魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
副団長さまと猫背さんはその内戻ってくるだろうという判断を皆さまが下し、放置が決定された。そして、島から小型の竜の方たちが私たちをお迎えにきてくれたのだが、不満を感じている方たちがいた。
「気付かれていない」
「気付かれなかったな。それはそれで……」
ヴァルトルーデさまとジルケさまは小型の竜の方たちが女神さまであると気付いてくれなかったことに不満があるようだ。竜の方たちは今、クロと鼻先をちょこんと当てて挨拶を交わしている。
クロが終わればアズとネルの下へ行き鼻先を合わせ、ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたち三頭とジャドさん一家とも挨拶を交わしていた。女神さまがその光景を恨めしそう――特にヴァルトルーデさま――に見ているのだが、小型の竜の方たちは気付いていない。私はそろそろ二柱さまにフォローを入れようとすれば、アリアさまとロザリンデさまがヴァルトルーデさまとジルケさまの下へと近づいて行く。
「きっとヴァルトルーデさまとジルケさまの力の制御がお上手で、小さな竜の仔たちが分からなかったのではないでしょうか!」
「子爵邸の皆さまもヴァルトルーデさまとジルケさまに慣れていらっしゃいますもの」
アリアさまとロザリンデさまが綺麗に笑って微妙な顔を浮かべている二柱さまへと語り掛ける。ヴァルトルーデさまとジルケさまは小型の竜の皆さまから彼女たちへと視線を移した。
「それだと嬉しい」
「姉御、力の制御が上手くなったというよりは魔術具で抑え付けてるだけじゃねえかよ。あ、いや、なんでもねえ」
小型といえど竜は竜である。多分、魔力量が多いから小型の竜の方たちは人間よりも神力による圧を感じ難いはずである。まあヴァルトルーデさまが納得しているし、アリアさまとロザリンデさまの説明を否定しなくても良いか。
もし王都の街に二柱さまが赴けば、平民の皆さまたちは腰を抜かすはずだ。その時になってまた力の制御を考えれば良いだろう。そうこうしていると、ふと魔力の流れを感じる。
『そろそろ下降に入ります。ご注意ください』
魔力の流れは私たちを乗せてくれている大型竜の方のものだった。気付けば眼下に南の島が大きく見えている。小型の竜の方たちが『早くー!』『降りろ~!』『待ってるー!』とくるくる回りながら声を上げると、毛玉ちゃんたちも『はやきゅー!』『おりりょー!』『まっちょるー!』と小型の竜の方たちを真似て走り回っていた。可愛いなとみんなで目を細めていると耐えられない方がいた。
「ぐはっ!」
高位貴族のご令嬢らしからぬ声を上げた方は背を反らしながら鼻血が出そうなのを耐えている。周りの皆さまはいつものことかと慣れており、放っておけば直ぐに通常モードになると分かっているため見て見ぬ振りをしていた。だが、我慢ならない方が一人だけいらっしゃる。
「いい加減、セレスティアの大袈裟な反応はどうにかならねえのかよ……恥ずかしいんだが」
彼女の近くでマルクスさまが声を上げ、ソフィーアさまが額を押さえ、ギド殿下が『南無』と言いたげにリーム王国教会の印を切り、他の皆さまが『あ』という顔になったと同時に、正気に戻ったセレスティアさまの右腕が消えた。数瞬後に『ぼすっ!』という音が響いて、マルクスさまがお腹の辺りを押さえながら膝から崩れ落ちる。
「――はっ!」
彼が崩れ落ちると止まっていた息を再開させて、一気に空気を吐き出していた。なにが起こったのかと私が目を丸くしていると、リンが私の顔を覗き込む。
