魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0060:陛下と公爵。

 謁見場を出て、孫と聖女と教会騎士二人に数名の近衛騎士と廊下を歩いて行く。

 

 ――またしても問題を起こしおった。

 

 どうして何かを引き寄せてしまうのか。現筆頭聖女の異能『先見』によって見つけられた黒髪黒目の少女を横目で見る。

 

 「?」

 

 孤児として貧民街で数年は過ごしてきたというのに、どうしてこうも緊張感のない阿呆面を晒すのか。

 もう少し反骨心というか出世欲とでもいおうか、そういう欲があれば良いものの。

 金に貪欲そうでいて、さほど執着はしていない。己の生活も風雨の凌げる家と食うに困らぬ食事と寝床があれば良いときた。

 こちらは待遇を良くするといっても、固辞をしおって。公爵家がそれくらいの金を出すことに渋ることなどあるまいて。こ奴の場合、後が怖いとでも考えているのかも知れんが。

 

 どこか抜けているというのに、世渡りはある程度こなし学院へと入学する為の知識もなんなく吸収した。

 

 他国のスパイにそそのかされて、どこかに消えてしまうのではという心配も一時期あったが、コレは孤児仲間を異様に大事にしている。

 ジークフリードとジークリンデは、常に行動を共にしているので咄嗟に連れていけるであろうが、残りの二人は王都で生活を築き根を張っておる。そう簡単に他国へ渡ることを決められぬだろうし、三人だけで逃げおおせて、残りの二人が国の人質となれば帰って来るほかない。

 

 「ソフィーア、ナイ。ワシは陛下の所へ行ってくる。先に屋敷へ戻っておけ」

 

 廊下の分かれ道で二人に告げる。

 

 「はい、お爺さま」

 

 「閣下、いってらっしゃいませ」

 

 手を軽く上げて、彼女らとは別の道を行く。

 

 この先は王族と限られた者しか入れない区域である。さて、我が甥は頭を抱えているのか。

 アルバトロス王国の主、国王の執務室の前に辿り着く。扉の前で立ち番をしている近衛兵に声を掛け、入室許可を得た。

 

 「入るぞ」

 

 「――叔父上、どうしてこちらへ?」

 

 執務机に腰掛けているアルバトロス王がワシを見上げ、接客用の椅子を指した後に人払いをさせた。これで気兼ねなく話せる。

 

 「話をしておきたくてのう。――どうなった?」

 

 父王が早逝した為、王座に若くして就いた甥に笑みを向けながら座る。

 

 「どうもこうもありませんな。冒険者ギルドには出頭命令を出したので、そのうちすっ飛んでくるでしょう。我が国の者に理由もなく手を出したことを、許すわけには参りません」

 

 冒険者ギルドというものは特殊な存在である。どこの国にも属さず、大陸内で国の垣根を超えた独立機関とでも言おうか。

 魔物の発生率が現在よりも高かった昔、腕に自信のある有志が集まり討伐を始めたのが最初。地域の住人や貴族が彼らに報酬を渡したことから、それを生業にして勢力を広げていった。

 

 識字率も低く安定した職業が少ないこの大陸で、自らの命を天秤に掛ける連中は多い。軍や騎士団、あるいは教会騎士にでも入れば、風来坊としてではなく生きてはいけるが教養が必要になる。

 

 教育を受けられない男衆に、魔術に自信のある平民の若い女が独立を求め、その門を潜る。――もちろん例外も居るが。

 

 刺激を求め身分を隠して貴族の継子とならない者が興味本位で入ることもあれば、懲罰として入る者も。稀に神がかりな力を持った者が表れて、英雄や勇者と称えられることもある。夢を見るには十分な職業だ。

 

 その反面、無法者も多くなるのが頭の痛い所。時折、今回のように『やらかす』者が出てくる。力を持ち勘違いをして、己が一番だと思い込む。いくら強くても所詮は人間の身、数で押されれば破滅しかないというのに。

 

