魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ヴァルトルーデさまが走ったことにより、皆さまの遠慮が解けたのか手を挙げる方が多くなってきた。第四走は第二走で走らなかった残りの男性陣が参加してクレイグが勝っている。賞品はアガレスの天然石を選んでいたのだが、食べられない物に彼が興味を向けるとは驚きである。
第五走はダリア姉さんとアイリス姉さんとダークエルフのお姉さん数名が走り、ダークエルフさんの一人が勝利をもぎ取った。賞品というよりはお願いという形で私たちをダークエルフの村に招待したいとのこと。有難い申し出なので島の滞在中にお邪魔するつもりである。
第六走は魚人の皆さまが走ることになった。魚人の方が陸を走るのは不思議な感じがするものの、彼らは普通に走れるし人間の食事だって摂ることもできる。
海の中で長時間泳ぐことに対して凄く特化していることが人間との違いだろうか。皆さま服を纏っているので分からないが、肋骨の所にエラがあるとダリア姉さんとアイリス姉さんから教えて貰っていた。
「我々だけで楽しんでいるようで申し訳ありません」
「大丈夫ですよ。島に住んでいる方とお話できる良い機会ですし、せっかくなら楽しみましょう」
第六走は徒競走という種目の物珍しさによって五名の魚人さんが名乗りを上げたため、魚人の皆さまだけで走ることになったのだ。代表者の方が丁寧に頭を下げてくれるけれど、気にしないで参加して欲しい。
賞品を提供して貰っていることだし、お礼を兼ねているというか。賞品の中に彼らが気に入って頂ける品があると嬉しい。そうして第六走はひょろっとした魚人の方が先頭を走り抜けて、こちらへと戻ってくる。
「勝った。村長は賞品を辞退しなさいって言ってたけれど……俺は欲しい!」
まだ歳若そうな男性だった。耳がヒレみたいな形になっているのも魚人の皆さまの特徴だろう。村長と呼ばれているのは先程挨拶をした初老の男性のことである。勝った方は元気いっぱいだし、負けた方たちも賞品が欲しいような表情になっていた。私はちらりと村長さんの方を見れば、深い溜息を吐いていて『申し訳ありません』と言いたげだった。
「構いませんよ。気に入った物があると良いのですが」
私的には貰って頂いた方が嬉しいし、ロゼさんの中にずっとしまっておくのは勿体ないし、買い過ぎていた品物を処分できて有難い。有効活用、有効活用と商品を楽しそうに選んでいる魚人の方の背を見守る。
「娯楽が少ないから、若い子たちには島は退屈なのでしょうね」
「仕方ないよ~海から追い出されっちゃたからね~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんが少し困ったような顔で最近の魚人の皆さまの状況を教えてくれる。魚人の村の建設は順調であるものの、故郷を追い出された方たちは暇なのだそうだ。なにか職があれば良いのだがと私は考えを巡らせる。
「養殖とかできれば、他国に出荷とかできるでしょうけれど……島から各国に運ぶ技術が難しいですよね。生魚は直ぐに傷んでしまうでしょうし」
お仕事があれば暇な状態も少しは解消されるだろうか。南の島は自給自足の生活だから必要ないかもしれないけれど。
「お話中に割り込んで申し訳ありません。我々は皆さまに世話になってばかりです。なにかお金を手に入れる手段ができれば、亜人連合国に納めることができましょう。魚の育成は我々であれば得意とするところ」
村長さんがダリア姉さんとアイリス姉さんと私の話に加わった。どうやら魚を育てることを魚人の皆さまは得意としているようである。海に潜って魚の卵を見つけて生け簀で育て、食料としているとのことだった。
商売として成り立たせるならば海の恵みを拝借すれば良いそうである。あとは各国へと輸出する算段ができればどうにかなりそうだが……。
