魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
バーベキューの焼き台の側で焼き奉行を務めている俺は食材の多さに苦笑いを浮かべている。牛、豚、鶏、羊、兎の各種肉と魚人の方から分けて頂いた海鮮に、アルバトロス王国で採れる野菜各種とさつまいもにハムやウインナーまで揃っていた。
せっかく食べるなら美味しい状態の肉や野菜をみんなに食べて欲しいため焼き奉行を毎年買って出ているのだが、去年より腕が上がっている気がする。みんなが美味しそうに食べている顔を見れば嬉しくなるのは当然だ。特にフィーネさまが喜んでくれるなら俺は幸せだった。隣で一緒に焼き奉行を務めてくれているジークフリードは火の熱に当てられて顔を赤く染めている。
「ジークフリード、顔が赤い。大丈夫か?」
「平気だ。エーリヒも熱で顔が赤くなっているぞ」
俺が彼に問えば、ジークフリードは苦笑いを浮かべて俺のことを指摘した。確かにずっと焼き台の側にいるから顔には熱が籠っている。お互いさまだったと俺も苦笑いを浮かべて、背の高いジークフリードともう一度視線を合わせた。
「水分、ちゃんと取っておこう。気温が暑いのに余計に熱くなってるからな」
「ああ。エーリヒも気を付けろ」
せっかく南の島にバカンスにきて最終日に倒れてしまうなんて、勿体ないことをしたくない。まだ陽は高い位置にあるから、バーベキューはまだまだ続く。一応、俺たちもきちんと食事が摂れるようにとアストライアー侯爵家の料理人さんたちが焼き番を代わってくれるそうである。
その時一緒に侍女の方や護衛の皆さまも食事を済ませてしまうそうだ。お昼の時間は過ぎ去っているので、そろそろ交代の時間となるだろうと周りを見る。
創星神であるグイーさまはワインやフソウ酒にドワーフの方たちが作った火酒にアガレスの酒を延々と飲んでいる。時折、肉を摘まんで『美味い』と言って満足しているようだった。西と南と北と東の女神さま方もバーベキューを楽しんでいるようだ。ヴァルトルーデさまとジルケさまは肉や野菜を満遍なく食べているが、ナターリエさまとエーリカさまは野菜の方が好みのようである。
特に根菜類が気に入っているのか、マンドラゴラもどきやラディッシュにさつまいもを良く食べている姿をみていた。二柱さまはお腹が一杯になったようで食事を止めて雑談に興じているのだが、ヴァルトルーデさまとジルケさまはまだ食べていた。どこに入っているのか謎な量を食べている気がするのだが、それを言えば小柄なナイさまもジークリンデさんたちと一緒にゆっくり食事を摂っていた。ナイさまとジークリンデさん以外の女性陣は既にお腹を満たしたようで、彼女たちもまったりと過ごしている。
ナイさまとジークリンデさんは焼けた肉や野菜を選り好みせず、お皿の上に置かれた食べ物を口に頬張っていた。流石に腹を満たしたのかジークリンデさんは途中で食べることを止めているのだが、ナイさまはまだ足りないようでお皿の中身がなくなれば、また肉や野菜を取っている。毛玉ちゃんたちの分も彼女は焼きながら食べているので、中断することもあるけれど……それにしたって。
「ナイさま、食べたものをどこに仕舞っているんだ……?」
俺がナイさまの底知れぬ食欲に片眉を上げていると、つい声に出てしまった。女神さま方は人間にカテゴライズされないから、美味しいものをいくらでも食べられるのは理解できる。ナイさまは人間でしかも女性で小柄なのに、本当に食べたものがどこに消えているのか不思議でならない。食事量の多いギド殿下とマルクスさまの食事量を確実に超えている。
「ナイ曰く、食べた端から胃に隙間ができると言っていたな。一度に食べられる量は限られているが、時間があれば延々と食えるらしい」
