魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0629:お誘い。

 海から現れたエーギルさまがヴァルトルーデさまとジルケさまがいらしたことに驚いて、目を右へ左へと動かして二柱さまの疑問にどう答えたものかと考えているようである。捕えた強面魚人の四人も二柱さまが女神さまだと知って目を丸くひん剥いていた。エーギルさまはようやく答えを見つけたようで、少し私たちから視線を逸らして口を開く。

 

 『その……ナイ相手ならば、少しの茶目っ気くらい許してくれるだろうと……彼女の魔力を感じて、暫くぶりに会えると嬉しくなったものですから』

 

 言い辛そうなエーギルさまだが最後にはきっちりと視線を合わせている。ヴァルトルーデさまとジルケさまは彼の言葉を咀嚼するのに少しだけ時間を掛けた。女神さまたちとエーギルさまの間で気まずい空気が流れているような。大丈夫かと私とクロや他の皆さまが心配していると、二柱さまがようやく言葉を発した。

 

 「ナイと会えることが楽しみなのは分かる」

 

 「分かるけど、戻ってこれない可能性もあっからな。次、やったら……あーでも、あたしが口を出すことでもねえか?」

 

 ヴァルトルーデさまは私のことを珍獣扱いだし、ジルケさまは怖いことを口にした。意識が取り込まれると戻ってこれない場合もあったのか。確かご意見番さまの浄化儀式を執り行った際も私は彼の意識の中に入り込んだ。あの時、戻ってこれていない可能性があったとは驚きである。

 私が考え込んでいるとエーギルさまから『助けて!』と無言の視線が飛んできた。どうやら女神さま方の圧が怖いようである。エーギルさまは海竜だし、海神さまから海の治安を護るようにと言い渡されている凄い方だ。それなのに西と南の女神さまを恐れているのは驚きだ。二柱さまがエーギルさまにこれ以上物騒な言い渡しをしないようにと私は口を開いた。

 

 「エーギルさま」

 

 私が名を呼ぶと、ご本人さまがほっとしたような雰囲気を醸し出した。

 

 『ナイ。我を呼んで、どうかしたのか?』

 

 女神さまが二柱いるためか、エーギルさまの言葉使いが丁寧である。少し彼の喋り方に違和感を持ちつつ彼を呼び出した理由を伝えた。エーギルさまは強面魚人の方たちが逃げてきた魚人の方の住処を探し当てるとは全く考えていなかったようである。

 魚人の皆さまにはそれぞれテリトリーというものがあり――家族、集落、街、国家のようなもの。テリトリーの広さは規模に応じてまちまち――基本的に外には出ない。ただ強面魚人の方たちはいじめていた彼らが逃げたことが相当気に入らなかったようである。テリトリーの外へと出て居場所を突き止めることは、エーギルさまにとって想定の範囲外だったようである。

 

 『そこに転がっている魚人の執念たるや。別の所でその強い意思を発揮して欲しいものだ。彼らの新天地に丁度良いと思うて保護を願ったが……すまぬなあ、迷惑を掛けて』

 

 はあと盛大に溜息を吐いたエーギルさまは強面魚人四人へ視線を向ければ、目を細めてきっと睨みつける。先程まで情けない視線だったというのに、気持ちの切り替えが凄く早い。気持ちの切り替えの早さを羨ましく私は感じるものの、話を進めなければと再度口を開く。

 

 「いえ。今回は流れで私が対応することになりましたが、次があれば亜人連合国の皆さまが立ち向かうでしょう」

 

 島は亜人連合国の所有地となっているし、島に住む魚人の方たちは亜人連合国所属になっているのだから当然だ。

 

 『無法者に容赦はいらぬ。海の中は広い故に私だけで管理するのは大変だから、協力してくれると有難い』

 

 エーギルさまがディアンさまたちに視線を向けた。エーギルさまから許可を貰えたならば遠慮は必要ないだろうとダリア姉さんとアイリス姉さんが綺麗な笑みを浮かべている。お二人の姿にディアンさまとベリルさまは加減をしろと伝えているが、エルフのお姉さんズは結構腹を立てていたようだ。

