魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0653:引き渡し式。

 ガレーシア王国王都、上空。

 

 赤竜さんの背中の上からは海が見えている。遥か向こうに南大陸があるのだが、流石に視界に捉えることはできない。赤竜さんから下降態勢に入ると聞き、ガレーシア王国王都を囲う壁の外には黒い塊があった。

 なんだろうと私はマジマジと見つめていると大勢の人が集まっていることが分かり、更に下降によって距離が縮まれば列を成していた。もしかしてガレーシアの軍隊か騎士団かなと王妃さまに視線を向けると、近衛騎士団と騎士団の方たちだと教えてくれる。数的に全部隊を連れてきているのではなかろうか、とのことでガレーシア王に気合が入りまくっていることが分かる。

 

 もし仮に敵対している国であれば、私たちは囲まれて捕らわれてしまうかもしれない。だが、仮に囲まれたとしてもジークとリンとセレスティアさまとソフィーアさまで蹴散らせるのではなかろうか。私が身体強化の魔術や魔力譲渡を行えば、長時間の戦闘が可能なはず。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちと、二柱さまも加われば一方的なアレになってしまいそうであった。

 

 対立するつもりは全くないし、平和に石を預けて黒い靄をエーギルさまに託すことが今日の目的である。急いでいるので滞在時間は短いし、王妃さまはガレーシア王国に暫く滞在し転移魔術陣を使用してアルバトロス王国に戻る予定となっている。

 

 「凄い数のお迎えですね……大袈裟な気がしますが……仕方ないのでしょうか」

 

 私はお迎えの数の多さに目を細めて呟くと、ソフィーアさまとセレスティアさまに届いていたらしい。ジークとリンとクロたちも確り聞き届けていたようで、苦笑いを浮かべている。毛玉ちゃんたちはお迎えの数の多さに『ちゅごい!』『にゅんげん、いっぱい!』『あちょぶの?』と赤竜さんの背の上から地上を覗き込んでいた。

 

 「仕方ないのだろうな。就寝していた者も起きていた者も皆、同じ夢を見ているのだ。きっとどこもかしこも大変なことになったと慌てふためいているはずだ」

 

 「落ち着いていられるのは、夢を見た理由を知っているわたくしたちだけでございましょうね」

 

 ソフィーアさまは肩を竦め、セレスティアさまも片眉を上げながら苦笑いを浮かべていた。彼女たちが平常心を保っていられるのは、禁忌の森に一緒に入って事態を知っているからだそうである。

 知らなければ頭を抱えていたと教えてくれていた。王妃さまは彼女たちと同意見のようで、うんうんと首を縦に動かしている。グイーさまの夢で大体の状況は分かるものの、未知の所もあるからガレーシア王に質問攻めにあうかもしれないと教えて貰っている。

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまも毛玉ちゃんたちと一緒に赤竜さんの背の上から地上を眺めている。毛玉ちゃんたちの興味が抑えられなくなって赤竜さんの背から落ちそうになっていると、二柱さまが止めてくれていた。

 

 「父さんって、影響力が凄いんだね」

 

 「まあ、あたしらより強いし、曲がりなりにも星を創った神だからなあ。騒がれても仕方ねえが、ナイは本当に大変だな」

 

 はへーと感心したようにヴァルトルーデさまが声を上げ、ジルケさまは視線を地上から私へ向けた。確かに大変だけれど、グイーさまには石を各国に届けると約束している。交わしたものを反故にするわけにはいかないし他にも目的があるのだ。

 

 「引き受けましたし、もう今更だと諦めています。行先の特産品を聞いて回るつもりなので、徒労に終わらないはずですから」

 

 かなりの弾丸旅行……だが、各国の特産品を聞く暇くらいはあるだろう。直ぐに他の地へ旅立つ予定のため、王都の街をぶらぶらする暇はないけれど。

 

 「ナイは食べ物のことばかりだ」

 

 「ナイらしいけどよ、なにも起こらずに終われば良いがな」

 

