魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0632:バーベキュー大会。

 ――今日はお昼から夜までバーベキューを開催する日である。

 

 明日はアルバトロス王国に帰還するため、今日は南の島最後の一大イベントとなるだろう。バーベキューで焼くお野菜さんを切っている最中なのだが、ヴァルトルーデさまが真剣な眼差しでまな板の上に視線を釘付けにしている。

 誰が持ち込んだのかマンドラゴラもどきが『さあ切ってください!』と言わんばかりに彼女のまな板の上に寝転がり微動だにしないのだ。普段であればダリア姉さんとアイリスねえさんが微笑みを浮かべながら『びゃあああああああああ』と叫ぶマンドラゴラもどきを切っているというのに、女神さま相手だと身を――実かも――差し出してしまうようだ。

 

 「ナイ……切って良い?」

 

 ヴァルトルーデさまがまな板の上から視線を外して私を見た。マンドラゴラもどきは微動だにしないから危なくないはずだし、挑戦して慣れないと包丁の扱いは上達しない。

 

 「遠慮なくいきましょう」

 

 私の言葉に周りにいた皆さまが『なんてことを!?』と驚いているが、安心して欲しい。アルバトロス王国の筆頭聖女さまと筆頭聖女補佐さまに聖王国の大聖女さま二人と聖女さまがいるのである。

 私も一応聖女だし、ダリア姉さんとアイリス姉さんもいる。治癒魔術や魔法の使い手がいるのだから、指がちょん切れてもなんとかなりそうな面子であった。手本は先程見せた所――人参さんを私が切った――だし、なにも迷うことはあるまい。

 地球の日本のように子供用の包丁があれば安心だけれど、ないものは仕方ない。ヴァルトルーデさまは前よりも綺麗にお野菜さんが切れるかなと眺めていると、私の肩の上のクロが息を呑む。そして周りにいる皆さまも、ヴァナル一家とエル一家とジョセさん一家もヴァルトルーデさまの一挙手一投足に視線が釘付けになっていた。

 

 「猫の手。ゆっくり、落ち着いて」

 

 ヴァルトルーデさまが念仏のようになにかを唱えながらマンドラゴラもどきに包丁を入れる。マンドラゴラもどきは叫ばないまま、すぱっと綺麗に輪切りにされていく。切っているご本神さまは以前より成長を感じられるのか、少し表情が明るい気がした。西の女神さまが喜んでいると分かったのか周りの皆さまが息を吐いていた。ジルケさまとナターリエさまとエーリカさまも長姉さまを見て、なんだか嬉しそうである。

 

 「まあ、姉御が楽しいならなによりだ」

 

 ジルケさまは肩を竦めながら、どんどん輪切りにされていくマンドラゴラもどきに視線を向けたままである。私は彼女の顔を見ながら、ふと言いたいことを口にした。

 

 「ジルケさまは食べるの専門ですよね」

 

 ジルケさまがヴァルトルーデさまのようにお野菜を切ったり、なにか準備をするということはない。恐らく手伝っても周りの人たちが遠慮して楽しくないか、女神さまに恐縮しっぱなしで碌に動けなくなることを分かっているのだろう。

 だからアストライアー侯爵家の調理場でも見ることに徹しているし、今もヴァルトルーデさまを手伝おうとは少しも考えていないようである。ジルケさま同様にナターリエさまとエーリカさまも見ているだけだから、ヴァルトルーデさまが例外かもしれないが。

 

 「ナイもだろ」

 

 「私はお野菜切ったり、いろいろと準備していますよ。やり過ぎると皆さまが気を使って止めますが……」

 

 確かに私は食べることを趣味としているけれど、食べるだけではない……はず。今回だってお野菜さんを用意するし、腸詰めにハムやチーズも持参しているからロゼさんから受け取って盛り付けをしなくちゃならない。

 盛り付けは私のセンスが反映されるからあまり良くないけれど、なにもせずポンと出すよりは良いだろう。しかし私が動き過ぎると侍女の方や料理人の方たちから『ご当主さまはそろそろお休みください。あとは我々がご用意致します』と止めに入られることがしばしばある。そんなに動いていたつもりはないが、彼ら的には問題のようなので止められたら素直に言うことを聞いている。

 

 「あ」

 

