魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0597:研修生卒業。

 神さまの島でバーベキューを執り行ってから暫く時間が経った。ヴァルトルーデさまとジルケさまの話によると、テラさまはフィーネさまのご家族を探し当て、ご友人も見つかったそうである。フィーネさまへの回答は直接伝えたいからと、また星と星の波長が合う日に会おうと決まった。

 テラさまからどんな言葉が出てくるのか少し不安があるけれど、地球の女神さまである彼女ならば上手く取り計らってくれるだろう。そんな中でも日々は流れて、もう直ぐ三月に入る季節になっていた。

 

 朝、朝食を終えて出掛ける準備をしていれば、私室のドアからノックの音が響く。私付きの侍女の方は今一緒に着替えを手伝って貰っているし、ソフィーアさまとセレスティアさまとは出先で合流しようとなっている。

 リンは部屋の隅っこで私の着替えを眺めているし、ジークとクロとロゼさんとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたち三頭は廊下の外で着替えを待ってくれている。はて、誰だろうと首を傾げているとリンが対応を担ってくれた。

 

 「ヴァルトルーデさまとジルケさまだった。入っても良いかって」

 

 リンがいつもの顔で告げるのだが、二柱さまが私の部屋に赴いても驚かなくなっているようである。元々、感情の起伏が少ないリンだけれど、驚かないわけではない。

 女神さまが屋敷に居候し始めた頃は少しだけ慌てていた様子を見せていたし、四女神さまが子爵邸に揃えば妙な顔を浮かべている。今の彼女は『なんかきた』と言いたげな顔をしており、女神さま相手でも容赦はないようであった。着替えを手伝ってくれている侍女の方は『なんですって!?』と驚いているのに。吃驚している侍女の方を横目に、私は苦笑いを浮かべながら口を開く。

 

 「うん、大丈夫だよ。案内して差し上げて」

 

 「ん」

 

 私がリンにお願いすれば、彼女はまた踵を返して扉の前に立った。あわあわしている侍女の方には申し訳ないけれど、ヴァルトルーデさまとジルケさまを待たせるわけにはいかない。少し待っているとリンが私の下にヴァルトルーデさまとジルケさまを連れてきてくれた。ジルケさまはバーベキューのあと暫く神さまの島で過ごすと言っていたのに、割と直ぐ子爵邸に戻ってきている。

 

 どうにも島の料理は飽きているらしく、子爵邸で出される料理が気に入っているとのこと。ヴァルトルーデさまの面倒を見てくれているので有難いけれど、頻繁に顔を出し過ぎではなかろうか。ジルケさま曰く、北の女神さまであるナターリエさまと東の女神さまであるエーリカさまが子爵邸にまた赴くと教えてくれていた。

 

 グイーさまも神力で分身体を作り出す練習を真面目に行っているとのこと。創造神さまなのに分身体を作り出すことに難儀しているのは驚きであるが、自身の分身を作り出すにはいつもと勝手が違うそうだ。なので分身体が上手く作り出せるようになれば、遊びに行くぞと気合が入っているらしい。

 

 「ナイ、どこかに行くの?」

 

 「あ、はい。王都の教会に。今日は共和国の研修生の卒業式なんです」

 

 ヴァルトルーデさまがこてんと首を傾げた。相変わらずの美人なので男性が彼女を見れば胸が凄く高鳴りそうである。ジルケさまはヴァルトルーデさまと廊下で鉢合わせして、そのまま私の部屋まできたそうだ。私の部屋を訪ねたご本人……ご本神さまは私が朝食を終えて執務室に向かわなかったこと、いつもの時間になってもソフィーアさまとセレスティアさまが屋敷にこないので気になったようである。

 

 「ん?」

 

 あ、そっか。ヴァルトルーデさまには簡単にしか説明していなかった。とある切っ掛けで共和国からアルバトロス王国に研修生を受け入れて治癒師と薬師の講義を教会で執り行っていること。

 一年が経ち研修期間が終わって今日が最後の日になることを伝える。共和国で起こった事件についても簡単に説明したが東大陸で起こったことだし、二柱さまは特に気にしていないようである。

 

