魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
エーギルさまから返事もこない――ガレーシア王国にエーギルさまの言葉をアルバトロス王国に伝えて貰えるようにお願いしてある――し、お婆さまの件も一旦保留となっていた。
一先ず、進展は見られないので私たちは日常を送ることになっている。
ジークが南の島で開催された徒競走大会の賞品である『私とお出掛け権』を今日発動させた。お出掛け先をジークと私でいろいろと考えていたけれど、どこに向かっても騒ぎになるしアストライアー侯爵領領都の街をぶらぶらしようとなった。
護衛の方もいるので大所帯になると覚悟していたのだが、侯爵家の警備部精鋭から人員を割いて極力減らしているとか。ジークと私だけで出掛けることにリンが拗ねるかなと思いきや、いつも通りの態度で『楽しんできて』と見送ってくれた所である。領主邸の馬車回りで馬車に乗ろうとジークは私に手を差し出した。
「じゃあ、行くか」
「うん。よろしくね、ジーク」
二人だけで出掛けるのは随分と久し振りである。というか初めてのような気がしなくもない。貧民街では誰かを引き連れて行動していたし、教会に拾われてからも誰かが常にいたような。
一緒にいた時間が長いであろうリンが留守番を務めるとは本当に意外というか。何故かクロも『ボクは屋敷でゆっくりしてるよ~』と言って私の肩の上にいないし、アズもクロと一緒にお留守番をしている。
ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんも屋敷で待機していると言って残っているし、毛玉ちゃんたちはヴァナルに止められていた。ロゼさんは私の影の中に潜んで護衛を務めてくれるとのこと。ロゼさんだけでも十分だし、そもそもジークがいれば他の護衛の方は必要ない気もする。私だけでも単独行動できそうだが、確実にスリに合いそうなので誰かと一緒に行動した方がお財布の心配はいらない。
侯爵家の豪華な馬車に乗り込めば、ジークは私の正面に座った。彼は普段よりかっちりした服を着ているのだが、イケメンなのでなにを着ても似合うのは反則である。
私は侍女の方に選んで貰った服を着ているおり、屋敷で纏っている服よりもひらひらしている気がしてならない。ジークとのお出掛けだから気合を入れなくても良いのに、何故可愛い系の服装が選ばれたのか。もしかして侍女の方たちはジークと私がデートに赴いていると勘違いしているのかもしれない。ジークが出掛けることは滅多にないので、賞品を手に入れた時は単にお出掛けしたい気分だったのだろう。
ガタゴトと馬車の音が中へと響いてくる。今日は良い天気なのでお出掛け日和だ。ジークの横にはバスケットが鎮座しているのだが、中身はお昼ご飯である。
エーリヒさまの影響なのかジークは料理を作ることを覚えたそうだ。エーリヒさまにいつの間に料理を習ったのか不思議なものの、時折彼らとジークはお出掛けしていたからその時にだろう。
私も作ろうとしたのだが、調理部の皆さまに全力で止められた。当主が包丁を持つことは料理人として恥ずべきことらしい。ジークはなにを作ってくれたのか、お昼の時間が楽しみである。私がジークの横にあるバスケットを見つめて目を細めていると、彼が苦笑いを浮かべながら口を開いた。
「ナイは久しぶりに外に出るんじゃないか?」
「個人的にっていうなら久しぶりだよね」
個人的にというならかなり久しぶりかもしれない。南の島へのお出掛けは恒例行事となったので、みんなを誘ってのお出掛けである。フソウに赴くのも半分仕事の形だし、他の国へと赴く時もだいたいなにかしら理由がある。単にお出掛けしたいから外にいこうという理由で屋敷から足を踏み出したのは本当に久しぶりかも。誘ってくれたジークに感謝しなければと彼を見れば小さく微笑んでいた。
「なにか理由がないとナイは外に出ないだろう。偶には息を抜かないとな」
「ありがと、ジーク。ごめんね、気を使って貰って」
私が肩を竦めるとジークはゆるゆると首を横に振る。
「気にするな。俺がナイと一緒にどこかに出掛けたかっただけだ。丁度良いタイミングで我が儘を言わせて貰った形になったな」
