魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

65 / 740
 2022.05.04投稿 2/2回目


0065:出立。

 亜人連合国へと出発する前にちゃんと見目を整えるぞとソフィーアさまに言われ、公爵家に仕えている侍女の皆さまに揉まれながらお風呂に入れられた早朝。全身に香油を塗りたくられ、髪にも『艶を出す為』と言われ物体Ⅹを丁寧に櫛で梳かし込まれて。

 

 「……うぅ」

 

 なんだか妙な感じなので、小さく唸る。

 

 「どうしたの、ナイ?」

 

 全部の工程が終わって侍女さんたちと共に部屋から廊下へ出ると、ジークとリンが待機しており私の様子に気付いた彼女が声を掛けた。

 

 「リン…………」

 

 もう私の精神はボロボロです。

 

 最後まで死守していたⅤゾーンの処理を、侍女の皆さまの手によって本日ついに押し切られたのだ。

 染み付いた文化というものは中々消えず。前世の日本では、全部剃り落としている人なんて少数派。私は勿論多数派に所属していた口である。いや、無駄な部分は手入れしていたけれどね。こちらの世界のお貴族さまは、病気の予防の観点もありつるつるを推奨している。

 

 不貞腐れてリンの騎士服の裾を掴む。教会宿舎なら遠慮なく抱き着いていたけれど、化粧も終えて聖女の恰好をしていることもあり、口を尖らせているだけに留めている。

 この思い届け! と叫んでもあまり賛同を得られない。不条理だと言いたいけれど、侍女さんたちからすれば善意なので、結局彼女たちに従うしかなかったのだ。

 

 「うー……」

 

 「兄さん、なんだかナイの様子がおかしい」

 

 リンが私の両肘に手を添えて、後ろを振り返ってジークに話しかけると数歩前に出てこちらへと近寄る。

 

 「どうした、何かあったのか?」

 

 「ジークに言っても仕方ないというか、聞いたら困るだけだと思う……」

 

 幼馴染とはいえ、流石にコレをカミングアウトするのは恥ずかしい。

 

 「……そうか」

 

 こういう言い方をした私に無理に問いかけたところで、出てくる答えにジークが困ることが多々あったから、聞き出すつもりはないようだ。合わせていた視線を逸らしたし。

 

 「私は聞いてもいいの?」

 

 「人が居ない所なら問題ないよ」

 

 愚痴を聞いてもらおうと彼女に伝えると、へにゃりと笑った。公爵邸では完全に部屋を分けられ、一緒に部屋で過ごす時間が確実に減っている。

 私の護衛に公爵家が雇っている騎士の人たちも就くようになったから、二人の自由時間は増えている。私は私でこの三日間、亜人連合の知識を詰め込んでいるし、外交についての簡単な説明を受けていたから。

 

 「後で聞かせてね」

 

 「うん」

 

 私たちのやり取りを見ていた侍女さん数名は、微笑ましそうに眺めているだけ。部屋で大分抵抗したので、怒っているかなあと心配していたのだけれど、問題はなかったみたい。もしくは子供の可愛らしい抵抗くらいに捉えられているかも。微妙な心境に陥っていると、この場にやって来た人が居た。

 

 「用意は済んだか? ――ああ、似合っているじゃないか」

 

 ソフィーアさまだった。彼女も支度を終えているけれど、城へと向かう為のドレス姿ではなく騎士服に近い様相だった。

 

 「ありがとうございます、侍女のみなさまのお陰です。――ソフィーアさまも似合ってますよ」

 

 「ありがとう、詰襟が少々慣れないがな。ジークフリードとジークリンデのような守りは期待しないでくれよ。あくまで政治面の補助でとのことだからな」

 

 ソフィーアさまも今回の派遣団の一人に選ばれていた。護衛はいつものジークとリン。政治面でのフォローをソフィーアさまが、ということらしい。

 もちろんソフィーアさまが派遣団の全権を握っている訳もなく。ただ単純に王子妃教育を済ませているし、私の補佐に就く人間は知っている人間の方が良いだろうという判断で。本当に判断するのは第一王子殿下と宰相補佐さまと外務卿さまである。ちなみに宰相補佐さまと外務卿さまは、万一の為に後任を選んだそうな。

 

 あとは騎士の人たちに軍の人。私たちの護衛を務める。教会からも私の補佐やらで二名程選出されていた。

 

 組まれた派遣団全員で亜人連合へと押しかける訳ではないようだ。今回彼の国とコンタクトを取ってくれた隣国に一度お邪魔して、そこで更に人数を絞ってからの移動となる。ソフィーアさまとジークとリンは確定だそうだ。

