魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
午前の仕事を終えお昼ご飯も食べて、少し小腹が空く時間となっていた。
春の陽気に誘われて東屋でお茶を頂こうと、訓練から戻ってきたジークとリンと仕事の合間だったクレイグとサフィールも一緒である。移動途中、ヴァルトルーデさまとジルケさまとも出くわして、彼女たちとも一緒に行くこととなった。
何故か私が先頭を行き侯爵邸の廊下を出て外へと向かう。目の前には、敷地を囲う柵すら見えないだだっぴろい庭が広がっていた。次は東屋を目指して歩き始めるのだが、本当に子爵邸と侯爵邸では規模が違っている。
「移動だけでも運動になりそうだね」
私が後ろを振り返るとジークとリンの顔が見えた。ジークの後ろにクレイグとサフィールが、リンの後ろにヴァルトルーデさまとジルケさまが歩いている。
「子爵邸より広いからな」
「歩く距離が多くなった気がする」
ジークとリンは毎日鍛錬を欠かしていないので体力が減ることはないだろう。私は事務作業が多くなっているので体力が減っているという実感がある。まだ若いから大丈夫だけれど歳を取った時が恐ろしい。
三十代に迫ると疲れが残り易く回復が遅い。前世で十歳年上の友人には『三十代で一気に体力が落ちて、四十代で更に老ける』と口酸っぱく教えられている。健康に気を付けて長生きをしたいから、運動は大事なこと。だが、激しい運動をするのはお貴族さま的にはアウトなので、体力作りの仕方に悩んでいる。
「馬鹿みたいに広いからなあ」
「本当にね。でも子供たちは喜んでいるよ」
クレイグとサフィールも王都のアストライアー侯爵邸の広さに感心している。王都の子爵邸と比べると本当に規模が大きくなった。ただ、ご近所さまである侯爵邸や公爵邸も同じくらいの広さなので、アストライアー侯爵邸の広さは普通のようである。
託児所の子供たちも、侯爵邸へと異動した親の方たちと共に転園――表現が怪しいけれど――していた。そして新たに雇った方々の子供たちも一緒に過ごすことになっている。大人たちの軋轢よりも、子供たちの上下関係の方がはっきりと表れるだろうからサフィールは困っていないだろうか。
「サフィール。託児所は大丈夫?」
同じ平民といえど、見えないカーストが存在している。親の仕事や収入やら、本人の学歴や職歴などで勝手に周りがランクを付けるのだ。本当に面倒だけれど、人間に心というものが在る限りなくならないもののようである。
「特に問題はないよ。人見知りする子は馴染み辛いけれど時間の問題だろうしね」
サフィールが小さく笑って平気と言っているけれど、今は顕在していないだけかもしれない。それとなく注意して欲しいこと、問題が起きれば直ぐに教えて欲しいことを私はサフィールに伝えておく。
託児所は私が発案したのだから、トラブルが起こったならば責任を持って対処しなければ。横暴な子がいて手に負えないなら、出禁も考えないといけないかもしれない。とはいえ、問題児のご両親が顔を真っ青にしながら、子供に言い聞かせそうだけれど。
「子供は元気」
「姉御、託児所の子供を相手にして疲れていたからな」
ヴァルトルーデさまが目を細め、ジルケさまが面白そうに笑っている。二階の執務室で作業をしていると託児所の子供の声が響いてくることがある。彼らの元気な声は仕事中の良いBGMになっていた。
偶に苦笑いになってしまう声も上がるけれど、サフィールと職員の方たちが注意してくれているようで直ぐに収まる。ヴァルトルーデさまは赤子は苦手だけれど、会話ができるくらいの子になれば問題なく遊べるらしい。
託児所に顔を出して、子供たちと遊ぶこともあるそうだ。時折、子供たちがヴァルトルーデさまに遊び方を教えていて、職員の方が気が気ではないと教えてくれている。子供たちに問題はなく、ヴァルトルーデさまが望んで遊んでいるから気にしないでくださいと職員の方たちに伝えていた。その時の職員の方は『本当に良いのだろうか!?』という顔になっていたけれど。
「やっと着いた」
喋りながら歩いていれば東屋に辿り着く。割と歩いたし、少し体温が上がっているような。脂肪が燃焼していると嬉しいし、筋肉が付いたなら更に嬉しいけれど……歩いただけなのでもっと頑張らなければ。