 「東大陸は魔術が廃れていますし、医療技術もあまり進んでいないので良い機会かなと」

 

 「あ、そっか。東は魔素が薄いから、魔力の多い人間は生まれ辛いからね」

 

 「巨大魔石があるからなあ。ま、だからこそ飛空艇が飛んでんだけどよ」

 

 二柱さまは共和国の皆さまがアルバトロス王国で学んでいたことも特に問題ないようである。逆に面白いことを考えたねと感心していた。

 

 「私も短い期間でしたが講師として参加していたので、アルバトロス側の来賓として卒業式に参加します」

 

 卒業証書授与はカルヴァインさまが執り行うそうだ。彼も聖人として共和国の研修生の皆さまに知識を施していたようである。アリアさまとロザリンデさまも共和国の研修生に教えていたから、もちろん講師として卒業式に参加する。

 共和国からも政府高官の方が代表としてやってくるそうで、外務大臣さまがくると聞いていた。どんな式になるのか楽しみだと笑っていれば、侍女の方から着替えを終えたことを伝えられリンが私の隣に立つ。丁度そのタイミングで面白そうな顔を浮かべた約一柱さまが口を開いた。

 

 「行っても良い?」

 

 「断る理由はないですが、教会で執り行うので騒ぎになりますよ。多分」

 

 ヴァルトルーデさまが私の言葉に微妙な顔を浮かべている。どうやら気にはなるものの騒ぎになるのは避けたいようだ。教会の皆さまは失神者がいたとしても、諸手を上げて迎え入れてくれるだろう。共和国の皆さまも女神さまがご降臨していると知っているけれど、直接会ったことはないのでヴァルトルーデさまの神圧に耐えられるか分からない。

 でもめでたい席だしなという気持ちがあるからヴァルトルーデさまが参加しても問題ないような……いやいや。東大陸の共和国の皆さまだから東の女神さまであるエーリカさまを呼んだ方が彼女たちは嬉しいだろうか。

 

 「変なこと考えてねえか……なあ?」

 

 「ナイがなにか頭の中で考え事してる」

 

 ジルケさまがリンの顔を見上げてなにか問うているが、私の耳に届いた言葉はぼやけていた。リンもジルケさまになにか言っているようだが、考え事の最中なので良く分からなかった。

 どうしようかと私は迷っているし、ヴァルトルーデさまも行くか行くまいか悩んでいる様子である。ジルケさまが大袈裟に溜息を吐いたようなと、私が思考の海から戻ってくると彼女は凄く呆れた顔をしていた。

 

 「姉御は騒ぎになることと、興味があることを天秤に掛けているみたいだしな。どうすんだ、姉御ー?」

 

 「後ろで観てれば大丈夫」

 

 ジルケさまの声にヴァルトルーデさまがはっとしてどうするのか決めたようである。

 

 「バレそうだけどな」

 

 はあとまた息を吐いたジルケさまだが、ヴァルトルーデさまが答えを出したので安心しているようだった。そうこうしているうちに出掛ける時間になっている。外でみんなを待たせているし、アリアさまとロザリンデさまも馬車回りで待ってくれていることだろう。

 ヴァルトルーデさまとジルケさまが一緒にくるなら馬車が少々狭くなってしまうが五人乗れるのは実証済みである。とりあえず急に二柱さまが教会に赴くことになったと、早馬で知らせて貰うようにと侍女の方にお願いをする。

 

 そうして私は行きましょうかと声を上げ、リンとヴァルトルーデさまとジルケさまと一緒に部屋を出る。廊下で待ってくれていたジークとクロとロゼさんとヴァナル一家と合流して階下へと歩いて行く。

 そうして屋敷の馬車回りに辿り着けば、アリアさまとロザリンデさまが既に到着しており御者の方も馬車と一緒に待ってくれていた。

 

 「すみません、お待たせしました」

 

 私が声を上げるとアリアさまとロザリンデさまが背筋をピシっと伸ばして、後ろにいる二柱さまを凝視していた。毛玉ちゃんたち三頭は挨拶をしているのか、お二人の足下をクルクル回ってこちらに戻ってくる。

 

 「いえ。私たちも今着いた所ですから!」

 