 女神さま方も大分食い気に走っているような気がするが、私は余計なことを言わない主義である。そろそろ地上に辿り着くしお迎えの方たちにみっともない姿は見せられないと、顔を真面目なものにした。ジークとリンもソフィーアさまとセレスティアさまも気配を察して、自身を律しているようである。赤竜さんの地上に着くので振動に気を付けてという言葉に着陸態勢を取った。

 

 「赤竜さん、ありがとうございます」

 

 『お気になさらず。お駄賃を頂けるので、確りと働きますよ』

 

 私が赤竜さんにお礼を述べると、彼女はふふふと笑って私の方へと顔を寄せる。大型な竜のお方のため目の前に顔がくると随分と迫力があるし、私の視界は彼女の顔しか映らない。右手を伸ばして赤竜さんの大きな鼻先に触れると、彼女はすうと息を吸い込んだ。ただの呼吸なのだろうと私はほんの少しだけ魔力を練っておく。そうすれば赤竜さんは嬉しそうに目を細めるのだった。

 

 「ナイ」

 

 ソフィーアさまに名を呼ばれ彼女の方を見れば、ガレーシア王と王族の皆さまに国内の有力貴族の方たちが揃っている。王都を囲う壁の側にはガレーシア王都に住まう皆さまが集まってきたようだ。

 騎士団の方たちが王都の皆さまがこちらへこないように身体を張って止めている。こちらへ抜け出そうとする方がいれば大事になりそうだった。私は壁の側に集まっている皆さまから、ガレーシア王家の皆さまへと頭を下げる。私が礼を執ったことにより彼らは慌てて顔を上げて欲しいと口を揃えた。私は言われるまま顔を上げ、ガレーシア王と視線を合わせる。

 

 「アストライアー侯爵閣下! ガレーシア王国へ良くいらっしゃいました。娘から我が国を一番に選んで頂いたと聞いております。創星神のお告げが現実になろうとは!!」

 

 少し前に挨拶を交わした時より、ガレーシア王は丁寧な言葉使いになっていた。神さまがいると信じられている世情だし、夢を見て現実となって驚いているようである。

 私は単に堕ちた神さまによって地上が大事にならないようにと動いているだけなので、仰々しく接するのは止めて欲しいものだ。でも諦めるしかないのだろう。扱いが丁寧になったことを逆手に取らせて頂こうと私は口を開く。

 

 「ガレーシア国王陛下。盛大な出迎え感謝致します。王都の皆さまも壁の外へ参られているようですが……不敬を働いた方々の首を落とすなどの処分はなさいませんように、お願いできましょうか?」

 

 「い、いえ、しかし……」

 

 私はガレーシア王から壁の側に集まっている皆さまへと視線を変え、もう一度ガレーシア王を見上げる。私の挨拶に彼は訝し気な顔になって頭の上に何故と文字を浮かべている。

 

 「他国のことに首を挟むのはご法度ですが、此度は創星神さまや女神さま方が関わっておられます。無用に命を散らしたと知れば、皆さま悲しまれるかと」

 

 「む。確かに……! 丁寧に接しろと警備の者たちに伝えよ!!」

 

 私が補足をすれば彼ははっとした顔になり、側にいる甲冑を着込んだ男性に指示を出す。一番装備が派手なので騎士団か近衛騎士団のお偉いさんだろう。

 

 「は!」

 

 彼は短く声を上げ、部下の方に命を下している。グイーさまや女神さまの名前を出して申し訳ないけれど、困った時は名前を使う許可を頂いているので平気だろう。実際、グイーさまも突っ込んでこないし、ヴァルトルーデさまとジルケさまも無用に血が流れるのは見たくないようだった。

 

 「では、城へ参りましょう」

 

 「申し訳ございませんが、陛下。この場で石をお渡しすることをお許しください」

 

 私はそう言ってセレスティアさまに視線を向ける。彼女の手の上には赤竜さんの背で用意したグイーさまの石がいくつか載っている。もちろん直で触れるなんてことはしておらず、豪華なトレイに紫色の座布団――のようなもの――を載せ、更にその上に石が置いてある形だ。

