魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
亜人連合国でのバーベキューが終わればヴァルトルーデさまはご意見番さまの寝床で野宿してくると言い残し、そそくさと現場に向かった。お喋りしていた竜のお方たちが一緒に向かったし、お泊りセットも持って行ったから寝るだけなら問題ないと判断してヴァルトルーデさまを見送った。
朝になれば彼女はエルフの街に戻ってきて、割とすっきりとした顔だったので良く眠れたらしい。一緒に寝ていた竜の方から、ご意見番さまの晩年の話が聞けたようで機嫌も良かった。
クロは少し恥ずかしそうにしているけれど話を聞けば墓穴を掘ると考えているのか、黙って私の肩の上で尻尾をゆらゆらさせているだけ。過去の話を誰かにされるのは恥ずかしいと知っているので、私はクロの落ち着きなさそうな姿には突っ込まずにいるのだった。
亜人連合国での石の引き渡しはエルフの街にある広場で執り行うことになった。興味のある方がたくさんいたようで、皆さまの目の前で受け渡しを行うためである。
エルフの皆さま全員に、ドワーフさんたちも広場にきているし、竜のお方や野生動物の皆さままで集まっていた。亜人連合国ってこんなに賑やかだったのかと驚きそうになるものの、こちらが本来の姿なのかもしれない。
人間を苦手とする方が多いけれど、創星神さまが関わっているとなれば別となるのだろう。私はソフィーアさまとセレスティアさまにまた石を載せたトレイを持って頂き、目の前のディアンさまを先頭とした亜人連合国の皆さまの前で石を渡す。
「では、正式に――」
「――承った。しかし本当に凄いことになっているな。創星神さまが自らお創りになった品を我々が預かることになろうとは」
しかし亜人連合国は四年に一度代表選挙が行われているはずなのだが、初めて会った時から変わらずディアンさまが務めている。仮に出会った時が任期一年目であれば、今年あたりに選挙が行われるだろうに気配を感じない。
もしかして誤情報だったのかと首を傾げたくなるのを我慢していると、ディアンさまが苦笑いを浮かべていた。確かに大変なことになっているけれど、各地を回れるという条件を満たせる方は数少ない。
仮に回れたとしても時間が掛かってしまうだろう。適役というか適任が私くらいだし、グイーさまも他に知っている人間なんて皆無である。部下である神さま方に頼めば良いのに、グイーさまが原因の元だろうと言い返されれば二の句が告げなかったそうだ。まあ、なにかあれば神の島にいる部下の皆さまや女神さまが出張ってくれるのでマシなのだろう。
「堕ちた神さまの意識が各地に散ってしまいましたから。もし、なにかあれば地上の方たちが力を団結させても解決できないでしょうし、致し方ない処置だったのかなと」
堕ちた神さまで力は全盛期より弱まっているとしても、神さまだから地上に生きる者が敵うわけがない。それを加味してグイーさまも対策を練ってくれたようだから、我が儘を言っても仕方ないのだ。
今回は頑張って方々を私たちが回り、危険の芽を摘んでおかないと。亜人連合国の皆さまには協力できることがあれば、いつでも申し出て欲しいと私に言葉をくれる。有難いと感謝を伝えれば、ダリア姉さんが苦笑いを浮かべて気になっていることを私に問うた。
「海神さまはどうなったのかしら?」
「姫さまに謝罪をすると言って、エーギルさまに宮殿に送って貰うように昨日お願いしました」
ダリア姉さんの疑問に私は答えた。そういえばエーギルさまたちは大洋の宮殿に辿り着き、姫さまと海神さまは和解できたのだろうか。海神さまはテラさまに惚れていたようだけれど、地球の文化に染まり切ったテラさまを見て驚いていた。
百年……いや、百万年の恋も冷めるとはこのことだろうか。せめて姫さまと穏便に話を付けられれば海の平和が保たれるが……どうなるのやら。私が肩を竦めると、今度はアイリス姉さんが苦笑いを浮かべている。
「はえ~ナイちゃん、本当に忙しくなってるね。身体、壊さないようにね。あ、あとみんなもだよ~」
