魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
障壁で国を守っている所為なのか、随分とのんびりとした国だった。時折遭遇する魔物も他国で出現している個体より随分と弱く、生息数も少ない。
この国では冒険者が必要とされていないという理由を、少しだけ理解した気がする。ただ同業他社が居ないのはチャンスである。ドラゴンを探し当て屠り、魔石を手に入れる。そうして知名度を上げてSランクパーティーへの道筋を付ける。
王国内に一度入るとあとは緩かった。街に入っても、入場料だけを求められ『冒険者だ』と伝えると冒険者カードの提示だけを求められる。冒険者が珍しいようで、不思議そうな顔をされるが、それだけだ。
ハーフエルフも奴隷だと伝えると、管理はきちんとお願いいたしますと言われるだけ。ドラゴンを探す為に街へと入り冒険者ギルドを探すが、この国はギルドの数が少なく格安で寝泊まり出来る場所が少ない。仕方なく街の安宿に泊まったり、時には野宿をしたりの生活が暫く続く。
『トーマさま、あちらを見てください』
ドラゴンを探す為に王国内をウロウロとさ迷っていた。季節は春の終わり木々の先には若芽が出てくる時期だった。
『フェンリル。――寝ているな』
まさか魔獣に出会えるとは。しかもぐっすりと寝ているようで、俺たちが近寄ったことに気が付いていない。流石、魔物の質が低い国である。魔獣もどうやら質が悪いようだ。ただ目の前の魔獣は他国では厄介な存在として認知され、討伐難度も高く設定されている。
――チャンス。
この機会を逃せば、今後は出会えないような千載一遇のタイミングである。双子に認識阻害の魔術を掛けるように指示を出し、フェンリルの真横に生い茂っている大木へと音も立てずに上る。ふう、と逸る心を抑えて落ち着く。殺気を出せば気付かれ、殺される未来を幻視する。大剣を構え木から飛び降り、全体重を掛けて一気にフェンリルの下へ。
かちり、と歯が鳴る音がした。
『――っ!』
気付かれた。認識阻害の魔術を掛けているというのに、歯が鳴った音程度の小さな音で。ただ相手も俺に気付くのが遅かった。重力と俺の体重に大剣の重み。傷を与えるには十分な要素だったが、気付かれたことによって急所狙いから外れて、足へと刺さる。
悲鳴を上げてのたうち回るフェンリル。どうにも正気を失ってしまったようで、森の中で無意味に暴れまわっていた。
『近づくのは悪手だ。放って弱るのを待つ』
魔獣フェンリルは上位ランクのパーティーが数チームが集まり狩る得物だ。たった三人で相手をするには辛い。
『流石トーマさま!』
『本当に!』
『行くぞ。転移場所を覚えておけよ』
本命はドラゴンだ。こいつはドラゴンを探し当てたあとに、またここへと戻ってくればいいだろう。フェンリルは縄張りをもっていて、ドラゴンのように飛び回ることはないから心配はない。
双子が使う転移魔術は一度訪れた場所でなければ、使えない代物だった。未知の場所には行けないので、こうして目的の場所があるのならば足を運ばなければならない。ただ訪れさえすれば、あとは好きに移動できる。制限はあるが便利なものでもあった。俺も魔術を使えれば良かったのだが、生憎と魔術師としての素質はない。
が、魔力を外に放出出来ない分、肉体の強化に魔力を回しているようで、前衛として申し分のない動きが出来る。俺の背は奴隷に任せればいい、奴隷印を施しているから逆らうこともないのだから。
そうして王国をうろつくこと数週間。大陸を越えていることを危惧していたが、ようやく目的のドラゴンに出会えたのだ。
地面に伏せて静かに息をしているドラゴン。有名な冒険者が一度ドラゴンに遭遇したと興奮気味に語っていた事を思い出す。命の塊だったと言っていた。その姿は巨大で力強く、口から吐き出すブレスはなんでも焼き払い溶かすのだ、と。
――所詮は噂か。
目指すは竜の心臓があると言われている右前足の付け根部分。大剣を構えて走り出し、鎧が擦れる音がしてもドラゴンは気付かない。
そうして走る勢いと大剣の自重に俺の全体重を乗せた一撃は、ドラゴンの身体に突き刺さる。更に深く差し込もうと、身体強化を双子に頼んだ。
『――っく!』
雄叫びなのか悲鳴なのか分からない鳴き声を出しながら、暴れるドラゴンに必死にしがみついて堪える。