「右正拳突きが鳩尾へ綺麗に入った」
自業自得だと言いたげに彼女が説明をくれた。私はセレスティアさまの右腕がどう動いたのかさっぱり分からなかったが、予備動作なしで渾身の右ストレートをマルクスさまの鳩尾に打ち込んだようである。
セレスティアさまの豪速の右ストレートも凄いが、彼女の右ストレートを頂いたマルクスさまが意識を保って耐えているのも凄い。一番は余計なことを口にしなければ良いのだけれど、マルクスさまだし。
夫婦ド突き漫才に慣れていないウルスラさまが目を白黒させてマルクスさまに話しかけようとするのだが、フィーネさまとアリサさまに『彼はタフだから大丈夫。気にしなくて良いわ』と止められていた。
「今のは彼が悪い気がする」
「ま、死んでねえしな。良いんじゃねえか」
二柱さまがポツリと呟いた。どうやらセレスティアさまとマルクスさまの夫婦ド突き漫才は女神さま公認となったようである。愉快なやり取りを見ていれば、いつもの砂浜へと降り立っていた。クルクル回りながら早くと急かしていた小型の竜の方と毛玉ちゃんたち三頭がぴゅーと駆けだして、ぴょんと跳ねて浜辺に着地する。結構な高さがあるけれど、物ともしない健脚振りに羨ましいと感心していた。
そうして毛玉ちゃんたちはお迎えにきている大蛇さま、ガンドさまの前で立ち止まり、伏せをして頭を下げて挨拶を交わしている。ガンドさまも毛玉ちゃんたちに顔を近づけてなにやら言葉を交わしているようだ。小型の竜の方たちは毛玉ちゃんたちに早く遊ぼうと急かしているようで、ガンドさまとの挨拶を終えるなり彼らは一緒に森の奥へと消えて行く。
私たちも大型竜の方の背から降り、ガンドさまの前に立つ。彼の隣にはダークエルフのお姉さんも一緒だった。前回は一回り大きくなっていたガンドさまだけれど、今回は一年前と大きさはほぼ変わらずだ。
良かったと私は安堵しながら一緒に訪れた皆さまとヴァナルと雪さんたちとジャドさん一家とガンドさまの前に並び、ディアンさまとベリルさまダリア姉さんとアイリス姉さんは、ダークエルフのお姉さんの横に並ぶ。
「ガンドさま、今年も二週間、お邪魔させて頂きます。騒がしくなりますが宜しくお願い致します」
『ナイ、久しぶりだ! ポポカたちが仔を産んで孵ったと聞いているが、本当に増えたのだな! 良いことだ! ――……話には聞いていたし、嘘を吐く必要もないと考えていたのだが……女神さま方、ようこそ島へ。私は島の主を務めている者でございます。名をガンドと言い、ナイから賜りました』
私とガンドさまが言葉を交わしていると、彼が身体を後ろに下げて、もたげていた顔を下げ砂浜へ付ける。そうしてヴァルトルーデさまとジルケさまへ敬意を示していた。
ガンドさまが丁寧な喋り方をしていることに驚くも、女神さま相手だから仕方ないのか。北と東の女神さまである、ナターリエさまとエーリカさまもあとから合流する手筈となっている。初めて赴く場所なのに位置が分かるのかと問えば、どうやらヴァルトルーデさまとジルケさまの気配と私の漏れている魔力を目印にすると仰っていた。なんだか女神さまと同列に並べられて複雑ではあるが、迷うよりは良いだろうと深く考えないことにしている。
「ナイに誘われたんだ。一緒にお邪魔するね」
「おう。二週間、よろしくなー」
ヴァルトルーデさまとジルケさまはガンドさまに『気を使わなくて良い』と伝えたあとそれぞれ名乗っていた。仮名であることを伝えていないようなので、ガンドさまには女神さま方の名は一時のものだと伝えておかなければ。
ガンドさまは砂浜に付けた顔を上げていつもの体勢に戻ると、私が腕の中に抱えていたクマのぬいぐるみが気配を発し始めた。グイーさまも一日か二日分身体を寄越し、他の期間はぬいぐるみを通して楽しむと仰っていた。既に興味があるようで、島に辿り着いた瞬間から休暇を楽しむようである。
