魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0628:口調変え。

 魚人の村で話し合いを始め、少しの時間が経っている。魚人の村の方々は村長さんと私たちがなにを話しているのか気になるようで、ちらちらとこちらに視線を向けていた。もしかしてヴァルトルーデさまとジルケさまが気になって仕方ないのかと、魚人の方たちの視線の先を辿ってみる。

 彼らの視線は二柱さまより私に刺さっているのではなかろうかと首を傾げてしまった。首を倒したためにクロが『どうしたの?』と小声で問うてくる。なんでもないよと私がクロに伝えると、納得して前を向いてくれた。

 

 「せっかくですから、生け簀の設置予定場所を見て下さい。軌道に乗るのはまだまだ先でしょうが、必ずや成功させてみせます」

 

 魚人の村長さんの言葉に私たちは素直に頷く。村長さん曰く、生きたまま捕らえた魚を管理している生け簀が既にあるそうで、それを元に大きな生け簀を作ってみようとなったそうだ。

 長椅子から立ち上がり、村長さんの後ろを歩いていくと直ぐに海に出た。ぷかぷかと浮いているお手製の浮きが目に入ると、一緒に付いてきた魚人の方がどぱんと音を立てて海の中へ入った。泳ぐのが凄く速い姿に感心していると、海の中にある浮きを抱き込んでこちらへと戻ってくる。

 

 「生け簀の中の魚は我々の食料ですが、大きな生け簀に養殖魚が立派に育つことを目指しましょう」

 

 魚人の村長さんが目を細めながら口にした。彼曰く、海の中では迫害を受けていたため日々の生活は家の中に閉じ籠っていることが多かったそうだ。彼らより力の強い魚人のグループから嫌がらせを受け、我慢するのも限界に達し故郷を捨てて大海原へと旅に出た。

 幸運にも海を護っているというエーギルさまに会い助けを請うて南の島へと辿り着いた彼らは、地上ではあるが自分たちの家を造り穏やかに暮らせていることで、働く気力が湧いてきているのだとか。まだ小さい魚人の仔たちは状況を掴めていないけれど、話の意味が通じるほどに成長すれば海から逃げてきた経緯を話そうと大人組は決めているそうだ。

 

 生け簀を泳ぎながらこちらへと持ってきてくれた方が『美味そうでしょう?』と人懐っこそうな笑みを浮かべる。生け簀の中には大小さまざまなお魚さんが入っており、波打ち際に持ってこられたためか彼らは波に揺られて押されて引いてと動いていた。

 

 生け簀を持ってきた場所は自然に手が入っているようで、石垣を築いて船着き場になっていた。魚人の方が使うのではなく、ダークエルフさん用にと亜人連合国の皆さまが頑張って造ったそうである。

 岸だというのに水深が随分とあるので、竜のお方が底を攫って深くしたようである。一年間で魚人の村にはいろいろと施設が建築され、便利になっていると私が感心していると、ヴァルトルーデさまとジルケさまが生け簀の中を覗き込んでいた。

 

 「大きい魚がいる。美味しいのかな?」

 

 「姉御、魚人の連中の飯だぞ。盗んなよ?」

 

 ヴァルトルーデさまの疑問にジルケさまが厳しい答えを繰り出した。確かに魚人の皆さまの食料と分かっている品を盗るのは如何なものだろうか。でもヴァルトルーデさまは話のネタとして口にしたのだろうし、ジルケさまも冗談として言葉を発したのだろう。可愛い姉妹の会話だなと耳を傾けていると、ヴァルトルーデさまが更に続けた。

 

 「盗らない。ナイみたいに食い意地張ってないよ」

 

 「待ってください。今の話の流れだと、私が他人様の食料を盗っているみたいな言い方です……」

 

 ヴァルトルーデさまの声に私は少々酷くないかと抗議の声を上げた。生け簀の中のお魚さんが美味しそうと考えてはいたが、流石に魚人の皆さまに話して頂こうなんて考えは全くなかったのだが。そりゃ頂けるなら有難く貰うけれど、流石に好意で見せてくれたお魚さんを盗るのは鬼畜の所業である。

 

