魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0622:突然の登場。

 朝食で納豆が提供されないと知ったフィーネさまが凄く落ち込んでいたので、私は食後に料理人の方に頼んで明日の朝ご飯に納豆を提供して頂くことを取り付けた。納豆の美味しさは理解できないものだけれど、味覚は人それぞれである。落ち込んでいるフィーネさまを見ていると出して欲しいとお願いしたくなるのは当然で。そんなこんなでコテージに戻り、談話室で皆さまとなにをしようかと話し込んでいる所だ。

 

 「俺たちは森の中を探索しようかと」

 

 ギド殿下が男性陣は森の中に入って、なにかないか探してくると告げる。去年だけでは探索できない場所があったので、今年は違う場所をウロウロするようだ。副団長さまと猫背さんは既に旅立っており別行動となっていた。

 やはり魔術師の方は欲望に忠実だよなあと遠い目になっていると、ソフィーアさまとセレスティアさまが顔を見合わせた。

 

 「私たちはコテージで本を読む。たまにはゆっくり過ごすのも良いだろう」

 

 「島を探検するのも楽しいですが、日焼けをすると屋敷の者が悲鳴を上げますもの」

 

 お二人は持ち込んだ本を読むようである。ロゼさんに荷物を預けられるため、結構な本の量を持ち込んでいる。読みたい人は手に取っても構わないと仰ってくれているので、私もその内借りることになりそうだ。フィーネさまは朝から温泉に入りたいとのことで、アリサさまとウルスラさまと一緒に楽しむようで、アリアさまとロザリンデさまも彼女たちと一緒に行動することを決めていた。

 

 「森の中、探検する」

 

 「姉御だけで行かせると御せる奴がいねえな……ナイが行くなら、あたしは此処でゆっくり過ごすんだが」

 

 ヴァルトルーデさまは森の中を探検したいようである。ジルケさまは私の予定次第で行先を変えるようだ。さて、私はどうしたものかと考える。森の中へと私が踏み込めばなにかトラブルが起こる予感しかしない。

 そのため海で泳ごうとリンと昨日話していたのだが、海に出てもなにかしらトラブルに合いそうだ。現に去年は海竜であるエーギルさまを釣ってしまっていた。どう転んでもなにか起こるなとリンの方へ視線を向ければ『ナイが決めて』と無言で伝えてくれる。それならばと私は口を開いた。

 

 「話の腰を折って申し訳ないのですが、この島は女神さま方の誰が管轄になるのですか?」

 

 南の島は誰が管轄になるのか、少し気になっていたので丁度良いタイミングだと全く違う話を持ち出す。少々お行儀が悪いけれど、聞ける時に聞いておかなければ聞きそびれてしまいそうだ。他の皆さまも誰だろうという顔になって、ヴァルトルーデさまとジルケさまに視線を向けている。二柱さまは話題をガラリと変えたことを気にしておらず、ああと小さく声を上げる。

 

 「父さんだ」

 

 「親父殿だな」

 

 どうやら島の管轄はグイーさまのようだ。机の上に置いているクマのぬいぐるみ――ぬいぐるみの横には預かった竜の卵さん二個もある――に皆さまと私の視線が集まるのだが、沈黙を保っているので中身はないようである。寝ているかもしれないと私が目を細めると、キンと耳鳴りのような音が鳴り部屋が急に明るくなった。

 護衛の方たちが何事だと声を上げるけれど、ヴァルトルーデさまが『大丈夫』と彼らを諭し、ジルケさまが片手を頭の後ろに回して『ったく、もう少し考えてくれ』と少し呆れているようだ。部屋を明るくした光が二点に集約されれば人の形を取っている。なんとなく誰がきたのか分かったので、私も練ろうとしていた魔力を霧散させた。クロとアズとネルが喜んでいるのは気の所為だ。

 

 「四つの大陸のどこにも所属していませんもの」

 

 「ナイの魔力を寄越せとお父さまが要求できたのは、そのためですわ」

 

 ナターリエさまとエーリカさまが現れて凄いことを言い放った。確かに島が女神さまの誰かに属しているならば、私が魔力を放出した際は女神さま方の声が聞こえたはず。愚問だったと反省をしつつ、ナターリエさまとエーリカさまを迎え入れなければ。

 

 「ナターリエさま、エーリカさま、ようこそいらっしゃいました」

 

