魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0643:お婆さまの行方。

 ガレーシア王国からアルバトロス王国に戻っている。

 

 仕事で赴いたものの、時々外に出るのは気分転換になるなと私が自室で目を細めているとトリグエルさんの仔猫たちが一鳴きして私の側に寄ってきた。ベッドの上でクロと話していたのだが、私の横で三匹がちょこんと座る。

 

 遊んで欲しいのかなと私は玩具を手に取って、鼠を模した人形の先に糸が付いている竿を動かし彼らの興味を引くように動かす。仔猫たちは私の思惑に乗ってくれ、猫の本能に抗えず人形の鼠に一斉に飛び掛かる。私は人形の鼠が彼らに捕まらないように上に引き上げれば、青色ちゃんがぴゅっと後ろ脚の力だけでジャンプをし右前脚で鼠の人形を捕まえる。青色ちゃんの自重で玩具の竿が折れてしまうと、私はそのままベッドの下につくように竿を下げた。

 

 そうして赤色ちゃんと白色ちゃんがチャンスを逃すものかと、ベッドの上の鼠の人形に襲い掛かる。行動は野良猫だなあと感心していると、籠の中でまったりしていたクロがむくりと顔を起こして目を細めた。

 

 『大きくなったけれど、まだまだ成長するねえ』

 

 「一年くらいは成長期間かなあ。でも産まれた頃より成長する勢いはなくなっているから毎日見ていると分かり辛いかもしれないね」

 

 子猫が産まれて数ヶ月経っている。産まれた直後は数百グラムだったのに、今ではもう一キロを超えて随分と身体が大きくなっていた。三匹一緒に抱き抱えることができていたのに、最近彼らが膝の上に乗ると耐えるのが結構辛い。

 セレスティアさまは幸せそうな顔をして膝上に三匹乗せていることがあるのだが、私は彼女の様に耐久性がないので『ごめんね』と仔猫たちに伝えて膝の上から撤去して貰うことが多かった。時折トリグエルさんまで乗ろうとするので結構大変なのだ。面白半分で毛玉ちゃんたちも参戦しようとするし、冗談で雪さんと夜さんと華さんが私の背中に身体を預けてきたときは本気で潰れるかと身構えた。

 

 ふふふと私が笑っていると、仔猫たちは動かなくなった人形の鼠に興味をなくしまた私の横にちょこんと腰を下ろす。どうしたのかと首を傾げるが、仔猫たちがクロのように答えてくれるはずもなく。

 

 『ナイの横が良いみたいだよ。トリグエルの仔たちだから、魔素が高い所の居心地が良いのかもねえ』

 

 「権太くんやトリグエルさんみたいに尻尾がポロっと増えるかもしれないのか」

 

 猫又の仔だから、尻尾の数がいつの間にか増えているかもしれない。以前の仔たちにはまだ尻尾は増えていないのだが、知能は普通の猫より高いようである。今回産まれた仔たちは三頭と猫にしては少ないし、力が凝縮されていそうだ。

 私の顔をじっと見上げる仔猫たちの可愛さにやられ、私はベッドから降りて机の引き出しからビーフジャーキーならぬチキンジャーキーを取り出す。なにかを察した仔猫たちがベッドの上で目の色を変えていた。トリグエルさん同様、彼らは食べ物に貪欲なようで私の手元をじっと見つめている。

 

 『めでたいことだよ』

 

 クロは食欲旺盛な仔猫たちに目を細めて彼らの成長を素直に喜んでいるようだ。間食の与えすぎに注意しているので早々太らないはずだし、トリグエルさんのような妖猫食っちゃ寝にはなっていない。

 食欲旺盛であるが体力も若いためか十分に備わっており、暇になれば屋敷の中を探検している。外に出てルカとジアに挨拶をしたり、厩に住み着いた父猫さんにも挨拶をして仲良くなっているようである。トリグエルさんは我が仔が取られたという意識はないようで、仔猫の相手を務めてくれるならば問題ないようだ。ただトリグエルさんは父猫さんと顔を合わせる気はないようである。