うーんと考え事をしているので、他の方にスタート要員を任せて少し場を離れる。第七走はまた毛玉ちゃんたちが走りたいと申し出ているし、ジャドさんたちも交ざっているようだ。セレスティアさまが騎乗したいと申し出ているので、第七走は誰かを乗せて走ることになる模様。それなら公平になるように上に乗る人間の体重を考慮してみればとアドバイスをしておく。
「フィーネさま、エーリヒさま!」
困った時はお二人の知恵を借りるのが一番だろうと、お二人の名を私は口にした。フィーネさまとエーリヒさまはなんの疑いも持たずに私の側へときてくれる。
何故かヴァルトルーデさまとジルケさまも一緒で『面白そうな気配がしてる』『美味い物が食える気がした』と仰って、口出しはしないし、口外もしないから話を聞いても良いかと申し出てきた。
私はダリア姉さんとアイリス姉さんと村長さんの顔を見上げると問題ないと無言で仰る。構いませんよと伝えれば、私の左横に二柱さまが並び、右横にフィーネさまとエーリヒさまが並び、目の前にはダリア姉さんとアイリス姉さんとダークエルフの代表さんと村長さんが立ち、後ろにはジークとリンが控えていた。
「あれ、公式な話になりそうですか?」
面子が面子なのできちんとした話し合いの場になるのだろうか。一度確かめておいた方が良いだろうと私はダリア姉さんとアイリス姉さんを見る。
「どうしましょうか」
「雑談で良いと思うけどなあ~商売になりそうならアルバトロス王国や他の国を巻き込めば良いじゃない~」
ダリア姉さんは少し悩み、アイリス姉さんは気軽な発言だ。でも思い付きで私が言った言葉が商売になりそうなので話し合いの場が持たれたが、今はまだ未定の未定という形なのだろう。
ディアンさまとベリルさまは審判を続けてくれているので話し合いの場に誘い辛い。なら大枠だけでも決めようかとなり話を再開する。私は一先ず状況を掴めていないエーリヒさまとフィーネさまに経緯を伝え、知恵を借りたいこともお願いればお二人は問題ないですよと仰ってくれた。
「立ち話だから簡単に大枠だけね」
「みんなから気楽に意見を貰えると嬉しいよ~」
「お魚さんを養殖する技術は魚人の皆さまにお任せするとして、新鮮なお魚をどう運びましょうか……」
ダリア姉さんとアイリス姉さんと私が、エーリヒさまとフィーネさまを見る。魚人の村長さんとダークエルフの代表さんが期待の眼差しを向けてお二人を見ているのは気の所為だろうか。
「急速に凍らせる、空気を抜き切って包装、海水で満たした水槽で移動……いくらか方法はありますね」
「魔術や魔法でどこまでできるのでしょう」
やはりお二人を頼って良かった。私の考えでは辿り着けなかったことを導き出してくれる。ダリア姉さんとアイリス姉さんはエーリヒさまとフィーネさまの言葉を真面目に受け取って、頭の中でなにか考えているようである。
背後では『美味しいのかな、それ』『どうだろうな?』というヴァルトルーデさまとジルケさまの声が聞こえ、更に後ろでは『まけちゃ~』『じゃんねん』『じゃどちゅおい』と毛玉ちゃんたちが残念がって、ジャドさんが『まだまだ貴女方には負けられないですもの』という声も聞こえる。
「あ。丁度良い方たちがいるのですが、仕事の体で島に赴いていますし声を掛け辛いですよね」
私が声を上げるとダリア姉さんとアイリス姉さんが『ああ……』『役には立ってくれるんだけどね~』と微妙な顔になっている。お二人にそんな顔をされる彼らは一体なにをしていたのだろうか。私が関わっていない所でなにがあったのか気になってしまうと考えていると気配が二つ増えた。
「おや、僕たちが呼ばれた気がします」
「なんだか楽しそう」
ぬっと副団長さまと猫背さんが顔を出す。本当に神出鬼没であるが、優れた魔術師の方の意見が聞けるのは丁度良いのかもしれない。私はまた経緯を説明すると、副団長さまと猫背さんがふむと考え込んだ。
「一番安易にできそうな魔術は魚を急速に冷凍することでしょうねえ」