 セレスティアさまが私の隣に立ち、恭しく頭を下げガレーシア王の前へとトレイを差し出した。時折、妙な顔をしている貴族令嬢さまであるが、きちんとした場では真面目そのものだった。ガレーシア王は少し困惑している表情をしているものの、近くに控えてきた近衛騎士の方に受け取るようにと命を下した。

 

 「はっ……いっ!」

 

 近衛騎士の方が返事をするものの緊張し過ぎて口の中を噛んだようである。凄く痛そうだが、なるべく顔に出さないようにと努めており職務に忠実な方なのだろう。

 セレスティアさまは近衛騎士の方がくれば更に頭を下げた。そうして目の前の近衛騎士の方が恭しく受け取るのだが手が震えている。口の中の痛みのためなのか、緊張のためなのか。きっと両方だろうと私が見守っていると、無事にガレーシア王の下へ届けてくれる。

 

 「で、では、創星神さまのお告げの通り、城と指定された場所に設置いたします。決して、失礼のないように取り扱います故に、ご安心くだされ」

 

 ガレーシア王と王族の皆さまに周りの皆さまが『本物……』と石に視線を釘付けにさせていた。どうやらグイーさまが創った石に興味津々のようだ。本当に黒く染まるのか分からないが、王城に一つとあとはヴァルトルーデさまがなんとなく地図上で指を指した場所に石を五個ほど置くことになっている。

 触れても問題ないし、石を設置しに行かなければならないので触れる機会はどこかであるはず。石を凝視している皆さまにヴァルトルーデさまとジルケさまと私は苦笑いを浮かべていると、ガレーシア王が突然声を上げる。

 

 「アストライアー侯爵閣下!」

 

 「はい?」

 

 名を声高に叫んだため、私の返事は少し抜けた声になってしまった。

 

 「お願いがございます!」

 

 「聞ける範囲であればお聞きしますが……」

 

 願い事を聞くのは構わないけれど内容次第で返事が変わる。一体なんだと私が身構えるとガレーシア王が大きく息を吸って言葉を紡ぐ。

 

 「我々が創星神さまがお創りになった石に触れるのは、無礼千万! 申し訳ないのですが、用意したものにそれぞれ置いて頂けないでしょうか!?」

 

 何故か更に丁寧な物言いになるガレーシア王を私は見上げて、夢で見たはずのことを伝えた。誰が触れても問題ない、と。ガレーシア王が告げると控えていた方々が六名並び、それぞれ手にはトレイを掲げている。

 

 「それでも、何卒!!」

 

 むうと難しそうな顔になるガレーシア王は石に触れれば、グイーさまや女神さま方に怒られるとでも考えているのだろうか。私は仕方ないと小さく息を吐き、ガレーシア王の側で控えている近衛騎士さまに視線を向けた。

 するとガレーシア王は少し安堵の顔を見せ、彼に私の方へ向かうように指示を出す。私は私で差し出された六個の石を手に取って、それぞれの場所に置けばガレーシア王国側の皆さまはふうと息をはいている。本当に誰が触れても大丈夫なのに、今の石の扱いや如何に。他の国でもこうなるのか疑問だし気が重くなってくるが、ガレーシア王国ではやらなければならないことがもう一つある。

 

 「では、陛下。我々は海辺に向かわせて頂きます。石に変化があれば西の女神さまが気付いてくれることになっておりますので、ご心配なさらず。もし仮に先に見つけた場合はアルバトロス王国を経由してアストライアー家に報告を宜しくお願い致します」

 

 私たちはガレーシア王国一行に挨拶をして場を下がらせて頂く。少々、無理矢理であるが時間がないと伝えているので問題ないだろう。一緒に同行している王妃さまに視線を向ければ、ガレーシア王が慌てて近衛騎士の方を何名か私たちに就けてくれる。

 

 「では閣下。海辺に参りましょう。わたくしの母国ですから、王都周辺の地理には詳しいので妙な道を行けば直ぐに分かりますわ」

 

 王妃さまがガレーシア王家の方へと意味深な視線を向けていた。牽制してくれているようだが、今回の行程で無茶をする方はいないはず。それでもこうして安心感を貰えるのは有難い。ふふふと笑う王妃さまであるが、赤竜さんの背に乗っていた時の青い顔はどこへやら。そんなこんなでアストライアー侯爵家一行は馬車を借り海辺に向かう。