 確かに見ていて良い物ではないし、気持ちは分かるけれど……エルフのお姉さんズのお仕置きって凄く怖そうだ。まあお仕置きを経て強面魚人の方が南の島に近づかなくなるなら御の字だろう。盛大にやって貰ってくださいと口にしたい気持ちを我慢していると、エーギルさまの前に小さな波紋が波打った。波紋の真ん中にはなにかがプカプカ浮いている。

 

 『おや、蛸がどうした? お前さん、先程ナイに助けられたのか。なに? 大洋の宮殿に招待したいと。姫の許可は貰ったのか? ――まだなら、ちゃんと許可を取るべきだなあ。勝手に赴いて門前払いされたら、お前さんもナイたちも困ろう?』

 

 エーギルさまの口ぶりから推測すると、先程私が治癒を施して海に戻った蛸さんのようである。どこかに私たちを招待したいようだけれど、主人には許可を得ていないようだ。

 大きなエーギルさまの前で小さな小さな蛸が無言で浮いているのは凄く滑稽な景色である。意思疎通ができるのはグイーさまの世界だからだろう。

 

 『ナイ、蛸になにをしたのだ?』

 

 蛸さんはエーギルさまが差し出した前脚に乗って、うねうねと彼の肩口まで移動した。蛸さんは器用に一本の足を私たちの方へと向けて、くねくねと足を振っている。それに答えようと私が手を振れば、蛸さんは楕円形の頭をくねっと下げた……凄く芸達者な蛸さんである。

 

 「弱っていたので治癒を施しただけです」

 

 エーギルさまが凄く真面目な顔をして私に問うた。問われたことは素直に答えようと私はありのままの事実を伝える。

 

 『蛸が喋れるわけがないだろう。まだお前さんたちとは話せぬが、我と話ができたからな。蛸の知能が急速に発達しておる……ナイ、我にも治癒を施してみぬか?』

 

 「怪我をしていないじゃないですか」

 

 エーギルさまがこてんと顔を傾げているがクロみたいに可愛くない。それに怪我をしていないのに術を施しても意味はないはず。エーギルさまの声に賛同している変態二人がいるけれど、今はスルーを決めておく。

 

 『……嘘、嘘嘘、冗談だ!』

 

 エーギルさまは治癒を施して欲しいと申し出た時は割と真剣だったのに、いきなり否定の言葉を強く述べた。なんだと後ろを振り返ってみるとヴァルトルーデさまとジルケさまが『なんでもない』『前向いて話せよー』と声を上げた。

 他の面々も特に言いたいことや伝えたいことはないようなので、私がエーギルさまとの会話を進めさせて頂くかと先程から頭の中に浮かんでいる疑問を投げる。

 

 「姫という方はどなたですか?」

 

 『海神さまの奥方殿だよ。だが夫婦仲が冷めきっておってな……絶賛別居中だ』

 

 あら、世知辛い。海神さまと姫さまはグイーさまとテラさまのように夫婦仲は宜しくないようだ。太洋の宮殿というのは姫さまが別居のため創り上げた海の中にある城なのだとか。

 なんとも切ない理由で建てられた宮殿だが、力のある魚人や人魚に海の生き物たちがたくさん集まっていて面白い場所だとエーギルさまが仰った。蛸さんは『楽しいし、姫さまも良い方だから紹介すル!』と意気込んでいるらしい。

 

 「許可が下りればの話になりますが、他の方たちが赴いても良いでしょうか?」

 

 私が太洋の宮殿に向かうならば護衛が必須となる。向かう直前に駄目と言われても困るからいろいろと確認を取っておかなければならい。

 

 『特に問題なかろう。向かう人数が増えれば愉快なことになるやもしれぬしな。まあ姫、次第だ』

 

 エーギルさまは割と太洋の宮殿に顔を出しているそうである。気の良い連中がたくさん揃っているとのことで、今回の強面魚人四人を宮殿に連れて行って彼ら四人より強い相手に矯正して貰うとか。強面魚人は強い者が弱い者にどんなことをしても受け入れるべきと主張していたのだから、強面魚人より強い魚人にどんな理不尽な目に合っても受け入れるのだろう。

 