 

 「めでたいで思い出した。海の状況はめでたくないね。良い解決策が見つからないし、どうなるんだろう」

 

 私はクロを見つめてぼやく。創星神であるグイーさまは海神さまの居場所を教えてくれず私たちで解決するようにと仰り、海竜であるエーギルさまに聞いても難しそうだった。捜索は継続してくれるようだけれど進展は遅そうな状況だ。

 

 『お婆はなにか知っていないかなあ。噂好きの妖精の長だからなにか知っているかも』

 

 むむむとクロが考えながらお婆さまの名を呼んだ。

 

 「でも最近、お婆さまは本当に姿を見せてくれないよね。いつもひょっこり現れて、いつの間にかどこかに消えてるのに」

 

 『恥ずかしい過去がみんなにバレちゃったからねえ。顔を合わせづらいのかも。でもナイが呼べばきてくれるはずだよ~』

 

 クロは簡単そうに言っているけれど、本当に私が呼んできてくれるのか。試してみる価値はあるのかなと私は少し魔力を練って、お婆さまの姿を頭の中に思い描く。

 

 ――お婆さま!

 

 返事がない。ただの屍のようだ……って、勝手に殺しちゃ駄目か。魔力が足りていないのかなあと私は魔力を練る出力を上げる。お婆さまは今頃どこにいるのだろうか。

 まさか恥ずかしい過去が露見したからどこかに引き籠ってしまっているのかもしれない。確かに恥ずかしいかもしれないが、生きていれば恥ずかしいことの一つや二つあったって仕方のないことである。

 私だって貧民街でやらかした過去をボルドー男爵さまにヴァルトルーデさまとジルケさまに知られているし、そのお陰でソフィーアさまとセレスティアさまに護衛の方たちにもバレている。顔が赤くなってしまうが、本人ほど皆さま気にしていない。過去のことだし微笑ましい事件として捉えてくれている。お婆さまの過去も若かりし頃の出来事だから、重く受け止めなくても良かったのに。

 

 ――お婆さまー!! 出てきてくださいー!! 

 

 私はもう一度お婆さまの名を呼べば、他の妖精さんたちが側に寄ってくる。仔猫たちが妖精さんの存在に気付いて、てててと走りだし妖精の下へ三匹が一斉に跳ねていた。

 

 『ひゃ!』

 

 『猫畜生が妖精に敵うなんて思うなよー!』

 

 『毛むくじゃらの癖に生意気なー!』

 

 集まった妖精たちが仔猫に抗議している。怒っているようだが、状況を楽しんでいるようにも見えた。仔猫たちは相変わらず飛んでいる妖精さんにアタックを続けているので、遊んで貰っているという認識のようだ。

 

 『妖精は元気だねえ』

 

 クロがまた目を細めながら呟くと一層大きな光が現れるのだが、一部に黒い靄のようなものが掛かっている気がしてならない。光の玉は人間の形を成していき、お婆さまだと分かり始めた頃に声が上がった。

 

 『名前を呼ばれた気がしたわ。貴女に呼ばれて目が覚めた気分だわ』

 

 ふうと溜息を吐いたお婆さまの声が耳に届く。いつも元気に現れるお婆さまなのに一体どうしたのかと私が目を細めると、お婆さまはお婆さまなのだがなんだか一気に老けている。

 

 「お婆さま、しょぼしょぼじゃないですか!」

 

 流石に女性に老けているという直球ストレートな言葉を投げれないと少し誤魔化して私は声を掛けた。お婆さまは私を見つめてゆっくりと私の肩の上に乗った。そうして直ぐに肩に腰掛けたお婆さまは悩まし気な溜息を漏らして身体を左右に揺らしている。いつもより元気がないというか、覇気がないというか。お婆さまから感じる魔力が弱い気がする。

 