 「国に喧嘩を売ればどうなるかなど、一目瞭然というのになあ。どういう思惑で我らに弓引いたのかは知らんが、馬鹿なことをしたものよ」

 

 本当に。武闘派である辺境伯領内で竜を勝手に屠り、あまつさえ死骸を放置し呪いを発生させるなどと。普通の冒険者であれば討伐依頼が出ていない竜を倒したことをギルドに報告を上げ、そこから国や領主へと連絡を入れ、教会関係者を呼び葬送を施し死体処理を行うのが常道。

 

 「冒険者は二十歳前後と聞いております。――力があるというのならば、腕を試したい年頃でしょう。若さ故の万能感というのも拍車を掛けているのでしょうな、叔父上」

 

 「しかし……そこまで頭が回らないものかね? 貴族の領土内や貴族そのものに手を掛ければ、己の命が危ういと子供でも理解できることを……」

 

 「後先を考えない無法者は少なからずいますからな。あと満足な教育も受けていないのでしょう。――そうでも考えないと今回の事態の説明が付きませんよ」

 

 「犯人の素性もギルド登録をされているならば、直ぐに分かる。まずはそこからだな。――背後関係の洗い出しや、他国のスパイに暗殺……考えておると頭が痛い」

 

 その時にAランク冒険者をひっ捕らえて連れて来れば、ギルドは素早く対応したと評価できるが。依頼斡旋所にしか過ぎないギルドに、冒険者の背後関係まで掴めというには酷なことであろう。

 だから、そこからは我々国の仕事である。まずは取り調べ。吐かなければ尋問、拷問、薬物に魔術と段階を上げながら吐かせる。死なず、精神が壊れなければそれで良い。身分のない平民ならば尚のこと、死んでもかまわんのだし。

 

 「そこも頭が痛いですが……亜人連合っ…………!」

 

 そう言って執務机を見つめて頭を抱える、我が甥。その背に重石を背負って見えるのは、気のせいであろうか。

 

 今回の件はギルドも冒険者仲間も奴らを庇わぬだろう。やらかしが過ぎているのだから。そして亜人連合に喧嘩を売っておるのも不味い。物凄く不味い。――というかウチの国も不味い。

 

 竜を勝手に殺した責任を取れと言われて、攻め込まれる可能性だってあるのだ。

 

 空を飛ぶ竜種を数多く抱え、竜騎兵隊なぞを構成しておる亜人連合に勝てる人間の国はそうない。魔術師連中を総動員させても勝てぬだろう。

 なにせ長期戦ならば空を飛ぶ竜騎兵が有利であり、遠距離魔術を使わざるを得ない魔術師の魔力が持たぬのだから。超長遠距離攻撃魔術の使い手も更に限られ、王国内でも魔術師団副団長しかマトモな使い手がおらん。

 

 事情を話せば一応は通じる相手であるのが救いか。だからこそ使節団を形成して送ろうと、忙しなく関係各所を動かしているのだから。しばらくは不眠不休となるだろう。

 

 「亜人連合と交易のある国との連絡は取れたのか?」

 

 「はい。――事態は急を要するので、彼の国との連絡は直ぐ付けると」

 

 亜人連合を敵に回しても良いという国は早々おらんからなあ。理解が早くて助かるし、相応の対応だ。

 

 「で、見返りに何を要求された?」

 

 「小麦の融通ですね。そのくらいで済むのならば安いものですよ。あとは相手国の特産品を買ってくれと」

 

 我が国が穀倉産地で良かったな。余剰分は輸出して儲けておるし、他国の胃袋を握っているのだから。大陸北西部の環境はあまりよろしくないので、食糧事情が悪いから妥当な申し出だろう。ただ少々輸送費が掛かるが、仕方あるまい。それにタダで取引をするわけではないのだし。

 

 「――叔父上」

 

 「ん?」

 

 「聖女ナイの待遇については、どう弁明なさるのです?」

 

 悲壮な顔をする甥に、ワシは苦笑を浮かべるのだった。

 

 ◇

 

 ――アルバトロス王の執務室。

 

 「聖女ナイの待遇については、どう弁明なさるのです?」

 