アイリス姉さんは最近、私だけではなく侯爵家の面々を心配してくれるようになっていた。南の島や領事館に訪れて顔を合わせているためか、身内判定をしてくれたようである。
嬉しい変化だし、今後も良き関係を築いていたい。きっと亜人連合国の皆さまにとっては一瞬のできごとかもしれないが、記憶の片隅に私たちの姿を残してくれていればそれで良い。寿命の違いに目を細めるのだが、悟られてはならないと私は口を開いた。
「ヴァルトルーデさまとジルケさまも一緒にきてくださいますし、なにかあれば協力してくださるそうなので大丈夫かと」
なにかあればヴァルトルーデさまとジルケさまが応援してくれる。北大陸ではナターリエさまが同行してくれる――北はミズガルズとフソウと魔人の村に行くくらい――し、東大陸はエーリカさまが一緒――アガレスと共和国――にきてくれる。
ある意味女神さま方は問答無用の暴力装置なので、グイーさまも豪快な判断を下したものだ。私がヴァルトルーデさまとジルケさまに視線を向けると、二柱さまは頷いてくれる。
「ん。西ならどうにでもなる」
「あたしの出番は南大陸なんだが、まあ恐れられているから話の進みは早いだろ。いざとなれば脅す。あと昨日の国みてえな奴がいたら、マジでぶっ飛ばす」
二柱さまの調子はこうなので特に問題ないはずである。ただジルケさまは昭和の不良少女みたいな思考をしているので少し抑えて頂きたい。南大陸でジルケさまの特徴を口にせずいられる方が多くいますようにと願うばかりである。でなければ、また私の下になにかしらの治癒依頼が舞い込んでくる予感がしてならない。
「だから怖がられる」
「良いんだよ。あたしら神なんて怖がられてりゃ。馬鹿な奴が多いからな」
ヴァルトルーデさまが呆れ顔になり、ジルケさまはどこ吹く風で長姉さまの声を跳ねのけた。確かに神さまは偉大で恐れられる存在だが、地上で過ごしているので存在が凄く近い。
私の屋敷で過ごしている際は人間と変わらない暮らしを送っているので勘違いしそうになるが、女神さまは女神さまで力は強大だ。彼女たちが本気を出せばどうなってしまうのか。少し興味が湧いて私は二柱さまを見つめていると、ジルケさまがむっと顔を顰めて再度言葉を紡ぐ。
「お前らに言ったんじゃねえからな! あたしの容姿に言及する奴が馬鹿だって言ってるんだぞ!」
ジルケさまは飯を食わせてくれるしと慌てた様子で最後に付け加えた。ヴァルトルーデさまは末妹が照れていると生温かい視線を向けているし、周りの皆さまはなにか食べ物はと周りを探し始める。本当にヴァルトルーデさまとジルケさまは食いしん坊だなあと目を細めていると、様子を伺っていた小さい竜の仔たちが私たちの方に近づいてくる。
『いしだー! ほんものー?』
彼らもまたグイーさまの夢を見ていたようだ。もしかしてグイーさまは面倒だと全ての生き物に夢を見せたのではなかろうか。怪しいなと訝しみつつ、小型の竜の方たちに返事をせねば。
「グイーさまが創ってくださったものだから、本物だよ」
『わるいかみさま、つかまえるの?』
夢の内容はきちんと伝わっているようで、彼らもまた状況を理解してくれている。ただ幼い所為か身体の仕草や喋り方は凄く可愛い。私の後ろで息を盛大に吐いている方がいるのだが、いつも通り誰も気にしてはおらず公爵令嬢さまだけが呆れた視線を向けている。
「うん。近くに神さまの残滓があれば吸い取ってくれるんだって」
『そのままだと、どうなるー?』
「百年くらいは大丈夫って聞いてるよ。でも百年経てばどうなるか分からないって。だから今回の一件が片付いたら石を回収するからね」
そう。各地に配布したあとは回収せねばならないという仕事もまだ残っていた。ただ問題が解決していないうちから気にしても仕方ないので、先ずは各地に石を配り歩くことが優先である。
『じゃあ、いし、だいじにみまもるー!』
『がんばるー!』
「無理せずに見守ってね」
小型の竜の方たちが一斉に石を置いている場所の周りをクルクル回ってはしゃいでいる。誰も咎めず目を細めて見守っているあたり、亜人連合国の皆さまにとって大事な仲間というところか。