 

 「さあ、行くか」

 

 「はい。――あ、少しだけ待って頂いても」

 

 ソフィーアさまの言葉に私が答えると『ああ』と彼女が。その後に後ろを振り向いてジークとリンの顔を見上げる。

 

 「頑張ろうね」

 

 「ああ」

 

 「ん」

 

 そうして三人で恒例になっていた拳面を突き出し軽く合わせた。それを静かに眺めていたソフィーアさまに『すみません』と返す。

 

 「仲がいいな」

 

 「はい。ずっと一緒ですから」

 

 「そうか。さて、今度こそ出発だ」

 

 必要なものは国と公爵さまが用意してくれているらしい。日々の着替えやら消耗品等。外交の為に国外へと赴くなんて思ってもいなかった。

 寧ろこの国から出られるなんて考えてもいなかったのだけれど。本当、人生なにが起こるかわからない。公爵家が用意してくれた馬車へと乗り込む。中へと入ったのはソフィーアさまと私のみ。ジークとリンは公爵家の護衛の人たちと一緒に、外で警備に当たってる。

 

 暫く馬車に揺られていると王城へ辿り着く。いつもと同じ景色だけれど、道行く人たちの気配がどこか忙しない。

 

 そういえば大規模遠征へ赴いた人たちは今頃、辺境伯領領都に戻った頃だろうか。また王都へと帰らなきゃならないのだから大変だ。

 副団長さまの転移魔術で一瞬で戻って来たので、残っている人たちには申し訳ない所。彼らはこの急転直下の展開を聞いたら驚くのだろうなあ。アリアさまあたりは『凄いです!』とか言いそうだけれど。

 

 「どうした?」

 

 「いえ、今回の遠征で一緒だった方々はそろそろ辺境伯領都に戻った頃かな、と」

 

 「戻っても良い頃合いだろうな。心配か?」

 

 「少しだけ。また十日近く掛けて王都に戻らなければならないのが大変だなと」

 

 浄化の儀式は終えたので、狂化した魔物も時間が経てば減る。実力は十分にあるのだから、私たちが居なくても問題はないけど。

 

 「仕方ないさ。彼らには彼らの、私たちには私たちの役目がある。――大役を務めるんだ、彼らに笑われないようにせんとな」

 

 失敗したら笑いごとで済ませられないものなあ。

 

 「はい」

 

 ソフィーアさまの言葉に返事をして謁見場へと向かうのだった。

 

 ◇

 

 ――出発の為に陛下からのお言葉でも頂くのだろう。

 

 そう思っていたのに、またしても来客……というか来訪者が居たようだ。どうやら今回の事に関係するようで、物凄く顔色が悪い。今にも倒れそうな状況なのだけれど大丈夫なのだろうか、そう頭に浮かんだ瞬間。

 

 ――陛下ご入来!

 

 ここ最近よく聞くようになった声が耳に届くと、暫くすると陛下が現れ玉座へ腰を据えた。

 

 「国王陛下、この度は我が国の者が申し訳なく」

 

 「アルバトロス王、此度は我がギルドの冒険者が貴国に多大なご迷惑をお掛けし、真に申し訳ありませんでしたっ!!」

 

 どうやら銀髪オッドアイくんが所属していた国の使者とギルドの長みたいだ。なんだかすごく言葉を並べているけれど、それは全部言い訳にしか聞こえないだろうから、言わない方が良いような。

 

 「……」

 

 陛下、キレているのか何も言わない。ギルド長も困惑しているようで、言い訳のバーゲンセールトークが消沈していた。どうするつもりなのだろうと眺めていると、宰相さまが口を開く。

 

 「此度の件、アルバトロス王国から望むことは、貴国とギルド双方は事態の説明の為、亜人連合へ我々との同行、あのような冒険者を任命したギルドの責任――」

 

 まだうんぬん続いている宰相さまの説明に、さらに顔色が悪くなる。青を通り越して土気色になっていた。止めてあげて、彼のライフはもうゼロだよ。

 

 「は、はい。真に……真に申し訳ありませんでした…………」

 

 ああ、最初の勢いもなくかわいそうなくらい項垂れている。立てる状態かな、あれ。とりあえず彼らも事態説明の為に、私たちと同行するのが決定したようだ。

 規模がどんどん大きくなっているのだけれど、彼らも大変。銀髪くんの突拍子もない行動の波及が凄いな、本当に。ああはならないように気を付けないと、と肝に銘じて出発に際して陛下からお言葉を頂いた。

 

