魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0006:お風呂。授業開始。昼休み。

 教会の宿舎にある共同風呂にリンと一緒に入っていた。二人か三人は入れる広さなので、公爵さまの庇護を得てから彼女とはよく一緒にこうして湯浴みをしている。

 孤児時代からは考えられない贅沢だけれど、魔術具のお陰でお水を張って魔力を通せば勝手に適温にまで上がるという、便利さ。機械文明に慣れ親しんできたけれど、魔術文化も魔術具を手に入れられる環境ならばそれなりに快適だ。

 

 魔術陣に魔力を提供した後なので寝落ちしないようにというリンの配慮もあるのだけれど、私が小柄な為、彼女が後ろに回って抱きかかえられている状態だ。背中から伝わるリンの胸の大きさに嫉妬するのは何度目だろう。しかも未だ成長途中だそうな。羨ましい。

 

 「ナイ、疲れているのは分るけれど寝ちゃ駄目……溺れるよ」

 

 「大丈夫、その時はリンが助けてくれるから」

 

 「もう」

 

 ぱしゃんと音を立てて私の腹に回しているリンの手に力が入ると、背中に当たる胸の感触も強くなった。

 むにむにしてんねえ、と碌に回らない頭でくだらないことを思い浮かべつつ、彼女は呆れつつも嬉しそうな気配を醸し出している。

 

 「あ、そうだ。騎士科は問題なさそう? 他の女の子と仲良くなれる?」

 

 個人の実戦能力ならばジークよりもリンのほうが優れているので、そっちに関しては心配していないけれど、その強さの分対人関係能力がオミットされてしまっているので不安ではある。ジークがついているだろうから何か問題が起きても、大体のことは切り抜けられる。ただ女の問題となるとジークは助け船を出し辛くなるだろうから、彼女一人で切り抜けられるのか心配だ。

 

 「大丈夫だよ」

 

 「……本当かなあ」

 

 「うん。仲良くなれなくても問題はないから。あ、そうだ。試験の時に兄さんと私の相手をしてくれた人が騎士科に居たんだけれど、すごく不機嫌だったんだ。――どうしてだろう?」

 

 そりゃ女の子に負けたというレッテルと遊ばれながら負けたというレッテルを騎士科の人たちに張られるからではないだろうか。男の子ってそういうプライド高いから。

 

 「うん……リン、その二人が突っかかってきても相手しちゃ駄目だよ。ジークに対応まかせてね」

 

 「心配性だね。――ナイはどうなの?」

 

 いつも三人で行動しているので、離れる時間が出来てしまうと心配してしまうのは親心というヤツなのだろうか。でも独り立ちするなら、私の側から離れていろいろと経験を積んだ方が良いだろう。だから二人のことを信じるしかない。

 

 「んー。第二王子殿下に将来の側近四人、それでもって公爵令嬢さまに辺境伯令嬢さま。他の貴族さま諸々。――凄い面子になってるから、気を使うかも」

 

 「大変そう」

 

 「平民だから関わることはないだろうし、向こうも平民に関わろうだなんて奇特な人は居ないはずだから、勉強だけ出来ればいいや」

 

 利益がないから一緒に居るなんてことはないだろうし、貴族令嬢の嗜みであるお茶会に誘われるなんてこともないだろうし。あったらあったで絶対に親睦を深めようという意味ではなく、逆の意味だし、きっと。そんな理由から友人もできそうにないよなあと、遠い目になる。もう一人平民の女の子がいるけれど、私と波長が合うのか微妙な所だ。まだ話したこともないし、決めつけるのは良くないので仲良くなる努力はしなきゃならないけれど。

 

 「でもお城で挨拶した女の子は?」

 

 名前で呼ぶことを許可していたじゃない、とリンが小さく呟いた。

 

 「例外でしょ。私が聖女だってことを今まで知らなかったみたいだし、たまたま気が向いたんじゃない?」

 

 我が儘な人ならば明日になったら名前で呼ぶなとか、そんなことは言っていないだなんて言われる可能性もあるのだ。貴族と平民では、こうして理不尽がまかり通る。貴族同士でも爵位の差で理不尽がまかり通ってしまうのだから、怖いものである。

 

 「そう、なのかな」

 

 「どうしたの、リン」

 

 基本的に本能や直感で動いている子だから、リンが考える素振りを見せるなど珍しい。

 