ちなみにヴァルトルーデさまはお屋敷でお留守番である。行きたそうにしていたけれどジルケさまに駄目だと言われて耳打ちされると、何故かすっとお出掛けしたい気持ちを引っ込めたのだ。珍しいこともあるものだと目を丸くしていると、ヴァルトルーデさまは私にお土産を買ってくるようにお願いしてきた。
ジルケさまにも軽い調子でお土産よろしくと頼まれたので、なにを買ってくれば良いだろうか。王都のようにお貴族さまに人気の菓子店なんてアストライアー侯爵領領都に存在しないし、お土産屋さんもあっただろうか。領都をぷらぷらしようということだから、良いお店が見つかると良いのだけれど。
「ジークは行きたい所、あるの?」
「ん? ナイが行きたい所に行けば良いと考えていたんだが……食べる所は寄らない方が良いだろうし、武器屋に今日は行く気はないしな」
ジークが悩んだ素振りを見せると私に行きたいところはないのかと無言で訴えた。
「お昼ご飯は用意しているから食べ物屋さんは駄目だよねえ。あ、お土産屋さんあるかな……でも侯爵領って小麦の生産地なんだから特産品って言ってもなあ……」
領都内に美味しいお店があるのか探索するのも楽しそうだが今日はお昼を持参している。それ以外のなにか目的のお店となればかなり難しい。服飾店に用事はないし、装飾品店も興味はない。他にどんなお店があるんだっけと必死になって思い出そうとするのだが、行きたいお店は浮かばないし、侯爵領に土産物店があるのか知らなかった。
「あれば行ってみるか。女神さま方に土産物をと頼まれたしな」
「そうだね。なにか良い物があると良いんだけれど」
ジークが苦笑いを浮かべながら女神さまから頼まれたことを先ずは済ませようと決めてくれた。確かにヴァルトルーデさまとジルケさまのお土産を忘れると怒られそうである。
領都に土産物店があるかは分からないがウロウロしていれば、なにかお店が見つかるだろう。ジークとのお出掛けが楽しいものとなりますようにと願っていると、領主邸の門を抜けて街へと繰り出すのだった。
◇
ナイと一緒に馬車に乗り、アストライアー侯爵領の領都を進む。今日は俺がナイに請い出掛ける約束を叶える日である。秋空の下は暑くも寒くもない良い天気だった。俺が持ってきたバスケットにナイは興味津々な目を向けていた。
バスケットの中身は昼飯である。エーリヒに簡単に作れる料理のレシピを貰い、侯爵邸の料理人に頭を下げて作り上げたものだ。味は料理人から保証されているので不味くはないはずである。
肉と野菜を切って炒めただけの品だが、流石エーリヒのレシピだ。味見をすると美味かった。料理人たちが一品だけでは足りないと、他にも料理を作ってくれて俺に持たせてくれている。
頑張れよ、と彼らに送り出されたのだが……俺の気持ちは屋敷の皆にバレているようだ。まあ、応援してくれているようだから良いか。敵意を向けられれば対処せざるを得ないが、有難いことに好意的に受け止められている。
他にも応援してくれている人がいるので、いつかはナイに俺の気持ちをきちんと打ち明けたい。ふと、南の島のコテージで同室となっていたエーリヒの言葉が頭を過る。
『ジークフリード。悪く言いたくないが、ナイさまは超絶鈍い。きちんとジークフリードの気持ちを伝えないと、ナイさまは一生気付いてくれないような気がしてならない……!』
コテージの部屋で真面目な顔で彼が告げたのだ。エーリヒは俺の気持ちを知っているし、応援してくれているので彼の助言を無下にする気はない。ないのだが、やはり告白するとなれば竜を倒す以上の勇気が必要だ。それに相手は幼馴染のナイである。ずっと一緒に過ごしていたことで、距離が近すぎて男女の仲に捉えてくれそうにない。
今回のことでナイが俺を意識してくれるようになれば良いのだが、果たしてどうなるのか。
おそらくナイは恋愛感情に疎いというより、誰かの恋愛感情や気持ちをワザと見ないようにしている気がする。ゆっくりで良いから、彼女には俺を男として見て欲しい。
ふうと俺が気付かれないように息を吐けば、ナイが窓の外を見ていた。どうやら領都の中心部に辿り着いたようである。外は既に仕事をしている者たちや、街で買い物をしている女性の姿がちらほらと見えていた。ナイが車窓から視線を外して俺の方を見た。