 「我が国の命運は聖女ナイに掛かっておる。――同行者一同は側面支援せよ」

 

 フォローで足りるのだろうか。政治の場面に立たされるなんて考えてもいなかったから、本当に素人なんだけれど。

 今更どうこう言ったところで決定事項だから、口には出さないけれど。心の中で迷ったり、悩んだり毒を吐くのは許してほしい。

 

 そうして陛下は下がって行く姿をゆっくりと目で追っていた。

 

 「聖女さま、よろしくお願いいたします。本当はわたくしもついて行きたかったのですが、わたくしの分はソフィーアさんに託します」

 

 ふいに声を掛けられる。セレスティアさまだった。その横にはマルクスさまも居て真剣な顔で『頼む』とただ一言告げて頭を軽く下げられる。

 公爵さままでやって来るし、ジークとリンが籍に入ったラウ男爵さまの息子さん、もとい侯爵さままでこちらへとやって来て、彼もまた『国を頼みます』と礼を執る。知らない人にまで頭を下げられる始末で、今更ながら私が背負っているモノを認識させられる。

 

 「行こう、出立だ」

 

 そうしてソフィーアさまに声を掛けられて、謁見場から移動して転移魔術陣がある場所へと向かう。

 多くの人が見送りに来てくれるようで、ぞろぞろと王城の中を移動しているので、まるで大名行列みたいだった。先陣を切っているのは第一王子殿下、その後ろに私である。勿論前には案内役兼護衛の近衛騎士さんが歩いているけれど。

 

 私の立ち位置を認識させようとしているの、コレ。後ろで良いのに。

 

 「聖女さま、大変でしょうがよろしくお願いしますね」

 

 「はい」

 

 魔術陣が展開されている部屋へと入ると、殿下に挨拶をしてから副団長さまが私に声を掛けてくれた。この人、魔術馬鹿だけれど王国にちゃんと忠誠心があるようで、こうして駆り出されてる。

 どうやら魔力タンク兼起動詠唱者として呼ばれたようだった。暫くすると同行メンバー全員が部屋に入って少しすると、暴れないようにガッチリと拘束されている銀髪オッドアイくんに、エルフ二名。

 エルフの女性二人は銀髪くんほどの拘束ではないけれど、近衛騎士に囲まれてやって来た。そして銀髪くんが所属していた国の使者とギルド長も。

 

 「……ふがっ!」

 

 銀髪くん猿轡を噛まされていた。何か言いたそうだけれど言葉にできない。あ、ギルド長に殴られた。黙っておけ、余計なことはするなということか。彼の綺麗な顔には青タン増えている。

 見た目がとても悪いのだけれど、亜人連合の人たちと会う時大丈夫かなと心配になる。こちらが暴力的だと捉えられたら、どうするつもりなのだろうか。私が直前で治せばいいのか。なんだか道中でも増えそうだし、忘れないでおこう。

 

 「魔術転移で一足飛びに、大陸北西部の国へ行けるわけではありません。ですので、次の地点からは聖女さまに託します」

 

 いくつかの国を中継すると聞いている。今回の事態を他国に事情説明すると、返答が直ぐ返ってきたそうだ。

 

 ――阿呆な冒険者が迷惑を掛けた、手配するので魔術転移の使用を許可すると。

 

 どうにもアルバトロス王国と他国では冒険者の価値観に相違があり、下手をすると冒険者システムが崩壊しかねない事態を危惧しているみたい。裏を返すと、冒険者自体が悪いので、冒険者ギルド組織に圧力をあまり掛けないで欲しいということなのだろう。

 

 魔物の討伐に冒険者を利用しているし、非常事態にも彼らは駆り出されるらしい。もちろん軍隊や騎士団も抱えているのだろうけれど、平時の主力は冒険者で非常時や国の危機に公的な機関が出ていくのだろう。

 

 国によって運営方法が全然違うのね。もし私が他国で生まれていたら冒険者になっていたのかも。孤児っていうのは変わらないだろうし、学がなくとも就けるみたいだしなあ。それもそれで自由気ままで楽しそう。もちろん命を掛けなきゃいけない時があるけど、それは今も一緒だし。

 

 「承りました」

 

 「では殿下、よろしいでしょうか?」

 

 「ああ頼む。ヴァレンシュタイン」

 

 「はい。では皆さんお気をつけて」

 

 副団長さまが魔力を練ると、その魔力に反応して魔術陣が光りはじめる。お腹の中身が浮くような、この慣れ始めた感覚に苦笑いを浮かべて、最初の目的地へと転移したのだった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。