 

 「終わった。エーギル、きてくれるかな?」

 

 「きてくれないと困ります。海神さまが海に戻ることができないですし、姫さまとの関係改善もできなくなりますから」

 

 馬車の中でヴァルトルーデさまが突然口を開く。どうやら会談の場には興味がなかったようである。ジルケさまも『きてくれると良いな』とぼやいているので、政治的な場に興味は湧かないようだった。

 軽い会話を続けて十分程度時間が経ち馬車からリンのエスコートを受けながら降りれば、目の前には海が広がっている。私は降りて直ぐ海の中を意識しながら釣り竿の糸をジークに投げて貰い、エーギルさまと念じてみた。

 

 『我、登場!!』

 

 いつも元気で愉快なエーギルさまが割と早く海から顔を出してくれる。私たちを見たエーギルさまは『久しぶり、とはいわんが、久しぶりだ!』と挨拶をくれた。私も彼に直ぐ会うとは思ってもいなかったと伝えると、肩の上に乗っている黒い靄の海神さまにエーギルさまは顔をぬっと近づける。そうして私は今回の経緯をエーギルさまに伝えれば、目を真ん丸にして驚いていた。

 

 『な、なんと! 斯様な姿になられてしまわれておる……海に戻るのは構いませんし、海神さまだと分かりますが……元のお姿に戻られぬのでしょうか?』

 

 黒い靄である海神さまが元の姿に戻るのは、姫さまが許してくれればと決めているようだ。な、なんと!? とエーギルさまが驚いているが、どうやら以前より随分と殊勝な態度になっているらしい。しかし姫さまときちんと話をすることができるのだろうか。心配だから黒い靄に私は声を掛けた。

 

 「大丈夫?」

 

 『だい、じょうぶ。あやまって、くる』

 

 黒い靄ははっきりと大丈夫と言い、私の肩から転げ落ちてエーギルさまの下へと行こうと試みている。自力で行くには時間が掛かると、クロが尻尾で黒い靄を抱え込みエーギルさまの下へとぴゅーと飛んで行った。エーギルさまは黒い靄をクロに頭の上に乗せて貰っている。そしてエーギルさまの頭の上では蛸さんがこちらに脚を振っていた。私が手を振り返すと、頭をぷくっと膨らませて蛸さんの脚の動きが速くなる。エーギルさまは蛸さんの様子を分かっていないのか、私たちを見下ろしながら口を開いた。

 

 『積もる話もあるだろうから、急いで宮殿に戻るぞい』

 

 海に戻ろうとするエーギルさまを私は呼び止めた。

 

 「あ、エーギルさま。念のために海にも石を設置して欲しいと創星神さまから預かっています。姫さまにもよろしくお伝えください」

 

 黒い靄である海神さまをエーギルさまに預けるのことが一番の用事だったけれど、グイーさまから念のために石を設置しておいた方が良いだろうと預かっていたのだ。私が彼を呼び止めるとエーギルさまは目を丸く見開きながら声を張り上げた。

 

 『大事な話をあっさりと済ませないで!?』

 

 いや、うん。本当は太洋の宮殿に赴いた方が良いのだろうけれど修羅場に行きたくはない。エーギルさまは海神さまから海の治安を護るようにとお願いされている方である。彼に渡しても問題ないし、黒い靄である海神さまにも事前に私はお願いしていた。だから問題ないはずと、石を百個ほどエーギルさまに預ければ煤けた背を見せながら海へと彼らが戻って行く。

 

 今回のことが終われば、太洋の宮殿に遊びに行く約束を取り付けて。

 

 ◇

 

 ガレーシア王国から次に向かった先は、彼の国の周辺国である。赴いた先の皆さまは私を歓待しようとしてくれるのだが、流石に時間がないと断っていた。もしかすれば食事が用意されていたかもしれないので断腸の思いで断ったのだ。

 

 用意された食事が無駄にならなければ良いなと祈るばかりである。ちなみにヴァルトルーデさまとジルケさまが一緒に行動しているが、二柱さまに気付いた方や気付かない方がいた。