 「め、女神さまもご一緒なのですか?」

 

 アリアさまが驚きつつも笑顔を見せてくれ、ロザリンデさまは少々固まったままヴァルトルーデさまとジルケさまも一緒なのかと問う。すると二柱さまは私の隣に並んでアリアさまとロザリンデさまと向き合った。

 

 「うん。急だけれど興味が湧いたから」

 

 「あんま気にしないでくれよ。後ろで見学してるだけだしな」

 

 二柱さまの言葉にアリアさまはそうだったのかと納得し、ロザリンデさまは目を点にして驚いていた。急で申し訳ないけれど、祝いの場に女神さまが同席することは悪いことではないので割り切って欲しい。そしてアリアさまがふととあることに気付いたようで、私の方へと視線を向ける。

 

 「ご用意してくださっている馬車は一台ということは」

 

 「め、め、女神さまもご一緒なのですかっ!?」

 

 あれと不思議そうな顔になっているアリアさまと、ロザリンデさまは先程と同じ台詞を言いながらまた驚いている。自身が深く関わることなので、今度の驚きは更に酷くなっている。

 いや、もうお泊り会とか経ているんだし、そろそろ慣れてくれても良いのでは。またロザリンデさまがえ、え、と驚きながら目を白黒させていると、アリアさまが彼女に『大丈夫ですよ! ナイさまも私も一緒ですから!』と励ましている。

 アリアさまの声で正気に戻ったのか失礼しましたとロザリンデさまは二柱さまに頭を下げた。ヴァルトルーデさまとジルケさまは『気にしてないよ』『もう慣れてくれても良さそうなんだがなあ』と彼女に伝えているが、やはり女神さまという存在は大陸で生きている人々には特別な存在のようだった。

 

 「遅れると先方に失礼なので、行きましょうか」

 

 私の言葉でヴァルトルーデさまとジルケさまとアリアさまとロザリンデさまが馬車へと乗り込む。ゆっくりと進み始めた馬車は子爵邸の正門を出て貴族街を行き、商業地区にある教会へと辿り着く。

 早馬を出していたためか、教会の大扉の前には大勢の教会関係者の方が並んでいた。その中にはカルヴァインさまとシスター・ジルとシスター・リズの姿もある。幼い頃お世話になっていた神父さまもいらっしゃるし、本当に教会の面々が勢揃いしていた。

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまも到着していたようで、教会の面々が集まっている隅っこで待っていてくれていた。

 アリアさまとロザリンデさまが先に馬車から降りて、私は少し間を置く。そしてジークのエスコートを受けて馬車から降りた私は、ヴァルトルーデさまとジルケさまのエスコートを担う。馬車から降りてくる女神さまを視認した教会関係者の皆さまが『おお』と感嘆の声を上げていた。

 

 教会の代表者としてカルヴァインさまが教会の皆さまから進み出て、私たちの前に立つ。凄く緊張しているようだけれど大丈夫だろうか。そういえば女神さま方が降臨なさった時に彼は気絶していた。

 西の女神さまと顔を合わせるのは初めてだったかと過去を思い返してみる。確か初めてだったはずと思い出し、私は目の前のお方は無事に二柱さまと挨拶を交わせるのかと心配になってきた。とはいえアストライアー侯爵として彼と最初に挨拶すべきは私であろう。女神さま方はあくまで見学なのだから。

 

 「カルヴァイン枢機卿、教会の皆さま、出迎え感謝したします」

 

 「い、いい、いえ! ア、アストライアー侯爵、本日はお日柄も良く、卒業日和となって良かったです!」

 

 私が礼を執れば彼も急いで礼を執った。かなり緊張していることが丸分かりで、馬車から降りていたロザリンデさまは少々不安そうな表情で彼を見ていた。

 アリアさまも大丈夫かなと心配しているようだが、ロザリンデさまより顔に出ていない。他の教会の皆さまは二柱さまが教会に訪れたことに対して『奇跡が起こった』と感じているようだった。キラキラと顔を輝かせて女神さまの姿を目に焼き付けているのだから。

 

 「急なことですが、西の女神さまと南の女神さまが卒業式を見学したいと仰られまして。申し訳ありませんが、よろしくお願い致します」

 