 「あ。ナイ、言い過ぎた、ごめん」

 

 「すまん。冗談だ……」

 

 ヴァルトルーデさまがしょぼんと、ジルケさまがバツの悪そうな顔になって謝ってくれた。二柱さまの中では私は大食らいと捉えているようだが、私は二柱さまより食べてはいない。

 謝ってくれたなら私が怒りを抱き続ける理由はないと深い息を一つ吐けば、魚人の方たちは目を丸くし、亜人連合国の皆さまは苦笑いを浮かべ、ソフィーアさまとセレスティアさまは良いのかなと言いたげな顔を浮かべていた。

 ジークとリンはいつも通り無表情を貫き、副団長さまと猫背さんは愉快そうに、エーリヒさまとユルゲンさまはあっけにとられているようだ。周りの雰囲気は一体なんだと、キョロキョロと私が皆さまの顔を見れば『なんでもない』と小さく首を振っている。

 

 私は仕方ないと話をしていた村長さんに養殖業のことについて気になることを聞いてみる。

 

 「そういえば、今の生け簀の巨大版を製作するのですよね。作成が終われば、沖までどう引っ張っていかれるのですか?」

 

 養殖用の生け簀がどれほどのものになるか分からないけれど結構な大きさになるはずだ。作成は丘の上でやるだろうし、完成したあかつきには海の中へ放り込むはず。そこから沖へとどう移動させるのだろう。巨大な船があれば問題なく運べるのだが、そんなものはどこにもない。私の質問に魚人の村長さんが良く聞いてくださいましたと言いたげな顔になっている。

 

 「人力です。大人の魚人が数人集まれば、問題なく移動させることができましょう」

 

 村長さんの言葉に生け簀を持ってきてくれた魚人の方も得意気な顔を浮かべて生け簀を元の位置へと返しにいった。こうして運ぶ予定ですよと教えてくれたのかもしれない。そうして沖へと向かった彼が元の位置に辿り着き生け簀を固定して、こちらへと戻ろうとした時である。

 

 「うわっ!」

 

 突然、沖にいた魚人の方の姿が海の中へと消える。一体何が起こったと場にいた皆さまが視線を向けるのだが、海の中へ消えた彼が戻ってこない。魚人の村長さんはなにがあったと目を見開き固唾を飲んで、仲間が沈んだ場所を凝視していた。

 ぷくぷくと空気が海面に出ているので今はまだ魚人の方は生きているはずだ。早く助ける術を考えなければと頭を回し始めていると、魚人の村長さんが海の中へと飛び込んだ。溺れてしまった魚人の方を助けに行ったようだから、私たちは見守りに徹しよう。なにがあるか分からないので念のために私は魔力を練っておくと、副団長さまと猫背さんも念のためと言って魔力を練っていた。

 

 十秒、二十秒、三十秒と時間が流れていくのが凄くゆっくりに感じていると、ぷくぷくと海面に出る空気の泡が多くなっていた。見える限りで一ヶ所、二ヶ所、三ヶ所とどんどん増えていっている。

 

 溺れた魚人の方と村長さんであれば二ヶ所が精々だろうに、何故数ヶ所も空気の泡が立ち上るのか。嫌な予感がすると私が更に魔力を練れば、ダリア姉さんとアイリス姉さんが私の魔力が増えていることに驚いている。

 平時ならばエルフのお姉さんズに声を掛ける所だが今はスルーを決めさせて頂く。警戒態勢を強めていると、海面から村長さんと魚人の方が揃って顔を出し私たちがほっとしていると、別の場所から厳つい顔の方――多分魚人――が海面から姿を現した。

 

 「てめえら、いつの間にか消えたと思えばこんな所にいやがったのか。どこへ逃げても追いかけてやるって言ったよなあっ!」

 

 はははと厳つい顔の方は嘲笑を上げる。他にも厳つい顔の方が三人ほど現れており、村長さんと魚人の方は突然現れた厳つい顔の四人組に視線を向けていた。

 

 「げほっ! はっ、あ、アンタは!」

 

 「あ、貴方方はっ!!」

 