ジークフリードがナイさまを見ながら目を細め、食べ続けられている理由を教えてくれた。ナイさまは一気に食べると限界が訪れるが、ゆっくり、特にバーベキューのような小休憩を挟める食事は長く食べ続けられるようである。
「まあ、お腹壊さなきゃ良いか」
本当に美味そうに食べてくれるし、俺が焼いた肉や野菜のどれが美味しかったと教えてくれるので有難い。せっかく美味しいものを食べているのだからお腹を壊さないかだけが心配だ。でもやはりナイさまは凄い量を食べている。
「ナイが腹を壊したのは、貧民街でカビの生えたパンを食べた時くらいだ」
ジークフリードが昔を思い出して小さく笑っているが、カビの生えたパンは普通は食べない。いや、彼らの幼い頃の境遇を考えれば致し方ないことだけれど、笑いながら思い出すことではないような。ナイさまのことだから仲間内に綺麗なところのパンを分けて、自分はカビの生えたところを食べたのかもしれない。
「生きてくれていて良かったよ。ナイさまがいなきゃ、ジークフリードに出会ってなかったかもしれないし」
本当にナイさまには感謝しなければ。彼女がいなければ学院ではアリス・メッサリナが更なる暴走をしていたかもしれない。他にも彼女がいなければ解決できなかったことがたくさんある。ジークフリードたちとも縁ができなかっただろうし、本当に奇跡のような出来事だ。
「そうだな。ナイがいなければ、俺たちも貧民街で生き残れたか……エーリヒ、こんなものか?」
「フォークか箸を刺してみて。通れば焼けてるから」
ジークフリードがアガレス帝国産のさつまいも――新品種だそうだ――を差して俺に問うた。色は白からきつね色になっているのである程度火は通っているだろう。あとは先程ジークフリードに伝えた通り、フォークの先か箸の先が貫通すれば焼けている。
ジークフリードは俺の言葉を疑いもせずフォークを手に取ってさつまいもに差し込んだ。すっとフォークが刺さっているので問題なさそうである。ナイさまが新品種のさつまいもを美味しそうに食べていたので、ジークフリードはまた焼いていたようだ。
「ナイに渡してくる」
「ん。ゆっくりで良いよ」
ジークフリードが皿を持ってナイさまの下へと歩いて行った。俺は焼き台にある肉や野菜を焦げないようにとひっくり返す。彼は甲斐甲斐しくナイさまの面倒を見ているのに、彼女はジークフリードに対して幼馴染という意識しかない。ジークフリードの気持ちに気付いて欲しいが、貧民街で修羅場を共に潜り仲間や家族という意識が強いようだ。
クレイグとサフィールもナイさまのことを女性として見れないとはっきり言っていた。ジークリンデさんはクレイグにとって妹分なのだとか。サフィールは小さく笑いながら、彼女についてなにも答えてくれなかった。
クレイグはアリア・フライハイト嬢が気になるようだし、サフィールもおそらく気になる人がいるようである。苦労をしてきた彼らが幸せになることを心から願っておこう。一番道程が厳しいのはジークフリードだろうが、まあ彼なら自力でなんとかするはず。せめてアドバイスでも送れると良いのだが。
「エーリヒさま!」
「フィーネさま。どうされましたか?」
フィーネさまが銀色の長い髪を揺らしながらこちらへ歩いてきた。女性陣の輪から抜け出し、お皿を持っているので小腹が空いたのだろうか。
「お肉をまた食べたくなりまして。あとエーリヒさまが作ってくださった焼き肉のタレ、凄く美味しいです。他の方たちも凄く美味しいと仰っていましたよ!」
へにゃりと笑う彼女を見て、焼き肉のタレの作り方を思い出して良かったと自然と笑みが溢れてくる。
「ナイさまがフソウから必要な品を買い付けてくださったので作ることができました」