 私が礼を執れば、二柱さまは大仰な出迎えは必要ないと仰ってくれる。ただ二柱さまの登場に頭が追いついていない方が多数いるので、部屋の中へ急に姿を現すのは控えて頂きたいものである。お伝えできるタイミングがあれば良いのだがと悩んでいれば、ナターリエさまとエーリカさまが微かに微笑んだ。

 

 「お世話になるわ、お嬢ちゃん」

 

 「ええ。お酒の席になればお父さまも分身体でくると仰っていましたわ」

 

 二柱さまが返事をくれ、グイーさまの分身体もそのうちやってくると教えてくれた。テーブルの上に鎮座しているクマのぬいぐるみに私が視線を向けると、再度皆さまの視線が集まっている。

 

 「では、ぬいぐるみが反応しないのは……寝ておられます?」

 

 「ぐっすりと。なので、起こさず先にこさせて頂きました」

 

 ナターリエさまがふふふと笑い、エーリカさまも続けて口を開く。

 

 「お父さまですもの。お酒を嗜んだあとは睡魔が襲うらしいですわ。ああ、そうでした――」

 

 グイーさま拗ねないかなあと私が心配していると、二柱さまは島にくれば大蛇さまと亜人連合国の皆さまに挨拶をして欲しいという約束を先に済ませたいそうである。

 それならばと私は皆さまに断りを入れて、亜人連合国の皆さまがいるダークエルフの村へ行こうとなった。大蛇さまは私が魔力を放てば感知してくれるから、コテージから出て魔力をちょろっと放つつもりだ。

 

 「では、皆さま。お昼ご飯は各自で摂って頂き、夕食は食堂に集って頂きますようお願い致します」

 

 私の声で談話室に集まっていた皆さまが席から立ち上がる。ジークが私の方へとやってきて、なにか言いたそうな顔をしていた。どうしたのと私が首を傾げるとジークは口を開く。

 

 「俺も一緒に村へ行こう。ギド殿下とエーリヒたちとはあとで合流する」

 

 ジークは警備が少ないと感じているのか、一緒にきてくれると申し出てくれる。とはいえ彼はギド殿下たちと森の探索に赴くのだ。ジークなら大丈夫だと思うけれど、遅れて合流するのはしんどいはず。

 

 「リンがいるから大丈夫だよ。それに島なら変な人はいないし」

 

 「俺が気になるだけだ。構わないか?」

 

 私がリンに視線を向けると『兄さんは好きにすれば良い』という雰囲気を醸し出していた。ジークは心配性だなと苦笑いになってしまうものの、気を使ってくれているなら彼の気持ちを無下にする必要はない。

 

 「それなら、お願いします。あ、殿下方にきちんと伝えておいてね」

 

 一言断っておいた方が良いと私がギド殿下方へと視線を向けると、同行するクレイグとサフィールが『こっちは気にするな』という顔になっている。とはいえギド殿下に伝えなければ問題だろうと、ジークが足早に彼らへと赴いて経緯を伝えていた。

 

 「先に行っていて欲しいと伝えてきた」

 

 「じゃあ行こうか。女神さま方もよろしくお願い致します。リンもよろしくね」

 

 ジークが戻ってきたのでダークエルフさんたちの村へ行こうとなる。リンにも申し訳ないけれど、挨拶をしないわけにはいかない。

 

 「手間を掛けるわ、お嬢ちゃん」

 

 「時折、出自を隠したくなりますわね。まあ便利な時もありますが」

 

 ナターリエさまとエーリカさまがふうと息を吐く。確かに大変だけれど筋を通しておいた方があとあと行動し易くなるので挨拶は大事だろう。二柱さまも面倒だと言いつつ挨拶に向かってくれるのだから、私的には問題ない。

 

 「ナイ、私も行く」

 

 「あたしも行くぜ。突拍子もないこと言いかねねえし」

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまも同行してくれるようだ。村が大騒ぎになりそうだが仕方ないと私は諦める。先触れを出してから行こうとなるのだが、ウルスラさまが状況にぽかーんと口を開けている。フィーネさまとアリサさまとアリアさまとロザリンデさまは苦笑いを零しながら、大丈夫かとウルスラさまを取り囲んでいる。

 

 「驚かせてしまったようね。申し訳ないことをしたかしら」

 