 『なんだかねえ~恥ずかしくてあたしだけで暫く過ごしていたら、なにかに囚われていたっぽいのよ。それがなにかは分からないけれど、貴女の声が聞こえて行かなきゃってなったら意識がはっきりしたわ!』

 

 お婆さまが助かったわ~と軽い調子で言葉を続けた。私は大丈夫かなと右手の手の平をお婆さまの前に差し出せば、彼女は素直に手の平の上に乗ってくれた。

 

 『しょぼしょぼなのは誰かにあたしの魔力が吸われていたからかしらねえ?』

 

 「軽い! 軽いですよ、お婆さま!!」

 

 お婆さまは軽い調子で言ってのけるが、妖精の長であるお婆さまを捕えて魔力を吸っていたなんて、一体誰がそんな度胸の在ることをしていたのか。人間ではなさそうだが、人間だと超問題になりそうだ。ゆらゆらと身体を左右に動かしながらお婆さまは私の手の平の上にちょこと座った。仔猫たちが興味を示しているのだが、弱っているのが分かるのか心配そうにこちらを伺っている。

 

 『ま、貴女に魔力を分けて貰えば、元の姿に直ぐ戻るはずだわ。でも暫くここでゆっくり過ごすのも良いかもしれない……いえ、女神さまがいらっしゃるのよね。やっぱり止めようかしら』

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまと会うのは嫌なのか、お婆さまは回復していないのに屋敷から出て行こうとしている。私はとりあえず亜人連合国へ連絡を入れなければと、部屋に設置してある連絡用の魔法具を亜人連合国領事館へと繋げる。魔力を流して少し時間が経てば、魔法具から声が聞こえてきた。

 

 『ハロハロ、ナイちゃーん! どったの~?』

 

 『軽いわねえ。ナイちゃん、どうしたの、珍しいじゃない』

 

 アイリス姉さんとダリア姉さんの明るい声が魔法具から届いた。私は目を細め事情を伝えればエルフのお姉さんズは『お婆が弱っているの!?』『え~信じられないよ~でもナイちゃんが私たちに嘘を吐くはずないし……』と話を信じてくれて、直ぐにディアンさまとベリルさまと一緒に侯爵邸へきてくれることになる。

 

 『心配し過ぎよね~』

 

 魔法具にお婆さまが軽い調子でエルフのお姉さんズに伝えると、魔法具の向こうから剣呑な空気が流れてくる。

 

 『お婆、貴女が誰かに捕らわれるって大事よ』

 

 『そうだよ~誰がお婆を捕えたのか調べないと。他の妖精たちに影響があっても問題でしょ~?』

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんはお婆さまが弱っている件を大事だと捉えている。自然に弱ったならば寿命だけれど、誰かに捕らえられた感覚があるというならば誰かの意思が介在している。本当に一体誰だと悩んでいると、お婆さまはダリア姉さんとアイリス姉さんの言葉によってようやく事の重大さを理解できたようだ。

 

 『む……それもそうね。力が戻ればみんなに気を付けなさいって伝えておくわ』

 

 亜人連合国以外にもアルバトロス上層部や周辺国に情報を渡しておいた方が得策か。なにかあればアルバトロス上層部に情報を齎してくれるだろう。一先ずは報告を優先させて、お婆さまの体力の回復、それから誰がお婆さまを捕えたのか調べなければ。なにやら海神さまの行方不明の件と重なってしまったけれど、どちらも重要案件だ。疎かにする訳にはいかないと気を引き締めて、私は呼び鈴を手に取って侍女の方に執務室へ赴くことを伝えるのだった。

 

 ◇

 

 九月に入った。

 

 長期休暇が明けたため、私たちアストライアー侯爵家の面々は王都のタウンハウスから自領へと移っている。長期に滞在するのは初めてとなるので荷物の移動は結構大変……と言いたい所だが、お貴族さまとして私の荷物は極少ないため直ぐに終わった。

 屋敷で働く皆さまから『もう少し衣類と装飾品に興味を持って欲しい』という視線を向けられていたのだが、今でも十分に持っているので平気である。服に一度袖を通せば、次は着ないというお貴族さまの世界が異常なだけである。