みりんやらはフソウ特有なので、ナイさまを頼れば手に入れられる環境は有難い。フィーネさまも納豆が好きでナイさま経由でしょっちゅう買い付けしているようである。親しみ慣れた元故郷の味を味わえているし、鰻重をご相伴に預かるなんて思ってもみなかった。
「でも私はタレの作り方なんて分かりませんよ。恥ずかしながら、市販品で済ませていたので」
「社会人になって独り暮らしを始めて、自分で作る料理が結構楽しくて。それで覚えていたんです。レシピさえあれば誰でもできますよ」
市販品で済ませる方が普通なのでなにもおかしなことではない。ただ俺が凝り性だったというだけだし、こうしてみんなに料理を振舞っているのは余裕ができたからである。おそらく『メンガーさん
「私はお料理が苦手なので……」
「料理に興味があるなら俺が教えますよ。まあ機会はかなり限られますし、場所探しも大変ですが」
フィーネさまは実家住まいで料理を作ることは滅多になかったそうである。小学生の家庭科の授業で少しだけ作った記憶があるくらいだそうだ。確かに実家に住んでいれば料理をする機会なんて滅多にないだろうし、学生の本分は勉強である。
興味があるなら実践して学んで行けば良いし、料理はレシピがあれば従えば良いだけだ。アレンジは上達してから行えば良いのである。ただフィーネさまと一緒に料理をできる環境を確保するのは大変そうだ。聖王国では伝手がないし、アルバトロス王国で行うなら彼女の移動が大変なことになる。
「なら、ナイさまのお屋敷を借りましょう! きっとナイさまなら喜んで味見をしてくれそうですし!」
フィーネさまが楽しそうに笑い、ナイさまの邸で行おうと手をぱちんと合わせた。確かにナイさまの屋敷なら調理場があるので借りれば良いのだが……アストライアー侯爵邸の調理場を借りるのだろうか。
侯爵家の調理場なんて凄く広そうだし大丈夫だろうか。それにフィーネさまは聖王国からアルバトロス王国に移動しなければならないはずである。もしかしてなにかしら理由を付けてナイさまのお屋敷にお邪魔するつもりなのか。
ただ、ナイさまに俺とフィーネさまが一緒に作った料理を食べて貰うのもアリかもしれない。彼女であればなんでも美味しいと言ってくれそうなので、料理初心者であるフィーネさまが悲しまないで済む可能性が高い。
他に俺が用意できそうな場所は……と思い浮かべてみるものの、どこも思いつかなかった。アルバトロス城の調理場なんて借りれるわけがないし、聖王国の大聖堂にある食堂で作るとなれば大騒ぎになるだろう。
「ですね。いつか時間を見繕って、ナイさまに打診してみましょう」
俺の声にフィーネさまがこくりと縦に首を振る。するとフィーネさまがまたぱんと手を合わせた。
「あ。ナイさまで思い出しました。ジークフリードさんはナイさまと何処へ赴かれるのでしょうか……行先、決まっていると良いのですが」
「ジークフリードがナイさまをデートに誘っていましたからね」
島に赴いて直ぐの頃、浜辺で行った徒競走の賞品でジークフリードがナイさまにデートを申し込んでいた。ジークフリードにしては思い切った行動を取ったと感心していたが、確かに彼はナイさまと何処へデートに向かうのだろうか。
ナイさまの顔はアルバトロス王都では平民の方に広く知れ渡っている。王都の街に出れば騒ぎになるからデートなんて楽しめないだろう。かといってナイさまの自領でお出掛けなんて味気がないとういか。確かに気になるなと視線をナイさまの下へと向かったジークフリードに向けると、丁度彼はユルゲンと一緒に俺たちの方へと戻ってくるところである。
「聞いてみましょうか」
「ええ。お節介かもしれませんが、相手がナイさまだとジークフリードさんでも厄介でしょうしね」
俺がフィーネさまに声を掛けると、彼女はナイさまの鉄壁っぷり――鈍いとも言う――に少し溜息を吐きジークフリードの方へと視線を向けている。俺たち二人の視線に気づいたジークフリードは首を傾げながら、こちらへと戻ってくるのだった。