 『それじゃあ一先ず、こ奴らを連れて行こう。姫の許可が下りれば、また島に顔を出す。ではな!』

 

 エーギルさまが私たちが南の島での滞在期間を聞いたあと、縄で縛られた強面魚人を連行するため前脚を伸ばした。身体の大きさが違い過ぎるため、エーギルさまの前脚の出っ張りに強面魚人四人を括りつける。強面魚人はなにか叫んでいるけれど、エーギルさまの『煩いのう』という声で彼らは押し黙る。

 

 弱い者は強い者に逆らうなという本能が彼らの身に沁みついているのだろうか。エーギルさまの肩口にいた蛸さんがうねうね動いて強面魚人へと近づいて墨をぴゅっと引っ掛けた。どうやら先程、理不尽に武器とされた仕返しのようである。また強面魚人が『てめえ!』と声を荒げているが、エーギルさまがまた『煩いのう』と口にすれば、ぐっと堪えて黙り込んでいた。

 

 一先ず強面魚人の一件は終わったと言っても良いのだろう。亜人連合国の魚人の方も息を吐いてホッとしている。今回のことは災難だったけれど、エーギルさまが見回りを強化してくれるので他の野蛮な魚人が島に近づく可能性は減るはずだ。

 

 「なんだか凄いことになりそうですね。まあ、許可が下りればの話ですが」

 

 私が後ろを振り向けば、呆れ顔を浮かべる面々と楽しそうな顔をしている面々が綺麗に別れていた。

 

 「楽しみ」

 

 「まだ行けるかどうか分んねえからな、姉御」

 

 ヴァルトルーデさまは大洋の宮殿に既に赴く気でいるようで凄く興味深そうに水平線の彼方を見つめていた。ジルケさまは子供のような反応を示している長姉さまに釘を差しているが、きっと赴くことになれば彼女も付いてくるのだろう。

 一応、他の方たちが行っても良いか問うたのでエーギルさまが姫さまに沢山の人間が参加する可能性があると伝えてくれるはず。しかしまあ、蛸さんが言い出しっぺとはこれ如何に。

 

 「なんだか凄いことになったわねえ」

 

 「本当にナイちゃんがいると話題が尽きないね~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんも面白そうな顔になっている。太洋の宮殿がどんな場所なのか、そしてどんな方が住んでいるのか気になるらしい。話題が尽きないということは暇ではないということなので有難いが、ゆっくりと休暇を過ごすつもりがいつもなにか起きている。

 

 しかし宮殿の主は海神さまの奥方で絶賛別居中とは凄く意外であった。グイーさまとテラさま夫婦のイメージが強くて、神さま方夫婦関係は良好なのだろうなと勝手に思い描いてしまっていた。まあ、そういうこともあるのだろうと一人納得していると、副団長さまと猫背さんがずいと私へ顔を近づける。

 

 「僕たちも参加して良いでしょうか」

 

 「興味、ある」

 

 お二人は駄目だと言っても、なんだかんだと尤もな理由を付けて一緒に赴くことになりそうだ。それならば最初から護衛としてついてきて貰う方が手間がない。彼らが参加できなければ、大洋の宮殿での出来事を根掘り葉掘りと話を聞かれることになるのだから。私がふうと息を吐けば肩の上のクロとジークとリンが大丈夫と問うてきた。ディアンさまとベリルさまも心配そうに私を見ているので『大丈夫』と視線で返しておく。

 

 「また交流が増えそうだな」

 

 「ええ。エーギルさま以外に海竜さまがいらっしゃると嬉しいですわ!」

 

 ソフィーアさまは仕事だと判断し、セレスティアさまは仕事兼趣味を全開にしていた。海との交流となればお仕事の範疇に入るから、報告役としてお二人には同行をお願いしたい。

 

 「ナイさま、申し訳ないのですが外務部として一緒に赴いても良いでしょうか?」

 

 「海の中で仕事とは驚きですが……エーリヒを一人で行かせるわけにはいけませんしね。僕も彼と一緒に外務部の一員として同行いたしたく」

 