「ジーク、着いたけど……お土産屋さんどこだろう?」
「聞いてみた方が早いか」
果たして土産物店はどこにあるのだろう。ナイが侯爵位を賜り少しの時間が経っているが、俺もナイも領都は王都の街中より詳しくない。
街の誰かに聞いてみようと俺は御者に馬車を止めるように頼んだ。ナイの顔も、俺の顔も侯爵領の者たちは知っているので騒ぎになるかもしれないが、店に入る際にいずれは分かることだ。
遅いか早いかだけの違いだし、今日はナイと楽しむと決めたのだ。ナイはどこかへ気軽に遊びに行くことができなくなった身だ。今日くらい、騒ぎになってしまっても問題ないはずである。そのために侯爵家の皆には、今日のことを相談しているのだから。
「少し出てくる。待っててくれ」
「うん、お願い」
俺がナイに声を掛けると申し訳なさそうな顔をしていた。一緒に彼女と外へ出ても良かっただろうか。こういうこともエーリヒやラウ男爵閣下に聞いておけば良かったと、道を歩きながら少し反省してしまう。
俺は一先ず、御者を務める者に声を掛けて土産物店が近くにあるかと聞いてみた。御者から小さい店が近くにあるが、当主のナイが行くような店ではないそうだ。俺は彼に礼を伝え馬車の中に戻る。今日は普段寄り付かないところでも行ってみようと決めている。貴族だとか平民だとか考えず、ナイが楽しめるように。
「ナイ、小さいがこの辺りに土産物店があるそうだ。どうする?」
「あるんだ……行ってみよう。お店の人には迷惑かもしれないけど」
「なにか買えば問題ないさ。行こう」
相変わらず、ナイは誰かのことを気にしている。確かにナイが店に赴けば店主は驚くだろうが、俺たちは客だから問題ないだろう。そりゃ冷やかしで入れば文句の一つでも言うかもしれないが……ナイならなにかしら女神さま方への土産物を買うはず。
一応、俺も払えるようにある程度の金を持ってきている。果たしてナイは女神さまにどんな品を渡すのだろうか。俺は右手を彼女に差し出せば、小さな手が俺の手の平の上に乗る。昔とあまり変わらないナイの手に俺は目を細め、彼女と視線を合わせると『ん』と短く声が返ってきたのだった。
◇
ジークと一緒にアストライアー侯爵領領都にある土産物店に向かう。馬車から降りれば道行く人たちがこちらに視線を向けて『ご領主さまだ!』と声を上げていた。顔見世の時は私は彼らに手を振っていたのだが、今日は私的に街に繰り出しているため真っ直ぐ前を見つめて歩く。
外に赴いているのに、いつも後に控えているジークが私の真横を歩いているのが変な感じだと苦笑いを浮かべていると土産物店の扉の前に辿り着く。店構えは広くないが、中はどんな品物を置いているのだろう。ヴァルトルーデさまとジルケさまが気に入ってくれるようなお土産があると良いのだが。私から半歩前に出たジークがドアノブに手を掛けて扉を開けてくれる。
「いらっしゃ……ひっまっせ!? ……ほ、本当にご領主さまがいらっしゃった……!!」
店のカウンターで私たちの姿を見た店主の男性が椅子から勢い良く立ち上がり、凄い形相をしてこちらを見る。彼の口振りだと、お店に先触れを出して私がくることを知らせていたようだ。
店主の男性は本当か嘘か見極められず、先触れの方の言葉が現実となったことに驚いているようである。私は苦笑いを浮かべながらジークと共に店の中に足を踏み入れた。ジークが驚いたままの店主の男性と顔を合わせて口を開く。
「お騒がせをして申し訳ありません。少し店内を見させて頂きます」
「は、はいぃ! どうぞ、どうぞ!! ご領主さまにきて頂けて大変光栄でございましゅ!」
ド緊張している店主の男性の呂律が時々回っていない。白目を剥いてしまいそうな勢いだが大丈夫だろうか。ジークは私を見下ろして行こうと促してくれる。私は彼に短く返事をして店の中を見渡した。
どんな品が置いてあるのかと思いきや、各家庭で作った篭や絨毯を売っているようである。農繁期を過ぎ落ち着いた頃、副業として農家の皆さまが作成しているようだ。売れているのか分からないけれど、作った方たちの特色が出ている。
「お菓子とかはないみたいだね」
