呈したのだが、どうして言い淀み、言い直したのだろうか。まあ良いかと私は聞く態勢を崩さない。
「私たちが一度死んだ十九年前に、ですか?」
エーリヒさまの発言でテラさまがやっべと言いたげな顔になる。もう済んだことだし、転生したことに対して私はどうとも考えていない。
フィーネさまは大丈夫かと彼女の顔を見れば真剣な眼差しで、エーリヒさまとテラさまとグイーさまの間に視線を彷徨わせている。その姿は一言一句聞き逃さないという意志がアリアリと感じられた。
今回の件、話の主導を握るべき本当の人物はフィーネさまなのだろう。
神さまの島に赴く前に誰がグイーさまとテラさまに質問を投げるかと三人で協議していた。私は乙女ゲームについて詳しくないからと早々に辞退をし、エーリヒさまとフィーネさまどちらかが質問を投げるかとなった。
そうしてフィーネさまは彼女が質問をすればまた感情的になって、話の筋が逸れてしまうと語ったのだ。前回、フィーネさまが泣きださなければもっと詳しく世界について聞けていたかもと反省しているらしい。ならばとエーリヒさまがゲームについて質問することになり、私とフィーネさまが気になっていることを彼に託したのだ。
「いや、いつの頃だったか。娘たちが誕生した頃だった気がする」
むむむと考えているグイーさまが記憶を掘り出してくれたようである。四女神さまが誕生した頃となれば億単位の時間ではなかろうかと私は四女神さまを見る。するとヴァルトルーデさまとジルケさまが前を向けと無言で圧を放っていた。なにか理由があるかもしれないしと私は前に向き直る。
「あ~……時間については結構簡単に渡れちゃうから、グイーの記憶に残っている私は最近の私なのかもしれないわねえ」
「え、ちょ! 初めて聞いたぞ!」
テラさまの声にグイーさまも四女神さまもぎょっとした顔になる。もしかしてグイーさまは時間を超越することが難しいのだろうか。そういうことであれば彼らがテラさまの言葉に驚いているのも納得できた。
「ごめん、ごめん。星と星の移動を試みた時、目標にした時間軸からズレることがあって。出会った頃のグイーも好きだし、会えたから良いかってなってその時のグイーにゲームの情報を渡したの」
「うー……複雑な気分だが、テラにお願いされて悪い気はしなかったからなあ。過去の儂に嫉妬しそう」
「ま、私であることに変わりはないもの。そう心配しなさんなって。禿げるわよ?」
少し項垂れているグイーさまにテラさまがカラカラと笑いながら彼の背を叩いている。グイーさまはテラさまの態度に怒りもせず頭を両手で抑えた。
「止めて。テラが言うと本当に禿そう」
神さまも人間と同じで禿げたくないようである。むーと唸っているグイーさまの頭の天辺にグイーさま一家の女性陣の視線が刺さっていた。
「す、すみません。今の話を整理すると、テラさまはある程度、好きな時間に行くことができる。平行世界が存在している。乙女ゲームの情報は時間を渡ったテラさまにより、グイーさまの星では何億年も前から構築されてきた、と」
「合っているわ。個人的なやり取りは明かせないけれどね」
エーリヒさまが小さく手を挙げて話を纏めてくれるのだが、テラさまの言葉は全てではないようである。確かに個人のやり取りがあったならば明かせないことはあるのだろう。
こうして私たちの話に神さま方が付き合ってくれているだけでも奇跡だし、フィーネさまの心残りも解決しようとしてくれている。有難いことだと感謝しつつ、私たち以外にも銀髪くんとヒロインちゃんという転生者がいたこと。勇者さまと共和国の勘違いくんも日本からの転生者であることを明かした。エーリヒさまが。
「え、君たち以外に送った人間がいるけれど、妙な奴は選んでないんだけれどねー……どうしてだろ?」
テラさまがお茶をズズズズズと飲み干した。啜る文化はこちらの世界には馴染みがないため、微妙な雰囲気を醸し出している方が数名いる。
「待て、待て、待て、待て。待ってくれ! それだと儂の意思を無視しているではないか! 儂はテラが送ってきたからこそ受け入れたのだぞ!?」
グイーさまが『はあ!?』と納得をしていない声を上げると、テラさまが溜息を一つ吐いた。確かにグイーさまが今いる星は管理しているのだから、他の神さまからの介入なんて受け入れないだろう。
グイーさまより強い神さまがしれっと送り込んだのだろうかと、私はフィーネさまとエーリヒさまの顔を見る。お二人も頭の中でいろいろとパターンを考えているようで、新たな可能性に難しい顔になっていた。
「だよね。誰かがグイーの星に介入してる?」
「お前さん、モテるからなあ。気付かぬうちに他の神から嫉妬やらやっかみやら受けているんじゃ……」
グイーさまの話によればテラさまは神さま界隈で男女問わずモテているらしい。あっけらかんとしたテラさまの性格は神さま界で珍しいらしく、眩しく映るのだって。
テラさまに求婚している男神さまが沢山いたけれど、グイーさまが最後に彼女の心を射止めたようだ。女神さまの告白も受けていたと知った四女神さまは『母さん凄い』『母上さまは美人ですもの』『そのうえ嫉妬深くないですから』『世の中色んな奴がいるしな』と口々に声を上げている。