『Sランクパーティーに俺は……なるっ!!!』
気迫の叫び声を上げて、俺を振りほどこうとするドラゴンの動きに耐えていると、ぱたりとまた地面へと伏せるドラゴン。
倒した……のか……。暫く離れて観察するが、動く気配がない。近づいていきなりブレスを吐かれてはひとたまりもないと、念のためもうしばらく待ってみる。
『そろそろいいか』
全く動かなくなっているドラゴンに近づいて俺の得物を手にする。
『ぬ、抜けないっ! なんで抜けねえっ!! おい、俺を強化しろっ!』
強化の魔術を掛けてもびくともしないし、抜ける気配が全くない。
『腐るまで待つか。魔石も回収せにゃならんし、俺の剣も金が掛かっているからな』
俺の大剣は名のある鍛冶師に特別に打ってもらった。当然、高い金が掛かっており市場になんて出回っておらず、簡単に手に入るものではない。暫くは量産品の両刃の剣で我慢するしかないと、その場を去る。
――数か月もすれば腐り落ちる。
森の奥深く。人間の往来はないといっても過言ではないが、念の為にドラゴンの周囲に認識阻害の魔術を掛け、その場を去る。
そうして月日が経ってあの場へと向かったというのに。どうして騎士団や軍の人間が居るんだ。
ドラゴンの死骸は消え去っていた。肉を好む魔物が喰ったのだろう。骨が見当たらないことに違和感を覚えるが、どうでもいい。俺の大事な得物と魔石を回収して、ギルドに報告をするのだ。ドラゴンを倒したぞ、と。
『俺のモノに勝手に触ろうとするんじゃねーよ、餓鬼』
大事な得物に勝手に触ろうとする餓鬼を止める為、声を上げたのだった。
◇
国に仕える軍人に騎士? 聖女? 貴族? それがどうした。個人で命を掛け脅威である魔物を倒す冒険者の方が、余程この大陸に貢献しているじゃないか。
俺がAランクパーティーだと伝えても、この国の連中は驚きも何もしない。流石、障壁を張って閉じこもっている連中。他の国ならば『Aランク!? 凄い!!』となるのが普通だというのに。
聖女と名乗った黒髪黒目の女の前へ、派手な巻髪が特徴の女が出てきて俺に被害の賠償を求められたが、なんでそんなことをしなきゃならない。ドラゴンを倒したのは俺なのだから、褒め称えるのが普通だろ!
何故、俺が悪いと一方的に責められねばならない。これじゃあまるで仕事で失敗した俺を責め立てた嫌いな上司と一緒じゃないか。ゲームでミスした俺を責める、有名プレイヤーと一緒じゃないか。
――ふざけるな!
俺はキチンとやったんだ。それでミスしたくらいで何故責める。道理を説いて諭そうとする。俺は生来そういうものが大嫌いなのだ。
ずっと抑圧されてきた。元の世界のルールよりも、この世界のルールの方が俺の性分には合っていた。冒険者になってからは猶更だ。強い奴が正義。単純明快なルール、分かりやすい。それでいいじゃないか。
本当にいちいちうるせえ……。
すっと片腕を上げる。双子の奴隷に何か攻撃を仕掛けろという合図だった。
『セレスティア、避けろっ!!!』
赤髪の男が特徴的な巻髪の女を守ると、男の腕に矢が刺さった。女自身に傷を入れられなかったのは残念だが、仕方ない。女に手を出したことが不味かったのか、場の雰囲気が一変する。
状況は好転という訳ではないが、俺に注目が集まっているのが心地よい。双子にも注意を払っているが、俺の方が相対的に多い。そうしてまた違う女が出てくる。正直、そそる女だった。巻髪の女もよく見れば、とんでもない美人だ。
赤髪の男を心配している様子だが、奴隷が放った矢をまともに捌くこともなく女をまともに守ることが出来ないヤツには勿体ないそうしてまた別の目立つ赤髪の女。傍にも背の高い赤髪の男が居るが、顔が似ているのできょうだいだろうか。まあ、それはどうでもいい。
俺のパーティーに組み入れば、更に高みを目指せるな。そのくらいに女どもの魔力が高い。黒髪の餓鬼は平凡程度で雑魚。相手にはしない。自身の容姿が良いのは理解しているし、Aランクだと名乗れば大抵の女は落ちる。ただ今まで出会った女どもは冒険者として活躍できる魔力量は有していなかった。
が、目の前の三人の女はどうだ。十二分な量を所持している。だから俺のモノになれと誘う。
しかし……俺の事を『坊や』と抜かして邪魔をする奴が現れ体内にある魔力を練り、魔術を発動させようとする。
――なんて馬鹿魔力!