 むっとした顔を私に向けるアルバトロス王、もとい我が甥は聖女の境遇を知らぬことに不満のようだ。

 

 「どうもなにも、本人が望んでいたことだからなあ」

 

 「本人が望んでいたといっても限度がありましょう! なぜ国の障壁維持に関わる聖女が教会宿舎などという兎小屋で生活しているのですか!」

 

 甥よ、それは教会宿舎に住んでいる者に失礼な発言だ。そもそも聖女の在り方を語らねばならぬだろうか。

 

 聖女の最初期に成り立ちは、立場の弱い女性を救い上げようという随分と昔の王妃の発言からだったそうな。

 

 食うに困っている女性で治癒魔術を使えるものを集め、教会へ所属させ奉仕活動を行いつつ信者としての教育に基礎教養。そうして彼女らと結婚した夫や子供も信者へと取り込み、順調に教会信者数を増やしていた。

 

 ある時、王国を守るための障壁魔術陣が完成し、それから多大な魔力量が必要となった。国は魔力量の強いものを募ると、男よりも女の比率が多く、そして貴族出身者と教会信徒の数が多い。

 

 ある者は一瞬で魔力を喰われて倒れ。ある者はある程度耐え凌いだ後に倒れ。ある者は平気な顔をしている。

 

 そこに目を付け国と教会は『聖女』という称号を与えて、魔術陣への魔力供給量に対して優遇措置を図る。ついでに治癒や補助魔術を使える女性にも『聖女』の称号を与えて雇い入れ、国や教会の為に貢献してもらおうという腹積もりだったそう。

 

 殆どの聖女は教会に所属して治癒を施しながら生活をし、年若い者ならば相手を見つければ家庭に入って辞めるものも居れば続ける者も居た。

 貴族家出身の聖女は、聖女としての活動をしつつ家の都合を優先させる者も居れば、奉仕精神に溢れている者は教会に尽くし評判を稼ぎ家の名声を上げた。

 

 魔術陣へと魔力補填を行える聖女は別格である。

 

 別格故に問題が起こったが。貴族は血統を維持するために、優秀なもの同士と婚姻し子を残して代を繋いでいく。故に魔力量の多い者が多数だ。爵位を継げぬ男は魔術師や騎士に軍人として名を馳せ、女は聖女として国へと貢献するのが名誉とされた。

 

 そこを狙って貴族間で問題が起きたのだ。

 

 己の家の者を最高位に上げようと、暗殺未遂に高位貴族が低位貴族に圧力を掛けるは、魔力補填を行う平民出身者の迫害。これで国の障壁維持に問題が出れば本末転倒。兎に角、優遇措置は取り止めて形だけでも聖女はみな同格と位置づけた。

 

 ただ、諸外国に向けた外交用の顔として『筆頭聖女』だけは必要になる。

 

 その栄誉に就くには、魔術陣へ補填が出来る魔力量と教養と見目が優先され、たった一つの『筆頭聖女』という椅子は貴族たちの良い餌となった。

 見栄や面子を大事にする連中に、家の存続が危うい貴族は必死である。なにせ国の顔なのだから。その座に就けば男爵位程度の年金支給が施される。金に困っている貴族はこれに目を付け、栄誉を欲しがる貴族もその座は魅力的なのだ。治癒と称して滅多に出られない国外へと出られる。社交界で自慢をしたい女ならば、他に追随させない絶好の話題だ。

 

 まあだから、あの黒髪の少女が嫌な顔をするのは理解できる。面倒な貴族と矢面に立たねばその椅子は得られんのだし。

 

 「打診はしたぞ、固辞されたが。無理矢理に騎士爵か男爵位の住んでいた空き屋敷に放り込んでみろ、教会も黙っておらんだろう?」

 

 「確かに聖女の意思と尊厳を無視していると、教会の一部の者から抗議が来ましょう。ですが、そんなもの封殺すれば良いではありませんか……何故報告に上げて頂けなかったのですか!!」

 