「息切れしてんじゃねえか?」
「まだ切れてないよ!」
クレイグが律儀に私に突っ込んだ。どうにも幼馴染故か、こういうやり取りをしてしまう。冗談の範疇だし、いつものことなので気にしていないのだが、ヴァルトルーデさまが凄く羨ましそうな顔をしてクレイグと私を見ていた。
私は黙ったまま顔を見上げれば、なんでもないと彼女が左右に首を振る。私の肩の上にいたクロと視線を合わせて『どうしたんだろうね』と問えば『なんだろうね』と答えが返ってきた。クロもヴァルトルーデさまが考えていることは分からないようで首を傾げている。ちゃっかり私たちの後ろにいるヴァナルと雪さんと夜さんと華さんは首を傾げ、毛玉ちゃんたちはきょろきょろと広い庭を観察していた。
「お茶、淹れてもらおう。ヴァルトルーデさまとジルケさまは緑茶が良いですか?」
私たちは慣れている紅茶で良いとして、二柱さまは紅茶と緑茶どちらが良いだろうか。
「うん」
「おう。ヨウカン出ると良いんだがなあ」
ヴァルトルーデさまとジルケさまはすっかり緑茶を常飲としている。私は侍女の方を呼び、お茶とお菓子の用意をお願いしますと伝えれば、頭を下げてしずしずと下がっていった。
先ほどの彼女は新しく雇った方である。女神さま方に驚いているけれど、表になるべく出さないようにと努めていた。新しく雇った皆さまがアストライアー侯爵邸の環境に慣れてくれるか心配だったけれど、出だしは順調のようである。
みんなで侍女の方が戻ってくるまで雑談に興じていると、エル一家が厩から東屋へと遊びにきた。
どうやら私たちが通る姿を遠目に見ていたようで、ゆっくりと一家四頭で歩いてこちらまできたようである。エルとジョセがひょいとこちらに顔を出し、ルカとジアは少し離れた場所で止まっていた。
「エル、ジョセ、こんにちは」
『こんにちは、聖女さま。ヴァルトルーデさま、ジルケさま、ジークフリードさんとジークリンデさんとクレイグさんとサフィールさんもこんにちは』
『良いお天気ですね。冬の寒さも和らいで、良い季節となりました』
私がエルたちに声を掛けると、エルが代表してみんなに挨拶を返してくれた。彼に名前を呼ばれた皆さまも、それぞれ返事をしていた。ジョセは陽に一瞬だけ視線を向けて、過ごし易くなってきた季節に目を細めている。
「ね。あれ?」
ルカの背中の上でキジトラと言われる柄の猫さんが一匹乗って日向ぼっこをしていた。先程までルカの背に乗っていなかった気がするのだが、いつの間にいたのだろう。
「ルカの背になにか乗ってるね」
「ありゃ、猫か」
私が目を細めながら声を上げれば、ヴァルトルーデさまとジルケさまが声を上げる。猫が珍しいのか二柱さまは目をぱちくりさせていた。
今日は良く晴れていて、春の暖かい陽射しが心地良い。猫さんが背中に乗っているというのにルカは動じず、ゆらゆらと首を左右に動かしている。
背中の猫さんが気になるのか、ルカは時折首を後ろに向けて唇を器用に反らせて気を引こうとしていた。猫さんはルカの奇行を全く気にせず、香箱座りでくわっと大きな欠伸をする。ジアは兄と猫さんを気にする様子はなく、陽の光を浴びて尻尾をご機嫌に揺らしていた。
『彼がお猫さまの腹に宿る仔たちの父親のようですよ』
『厩舎の居心地が良いのか頻繁にこられておりますね。ルカの背が気に入ったようでして、ぴょんと跳ねて背中に乗ったまま動きません』
エルとジョセはルカを見ながらふふふと笑う。状況に動じておらず、猫さんの自由気ままな来訪を受け入れていた。ルカも遊んで欲しいとアピールしているので、猫さんとエル一家の関係性は良好そうだ。
しかしルカの背に乗る猫さんが、お猫さまの仔たちの父親だとは。前回の仔たちの父親は分からないけれど、今回は父親が判明したのは幸運なのだろうか。でも、ルカの背にいる猫さんに『責任を取れ』と伝えても、なんのことだと言われそうである。
「屋敷に住むつもりなのかな? お猫さまとの関係はどうなっているんだろう……」
お猫さまと猫さんの関係はワンナイトなのだろうか。猫は交尾後に排卵するため、妊娠確率が高いと言われているらしい。野良ならば子孫を残すのが第一の宿命だろうし、お猫さまと猫さんを責めるつもりはないのだが、直ぐに新たな仔が増えても困る。