 エーリヒさまとユルゲンさまも事情を慮ってくれて仕事として赴きたいと仰ってくれた。もしかして、私が太洋の宮殿でなにかしら仕出かすと皆さまは考えていらっしゃるのだろうか。失礼なと言いたいけれど、なにも反論できないのでよろしくお願いしますと素直に頭を下げるのだった。

 

 ◇ 

 

 蛸さんに大洋の宮殿に招待されることになったことを黙っておくわけにはいくまいと、コテージに戻ってから同行していなかった面子に集まって貰い経緯を伝えた。コテージの談話室は結構な人数となっており密度が高いけれど、気にしては駄目である。

 窓からはルカとジアとジャドさんが興味深そうに顔を覗かせているし、戻ってきたヴァナルと雪さんたちも部屋でちょこんと座って私の話を聞いてくれるようである。

 

 「凄いです、ナイさま!」

 

 「また新しい交友を築かれておりますわ」

 

 アリアさまとロザリンデさまが感心しているが、高頻度で繋がりが広がると凄く対処が大変になるはずである。アルバトロス上層部にも報告しなくてはならないし、亜人連合国との連携も取らなければならない。

 

 「はい?」

 

 「え?」

 

 「……」

 

 フィーネさまとアリサさまとウルスラさまは目を丸くしながら驚いていた。どうにも海の中に住む方々とも私が関係を持つとは考えていなかったようである。他の男性陣も概ねフィーネさまたちと同様の反応だった。

 クレイグとサフィールは私のやらかしに慣れているのか苦笑いで済ましているが、ギド殿下とマルクスさまは目を点にしていた。私だって治癒を施した蛸さんに姫さまが住んでいるという宮殿に招待されるなんて全く考えていなかったけれど。私たちが太洋の宮殿に辿り着けば、助けた亀に連れられて竜宮城に赴いた浦島太郎のようになってしまうのだろうか。この辺りの心配はエーギルさまがなにも告げていなかったので、大丈夫だと信じたい。

 

 「お嬢ちゃんは本当になにか引き起こしますわね」

 

 「海の者たちに気に入られようとは」

 

 ナターリエさまとエーリカさまも信じられないというような顔で私に視線を向けていた。ヴァルトルーデさまとジルケさま曰く、海の方との交流は全くなかったため海に神さまがいることを把握していなかったとか。

 詳しいことはグイーさまに聞けば良いと話を持って帰ってきているのだが、肝心のグイーさまに問いかけてみても、クマのぬいぐるみに呼び掛けても反応がない。最終日前に分身体を寄越すため力を溜めておくと仰っていたためだろうか。お酒に酔って寝ているだけかもとは四女神さま全員の見解である。

 

 「しかし助けた蛸から請われるなんて、蛸は凄くナイさまに感謝しているのですね」

 

 アリアさまの純粋な視線に耐えられなくて私は目を逸らしてしまった。もし蛸さんがお亡くなりになっていれば供養ついでに食べてみようと一瞬考えていたなんて、口が裂けても言えなくなってしまった。クレイグとサフィールは彼女の夢を壊すなと言いたげな私に視線を送っていた。やはり口にはできないと、アリアさまにどうにか視線を向ける。

 

 「そうですね。まさか蛸さんが私の治癒を受けて感謝を示してくれるなんて驚きです」

 

 本当に蛸がお礼のために宮殿にきて欲しいと願い出てくれるなんて誰も考えない。現に女神さま方も亜人連合国の皆さまも驚いているのだから。ウッキウキで楽しみにしていますと言いたげな副団長さまと猫背さんは別である。

 

 「ですが、宮殿の主さまからは返事を頂いていないので、まだ仮の話となります。島の滞在期間中であれば同行者を募ろうかなと。まあこれも城の主さまの返事次第ですけれど」

 

 私の言葉にアリアさまがわあと嬉しそうに目を開き、他の面々はマジかみたいな表情で私を見ていた。ふいに真面目な顔になっているギド殿下が片手を小さく上げたため、私は彼に頷く。

 

 「ナイ殿、水の中でどうやって息をするのだろうか? 我々人間では一分も息が持たないはずだ」

 