 気付いた方は顔を青くしたり赤くしたりと忙しいし、気付いていない方は石と私に意識を向けていた。この差はなんだと考えるものの、さっぱり分からない。創星神さまという大きな存在が現れたことで二柱さまの存在が少し薄くなっている気もした。

 

 「ナイ、次は?」

 

 ヴァルトルーデさまがどこの国へ行くのと問うてきた。彼女は各国を回るのが楽しいようである。国が違えば趣が違うため、顔をきょろきょろと動かして楽しんでいた。いろいろと西大陸を回ってみたいと仰っていたので、今回の件で少しは楽しめているだろうか。赤竜さんの背の上で気持ちの良い風を感じながら、私はアルバトロス王国方面に視線を向ける。

 

 「次はヤーバン王国です。ジャドさんが途中で合流する手筈ですが……」

 

 ジャドさんとヤーバン王は何気に仲が良く、今日は私が石を配るので一緒にヤーバンに顔を出したいと願い出た。特に問題ないし、雌グリフォンであるジャドさんがくれば彼の国の方々は喜ぶはずである。

 

 「ジャドもくるの?」

 

 ヴァルトルーデさまが顔を小さく傾げる。どうやらジャドさんはアシュとアスターにヤーバン王国の存在を教えたいようで、家族みんなで赴くと言っていた。途中で合流して一緒に向かおうと約束しているが、これが結構適当に交わしたため無事にジャドさん一家と合流できるだろうか。

 

 「ヤーバン王国はグリフォンを国獣としていて、雄の成体の生息域がヤーバン王国なんです」

 

 私はヴァルトルーデさまにヤーバン王国が定めている国獣について語る。詳しく知っているわけではないが、ジャドさん曰くアシュとアスターは大きくなったのでヤーバン王国へ移住しても問題ないそうだ。ポポカさんたちの雛のお世話も終わったし、親鳥さんたちも卵が無事に孵ったことで安心したのか南の島で生活するとのこと。アシュとアスターは侯爵領領主邸から一番早く卒業しそうだ。

 

 「おもしろいね。雄が一ヶ所に集まって、雌が散り散りに生活しているなんて」

 

 「なんか理由があんだろうな」

 

 ヴァルトルーデさまが小さく微笑み、横で話を聞いていたジルケさまが声を出した。末妹さまの夢も希望もない言葉に長姉さまは微妙な顔になって『どうして適当に結論を……』と言いたげである。

 グリフォンさんたちの生態については謎の部分もあるし、ジャドさんは会話をできるようになったので少しずつ解明されていくのではなかろうか。私は興味がないのでヤーバン王国と副団長さま頼みとなるけれど、面白い話があるなら聞いてみたいものである。

 

 「ジャドたち、どこだろう?」

 

 『お聞きしていた合流地点の近くですが、いらっしゃる様子はありませんね』

 

 ヴァルトルーデさまが周りをきょろきょろと見渡し、赤竜さんが声を上げる。女神さまの視力でも分からないようだし、赤竜さんの探知にもジャドさん一家の存在を察知できないようだ。

 他の方たちもジャドさん一家を探しているが分からないようである。ルカが襲われた一件もあるし、まさか誰かに襲われて羽毛を毟り取られているのだろうか。ジャドさんの詮無い姿を想像していれば、赤竜さんの飛んでいる位置から遥か上に気配を感じた。

 

 「あ」

 

 ヴァルトルーデさまが短く声を上げ、赤竜さんと魔術師であるソフィーアさまとセレスティアさまもなにかに気付いたようである。私も魔術師擬きの聖女なので気付くことができた。ジークとリンは私たちが顔を上へと挙げたことにより、釣られて彼らも顔を上げ『ああ』と納得していた。空の上――少しおかしな表現だが――にはジャドさん一家の姿が小さく見えている。

 

 暫くするとジャドさん一家は赤竜さんの顔の側で並走し、お邪魔致しますと挨拶をしていた。それからジャドさんたちは赤竜さんの背の上に降り、てってってと私たちの方へと歩いてくる。

