魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ヴァルトルーデさまが目の前に施されている魔術陣について語ってくれた。魔術陣は儀式系の術となりかなり大量の魔力を必要とするのだとか。今の人間では行使するのは難しいかもしれないと彼女は零していた。
その時、説明を聞いている皆さまの視線が私に刺さっているような気がするけれど、今は目の前のことである。どんな術が施されているのかと副団長さまと猫背さんは期待しているし、アイリス姉さんとダリア姉さんも古代魔術ということで興味を引かれているようだった。
「この魔術陣は食料を生み出せる」
ヴァルトルーデさまが魔術陣の正体を明かしてくれるのだが、何故食料を生み出す魔術なんて開発されたのだろうか。まさかと私が仮説を立てていると、ヴァルトルーデさまが飢餓に襲われたの時に使用するためと語ってくれる。
随分と昔は現在よりも食物を育てることに難儀していたそうだ。品種改良が施されていないため、生育が遅いとか実が生る量が少ないとか様々である。日照りや雨が続けば食料難に苛まれることが多々あったとか。
苦肉の策でヴァルトルーデさまが大昔の方々に目の前にある魔術陣を教えたそうなのだが、大量の魔力が必要となり魔力持ちの方を随分と用意しないといけないとか。犠牲になった人間もいるのではないか、というのがヴァルトルーデさまの見解である。
「でもどうしてこんなところに?」
「確かに何故、南の島に施されているのでしょうか」
ヴァルトルーデさまが首を傾げると副団長さまも不思議そうな顔を浮かべる。側にいた猫背さんも不思議な顔を浮かべながら魔術陣を見つめていた。ダリア姉さんとアイリス姉さんも僻地と言っていい南の島に儀式系の魔術陣があることを訝しんでいる。でも、送還魔術陣も存在していたのだから、かなり高位の魔術師が島にいたというのが無難な答えのような。
「姉御に教わった誰かが気まぐれで施したとかじゃねえか? ナイみたいに食欲が高けりゃ飯代が掛かるしなあ。凄え魔力が高い奴なら一人でもできんだろ」
しかも隠すように魔術陣を施しているから大分食い意地が張っていたのではと、ジルケさまが呆れ顔で仮説を立てた。確かに送還魔術よりも食料を生み出す魔術の方を大事にしている感じではある。
「大昔のこの島では食料が確保し辛かったのかもしれませんね」
「お腹が空くと死んじゃうもんね~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんもヴァルトルーデさま方の話に加わった。昔の南の島は今よりも食料調達が安易ではなかったならば、確かに魔術陣を施す理由にはなる。
「確かにそう考えると一番納得し易い。禁呪にまで指定したつもりはないから」
ヴァルトルーデさまの声で特に危険な物ではないと分かり、部屋にいる一同がほっと息を吐いた。魔術陣を巡って面倒な展開になっても困るので本当に無難な代物で良かった。しかし、危ないものではないと分かってしまうと興味が湧いてくるのは何故だろうか。私はお米さまや大根さん――フソウ特有のもの――や南瓜さんを生成できないかなあ、なんて考え始めている。
「ヴァルトルーデさま、ちなみにどのような食料を生み出せるのでしょうか。魔力によって植物の成長を促す術を発見されておりますが、無から有を作り上げるのは至難の業です」
副団長さまも興味が湧いたようで、正直に発案者である女神さまへ問うていた。
「なんでもは無理かな。小麦が魔力を一番必要としない。豆もそんなに魔力は要らないかな」
ヴァルトルーデさまは昔の記憶を探っているようだ。首を傾げながら少しゆっくりとした口調で教えてくれる。小麦が魔力の消費量を一番抑えられるのは、西大陸において主食となっている原料だからだろう。
豆類もスープにして飲んでいるので、割と一般的なお料理である。嗜好品になればなるほど魔力が多く消費される術式のようで、割となんでも生み出せるとか。チョコレートとかも生み出せるものの、魔力が枯渇してしまい暫く動けなくなったり、最悪の場合死に至るそうである。