 「どうしてかな、ちょっと寂しい……」

 

 そう言って私の肩に顔を埋めると、視界に彼女の頭の天辺が映り込んだ。

 

 「今まで一緒に居過ぎたんだよ、直ぐに慣れるから」

 

 手を伸ばし、まだ濡れている頭に置いた。少しだけ身動ぎしたあと抵抗はないので、嫌という訳ではないのだろう。ひとしきり撫でていると満足したのか、ようやく顔を上げるリン。顔が赤くなってきているので、そろそろ限界のようだった。

 

 「上がろう、のぼせちゃう」

 

 「うん」

 

 ざぱんと音を立てて浴室から脱衣所へと向い薄布を手に取って体についた水気を取っていると、リンの姿が見える。

 

 「リン、そんな拭き方だと髪が痛んじゃうよ」

 

 「?」

 

 あまり気にしていないのか、かなり雑な拭き方だった。その姿を見て苦笑し、洗濯されている奇麗な布を手に取る。

 声を掛けると、リンはあまり理解していないらしく首を傾げる。

 

 「ほら、座って」

 

 竹もどきで編んだ丸椅子に座ってもらい、身長差をなくす。先程手に取った布を頭皮と髪の根元 頭全体をタオルで包み込むようにし、頭皮と髪の根元を押さえるようにゆっくりと水分を吸収させる。いつも纏めているから髪の状態は分かり辛くはあるけれど、せっかくの赤髪だし長く伸ばしているのだから綺麗な方が良いに決まっている。

 

 「風邪引くよ?」

 

 前を向いたままで声を掛けられたことに苦笑を浮かべながら、腕を動かしながらリンの言葉に答える。

 

 「大丈夫。――服はもう着たから。それをいうならリンも風邪引くよ」

 

 まだ油断はできないけれど暖かい季節だし大丈夫だろうけれど、薄布を体に巻いてはいるもののリンは裸同然である。

 

 「鍛えているから平気だし慣れてる」

 

 昔は薄着だったから寒さには鍛えられているようだ。育った環境は似たようなものなので私もある程度慣れているけれど、ジークやリンの方が寒さには強かった。

 

 「はいはい。――ほら、終わったよ」

 

 「有難う」

 

 「ん。ちゃんと着替えて寝よう」

 

 いい加減に眠いし、明日も学院へと向かわなければならないのだから。まだ本格的に授業は始まっていないので時間が捻出できているけれど、これからどうなるのか。楽しみなような不安なような、いろんなことを考えながらベッドの中へと潜り込むのだった。

 

 ◇

 

 入学から二日目。

 

 今日から授業が始まった。特進科となるので難しい内容のものも多いと聞いているのだけれど、流石は公爵さま。

 私が転科することを知っていたらしく、すでに対策を取っていた。どこから情報を得たのか知らないけれど、本当に耳が早いというか。昨日の夜に届いた手紙には、予習本を送ってやろうと文字が躍ってたので、数日後には使いの人が教会の宿舎にやってくるのだろう。予習本を送ってもらうよりも普通科に留まることをお願いしたかったと昨晩は嘆いたものだ。

 

 「あなたはどちらの方に付きますの?」

 

 「もちろん寄り親であるハイゼンベルグ家のソフィーアさまですわね」

 

 「あら、あなたはそちらへ。――私はセレスティアさまに従います」

 

 昼休み食事を終えて教室へと戻った女子たちの間でこんな会話が繰り広げられているのである。もちろんこんな会話が聞こえてくるので男子生徒は居ない。部外者の私が聞いていいものかと冷や冷やするけれど、彼女たちは平民である私に聞かれても問題はないと判断したのだろう。

 

 壁に耳あり障子に目あり、と言われて久しいのだから――もちろんこの国や世界ではないけれども、格言はどこでも通じるものがある――用心するに越したことはない。脇が少々甘いのではと目を細めつつ、自身の机でぼーっと教室を眺めていたら昼休みが終わり、昼の授業が始まった。そこから先はつつがなく予定を終える。

 

 そうして同じような日々を過ごすこと一週間が経った。

 

 教室内は落ち着いた雰囲気ではあるものの、ある程度のグループ分けがすんでおり、私は見事に孤立してた。もう一人の平民出身の彼女は上手く男子たちに取り入って、このクラスのマスコットキャラと化してるのだけれど、女子からは顰蹙を買っているのだけれど、上手いこと立ち回って衝突する危機は回避している。上手いこと立ち回るなあと感心しながら、いつまでも続くものではないと危ぶんでいるのだが。