多頭飼育崩壊の現場だって、最初は避妊と去勢をしていない猫二匹から始まり、年月を経て百匹以上になり世話をできなくなった……なんて話を聞いたことがある。屋敷に居着くのであれば、野生は少々抑えて頂かなければならない。
『話を聞いてみますか?』
「聞けるの? 人間が近づいて逃げないかな?」
エルが私の心配を察してくれたようで、猫さんと話の間に入ってくれるようである。クロにも通訳をお願いできるだろうし、少し話しておくべきか。でも野良なら人間に対して警戒心が強いのではなかろうかと心配になってきた。
「ナイ。私、人間じゃない」
ヴァルトルーデさまが少し自慢気に伝えてくれた。ジルケさまは『そうだけどよお……』と頭を抱え、ジークとリンはなにも言わず、クレイグとサフィールはヴァルトルーデさまの発言に驚いている。
「女神さまですからね。ヴァルトルーデさまの圧が怖くて、猫さんが逃げるかもしれませんよ?」
「……ナイは正直過ぎる」
確かにヴァルトルーデさまは人間ではなく、神さまである。でも神さまならば猫さんは驚いて逃げて行くのではと心配になってくる。猫さんが逃げてしまい、今後屋敷に寄り付かなくなっても困るのだと説明をすれば、少しヴァルトルーデさまは納得してくれた。
とりあえずはエルとクロに任せて猫さんと話をして頂こう。人間の出番は彼らのあとからでも構うまい。ヴァナル一家には狼は猫さんにとって捕食者となるから、私の影の中に入っていて欲しいとお願いしておく。ヴァナルと雪さんたちは直ぐに了承してくれたが、毛玉ちゃんたち三頭は少し詰まらなさそうにしていた。でもヴァナルと雪さんたちの説明で納得して影の中に入ってくれる。いつか猫さんと彼女たち三頭がじゃれ合っている日がくるかもしれないと、エルとクロの後ろ姿を見つめるのだった。
◇
お猫さまの旦那さんらしき方が侯爵邸にやってきている。
猫なので、勝手気ままに入ってきただけかもしれないが。猫さんはルカの背の上でまったり過ごしているけれど、背中の上の生き物と遊びたい黒天馬さまはそろそろ限界が近いようである。
ヴァルトルーデさまとジルケさまの下には緑茶と羊羹が侍女の方によって差し出され、さっそくお茶とお菓子に手を付けている。ジークとリンとクレイグとサフィールも状況を見守りつつ、お茶に手を伸ばして嚥下していた。私はお茶とお菓子はあとで大丈夫と、猫さんの様子を見守ることにする。
ルカがそろそろ猫さんと遊べないことに対して嘶きを上げそうなので、話を聞きに行ったクロとエルに期待しよう。彼らに驚いて逃げなければ良いけれどと私が心配していれば、隣で見守ってくれているジョセが顔を寄せてくる。
『大丈夫ではないでしょうか。猫に警戒心はありませんし、お猫さまの相手を務められる方ですから』
「確かにお猫さまの相手は大変そうだね」
ジョセの声に私は納得してしまう。自由気ままなお猫さまの相手を務めなきゃならない雄は大変だろう。猫さんと接触したクロとエルに目を細めながら私はジョセの顔を撫でる。
顔を撫でられた彼女は目を細めて『そうは言っておりませんが……』と小声で呟いていた。当のご本人ならぬ、当のご本猫さまは屋敷の部屋でくつろいでいるはず。出産が近いため、行動範囲が狭くなっていた。
「ジョセ、新たな天馬さまは見つかりそう?」
『方々を飛んでおりますが、なかなか難しいですね。でもアリアさんのご実家に天馬が居着いてくれたのは良いことです。仔も産まれておりますしね』
フライハイト男爵領には魔力を多く備えた木が生えている。いずれは聖樹となるかもしれないと噂されているためか天馬の番が居着いたのだ。森の奥深くに隠れて生活していたけれど、やはり魔力や魔素が高い場所で仔を産みたいと移住を決意したとか。エルとジョセとも仲良しで、仔が大きくなれば他の天馬さまを探しに行こうと約束しているそうだ。
「そう簡単にはいかないか」
『気長にいきます。天馬が急に増えても困ることもありましょう』
天馬さまが増えて欲しいと願うものの、そう簡単に物事は進まないようである。長命種だしエルもジョセものんびり探すらしい。まあ、エルとジョセの間には三頭目の仔が産まれそうだし、今以上に天馬さまの数が減る心配はなさそうだった。
『おや、こちらにきますね』
「話が終わったみたいだね」