 「も、勿論です! 二柱の女神さまに見守られながら卒業を迎える皆さまの未来は明るいものになるでしょう!」

 

 緊張が解けないままのカルヴァインさまの言葉に、ヴァルトルーデさまは『未来は自分で切り開くもの』と声を漏らしていると、ジルケさまが彼女を肘で突っついて『黙っといてくれ、姉御』と伝えている。

 不思議そうな顔を浮かべて言葉にするのを止めたヴァルトルーデさまにジルケさまが『あたしらは女神だからな。そう信じてソイツが前に進めるならそれで良いじゃねえか』と付け加えている。確かに女神さまが同席してくれたことで自信や頑張れる気力が湧いてくるなら良いことだなと、私たち一行は教会の中へと案内されるのだった。

 

 ◇

 

 共和国の研修生たちの卒業式のため王都の教会に訪れている。開始時間までは少しあるのだが、聖堂は準備のために教会の皆さまとアルバトロス上層部の皆さまが忙しなく動いている。

 ヴァルトルーデさまとジルケさまがいらっしゃるのでチラチラとこちらに視線を向けているものの、失礼があってはならないと己の仕事に精を出していた。私たち一行は一度教会の裏手に回ろうと聖堂を通っている。信徒席の真ん中を通る通路を歩き祭壇の前でヴァルトルーデさまとジルケさまが立ち止まる。どうしたのかと私たちも立ち止まれば、二柱さまは祭壇の上にあるステンドグラスを見上げていたのだった。

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまが『なにを表現しているの?』『芸術は良く分かんねえや』と声を零したため、私の凄く軽い知識ではなくきちんと説明をできる方を指名させて頂く。私に名を呼ばれた方は肩をびくりと揺らして『私ですか!?』という顔になっているのだが、二柱さまが詳しい説明を聞けると分かり期待の眼差しを彼に向けていた。

 

 「せ、僭越ながら、アウグスト・カルヴァインが説明させて頂きます!」

 

 一瞬にして彼の額から汗が流れ出ているような気がする。大丈夫かなと私は心配するものの、カルヴァイン枢機卿さまは声を上擦らせながら西の女神さまが人々を導き苦難や苦痛から解き放った様子を記していると説明していた。

 

 私たちと一緒に歩いていた教会の方数名は彼の上擦る声を聞きながら、両手を胸の前で組んで祈る姿を見せている。そんな彼らの姿を見たヴァルトルーデさまは『祈ってもなにもでないのに』と困惑し、ジルケさまは『受け取っておけば良いだろ。信じている奴から拒否される方が辛れえだろうしな』と小声で話している。ジルケさまの言葉にヴァルトルーデさまは仕方ないと息を吐いて、もう一度ステンドグラスを見上げて口をへの字に曲げた。

 

 「それより……私に似てない」

 

 ヴァルトルーデさまが微妙な顔で言葉を放つ。彼女の声を聞いた教会関係者の皆さまは確かにとステンドグラスとヴァルトルーデさまを見比べていた。

 確かにステンドグラスに描かれている女神さまはヴァルトルーデさまには似ていない。そもそもステンドグラスで細かい表現はできないから顔の判別はあまりつかないが、ステンドグラスの方は体型がぽっちゃりしていた。対してヴァルトルーデさまのお姿はすらりとした高身長であり細身なのだ。確かにヴァルトルーデさまが似ていないと愚痴を零しても仕方ないのではなかろうか。そもそも女性にとって体重の話は重要である。

 

 微妙な心境のヴァルトルーデさまにどうフォローを入れようかと考えていると、ジルケさまが私より先に口を開く。

 

 「姉御……引き籠もっていたんだから、その間に姿を忘れられちまったんじゃねえか?」

 

 ジルケさまはヴァルトルーデさまの顔を見上げながら揶揄うようにくつくつ笑っている。

 

 「……うっ」

 

 数千年間引き籠っていたヴァルトルーデさまは肩を揺らして、手厳しい突っ込みに耐えていた。確かに教会の歴史は千年も経っていないし、西大陸信仰の本山である聖王国の歴史も五百年程度だったはずである。