「術式次第でどうにかなりそう」
副団長さまと猫背さんは急速冷凍をお勧めしたいようである。確かに魔術でできるのであれば簡単だけれど、魚人の皆さまは魔術を使用できるのだろうか。
「本当に魔術師は便利よねえ」
「あたしたちエルフが新しい魔法を生み出すのは百年とか千年掛かっちゃうからね~」
エルフのお姉さんズの開発単位期間が凄く長いことにエーリヒさまとフィーネさまと私は驚くけれど、副団長さまと猫背さんは凄く羨ましそうな顔をしていた。命の時間が違うから、百年や千年掛かってもエルフの皆さまには短い期間と捉えられているのかもしれないが、人間からすれば百年という期間は一生分である。
まさに術一つに人生を掛けなければならないので、人間が魔法という代物を扱えないのは当然なのかもしれない。
「魔力は備わっていますが、魔術や魔法を使ったことがありません。我々にできるでしょうか?」
魚人の村長さんが申し訳なさそうに私たちに問いかける。魚人の皆さまは海という国――仮称――の人々から迫害され海竜さまである、エーギルさまに保護されて亜人連合国預かりとなっている。
居候の身という思いが魚人の村長さんの気持ちが強いのか、亜人連合国の皆さまに気を使っているようであった。おそらくディアンさまもベリルさまもダリア姉さんもアイリス姉さんも魚人の皆さまを救った、なんて気持ちは持っていなくて南の島に住む仲間と捉えているはずだ。でなければ魚人の皆さまに職業斡旋なんて考えないはずだから。
「生まれ持った才能と努力次第でしょうかねえ」
「だね。程度の差はあれ扱えるようになる、はず」
副団長さまと猫背さんが魚人の村長さんに自信を持って欲しいと言いたげである。本心は魚人という人間ではない方に魔術を教える機会ができるかもという、研究心が先立っているかもしれないが。
「そうね。個々の才能次第でしょうね」
「だよねえ。若い子の方がまだ芽はあるかも~?」
ダリア姉さんとアイリス姉さんも魚人の方たちに魔術や魔法を教えることを厭ってはいない。ダークエルフの代表さんは『我々は魔術が不得手ですので……火を熾すくらいはできますが』と申し訳なさそうな顔になっている。
そういえばディアンさまとベリルさまも魔法はエルフの方から教わったと聞いているので、魚人の皆さまも習えば問題なく扱えるのだろう。この世界に住む生き物には大なり小なり魔力が宿っているのだから。しかし輸送手段を先に考えてしまったが、養殖魚の餌はどう確保するのだろうか。魚人の村長さんは養殖は問題なくできると最初に仰っていたので、大事な所をスルーしてしまった。
「養殖魚の餌はどう確保するのでしょうか?」
「小魚を獲って与えれば問題はないかと」
私の疑問に魚人の村長さんが答えてくれる。
「乱獲になって、海の環境が変わったりしないのですか?」
「その辺りは上手く付き合っていくしかないのでしょうね。天候も関わりますし、病気が流行れば絶滅してしまう者たちもいますから」
更に追加で質問をすれば、村長さんは弱肉強食な世界ですからねえと目を細めて呟いた。そうして最初は小規模で亜人連合国の本土にお魚さんを送ろうを目標にし、漁獲量が安定すれば他国へ輸出することにしようとなるのだった。養殖が成功すれば魚人の皆さまの収入になるだろうし、島での生活も豊かになるかもしれないなとエーリヒさまとフィーネさまと私は顔を見合わせる。
――上手く軌道に乗りますように。
私がそう願えば、徒競走で負けたルカの嘶きが浜辺に響くのだった。
◇
徒競走はまだまだ続いている。副団長さまと猫背さんは最近開発したという浮遊魔術をギド殿下とマルクスさまとジークとヴァルトルーデさま――女神さまは自ら申し出た――に施して、勝負を挑んでいた。