 

 侯爵領の領主邸に移り住んだのは私だけではなく、ジークとリン、クレイグとサフィールにクロとアズとネル、ロゼさんとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたち三頭に、エル一家とジャドさん一家が一緒である。ユーリもこちらへ移り住み、彼女の世話役である乳母さんたちとアンファンも一緒である。

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまも領主邸で過ごしつつ仕事を担ってくれるとのこと。家宰さまもこちらへきているし、王都のタウンハウスで働いていた面々はほぼ侯爵領にきている。

 アリアさまとロザリンデさまは聖女のお仕事があるために、王都の侯爵邸に居残っていた。寂しくなると言っていたが、長期休暇になれば王都で過ごすことになるので心配しないで欲しい。時々、助言役として教会に顔を出す予定もあるし、永の別れというわけではないのだから。

 

 領主邸の当主部屋のベランダから庭を眺めている。私の隣にはジークとリンがいて、肩の上にはクロがいるし、アズとネルもそっくり兄妹の肩の上だ。

 ロゼさんはベランダが珍しいのか身体をうねうね動かしているし、ヴァナルはちょこんと座って目を細めながら外の景色を見ている。雪さんたちも庭を眺めながら、緊急時の避難経路を確かめているようだ。毛玉ちゃんたちは外の景色よりも三頭で遊んでいる方が楽しいようで、私たちの背後でワンプロをしている。真剣にならない限りは止めないで良いだろうと、私は毛玉ちゃんたちから庭へと再度視線を戻した。

 

 「広いねえ」

 

 王都のタウンハウスも広いが、侯爵領の領主邸は更に広い。そりゃ当主の本拠地だから広いのは分かるけれど、広大過ぎて溜息が出そうだ。建屋の部屋数も多く、その分下働きの方や庭師さんを雇わなければならない。本当にお貴族さま業はいろいろと見栄を張らなければならず大変である。とはいえお貴族さまが見栄を張ってくれなければ雇用が生まれない。侯爵邸で働く皆さまの顔と名前を全員覚えられるか不安であった。

 

 「広いな」

 

 「広いよね」

 

 ジークとリンが私のボヤキに答えてくれた。そっくり兄妹も屋敷は広いと感じているようだが、ベランダの高い位置から屋敷内の危険な所やならず者が侵入しそうな所を探しているようである。

 頼もしい限りだが気を張ると疲れるだけ。一応、侯爵領の領主邸とミナーヴァ子爵領の領主邸にも結界を張ろうと計画が立ち上がっている。だから二人が心配する必要は少ないのだが、騎士という職業病なのだろう。

 

 『広いねえ』

 

 『そうなんだ』

 

 クロが肩の上でジークとリンと同じ台詞を吐き、私の頭の上に乗っているお婆さまが不思議そうな雰囲気で庭の感想を零した。お婆さまは誰かに捕らわれていたっぽいと軽い調子で済ませていたが、亜人連合国のディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんは凄く心配していた。

 お婆さまが捕まるなんてほぼあり得ないことだったし、誰かに力を吸われていたことが信じられないらしい。相手は誰か分からないし、私がお婆さまの名を呼べば飛んできてくれたので強制的に捕まっていたようなことはなさそうである。でも、妖精の長と言っていいお婆さまの力を吸う能力を持つ何者か……一体誰なのだろうという疑問が湧くばかりである。とはいえ日常は過ぎていくので、領地の運営や聖女のお仕事に交友関係を広げつつ忙しい日々を送っていた。

 

 私はふうと息を吐いて、頭の上にいるお婆さまに声を掛ける。

 

 「お婆さま、力は回復したのですか?」

 

 『ええ。貴女の馬鹿みたいな魔力のお陰で随分と!」

 

 私の頭の上でお婆さまが腕を組んでドヤ顔になっている気がする。彼女の姿が見えないので予想でしかないが、なんだかそんな気がするのだ。

 