「えー……これでも私、グイー一筋なんだけれどなあ。それに私じゃなくてグイーの気を引きたい奴がいるのかも?」
「まさかあ!」
「最近の神の世界の主流は線の細いカッコいい男神だけれど、グイーみたいな筋骨隆々な男神が好きっている女神もいるでしょうしねえ。分からないわよ~」
「いやあ、そんなことは」
グイーさまがデレっとした顔になると、言い出しっぺのテラさまがむっとした顔になる。するとゴンと足下で音が鳴り、グイーさまの顔色が青くなっていく。痛いと小声が耳に届いた気がするが触れない方が良いのだろう。
「ま、私がグイーに頼んで乙女ゲームの世界を構築して貰ったのは本当。随分前のグイーにお願いして、状況が整えば乙女ゲームの舞台に似ている場が用意できるだろうって言ってた。だから今がその時なのでしょうね。まあ私が送った魂で随分とシナリオが変わっちゃったみたいだけれど」
テラさまの言葉にエーリヒさまとフィーネさまと私が『うっ』となる。テラさまは乙女ゲームの舞台で登場人物が動いている様を見たかったようであるが、乙女ゲームのシナリオは影も形もないようになっている。
ジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまは今の話を聞いてなにか思う所はないのだろうかと、私が後ろを振り向けば四人は『気にしなくて良い』と軽く首を振る。
多分、以前にゲームの舞台と酷似していて、乙女ゲームの世界かもと説明しておいたことが功を奏したようだ。もし情報を彼らに開示していなければ、凄く驚いて取り乱していた可能性もあるから本当に伝えておいて良かった。
「気にしなくて良いわ。そういうこともあるのでしょうし、全く同じ世界なんてつまらないもの。私は動いている本物が見れて満足しているしね」
あとは各々、自分の生き方に後悔がないように振舞いなさいなとテラさまが告げる。なにを勝手なと怒る人もいるかもしれないが、テラさまがいなければジークとリンとクレイグとサフィールに会えていない。
フィーネさまとエーリヒさまも今いる世界に大事なモノがあるはずだ。だからこそテラさまに文句は言わず、ただ元の世界にいる家族や友人がどうなっているのかと気にしただけだった。そりゃ地球に行けるなら行ってみたい気もするけれど無理なら諦める他ない。
「とりあえず私はフィーネの家族について調べてくるわね。他に変な介入がありそうなら止めておくし、ソイツぶん殴っておくから!」
テラさまがパチンとウインクをするのだが、神さま同士の喧嘩って宇宙規模で大変なことになりそうだ。大丈夫だろうかと心配していると、その辺りは配慮するわよとテラさまが言い切った。
「あ、あの……」
「どったの、エーリヒ?」
「あ、いえ。なんでもありません。私の気の勘違いでしょうし」
恐縮気味にエーリヒさまが声を上げてテラさまが返事をくれる。でも結局エーリヒさまはなにも言わないまま、話を終えてしまった。どうしたのだろうと首を傾げていると、テラさまも首を傾げつつ深くは突っ込むまいと判断したようである。
「んん? ま、それならいっか。あ、そだ。前は言い出せなかったんだけれど……――ジークフリードがいるわ! ハインツも!! ソフィーアとセレスティアもいるし、本物よ、本物!! って、フィーネもじゃない!!」
テラさまがガバッと席を立ち後ろに控えていたジークと副団長さまとソフィーアさまとセレスティアさまの方へと向かいマジマジと顔を見ている。彼女は彼らに触れたそうに手をワキワキさせているが、嫌がられると考えているのか我慢していた。
でも元地球出身のフィーネさまには遠慮が必要ないのか、テラさまは両腕を伸ばしてフィーネさまをぎゅっと抱きしめた。抱きしめられたフィーネさまはなにが起こったのかと理解できておらず、あっけに取られている。
「うわー! 若い! 眩しい! 羨ましいなあ……!」
うふふーと少し鼻息を荒くしたテラさまはむぎゅむぎゅとフィーネさまを抱き留める腕に力を入れている。フィーネさまは大丈夫かなと見守っていると、グイーさまが驚いた顔になっていた。
「え? 儂じゃ駄目? そりゃ儂は男じゃし……女子には敵わぬけれど」
「ほら、私たちの関係ってマンネリ化しているじゃない。刺激が欲しいもの」
グイーさまにテラさまはフィーネさまを抱きしめたまま答えた。まさしく一刀両断というか、鋭い刃がグイーさまの心に刺さるものである。
「……ぬう」
「残念。それに、グイーには女の子の柔らかさは再現できないわ。ねー? って、あれ? フィーネ、ちょ! 大丈夫!?」
白目を剥きかけているフィーネさまの頬をテラさかがぺしぺし叩いていると、はっとしたフィーネさまがきょろきょろと周りを見渡した。この場にいる全員がテラさまに白い目を向けているような気がする。
「一瞬、三途の川が見えた気がします」
「ご、ごめん……!」
フィーネさまはテラさまに生きているので大丈夫ですと答え、テラさまはご家族のこときちんと調べてくるからと約束を交わしていた。フィーネさまの心残りは解消しそうかなあとなり、話は終わりだからバーベキューをしようとロゼさんから食材や道具を取り出して貰い準備を始めるのだった。