魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0637:もんもんもんもーん。

 どうしよう、どうしよう。勢いでエーリヒさまに告白紛いのことをしちゃった……いや、あれは紛いどころではなく正真正銘の告白ではないだろうか。本当ならエーリヒさまから愛の言葉を頂きたい所だけれど、バカンスに赴いていたためか勢いで言ってしまった。エーリヒさまは目を丸く見開きながら私の告白を受け入れてくれていたが、彼には彼の予定や考えがあったのではなかろうか。

 

 『フィーネさま、俺と一緒に暮らしましょう』

 

 『フィーネさま、アルバトロス王国にきませんか?』

 

 『フィーネさまを頂きに参りました』

 

 とか、いろいろと告白の台詞を彼は用意してくれていたのではと、悔やんでも悔やみきれない気持ちが湧きだしてくる。どうして私から告白しちゃったのかなあと目を閉じていると、いつの間にか歯を強く噛みしめていた。

 

 今はお昼前の時間帯となり、大聖堂で祈りを捧げているから信仰対象である女神さまに失礼だと頭に過る。その信仰対象である女神さま、もといヴァルトルーデさまはナイさまのお屋敷で美味しい物でも食べている頃だろうか。

 

 乙女ゲームでは、ヴァルトルーデさまは聖王国の信仰対象であるということくらいしか語られていなかった。女神さまは神秘的な方なのかと思いきや、雰囲気や圧は凄い方だけれど至って普通の方である。

 ナイさまにはなにか特別な感情を抱いているようだし、クロさまにも思い入れがあるようだ。聖王国にはあまり興味がないし、面倒なことになりそうだからとヴァルトルーデさまは大聖堂に赴くことはないのだろう。

 ただ嬉しかったことは、私やアリサとウルスラに会うだけなら問題ないのに……と小さく零していたことだろうか。どうやら信仰心が高く厄介な方に出会うのは面倒なだけで、私たちと付き合いを続けるのは良いそうだ。

 

 しかし、まあ、私からエーリヒさまに告白してしまったのは少し失敗だった。やっぱり好きな方から告白される方が断然嬉しいよねえと、目を閉じたままエーリヒさまの姿を思い浮かべる。

 

 『愛しています。フィーネさま』

 

 なんて彼から言われたら、私は嬉しさのあまり昇天してしまいそうだ。もしそうなった時はヴァルトルーデさまにお願いして地上に戻して貰えるようにとお願いしておこう。好きな方から告白を受けて嬉しさで死んじゃったなんて恥ずかしいもの。大聖女フィーネは恋愛にかまけて女神さまの下へと旅立ったと聖王国の歴史書に残るなんて絶対に嫌だし。

 

 近々、ナイさまのお屋敷で豚肉料理パーティーを開くそうだから、ヴァルトルーデさまと話す機会があれば相談してしまおう。だって私はエーリヒさまと幸せに暮らしたい。彼との婚姻生活を思い浮かべていると、勝手に笑みが零れてしまう。そうして伸びた私の口元がどんどんと緩くなっていると、ふいに誰かの気配を感じた。

 

 「大聖女フィーネさま。お祈りの時間は終わりましたよ」

 

 「あ、ごめんなさい、大聖女ウルスラ。女神さまに祈りを捧げていたら時間を忘れそうになってしまって」

 

 ウルスラが祈りを続けている私が気になって声を掛けてくれた。ヴァルトルーデさまではなくエーリヒさまのことで頭がいっぱいになっていたとは伝えられず、適当に言葉を取り繕ってしまった。ごめんなさい、ウルスラ。私が心の中で謝っていると、彼女は綺麗に微笑んだ。

 

 「大聖女フィーネさまのお気持ちは理解できます。女神さま方と直接お話できたことで、祈りを捧げることが更に素敵なことになりましたから!」

 

 ウルスラの背後にキラキラと後光が射しているような気がする。あまりにも純粋な彼女の心に私の煩悩塗れの心が見せた幻想だろうか。祈りの時間が終われば、大聖堂に集まっていた人々が散り散りになり自分たちの居場所へと戻っていた。

 

 「ウルスラは本当に熱心な信徒ね」

 

 「女神さまの教えがあったからこそ、今の私がありますから。困っている人を助けなさいという教えは、西の女神さまがずっと昔の誰かに仰ったことがあるそうですよ!」

 