流石にお菓子類は取り扱っていないようだ。観光地であれば木刀とか模造刀にキーホルダーとかあるけれど時代が追いついていない。お店には私たち以外のお客さんはいないし、経営状態が心配になってくる。先触れを出したようなのでお客さんが追い出された可能性もあるが、再入店しようと待っている人は見かけなかった。やはり小麦が特産品であるアストライアー侯爵領領都で土産物店が繁盛するのは難しいのだろう。
「特産品があれば菓子や日持ちする野菜に果物を置いているそうだが、侯爵領の主産業は小麦だからな」
ジークもお菓子を置いていないことに特段疑問を持っていないようである。
「食べ物がないと寂しく感じるね。小麦以外に特産品にできそうなものがあれば良いんだけれど……他の領地と被れば迷惑だろうし難しいね。日持ちする小麦を使ったなにかを置いても良さそうだなあ」
「新しい特産品はゆっくり考えれば良いんじゃないか? 先ずは安定した領地経営をしないといけないがアストライアー侯爵領に問題はないから焦る必要はないしな」
私がなにか土産物店で取り扱って売れそうな品を考えるのだが、なにも浮かばない。アガレス帝国の帝都のように天然石屋さんがあっても面白そうだが、天然石を掘れる場所は侯爵領に存在しない。
ただっ広い平地だから小麦の一大産地となっているのだろうけれど、少し刺激が欲しいところである。まあ、金や銀の鉱脈が見つかったとしても環境を破壊したり汚染を気にしなければならないので、あったらあったで大変だろう。
ジークの言う通りゆっくりと小麦以外の特産品を見つけるしかないようだ。きょろきょろと狭い店内を見渡していると、陳列棚の隅っこに手作りの人形が置いてある。
女の子の服を着ているので女児を形どっているようだ。隣には男の子が一緒にいるので兄妹か幼馴染かだろう。目がボタンでできていて、口は毛糸で形どられている。プロの職人さんが作ったものではないが、どことなく愛嬌があって可愛らしい。
「あ、これ。ユーリのお土産に良いかも。最近、人形に興味を持ち始めてるしね」
私はユーリのお土産に丁度良いとジークの顔を見上げる。最近のユーリの成長は目覚ましく、語彙がどんどん増えているし文字を読めるようになっていた。
複雑な単語は分からないけれど、文字を指せばユーリは文字の音を声に出すことができるのだ。幼子はユーリのように覚えていただろうかと記憶を掘り返すのだが、文字を読めた子の覚えはない。
ユーリは賢い子なのかもしれないので、彼女の将来が楽しみである。商品を勝手に手に取るわけにはならないため『すみません』と私は店主の男性を呼ぶ。私の声を聞いた店主の男性は『はひ!』と声を上げて、そそくさとこちらへ歩いてきた。途中、躓きそうになったのだがどうにかこらえたようである。大丈夫かなと私が店主の男性の顔を見上げると、ジークが横から私の顔を覗き込んだ。
「ナイ、俺が」
「良いの、ジーク?」
ジークが笑いながら人形の代金を払ってくれると告げた。彼は最後まで言っていないけれど、流石にこの時に声を掛けてくれば鈍い私でも分かる。ジークは店主の男性に人形を二体指差して購入したいことを告げた。店主の男性が『ありがとうございましゅ!』と直立不動で声を上げて、震える手で人形二体を手に取った。そうして店主の男性は包んでくると足早にカウンターへと戻って行った。
「偶にはな」
少し顔を赤くしたジークがぽつりと声を零す。珍しいこともあるものだと私が苦笑いを浮かべていると彼が小さく息を吐く。何故、今ここでジークは息を吐いたのだろう。
そういえば男性が女性になにか買ってくれる時は、気があるとアピールしているとテレビかなにかで聞いた記憶がある。しかしジークが私になにかを買ってくれるのはこれが初めてではない。どこかに出掛けた際に物欲しそうに食べ物を私が見つめていると、彼が知らぬ間にお店に赴いて買ってきてくれていた。リンも一緒だから三人分だったけれど、王都の街にお出掛けした際は嬉しい出来事だった。
食べ物ばかりだったから餌付けされているような気持ちはあったものの、ジークだしで済ませていた。今回、ユーリに向けたお土産であるがジークが支払ったのはなにかしらのアピールなのだろうか。