 ギド殿下が発言権を得たとばかりに口を開いた。アルバトロス王国やリーム王国に聖王国も内陸国家である。川はあれど海はなく、泳ぐ機会なんて一生ない方が殆どだろう。

 子供の頃、お風呂の中で何秒息を止められるかと施設の仲間たちと競争したことがあるのだが、そういうこともこの世界では起こり得ない。下手をすれば十秒も息を止めていたらパニックに陥る可能性がありそうだった。とはいえ今いる世界は魔法や魔術がある世界。解決方法はいくらかある。

 

 「ヴァルトルーデさまとジルケさまは大洋の宮殿に赴くので、神力で私たちが息をできるように解決してくれるそうです」

 

 私がヴァルトルーデさまとジルケさまに視線を向けると、一柱さまはドヤ顔になり、もう一柱さまは後ろ手で頭を掻いている。

 

 「任せて」

 

 「あたしらはどうとでもなるが、人間だと息ができなきゃ死ぬからなあ」

 

 本当に困った時の女神さまというか、なんというか。エーギルさまによれば人間を招待するために息が続く道具があるそうだが、姫さまに嫌われると一瞬で効果がなくなってしまうとのこと。

 大昔、姫さまが気まぐれで大洋の宮殿に招待した方が居心地の良さに居着いてしまい、陸へと戻らない人間に痺れを切らして道具の効果を切ったとか。私たちを招待してくれるのは有難いけれど、効果がいつ途切れるか分からない代物を頼れるはずもなく。最悪の場合は私が障壁を張ろうとも考えたが、太洋の宮殿が深海にあるとすれば水圧に耐えられるか心配だった……皆さまに話をすれば、ヴァルトルーデさまが『ナイなら大丈夫』と仰ってくれたけれど。

 

 とりあえずエーギルさまからの返事待ちであり、島の滞在期間中であればエーギルさまに連れて行って貰うこと。島の滞在期間が過ぎていれば改めて大洋の宮殿に赴くことを皆さまに伝えるのであった。

 

 ――次の日。

 

 ギド殿下とマルクスさまとジークは泳げないのは問題だと考えたようで、泳げるエーリヒさまに教えを乞うようである。男性陣がほぼ集まったならばクレイグとサフィール、そしてユルゲンさまも泳ぎの練習を行うとのこと。

 

 私は手伝おうかと言いたいけれど、喉から出かかったものをぐっと堪えた。一応、侯爵位を賜っているのだから休暇中とはいえ男性の手を握るのは憚られる。それに婚約者が決まっている方もいるので粗相はできない。

 

 ならば女性陣も泳げるようになろうと、海で泳いでみたい面子を誘って浜辺へと繰り出していた。ちなみに男性陣と女性陣は綺麗に別れており、かなり遠くの方で男性陣が泳ぎの練習をしている姿が見えている。少しフィーネさまが残念そうにしているけれど、最終日付近になればゆっくりとできる機会が増えるはず。彼女はエーリヒさまとお付き合いをしているものの、聖王国では機密扱いだから、こういう時しか羽目を外せない。もちろん常識の範疇で。

 

 時間が捻出できれば良いけれどと私は遠くの男性陣から側にいる女性陣へと視線を変えて、目の前の方々に疑問を問う。

 

 「どうして女神さま方が?」

 

 私の目の前には四柱さまが立っている。泳ぐために随分と薄い服になっており、身体のラインがくっきりと見えていた。羨ましいし、他の女性陣も身体のラインが見えているので男性がいれば鼻血ものの光景だろう。

 

 「泳げない。練習する」

 

 「泳ぐなんて発想がねえからな。せっかく教えてくれるっつーなら、泳いでみてえじゃん」

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまは泳ぐ気満々のようである。誰が教えるかは、前世で水泳経験のあるフィーネさまか私となるが、女神さまへ教えるとなれば私一択となる。まあ、泳いでみたいという気持ちを否定するのは酷いし、やる気があるならば泳げるように最後までお付き合いしよう。しかし息ができなくても問題ないはずではなかったのだろうか。

 

 「えっと海の中に入って息ができなくても問題ないんですよね?」

 

 「問題はないですが、興味がありますわ」

 

 「ええ。だからこうして暑い日差しの中、浜辺にまででてきたのですから」

 