 私が小さく息を吐けば、ウルスラは元気に女神さまについて語ってくれる。ヴァルトルーデさまの名前を出さないのは彼女なりの気遣いなのだろう。ヴァルトルーデさまの名は女神さまが仲良くなりたいと思った方にだけ告げているようだから。

 

 それに誰彼に名前を知られれば、ナイさまが困ることになる。ナイさま曰く、女神さまと一緒に出掛ける際に『女神さま』と呼べば沢山の人に露見してしまうので、本当に軽い気持ちで女神さまに名を付けたそうだから。西の女神さまだから『W』の頭文字になっている名前を適当にチョイスしたと仰っていたし、聞く人が聞けば女神さまに失礼な! と怒るかもしれない。女神さま方はナイさまが贈った仮名に文句はないようだから、勝手に怒ったら女神さまが守ってくれそうである。ナイさまであれば自衛できるから、怒った相手の心配をしなければならないだろうか。

 

 ちなみに今、ウルスラが言ったことはヴァルトルーデさまが昔々の大昔に誰かに言ったそうである。ヴァルトルーデさまは記憶が曖昧だったようで、キラキラと目を輝かせながら話を聞くウルスラに少し困っていたけれど。でもまあ、嘘ではないし言い続ければ嘘も真実に変わる、なんて言葉がある。伝承や伝説は時が経てば変化することもあるのだし、ヴァルトルーデさまが大陸をウロウロしていた大昔の話を聞けただけでも奇跡だろう。

 

 「大聖女と聖女の使命はまさにそれだものね」

 

 聖王国大聖堂の大聖女と聖女がすべきことの第一は困っている人を助けなさいというものだ。細々としたものはあるけれど、一番大きい使命といえるだろう。

 大聖女となれば政治面にも関わるようになるけれど、治癒院への参加を取りやめるわけでもない。今でも続いていることだから、きっと今までの大聖女さま方も聖女たちも訪れる方々に治癒を施してきた。腐っていた聖王国だけれど、その部分に関しては誇って良いのではないだろうか。病気が治って泣きながら喜んでくれる方や、子供が助かって頭を下げる親、まあいろんな方を見てきたけれど感謝されれば嬉しいし。

 

 「はい! 頑張って困っている方を助けたいですね! 私たちにできることは限られていますが、救われる方もきっといらっしゃいます!」

 

 ウルスラが明るい顔を浮かべながら多くの人を救いたいと声に出す。彼女は以前も同じ台詞を言っていたが思い詰めたものではなく、きちんと自分のことを考えながら行動できるようになっている。

 治癒院に参加して倒れることもなくなっているし、本当に彼女の真っ直ぐな性格は眩しいものである。私より大聖女を確りと務めているし、彼女を慕う聖女も増えていた。良い傾向だと私が笑えば、少し離れた位置で祈りを捧げていたアリサが私たちの下へとやってくる。

 

 「大聖女フィーネさま、大聖女ウルスラさま、お昼ご飯にしませんか?」

 

 「アリサ。そうね、行きましょうか。お昼からは治癒院に参加するのだし、お腹いっぱい食べないと」

 

 アリサが笑い私たちにお昼ご飯に赴こうと誘いにきてくれたようである。お昼のご飯を済ませれば、治癒院に参加することになっていた。魔力を消費するとお腹の減りが早いので、お昼はたくさん食べておかないと。

 南の島のバカンスでナイさまの家の料理人の方たちのお料理やバーベキューを楽しんでいたため、聖王国の大聖堂での食事量は少し慎ましく感じてしまう。周りの目もあるのでお代わりはできないから、なるべく多く盛られている皿を選ぶしかない。アリサもウルスラも私の考えと同じのようで、治癒院に向けて気合を入れるようである。

 

 大聖堂の祭壇横にある扉から裏手に入り廊下を歩いて食堂へと向かった。

 

 食堂はシスターや神父さまと事務方の人たちがいて結構賑わっている。本当は揃って祈りを捧げて食事を開始したいけれど、大聖堂に訪れる信徒さんたちを疎かにはできないため個々で食事を摂っているのだ。

 カウンターに並んで今日のお昼ご飯を選んで取っていく。空いている席に着いて食べようと祈りを捧げようとすれば、他の食べていない方たちが私たちに合わせるようだ。大聖女という地位はシスターや神父さま方より上の地位となるため、タイミングが合う方たちは私やウルスラの祈りと合わせようとする。少しむず痒いけれど、もう慣れたこと。