 ヴァルトルーデさまがふいに声を上げた。どうやら包丁で指を切りそうになったようである。ただ彼女は危ないと小さく息を吐き、気を取り直してマンドラゴラもどきの輪切り作業を続けている。指を切りそうになったご本神さまより、ウルスラさまが青い顔をしてヴァルトルーデさまに視線を向けていた。

 そんな彼女にナターリエさまとエーリカさまが『気にし過ぎよ、お嬢ちゃん』『ええ、姉さまですもの。頭と胴体がお別れしても生きておりますわ』とフォローを入れている。トンチキなフォローだった所為かウルスラさまが二柱さまにどんな言葉を返せば良いか迷っていた。それを見かねたアリサさまが『女神さまは凄いのですね』と微妙な返事を送っていた。今日も今日とて愉快な会話が飛び交っていると私が目を細めれば、ジルケさまが口を開く。

 

 「血の海になったら食い気失せるだろ。だから、あたしはやらねえ」

 

 彼女が続いて姉御は危なっかしいなと呟き、私と視線を合わせたあとエーリヒさまの方を見た。

 

 「ま、適材適所ってやつだ。あたしが料理したって美味いもんを作れる気がしねえし。つかエーリヒは器用だよな。あれ、手を切りそうだ」

 

 「確かに危なそうですよね」

 

 エーリヒさまはドワーフの職人さんに特注で作って貰ったスライサーでお肉を薄く切っている。前世でスライサーを使ってブロック肉を切ったことがあるのだとか。まあ、スライサーの原理をエーリヒさまに聞いてドワーフの職人さんに発注を掛けたから、仕組みを知っていて当然である。

 ただ難なく使いこなしていることに感心するし、本当に料理男子だったのだなあと目を細めた。彼の側ではフィーネさまが興味深そうに視線を向けており、少し離れた場所でユルゲンさまとギド殿下が微笑ましそうな視線を向けている。

 マルクスさまは二人の隣で首を傾げながら、貴族なのに何故スライサーを使いこなしているんだと疑問に感じているようだった。ジルケさまはエーリヒさまから視線を外して、危なっかしそうにマンドラゴラもどきを切り続けているヴァルトルーデさまの様子を伺いに行った。

 

 私は側で大人しくご飯の用意ができるのを暇そうに待っている毛玉ちゃんたちに視線を向ける。私の視線を感じたのか、伏せをしてお休み態勢を取っていた毛玉ちゃんたちが一斉に顔を上げた。私がなんでもないよと首をゆっくり左右に振れば『ちゅまんない』『はにゃくぎょはん』『おにきゅー』と声を上げる。待たせてしまって申し訳ないけれど、島で開催した徒競走の景品を彼女たちに渡す日だ。

 

 「桜ちゃんたちのご褒美のお肉も切って頂かないと」

 

 桜ちゃんには一等賞のお肉が待っている。流石に生肉はお腹を壊しそうなので火を入れてから渡す予定だ。牛のブロック肉から大きく切り取って頂かねばと料理人さんを見れば、任せてくださいと言いたげだった。

 

 「サクラ、楽しみにしてたからね」

 

 「そういえば、カエデとツバキに渡すおやつはできたのか?」

 

 リンとジークが私の隣で声を上げる。数日前から桜ちゃんは『おにきゅ、おにきゅ!』と言っていたし、楓ちゃんと椿ちゃんも『おやちゅ!』『たのちみ!』と私に訴えていた。私がおやつを作っている最中も彼女たちは興味深そうに見ていたし、きちんと約束を守って待ってくれていたから本当に可愛い仔たちである。

 

 「うん。どうにかできたよ。湿気が多くて大丈夫か心配だったけれど、猫背さんが即興で乾燥機を作ってくれたから」

 

 牛胸肉を薄く切って低温乾燥機に突っ込んで七時間~八時間突っ込んでいただけの、凄く簡単なジャーキーだけれど。今回ドワーフの職人さんが用意してくれたスライサーも活躍――エーリヒさまが切ってくれた――したので万々歳である。

 あとは楓ちゃんと椿ちゃんが喜んでくれるかどうかだけである。あと猫背さんには感謝だ。魔石を使って密封した箱の中で七十度から八十度の低温を維持できるようにと誂えてくれたのだ。

 これくらいなら簡単と彼は言っていたが、魔術具作成は私ではできないことだし有難い。副団長さまは見せ場を奪われたと少し拗ねていたようだけれど。そんな愉快なお二方はギリギリまで島の探索を続けるそうだ。今頃森の中でいろいろな動植物を見つけて観察したり、珍しいものが見つかれば良い顔で語り合っているのだろう。