◇
ジークフリードが戻ってきた。ジークフリードの話によればナイさまは新品種のさつまいもを凄く美味しそうに頬張っていたとか。味の感想は聞けず仕舞いであったそうだが、幸せそうな顔をして食べていたから気に入っているだろうとのこと。
彼の隣に立っているユルゲンは苦笑いを浮かべながら話を聞いていた。そういえばナイさまが割と大食漢だということを知らなかったかもしれないと俺も釣られて苦笑いになる。
ナイさまの話題で少し盛り上がっていると、フィーネさまがちょんちょんと俺の腕の服の裾を引っ張った。どうやらナイさまとジークフリードのデートがどうなったのか気になるようである。ジークフリード相手ならば気を遣う必要はないだろうと、俺は素直に口を開いた。
「なあ、ジークフリード」
「どうした?」
俺がジークフリードに声を掛けると彼の肩の上に乗っているアズがちょこんと首を傾げ、主も一緒に微かに首を右へと傾けていた。アズがジークフリードの真似をしているのか、それとも自然にそうなってしまうのは定かではないが肩乗りサイズの竜の仕草は可愛いものである。とはいえ内に秘めた力は強力でアズが放ったブレスはかなり凄い威力だったと聞いている。話を俺が持ちかけたのに黙っているままだといけないと、もう一度口を開く。
「ナイさまとのデートの場所は決まっているのか?」
俺の質問にフィーネさまが小さくガッツポーズを取り、ユルゲンがおやおやと言った様子で状況を見守るようだ。アズは今度は逆の方へと首を傾げて、主人であるジークフリードは俺の目を真っ直ぐ見ていた。
「特に決めていない。ナイとどこかに向かうなら俺以外の護衛も就く。それにナイの行きたい場所があるかもしれないから、これから決めるつもりだ」
ジークフリードは恥ずかしいのか少しだけ顔を赤く染めている。恋バナなんて慣れないだろうし、彼が照れる気持ちは十分に理解できる。ユルゲンはジークフリードの話を聞いてなにか考え込んでいた。デートに適した場所を知っていれば良いのだが、アルバトロス王都の城下へ出掛けてもナイさまだと騒ぎになるはず。うーんと俺が悩んでいるとフィーネさまがジークフリードの顔を見上げていた。
「ナイさまってどんな場所が好きなのでしょうね?」
「特に拘りはないかと。何処に行っても、楽しいものはないかと探していますから」
フィーネさまの疑問にジークフリードが答えてくれる。確かにナイさまはどこかへ行ったとして、面白そうなものがないかと探している節があった。自分に興味のある店があれば行ってみたいと主張する方だし、他の面子が行きたい場所がないかとも聞いてくれる。
ナイさまであれば楽しいことやものを見つけてくれるはず。デートの場所に俺たちが悩まなくても良いかもしれないと小さく肩を竦めると、フィーネさまがもう一度ジークフリードを見上げた。
「聖王国にきてみませんかと言いたいですけれど、観光地としては不足ですし……どこかデートにうってつけの場所があると良いのですが」
フィーネさまの瞳にはジークフリードが映っているのだろう。彼女が俺に向ける甘い表情とは違うし単にデートを成功して欲しいという純粋な気持ちからのアドバイスである。
ナイさまが聖王国に赴けばデンジャーな展開になりそうである。フィーネさまの言葉を教皇猊下が聞いていれば、思いっきり首を横に振っていたのではなかろうか。
むーとデートの場所を考えているフィーネさまは可愛いのだが、背の高いジークフリードを見上げるのは疲れてきたようである。助け舟を出すかと考えた時、ユルゲンがそうですねえと小さく呟いて言葉を紡ぎ始める。