 「しょぼしょぼでしたからねえ」

 

 『ちょっと、しょぼしょぼって言わないでよ! まあ、でもあの時は本当に危なかったわ!』

 

 私がお婆さまに話を聞こうと彼女の名を呼んで姿を現してくれた時は本当に悲壮な姿だった。いつも元気で可愛らしい姿をしているお婆さまなのに、自慢の羽は蝶が羽化したばかりのシワシワっぷりだし、顔は痩せこけて目に生気が宿っていなかった。

 喋ることができていたし、私の側で過ごせば回復するとお婆さまは主張していたし、亜人連合国の皆さまもお婆さまをお願いと私の下に預けた。力が減ったことでお婆さまはフラフラ徘徊することを止めたようで、二週間ほど一緒に過ごしているが元の元気な姿に戻っていた。

 

 『お婆は呑気だねえ』

 

 『呑気なのは貴方もでしょ! ナイの肩の上でずーーっと魔力を溜め込んでいるんだもの。一体どれだけ強くなるつもり!?』

 

 クロの声にお婆さまが私のアホ毛を掴んで抗議をし始めた。そういえばクロはアガレス帝国で身体を巨大化――元の姿に戻ったともいう――したけれど、その時消化した魔力は戻っているのだろうか。

 巨大化するような事態が起こっていないので確かめることがないし、特にクロも力が戻ったとも言わない。クロ曰く、アズとネルも立派な竜になるらしいのだが、いつもジークとリンの肩の上にちょこんと乗っているだけなので凄い姿を拝んでいなかった。

 

 『ボクはナイの側にいたいだけで、強くなるつもりなんてないよ?』

 

 クロがお婆さまを見上げているが、視界に捉えているのだろうか。お婆さまは私のアホ毛をぎゅっと掴んで足をばたばたさせていた。ルカは私のアホ毛を食む時があるし、ジャドさんも私の頭の上に顎を乗せてぐりぐりすることがある。私が床に腰を下ろしていると毛玉ちゃんたちも頭の上を狙って、背に脚を乗せて顎を頭の上に置くことがある。私の頭の上にはなにかあるのだろうかと考えているとお婆さまが更に私のアホ毛を握り込んだ。

 

 『ぜーーったい嘘だから! 前より確実に強いはずよ!』 

 

 お婆さまの言葉を信じれば、クロはご意見番さま時代より力が強いようである。小さいから力が強いように見えないけれど、口から吐くブレスはレーザービームの如しだった。

 お婆さまの意見はあながち間違ってはいないのだろう。クロはお婆さまの言葉にスルーを決め込むようで彼女から視線を逸すと、庭にいる誰かを見つけたようだ。クロが『あ』と声を漏らすと、庭に出てきた方がベランダを見上げる。

 

 「ナイ」

 

 「どうされました?」

 

 ヴァルトルーデさまが私の名を呼び返事をした。一体なんだろうと首を傾げると、お婆さまが私の頭の上から背中へすっと移動した。お婆さまは相変わらずヴァルトルーデさまが苦手なようで、女神さまの姿を見ると隠れてしまう。

 

 「妖精の仔の話が聞きたい。随分と元気になったみたいだし、良いかな?」

 

 ヴァルトルーデさまはお婆さまと話がしたいようである。しかし庭に立っているお方はジルケさまに『苦手意識持たれてんだから、興味向けるのもほどほどにしておけよ』と言われて自重していたはず。

 ただお婆さまが今回しょぼしょぼになって姿を現した件が気になっているようだし、ヴァルトルーデさまがお婆さまと話せば新たな情報が出てくるかもしれない。私の背に隠れたお婆さまに視線を向ければ、彼女は微妙な顔になっていた。

 

 「お婆さま、どうします? ヴァルトルーデさまが苦手ならジルケさまにも立ち会って貰いますか?」

 

 『うぐっ。苦手というか昔の話をされるのが恥ずかしいだけなの! し、心配してくれているんだし、話をするのを断るのは失礼じゃない! でも貴女も一緒に話を聞いて!」

 