代理戦争ならぬ代理競走であり、副団長さまと猫背さんのそれぞれの術式どちらが優れているのか調べたかったらしい。ギド殿下とヴァルトルーデさまは乗り気だけれど、ジークとマルクスさまはあまり気乗りしていない様子である。とはいえ一度受けてしまったのだから本気で走らなければならぬというものである。
ギド殿下とヴァルトルーデさまは副団長さまの強化魔術を受け、ジークとマルクスさまは猫背さんの強化魔術を受けて開始線に並ぶ。強化魔術を受けた三人と一柱さまは砂浜から浮いており、少しバランスを取りづらいようだ。
踏ん張ってなんとか耐えているものの、気を抜けば浜辺にすこんと転げてしまいそうである。彼らが転ばないのは運動神経が並外れているからだろう。
『なんだか凄いことになってきたねえ』
「だね。飛べる魔術を開発していたなんて知らなかった」
クロが私の肩の上で尻尾を動かしながら目を細めている。私もクロと同じように目を細めて開始線に並ぶ皆さまを見ながら口を開く。ちなみに浮遊の操作は副団長さまと猫背さんが行うので、並んでいる三人と一柱さまは実質操り人形である。
競う意味はあるのかと変態二人に問い質したくなるが、もう始まりそうなのでなにも告げることができない。ジルケさまを始めとした他の面々は『大丈夫なのか?』と心配そうな表情を浮かべて見守っているだけである。走る予定の皆さまが怪我を負えば治癒を施そうと心に決めて私は右腕を上げる。
「位置に付いて、よーい……どん!」
私が口上を上げて腕を勢い良く下へ下げる。
「あぶね!」
「っ!」
「……!」
「凄い」
開始線に並んで浜辺から数センチ浮いている皆さまの身体が一気に前へと進み出た。自分の意思で動いていないせいか、驚きの声がそれぞれの口から上がっている。すでに彼らの表情は見えないけれど、きっと驚いていることだろう。
副団長さまと猫背さんは『面白い!』『楽しい~』という表情で対象の人物の操作を行っていた。真っ直ぐ走らせるだけなので簡単だと聞いてはいるものの、走者の方には凄く負担がありそうである。
無理くりに背中を押されるような形で進んでいるため、立っていることで精一杯のようだから。実戦で使うとなれば、かなり訓練を積まなければならなさそうだ。
というか、アルバトロス王国には飛竜騎士隊が編制され航空戦力を所持している。他国よりも有利な状況なのに、今以上にアルバトロス王国の戦力が増えるとなれば、他国からの突き上げの声が大きくなるのではなかろうか。
ぴゅーっと進み始めた三人と一柱さまはぴゅーっとゴールラインを過ぎていった。そうして副団長さまと猫背さんが前に差し出していた右手をぎゅっと握り込むと、浮遊して移動していた皆さまが地面に落ちる。運動神経が優れている彼らはずっこけることもなく無難に砂浜に着地していた。
「同着かなあ?」
『ここからだと差は分からなかったねえ』
ディアンさまとベリルさまの判定待ちだろうとゴール付近を見つめていると、走っていた皆さまがこちらへ戻ってくる。
「皆、同着だ」
ギド殿下が得意気な顔になって順位を告げてくれた。どうやら差はなかったようで、三人と一柱さまは同着と言い渡されたようだ。ディアンさまとベリルさまの判定ならば虚偽なんてあり得ないし、走った皆さまも納得している。
特に問題ないと副団長さまと猫背さんの方を見れば『えー……』と言いたげな顔になっている。ただ走った皆さまからいろいろと意見を聞き取りできたことによって、嬉しそうな顔に変わっているのだからお二人共現金だ。
『ワシも参加したいが、この身ではなあ』
「ガンドさまだと体長が五十メートルほどあるので、頭から尻尾の先までゴールを抜けないといけないルールだと一番足が遅くなりそうですね」
ガンドさまが砂浜でとぐろを巻きながらボヤいている。どうやら徒競走に参加したいようだけれど、巨大な身体を持て余すことは理解しているようだった。
『つまらんのう』
「代理を立てるとかできないのですか?」