 ナターリエさまとエーリカさまが答えてくれる。二柱さまはヴァルトルーデさまとジルケさまのように外出を頻繁に行わない。不思議に感じて二柱さまに直接聞いてみたことがあるのだが、陽の光で肌が焼けるのが嫌なのだとか。

 女神さまなのだから肌の色が変わっても神力で直せるのではと問えば『面倒』と一言の返事で済まされた。多分、元々の素質というか性格によるものなのだろう。姉妹なのに微妙に性格が違うのはグイーさまの趣味だろうか。

 

 「ナターリエさまとエーリカさまは泳ぐ気はないでしょう?」

 

 私が顔を見上げながら問えば、二柱さまは当然と言いたげであった。

 

 「もちろんです。おチビちゃんが愉快な姿を見せてくれないかと期待しておりますもの」

 

 「ええ。きっとわたくしたちを楽しませてくれますわ」

 

 どうやら二柱さまは泳がずに浜辺で末妹さまの雄姿を見守るようである。少し離れた場所には東屋が現れており、ナターリエさまとエーリカさまはソコで時間を過ごすようだ。疲れたならば誰でもいらっしゃいと仰っているけれど、果たして東屋を利用する方は現れるのか微妙な所である。

 おそらくヴァルトルーデさまとジルケさまのみになりそうだなと苦笑いをしつつ、暑いことには変わらないので二柱さまに向かい私は口を開く。

 

 「見学は構いませんが、暑さには気を付けてくださいね」

 

 私が侍女の方に冷たい飲み物を用意して貰いましょうと伝えれば、ナターリエさまとエーリカさまが綺麗に微笑んだ。大したことではないが嬉しかったようである。

 

 「ナイ、妹に甘い」

 

 「北と東の姉御なら陽の光に当たろうが、マグマに触れようが怪我一つしねえ……あだだだだだだ!」

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまが二柱さまの横で珍妙な顔になっていた。些末なことなので甘いもなにもないのだが。一体ヴァルトルーデさまとジルケさまはなにが駄目なのか。

 しかしヴァルトルーデさまの発言はスルーされるものの、ジルケさまの言葉はナターリエさまとエーリカさまにとって聞き逃せなかったのだろう。エーリカさまが無表情でジルケさまの両側のこめかみを握り拳でぐりぐりしている。

 結構痛いようでジルケさまの目尻には水が溜まり始めているが、ヴァルトルーデさまはジルケさまを放って『みんな、行こう』と仰った。西の女神さまに言われては逆らえないと私たちは波打ち際を目指す。

 

 「東の姉御、痛ぇ、痛いっての! って、おい! どうしてあたしを放置するんだ! 助けろよ!!」

 

 ジルケさまが右手を伸ばして助けを求めている。ウルスラさまがヴァルトルーデさまについて行くべきか、ジルケさまを助けるべきか迷っていた。とはいえ女神さま方に声を掛け辛いようで、泣きそうな顔になっている。私は仕方ないと片眉を上げてげんこつぐりぐりしているエーリカさまに苦笑いを向ける。

 

 「エーリカさま。本気で痛そうです」

 

 「ナイが言うなら仕方ないのでしょう。おチビちゃん、次があれば……分かっているわね?」

 

 私の言葉にエーリカさまが小さく息を吐いてジルケさまに向けていたぐりぐり攻撃を止めてくれた。ジルケさまは深く息を吐き、鼻をずびっと啜っていた。なにも見ていなかったことにしようと私はナターリエさまとエーリカさまに頭を下げて波打ち際に赴く皆さまのあとを追う。

 ウルスラさまにも行きましょうと頷けば、彼女は私に小さく頭を下げた。気にしないで欲しいと目線で伝えていると、ジルケさまも『痛え。マジで本気だった』と零しながら波打ち際を私たちと一緒に目指す。

 

 さて、急に海の中に入るのは危ないと私とフィーネさまは皆さまに準備運動をしましょうと声を掛ける。

 

 次は水着を用意したいけれど……果たしてこの世界の水着はどんな品だろうか。その前に水着を取り扱っているお店はあるのだろうかと準備運動をしながら、いろいろと考え込むのだった。

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