『ぬう。ぬいぐるみの姿だと見ているだけが精一杯だなあ……世知辛いのう』
クマのぬいぐるみから少し情けなさそうな声が聞こえてきた。なんとなくクマのぬいぐるみの表情が陰ったのは、グイーさまの気持ちを表しているのだろうか。クマのぬいぐるみが喋ったことにより、ガンドさまがぬいぐるみに顔を近づけて顔を半分捻って舌をちょろちょろと出して不思議そうに見ている。
『ナイ。人形から声が聞こえたぞ?』
すんすんと匂いを嗅いでいるのか、ガンドさまは更に顔を近づけた。
「あ、はい。お伝えしていた通り、グイーさまの声です」
『!?!?!?!? ――大変失礼を。この島の主を務めております蛇でございます。ナイから名を賜り、今はガンドと名乗っております』
私がぬいぐるみから聞こえた声はグイーさまだと伝えれば、ガンドさまはぴゅっと身体を後退りしてまた顔を砂浜に付けていた。心なしか身体が小さくなっている気がする。
『そう緊張せずとも良いぞ。儂はグイーだ。匂いは人形の匂いしかしないはず。二週間、娘たちが世話になるし儂も楽しませて貰おう』
くくくと面白そうに笑うグイーさまにガンドさまはまだ砂浜に顔を付けたままだ。クマのぬいぐるみはユーリから借りてきたので、彼女の涎が付いているかもと下働きの方が丁寧に洗ってくれて陽干しをしている。
今ならば良い匂いしかしないし、涎の匂いや小父さん臭は微かなもののはずである。なぜだか凄く緊張しているガンドさまなので私はクマのぬいぐるみの腕を取り、ガンドさまに振ってみる。私の姿を見たガンドさまは青い顔をして『なにしとる!』と言いたげであるが、当のクマのぬいぐるみからは『ははは!』と面白そうな声しか響かない。
『常識はどこへ行ってしもうた?』
『ナイだからねえ』
ガンドさまが小声で呟くとクロが声を返している。私の所為ではなく、凄く軽い調子のグイーさまが神さまらしくないだけだ。ガンドさまへの挨拶は終えたし、次はダークエルフのお姉さんの方へと私は顔を向けた。
ダークエルフのお姉さん方には森の中へ遊びに行った際には護衛兼道案内を担ってくれている。彼女たちがいなければ森の中へ入るのは難しいだろうし、コテージの提供も彼女たちのお陰なのだ。食料をたくさん持ってきたのでバーベキューをダークエルフの皆さまと楽しめると良いのだが。ダークエルフのお姉さんと視線が合えば静かに礼を執る。
「今年も宜しくお願い致します」
「いえ。皆さまがこられるのを楽しみにしておりました。二週間、もてなしはできませんが島をご満喫ください。女神さま方、創星神さまもお楽しみ頂ければ幸いです」
私と挨拶を終えたダークエルフのお姉さんがヴァルトルーデさまとジルケさまとも挨拶を交わし、グイーさまとも挨拶を終える。他の皆さま方も各々と挨拶をして、二週間お世話になることを告げていた。
荷物を降ろしてコテージに運び込み時間が少し空いてしまうのだが、もう直ぐご飯の時間だし長時間移動を済ませたばかりだからゆっくり過ごそうとなる。明日からどんなことが起こるかとみんなと語り合いながら、食事の席に着くのだった。
◇
副団長さまと猫背さんが遅れて島に辿り着き、ガンドさまと挨拶を交わせば夕食の時間となっていた。そして。
――南の島生活二日目。
亜人連合国のダークエルフさんたちの手により、南の島の快適度は上がっている。迫害され島に定住した魚人の皆さま方の衣食住も揃っていて、問題なく生活できているそうだ。