 

 「女神さまに感謝を」

 

 私が声を上げると、アリサとウルスラと食事を今から摂ろうとしている方たちが声を上げる。見慣れた料理なのに物足りなさを感じてしまうのは贅沢だろうか。うーん。ナイさまのお陰で贅沢をし過ぎた。

 ウルスラは目の前のお料理に嬉しそうな視線を向けているけれど、アリサは少し目を細めている。おそらく私と同じ気持ちだろうと彼女に視線を向けると、アリサは直ぐに視線に気付いて肩を小さく竦めた。そうして大聖堂ではありきたりなご飯を頂き、大聖堂の外にある小屋にいこうと私とアリサとウルスラは席を立つ。配膳トレイをカウンターに戻していると、食堂の職員の方が忙しなく働いていた。

 

 「ありがとうございました」

 

 私が彼らに声を掛ければ『ありがとうございます!』と良い声が返ってくる。ナイさまとエーリヒさまと共に過ごしていると、食事を作ってくれた方に感謝を述べる癖が勝手に身に付いていた。

 もちろん前世の家ではご飯を作ってくれたお母さんに美味しかったとかありがとうと伝えていたが、お店で食べて『ごちそうさまでした』とか『ありがとうございます』とかは恥ずかしくて言えなかったのに。

 不思議なことだけれど周りの方に感化されたようで、最近の私はこうして声を掛けるようになっていた。私を真似てアリサとウルスラも伝えるようになっていた。もしかして声掛けは私たち以外の大聖堂の方々も始めるようになるのだろうか。

 

 「さて、お昼も頑張って働きましょうか!」

 

 前世は大学生だったので社会に出たことはないけれど、大聖女として治癒を施しているのは働いていると称して良いのだろう。信者の方から治癒代代わりに寄付を貰うようになっているから、モチベが少し高い気もする。

 

 「今日も沢山いらっしゃるでしょうからね。無理のない範囲で頑張りましょう。お姉さま、ウルスラ」

 

 「はい! 困っている方に手を差し伸べられると良いのですが」

 

 アリサとウルスラが私に視線を向けて笑っていた。女の子は元気に笑っているのが一番だけれど、二人には思い人はいないのだろうか。少し興味が湧いてきて、移動までの間の話の種に丁度良いかと私は口を開く。

 

 「そういえばアリサとウルスラには気になる方はいないのかしら?」

 

 「気になる方……フィーネお姉さまです!」

 

 「どうでしょうか。私はあまり考えたことがないです。一つ言えることは、困っている方や迷っている方がいれば気になるでしょうか」

 

 私の質問にアリサがとんでもないことを言い、ウルスラが真面目に答えてくれる。甘酸っぱい話はないかと聞いてみたのに、二人にはまだ白馬の王子さまはやってきそうもない。まあ、そのうち彼女たちから恋愛相談を受ける可能性だってあるだろうと、午後のお仕事に勤しむ私たちだった。

 

 ◇

 

 徒競走の賞品をまだ渡していない方がいると思い出し、昼食の時間に全員集まっているから丁度良いと私はまだ賞品を得ていない方に話を切り出してみた。

 

 「ヴァルトルーデさま、クレイグ。島での賞品は決まりました?」

 

 まだ賞品を得ていないのはヴァルトルーデさまとクレイグである。参加した方には王都の人気店のお茶菓子を渡している。毛玉ちゃんたちとルカとジア、ジャドさんたちには手作りジャーキーと子爵領のとうもろこしさんだ。

 割と気に入って貰ったようだから、来年、島でやることがなければまた開催予定としている。道具もいらず、浜辺にスタートラインとゴールラインを引くだけという手軽さだ。あとは個人差による足の速さをどう加味するかであった。

 

 私が声を上げたことで、王都にある侯爵邸の食堂に集まっているメンバーの手が止まった。唯一食べ続けているのはジルケさまだけだ。ヴァルトルーデさまは膝の上に置いてあったナプキンを使って口元を拭った。少しずつお貴族さまの食事マナーが身に付いているようで、女神さまの彼女には凄く似合っていた。

 