 そんなものを無視して身を滅ぼした者もいるだろうに。馬鹿には出来ぬものであろう。

 

 教会も一枚岩ではない。神の教えを忠実に守ろうとしている原理主義派に、教会派貴族勢、穏健派に金満勢も居る。事細かく分ければ更に細分化するのだから、キリがない。腐った者も居れば、清貧を旨に平民へ施しをする者。教義を広めようと、身一つで各地を渡り歩く者もいるしな。

 

 「知れば、お前さんは対応するだろう」

 

 「当たり前です! ただでさえ周辺国からは障壁に頼っている臆病な国だと揶揄されているのですよ! その為の聖女の扱いを無下にするなど……私は、私は……」

 

 甲斐性なしの烙印を押される……と。甥の周辺国からの評価は『凡』を押されているからなあ。障壁がある為に外から攻められる心配は少なく、国内に目を向けていれば良いのだから。

 あとはスパイや周辺国のパワーバランスを外から眺めていれば良い。ただ、一国を背負う男が『凡』で収まる筈がなかろう。腹さえ括れば、彼は『優』である。平時しか経験したことがないことが余計に周辺国から『凡』評価だなあ、甥よ。

 

 我が国を障壁に閉じこもった臆病者と評する周辺国には、是非とも痛い目にあって欲しいと常々思うておるが、先に手を出したら負けだしのう。忌々しい。

 

 「舐められているのならば、そう思わせておけば良いではないか。我らが牙を剥いた時に効果が上がる。あっと言わせてやれば良い」

 

 「確かにそうですが! そうですけれどねえ……外交の時に嫌味でチクチク言われるのは私なのですよ。遠回しに貧乏だのケチだのと……」

 

 お前さん、周辺国の王より若いからなあ。周辺国との力の差はそれほどないし、標的にされやすいのだろうて。

 

 それに国を守れるほどの障壁を張れる魔術陣を展開できる技術を持つ国は少ないからのう。他国は魔物の討伐に腕の良い『冒険者』を使う。だからこそこの大陸で『冒険者ギルド』が国の垣根を超えた独立機関として保障されているのだ。

 アルバトロス王国は魔力量が多い者が生まれやすく、魔術陣で障壁を張り外敵からの侵攻を安易に防げるのだから、羨ましいのだろうて。

 

 「言わせておけ、言わせておけ」

 

 自分の矜持を大事にしようとするのは、まだ若い故か。呵々と笑って甥を見ると、またしても背に重石を背負っている幻を見る。

 

 「彼女は筆頭聖女候補でしょう? 現筆頭聖女が『先見』で見つけてきたのですから最初から価値は高かったはずです」

 

 「だが貴族でもなく、平民ですらなかったからな。まずは衣食住の提供と体調管理に最低限の教養、聖女として行動出来るかどうかを見極めたかったのだろうよ」

 

 初めてナイと面会した時は、何故生きていると驚いたものだ。ガリガリの骨と皮だけの娘だったからなあ。保護した当初はいきなり食わせても腹を下すだけだし、食事量も様子見をしながら増やしていたそうだ。

 

 「報告では、問題なく乗り切ったと聞いていました。――……というか聖女として働いているのです。金ならば下手な騎士爵位の者より多いのでは?」

 

 だのに何故兔小屋に……とぼやく甥。

 

 「もちろん。ただ身を過ぎた金は身を滅ぼすし持て余すだけ、教会に預けると言っていたぞ。――これで金の管理を教会が怠っていれば、糾弾できるな!」

 

 「叔父上ぇぇええ!!! 叔父上が何故管理しないのですかっ! 叔父上ならばそのくらいの事出来るでしょう!!」

 

 いい歳をこいた男の涙目なぞ見苦しいだけだぞ、甥よ。そもそも政治を司っている我々貴族が、教会内部に安易に手を伸ばせまいて。

 

 「それをやると教会の立場がないし、仮にきちんと管理しておったら国が我らを信用していないと抗議されるだけだぞ――お?」

 

 執務室の扉をノックする者が現れた。このノックの仕方は訪問者を告げる音。扉の向こうで立ち番をしている近衛騎士によるものだ。

 