 「ごめんなさいな。飛ぶ先の状況が分からなくて、ナイの近くを目指したもの」

 

 ナターリエさまとエーリカさまが固まったままのウルスラさまを見つめていると、ご本人がはっと意識を取り戻して状況を咀嚼し始めた。

 

 「も、申し訳ありません! 突然のことに驚いてしまって……!」

 

 「気にしないで」

 

 「わたくしたちも深く考えていなかったから」

 

 ウルスラさまががばりと頭を下げると、ナターリエさまとエーリカさまが苦笑いになる。ヴァルトルーデさまが『もう少し考えて』と目を細め、ジルケさまは『飛ぶ先は気にしてくれ』と伝えていた。

 次からは玄関先に転移することになりそうだと目を細めると、フィーネさま方はウルスラさまを連れて部屋を出て行く。温泉、楽しんでくださいと私が伝えるとフィーネさまが小さく手を振り、アリサさまとウルスラさまとアリアさまとロザリンデさまが頭を下げるのだった。

 

 「行きましょうか」

 

 私の声にジークとリンと四柱さまが頷いた。クロは『みんな、驚くねえ』と呑気に声を上げている。そうしてクマのぬいぐるみと竜の卵さん二個を私は抱えコテージの外に出る。私が魔力を少しだけ練って大蛇さまの住処となっている沼地の方へと放った。多分、これで伝わっただろうと今度はダークエルフさんたちの村へと歩いて行く。コテージから十分程度歩くだけなので、距離はそう遠くない。

 

 「北とは随分違う雰囲気ねえ」

 

 「雪に覆われているから、お姉さまには珍しいのですね」

 

 ナターリエさまとエーリカさまが森の中を歩きながら、周りを見て零した言葉だった。確かに北大陸と比べれば南の島の気候は全然違い、植生も変わってくる。自分の大陸以外に足を向ける機会は少ないようだから、感心するのも当然だろう。

 南の島を体験すると、北大陸で雪遊びをしたり温泉にゆっくり浸かりたいという気持ちが湧いてくる。でも北大陸に入るにはミズガルズ神聖大帝国の帝室に相談しなければならないので、もう少し気安く相談できる方がいれば……って、そうなるとフソウになるのか。冬にフソウに赴き、雪景色の中の温泉に入ってみるのも良さそうである。帝さまかナガノブさまに話を持ち掛けることになるけれど、相談するならフソウの皆さまの方が楽だ。

 

 「雪、西だと山の中でしか見たことない」

 

 「あたしは南の南端でしかねえな。行っても楽しくねえから寄り付かないけどよ」

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまも雪の話題に参加する。西大陸は高い山と平地で偶に降るくらい――北の方は積雪量が多くなるものの冬の時期のみ――だし、南大陸も降雪量は少なく場所が限定されているようだ。他愛のない女神さま方の会話を聞いていると、ガンドさまがぬっと森の中から顔を出してこちらを見ていた。私たちがガンドさまに気付けば、彼は顔を地面へ付けて女神さま方を敬う姿勢を取っている。

 

 「大きい白蛇ねえ」

 

 「お嬢ちゃんの残滓が感じ取れるような?」

 

 あらあらと言いたげに呑気な声を上げるナターリエさまとエーリカさまはそのまますたすたと大蛇さまの近くへと寄った。どうやら敵意はないと判断して近づいたようである。

 

 『高貴なお方、この島の主を務めているガンドと申します」

 

 ガンドさまが凄く真面目な雰囲気で名乗りを上げると、二柱さまが物珍しそうな視線を彼に向けて口を開いた。

 

 「わたくしは北大陸を管轄している女神ですわ。ナイからナターリエと名を頂いております。そう呼んで頂戴な」

 

 「私は東大陸を管理している女神ですわね。同じくナイからエーリカと名を与えられました。東の女神では味気がないものね。名を呼ぶことを許可致しましょう」

 

 二柱さまとガンドさまの名乗りは無事に終わり、ダークエルフの村を目指そうと大蛇さまと一緒に歩き始める。ガンドさまの大きな身体が私たちの横をうねうねと進んでいるのだが、ヴァルトルーデさまが右手人差し指を差してちょんちょんと突っ突いた。

 

 『いやん』

 

 ヴァルトルーデさまの突っ突きにガンドさまが妙な声を上げれば、突っ突いた部分の鱗が妙な動きを見せる。

 