「アルバトロス王都も観光地は少ないですしねえ。高位貴族の方は城の庭園を散策していることもありますが、アストライアー侯爵閣下に興味があるかと言えば……」
「綺麗だねで終わりそうだ」
ユルゲンのアドバイスにジークフリードが苦笑いを浮かべる。どうやらナイさまにとって草花は食べられるか食べられないかで価値を決めているようである。フィーネさまはこの世界の草花に詳しいようで、俺によく種類を教えてくれて花言葉まで教授してくれる。
聖王国の大聖堂の横にある庭園で時々彼女と散歩をしている――護衛付きだし、他もアリサ・イクスプロード嬢やウルスラ嬢やユルゲンがいる――のだが、本当に詳しいのだ。彼女曰く花言葉って浪漫がありますねとのことだ。俺が彼女に花を贈る際は花言葉にも気を付けておかねばならないのだが、ナイさまは気にしそうにない。それにジークフリードも興味はなさそうだ。
「騒ぎにならないという場所なら、ここも候補に入るのか」
「確かに良い場所だな」
俺の声にジークフリードがきょろきょろと周りを見渡した。移動手段さえクリアできればコテージ借りて宿泊もできるし、ナイさまを見て騒ぐ方は島にはいない。とはいえエルフのお姉さん方はジークフリードとナイさまのデートに興味を示しそうである。
無粋なことはしないだろうけれど、覗き見する可能性が高そうだ。それに小型の竜の方たちはナイさまに懐いているから、彼女の周りで騒ぎ立てそうである。四人で顔を突き合わせて悩んでいると、クレイグとサフィールがこちらへとやってきた。
「おーい。甘いもの食べないかってナイが言ってる」
「早い者勝ちだって!」
二人の声にフィーネさまが目の色を変えた。やはり女の子は甘いものに目がないようで、目をキラキラと輝かせていた。フィーネさまも時間を掛けて肉や野菜をたくさん食べていたのだが、甘いものは別の場所へと入るようである。
焼き奉行は休憩しようと決めて、ナイさまたち下へと歩いて行く。テーブルの上にはパウンドケーキが置いてあり、他の面々も美味しそうだと目を輝かせていた。特に女性陣は食べるのが楽しみなようである。
綺麗に切り分けられたパウンドケーキはスタンダードなものとチョコチップ入りや干しぶどう入りのものが取り揃えてあった。俺も皿に盛られているパウンドケーキを見てお腹に隙間ができているから、女性陣のことは言えない。しかもプロの料理人が作った品である。きっと美味しいだろうと期待値が上がっていた。
「料理人の方がおやつにと作ってくれました。せっかくなので頂きましょう。毛玉ちゃんたちやクロたちにジャドさんたちはお肉や果物かな。同じもので申し訳ないけれど。ルカとジアはマンドラゴラもどきだね」
ナイさまが魔獣のみんなにも声を掛けていた。彼らも喜んでいるので良かった。流石に人間用の食べ物は砂糖や塩分が多いので、同じように食べていると病気になりそうだ。魔獣だからもしかすれば関係ないのかもしれないが、気を使うに越したことはない。とりわけ用の皿が各自に配られると、ヴァルトルーデさまが小さく手を挙げた。
「ナイ、全部の種類食べてみたい」
「一応、各種一人ひとつ当たるようにと切り分けてくださったので、大丈夫ですよ」
ヴァルトルーデさまは作ってくれたパウンドケーキの味比べをしたいようである。五種類ほどあるのだが、五切れも食べるとお腹がパンパンになりそうだ。流石にナイさまも料理人の方も残さず食べろなんて言わないはずと片眉を上げていると、ナイさまが好きな味だけ食べても大丈夫ですと付け加えた。
「全種類食べて良いのか。気が利く連中だなあ」
ジルケさまが感心の声を上げ、盛られたパウンドケーキを全種類取っている。ヴァルトルーデさまも彼女に続いてお皿の上に盛っていた。綺麗に盛り付けるという感覚はないようだが、料理人の方が手直しをしてくれクリームやちょっとした果物を添えてくださった。