双子の奴隷の言う通りだ。目の前に仲間を守るように立ちはだかった銀髪スカシ野郎の魔力は尋常じゃねえ……。
たらりと汗が背に流れるのを感じ、撤退という二文字が頭に浮かぶ。勝てるビジョンが浮かばない。仕方ない、一度下がってタイミングを計るしかない。あいつらの移動中や就寝中を狙えば、まだチャンスはある。
魔石の回収も大剣も戻っていないのだ。適当にとんずらをして一夜明け、更にもう一度夜が明ける。アルバトロス王国の東の端で野宿をしながら、機会を狙っていた。
「久しぶり。とうとうやってしまったんだね、トーマ。残念でならないよ」
そうしていけ好かない男とその仲間たちが、俺の目の前に現れた。Sランクパーティーを追い出された時より、装備の質が更に良くなっている。
「……なんでお前が俺の前に立つ?」
俺はお前らに追い出されて、装備の更新なんて出来ていないんだぞ。しかも手切れ金で貰った金は、そろそろ底をつく。
「本当はこんなことしたくはないけれど、他の人たちに捕まったら君の命がないだろうから……僕がギルドに『冒険者狩り』をさせてくれと申し出たんだ」
「……冒険者狩り?」
「覚えていないのか……僕たちは君に冒険者手引きは読めと何度も言ったはずだよ。それを君は僕たちが居るから大丈夫だと言っていたけれど、ソロになってからも読んでいないのか……」
はあと仰々しくため息を吐く元パーティーメンバー。双子の奴隷は状況を理解しておらず、目を白黒させている。俺が何も言わないので、行動にはしないだろう。ただこういう時くらいは機転を利かせろと思わずにはいられない。
「冒険者狩りはね、ルールを破った者を制裁できる自浄作用みたいなものだよ。――ギルドの許可さえあれば、見せしめで首を落とすことも可能だ」
ゆっくりと目を瞑って言葉を続ける男。
「今回は生け捕りが条件だから他のチームも無茶はしないと思うけど……。けれど君のやったことは他の冒険者に取って迷惑でしかない。冒険者やギルドそのものの価値を貶めた」
「俺のやったことが何故悪い! 昇格する為に頭を使って命を張る! それが冒険者だろう!!」
「間違えてはいないけれど……そこには条件やルールがある筈だよ。そこから外れてしまうと煙たがられるのは君も理解しているんじゃないのかい?」
「はっ! そんなものを気にして冒険者なんてやってられるかよ!! 富と名声だけありゃ十分じゃねえか!!」
「そうだね、そういう考えでも僕は良いと思う。――でも君のしたことは到底許されるものではないよ」
「相変わらずの優等生振りだな」
こういう人種は嫌いだ。俺に合わない。
「ギルドから聞かされたけれど、討伐依頼が出ていないドラゴンを倒して放置し、あまつさえその場に居合わせた騎士や軍、果ては聖女さまに貴族のご令嬢に危害を加えようとしたって」
俺がやったことの全てが知れ渡っている訳ではないようだ。
「ただ君の事だ。他にも何かやらかしているんだろうね……」
「だったらどうしたよ?」
「どうもしないよ。僕は私刑が嫌いだからギルドからの条件に従うだけ。他の人たちでなくて良かったね。感情に任せて君の命がない可能性だってあったんだから」
「は? そんな連中蹴散せばいいだけじゃねーか!」
「はあ。トーマ、君の素行をきちんとギルドへ報告して少しでも情報を渡しておくべきだったよ。でも後悔してももう遅いし、どうにもならないけれど――みんな」
その言葉と同時に奴隷の双子目指して突貫しようと、優男以外の連中が一歩足を踏み出すのだった。
うーん。上手く設定が出来てない気が……orz