 「面白い」

 

 ふふふとヴァルトルーデさまが笑い、ガンドさまが困ったような雰囲気を醸し出していた。

 

 「姉御、止めてやれ」

 

 「あまりよろしくないかと」

 

 「ですわ、お姉さま」

 

 「…………最近、妹たちが手厳しい」

 

 妹女神さまの駄目だしに、ぷえと妙な顔をヴァルトルーデさまが浮かべる。多分きっと姉妹仲が良い証拠なのだろうなと私は笑い、ダークエルフさんの村へと辿り着くのだった。

 

 ◇

 

 四女神さまと私たちがダークエルフさんの村へと辿り着けば、入り口の所でディアンさまとベリルさまダリア姉さんとアイリス姉さんとダークエルフの皆さまが総出で迎え入れてくれる。

 ガンドさまも遅れて顔を出し――本当に森から顔を出していて、大きな身体は森の中――て私たちを見守ってくれるようだ。

 

 ナターリエさまとエーリカさまは彼らを見て『北には魔人がいるけれど、西は亜人がいるのねえ』『流石お姉さまが管理する地ですわ』と感心している。そんな二柱さまにヴァルトルーデさまは少し鼻が高くなっているし、ジルケさまは長姉さまが満足しているなら良いかと無言を貫いている。

 先触れを出しておいて良かったと私は安堵しながら、ディアンさまとダークエルフのお姉さん――代表者――に経緯を説明して、ナターリエさまとエーリカさまへ身体を向け直す。

 

 「二週間、お邪魔させて頂くわ。北大陸を管理している女神よ。ナイからナターリエと名を貰っているから、呼んで貰って結構よ」

 

 「よろしくお願い致しますわ。わたくしは東大陸を管轄している女神ね。同じくナイからエーリカと名を貰ったから、貴方たちも呼んで頂戴」

 

 ナターリエさまとエーリカさまが名乗りを上げてくれる。そうしてディアンさまたち四人とダークエルフのお姉さんが名乗りを上げた。そうしてダークエルフの村に住む皆さまが一斉に頭を下げる。

 亜人の皆さまが一斉に頭を下げるなんて凄いシーンを見てしまった。小型の竜の方たちも女神さまの気配を察知したのか、村の周りに集まってガンドさまの側で興味深そうにこちらを見ていた。頭をこてんこてんと右へ左へと動かしている姿は可愛いと私が目を細めていると、ディアンさまたちが半歩前に出る。

 

 「まさか四女神さまがお揃いになられるとは。真に光栄です」

 

 「二週間、よろしくお願い致します」

 

 「なにか不都合があればお申し付けください」

 

 「できうる限りの対処を致します」

 

 ディアンさまとベリルさまとダリア姉さんはいつも通りだが、アイリス姉さんが独特な間の抜けそうな喋り方を止めて普通の口調になっていた。小型の竜の方たちがこてんこてんと頭を動かしている姿は可愛いけれど、アイリス姉さんの普通の口調には慣れないなと苦笑いをしているとご本人にバレてしまった。アイリス姉さんが私へ顔を向け、左側に少しだけ顔を倒す。

 

 「ナイちゃん、どったの~? 変な顔してるよー?」

 

 バレてしまったなら仕方ないと私は正直に伝えることにした。

 

 「アイリス姉さんが普通に喋っているのは珍しいなと」

 

 「ちゃんとしなきゃいけない所はちゃんとするよ~私のことをナイちゃんはどう思っているのかなー?」

 

 ふふーんと笑ったアイリス姉さんがすっと私の背後に回り込み、握り拳を作って私の左右のこめかみに置いた。きゅっとアイリス姉さんの拳でこめかみを押さえ込まれると、ぐりぐりぐりぐりと回転し始める。クロはさっさと私の肩から避難して、ディアンさまの肩へと飛び移っていた。誰か助けてと願うものの、面白そうな表情をして皆さま見ているだけである。

 

 「い、痛いような!? 痛くないような!?」

 

 「女の子に本気でやらないよ~加減はしてるー。でもナイちゃんは石頭なのかなあ。他の人にするより痛がってない気がするよ」

 