 

 「美味いと良いが」

 

 「ね」

 

 ジークとリンが私が作った手作りジャーキーの味を気にしていた。

 

 「味付けしていないから人間が食べると物足りないかもね」

 

 おそらく人間用ではないから私たちが食べても美味しいと感じることはないだろう。人間用にするなら塩胡椒を使えば食べられる味になるだろうか。また作る機会があれば人間用に作ってみよう。

 

 椿ちゃんと楓ちゃん用のジャーキーは袋に包んでいる。フィーネさまが可愛いからとリボンを付けてくれたのだが、果たして彼女たちはリボンに気付いてくれるのか。まあ、桜ちゃんのお肉を焼く時に分かるだろうと苦笑いを浮かべながら、野菜切りに四苦八苦しているヴァルトルーデさまの横に並び私もお手伝いに加わった。他にはアリアさまとフィーネさまが手伝ってくれ、ジークは火を熾してくると言い残しギド殿下とマルクスさまたち、ようするにエーリヒさま以外の男性陣の下へと歩いていく。

 

 ご令嬢の皆さまは手伝いに参加――包丁を扱ったことがないので不参加が無難――しておらず、各々、自分でできる小さなことを見つけて作業を開始していた。暫く時間が経てば亜人連合国の皆さまもコテージへとやってきた。荷物を結構抱えているけれど、一体何を持ってきてくれたのだろうか。

 

 「ナイちゃん、みんな、お待たせ」

 

 「魚人から魚を貰ったよ~今朝獲ってきたって言ってた」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが籠の中に入ったお魚さんを見せてくれる。私が籠の中を覗くと、お魚さんの目が白く濁っていない。本当に新鮮なお魚さんなのでお刺身で食べたい気持ちが湧いてくる。

 ただ最終日に近いしお腹を壊せば、飛竜便の竜のお方に迷惑を被る可能性があるので焼き魚が無難だろう。バナナの葉っぱでくるんで蒸し焼き――バターやフソウ酒を持参している――にもできそうだし、塩釜で焼いたお魚さんも良さそうだ。

 

 「ダークエルフからは果物の差し入れだ」

 

 「良い品を選んできましたから味は保証しますよ」

 

 ディアンさまとベリルさまが結構な量の果物を軽く持ち上げた。凄いなあと感心していると彼らも中身を見せてくれる。島バナナにマンゴー、南国特有の果物が揃っているのできっと甘くて美味しいだろう。

 お肉を食べないクロたちのご飯と私たちのデザートになりそうだ。お酒を飲める方々にはワインとフソウ酒にヤーバンのお酒、アガレスのお酒といろいろ揃えているので飲み比べても楽しいだろう。さて、みんなと食べることを楽しみにしているグイーさまを呼ばなければと、近くに置いてあるクマのぬいぐるみへ私は近づくのだった。

 

 ◇

 

 ――我、降臨!

 

 私がクマのぬいぐるみの前でバーベキューが始まりますよと言えば、ピカッと空が光って地面に雷が落ち筋肉隆々なグイーさまがにかっと笑みを浮かべて登場した。雷が落ちた地面は大丈夫かと下を見れば、なにもなっていない。女神さま方はご自身の父親の登場に関心はないようで、冷めた視線を向けていた。他の皆さまは驚いていたり、突然現れたグイーさまに凄いと感心の声を向けていたりと様々だ。

 

 私は詳しい説明をしなくともグイーさまは大丈夫だろうと、ひとまず彼を席に案内して始まるまで少し待って欲しいとお願いしておく。

 

 焼き台の側ではエーリヒさまとジークが焼き奉行を執り行ってくれている。お肉はたくさん用意しているから食べ損ねることはないだろうし、ハムやウインナーも持ってきている。お野菜さんも随分と切ったので、各自、好みの品があれば良いのだけれど。私の楽しみはお肉とアガレス帝国のウーノさまから頂いたさつま芋さんの新品種である。糖度が高くなっていると聞いているので、きっと美味しいさつまいもさんを食せるはずだ。

 

 『おにゅく! おにゅく!』

 

 桜ちゃんは狼の姿で先程からお肉コールが止まらないし、楓ちゃんと椿ちゃんも手作りジャーキーが楽しみなようで尻尾をばっふばふに振っている。お肉が焼けるまで待ってねと告げれば、そわそわと私やエーリヒさまとジークの周りを回り始めた。そんな三頭娘をヴァナルと雪さんと夜さんと華さんが愛おしそうに見つめている。