「それでは私たちは亜人連合国の周辺国を回ってきます」
私が亜人連合国の皆さまに旅立ちの挨拶をすれば、揃って気を付けてと声を掛けてくれた。女神さま方やジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまにも言葉を掛けてくれるのだから、本当に時間が流れたと実感する。
今日の飛竜便は青竜さんが担当してくれるようで、いそいそと彼の背に乗って地上から空へと上がり直ぐ近くにある国へと飛んで行く。
そうしてまた私たち一行は青竜さんの背から降り、出迎えてくれた方々との挨拶を済ませるため対面する。にこりと笑みを浮かべた亜人連合国の隣に位置する国の王さま――三年前、亜人連合国へ向かった際に外務卿さまが滞在していた国である。彼を忘れて置いて行った国とも――が私を視線を合わせる。
「これはこれは、侯爵閣下」
ふふふと笑みを浮かべている王さまであるが、確か三年前はこの国の外務卿さまと宰相さまが相手を務めてくれたので彼とは初対面だ。
「三年前、アルバトロス王国が小麦を融通してくれたことにより、我が国の食料事情が改善致しました」
当時の私はそんな裏事情があるとは知らず、協力してくれたことは有難いと考えていたのだが、政治の世界はギブ&テイクで成り立っていると知った一件である。
亜人連合国に向かい卵さんを返したあと、アルバトロス城の離宮でこの話を聞いた時は驚いたのだ。竜の卵という貴重品を返すために協力してくれたと考えていたのだが、ちゃっかり小麦を相場より安く買い付けるように要請していたとは。
「それはようございました。では、創星神さまからお預かりした石をお渡しいたします」
小麦の取引価格は陛下が決めることだし私がとやかく口を挟んでも意味はない。目的を果たすために目の前の方と相対しているのだから、先に話を進めなければ。また次の国へと行かなければならないし、ゆっくりとしている暇はない。
「はい。お預かりいたします」
目の前で石を興味深く見ている皆さまに注意事項を伝えて、私たち一行は次の国へと飛び立つのだった。
◇
青い大きな竜が空を飛んでいる。
今し方、アストライアー侯爵から創星神さまが創り給うた石を受け取ったところであるが、周りの皆は石の美しさに目を惹かれている。三年前、亜人連合国に赴きたいとアルバトロス王国から連絡が突然入った時は驚いたものだ。
何故、人間を嫌う者たちが住む彼の地に入りたいのかと問えば、竜の卵を返したいということだった。竜の卵を拾ったことに驚くも、返そうと試みるのは珍しいことだ。自然と卵が孵ればそれで良いのに、わざわざ竜や亜人が住む場所へ足を踏み入れるなんてと小馬鹿にしていたが、丁度食糧難で困っていた我が国には丁度良い話だった。
アルバトロス王国は小麦の一大産地として有名で、今回の件で貸しを作り安く手に入れたかったのだから。
アルバトロス王国も急いでいたのか、特に協議もなく小麦を我が国へ安く売ることに合意してくれ、私の国は亜人連合国へと使者一行を導く手筈を執った。
それから三年の月日が流れて、我が国の食料事情は持ち直している。相変わらず痩せた土地ではあるが、我が国の土壌でも育ちやすい野菜を手に入れていた。亜人連合国との取引も少し増え、ドワーフが作った農機具を買い付けて農夫の手間を少し改善させている。他にもやるべきことはまだまだあるが、我が国が立ち直る切っ掛けをくれたのは三年前の一件だろう。
「どうか無事に彼女の旅が終わりますよう」
私は小さくなっていく青い大きな竜に乗った黒髪の少女に想いを馳せる。創星神さまから賜った使命を果たすため、彼女は小さな身体で各国を回っている。妙な王がいればやっかみを受けるだろうし、彼女を取り込もうと画策する者もいるかもしれない。
彼女が侍らせていた者たちは優秀なようだが、果たして無事に旅を終えることができるのか。堕ちた神の残滓を集めるという石に私は視線を向け、城に設置する一つと王国内に設置する場所を決めようと皆に告げ、城へと戻るのだった。
◇
冒険者ギルド本部。