 ジャドさんも大きいが、卵から孵った四頭も変わりない大きさに育っているし、感情表現が豊かなので割と彼らの考えていることが分かる。空の旅はアシュとアスターとイルとイヴにとって珍しいものだし、楽しい時間となったようだ。もっと飛びたいと考えているようだが、私たちとの合流を果たすため赤竜さんの背に乗ったのだろう。

 

 『お待たせしました。地上の皆さまを驚かせてはならないと随分と上を飛んでしまっていたようです』

 

 『我々が普段より低く飛んでいますから』

 

 ジャドさんが穏やかに告げれば、赤竜さんも返事をくれた。どうやら、赤竜さんは私が竜に乗って各国を回るというお告げを守るためいつもより低い位置を飛び、ジャドさん一家は地上の方たちを怖がらせてはならぬと随分と高い位置を飛んで私たちを待ってくれていたようだ。

 

 『行き違いですねえ』

 

 『ええ。無事に合流できてなによりです』

 

 ふふふとジャドさんと赤竜さんが笑っている。竜とグリフォンが仲良くできるのは意外だが、落ち着いている方たち同士だからだろうか。これでどちらも喧嘩っ早い性格だったなら今頃は怪獣大決戦となっていたに違いない。

 見ているだけなら面白そうだけれど、地上の被害を考えると物凄くなりそうだ。お貴族さまになって領地を運営していることで、私の頭の中ではチャリンチャリンとお金が飛んでいく音が聞こえてしまった。怪獣映画で都市が一つ壊れた知事さんは頭を抱えるのだろうなあと、今までとは違う視点で怪獣映画を語り始めてしまいそうだった。

 

 『皆さん、ヤーバン王国です』

 

 赤竜さんの声で私は前を見る。眼下には森が広がっているが、少し先には街が見えていた。そういえばヤーバン王国には初めて赴くので、一体どんな国なのだろうか。いや、まて。半裸の男性がたくさん待っているのではと複雑な気持ちになり、ソフィーアさまとセレスティアさまに婚姻前に見せるわけにはいかないと私は慌ててお二人に赤竜さんから降りるか確認を取るのだった。

 

 ◇

 

 ――ヤーバン王国、ヤーバン城。

 

 私は城の中庭にある広場に出てアストライアー侯爵がやってくるのをまだか、まだかと待っている。ヤーバン王となり、私にはたくさんの部下や守るべき者たちがいるが、彼らはそわそわと落ち着きがない。

 普段であればヤーバンの戦士がみっともないところを見せるなと、鳩尾に会心の一撃を見舞うところであるが……今回ばかりは見逃さなければならぬだろうか。私も実際ソワソワしているし、これから起こることを楽しみにしているのだから。

 

 遥か遠い空の向こうに小さな黒い点が見え始めると、私の周りに侍っている者も気付いたようだ。腕を伸ばして黒い影を指で差し感嘆の息を漏らしていた。近くにいた同世代の男が私に無邪気な表情を向けながら声を上げる。

 

 「陛下、竜です! 本当に竜が飛んできました!!」

 

 彼の言いたいことは理解できる。お告げの通りに竜が現れ、背にはアストライアー侯爵が乗っているのだから。これから創星神さまが創り給うた石を我がヤーバン王国は賜ることになる。

 過去にこのような偉業を果たした王はいないだろう。もしいたのであれば必ず歴史書に記されているはずである。だが、何処を探してもそんなことは書いていない。

 

 だが、願わくば。女神さまや創星神さまと手合わせしたいものである。もちろん強者とも競い合いたいので、アストライアー侯爵の護衛を務めているジークフリード殿かジークリンデ殿と一戦交えたい。

 私はにいっと笑えば目の前の男がびくりと肩を揺らす。おっと。私の悪い癖が出た。どうやら強者と手合わせしたいと考えていたためか、彼を驚かせてしまったようである。ごほんと私は咳払いをして、彼から視線を外し空の向こうへと変えた。

 

 「創星神さまが我々にお告げをくださったのだから当然だ。それに、アストライアー侯爵が嘘を吐くことはない」

 