偶に彼らの様子を見に、海竜さま、エーギルさまが顔を出しているそうだ。海の中も中で数多の魚人の種があるそうで、弱い方は強い方に負けてしまい住処を奪われ逃げるしかない。南の島に居着いた魚人の皆さまは亜人連合国の庇護下に入り護られるとのこと。タダで守られるわけにはいかないので、お魚さんをダークエルフの皆さまに提供することになっているとか。持ちつ持たれつの関係になっているならば、大丈夫だろうと私はコテージから外へと出る。
南の島は相変わらず蒸し暑いのだが朝は割と涼しい。ふうと息を吐けば、私の肩の上でクロが『気持ちの良い朝だねえ』と呟いている。私も『本当に』と返せば、クロはご機嫌そうに顔を顔に擦り付けてきた。
朝ご飯はアルバトロス王国から持ち込んだパンを料理人の方が温め直してくれるとのこと。蜂蜜で食べるのもよし、マーガリンを塗って食べるのもよし、ハムとチーズを挟んでもよし。なにを選んでも美味しい朝食になりそうだ。
ふふふと笑いながら今日の朝食を想像していると、木と木がぶつかり合う音が耳に届く。カン、カン、カン、と小気味良いテンポで鳴ったり、時折間が空いたりして不規則なもの。ああ、と私が前を向いて口を開く。
「手合わせしてる音かな。ジークとギド殿下とマルクスさまだろうね」
おそらく騎士組が身体が鈍らないようにと早起きして手合わせをしているのだろう。木剣と木剣がぶつかり合う音はまだ響いており暫く続きそうである。
『見に行く?』
「邪魔しちゃ悪いから、ハンモックでお喋りしながら時間潰そうか」
クロがこてんと首を傾げながら私に問うが、見に行ってもできることはないし大人しくコテージの側で過ごそうと木と木の間でぶら下がっているハンモックに視線を向けた。クロは私の答えに目を細めてじっとハンモックを見ている。
『……ナイ、一人で乗れるの?』
「乗れるよ! 偶に落ちるけど!」
クロの失礼な物言いに私は反論するけれど、一人で乗ると何故かハンモックがいつもくるりと一回転してしまう。どうにかこうにかハンモックに乗って、見ていた方が苦笑いを浮かべているまでがセットになっているのだ。
どうしてか分からないけれど、まるでハンモックに意思が宿っているようである。あ、もしかすると精霊さんの類いだろうか。悪戯好きの精霊さんならば、姿を現さずハンモックに仕掛けをするのはきっと簡単だ。私が鈍臭いわけではないことがなんとなく分かって少し安堵していると、コテージで着替えをしていたリンが姿を現した。
「おはよう、ナイ」
「リン、おはよう。もうすぐ朝ご飯のはずだよ。楽しみだね」
リンが私の横に立って小さく笑う。何気ない会話だし、いつもと同じような内容の会話だけれど私たちの日常である。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちは島を探検してくると言い残して出掛けているし、ロゼさんも『ハインツと遊んでくる!』と言って留守である。少し寂しい気もするが、そのうち女性陣が起きてくる。そうなれば一瞬にして賑やかになる筈と私は目を細めた。
「うん」
「そういえばリンはジークたちに交ざらなくて良いの?」
いまだに木剣の音が小気味よく鳴り響いているのだが、リンは彼らと一緒に鍛錬を積まなくて良いのだろうか。一日怠けると感覚が鈍る、なんて耳にするのに。
「ナイと一緒にいる」
リンが即答してくれた。本人がそういうならば問題ないだろうと、私はハンモックを指差してリンに行こうと促す。微かに吹いている風に揺られるハンモックは私のことを待ち構えているようである。
私の意思を掬い取ってくれたリンが片眉を上げて心配そうな顔をしているものの、死にはしないので大丈夫だと笑い二人並んでハンモックを目指す。私はリンに手出し無用だと伝えると、クロが私の肩からリンの肩へと飛び移り心配そうな視線を向けている。転げ落ちてもその時はその時だと、私はハンモックに手を掛けた。そして。