国家ではないけれど、聖王国と並ぶ少し特殊な場所で自治区とでも表現すれば良いだろうか。自治区のため王さまはいないが統治者はいる。それが冒険者ギルド本部長であり、西大陸各地に点在する冒険者ギルドの纏め役でもある。
国土としては広くないので極小国家と同じ規模であるが、優れた冒険者が集まっていれば一国の軍隊をも超える戦力を持っているそうだ。西大陸の北東に位置しており、亜人連合国の周辺域から遠くなかった。私たちアストライアー侯爵家一行は冒険者ギルドにも連絡を入れ、本部に一つと西大陸の各地に点在する冒険者ギルド――二百ほどの支部がある――にも石を設置して頂くため挨拶に赴いていた。
お昼のおやつの時間頃。冒険者ギルド本部前にある中央広場は結構広く、青竜さんがギリギリ降下できる場所だったので広場でそのまま会談を執り行うことになった。
集まっている方の中には以前アリアさまに治癒を施して頂いたSランクパーティーの皆さまがおり、その中にはヤーバン王国の元第一王子殿下の姿もある。他にも強そうな冒険者の方が青竜さんを見て感嘆の声を漏らしている。
青竜さんは青竜さんで多くの視線が刺さり少し困っているようだった。ヴァルトルーデさまとジルケさまは青竜さんの首元で待機していた。二柱さま曰く、気付かれると確実に騒ぎになるので一緒にはいかないとのことだ。
居心地の悪そうなヴァルトルーデさまとジルケさまと青竜さんを見て、早く済ませた方が良さそうだと私は苦笑いになる。
集まっていた方たちの中から私たちの前に出てきたのは、冒険者ギルド本部のお偉いさんとSランク冒険者パーティの皆さまとアルバトロス王国のギルド支部長さんであった。何故、Sランクパーティーの皆さまとアルバトロス王国の支部長さんが一緒にという疑問が湧くが、知らない方が大勢並ぶよりも、私が知っている方がいた方が良いという配慮だろうか。
最近、ヤーバン王国に向かったためか、元第一王子殿下が衣装をきっちり纏っている姿が凄く新鮮だった。お互いに足を止めて視線を合わし私が先に声を掛けさせて頂く。
「お初目に掛かります。冒険者ギルド本部長さま、皆さま」
私がギルド本部長さまの顔を見上げれば彼の喉仏が一度下がる。刹那のあと、彼が口を開いた。
「……初めましてと言いたいが、私は貴女のことを知っている。三年前、アルバトロス王と亜人連合国の代表と一緒にいた所を会議室でね。あの時は別の国の支部長を務めていたから、貴女は知らなくて当然であるが……」
苦笑いを浮かべているギルド本部長さんは元冒険者だろうか。立ち姿が騎士の方や軍の方と同じで、ぴしりとした姿勢に胸板が厚い。今も鍛えることを怠っていないようだ。
「申し訳ありません。あの時は緊張しており、皆さまのご尊顔を覚える余裕はなく……」
私は冒険者ギルド本部長さまの顔を全く覚えていないし、なんなら冒険者ギルド本部で出会った方の顔をほぼ忘れている。直ぐに終わったし、もう関わることはないと脳という記憶媒体から不要と判断され消したようである。相変わらず私の脳味噌は適当だと少し呆れていると、冒険者ギルド本部長さまが慌てた顔になる。
「貴女を責めるつもりで言ったのではないのです。またお会いできて光栄だと。そして此度の件、ご苦労さまです。事前に危険を察知でき対処もできます。全力で冒険者ギルドは協力させて頂きますので、なんでもお申し付けください」
神さま案件となるので彼らでは対処は難しいと判断しているのだろう。グイーさまの夢を見たためか、皆さま信じてくれているようだ。冒険者ギルド本部長さんが礼を執ると、集まっていた方も一斉に礼を執っている。
どうやら協力体制を執るのは冒険者の皆さまに通知済みのようで、協力はやぶさかではないという意思を示してくれているのだろう。冒険者ギルド本部長さまが顔を上げれば他の皆さまも礼を解く。
「有難いお言葉です。よろしくお願い致します」
私が頃合いを見計らって言葉を紡ぐと、冒険者ギルド本部長さまが握手を求めてきた。さて、どうするか。一応、私はお貴族さまの女である。が、アストライアー侯爵家の当主であり、会談の場に立っているのだから握手は問題ないはずだ。それならばと冒険者ギルド本部長さまの手に私の手を添えようとすれば、Sランク冒険者パーティーリーダーさんが半歩前に進む。