 言い終えたアイリス姉さんは私のこめかみから拳を離してくれる。そんなに石頭だろうかと少し考えを巡らせてみれば、幼い頃は偶に頭突きで貧民街の大人たちに抗っていたことを思い出した。身長差で額に額をぶつけることはできないが、下半身でも弱点はいくらでもある訳で。懐かしいことを思い出していると、ヴァルトルーデさまが左側から私の顔を覗き込んでいた。

 

 「ヴァルトルーデさま、どうかしましたか?」

 

 「ナイ、ソレ」

 

 「ソレというのは?」

 

 私がヴァルトルーデさまを見上げると、彼女の瞳には期待と希望が移っているような。しかしソレというのは名前のことだろうか。端的な説明なので要領を得られない。

 

 「私の名前の呼び方。前も言った気がするけれど、ナイは畏まり過ぎだと思う」

 

 「はあ。しかし、女神さまを呼び捨てするのは大変失礼かと」

 

 女神さまを呼び捨てする人間って如何なものだろうか。確実に教会や聖王国の信仰心の篤い方が聞けば、私は彼らから猛抗議を受けそうだ。

 

 「…………ナイは都合が悪いと、途端に鈍くなる」

 

 ヴァルトルーデさまが眉間に皺を寄せながら渋面になっていた。都合が悪いと鈍くなると仰っているが、そんなに酷いだろうか。確かに嫌なことがあれば目を逸らす癖はあると自覚している。でも鈍くなった気はないから、ヴァルトルーデさまの言葉は少々心外だ。むむむと私が唸っていると、すすすとアイリス姉さんが女神さまの反対側に立っている。要するに私の右隣りだ。

 

 「ナイちゃん、ナイちゃん。女神さまは名前に敬称を付けて、ナイちゃんに呼んで欲しいんじゃないかな~?」

 

 アイリス姉さんが私の目を確りと覗き込み言葉を紡ぐ。ああ、先程の女神さまの凄く短い言葉の意味がようやく分かった。しかし敬称は“さま”を付けているのだし今更なのでは……まさか。

 

 「アイリス。貴女は良い人だ」

 

 ヴァルトルーデさまがアイリス姉さんの方を見て嬉しそうな顔を浮かべている。ヴァルトルーデさまの喜怒哀楽がはっきりと表情に出るのは珍しいので、本当に嬉しいようである。

 アイリス姉さんは姉さんでヴァルトルーデさまにサムズアップをしていた。アイリス姉さんがヴァルトルーデさまに対してフランクに接しているは、公の場ではないからかもしれない。ディアンさま方もアイリス姉さんの行動は咎めず、見守っているから問題ナシと判断しているのだろう。ディアンさまの肩に避難していたクロが危険は無くなったと判断して私の肩へと戻ってきた。

 

 「ヴァルトルーデお姉さま」

 

 しっくりこない。

 

 「ヴァルトルーデ姉さん」

 

 なんだか微妙である。

 

 「ヴァルトルーデの姉御」

 

 ジルケさまじゃないしなあ。私が呼び方を羅列しているのだが、周りの皆さまが少しばかり笑いを堪えている。

 

 「なんだか微妙……どうしてだろう」

 

 ヴァルトルーデさまも私の声を聞き取って違和感を覚えたのか珍妙な顔になっていた。多分名前の文字数が多いので据わりが悪いだけなのだろう。愛称と敬称であれば違和感が少なくなるかもしれない。

 とはいえ女神さまの仮名を愛称で呼ぶのも大概不敬である。むむむとなにか考えているヴァルトルーデさまが黙り込んで、周りに沈黙が訪れる。誰か沈黙を破ってと願うけれど、率先して口を開いてくれる方はいそうにない。

 

 「やはりヴァルトルーデさまと呼ぶのが一番しっくりするかと。女神さまですし、権威ある呼び方だと落ち着きます」

 

 「むう。また失敗」

 

 ヴァルトルーデさまは私に敬称を付けされることを狙っていたようである。女神さまがなにかに拘りを見せるなんて意外だなと私が彼女を見ていると、ジルケさまが小さく息を吐きだした。

 

 「姉御、森を探検するんだろ? 早く行かねえと男連中に先を越されるぞ」

 

 確かに何かを見つけたいならば森の中へ入って、探索を始めた方が有利だけれど……競うような約束は取り付けていなかったはず。ジルケさまの言葉でヴァルトルーデさまの興味が移ったので、物は言いようだなと少しだけ肩を竦める。