目を細めながら残念そうにしているガンドさまに私は助言を述べてみる。先程も副団長さまと猫背さんの代わりに人身御供が差し出されたのだから、ガンドさまが代理を立てても構わない。あとは一緒に走ってくれる方がいるかだが、ノリの良い方たちなら名乗りを上げてくれるはず。
『おお、その手があった! でもお主たち皆は足が速いから、島の者で勝てる者を探すのは大変よのう』
確かに島に住んでいる生き物の皆さまで足が速い方は少なそうである。ポポカさんは走るとなれば鈍足だし百メートルも走り切れない――外敵から逃げる時は別――はずだ。鸚鵡さんたちも走るより、飛ぶ方が楽だろう。他に島に住んでいる生き物の皆さまは他にいたかなと頭を振り絞る。そういえばあまり島に住む生き物を見たことがないような。
「誰かいらっしゃらないのですか?」
『うーむ。思いつかんのう。猪の連中はそこそこ足は速いが気性が荒い……鹿の者たちは浜辺に出てこぬし……いないのう。残念だ』
ガンドさまの下にいる生き物の皆さまはいろいろと難があるようである。というかガンドさま程の力を持っている生き物がいないというのが正解だろうか。
『そろそろ陽が暮れるか。夜の帳が降りるのは少し先だが戻った方が良いだろうて』
ガンドさまが沈みゆく陽を見つめながら、そろそろ戻った方が良いと告げる。いつの間にか時間は随分と過ぎ晩御飯の時間が迫っていたようだ。島に鴉はいないけれど、私が皆さまに戻りましょうと告げれば撤収の準備を始めた。
ロゼさんには出して貰っていた賞品を仕舞って貰えば、戻る準備は直ぐに終わってしまったけれど。歩き始めると何故か私が先頭を切ることになってしまった。
後ろにはいつの間にかジークとリンが控えて、毛玉ちゃんたち三頭が私の前を行ったり後ろへ下がって皆さまの方へと様子を伺いにウロウロしている。彼女たちの行動を可愛いなあとほんわか見守る方と、忙しないと少し呆れている方に分かれているけれど毛玉ちゃんたちはどこ吹く風だった。ゆっくりと浜辺からコテージへと戻れば、食事の準備が整っている。
遊び倒していたためか、いつもより夕食を食べる量が多くなるのだった。
――島にきて一週間が経っている。
遺跡を再探索したり徒競走を行ったりと、騒がしいイベントは終わって残りの期間はゆっくり過ごそうとなっていた。温泉をまったりと楽しんでみたり、部屋に引き籠って読書三昧を味わってみたりと様々である。
今日は魚人の皆さまの村へ行こうとなっており、興味のある方と一緒にコテージ前に集まっていた。案内役はディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんである。
参加者は私を筆頭に護衛としてジークとリン、なにか起こるかもしれないとソフィーアさまとセレスティアさま、興味があると挙手をした副団長さまと猫背さんと四女神さまとエーリヒさまと緑髪くん……もといユルゲンさまである。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんは二人で島を探索するとのことで今は一緒にいない。毛玉ちゃんたちは私の影の中に入って、魚人の村の様子を見守るとのことである。
女神さま曰く、大陸の管轄は彼女たちであるが海の中についてはノータッチだということで気になるとのこと。
女神さまが管理していないとなれば海を司っている方は誰かと問うてみれば、海竜さん、エーギルさまの上司である海神さまなのだとか。海神さまはグイーさまとは面識があるものの、女神さま方はお会いしたことがなく謎の人物、神物なのだそうである。
そのため、魚人の皆さまがどんな生活を送っているのか知りたいらしい。勝手に海神さまの管轄内を調べて良いのかと問うてみれば、島にいる時点でグイーさまの管轄となっているのだから問題ないとのこと。
「亜人連合国に赴いたことがないので興味津々です」
「僕も楽しみ」
副団長さまと猫背さんはご機嫌な様子である。魚人の皆さまを初めて見た時も嬉しそうにしていたが、彼らの生活を覗き見ることができるため研究魂に火が付いたようだ。