 村長さんと魚人の方は厳つい顔四人組と面識があるようである。彼らの短い言葉のやり取りから、魚人の皆さまを故郷から追い出した連中と分かってしまう。故郷を追い出され、エーギルさまの導きにより安寧の地を見つけたはずの魚人の皆さまには青天の霹靂だろう。

 どうしますかと私がディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんに視線を向ければ、暴力的な手段を用いれば介入するとのことである。先ずは村長さんに状況を任せるようだ。

 

 「海のルールで魚人は殺しても喰えねえからなあっ! なら最後まで痛め尽くして死んじまう姿を見るのがオツってもんよ!」

 

 「……わ、私はどうなっても構いません! 皆さまが嬲りたいというならば、どうぞお好きにしてください。ただ村の皆に手を出すことだけは止めて頂きたい。もう、そっとしておいてください!!」

 

 村長さんが魚人の方を庇い、ゆっくりと四人組から遠ざかるようにとこっそり指示を出していた。強面魚人四名は魚人の村の皆さまを仲間だなんて考えておらず、ただのストレス発散のための道具として見ているようである。

 

 「ばーか、誰が手に入れた玩具をタダで手放すんだ! 一生、遊び倒して俺らの役に立ててやらぁ!」

 

 きししとギザ歯を見せた強面魚人の一人が村長さんの胸倉を掴み殴り掛かろうとしていた。私は見ていられないとジークとリンの名を呼べば、そっくり兄妹は足下の手頃な石を拾う。

 石を拾い立ち上がろうとする途中でジークとリンは石を持った利き手を身体の後ろに引き、横薙ぎに石を放った。二人が解き放った石は見事に強面魚人の頭を狙い撃ちする。よくあんな遠くまで届いたものだと感心するし、よく小さな的を狙えたものだと驚いた。

 

 「痛ぇ! なにしやがるっ! に、人間!? 人間が魚人の俺たちに手をだしたのかよ!? 人間如きがなにをしやがる!!」

 

 こめかみに石が当たった強面魚人の方――多分リーダー格――がこちらを向けば、残りの三人も凄い形相でこちらに視線を向けた。私はまずディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんに手を出して申し訳ないと謝る。ジークとリンは石が当たり相手の気が十分に引けたことで私の後ろに控え直した。

 

 「……舐め腐った態度を取りやがってぇぇぇぇ!」

 

 舐めた態度を取っているのはどちらだろうかと言いたくなる。ソフィーアさまとセレスティアさまとエーリヒさまとユルゲンさまも強面魚人に遠慮はいらないだろうと判断しているようだった。なら、ある程度は好きにさせて貰おうと私は口を開く。

 

 「舐めた態度とは如何なものでしょうか。暴力で他者を圧倒するのは簡単なことでございましょうが、力は威を翳すためにあるものではありませんよ?」

 

 「しゃらくせえ喋り方をする餓鬼だなあ! 俺はオメエさんのような育ちが良く無くてよお! 気楽に喋っちゃくれんかね?」

 

 私が普段の口調より丁寧に言い放てば、相手の方にあまり伝わっていなかったようである。けけけと笑いながらこちらを見ている強面魚人さんたちは村長さんに全く興味を失くしており、その隙にと村長さんと魚人の方がすいーと泳いで陸へと上がりこちらに戻ってきた。

 

 「も、申し訳ありません。我々が弱いばかりにご迷惑を」

 

 戻ってきた村長さんの第一声は謝罪だった。亜人連合国の皆さまは魚人の方々を保護すると決めて、住む場所を提供したのだから気にする必要はないはずだ。現にディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんは怒りの気を発している。エーリヒさまとユルゲンさまが皆さまが発する圧に驚いているけれど頑張って耐えていた。二柱さまも今の状況を快く捉えていない。

 

 「強い者が弱い者を力任せに御すのは頂けない」

 

 「あんま良い光景じゃあねえよな。なんだ、あいつら?」

 

 あからさまに不快だと口にした女神さま方の声を聞き取った村長さんが『申し訳ありません!』と勢い良く謝罪をした。

 

 「頭を下げる必要はない」

 