 

 「う~ん、難しいなあ……」

 

 一限目の授業を終えた休み時間。教室のど真ん中で割と大きな独り言が響く。確か彼女はアリスさんといったか。ほぼ貴族だけの特進科なので、こういう独り言ってあまり推奨はしないのだけれども。大丈夫かなあと心配していると、彼女の背後に近づく男子。

 

 「分かりませんか?」

 

 男性としては少し長い新緑色の髪を揺らしながら、にこやかな笑顔を浮かべて殿下の乳兄弟であり側近候補の緑髪くんが声を掛けている。ズレた眼鏡の位置を直しながら彼女の肩にしれっと手を添えているのだけれど、これ大丈夫だっけ。彼に婚約者がいるのならば結構な問題のような気もする。

 

 「!」

 

 「!!」

 

 教室内にいた約二名の女子が、とんでもない眼光で教室のど真ん中で繰り広げられる光景を見つめていた。

 ソフィーアさまは第二王子殿下の婚約者だそうな。平民への告知は学院卒業後に発布するそうで、貴族の人たちの間では公然の秘密だそうだが。ドリル髪が特徴の辺境伯令嬢さまも近衛騎士団団長の息子であり伯爵家の嫡男であるクラスメイトと婚約関係にあるそうだ。彼女の持つ鉄扇がぎしりと異様な音を醸し出した。ちなみに緑髪の側近くんも、年下の婚約者さまが居るそうで。

 

 数日前からこの風景は日常と化していた。

 

 なぜか彼女を中心に男子生徒が集まっている。それも有名な貴族ばかりで殿下の側近四人を含み、あろうことか第二王子殿下も彼女との距離を突然詰めていた。

 当然そうなると教室の女子の怒りを買ってしまうのは、ふたりが視線で射殺しそうなほどの眼光を向けている時点で察せるのだけれど、ピンクブロンドのヒロインちゃん――……ここ数日の出来事で心の中でこう呼ぶことにした――が気付く様子は全くない。鈍いのか無視を決め込んでいるのか分からないのが怖い所だ。

 女としての演技力が高ければ無自覚で男子を垂らし込んでいると思い込ませることができる。

 

 そう判断するのはまだ早計だろうし、何かが起こると決まった訳ではない。

 

 むしろこの状況ならば、彼女の暗殺計画あたりでも誰かが企てそうだけれど、学生の身分だし成人はまだなので爵位を持っている人は居ないので、まだそうなるには時間があると願いたいが。

 

 ふうと深い溜息を吐いて、頭を抱えたくなるのを堪えるのだった。

 

 ◇

 

 ――ついに……この時がきてしまった。

 

 各派閥に別れていた女子だけれど、この時ばかりは共闘戦線を選んだようだ。我慢のならなかった女子たちがヒロインちゃんを取り囲んで、責め立てている。滑稽なのは婚約者本人ではなく、その取り巻きをしている子たちでありで家格の低い人が多かった。

 

 「あなたっ! 殿下や他の殿方の周りをうろちょろして一体どういうつもりですかっ!! しかもその中には婚約者がいらっしゃる方も居るというのに!」

 

 「?」

 

 首を傾げると同時、ゆるいウェーブの掛かったピンクブロンドの髪を揺れ、瞳はきょとんとなっている。状況がつかめていないのだと片手で顔を覆う。参ったなあ。教諭たちが居る職員棟までには距離があるし、今から走っても間に合いそうにない。

 

 「平民だからといって許されるとお思いになっていらっしゃるのかしら? でしたら甘いとしか言いようがありませんわねっ!!」

 

 「あの、どういうことでしょうか? わたし、なにかしちゃいましたか?」

 

 昼休みの人目に付き辛い中庭の一角。たまには一緒にお弁当をと幼馴染三人が集まって食べ終え、図書棟から本を借りていたので読書に勤しんでいたのだけれども。

 

 「……正直関わりたくはない、というか関わらない方がいいな」

 

 「……」

 

 ジークがぼそりと呟き、リンは目を細めて状況を見ている。

 

 「だねえ。――とはいえ、口までならいいけれど手が出そうなら止めないと」

 