 「どうした、入れ」

 

 「失礼致します! 王妃殿下が陛下との面会を望まれております」

 

 おもむろに執務室の扉が開いて近衛騎士が礼儀よく入って来ると同時に敬礼。答礼もせず、用件だけを伝えよと甥が促すと、どうやら王妃殿下がこちらへ参っているようだ。

 

 「公爵、構わんな?」

 

 「ええ、構いませんぞ。陛下」

 

 そう伝えると甥は、近衛騎士にひとつ頷くのだった。

 

 ◇

 執務室への来訪者は王妃殿下だった。

 

 透き通るような白い肌に絶妙に整った美しい顔に均整の取れた肢体。妖艶な色香を漂わせながら、公務もない所為か薄着で城をウロウロしおる、問題児め。若い近衛や文官に武官連中の下半身に直撃である。凡愚なお飾りであれば注意して止めさせるものの、実力があるので小言止まり。

 

 「陛下、声が廊下の外に漏れていましたわ」

 

 おまけに声も良いときた。神は目の前の女に能力を与え過ぎだ。ただ分を弁えているので、愚を犯さない。忌々しいが、アルバトロス王国の王妃として、きっちりと務めを果たしているのだ。甥が『ああ、すまないね』と片手を上げて謝っておるが、腑抜けにされてはおるまいなあ。

 

 「なんだお前さんか」

 

 ワシが一度鼻を鳴らすと、扇を広げて口元を隠して目だけを細めた。おそらく扇の向こうでは口の端が伸びているに違いない。

 

 「あら公爵、相変わらずお元気ですこと」

 

 「引退間近ではあるが、まだまだ死ぬ予定はないぞ」

 

 執務室を移動しつつワシに顔を向けて嫌味を放つ女。根性が曲がり腐っておるなと、目を細める。そうして甥が座る椅子の肘掛けに腰を預けて凭れ掛かった。

 

 「わたくし、公爵に早くくたばれなどとは一切申しておりませんわ」

 

 「そう聞こえる言い方をするからだろうに」

 

 ピリッと部屋に紫電が走る気配が流れた。

 

 「はあ……二人共止めなさい」

 

 王妃が腰を預けた肘掛けの反対側に肘を掛けて頬杖を突く甥は、呆れた顔をしてワシをみる。

 

 「ふん」

 

 「ふ」

 

 「どうしてそんなに仲が悪いのか……はあ」

 

 「ため息を吐くと幸せが逃げるらしいぞ、陛下よ」

 

 「一国の王にそんなものは必要ないよ、公爵」

 

 王妃が部屋に居る為か口調を少し変えた甥は、疲れた様子である。まあ問題が一気に噴出したのだから仕方ない。

 これで上手く収まれば、儲けものである。亜人連合と繋がりのある国は数が少ない。これで交易条約でも結べれば、周囲の国から一目置かれる存在となる可能性も出てくる。

 ただ使節団の代表があの少女だ。政治なんて面倒だと普段から言い張っているから、期待は出来ぬし求めてもおらん。というか、求めてはならん。国内の欲深い貴族は、自分たちは何もしない癖に、やれああしろこうしろと言うだろうな。

 

 「確かに」

 

 「そこは否定してくれても良いのでは……叔父上」

 

 「――公爵は放っておきましょう陛下。話はどうなったのです?」

 

 甥の頬を細指でなぞり、視線を己の方へと変えさせ美しく微笑んで問いかける。

 

 「ん、ああ。――……」

 

 先程ワシと交わしたことを王妃へと告げる甥。

 

 「この国は冒険者の立ち位置が低いもの。ひと暴れ出来ると勘違いした者が王国へ無断で入り、暴れることもありましょう。まあ、ギルドの管理が全くなっておりませんが」

 

 「手厳しいねえ。だがウチの貴族や辺境伯領領民に周辺領の者を危険に晒し、あまつさえ学院の生徒に騎士や軍に被害を齎した。――容赦はしないよ」

 