「僕でも術の発動が可能でしょうか?」
「どうだろう。足りないと干からびるよ」
「複数人でも?」
「ナイがいるなら問題ないと思うけど……ナイの場合、凄い量を生成しそうだ」
副団長さまとヴァルトルーデさまの会話を静かに聞いていれば、私は言われたい放題だった。とはいえ食べ物が手に入れられるとなれば気合が入るので、いくらでも魔力を放出できそうな気がする。
私が悩んでいると、周りの皆さまから『まさか注ぎ込むのか?』という懐疑な視線が刺さっていた。私が『やりません』という意味合いを込めてぶんぶんと首を左右に振れば『本当に?』と皆さま言いたげである。ただ、クロを始めとした魔獣や幻獣の皆さまと、亜人連合国の方々と副団長さまと猫背さんはやらないのかと期待しているようである。
「女神さまの仰る通りになると、凄く不味い気がするので協力しません。お仕事なら別ですが」
私がきっぱりとお断りの言葉を先に告げると、副団長さまと猫背さんと亜人連合国の方々とクロを始めとした皆さまがしょぼんとつまらなそうな顔を浮かべた。アルバトロス上層部から命が下れば、いくらでも魔力を注ぎ込むけれど、食料に困っていない時に生成しても無駄になるだけだ。
食べきれない量が生成されても困るし、副団長さまと猫背さんは禁呪ではないと知り調べる気満々である。ならば、魔術陣の詳しいことは彼らに任せておけば良い。
「残念です。ヴァルトルーデさま、魔術陣を書き写しても?」
「問題ない。使うなら緊急の時だけかな。暇な時に見てあげる」
やはり副団長さまと猫背さんは調べる気満々である。そしてヴァルトルーデさまは知識として知ることは問題ないと判断しているようだ。確かに大規模な飢饉が訪れたなら、今目の前にある術が役に立つのだろう。
あとはどれだけの魔力量を注ぎ込めば、どれだけの食料が生成されるかが問題だ。おそらくその辺りも副団長さまと猫背さん、そして魔術師団の方が調べ上げそうである。
「門外不出としましょうか。陛下にもお伝えしておきます……ね……本当ですかヴァルトルーデさま!?」
副団長さまはヴァルトルーデさまの協力を得たことで、凄く嬉しそうな顔になっている。彼女に魔術を教わっているから、その時に進捗がありそうだ。副団長さまはディアンさま方にも許可を取っていた。
ディアンさまに無茶をしないようにと告げられていたのだが、彼は『はい、もちろんです』と短く返事をしていた。悪用しないようにと咎められないだけマシだろうか。無理や無茶はするけれど、悪用はしないという信頼がディアンさまと副団長さまの間で育っているようである。
ダリア姉さんとアイリス姉さんも魔術陣を書き写したいと申し出れば、ヴァルトルーデさまは軽く返事をした。一つだけ注文があったようで『緊急時以外は使わないように』とのことである。
「ヴァルトルーデさま、書き換えとかできますか? 例えば食料以外の物を生み出せるようになる、とか」
悪用でふと思い出し、私はヴァルトルーデさまに問うてみる。
「私たちならできる。人間だとどうだろう……不可能ではない、とだけ」
どうやら四女神さまであれば簡単に書き換えをすることができ、なんでも生み出せるようになるとのこと。女神さまなのできっと植物や生き物も可能なのだろうなと勝手に納得してしまった。
しかし女神さまが考案した魔術を書き換えできる人物がいるかもしれないとなれば大問題だ。副団長さまと猫背さんなら術式の書き換えを、いつか遣り遂げてしまいそうだという気もある。
「どうしましょうか、この魔術陣」
私が皆さまの方へと顔を向けて問うた。今の島はガンドさまと亜人連合国の皆さまが管理しているから、残しておいても問題はない。ただガンドさまも亜人連合国の皆さまもいなくなった時に誰かに悪用されないかという不安はある。
ずっと残っていた魔術陣を破壊するのは気が引けるものの、失くしてしまった方が悪用される心配はない。まあガンドさまも亜人連合国の皆さまは長命なので、数百年後には食料生成の術式なんて必要ない社会になっているかもしれないが。皆さまであーでもないこーでもないと話し合って、結果。