「本部長、貴族のお方の異性に握手を求めるのは……」
「む。ああ、申し訳ありません。いつもの癖で……!」
リーダーさんが本部長さんに進言すれば、片眉を上げながら差し出していた手を引っ込めた。私は握手をしようと伸ばそうとしていた手の力を抜き、まあ良いかと彼らに気にしないでくださいと首を軽く横に振る。
そうして冒険者本部用の石と各支部用の石を二百個取り出すと、ロゼさんを見た皆さまが驚いていた。冒険者ギルド本部長さまとSランクパーティーの皆さまも同様で目をぱちくりさせている。
愉快そうに笑っていたのはヤーバン王国元第一王子殿下であるシルヴェストルさんだけ。最近、ロゼさんの凄さが当たり前になってきているから、今の反応は有難い。やはりロゼさんは異常に能力が高いスライムだよねえと目を細めながら、石の引き渡し式を行うのだった。
そうして私が石の説明を終えれば、無事に冒険者ギルドの皆さまにも石を預け終えたことになる。私は少しだけSランク冒険者パーティーの皆さまと元第一王子殿下と話がしたいとお願いをして、時間を割いて頂けることになった。
「お久しぶりです、皆さま」
私は冒険者ギルド本部長さまから視線を外して、側にいた皆さまへ声を掛ける。
「お久しぶりです、アストライアー侯爵閣下」
「閣下、お久しぶりです!!」
Sランク冒険者パーティーリーダの方が声を上げ他の皆さまは丁寧に礼を執り、元第一王子殿下は腹に力を入れた挨拶をくれた。少し耳に響くのはヤーバンに住まう方の特徴なのだろう。
ヤーバン王も彼女に連なる皆さまも腹に力を入れて喋るためか、周りの方たちより声が大きいのだ。気合が入ろうものなら更に大きくなるのは仕方ない。元第一王子殿下の大音声にメンバーの皆さまが注意を入れて、声を張り上げた本人はしゅんとなっているけれど。
「治癒後に支障はありませんか?」
アリアさまの力でリーダーの方は奇跡的な回復を遂げているものの、なにかあるかもしれないと気になったので私は彼らと話す機会を頂いた。事情を知らない方もいるのか少しひそひそ声も聞こえる。そんな声に冒険者ギルド本部長さんが睨みを利かせるとピタッと止まるのは彼が本部長という地位に就いているからだろうか。
「はい。傷も残らず治っております。冒険者の活動にも問題は発生しておりませんし、以前よりも身体の動きが良くなっております」
「それは良かったです。でん、シルヴェストルさまもお元気そうでなによりです」
リーダーさんの身体に支障はないようで一安心した私は元第一王子殿下にも声を掛けた。相変わらず、元気そうだし筋肉が以前より増えているような。
「アストライアー侯爵閣下! また話をすることができるとは! しかしさま付けは……」
元第一王子殿下は私が彼に敬意を払ったことが気になるようだ。コレは私の癖のようなものだし、年上の方を呼び捨てにするは少々気が引けるという前世の特性だろう。呼ばれてしまったご本人は困るので次からは呼び捨てになるけれど……まあ慣れていかないと。
「貴殿の見聞が広がるよう願っております。では、皆さま、これにて失礼いたします」
「閣下、ありがとうございます。冒険者ギルド一同、無事に石を配り終えられるよう願っております」
私が元第一王子殿下に声を掛け終えて皆さまに別れの挨拶を述べる。短い時間であるが、次の場所へと移動しなければ。そのまま彼らと別れて青竜さんの下へ行き、私たちは彼の背の上に乗る。
ゆっくりと上昇しながら久しぶりに訪れた冒険者ギルド本部に目を細め、次は本部付近の国を回り、明日は聖王国だと気合を入れ直すのだった。
◇
遠くに消えていく竜の姿を眺めていた。アストライアー侯爵閣下が冒険者ギルド本部に滞在していたのは二時間ほどである。アルバトロス王国の謁見場で初めて顔を合わせた時が随分と懐かしく感じてつい声が出てしまった。
「行ってしまったか。ヤーバンのことを聞きたかったのだが……」