 ジャドさん一家もお肉を食べたいらしいし、エル一家はお野菜が楽しみだと言っている。ポチとタマもいつの間にかバーベキューに合流してお肉を狙っているのか、焼き台を興味深そうにじっと見つめていた。大蛇さま、ガンドさまも顔を出しており、ちびちびお酒を飲んでほろ酔い気分に浸っている。

 

 一緒に島に赴いたメンバーも各々お皿を手に取って、食べたいお肉やお野菜さんを選んで食べている。みんな美味しそうに食べながら談笑しているので、たくさん食べ物を用意しておいて良かった。

 あとで侍女の方や護衛の方にもお裾分けして食べて頂こう。食べられなかったと恨み節を放たれても困る。亜人連合国の皆さまもお野菜さんを中心に食べていた。さつまいもさんの感想を聞いて、ウーノさまに伝えれば喜んでくれるだろうか。

 

 グイーさまは今日という日のために分身体で出張ってきているし、ヴァルトルーデさまとジルケさまとナターリエさまとエーリカもいらっしゃるので本当に豪華な面子である。

 ヴァルトルーデさまとジルケさまがエーリヒさま特製の焼き肉のタレをお肉に垂らし、ナイフとフォークを器用に使って口に運んでいる。口の中に運んだお肉を何度か咀嚼して飲み込めば、二柱さまは目を細めていた。

 

 「美味しい」

 

 「美味えな。エーリヒもジークフリードも合間縫って食えよ」

 

 どうやら口に合ったようで二柱さまはにんまりと笑い、焼き奉行を執り行っている彼らへと視線を向けている。ナターリエさまとエーリカさまが『おチビちゃんが真っ当なことを言っていますわ』『粗暴なおチビちゃんが成長しましたねえ』としみじみしながら、彼女たちも焼けたお野菜さんを食べていた。

 彼女たちはピーマンを平気そうに食べているので、あの独特な苦味は平気なようである。私は嫌いではないけれど、少し味が苦手だ。凄いなあと感心していると、ジルケさまに声を掛けられた二人が小さく礼を執っていた。

 

 「はい、ありがとうございます。焼き加減とか好みがあれば教えてくださいね」

 

 「お気遣いありがとうございます」

 

 エーリヒさまがそれぞれの好みを把握しようと焼き加減まで聞き出そうとしている。本当に彼はマメだなと感心しながら、ジークの方へと私は視線を向ける。徒競走の一等賞で私と出掛ける権利を彼は得ているが、何処に出掛けるつもりなのだろう。

 アルバトロス王都だと騒ぎになりそうだし、いっそ北大陸のミズガルズ神聖大帝国にお願いして大きな街に赴いて大丈夫か聞いても良いかもしれない。北大陸なら黒髪黒目信仰はないし、私の顔も知れ渡っていないだろう。

 

 ゆっくりジークと過ごすなら丁度良さそうだが、もし彼がお出掛けプランを立てる場合はどうするつもりだろう。まあアルバトロス王都でもいろいろとお店はあるし、子爵領か侯爵領の領都に出張っても良いのかも。この話は島から屋敷に戻ってジークと計画を立てなければ。どちらが主導権を握るのか相談した方が計画を立てやすい。

 

 『おにゅくー』

 

 桜ちゃんがまた声を上げるのだが、口の端からおよだが垂れている。焼けるお肉の匂いに辛抱たまらなくなっているのだが、私が焼き台の側で彼女のためのお肉を焼いていると分かっているため辛抱強く我慢をしているようだ。私が桜ちゃんにもう少し待って欲しいと伝えると、彼女はピーと鼻を鳴らす。楓ちゃんと椿ちゃんもピーと鼻を鳴らして、ジャーキーを早く食べたいと訴えていた。

 

 『もう少しかなあ。焼けてなくても大丈夫だと思うけれど、念のためだよ~もう少し我慢を頑張れ~』

  

 クロが私の肩の上で桜ちゃんたちを宥めてくれるのだが、どんどん耐えられなくなっているらしい。本当に塊のお肉を焼いているので火が通るまで時間が掛かってしまう。

 しかも火が強ければ表面が焦げるだけで中まで火が通っていないのはザラだから、熱源から少し離した位置で焼いていた。私はもう一度ごめんねと毛玉ちゃんたちに伝えると、伏せをして顔を脚で掻いてなにやら面白いことを始めていた。某ご令嬢さまが毛玉ちゃんたちのなんとも言えない姿にときめいているけれど、誰からも相手にされなくなっているので皆さまの日常になっているようだ。