 「まだ決めてない。どこかの国に行ってみたい気もするけれど騒ぎになるのは分かったから、今は良いし……本当になににしよう。クレイグは決めたの?」

 

 ヴァルトルーデさまは持っていたナプキンを膝の上に戻して、クレイグの方へと顔を向ける。彼は私にどうしてこのタイミングで女神さまと一緒の話題を俺に向けたと言いたそうだ。単に私が思い出して、まだかなと聞いてみたかっただけなので深い理由はない。ヴァルトルーデさまに声を掛けられて驚いていたクレイグはふうと息を整えて疑問に答えるべく背を正した。

 

 「……俺はアガレスの天然石を融通して欲しいなと」

 

 少し間を置いたクレイグはヴァルトルーデさまと私を確りと視線に捉えていた。アガレスの天然石ならば私が少しばかりの在庫を所持しているし、なにか欲しい品があるのならウーノさまにお願いして送って貰うこともできる。

 クレイグが欲しいなら特に問題はないし、賞品なのだから買い上げとかけち臭いことを言いたくない。何故クレイグは遠慮気味に『融通』なんて言葉を使ったのだろうか。

 

 「ナイが持っているものだね。宝石に興味があったんだ」

 

 「意外」

 

 ヴァルトルーデさまの声に私も同意の声を上げた。私たち幼馴染組は貧民街で生活していたためか、装飾品よりご飯に比重を置いている。クレイグならなにか食べ物を望むかな、なんて考えていたのに本当に意外だ。

 

 「少し、考えていることがありまして」

 

 クレイグがヴァルトルーデさまに伝えた。おそらく私が相手であれば『うっせ、聞くな』とか言っていたに違いない。女神さま効果は凄いなと感心していると、ヴァルトルーデさまが口を開く。

 

 「そっか」

 

 彼女はクレイグの欲しい品に対して、これ以上深入りするつもりはないようである。確かに深く聞き出すのも野暮だし、話題に上がったついでに賞品を渡しておこうと決めた。

 

 「なら、ご飯食べたあと私が持ってる品を見てみよう。気に入るものがなければアガレスに直接赴くかウーノさまにお願いして送って貰えば良いから」

 

 「そこまで大袈裟にするつもりはねえよ、ナイ。小さいヤツで良いんだ」

 

 クレイグの言葉使いにヴァルトルーデさまが羨ましそうな視線を私に向けた。どうやらヴァルトルーデさまはクレイグにいつも通りの喋り方をして欲しいようだが、私を見ないで欲しい。

 おそらくクレイグはヴァルトルーデさまのことを西大陸の女神さまだから粗相があってはならぬと考えているはず。クレイグがヴァルトルーデさま方に普段通りの言葉使いになるのは果たしていつになるだろう。遥か遠い未来に訪れれば良いなと願っていると、ジルケさまがふいに食事の手を止める。

 

 「これ、美味いな」

 

 ジルケさまは本日のお昼で出たメインディッシュの料理が甚く気に入ったようである。ポークソテーにペペロンチーノソースが掛かっているもので、割とあっさりと食べることができた。少し口臭が気になるけれど、前世の日本ほど皆さま臭いを気にしない。お昼からニンニクが効いているものを食べても煙たがられないのは有難いことだった。

 

 「なんだ、みんな残してるじゃねえか。美味いのに」

 

 顔を上げたジルケさまは皆さまの前にあるお皿に視線を向けていた。私が声を上げたことによりみんなの手が止まって、半分くらいしか食べていなかったのである。

 美味しいものを何故残しているとありありと言いたげな顔をしているジルケさまに、私とジークとリンとクレイグとサフィールは彼女にどう答えたものかと苦笑いを浮かべる。私たちの様子を察したヴァルトルーデさまが仕方ないと少しだけドヤ顔になって、ジルケさまと視線を合わせた。

 

 「妹だけずっと食べてた」

 

 「む。まさかあたしは美味さのあまりに話が耳に届いていなかったのか……すまねえ。で、なんの話をしてたんだ?」

 

 ヴァルトルーデさまの説明を聞いたジルケさまは申し訳ないと微かに頭を下げる。もう一度同じ話をするのは問題ないが、クレイグは大丈夫か確認を取ろうとした先に口を開いた方がいる。

 

 「もう終わったこと。聞いていない妹が悪い」

 