 「ああ。弱い奴がいれば強い奴もいるけどよ、あんなふうに力を振りかざしている所を見るのは納得できねえってだけだ。でもあたしらが干渉するのは良くねえし」

 

 とはいえ二柱さまは手を出す気はないようである。ならばと私は強面魚人リーダーが口調を砕いて欲しいとお願いされたので、素直に聞き入れて口を開く。

 

 「それは失礼を! では改めて……すう……――自分より格下と分かっている相手に高圧的な態度なんざ、くっそ、みっともねえっての!」

 

 私の声に亜人連合国の皆さまと二柱さまとソフィーアさまとセレスティアさまと副団長さまと猫背さんとエーリヒさまとユルゲンさまがポカンとしていた。ジークとリンは私の口が悪い場合も知っているため驚いてはいない。

 本当は指を指して大笑いしたいところだが、そこまでやると本当に皆さまがドン引きしそうなので止めておく。顔を引き攣らせている強面魚人の皆さまが数瞬後に『てめえぇぇえええ!』とキレ始めるのだった。

 

 ◇

 

 私の煽り文句に強面魚人の四人がぷっちーんと顔を真っ赤にしてキレているようである。村長さんと魚人の方はやってしまったと顔を青くしているが、ディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんは良く言った! と言いたげであるが、少々私の言葉は聞き捨てならないものだったようである。もう少し抑えようと小声でお願いされ、ソフィーアさまとセレスティアさまも驚きつつ私の側仕えとして声を上げる。

 

 「ナイ。気持ちは分かるが、もう少し丁寧な言葉遣いを心掛けよう……気持ちは分かるんだがな」

 

 「ええ。少々、貴族として先程の文言は汚過ぎましょうか」

 

 ソフィーアさまは大事なことだから二度同じことを言い、セレスティアさまは相手の土俵に乗るのは構わないが先程の煽りは汚過ぎると言いたいらしい。

 

 強面魚人四名が『海の中へ入れ!』とやんややんや言っているのだが、海の中へと入れば彼らの好都合となってしまう。さて、陸で勝負したいけれど強面魚人の方は陸に上がることはないだろう。

 もう一度ジークとリンに石を投げて貰うべきだろうかと考えていると、強面魚人の一人が強面魚人のリーダーになにかを手渡していた。強面魚人のリーダーがなにかを投げるポーズを取る。足をばたつかせたのか上半身が海面から出て、筋肉隆々な姿が目に映る。話に聞いた通り、彼らの肋骨の部分には不自然な切れ込みがある。副団長さまと猫背さんが『本当にあるんですねえ!』『面白いねえ!』と喜んでおり、強面魚人四名を変態二人に引き渡せば嬉々として引き取ってくれそうだ。

 

 他所事を考えていると強面魚人のリーダーが右腕になにか持って、私を目掛けてソレを投げた。びゅっと風切り音が聞こえ、私の目では物体を捕らえることができない。

 腕を目の前に出して頭を守る仕草を私が取ろうとしたとき、ジークが前に立ちふさがり、リンが左腕で私を引き寄せる。その数瞬後に『びちゃ!』という音が鳴り、もう一度『びちゃり』と地面になにかが落ちる音が鳴った。

 

 『ぬるっとしていますわ! ジークフリードさん、同じ剣ならば構いませんが、気持ち悪い物を鞘で受け止めないでくださいまし!』

 

 『ぎゃははは! カッコ悪ぅ! って、ぬめっとしたモンが鞘についてやがる! ジークリンデ、ジークフリードと同じことすんなよ!』

 

 どうやら強面魚人が投げた物体をジークはレダの鞘で受け止めたようである。レダが困り声を上げジークに抗議していると、カストルがレダの慌てぶりに耐えられなかったのか話に加わっていた。相変わらず二振は喋り始めると口が止まらない。強面魚人は『う、受け止めた!?』『兄貴の剛腕で投げたものを……!』とかなんとか言って騒いでいる。私は地面に落ちた物体に視線を向けた。

 

 「あ、蛸さんだ。しかも大きい。ぬめり取りすれば食べれるかな。内臓処理をどうやるのか分からないけれど。でもなあ……海に返してあげた方が良いか。あんなのに捕まって嫌がらせを受けちゃったんだし」