「亜人連合国の者とガンド殿や後継者が管理できないとなれば破壊する、で良いか。まあアルバトロス上層部の意見も聞いてみなければな」
ディアンさまが鷹揚に口を開いた。一応、立ち入り禁止となって、管理できなくなるならば魔術陣を消してしまおうとなったのだ。多分、落ち着く所に落ち着いたはずである。
女神さま方は好きにすれば良いというスタンスなので、私たちに対して口出しはなかった。そうこうしていると、部屋を出ようとなり引き戸の扉を通る。
くるりと振り返り引き戸の扉を見つめていると、副団長さまと猫背さんが床に魔術陣を描き始めた。術を発動させると足下に魔術陣が浮かぶことがある――特に中級、上級の魔術の時――のだが、手で描いている姿は初めて見る。アルバトロス城にある国の障壁を維持展開させている部屋にもあるが、おそらく最初は彼らのように知識のある方が魔術陣を描いたのだろう。
どこからともなく取り出した瓶の中にはインクが詰まっており、ペンキを塗るような筆もいつの間にか持っていた。あまり見たことのない光景なので、場にいる皆さまが興味深そうに視線を向けている。
毛玉ちゃんたち三頭――いつの間にか狼の姿に戻っている――は塗り立ちのインクの匂いを嗅いでみれば『くちゃい!』『おえー!』『はにゃいたい!』と言いながら、雪さんと夜さんと華さんの下へ走った。なにをしているのやらと苦笑いを浮かべていると、魔術陣を描き終えた副団長さまがふふふと笑って私を見下ろしている。ついでに猫背さんも彼同様の笑みを浮かべていた。
「ナイさん、ご協力をお願いしても?」
「話を聞いて問題がなければ大丈夫です」
副団長さまが私のことを『聖女さま』でも『アストライアー侯爵閣下』でもなく名前で呼んだ。ソフィーアさまとセレスティアさまとジークとリンは彼がそう私の名を呼ぶに至った経緯を知っているため、微妙な顔になっている。
他の面々は副団長さまが私のことを名前で呼んだことに対して、不思議そうな顔になっていた。おそらく、名前を呼べるような仲だったかと訝しんでいるのだろう。
副団長さまと猫背さんが意味のないことをしない、というか先程、部屋を入れないようにしようとなったので副団長さまと猫背さんが魔術を仕込んでくれたと分かる。
ただ、大掛かりな仕掛けだと魔力量が多く必要になったり、発動までに時間が掛かることがあるのだ。その手の相談だろうと分かっていたので、私は個人的な相談であれば受けようと判断しただけ。まあアルバトロス上層部に報告することになっても、副団長さまたちが上手く立ち回ってくれるので問題ナシである。
「僕と彼とナイさんで魔力を注ぎ込んで頂いても良いでしょうか?」
とまあ、副団長さまの口からお願いされたので、特に問題ないと私は快諾する。どうやら割と魔力が多く必要な代物の術を発動させるようである。
「共同作業は二回目ですねえ。嬉しい限りです」
「僕は初めて。楽しみだ」
ふふふと笑っている副団長さまと凄く楽しそうにしている猫背さんに呆れつつ、私は魔術陣の円の外側に立つ。どうやら私は魔力タンクのようで、術の発動は副団長さまと猫背さんが執り行ってくれるようだ。
面倒がないから、私は大人しく彼らの指示に従うだけである。副団長さまが詠唱を始めれば、猫背さんも補助役として詠唱を読み上げた。すると私の腹からひゅっと中身が零れ落ちたような感覚に襲われた。
あー結構持って行かれたし、なんなら城の魔術陣への魔力補填の数倍は消費したような気がする。なのにフラフラしない私もどうなのだろうと疑問を呈したくなるが。
魔力を魔術陣に注ぎ込みが完了すれば、床に描いた魔術陣が煌々と光っていた。副団長さまと猫背さんは満足そうな顔をして、亜人連合国の皆さまと女神さま方と他の面々が『なんつー魔力量』と言いたそうな顔になっている。ヴァナルと雪さんたちと毛玉ちゃんたちも凄いと驚いているし、ロゼさんは終わったと察知して私の足下に転がってきた。
『ロゼも一緒にやりたかった……』
ぺしょんとひしゃげるロゼさんを私は抱き抱えて『機会があれば、なにか一緒にしようね』と伝えると『じゃあハインツとファウストも一緒!』と告げる。ロゼさんの言葉に副団長さまと猫背さんが驚くものの、直ぐに楽しみにしていると笑っていた。嫌な予感しかしないと私が苦笑いを浮かべていると、とある方が声を上げる。