 ぴしゃりとヴァルトルーデさまはジルケさまに聞いていない方が悪いと言い放った。クレイグは特に問題ないようだし、話をしても良いのではなかろうか。しかしヴァルトルーデさまは姉的立場をジルケさまに取りたいのか、ふふんと良い顔になっている。彼女は『最近、妹たちが手厳しい』とぼやいていることがあるので、長姉の威厳を示したいようである。

 

 「まあ……良いけどよ。ナイ、また同じ料理が出される日はいつだ?」

 

 「いつでも大丈夫ですよ。調理部の方にお願いすれば、希望の日に作ってくださるでしょうしね」

 

 ジルケさまは話の内容よりも食事についての方が大事なことのようである。今回提供されたポークソテーがお気に入りの一品になったようで、また食べたいとのこと。

 女神さまだから直接調理部に赴いてお願いすることもできただろうに、直接行けば頻繁に出されるとジルケさまは考えたのだろうか。確かに私は美味しかったお料理をまた食べたいと調理部の皆さまにお願いしている。頻繁にリクエストを私が出しているから、ジルケさまが出すより良いのだろう。

 

 「出される日、教えてくれ。屋敷に必ずいるからな!」

 

 にっとジルケさまが私に向かって嬉しそうに笑う。そんなに気に入って貰えたならば調理部の皆さまは喜んでくれるだろう。私やエーリヒさまがお願いしたレシピではなく、調理部の誰かが考えた品なのだから。調理部の皆さまに良い報告ができそうだなと私が笑っているとヴァルトルーデさまははっと目を見開いた。彼女はなにを思いついたのかと身構えながら聞く態勢を整える。

 

 「ナイ、ナイ。私の賞品、食べたいものでも良いの?」

 

 「構いませんよ。私は調理部の皆さまにお願いを出すだけなので」

 

 「えっと、えっと。干し芋、クリームコロッケ、梅肉の豚肉巻き……あ、鰻重も。フソウの干物も美味しかったし、お味噌汁も好きだ。卵焼きも美味しいし、出汁巻卵も食べたい」

 

 ヴァルトルーデさまが指折り数えながら食べたい料理を口にするのだが結構品数が多い。前にも呟いていた気がするが……まあ気にするまい。

 フソウに赴いた方が美味しく食べられるものもあるし、全部叶えるならばフソウに出向くことになりそうだ。そういえば松風と早風は島にこなかったし、暫く会っていないので時間ができたらフソウに赴くのも手かもしれない。

 

 「姉御、欲望が駄々洩れだぞ。ナイじゃあるまいし」

 

 「あ、そっか。もう少し絞らないと」

 

 ジルケさまが呆れた様子でお料理の名を羅列しているヴァルトルーデさまに突っ込んだ。突っ込まれたご本神さまも言い過ぎたと気付いたようで、考えを改めるようである。

 私はヴァルトルーデさまが挙げたお料理に嫌いなものはないし特に問題はなかった。また食べたいという品もあったので有難かったのに、ジルケさまとヴァルトルーデさまの言い方は如何なものだろう。私は抗議をすべく直ぐに口を開いた。

 

 「ちょっと待ってください! 私が食欲大魔神みたいな言い方ですよ!」

 

 「違うのかよ?」

 

 「ナイは小柄なのに凄く沢山食べてる。びっくり」

 

 私の抗議にジルケさまが片眉を上げ、ヴァルトルーデさまは少し困った顔になっている。確かに良く食べるけれど、大食いを商売にしている方のような食べ方はできない。

 私は時間を掛けて量を食べているだけなので、時間制限があると途端に食べる量は少なくなるはず。小柄だし、良く食べるように見えるだけではなかろうか。

 でも、ゆっくり食べて良いなら三人前、四人前を食すことができる。ジークとリンが偶に気を使ってデザートを分けてくれるけれど、私はなにも考えずお礼を言って二人の分を食べている。太らないからと言って、少し気を緩めすぎていただろうか。少し食べる量は自重した方が良いのかもしれない。

 

 「…………」

 

 私が黙っていると、ジルケさまとヴァルトルーデさまとクレイグが『そらみろ』と言いたげな顔になり、ジークとリンとサフィールは苦笑いを浮かべていた。ちょっと自重を考えようと、残っていたお皿の上のポークソテーを食べ切って手を合わせるのだった。

 

 ――翌日。午前。

 