「ま、ほどほどにね」
「不躾な視線を向けちゃ駄目だよ~海から迫害されて逃れてきたから、ちょっと繊細な子たちがいるからね~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんが副団長さまと猫背さんに釘を刺す。注意を受けた彼らははっとして真面目な顔になり『失礼なことを申しました。ご容赦を』と小さく頭を下げる。
「彼らの生活が知りたいのであれば直接見た方が早いだろうが、少し気持ちを抑えてくれると助かる」
「村から一歩も出ていない方もいますからね。とはいえ彼らは温和な方々なので、皆さまに悪意がないと知れば打ち解けられるかと」
ディアンさまとベリルさまもフォローを入れてくれた。確かに迫害を受けて逃れられてきた方々である。徒競走に参加してくれていた魚人の方は明るい方たちだったのだろう。
村には私たちのことを苦手とする方がいて当然である。ベリルさまが仰ったように信頼関係を築いて、いろいろな方と話すことができれば良いのだが。養殖の話もあるので今回はエーリヒさまにも助言役として付いてきて貰っている。なにかあるといけないからとユルゲンさまも念のために一緒に同行することになった。
「じゃあ、行きましょうか」
「待たせちゃ悪いしね~行こう」
ダリア姉さんとアイリス姉さんの声でコテージを出発した。数日前に徒競走を行った浜辺へと向かう道を行き、そこからさらに浜辺を歩けばごつごつとした岩が多くなってくる。少し足下の悪さに苦戦をしつつ進めば、木の柵で覆われた村が見えてきた。入口には魚人の村長さんと青年が立っており、私たちの姿を確認した彼らは小さく頭を下げる。
「ようこそ、魚人の村へ。少し騒がしいでしょうが、お許しください」
村長さんの言葉通り、建設途中の家からはトンカントンカンと釘を打つ音が響いていた。煩いというより心地良いBGMといった所である。私たちは彼と挨拶を交わせば、村長さんの隣にいた青年が口を開いた。
「じゃあ、村長の家に行きましょう」
人懐っこそうな青年は一つの建屋を指して移動しようと私たちを促してくれる。そうして彼が指差した先の家は村長さんの家というのに随分と小さい規模の家だった。
もしかして侯爵位を賜り大きいお屋敷に住み始めたので私の感覚がおかしくなっているのだろうか。四年前であれば、一人暮らしにはちょっと大きいかなあと苦笑いを浮かべていたかもしれない。自身の感覚に戸惑いつつ案内された村長さんの家の前へと立てば、やはり小さいと感じてしまう。私が村長さんの家を見上げているとジークとリンが大丈夫かと問うたので小さく首を縦に振る。
「皆さまが中に入ると狭いでしょうかねえ……」
「お天気も良いですし、外でお話するのも一興かと」
村長さんが困った顔で声に出す。確かに全員が入れる規模ではないので、私は外で話し合いをしようと持ち掛けた。ダリア姉さんとアイリス姉さんとディアンさまとベリルさまも問題ないようだし、四女神さまも問題ないとのこと。
副団長さまと猫背さんは話し合いの場に同席するだけでも有難いとのことである。エーリヒさまとユルゲンさまも問題ないが、ソフィーアさまとセレスティアさまは日陰だと有難いと申し出ていた。確かに陽射しが強いので日陰だと有難い。村長さんたちも魚人という特性上、直射日光を長時間浴びることは苦手としているので日陰の方が良いそうだ。
軒先と軒先の間に布を張り、簡易の日陰を作り出す。その下に長椅子をいくつか用意して話し合いの場を整えて、それぞれ長椅子に腰を下ろす。ただ腰を下ろしたのは魚人の村長さんと青年と亜人連合国の皆さまと四女神さまと私だけである。
他の面々は話し合いの場を見守るとのことで、着席をやんわりと断られてしまった。良いのかなと心配になるものの、お仕事の話になるからだろうと私は青い空を見上げるのだった。