 

 強面魚人に捕まってしまい、しかもぶん投げられたので陸に上がった蛸は弱っている。海に戻ろうとしているようだが動きが鈍い。一瞬捕まえて食べようかとも考えたが、ぬめり取りの方法と内臓処理の仕方が分からないし、酷い目に合ったのだから治癒を施して海に返した方が蛸にとっては幸せか。私は蛸の下にしゃがみ込んで治癒魔術を一節唱えて蛸に施した。すると蛸はみるみると動きが良くなり、海を目指して脚を器用に動かしている。

 

 「変な人に捕まっちゃ駄目だよ」

 

 海に戻る手前、私が蛸さんに声を掛ければ八本の脚の内の一本を右へ左へと何度か動かした。まるでバイバイしているように見えるがただの偶然だろう。蛸はぽちゃんと音を鳴らして海の中へと戻って行った。

 

 「さて。ディアンさま、ベリルさま、ダリア姉さん、アイリス姉さん、海に浮かぶ無法者をどうしますか?」

 

 いまだに声を上げて私たちに文句を言っている強面魚人の方をどうしようかと、亜人連合国の皆さまに聞いてみる。魚人の村長さんと魚人の方は怯えているので話に加われないだろう。

 

 「彼らを捕まえても根本的な解決にはなりそうもないからな」

 

 「第二、第三の彼らが現れそうですからねえ。海の中には魚人が沢山住んでいるそうですし」

 

 ディアンさまもベリルさまも対処に困っているようである。

 

 「引き下がってくれれば良いけれど、また管を巻にくるでしょうね。威を振り翳したいようだもの」

 

 「ば……あまり頭が良くなさそうだもんねえ~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんも馬鹿に付ける薬はないと言いたげだった。せっかく自立した生活を送り始めた魚人の村の皆さまに暗雲が立ち込めば、落ち着いた生活など送れない。ましてや村を追い出された元凶が今、目の前にいて我が物顔で彼らを脅しているのだ。

 心穏やかではいられないはず。どうしようかと迷い始めた時、エーギルさまを召喚すれば良いのではなかろうかとふと思いつく。

 

 「一先ず彼らを捕えて、エーギルさまに引き渡しませんか? 彼が魚人の皆さまを保護して欲しいと願い出られたので、海の出来事はエーギルさまに任せるのが一番かなと」

 

 一応、エーギルさまを召喚する手段はご本人から教わっているので呼べるはずである。

 

 「しかし……陸にきてくれそうにないな」

 

 「ええ。こちらにきて下さらないと捕まえられませんねえ」

 

 ディアンさまとベリルさまが困った顔になる。彼らは海の中を泳ぎ回ることはできないし、ダリア姉さんとアイリス姉さんも泳ぎが得意ではないようだ。どうしようか困っていると、副団長さまが小さく手を挙げた。

 

 「では僕に任せて頂いても? 捕縛魔術で捕らえられるかと」

 

 どうやらこの場所から海面に浮いている強面魚人の方を捕らえる方法があるようだ。それは有難いけれど、どうして捕縛に対して副団長さまは積極的なのだろう。

 

 「構わないが、良いのか?」

 

 「ええ。彼らであれば遠慮なく手を出すことができましょうしね」

 

 ディアンさまが片眉を上げながら副団長さまに確認を取ると、凄くにこやかな表情になる。副団長さまと猫背さんは強面魚人を捕えれば、手を出す――調べることができる――ことができるため好都合のようだ。

 

 「死なない程度にな」

 

 「もちろんです」

 

 呆れ顔のディアンさまは念のため副団長さまに釘を差すけれど、ヴァルトルーデさまがやり取りを見かねて声を上げた。

 

 「あ。ハインツ、やり過ぎても良いよ。私がどうにかする」

 

 「姉御。気持ちは分かるけどよ、あまり首を突っ込むな」

 

 長姉さまをジルケさまが止めに入る。どうやら地上や海のことに関わり過ぎると宜しくないようだった。むっとヴァルトルーデさまは止められたことに不満を表すものの、暫くすればジルケさまの言葉に納得したようである。