 一応学院内だ。貴族の人が平民を下にみているのは周知の事実なので、こういう時の為の学則が存在する。

 魔術なんてものが存在するし、魔力さえ備わっているのならば基礎や初歩魔術であるなら割と簡単に使えてしまうのだ。手を出せば貴族の少女たちは負けになるが、頭に血が上っているようなのでどんな行動に出るのかが分からない。危なそうなら、止めに入った方がいいだろう。

 

 「ナイ、行くなよ」

 

 「いや、見ちゃったし不味いでしょうこの状況。お互いに得がないよ」

 

 ヒロインちゃんは貴族のご令嬢たちに囲まれている理由も理解していないようだから、彼女たちが去った後にひっ捕まえて理由と対策を教えないと、まともに学園生活が出来なくなる。

 今のところただの弱い者いじめにしか見えないし。理解していないなら学べば良いだけである。

 学院内だけに留まるならまだいいけれど、各家に報告でもされたらどんな処遇になるのか想像したくはない。舌打ちをしたくなるのを我慢しながら、状況を見守ってタイミングを見計らう。

 

 「――何をしている!」

 

 唐突に落ち着いた澄んだ、でも少しばかり怒気を含んだ声が中庭の片隅に響く。

 

 「で、殿下っ!」

 

 取り囲んでいた貴族の子たちが、彼を視認した瞬間にばっと頭を下げた。

 ヒロインちゃんだけ状況を理解できていないのか、またしてもきょとんとしていたが頬が紅潮していたからヒーローがやって来たとでも考えているのだろうか。

 

 「一人を多数で取り囲み、口々に罵るなど貴族としての品格に欠ける。今回は一度目だ、見逃してやろう。理解したならば去れ」

 

 右手で彼女らを追い払うようなしぐさをとった殿下。言ってることは的確なんだけれど、殿下のやってることは結構彼女たちと同じでは、と訝しむ。婚約者がいるのにヒロインちゃんとの距離感がバグっているのだから。

 頭を悩ませていると、蜘蛛の子を散らすように彼女を取り囲んでいたご令嬢たちが去っていく。流石に一年生で一番権力を持っているであろう殿下には、文句は言えなかったようだ。気が強ければヒロインちゃんの駄目な所を殿下に諭して、悔い改めてもらうのが本来の行動のような気もするけれど、そこまでの胆力はなかったみたいで。

 

 「ありがとうございますっ! ヘルベルトさま!」

 

 ばっと両手を前で揃えて頭を勢いよく下げるヒロインちゃんに、目を細めて微笑む殿下。いや、名前で呼ぶことをいつの間に許可したのだろうか。というか目を合わせて見つめ合うな! 視線を合わせるな! と心の中で叫ぶのだけれど届くわけはなく。

 

 「いや、気にするな。大勢でよってたかって君を責めているのが見えたからな」

 

 見たのは良いけれど取り囲んだ経緯も聞かないまま一方を悪者にして追い払ってしまったし、状況を彼女から聞くしかないのだけれどその雰囲気が一向になさそう。

 

 殿下は女の機微というか、女子特有の社会システムに疎いのだろう。男の人だから仕方ないけれど、今回のことは遺恨を残してしまうだろうに。彼が下手な勘違いを起こさなければいいなあと横目で見守りつつ、流石にこれ以上は出歯亀になりそうだし、なんだか甘い空気を二人で醸し出している。

 

 若い人が恋に燃えるのは構わないけれど、身分や権力を持っている人がその分を弁えないと痛い目を見るのは、古今東西老若男女、どの世界でも一緒だろうに。

 

 彼が公爵令嬢さまを正妻に置き、彼女が愛妾――身分的に側室ポジションすら無理――という立場で満足できるのかは謎。まあいろいろと抜け道もあるけれどね。外面だけでも整えて、内面はぐちゃぐちゃのどろどろでも問題は表面化することはないのだし。

 

 「リン、見ちゃ駄目だよ。――行こうか」

 

 教育上よろしくありません。あんなものは見ない方がいい。

 

 「だな。これ以上は見ていられん」

 

 そう言って午後の授業を受けるために移動を開始する。しばらく並んで歩いていると、はあとジークと私が長い溜息を吐いた。本当に最近ため息が多いよなぁと、ジークと顔を見合わせて苦笑したのだった。

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