 大陸国家で五百年独立国家として成り立っていることは凄いことだけれど、近年の聖王国の状況を見ていると凄く心配になってくるが、教皇猊下とフィーネさまが頭を抱えてしまいそうな問題が浮上している。似ていないステンドグラスの西の女神さまはヴァルトルーデさまの容姿に寄せることはできるのだろうか。

 

 「は! 赤の他人……他神ということにすれば、私は堂々と西大陸を旅できる?」

 

 はっとした顔でヴァルトルーデさまはジルケさまと私を見下ろした。ジルケさまは無茶を言うなと言いたげな顔をしているだけで、ヴァルトルーデさまと喋る気はないらしい。

 

 「雰囲気があり過ぎますし、西の女神さまのご尊顔はもう知れ渡っているのではないでしょうか……というか神さまの時点で無理では」

 

 私は呆れているジルケさまの代わりにヴァルトルーデさまに答える。ふらふらと西大陸を彼女が闊歩したとして、神力を抑えているとて女神さまの風格までは隠せていない。 

 誰が見ても、彼女が只者ではないと悟るだろうし、アルバトロス王国のハイゼンベルグ公爵領、ヴァイセンベルク辺境伯領に、リヒター侯爵領、そしてフライハイト男爵領に西の女神さまとして顔を出しているのだから噂好きな方々によって話は漏れているはず。

 商魂たくましい方は女神さまの風貌を聞き取り調査して、人物画に書き起こし一商売考えるかもしれない。アルバトロス王家から余計なことをするなと怒られそうだが、今のところ禁止はされていないのである。

 

 「駄目か……あれ、でも私の顔が露見しているなら、騒ぎになるけれど受け入れてくれる?」

 

 ヴァルトルーデさまも私も微妙な表情になってしまって暫く、彼女がはっとした顔になる。

 

 「騒ぎになっても良いなら、何処の国も西の女神さまを受け入れてくれるかと」

 

 ヴァルトルーデさまが自国や領地にきたと知れば、大々的な歓迎を受けることになるはずだ。止めてくれと断ることもできるけれど、ヴァルトルーデさまを断ることができるのか。受けるにせよ断るにせよ、国や領地を統治している方は一喜一憂することには変わりない。

 

 「やっぱりナイと一緒に行動した方が良さそう?」

 

 「どうでしょうか。私がずっと一緒に行けるとも限りませんから」

 

 ヴァルトルーデさまと私のやり取りを聞いていた教会の方が『女神さまになんてことを!』というような顔になっているものの、止めることはできないようだった。

 カルヴァインさまもぽかんと口を開けながらヴァルトルーデさまと私のやり取りを聞いていた。そんな彼に気付いたジルケさまは『姉御とナイのやり取りはいつもこんなだぞ?』と伝えている。

 教会の皆さま的には、女神さまからお願いされれば『はい、よろこんで!』と快く受けるのが普通だと考えているのだろう。ただ二柱さまと私たちアストライアー侯爵家の面々は短い期間だけれど、同じ屋根の下で暮らしている。

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまも、ナターリエさまとエーリカさまも私たちに対して普通に喋ってくれるし、要望を出されることもあれば、こちらの要望を受け入れてくれることもある。お互いに子供ではないから喧嘩とかはないけれど、納得ができないことがあるならば話をしてお互いに譲り合える線を提示しているのだから。

 

 まあ、教会の皆さまにはアストライアー侯爵家、もといミナーヴァ子爵邸で女神さまがどう過ごされているか分からない。驚きは仕方ないけれど、女神さまも人間と同じように分からないことや、納得できないことや、不満なことがあると知って欲しいものである。

 

 「亜人連合国の竜の方が空を飛べるようになったみたいに、西の女神さまも出歩いていれば、皆さまそのうち慣れてくれるかもしれませんよ」

 

 私が苦笑いを浮かべながらヴァルトルーデさまに告げる。亜人連合国の竜の方が空を飛べば、三年前までは凄く大事になっていたはずである。

 

 「そういえば彼らも引き籠もって、最近空を飛ぶようになったんだよね」

 

 「ですね。ね、クロ」

 