 そうして副団長さまは三節の捕縛魔術を唱えれば、彼の指先から糸のようなものがしゅるしゅると海へ伸び始めた。その数は四本あり、丁度強面魚人の人数と同じである。

 強面魚人の方は副団長さまの魔術がなにか分からないようで、困惑した表情を浮かべていた。そして魚人の村長さんと魚人の方も驚いている。海の中では魔術は発展しておらず、力こそ正義なのだとか。だからこそ海竜さん、もといエーギルさまは海の神さまに管理を任されたのだろう……とのことである。

 

 「うおっ! な、なんだよ、これ!」

 

 「た、助けて!」

 

 「馬鹿野郎! 俺まで巻き込むな!!」

 

 副団長さまの魔術の糸が強面魚人を捕えてクルクルと彼らの身体に巻き付いていた。強面魚人のリーダーに強面魚人が助けを求めているのに、リーダーは自分だけは助かろうと躍起になっている。

 

 「仲間割れ、みっともない」

 

 「だなあ」

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまが目を細めていると、副団長さまが『仕上げですねえ』と愉快そうに声を発した。すると魔術の糸に絡まれた強面魚人四人は一気に陸の方へと引き上げられる。

 しかし捕まってしまったことは理解できているのか、先程までの威勢はなく魔術の糸からは抜け出せないと諦めていた。私は強面魚人の方と話すことはないと、ディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんの顔を見た。

 

 「では、エーギルさまを呼んでみます」

 

 「すまない、手間を掛ける」

 

 「申し訳ありません」

 

 「お願いね。ナイちゃん」

 

 「助かるよ。こんなの早く引き渡したいから~」

 

 私がエーギルさまを呼んでみると伝えれば、亜人連合国の皆さまにお願いされた。村長さんと魚人の方もお願いしますと頭を下げてくれる。私がエーギルさまに名前を贈ったためなのか、海に私の魔力を流せば察知して駆けつけてくれるそうだ。

 魔力を流したことで海の中の環境が変わってしまわないか心配だったけれど、流した魔力はエーギルさまが漏れなく回収してくれるとのこと。魔力を取り込んだエーギルさまに影響がないかと疑問に感じるものの、ご本竜曰く強くなれるので問題ないらしい。

 私は波打ち際に立ち魔力を海に流そうとするものの、海に魔力を放出するイメージが湧かない。前回、釣り竿を使って針を垂らしているとエーギルさまが掛かったので、釣り竿から垂れる糸を伝って海へと魔力を流す方がやり易いような。

 

 「釣り竿持ってくれば良かったかなあ……」

 

 『ロゼ、持ってる!』

 

 私がぼやくと影の中からロゼさんが勢い良くぴょーんと跳び出てきた。ジルケさまが『本当にあれはスライムなのか……』と零しているものの、副団長さま曰くスライムとのことなのでロゼさんは規格外のスライムさんである。ぷっと身体から昨年手作りした釣り竿ををロゼさんが出してくれて、私は手に取ってロゼさんにお礼を告げる。

 

 『エーギル、釣れるの?』

 

 ロゼさんが真ん丸ボディーの片方を潰しながら疑問を投げた。手作りの竿で海竜であるエーギルさまを釣れるとは思えないけれど、魔力を流して知らせるのである意味『釣る』という言葉は合っているのだろう。

 

 「どうだろう。釣られて出てきてくれると良いけれど」

 

 『マスター、頑張れ!』

 

 私が苦笑いを浮かべながらロゼさんに答えると、常識人組が顔を引き攣らせている。某辺境伯領のお嬢さまは海竜であるエーギルさまに会えることに期待に胸を膨らませているけれど。

 私の後ろに控えていたジークとリンに釣り竿で針を沖まで投げ入れて欲しいとお願いすれば、先程はジークに良い所を盗られたからとリンが投げてくれることになる。ひゅっと手作りの竿をリンが振れば、風切り音が鳴り仕掛けが沖へと飛んで行く。長い糸がくるくるくるくると巻き出さて、ようやくぽちゃんと海面に落ちる音が耳に届いた。

 