 天を高く飛ぶ竜はまさしく力の象徴であろう。ヤーバン王国の国獣であるグリフォンも素晴らしいが、大きな身体を持つ彼らもまた魅力的である。

 

 「あ……あれ? 竜の背中からなにか飛び立ちました……あれは……グリフォン!?」

 

 若い男の声に周りの者たちもざわめき立つ。竜が現れたばかりではなく、グリフォンまで増えたのだから彼らの驚きは仕方ない。私はアストライアー侯爵から手紙を貰い知っているため、落ち着いたままでいられる。話を知らなければ私も周りの者たちのように騒ぎ立てていたに違いないはず。素晴らしい光景を目に焼き付けながら、私は周りの者たちを諫めなければと右手を挙げる。

 

 「騒ぐな。ジャドさまと彼女の仔たちだ。侯爵からの知らせでジャドさまもヤーバンにきて下さると聞いていたからな」

 

 「ああ、こんな日がくるなんて!」

 

 「本当に!」

 

 「ヤーバン王国に繁栄あれ!」

 

 私が周りの者たちに注意をするものの、竜とグリフォンと神の使者と今から対面することに興奮を抑えられないようだ。気持ちは理解できるが、失礼な態度を取れば外交問題以上に発展してしまう。神さまに粗相をしたとなれば、他国からなんと言われるだろうか。不敬を働いた粗忽な国として攻め入られれば迎え撃って勝つ自信はあるのだが……それより先に皆を平常心に戻さなければ。

 

 「待て、落ち着け。私たちは彼女たちを迎え入れねばならぬ。女神さま方も一緒だと聞いている。みっともない態度で挑めば恥を掻く。粗相をした者は私の制裁があると覚悟せよ!」

 

 「!?」

 

 「!!?」

 

 私の声で周りの者たちがはっとして顔を青褪めさせていた。私の制裁よりも、今から行われる会談の方に顔を青くすべきではなかろうか。

 アストライアー侯爵であれば問題なく石の受け渡しを終えることができるだろうが、他の者が使者を務めていれば事の成り行き次第で破談になる可能性もあった。アストライアー侯爵が神の使者として選ばれて良かったと安堵していると、城内にある訓練場に大きな赤い竜が降り立った。その横にグリフォンであるジャドさまたちも一緒に地面に降りて私たちを待っている。

 

 「皆、行くぞ!」

 

 「応!」

 

 私の声で皆が地面に片脚を『だん!』とぶつける。小気味良い音を聞いてから、私は足を踏み出した。広場の直ぐ横にあるのが訓練場である。私たちの姿を見たアストライアー侯爵は離れた位置で礼を執り、彼女たちも歩き始めた。

 彼女の後ろにはジャドさまと彼女の仔を四頭引き連れており、更に後ろには巨大な赤い竜がこちらを見下ろしている。なんと壮大な光景だろう。どくんと胸が高鳴り感動の嵐が私の心の中で吹き荒れる。

 

 アストライアー侯爵が歩いていると、不意にフェンリルとケルベロスと彼らの仔である三頭も姿を現し軽快な足取りで進んでいた。

 私の後ろを歩く者たちがごくりと喉を鳴らしている音が聞こえる。きっと、戦士として強き者と相対したことで震えているのだろう。ヤーバンには(つわもの)ばかりで頼りになるが、私を超えられる者が現れるのはいつになるのやら。

 

 私とアストライアー侯爵との距離が随分と近くなる。相変わらず侯爵は小柄だし、肩の上には白銀の竜を乗せ、赤毛の双子の騎士も控えさせているし、側仕えのハイゼンベルグ嬢とヴァイセンベルク嬢も相変わらずだった。

 ただ侯爵の左横には見知らぬ女性が二人おり、ただならぬ気配を醸し出している。おそらくお二方……いや二柱さまが女神さまだろう。改めて二柱さまを失礼のないように視界に捉えると、本当に人間には出せない覇気を持っている。女神さま方に意識を取られそうになるが、私はヤーバン王としてアストライアー侯爵と話をせねば。片脚を地面に一度叩きつけ、ヤーバン式の礼を執る。

 