 昨日、昼食を終えたあとクレイグは青い色の天然石を選んでいた。少しご機嫌だった気がするけれど、彼はなにに使い道を見出したのやら。まあ聞くのは野暮だし好きにすれば良いかと私は納得して一日が過ぎていった。

 

 今日の午前中はアストライアー侯爵家の執務室でクレイグと一緒に簡単な事務仕事を片付けていた。長期休暇中なので大事な仕事は特にないし、二人で十分に判断できる。アルバトロス王国からの問い合わせもないし、他国から催し物に参加しないかという打診もない。平和だなと二人で目を合わせていると、クレイグが手紙をトレイに乗せていくつか私に差し出した。

 

 「暇な奴がいるもんだな。夜会の誘いが届いてる」

 

 クレイグは私が夜会に参加しても軽食コーナーに張り付くだけなので意味がないと考えているようだ。確かに挨拶回りが終われば、私は軽食コーナーを陣取る。

 でもそれは妙な方からの声掛けの危険を避けるものであるし、食べるだけで軽食コーナーに居座っているわけではないのだ。理由を教えても『嘘つけ』と言われるだし、まあ良いかと私はクレイグと視線を合わせた。

 

 「長期休暇中なのにねえ」

 

 「まあ、相手も誘いの手紙が減っているかもって考えていそうだな。いつもなら家宰殿と側仕えの二人が処理してくれているが、留守だしナイが判断してくれ」

 

 クレイグ曰く私が行きたいと言っても相手方の評判やらを先に調べるから参加の返事をするのは少し待てとのことである。私は彼に言われるまま、手紙の後ろの封蝋を確認してから中身を取り出した。一枚目は侯爵位を持つ方からだった。舞踏会を開くから参加して頂けませんかというものだ。二枚目は伯爵位を持つ方で、独身貴族の方を集めてパーティーを開くとのこと。

 

 「あからさまに狙ってねえか?」

 

 「そんな気がする。興味ないのに」

 

 クレイグが怪訝な顔をし、私は目を細めて天井を見上げた。特に興味はないし行く気もないので、クレイグにパスと伝えれば断りの手紙を送っておくとのこと。そうして三枚目、四枚目と目を通して五枚目の手紙になった。子爵位の方がアルバトロス王国内のお貴族さまたちを集めてやりたいことがあるようである。

 

 「あ。美食家の方を集めて、料理の批評会をしないかって手紙が届いてる。ちょっと興味があるかも。お貴族さまのご飯ってどうなってるんだろう」

 

 「ナイも貴族だろ。それに毎日、珍しい品からフソウにアガレスに共和国の料理を作って貰ってるじゃないか。ナイがアルバトロス王国一の美食家だろ」

 

 私の声を聞いたクレイグは肩を落としながら呆れていた。ジークとリンも執務室の隅で苦笑いを浮かべているので、私が美食家だと考えているようである。

 

 「え?」

 

 「自覚ないのかよ!!」

 

 私が呆けた声をあげるとクレイグが即座に突っ込んでくれた。とはいえ私の言い分を聞いて欲しい。

 

 「うーん。私の味覚は前世由来のものだし、特に美食家というわけでは。強いて言うなら雑食? なんでも食べるよ」

 

 特に美食家というわけではなく、前世の日本で飽食時代と呼ばれる時間に生きていたから、この世界の人たちは私をみれはそう勘違いしてしまうだけだ。本当なら料理に詳しいエーリヒさまの方が適任かもしれないが、彼は今聖王国に出張中である。

 

 「そりゃそうだがよ。で、行きたいのか?」

 

 「行ってみたい気持ちはある」

 

 クレイグがまた呆れ声を上げつつも私の意思は尊重してくれるようだ。行きたいと伝えればふむと考える仕草を見せる。

 

 「一先ず、相手先のこと調べてみる。結果がでるまで返事するなよ」

 

 「勝手なことしないよ」

 

 「分かってるけど、一応な。飯関連は気を付けておかねえと」

 

 「信用ないなあ」

 

 本当にご飯関連は私が暴走すると皆さまに捉えられているようである。お米さまの件は仕方ないけれど他のこと……どうだろうか。異様に執着していた気もするし、食べたいものがあればフソウまで飛竜便を使って移動する。普通の方からみれば異常かと苦笑いを浮かべて、今日の午前の時間が過ぎていくのだった。

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