 亜人連合国の皆さまも苦笑いを浮かべているので、ヘンテコな女神さまの姉妹関係を察したようだ。まあジルケさまはヴァルトルーデさまのお世話係というより苦労人の気配がするけれど。

 

 それならば森へ出掛けようとなり、案内役のダークエルフさんが同行することになった。森の中の恵みを頂いているので、私たちより詳しいので有難いと素直に頭を下げておく。

 ディアンさまたちは邪魔しちゃ悪いということで、ダークエルフさんたちと島の開発相談を続けるとのこと。ダリア姉さんとアイリス姉さんも島の材料を使って、新たな染色剤を造れないか思案するそうである。

 

 「それじゃあ行ってきます」

 

 私の声にディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんが気を付けてとそれぞれ声を掛けてくれた。ヴァルトルーデさまとジルケさまは森の中へ入るのだが、ナターリエさまとエーリカさまは森を探検すると知って微妙な顔をしている。

 

 「わたくしたちはコテージに戻りますわ」

 

 「服が汚れてしまうのは頂けませんもの」

 

 どうやら二柱さまが微妙な顔をしていた理由は服が汚れてしまうことを避けたかったようである。女神さまであれば神力を使えば直ぐに問題解決しそうだが、まあ嫌なことを無理に誘う必要はない。

 ただナターリエさまとエーリカさまも森の探検に赴くとコテージに残っているメンバーは考えているだろうし、いきなり二柱さまが戻ってくれば驚くはず。先触れをと考えるが、赴けそうな面子がいなくてどうしようかと悩み始める。ロゼさんかヴァナルがいれば転移か走って伝えて貰えるけれど、彼らも今頃は森の中を散策している。

 

 『ボクが行ってくるよ。飛んで行けば直ぐ着くからね』

 

 クロが私の表情を見て意思を汲み取ってくれたのか、翼を広げて私の目の前でホバリングしている。

 

 「お願いしても良い?」

 

 『うん。ボクも偶にはこういうことで動かなきゃね~じゃあ行ってくる。ナターリエさまとエーリカさまはゆっくりきてね~』

 

 クロは言うや否やコテージの方へと飛んで行く。あれクロはナターリエさまとエーリカさまとそこまで親しくなかったような気がするが、ゆっくりきて欲しいとお願いできる関係性をいつの間にか築いていたようだ。少し驚いていると、ナターリエさまとエーリカさまがクロに向かって小さく手を振っている。

 

 「ごめんなさいね、クロちゃん」

 

 「お願い致しますわ」

 

 いつの間にと私は驚くけれど、クロは基本誰とでも喋ろうとするから私の知らない所で仲良くなったようである。ヴァルトルーデさまが微妙な顔をしているので、二柱さまが『奪ったりしませんわ』『ええ、姉妹の中でクロちゃんと一番仲が良いのはお姉さまですもの』と伝えている。

 なんだか宥めているような気もしなくないが、ヴァルトルーデさまは一応納得してくれたようだ。二柱さまと別れて、私たちは森の奥を目指し始める。ジークは先に森へ向かった男性陣に追い付けるだろうか。まあ、合流できなくとも私たちと一緒に行動する手もあるので、特に問題視していないけれど。

 

 暫く歩いていると森の様子が少し変わって、木の密度が高くなっていた。足元も草が生い茂り移動が少し難しくなっている。討伐遠征に出なくなったので体力が落ちていることを自覚しながら移動していると、リンが私の顔を心配そうに覗き込んできた。大丈夫と視線で伝えると小さく彼女が頷く。

 

 「ナイ」

 

 「ん?」

 

 リンが私の名を呼んで返事をすれば『ナイと歳が違っていたら呼び捨てじゃなかったのかな?』と問うてきた。確かに年齢が違っていればリンとジークとクレイグとサフィールの関係性が変わっていたかもしれない。

 

 「リンなら、リン姉って私は呼ぶかな」

 

 「新鮮。偶に呼んで欲しい」

 

 「なら私も敬称を付けて呼んでくれる?」

 

 「ナイ姉……違和感しかない。ナイ一択」

 

 私とリンの会話を聞いていたジークが笑い、ヴァルトルーデさまは微妙な顔をし、ジルケさまは呆れの溜息を一つ吐き、案内役のダークエルフさんは真面目な表情で森の中を進むのだった。

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