 「アストライアー侯爵閣下っ! ヤーバン王国へようこそ! 盛大に歓待すべきだが時間がないと聞いている。このような場所で会談を行うことになり申し訳ない!」

 

 「国王陛下。お忙しい中、本日はお時間を頂き感謝致します。では早々となりますが、創星神さまから預かった石を六つお預けいたします」

 

 私が声を張り上げると侯爵は少しだけ苦笑いになっていた。直ぐに旅立つと聞いていたが、本当に時間がないようである。側仕えであるハイゼンベルグ嬢とヴァイセンベルク嬢が恭しくトレイの上に乗せた石を我々の前に差し出す。

 私は王として一つのトレイを受け取り、もう一つのトレイは部下の者に任せた。任せた者はトレイを持って腕を震わせていた。軟弱者と責めるか、仕方ないと小言で止めるべきか迷っているとジャドさまが侯爵と女神さま二柱さまの間に立っている。

 

 『ナイさんには時間がないので、あとは私が説明を引き継ぎます』

 

 ジャドさまは侯爵の顔に顔をすりすりと擦り付けて気持ち良さそうに目を細めている。侯爵はジャドさまの圧に倒れてしまわないようにと足を踏ん張っていた。羨ましいと呪詛を吐き出したくなるが、侯爵がいなければ私はジャドさまと出会えていない。ヤーバンの戦士が醜い嫉妬を向けては駄目だと、誰にも悟られないように小さく首を横に振る。

 

 「ジャドさん、お願いします。国王陛下、直ぐに立ち去る無礼をお許しください」

 

 「ジャド、よろしくね」

 

 『はい。確り、きっちりヤーバン王国の皆さまに説明いたします』

 

 なんと。話をきちんと聞いていなかったが、ジャドさまが石の今後について我々に直接教えてくれるそうだ。背の高い女神さまもジャドさまに託しているので間違いないだろう。ジャドさまと長く過ごすことができて嬉しいが、侯爵と直ぐに別れてしまうのも寂しいと心が訴えていた。それならばもう一度会う約束を。

 

 「ジャドさま、宜しくお願いいたします。アストライアー侯爵、今回の件が落ち着けばヤーバン王国へ遊びにきてくれ」

 

 私が侯爵にヤーバン王国へきて欲しいと願い出ると、少し驚いた顔をしつつも快く受け入れてくれた。だが鎖国状態だったヤーバン王国に急に部外者が訪れては反感を買うのではと侯爵は心配しているようである。

 

 「そんなもの、私が殴り飛ばしておけば問題ない。強い者に文句は言えぬのがヤーバンだ! それに侯爵も強かろう。十分、ヤーバンに遊びにくる理由になる!」

 

 私がカラカラと笑えば侯爵も笑っていた。それならばと彼女は『またヤーバン王国でお会いしましょう』と告げ、赤い竜の背に乗り込んで飛び去っていく。本当に直ぐに戻っていってしまったと、小さくなっていく竜の影を暫く見つめ私はジャドさまに視線を向けた。

 

 『では、説明を始めますが、この場で宜しいですか?』

 

 「我々はどこでも構いませぬ故。ジャドさまとご家族に囲まれながら此度の経緯を聞ける幸運に感謝致します」

 

 『大袈裟ですねえ』

 

 ジャドさまは大袈裟だと言っているが、闘技場の隅っこから片目の雄グリフォン――城に居着いている――がこちらにきたそうに見つめていた。ジャドさまは彼に気付いたようで、あとから仔を紹介しにいくと仰っている。

 片目の雄グリフォンにまた春がくるようにと願いつつ、ジャドさまの話を聞くため我らは地面にどっかりと腰を下ろした。

 

 「ジャドさま、アストライアー侯爵閣下の後ろに控えていた背の高い女性と小柄な方は、閣下の新たな側仕えなのですか?」

 

 『おや。西の女神さまと南の女神さまですよ。ナイさんと共に過ごしておられます』

 

 ジャドさまに嘘を吐く理由はないし、もしかすれば女神さまかもしれないと考えていたが。

 

 「……はい?」

 

 私はあまりにもあっさり答えてくれたジャドさまに呆けた顔を向けるしかなかった。

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