 『うん。なにも気にせず飛べるようになって良かったよ』

 

 クロはそう言っているけれど、竜の方たちが引き籠もっていたのは晩年のご意見番さまが心配だったからではなかろうか。いつ旅立つか分からない状況で他の場所にいて見送りができなかった、なんて悲しいことである。元ご意見番さまであるクロは気付いていないから、竜の方たちも上手く誤魔化していたのだろう。

 

 「自由が一番だ」

 

 「まあな。そう考えれば人間が一番制約があるのかもな」

 

 ヴァルトルーデさまが私の肩の上に乗っているクロに右手を伸ばせば、彼女の手にクロが顔を擦り付けている。ジルケさまは両手を後ろの頭に当てて、少しだけ笑っていた。

 ジルケさまが仰る通り、人間が一番制約を課されている気がする。身分やら国家間の移動やらと思い浮かべればキリがない。それでもルールがあるからこその自由だし、感じ方はそれぞれなのだろう。それに社会のルールを守っていれば、社会が守ってくれるのだから悪いことだけではないはず。もちろん社会から零れ落ちて大変な目に合うこともあるのは、貧民街時代で噛みしめている。

 

 「結局、似ていないのはどうされます?」

 

 「そのままで良い。間違って伝わっていたとしても、私が口出しすることじゃないから……………………」

 

 私が問えばヴァルトルーデさまは問題ないと答えてくれたものの、彼女の様子が変な気がする。数千年前のことである。口伝が殆どだろうし、女神さまの姿を絵に残すことも難しかっただろう。少しふくよかなステンドグラスの西の女神さまに一先ず別れを告げて、私たち一行は教会の裏手へと入って行く。裏手も表側と変わりなく、忙しく準備をしている方が右へ左へと移動していた。

 

 「あ。寄りたい所がある。行って良い? というか行きたい」

 

 ヴァルトルーデさまが不意に真剣なトーンで声を上げる。彼女の視線の先には終末院がある場所を見ており、誰も文句を言う方はいないし、私もヴァルトルーデさまの言葉には賛成するだけである。

 ジルケさまはあの場所がなにか分からずにカルヴァインさまに問うていた。彼は話すかどうか迷った末に意を決し、最期を待つ方が居る場所だと告げた。ふむ、と少し考える様子を見せたジルケさまは『よし』と声を上げ更に言葉を紡ぐ。

 

 「あたしも行く。姉御だけより良いだろ。驚かれるけどなー」

 

 軽い調子だが、真面目な顔を浮かべてジルケさまは終末院の方へと視線を向けていた。二柱さまとはミナーヴァ子爵邸で一緒に過ごしているけれど、こういう所はきちんと女神さまなのだなと伺い知れる。

 

 私は信仰に興味はないけれど、西大陸信仰の対象がヴァルトルーデさまで良かった。ジルケさまも容姿について言及しなければ良い女神さまなのだろう。

 長姉であるヴァルトルーデさまの面倒を甲斐甲斐しく見ているし、こういう時に一緒に赴くと言ってくださるのは本当に有難い。聖女の私は治せない方々をただ見ているだけしかできない。多少の苦痛を和らげることはできるけれど、ただ……それだけだ。だからこそ件の場所にいる方々には女神さまとの逢瀬は幸せな時間となってくれるはずだ。

 

 もしかすればテラさまのように、魂をどこかへ送ってくれるのかもしれない。

 

 直ぐ戻るねと言い残したヴァルトルーデさまとジルケさまの背を見送って、私たちは客室に案内されて時間まで待つことになった。暫くすればいつも通りの顔で二柱さまが戻ってくる。

 なにがあったのかとか聞けば良いのかもしれないが、それは女神さまと終末院の方々が共有すれば良いだけのこと。少ししんみりとしている部屋で用意してくれたお茶とお菓子を頂いていれば、ヴァルトルーデさまとジルケさまが渋い顔になっていた。

 

 どうやらヴァルトルーデさまは緑茶をジルケさまは羊羹を食べたい気分だったらしい。屋敷に戻れば侍女の方に出して貰おうと私が笑っていると、教会の方が『卒業式のお時間となりました』と呼び出しが掛かるのだった。

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