 私がお婆さまに声を掛けてみると、彼女はヴァルトルーデさまのことが苦手なのではなく昔話をされることが恥ずかしいようである。過去を暴露されるのは恥ずかしいのは知っているので、お婆さまが恥ずかしがる気持ちが理解できる。

 そういえばヴァルトルーデさまたち女神さまに幼い時期はあったのだろうか。今度グイーさまに聞いてみようと決めて、とりあえず目の前のことを決めなければ。

 

 「私も一緒に聞いて良いんですか?」

 

 『昔の話じゃないみたいだしね。昔の話になったら魔法で大きな音を出して、貴女に聞こえないようにするわ!』

 

 お婆さま的に凄い音を鳴らすそうである。それ、炸裂弾では……という突っ込みは入れず、庭からベランダを見上げているヴァルトルーデさまに私の部屋にくるようにお願いする。

 特に意見はなかったようでヴァルトルーデさまは分かったと庭を歩き始めた。私はベランダにいたみんなに部屋の中に入ろうと促し、戻ってベルを鳴らして侍女の方にお茶を淹れて貰うようにお願いする。今日の私付きの侍女の方は騎士爵家出身のエッダさんである。彼女もまた王都のタウンハウスから侯爵領の領主邸に異動となっていた。忙しいかもしれないが、私的には三年近く付き合いのある方なので有難い。

 

 ヴァルトルーデさまが部屋にくるのを待っていれば、開きっぱなしの扉に彼女が立っていた。私たちが気付けばヴァルトルーデさまは目を細める。

 

 「ナイ、入るね」

 

 「どうぞ」

 

 すたすたとヴァルトルーデさまが部屋の中へと入ってきた。私は応接机を指差して座って貰うようにすれば、ヴァルトルーデさまは私の横が良いそうだ。

 その代わりにジークとリンが私の正面に座れば良いと彼女は仰り、ジークとリンは女神さまの声に従うしかなくなった。お婆さまは私の頭の上で相変わらずアホ毛をぎゅっと握り込んでヴァルトルーデさまを見ている。

 

 クロは『そんなに緊張しなくても良いのに』とぼやけば、お婆さまが『仕方ないじゃない! 神さまは妖精の上司みたいなものだし!』と小声で反論している。

 エッダさんがワゴンを押しながら部屋へと戻ってきた。お茶請けもバッチリ用意されており、ヴァルトルーデさまは嬉しそうな顔になっていた。エッダさんが全員分のお茶を用意してくれると、ヴァルトルーデさまが真っ先にお茶を手にして一口飲んだ。

 

 「美味しい。いつもありがとう」

 

 「い、いえ! こちらこそありがとうございます!」

 

 ヴァルトルーデさまのねぎらいの言葉にエッダさんが恐縮しっぱなしだが、最初の頃よりは随分打ち解けた気がする。お婆さまもヴァルトルーデさま方と打ち解けられれば良いのだが、私の頭の上からジークとリンの間に逃げたお婆さまの未来はどうなるのだろう。私とジークとリンも淹れて貰ったお茶を飲んで暫くすると、ヴァルトルーデさまがお婆さまに語り始める。今回お婆さまがしょぼしょぼになって姿を現したことが凄く気になるようだった。

 

 「妖精の力を吸える者は限られてる。しかも長く生きてる君の力を奪うなんて並大抵のことではできない」

 

 ヴァルトルーデさまが神妙な顔で最後に告げた。確かにお婆さまの力を吸える者は少ないだろう。グイーさまや女神さま方ではないとして、他にお婆さまの力を吸い取れそうな方はと私は頭の中に思い浮かべてみる。

 

 「まさかいなくなった海神さまでしょうか?」

 

 問題が重なったためか、真っ先に思い浮かんだのは海神さまだった。しかし何故お婆さまの力を奪ったのかは分からない。なんだか謎がまた増えたなあと、集まったメンバーが視線を合わせて妙な表情になるのだった。

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