「……スライムなのに感情豊かだな」
「ね」
ジルケさまが呆れヴァルトルーデさまが同意すれば、立ち入り封鎖処置は終わったから遺跡の外に出ようとなるのだった。
◇
食料生成の魔術陣を見つけた次の日。
徒競走をしようと毛玉ちゃんたち三頭と交わしていた約束を果たすため、みんなで浜辺に赴いた。朝食を終えて二時間程度経っているから、激しい運動をしても問題ないだろう。ご飯を食べたあと直ぐに動くと犬は胃捻転を起こしやすいと言われているし、人間にも宜しくないという判断を下していた。そうして浜辺に集まった面子は……ほぼ全員と言って良い。
女神さま四姉妹が揃い、亜人連合国のディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんとダークエルフの皆さまに、島住みの竜のお方に魚人の皆さまも参加すると言って姿を現していた。
ポチとタマも勿論顔を出しているし、ガンドさまも遊びに――昨日、浜辺で徒競走を行うと伝えていた――きている。フィーネさまとアリアさまとウルスラさまも顔を出し、男性陣も揃っているから結構な人数だ
『せっかくなら景品を出そうか』
昨夜、談話室で毛玉ちゃんたちが『たのちみ!』『かちゅ!』『はやいのー!』と口にしていたので、私はそれならばと勝てば景品を出そうということになった。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんも景品がどんなものか気になるようで聞き耳を立てている。
談話室の窓から顔を覗かせていたルカも嘶きを上げてなにかを訴えている。妖精さんが部屋でちかちかと光っていたので、島の皆さまにも伝わりそうだと笑っていると直ぐにダリア姉さんとアイリス姉さんが呆れ顔のディアンさまとベリルさまを引き連れてコテージにやってきたのだ。
女神さま方も景品が出るならばと期待の眼差しを向けているので、私は皆さまを裏切れなくなってしまう。どうやら妖精さんの話によって亜人連合国の皆さまには、私から豪華な景品が出ると伝わったようである。
普段であれば勘弁してくださいと困り顔を浮かべ要望を拒否するところだが、今はバカンスにきているので楽しく過ごせなきゃ意味がないと私は口を開いた。
『えっと。叶えられる範囲なら善処します。毛玉ちゃんたちはなにか欲しいものがある?』
私が座っているソファーの側で横一列に並んでいた毛玉ちゃんたち三頭が不思議そうな顔を浮かべて、左側にこてんと首を倒した。いつもぶんぶん振っている尻尾は、やけにゆっくりと左右に動かしている。
『?』
『ほちい?』
『もにょ?』
彼女たちは自分が欲しいものをイマイチ把握していないようだ。私がマンドラゴラもどきはどうかなと問えば、雪さんたちがフォローのため毛玉ちゃんたちに顔を向け、なにやら話し込んで私へと視線を移した。
『マンドラゴラもどきは不評のようですね』
『また一緒に遊びたいと申しております』
『ばーべきゅーで肉を物欲しそうに見ておりましたから、味付けしていない肉でも良いかもしれません』
雪さんたちが毛玉ちゃんたちの気持ちを代弁してくれる。マンドラゴラもどきは不評という声に窓から顔を覗かせていたルカが嘶きを上げ、珍しくジアも鼻を鳴らしてなにかを訴えていた。私は席から立ち上がり彼らの下へと行けば、ガジガジとルカが私の服を甘噛みする。徒競走に参加してみると私が問えば、ルカは変顔を披露しジアは小さく頷いていた。
景品はマンドラゴラもどきが良いのと問うと、二頭揃って嘶きを上げるのだ。どうやら彼らにとって極上のおやつであるマンドラゴラもどきが毛玉ちゃんたちに不評なので抗議したかったようである。そして二頭は徒競走にも参加したかったのだろう。
『じゃあ毛玉ちゃんたちはお肉だね。沢山用意してあるから楽しみにしてて。王都に戻って領地に赴けば広いからどこでも遊びに行けるかな?』
私は窓に向けていた身体をくるりと反転させて談話室にいる皆さまを見れば、いつの間にかヴァナルが私の側へときていた。