しかしアピールするといっても、なにを私に伝えたいのだろう。給料を上げてくれとか職場環境をもっと良くして欲しいとかだろうか。他にも思いつくことはあるにはあるものの、まさかと頭を振っていると店主の男性がこちらへ戻ってくる。
「お待たせを致しました。どうぞ!」
店主の男性はジークではなく私に人形を渡してくれた。顔が引き攣っているのだが店主の男性は大丈夫だろうか。自領の領主の相手を務めるのは平民の皆さまには重いようである。
確かに私も最初は公爵さま――現ボルドー男爵さま――と喋るのは緊張したが、言葉が上擦るまでではなかった。目の前の彼は驚き過ぎだと目を細めるものの、黙って受け取るだけでは緊張が和らがないと私は口を開いた。
「ありがとうございます。こちらの人形は誰が作ったものでしょうか?」
「領都にいる女性ですね。手が空いた暇な時間に作っているそうでしゅ」
店主の男性に『あんじょうしとりますか~?』と気楽に聞ければ良いのだが、私はアストライアー侯爵家の当主である。もっともらしいことを聞いて彼を落ち着かせようと試みるのだが、あまり効果はないようである。
ジークは私の隣で片眉を上げながら苦笑いを零していた。どうやらジークは今の状況が少し面白いようである。私がジークに助けてと視線を向けてもゆっくりと小さく顔を横に振るだけ。仕方ないと私は再度口を開き、店主の男性との会話を続けた。
「領内の皆さまはこうして手製のなにかを作っているのですね」
「ええ。小麦を生産した収入だけでは……っ、し、失礼を! 決して税が高いというわけではなく……そのぉ、その……!」
店主の男性がはっとした顔になり、途端にしどろもどろになった。どうやら余計なことを言ってしまったと顔を青褪めさせている。
領地の皆さまは暇な時になにかを作って少しでも収入を上げようと試みているようだ。小麦を生産したお金で普通の生活は送れるのだが、子供を多く育てていれば生活費が足りなくなるだろうし、なにかあった時のためのへそくりにしているのかもしれない。店主の男性を責めるつもりはないと私は笑みを作って口を開く。
「分かっております。ただ領内の皆さまに副業をお願いするとすれば、どんなことが良いのかと少し思案しておりました。店主である貴方ならば話も聞きやすいので」
「そ、そう言って頂けると嬉しい限りです。店は領内の者たちに少しでも現金収入が増えればという目的で開かれておりますから」
なるほど。特産品は小麦だけのアストライアー侯爵領で土産物店を開いている理由が目の前の彼によって明かされた。今日はジークとお出掛けしているのだから、長々と話し込むわけにはいかないため、後日話をまたしたいと店主の男性に告げて外に出た。
「もう良いのか?」
「うん。長居しても迷惑だし、今日はジークがお出掛けしたいから街に出てるからね」
不思議そうな顔をしているジークに私は笑みを向ける。今日はジークのために外へと出ているのだし、ジークのやりたいことをした方が良いだろう。彼の一番の目的はお昼ご飯のようだが、それまでには少し時間があった。次は何処に行こうかと無言で私が問えばジークが答えてくれる。
「なら女神さま方の土産物を買わないとな。確か近くに菓子店があったはずだ」
「女神さまのお土産忘れたら、凄く怒られ……はしないけれど凄く悲しい顔になりそうだから、忘れずに買わないとね。なにか美味しい物があると良いんだけれど」
本当に女神さまへのお土産を忘れたならば、凄くしょぼくれそうである。ヴァルトルーデさまとジルケさまは私たちが買ってくるお土産を楽しみにしていると、出掛ける際に声を掛けられていた。
「スコーンを焼いている店があると聞いてる。行ってみるか?」
「じゃあ、屋敷で出されるスコーンと食べ比べだね。楽しみ」
ジークが片眉を上げて苦笑いを零しているのだが、やたらと侯爵領都内のことに詳しい気がする。調べて頭にお店の位置を叩き込んだのかもしれないなと私は笑い、手を差し出す彼に私も手を伸ばした。
「店の方が美味しいなんてナイが言えば、侯爵家の料理人全員が落ち込みそうだ」
「侯爵家の料理もお菓子も美味しいから、口にすることはなさそうかな?」
他愛のないことを喋りながら馬車に乗り込んだジークと私はスコーンが美味しいと噂されているお店を目指すのだった。