 うむ、容赦など必要ない。順調な国家運営に皹をいれる所だったのだ。一個人の命で賄えるものではないが、国としての見せしめは必要だ。他国からも冒険者からも、舐められる。

 

 「手厳しくはありませんわ。冒険者の教育や育成もギルドの仕事です。他国はギルドへ予算を割き、冒険者を自由に動かし魔物を狩らせて安寧を得ております」

 

 「その辺りの事情は、我が国は疎いからね。だがそれだと軍や騎士の扱いはどうなるんだい?」

 

 「もちろんそちらも手抜かりはありませんわ。――ただアルバトロス王国は恵まれております。魔力持ちが多いということは、戦力が高いと同義ですもの」

 

 確かに。だが訓練や教養は必要だがな。質の良い駒を育てるには、それなりの金と時間が必要だが。聖女や魔術師の数の確保は足りておるし、魔力の影響で軍や騎士も質が良い。

 

 「ふむ。――まあギルドにも賠償請求をしないとねえ。管理怠慢だよ」

 

 「ギリギリまで、毟り取るべきですわね。――ところで公爵」

 

 「なんだ?」

 

 「聖女ナイに個人的な面会を要請いたしますわ」

 

 やはり目を付けおったか。しかも個人的ときた。

 

 「……理由は?」

 

 「愛でたいだけです。あのような可愛らしい子がこの国に居ただなんて信じられません。ねえ陛下、公爵が後ろ盾ではなく陛下が後ろ盾になっては?」

 

 ナイは小柄で童顔だからなあ。王妃の嗜好をそそる容姿をしている。王国、もとい大陸の人間は成長が早く、他の大陸の者と比べると背格好が大きいと聞く。目の前の女の趣味は全く理解できぬが、王妃の予算からではなく自費で気に入った者を男女問わず囲っている、もちろん不貞など働かぬが。

 

 「それは出来ない。私が一人の聖女を優遇すれば不満が出るよ」

 

 無理だと理解して聞きよった。

 

 「あら、残念。――で、公爵、返事は如何?」

 

 「駄目だ、と言いたいが……駄目と言ったところで適当に理由を付けて呼びつけるか会うのだろう……?」

 

 「ええ、勿論。障壁を維持の為に魔力を補填していますし、偶然会う機会なぞいくらでも作れますわね」

 

 本来、王族がウロウロしない区画に王妃が居れば、王城で働いている人間が腰を抜かすであろうに。しかも目の前の女は、見目の威力だけで腰を抜かす者がいる程の美女である。勝手に城内をうろついて被害者を増やすでない。

 

 王妃は男女問わず人気が高い。

 

 面倒見の良い性格をしておるし、下の者へ威張ることもない。そんな様子だから侍女やメイドにまで支持を得ておる。男は見目の良さでコロッと騙されおるし、やはり質が悪い。そして甥の評価の邪魔をしていない。肝心なところで、すっと引く。

 

 ――すまぬ、ナイ。

 

 目の前の女に玩具にされるであろうが、悪気はないのだ、悪気は。奔放すぎる性格と王妃としてのバランスを絶妙に保っているから、止められん。

 

 「分かった。場を用意させよう。だが、聖女一人での同席は認めん。我が孫を同席させる、それが条件だ」

 

 「あら、ソフィーアちゃんを? 寧ろ好都合ですわ。一緒に愛で倒します」

 

 本当に守備範囲の広い女だな……。そして自分の欲望に忠実である。

 

 「ねえ」

 

 「どういたしました陛下?」

 

 「問題が解決してからにしてね」

 

 「もちろん、そのくらいは弁えております」

 

 ふふふと笑って腕を組み、主張の激しい胸を更に寄せおってからに……。本当に黒髪の少女の下には厄介ごとが転がり込む。神よ、彼女は一体なにを仕出かしたというのだろうか。

 




 説明回かなあ。突っ込みどころが増えただけのような気がする。誤魔化す為に主人公視点で突っ走ってきました(汗 王妃さまはネタ枠です。息抜き回で出番かな。
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