「よい、しょ! ――っ!」
上半身をハンモックの上に乗せ下半身もハンモックの中へ入れ込もうとすれば、くるりとハンモックがひっくり返り私の身体が投げ出される。一瞬、私の視界にリンの顔が映るのだが『言わんこっちゃない』みたいな表情だった。
「痛い。どうして毎回、落ちるんだろう」
「ナイ、大丈夫?」
リンが地面に大の字に寝転がる私の側に寄り身体を起こしてくれる。背中に着いた土を払ってくれていると、ヴァルトルーデさまとジルケさまがコテージの外へと出てきた。丁度私がハンモックから落ちるシーンを目にしていたようで、目を丸く見開いたあと私が地面に転がっているのを見てこちらへと足を向ける。
「盛大に落ちた」
「なにやってんだ、ナイ。鈍臭せえな」
リンの後ろに立って少し驚いているヴァルトルーデさまと呆れているジルケさまが声を上げる。私はリンの手を借りながら立ち上がり、二柱さまにおはようございますと声を掛けた。
「ハンモックに乗りたいのですが、高い確率で一度目は落ちるんですよね……」
私の言葉を聞いた二柱さまは周囲をきょろきょろと見渡す。なにをしているのだろうと不思議に感じていると、ふいに彼女たちが口を開く。
「この辺りに妖精はいないから……」
「ナイが鈍臭いだけじゃねえか」
衝撃の事実が発覚してしまった。どうやら私には運動神経というものが足りないようである。割とショックで硬直していればリンが大丈夫と問い掛けてくれた。私はあははと乾いた笑いを漏らせば、侍女の方が朝食の用意が整いましたと声が掛かるのだった。
◇
アストライアー侯爵閣下にご招待され西大陸と東大陸の間にある島に辿り着き、一夜が明けました。昨夜は移動で疲れているだろうと夜ご飯を簡単に済ませて、それぞれの部屋に案内されて眠りに就きました。
部屋は二から三名ごとに割り当てられているようで、私は同郷であるフィーネさまとアリサさまと同じ部屋となっています。お二人を起こさないようにとベッドから降りて、今日の着替えを持って部屋の外へと出ようとした時でした。
「ウルスラ、アリサ、おはよう」
「おはよう、フィーネさま、ウルスラ」
むくりとお二人がそれぞれのベッドから身体を起こして、寝ぼけ眼で私を見ておられます。いつも確りとしているお二人ですが、寝起きは年齢相応とでも言いましょうか少し幼い雰囲気を醸し出されておりました。私は服を持ったままお二人に頭を下げてから口を開きます。
「おはようございます。フィーネさま、アリサさま」
ふふふと私が笑みを浮かべるとフィーネさまが乱れた銀色の髪を整えながらベッドの端に腰を掛けると、アリサさまがその様子に見惚れておりました。私もフィーネさまの美しさに惚れ惚れしますが、やはりヴァルトルーデさまには敵わないなと失礼なことを考えてしまいました。女神さまと人を比べるなんておこがましいことだと頭を振って妙な考えを捨て去ります。
「着替えて準備を済ませたら、みんなと合流しましょう。侯爵家の料理人の方が朝食の用意をなさってくれているはずよ」
フィーネさまがベッドから立ち上がればアリサさまも立ち上がります。私はお二人を待っていようと部屋の扉の前で立ち止まったままでした。
「侍女を呼びましょうか」
フィーネさまが声を上げ呼び鈴を鳴らせば、聖王国から派遣されていた侍女の方が部屋を訪れ私たちの着替えの介添えをなさってくださいます。未だに慣れませんが、フィーネさまもアリサさまも慣れていないとか。