『ヴァナルも肉』
ヴァナルも徒競走に参加して景品を狙うようである。是非とも頑張って欲しい所だが他に参加者はいないだろうかと、部屋にいる面々に顔を向けるとヴァルトルーデさまと視線が合う。
『ナイ、私も参加する。なにか新しいお料理を食べたい』
『あ、なら、あたしも。まあ勝てるかどうかわかんねえけど、やってみなきゃ勝負はつかねえしな』
ヴァルトルーデさまは参加と同時に景品はなにを望んでいるのか教えてくれ、ジルケさまは小さく片手を上げて参加を表明していた。ジルケさまもヴァルトルーデさまと同じく景品は新しいお料理のようである。
夜会の際にクリームコロッケをエーリヒさまからレシピを譲り受けたばかりだし、料理人の方たちもクリームコロッケの習得に結構時間を費やしていた。また新しいお料理となれば、少々調理部の皆さまに迷惑を掛け過ぎではなかろうか。
調理部の皆さまの負担が多ければ、フソウの精進料理とか紹介して貰うか、アガレスの辛い宮廷料理で前回提供されていない品をウーノさまに聞いてみるのもアリだろう。亜人連合国のエルフの方やドワーフの方にダークエルフの方々も独自の料理があるはずだ。特に問題はないが、女神さま方には景品の用意に少しばかり時間が掛かるかもと伝えておいた。
でも徒競走が神さまと人間と魔獣や幻獣の皆さまとの混合となれば、女神さま方の独り勝ちのような気がすると私は口を開く。
『えっと……女神さま方の身体能力はどれほどのものでしょうか?』
私の疑問に四女神さまがああと口を揃え、ヴァルトルーデさまがナターリエさまとエーリカさまを見たのだった。
『お嬢ちゃん、わたくしたちは人間を模しているから人間と同じ程度ですの』
『個体差はありますが、常識の範囲ではないかしら。もちろん力を使えば人間なんて簡単に凌駕できますわよ』
北と東の女神さまが解説してくれたのだが、指示を出したヴァルトルーデさまはドヤ顔になっていた。丸投げしたのにドヤ顔ができるって、凄い自信の持ち主だなと感心するが、長姉さまの特権かもしれない。現にジルケさまは呆れ顔になって深い溜息を吐いている。そしてドヤ顔を披露していたヴァルトルーデさまが更にドヤ顔になった。
『力は使わない。己の身体能力のみ』
『だな。公平じゃねえだろうし』
どうやらヴァルトルーデさまとジルケさまは力を使わないようなので、みんなと公平に勝負といきたいようである。誰か他に参加したい方はいますかと募れば、ギド殿下が勢い良く挙手をした。
『ナイ殿、男だけで勝負できる場を設けて頂きたい!』
ギド殿下が威勢よく声を上げる。確かに女性と男性は分けた方が公平かもしれない。まあ現地でいろいろと臨機応変に開催すれば良いか。幻獣や魔獣の皆さまに女神さまが参加表明しているので、既になんでもアリだろう。
『男性陣で誰か参加するなら可能ですね。男性陣はなにか欲しいものはありますか?』
私が男性陣に問えば、皆さま黙りこくっている。ソフィーアさまとセレスティアさまが『加減をしてくれよ』『なにが提供されましょうか』という顔になっていた。どうしようかと悩みつつ、勝った方に聞くのが一番だろうなと私は結論を出して口を開く。
『では適当に良さそうな品を用意します』
返事がなかったので私は勝手に判断を下せば、男性陣が微妙な顔になっている。ドワーフの職人さんが鍛えてくれた竜の鱗や牙や爪を使った品は出さないし、エルフの方々と妖精さんたちの合作である極上反物も出してはならないと分かっている。
王都の高級店に置いてある品辺りが妥当だろうと考えているのだが、勝者の方がなにを望むのか少し楽しみだ。そんなこんな話していると女性陣のみのレースも開催しようとなり、魔獣や幻獣に乗って騎乗レースも開こうとなる。
――そんな話をしていたのが昨夜である。
「ナイ、どうしたの?」
ふいに声を掛けられて私が顔を見上げると、リンの顔が映っていた。彼女は少し心配そうな顔をしているので、私は随分と考え込んでいたようである。リンを心配させまいと笑みを浮かべて口を開く。
「昨日のことを考えてた。今日は楽しくなりそうだね」
「毎日、楽しいよ」