 

 グイーさまは椅子にどっかりと腰を掛けて、お肉とお酒を豪快に飲んでいる。お酒は特に拘りはないようで、飲みたい品を飲んでいた。しかしお酒のちゃんぽんは宜しくないと聞くので悪酔いしないか心配である。

 彼が神さまの島に戻って北大陸の北端に現れるオーロラが大事にならなければ良いのだが。お酒を一気に飲み干したグイーさまがお肉を得ようと椅子からたちあがり、こちらに歩いてくる。ノシノシと歩く彼の姿は熊みたいだ。かなりの巨躯なのでそう見えても仕方ない部分があるけれど、熊以外に似合う表現がないのもなんとも言えない。

 

 「酒が美味い! やはりわいわい皆で騒ぎながら飲み食いするのが一番だな!」

 

 ご機嫌なグイーさまが私が焼いているお肉を見下ろしているが、桜ちゃんのものだと分かってエーリヒさまとジークが焼いている焼き台を見てお皿を差し出していた。私は彼を見上げ疑問を口にする。

 

 「神さま方とは行わないのですか?」

 

 神さまの島にはグイーさま一家以外の神さまもいらっしゃる。グイーさまが創造なされた神さまだそうで、いろいろとお仕事や役割があるのだとか。

 序列的にはグイーさまがトップを務め、彼の娘である四女神さまが次点、そして他の神さまが彼らの下に就くらしい。そしてグイーさまが創った星を出れば、グイーさまより格上の神さまがいるそうである。

 

 星どころか宇宙にも神さまがいるなんて信じられないけれど、グイーさまとテラさまが嘘を吐く必要はないし本当なのだろう。しかしまあ、グイーさまは神さまの島で他の方たちとお酒を酌み交わさないのだろうか。

 

 「真面目な連中が多くてなあ。酒を飲んで意味があるのですか、とか真顔で聞いてくる。そんな者たちがいる中で美味い酒など飲めんだろ!」

 

 グイーさまはほろ酔い気分を楽しむために飲んでいるそうだ。他の神さま方は酔うという行為に意味が見出せないらしい。私もあまりお酒を飲む口ではないので、酔うと気持ち良いという呑み助の気持ちはイマイチ分からない。ただ楽しんで飲んでいる最中に水を差す言葉を投げられれば、テンションが下がるのは分かる。

 

 「そ、それは……飲み辛いですね」

 

 「だろ? だから儂は屋敷で孤独に飲んでいたのだ! 娘たちも相手にしてくれんし、父親って不当な扱いを受けやすい気がするぞ」

 

 グイーさまがちらりと四女神さまの方へと視線を向けた。でも女神さま方はお肉を食べることに全集中している。もしくは聞こえていても無視しているか……果たしてどちらだろう。彼が女神さま方の態度に大きく溜息を吐いた。

 

 「酷くない?」

 

 グイーさまが情けない顔をして私に言い放つ。世のお父さま方は娘さんに嫌われてしまい泣いていることが多々あるが、なにかしら原因がありそうな気がする。

 

 「お酒の飲み過ぎを心配なされているのではないですか? 女神さま方がお酌をしてくれたら嬉しくなって飲み過ぎてしまうでしょう?」

 

 「それはもう嬉しいからぐびぐび飲むて。夢でも良いから娘の酌が欲しいのう」

 

 私を見下ろしながらグイーさまがにこりと笑う。どうやら女神さま方からお酌を受けている所を想像しているようだ。

 

 「でも手酌は寂しいぞい」

 

 しょぼんとする彼の巨躯が縮んでいるように見えたので、私は彼が飲んでいたお酒の瓶を手に取って『どうぞ』と次を勧める。するとグイーさまはにっこりと機嫌良く笑い、グラスをこちらへ差し出した。

 クロはお酒を飲んでも酔わないようで、グイーさまに一緒に飲むかと問うている。私の年齢は十九歳でアルバトロス王国では飲酒が可能であるが、一応二十歳までは禁酒をするつもりだ。