お二人とも貴族家出身の方ですが、不思議なことに誰かに手伝って貰うことを苦手としているようでした。入浴に関しても貴族であれば介添えが付いて全てを任せるものですが……お二人は例外のようです。こうして一緒に過ごさなければ分からなかったことですし、本当にフィーネさまとアリサさまが優しい方で良かったと私は笑みを浮かべます。
「ウルスラ。これから二週間、楽しみましょう」
「聖王国だと仕事に追われているから、偶には息抜きしないと。招待されている方は貴族出身の方が殆どだけど、階級なんて気にしない方ばかりだよ。だからウルスラも二週間、貴族的な立場とか振る舞いとか考えなくて良いからね」
南の島にご招待されている方は貴族の中でも洗練されている方ばかりです。私のような者が交ざって良いのか不安でしたが、挨拶の際に皆さま快く接してくださいました。
「はい! でも……」
私の言葉に『でも?』とお二人は揃って首を傾げます。ヴァルトルーデさまとジルケさまがみんなで雑魚寝をしようと提案なさっていたので、島に滞在している十四日の間で同じ床に就くことになりそうでした。私の心の臓が今から保つか心配です。
お二人に雑魚寝のことを伝えるとフィーネさまが『覚悟を決めましょう』と仰り、アリサさまが『お茶会の時点で身に余るけれど、私的な時間だしね』と零しておられます。
確かに今は私的な時間で公務ではありませんが、聖王国に戻って噂が広まれば私たち三人は凄く大変なことになるのではないでしょうか。せっかく教皇猊下の地位を盤石にしたのに、今回のことで立場が逆転してしまうのではという心配があります。とはいえ、女神さま方と一緒の部屋で睡眠をとれることは、教会信徒にとって奇跡のようなことですが。
「この島ではいろいろな物が発見されたり、魚人の方が助けを求めてきたりするから、きっと退屈はしないわ。納豆も出されるみたいだし……――」
フィーネさまがナットウの所で凄く良い笑顔になりました。納豆という食べ物は――食べ物と認めて良いのでしょうか――フィーネさまの好物であり、偶にしか食事に出されないため、今回の島行きでフィーネさまが一番楽しみにしていることなのです。フィーネさまのナットウの話の最中に扉の向こうからノックの音が響けば、アリサさまがフィーネさまと私の顔を見て確認を取り『どうぞ』と声を出しました。
「――皆さま、ご朝食の用意ができたそうです」
「はい。向かいますね」
侍女の方が朝食の用意が整ったと教えてくださり、フィーネさまが食堂へ向かうと返事をなさいました。そうして私たちは部屋を出て、廊下を歩き談話室に向かうと、ソフィーアさまとセレスティアさま、アリアさまとロザリンデさまが待っていてくださいました。
アストライアー侯爵閣下とジークリンデさまとヴァルトルーデさまとジルケさまは外で待っているとのことです。談話室で四人と合流して、外で侯爵閣下とジークリンデさまとヴァルトルーデさまとジルケさまとも合流して食堂へと向かいました。
食堂では既に男性陣が揃っていて、各々席に腰を下ろされております。凄く豪華な面々ですが、やはり二柱の女神さまが雰囲気が飛び抜けていらっしゃいました。
そうしてフィーネさまが席に着き今日は納豆が出されないと知れば、凄く落ち込んでしまいます。侯爵閣下とベナンター準男爵さまがフィーネさまに声を掛け『そのうち提供されます』『今少しの辛抱ですよ』と慰めておりました。ヴァルトルーデさまとジルケさまはナットウを知らないようで不思議そうな顔で首を傾げます。
「ナットウ?」
「ナットウってなんだ?」
二柱さまはナットウをお気に召すのでしょうか。あの匂いのキツイ不思議な食べ物を私は想像してしまい、眉間に皺が寄っているのを自覚するのでした。