リンは私が笑ったことを確認してホッとしたのか綺麗な笑みを浮かべる。確かに毎日は楽しいし、大変なことも有るけれど充実していた。今日はどうなるのかなと私が笑い続けていると、リンの隣に立っていたジークもこちらへと顔を向けた。
「だな」
「そうだね。さて、みんな集まったから始めようか」
私はジークとリンに返事をして、周りに集まっている皆さまを見る。準備運動をしている方もいれば、雑談に興じている方もいる。小さい竜の方たちは既に浜辺を走っており、毛玉ちゃんたち三頭が彼らのあとを追っていた。元気だなあと感心しながら、私は集まっている方たちの前に立った。一応、南の島に遊びに行こうと誘ったのは私だから、音頭を執るのは私だろうし。
「では、徒競走大会を始めます! ロゼさん、頼んでおいた品を出して貰っても良いかな?」
私に皆さまの視線が集まり、浜辺を走っていた小型の竜の方たちと毛玉ちゃんたち三頭がぴゅーとこちらに戻ってきた。ロゼさんに収納して貰っていた品を出して貰うと『おお』というどよめきが上がる。今回、島の滞在は女神さま方も参加しているし、魚人の方から村に遊びにきて欲しいとお願いされている。それ故か徒競走大会に魚人の皆さまが参加しているので、結構なお肉の量を持参していた。
そのお肉を先程ロゼさんにお願いして出して貰ったのである。お肉の量が多過ぎるのか、皆さまが驚きの声を上げているのは仕方ない。お肉以外にも私が出先の国で買い付けていたお土産が沢山あった。
特に高級なものでもないし、私が面白いとか可愛いとかで買った品であり、ロゼさん倉庫で眠っているので誰か欲しい方がいれば持って行って頂けると有難い。在庫一斉セールのようで申し訳ないが、一つでも行先が決まれば良いのだが。
「随分と貯めていたんだな」
「てっきり、誰かにお渡ししているものだと」
私が方々で買い付けをしていることを知っていたソフィーアさまとセレスティアさまは呆れ顔になり、アリアさまとロザリンデさまとフィーネさまとアリサさまとウルスラさまは物珍しいのか、見ても良いですかと許可を願っていた、私はなにも問題はなしと返事をすれば、ダリア姉さんとアイリス姉さんと女神さま方が加わっていた。
『聖女さまの魔力が良い!』
小型の竜の方たちは私の魔力が欲しいようである。勝ったらね、と告げれば凄く喜んでいるのだが、果たして勝者は誰になるのやら。毛玉ちゃんたちとヴァナルと雪さんたちも私の声にぴくんと耳を立てて、話を聞いていたようだ。
ルカとジアとジョセさんとイルとイヴも私の声を聞いて、嬉しそうにしている。俄然やる気が出ているような気がする魔獣や幻獣組に、ヴァルトルーデさまは嬉しそうな顔を浮かべ、ジルケさまも何気にやる気に満ちていた。
「僕たちも参加してよいでしょうか?」
「頑張る」
みんなでそろそろ開始しようかと話していると、副団長さまと猫背さんが姿を現した。彼らが体力系のイベントに参加するのは凄く珍しいことだしと何故と呆けていれば、妖精さんたちから話を聞いて浜辺に出向いたとのこと。
私から景品が出ると知り興味が湧いたようである。本当に自身の欲望に忠実な方たちだなあと感心しつつ、心配ごとがあるので私は口を開く。
「大丈夫ですか?」
男性陣は騎士系の方が多いので副団長さまと猫背さんが勝つシーンを思い浮かべることができない。大丈夫かと問われると、副団長さまが凄く良い顔になった。
「僕たちは魔術師ですので、魔術師部門があれば嬉しいですねえ」
「そうだね」
彼らは最初から私にそれを伝えるつもりだったようである。娯楽だし、無茶をしなければ良いかと私は分かりましたと返事をすれば、亜人連合国の皆さまと魚人の皆さまからも商品が提供される。ディアンさまとベリルさまからは竜の鱗に牙や爪、ダリア姉さんとアイリス姉さんからはエルフの反物を提供してくれ、魚人の皆さまは朝、海で獲れたお魚を用意してくれた。
「新鮮なお魚さん!」
結構な量があるし、獲れたばかりなら塩焼きで十分美味しいはずと私は声を上げる。私も参加できるようなレースを開催しなければと思い至れば、周りの皆さまが苦笑していた。まあ、とりあえず。第一回、浜辺レース開催である!