 「ありがとう、リン」

 

 「どういたしまして。投げ直さなくて大丈夫?」

 

 私がお礼をリンに伝えると、竿を私に戻してくれた。私は竿を彼女から受け取りながら疑問に答える。

 

 「うん。海に魔力を流すところを想像し辛いだけだから、今の位置で大丈夫」

 

 答えた私は海に身体を向けて魔力を練った。ふわりと私の髪が魔力で浮けばクロとロゼさんとアズとネルが嬉しそうな雰囲気になっている。外に漏れた私の魔力は彼らが回収してくれるだろうと、私は竿の先に付いている針へと意識を集中させる。

 竿から糸、糸から針へとどうにか魔力を伝わせて海の中へと私の魔力を流し込む。すると何故か頭に海の中の映像が映し出された。海面から陽の光が差し込み、エメラルドグリーンの綺麗な色で照らされて小魚たちが泳いでいる。

 

 海底には珊瑚が自生しており、珊瑚を寝床にしている魚たちがちょろちょろと顔を出していた。そんな光景からどんどん海の深くへと沈んで行き、真っ青な海へと様子が変わる。

 更に深く深く潜っていくと真っ暗な景色になって……ここはどこだろうと周囲を見渡せば、怪しい二つの光が私を捉えて――誰だろう、私の肩を揺らすのは。カクカクと身体が揺れていることに気付いて、私の意識がすっと海から戻ってくる。

 

 「あれ?」

 

 私が周りを見ると南の島の景色が広がっていた。魚人の方たちの村の波止場に立っており、手には釣り竿を持っている。あ、エーギルさまを呼ぶために魔力を海に流し込んでいたのだと、意識がはっきりと戻ってきた。

 

 「引き込まれておりましたよ」

 

 「危ない」

 

 私の肩を揺らしたのは副団長さまで、猫背さんは心配そうに私の顔を覗き込んでいた。ジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまとエーリヒさまとユルゲンさまも心配そうな顔をしていたので、大丈夫だと私は無言で伝えておく。

 ディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんも心配そうな顔になっているし、ヴァルトルーデさまとジルケさまも私のことを気に掛けている。魚人の村長さんまであたふたしているし、魚人の方も驚いているようだ。

 

 みんな過保護だと笑い、エーギルさまが現れるまで少し時間が掛かると雑談タイムに入った。捕らえた強面魚人四人は陸の上が苦手なのか黙り込んでいる。

 どうして魚人の村の皆さまに嫌がらせをしていたのかと問えば、弱い者から奪い取るのは強者の権利だと主張した。ならば陸に上がった今、私たちの方が貴方方より強いから奪ったり暴力を振るっても文句はないのかと聞けば反論できないでいた。

  

 強面魚人四人にこれからのことを伝えると、がっくりと項垂れていた。どうやらエーギルさまはきちんと海の護り手として機能しており、彼らに恐れられているようだった。丁度、それを伝えた時に海の波がどっぱーんと割れて海面からエーギルさまが姿を現した。以前より大きくなっているのはきっと気の所為である。

 

 『ナイ。先程ぶりか!』

 

 明るい声で私たちを確認したエーギルさまの第一声は軽いものだった。私は軽く頭を下げてから口を開く。

 

 「深い海の中で私を見ていたのはエーギルさまだったのですね」

 

 そうだぞーとまた軽い調子で先程深い海の中で二つ光っていたのはエーギルさまの目であったようだ。そうして私たちの周りを見た彼がこてんと首を傾げる。

 しかしエーギルさまが私の意識を海の中へと引き込んだことを快く思っていない方が確実に一柱さまがいて、エーギルさまが丸く目を見開いた。

 

 『え、怖い……! お主らはどなたかな? なんだか海神さまと同じ雰囲気がするが……こんなところに神がいるわけなかろうし』

 

 「私は西大陸を管轄している女神」

 

 「あたしは南大陸を管理している女神だな。なんでナイの意識を海の中へ引き込んだ?」

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまの声にエーギルさまは丸く目を見開いたまま固まるのだった。どうやら女神が二柱さま一緒にいると全く考えていなかったようである。

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