ジョセの声に私が前を向けば、クロとエルとルカがこちらへとやってくる。猫さんは相変わらずルカの背中の上に香箱座りで乗ったまま動いていない。なんだかお猫さまの旦那さまっぽいなあと感心していると、私の前にルカが顔を差し出す。
どうやら撫でて欲しいようで、彼は小さく鼻を鳴らしていた。私がルカの顔に手を伸ばして撫でていると、クロは定位置である私の肩の上に乗った。
『話が終わったよ~猫は居心地が良いから厩に遊びにきているって。エルたちは無暗に猫を襲わないから安全な場所だって分かっちゃったみたいだねえ』
クロの声になるほどと私は頷く。猫さんは冬の間に暖かい場所を探し求めて、王都をフラフラしていたら侯爵邸に辿り着いたらしい。人気が少なく安全な場所だと住み着けば、少し前にエルたちが現れた。突然の出来事に驚いたものの彼らが猫さんを襲うことはなく、共存できると判断したようだった。猫さんは野良でありながら人間から餌を貰っているようである。
お貴族さまのお屋敷の使用人さんに『なー』と鳴いて足元に擦り付けば、簡単に餌を貰えると自慢そうにクロとエルに話したそうだ。この辺りもお猫さまと似ているなと感心しつつ、今まで猫さんの存在に気付かなかったことに反省する次第だ。
「そうだったんだ。いつの間に」
『聖女さまが厩にくる機会は少ないですからね』
私が感心しながら呟けばエルが遠慮そうに声を上げた。確かに子爵邸の時よりも厩に近寄ることが減っている。まあ、エル一家も屋敷の生活に慣れて心配は要らないと分かっているからだけれども。ルカが私の顔に顔を寄せてぐりぐりと擦り付けている。エルとジョセ曰く『もう少し外で相手をして欲しいと』『遊びたい盛りなのでしょうねえ』とルカの気持ちを代弁してくれた。
「ジアは大人しいけれど不満はないの?」
ジアはルカと違って随分と大人しい。天真爛漫なルカと冷静沈着なジアと言っても良いのではなかろうか。それ故にジアから不満や希望を聞いたことがない。なにか環境改善や希望はないのだろうかとエルとジョセに聞いてみた。
『ルカが騒がしいと呆れているだけです』
『気持ちを表に出すのが苦手なようでして。聖女さまにもっと触れて欲しいようですよ』
エルとジョセに話を聞いてよかったと私は一つ頷き、静かに佇んでいるジアへと視線を向ける。
「遠慮していると損しちゃうよ、ジア」
孤児院でお菓子に群がる中に交じれない子供に見えなくもない。私が苦笑いをしていると、ジアがこちらに寄ってきて顔というより首を差し出してきた。
どうやらジアは顔より首を撫でられる方が気持ちが良いらしい。頭の中にメモをして、私は指を立ててジアの首を掻いていればルカがぬっと顔を差しこんでくる。気持ちが良くて目を細めていたジアがルカに無言で口を開け『余計なことを!』と怒っていた。大人しい女の子を怒らせると怖いよねえとしみじみしていると、ルカの大きな動きに耐えられなかった猫さんがひょいとルカの背中から飛び降りた。
「って、猫さんの話!」
本題から逸れていることに気付いて声を上げる。私の背後で『ナイは忙しねえなあ』『ナイだからねえ』とクレイグとサフィールの声が聞こえ、ヴァルトルーデさまとジルケさまが『昔から?』『ナイだからなあ』と彼らに声を掛けていた。
私の背後のことは放置して良いとして、目の前に前脚を揃えて座る猫さんの下へと私はしゃがみ込む。危ない状況になるかもしれないと、ジークとリンがいつの間にか後ろに控えていた。
「こんにちは。お猫さまの旦那さんで良いですか?」
私が猫さんの下にしゃがみ込んでも彼は逃げなかった。クロが猫さんの隣に飛び降りて通訳を試みてくれる。
『猫に番の概念はないから微妙な所だって~猫は気ままに仔を成すみたいだねえ』
クロの言葉に猫さんが尻尾を何度か左右に揺らす。どうやらクロの通訳の内容に間違えはないようだ。
「侯爵邸の厩で過ごしておられますが、これから先もこの場所を活動拠点になされるのでしょうか?」
『そうするつもりだって。エルたちが優しいから、場所を間借りしたいみたいだよ』
ということはこれから先、猫さんと会う機会も増えそうである。ということはお猫さまと猫さんが邂逅する機会も増えるのではなかろうか。一先ず、厩の先住に大丈夫か聞いてみなければ。
「そうなのですね。エルたちはお猫さまと一緒に過ごすことに問題ない?」