 何故かと問われても分からないがなんとなく決めているため、クロの提案は有難い。クロに平皿を用意してお酒を注ぎ込めば『ぶどうの味がするねえ』とワインの感想を述べていた。クロはアルコールを楽しむというより素材の味を楽しんでいるようである。

 

 「優しさが胸に染みるのう。って、毛玉が爆発しそうだな」

 

 「あ」

 

 グイーさまと話していれば毛玉ちゃんたちがお肉を待ち切れないのか、伏せをしたままぐふぐふと鼻を鳴らしていた。そろそろ我慢の限界のようで、グイーさまが仰る通りこれ以上我慢すれば、彼女たちは爆発しそうである。

 焼き台の上にある塊肉の焼き加減も丁度良さそうだし、そろそろ良いかと私は塊肉をトングで掴んでお皿の上に乗せた。

 

 「でかいな。まあ毛玉であれば問題なく食べるだろうて」

 

 グイーさまは私の影響なのか椿ちゃんと桜ちゃんと楓ちゃんをまとめて毛玉と呼んでいる。おそらく松風と早風が加わっても毛玉と称されるのだろう。そのうち名前を憶えて貰えると良いねと私は毛玉ちゃんたちに伝えながら、桜ちゃんには一等賞の塊肉を、椿ちゃんと楓ちゃんにはラッピングした牛胸肉のジャーキーを渡した。

 

 桜ちゃんは差し出された塊肉を大きな口を開け、豪快に被りつく。前脚で器用にお肉を押さえて逃げないようにしている様は野生の動物と同じである。

 そして椿ちゃんと楓ちゃんは狼の姿だとラッピングは開けられないかなと私が首を傾げていると、彼女たちも前脚と口を使って器用にラッピングの紐を解いて中身を出していた。

 ぐふぐふ鼻を鳴らしていた彼女たちは既に機嫌が直ったのか、尻尾をばっふばふ振りながら塊肉とジャーキーにかぶりついている。豪快に食べる姿も可愛いなあと彼女たちを見ていると、お酒をグビっと飲み干したグイーさまも毛玉ちゃんたちを見下ろした。

 

 「賢いな」

 

 グイーさまが仰る通り、毛玉ちゃんたちは普通の狼ではないと実感する。まあ言葉を話している時点で狼とは別の生き物だけれども。多分グイーさまは器用にラッピングを開封した姿に感心したのだろう。彼に褒められてヴァナルと雪さんたちが『自慢の仔らです』と言いたげに胸を張っている。そうして私はグイーさまの空いたグラスにまたお酒を注ぎ込んだ。

 

 「あまり飲み過ぎないでくださいね」

 

 私がグイーさまにお酒を勧め過ぎればジルケさまに怒られそうだ。本気で怒ることはないだろうけれど、苦言は確実に頂きそうである。そんなグイーさまはにっと笑ってまたグラスの中のお酒を飲み干す。

 

 「なに、ナイが心配するような失態など犯さぬよ」

 

 グイーさまがふうと息を吐いたのだが、少々アルコールの匂いが漂ってきた。まあ気持ち良く酔えているなら良いかと私が小さく息を吐けば、椿ちゃんと楓ちゃんと桜ちゃんが私の側に寄ってきた。どうしたのだろうと私が彼女たちと視線を合わせる。

 

 『にゃいー』

 

 「どうしたの桜ちゃん」

 

 『おにゅく、にゃーこにあげる!』

 

 「トリグエルさんの仔猫にお肉を食べて欲しいの?」

 

 ちょこんと地面に腰を下ろした桜ちゃんが微笑ましいことを言った。椿ちゃんと楓ちゃんもジャーキーをお猫さまの仔たちに分けてあげたいそうだ。グイーさまも桜ちゃんたちの話を聞いており『確りしておるのう』と呟いている。

 

 『ん!』

 

 「ありがとう、桜ちゃん、椿ちゃん、楓ちゃん。仔猫たちにもきちんとお肉があるから、今あるお肉は君たちが食べて良いよ」

 

 尻尾をぶんぶん振っている毛玉ちゃんたちに私が苦笑すると、彼女たちは疑問符を浮かべていた。どうやらお肉を食べても問題ないと伝わらなかったようである。それならばと彼女たちの言葉を有難く頂き、別のお肉を焼いて毛玉ちゃんたちに食べて貰おうとロゼさんに追加のお肉を出して欲しいとお願いするのだった。さて、私も美味しくお肉とお野菜を頂こう。

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