料理を作るだけではなくデコレーションまで完璧な料理人の方たちの姿に俺は少し羨ましくなる。いつか時間が取れたなら、誰かに習いに行くのもアリだろう。まあ老後の趣味になりそうだけれど。
「儂は遠慮しとく。酒が美味い~」
グイーさまはひたすらお酒を嗜んでいる。フソウの干物が気に入ったようで、イカの一夜干しやほっけ、あじ等の開きを堪能していた。スルメがあれば凄く気に入ってくれそうだが、ナイさまは買い付けていなかったようである。
おそらくナイさまは酒の肴というよりも、夜ご飯に美味しく食べられる品として買っていたのだろう。グイーさまを見ていると俺もほっけの開きを食べたくなるが、流石にグイーさまが気に入った品を食べるのは気が引ける。あとでナイさまにこっそり融通して貰おうと心に決めていると、彼女が苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「お酒入りのパウンドケーキもあるんですが……」
「なんとぉ!?」
グイーさまが目を見開きながら驚いている。おそらくブランデーあたりを垂らして香り付けをしたものだろう。見た目はシンプルなやつと変わらないだろうが、お酒好きの方にとっては食べてみたい品になるようである。
興味のない姿から一転、椅子から立ち上がったグイーさまがのしのしとナイさまの下へと歩いてお皿を差し出していた。
「お父さま、本当にお酒が大好きですのね」
「いい加減になさいませ。羽目を外し過ぎですわ」
ナターリエさまとエーリカさまがはあと溜息を吐きながら、パウンドケーキをフォークで切り目を丁寧に入れて綺麗に口へと運んでいた。美味しかったのか表情が緩んでいる。でもグイーさまに向ける視線は厳しいものであった。
「良いじゃないか。偶には浴びるほど飲みたい時もあるものよ!」
ガハハと笑うグイーさまにヴァルトルーデさまとジルケさまは大きく切り分けたパウンドケーキを一口運んでいる。美味しいのか微かに顔が笑っているような気がする。でも、二柱さまと同様にグイーさまに向ける視線は変わらず厳しいものだった。
「父さん、いつもそう言って呑むのをやめない」
「だよなあ。いい加減にして欲しいもんだが」
ヴァルトルーデさまに続いてジルケさまも苦言を呈した。ただパウンドケーキがあるためかそれ以上の口撃はないようである。それでも四柱さま方から注意を受けたグイーさまはたまらなかったようで、ナイさまに視線を向けた。
「ナイ~娘たちが儂に意地悪をするぞぉ」
「飲み過ぎだからです」
助けを求めたグイーさまに対してナイさまは塩対応であった。創星神さまに対してそんな口を利いて良いのかと問いたくなるが、グイーさまも女神さま方もナイさまとは本当に対等に接している。俺たちとも普通に対応してくれるので有難いのだが、時折本当に神さまなのか疑問に感じてしまう時がある。でもテラさまのように星と星を渡ることができるようなので侮ってはいけない。
「お前さんは酒ではないが、ずっと食べておるではないか。腹を壊さんのか?」
「今の感じならまだまだ大丈夫ですよ。腐ったものは食べてないですし」
グイーさまがナイさまの健啖ぶりを危惧しているようだが、彼女はどこ吹く風のようで普通に言葉を返している。しかし俺も不思議なのだが、昼から夕方にかけてずっと食べているので本当にお腹を壊さないのが不思議だ。
「いや、腐った食べ物を口にするな!」
「滅多に食べませんよ」
「滅多にでも駄目だろう!?」
グイーさまの突っ込みに軽く返すナイさまの姿に苦笑が漏れる。本当に聖王国の方々が今の光景を見たならば、ひっくり返るのではないだろうか。あ、ジークフリードとナイさまのデートの場所……神さまの島で行えばと考えつくものの、流石に無理だなと一人肩を竦めるのだった。