『はい。猫も大人しいですから。なにも問題はありませんよ』
『ルカの遊び相手を務めて欲しいくらいでしょうか。そろそろ臍を曲げそうです』
猫さんは厩の中で静かに過ごしているそうだ。猫さんに興味津々なルカは遊んで欲しいようである。もしかして猫さんがルカの背に乗っていたのは、猫さんなりの『遊び』なのかもしれない。ジョセの言葉で関係改善が図れると良いのだが果たしてルカと猫さんは仲良く遊ぶことができるのか。とりあえず、先程気になったことを猫さんに聞かねばと私は口を開く。
「お猫さまとの関係は続きますか?」
『んー……他に良い雌がいればそっちに靡くって』
クロが少し考えてから通訳をしてくれた。もしかして猫さんはもっと直接的な言葉で語っていたのだろうか。番を持たない猫さんたちの世界も大変そうだが、私より驚いている方々がいた。
『番ではない生き物はこのような考えなのですねえ』
『否定はしませんが、驚きです』
こてんと首を傾げるエルと目を細めて驚いているジョセがいる。天馬さまは番を見つけると一生を添い遂げるそうだから、猫さんの世界は特殊に感じてしまうようである。
だが、否定をしないのは良いことで、理解までお願いするのは厚かましいことだろうと私は苦笑いを浮かべた。猫さんは話は終わったと言わんばかりに立ち上がり、とことこと東屋にあるテーブルの方へと歩を進めた。なにをするのかとじっと見ていれば猫さんは二柱さまの下へと行き、また前脚を揃えて顔を下げる。
「よろしくね」
「おう。あんまナイに迷惑を掛けんじゃねえぞ」
ヴァルトルーデさまが椅子の座面を指し、ジルケさまが得意げな顔をして言葉を言い放つ。有難いのだが、なんだか一番美味しい所を取られてしまった気がする。
まあ良いかと私は席に戻ると、紅茶が適温まで下がっていた。ふうと息を吐いていると、猫さんがヴァルトルーデさまの横にある椅子の座面に飛び乗る。そうして伸びてきたヴァルトルーデさまの手を受け入れて、気持ち良さそうな顔をして撫でられていた。ふうと息を吐いて私は紅茶を嚥下し、テーブルの上にあるお菓子に手を伸ばす。ジークとリンもなにもなかったと安堵しながら、自分の席へと腰を下ろしていた。
「また猫とかが勝手に入ってこられるのは問題かも?」
猫の次は犬とかにならないよねと、一緒に紅茶を嗜んでいる幼馴染組に顔を向ける。
「猫や鳥ならまだ良いけどよ、変な人間がきたときは危ないからな。相手の方が、のような気もしなくもねえが」
「でも、許可なく入ってくる方が悪いからね」
クレイグが片眉を上げ、サフィールが正論を放つ。確かにアストライアー侯爵邸に無断で入る人がいれば、入ってきた方が悲惨な目に合いそうである。ただ、魔力が少ない方たちは自衛手段がないので、やはり警備面はきちんと考えた方が良いのだろう。二柱さまも滞在しているし、子爵邸と同じように結界を張って貰うのもアリかもしれない。
「また副団長さまと猫背さんとダリア姉さんとアイリス姉さんにお願いして、障壁を張って貰おうかな。魔力は私が維持すれば良いんだし」
彼らにお願いすれば嬉々として協力してくれるだろう。アルバトロス上層部に相談すれば、女神さま方がいらっしゃるのだから早くしなさいと言われそうである。
「だな。なにもしないより良いだろ」
クレイグが今度は逆の眉を上げて賛成してくれた。
「お屋敷が広くなっているから、ナイの負担にならないの? お城の魔力補填も続けているよね。大丈夫?」
サフィールは私の魔力量で維持できるのか心配そうにしているけれど……全く問題はない。
「大丈夫だよ、魔力量は増えてるから問題ないし」
「ナイ、ナイ」
私の隣でヴァルトルーデさまが声を掛けてきた。どうしましたと私が問えば彼女は期待の眼差しを向けている。猫さんはいつの間にかヴァルトルーデさまの膝上に移動していた。
「結界の構築、手伝う。お仕事だ!」
嬉しそうな顔で私に伝えるヴァルトルーデさまのお願いを断れる術はなく。副団長さまと猫背さんは女神さまと一緒に結界を張れるとなれば、凄く張り切るだろう。ダリア姉さんとアイリス姉さんも私の為ならと、張り切ってくれるはず。
そう遠くない未来にとんでもない結界が誕生しそうだなあと、晴れ渡っているアルバトロス王都の空を見上げるのだった。