「仕方ないよ、シルヴェストル。閣下はかなり強行な予定を立てているようだし、僕たちに一声掛けてくれただけでも気遣ってくれた証拠だよ」
私は周りの者たちに聞こえないようにとかなり気を使って呟いたのに、確りと皆には聞こえていたようである。今の私はSランクパーティーの皆と一緒に行動をしている。
各国の魔物の恐慌に困っている方たちを助けるために方々を回っているのだが、ありがとうと感謝されることが嬉しいものだと彼らと共にすることで学べることができた。ヤーバンの王子を務めていたままでは味わえなかった経験であり、国を追い出されて本当に良かった。
「それは分かっているんだが……ぬう、我が儘を言っても仕方ないか」
私が空を見上げながらリーダーに愚痴を伝えれば、彼は軽く笑みを浮かべて肩を竦めている。同じパーティーに所属している治癒師と魔術師の女性二人が私たちと並んで、遥か遠い空を見つめた。
「閣下、また魔力量増えていた気がするんだけれど」
「そうね。まだ増えているなんて凄いわよね」
魔術に精通している彼女たちの言ならば、閣下の力が増えているのは本当なのだろう。確かに以前に会った時よりも風格が一段と備わっていた。それが貴族だからなのか、聖女として魔力が増えたからなのか私には分からない。
ただ一つ確かなことは閣下は確実にまだまだ大陸を超えて名を轟かす方だ。そんな方と関わりを持っている上に、妹であるヤーバン王は閣下と仲良くしているそうだ。破天荒で力自慢の妹と閣下が並んでいる所が想像し辛いが、上手くやれているのなら私は陰から応援するのみ。
「さっぱり分からなかったが、側に控えている者たちは只者じゃないし、青い竜と側にいた二人の女性の雰囲気は異様だった」
パーティー内で盾役を務める大柄な彼が首を傾げつつ、離れた位置にいた青い竜と女性二人について話題を変える。彼は閣下の力が増えたことは分からなかったようだが、青い竜と側にいた女性もただ者ではないと感じたようである。私も同意見だし、閣下の護衛を務める赤毛の双子も側仕えの女性も冒険者を務めたならばかなりの実力者となるはず。礼儀作法も備わっているから、登録すれば直ぐにランクを昇っていくはずだ。
「確かに青い竜と側にいた綺麗な女の人と可愛い子は凄い人たちだって分かるよね~」
「閣下のお知り合いなのかしら? それとも護衛?」
治癒師と魔術師の女性二人が明るい顔になりながら話を盛り立てていく。そんな二人にリーダーは苦笑いを浮かべながら片方の手を腰に当てた。
「どうだろうね。閣下のお屋敷には女神さまがお過ごしになられているらしいから、もしかすると……」
冗談めかしたリーダーが女性二人を揶揄っている。しかしどうだろうか。リーダーの話はあながち間違っていないのかもしれない。侯爵閣下の屋敷では女神さまがお過ごしになられているという噂は冒険者たちの間で有名だ。そして今回の夢で信憑性が増している。女性二人はリーダーの話に肩をすくめながら笑みを深めた。
「えー! リーダー、女神さまが冒険者ギルド本部に興味なんて向けないよ!」
「そうね。向かうなら聖王国じゃないかしら? 女神さま信仰の本拠地だもの」
荒くれ者が多くいる冒険者ギルドに女神さまは興味を示さないだろう。きっと侯爵邸で穏やかにお過ごしになられているのだ。それにどこかに顔を出すのであれば聖王国という女神さまを崇めている場所に興味を持つのは当然だ。
詳しいことは私には分からないが、そういう場所が西大陸にはあると聞く。そこには女神さまから授かった聖痕を持つ大聖女がいて、困っている者や病気の者を救っているとか。確かに冒険者ギルドより女神さまが興味を持つのは聖王国だと私は頷いた。
「つっても聖王国も随分とやらかしているから、呆れてるんじゃねえか?」
盾役の男がガハハと笑えば、女性陣二人はもう少し空気を読んで欲しいという顔になり、リーダーは苦笑いを浮かべて話を変えた。
「さあ、僕たちも戻って授かった石を各地に届けに行こう。閣下の説明を一文一語違わぬように伝えないとね」
リーダーの声に応と返事をして、私たちのパーティーは石を届けに各地の冒険者ギルドに向かうのだった。