魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

656 / 740
0656:大丈夫か聖王国。

 西大陸諸国詣では三日目となり、聖王国へ立ち寄ることになっていた。

 

 聖王国がまたやらかしてはたまらないと、各国からの監視の目を増やしているし教皇猊下と大聖女フィーネさまと大聖女ウルスラさまに根回しをしておいたから、変な神職者の方が現れる可能性は限りなく低いはず。

 

 とはいえ聖王国である。

 

 安心できないのが彼の国のクオリティーだ、というのがアストライアー侯爵家一行の見解だった。青竜さんの背の上でアストライアー侯爵家一行は聖王国で妙な方が出た時の対処法を考えていた。

 教皇猊下からは問答無用でぶっ飛ばして良いと許可を貰っているけれど、私たちアストライアー侯爵家一行の評判がヤの付く職業の方と勘違いされそうである。暴力的な手段は取りたくないが、手っ取り早いのは制圧して教皇猊下に身柄を引き渡すというのが一番の正攻法だろう。ヤの付く職業と判断されるのは心苦しいが、最悪はそうしようと決めた所である。

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまにはまた石を持って貰うことになるし、ジークとリンは私の護衛を務め、他の護衛の方たちは周辺警戒を担って貰う。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちは騒ぎになるので影の中で待機して貰うことにした。毛玉ちゃんたちがつまらないと愚痴を零していたけれど、怖がられるのがオチである。

 

 そんなこんなで私たちの眼下には聖王国の大聖堂が見えていた。

 

 「無事に終わると良いな」

 

 「怪しい」

 

 ジークとリンが小さく息を吐きながら、私と一緒に眼下を見下ろしていた。大聖堂の外には沢山の人が集まっていて青竜さんの姿を見て指を指しているようだ。グイーさまのお告げを見て真実なのか大聖堂に確かめにきた方たちなのかもしれない。この二日間、大聖堂の皆さまは訪れた大勢の皆さまの相手を務めるのは大変だったかもしれない。

 今日で多少は収まると良いのだが。知らない方には申し訳ないけれど、フィーネさまとアリサさまとウルスラさま、そしてエーリヒさまと緑髪くんは大丈夫だろうか。

 

 私はジークとリンに視線を向けて苦笑いを浮かべた。

 

 「リンが疑うと、本当に変な人が出てきそう……ヴァルトルーデさまとジルケさまはどうしますか?」

 

 本当にリンの勘は当たるので、今回はできれば当たって欲しくない。とはいえ私たちがいなくなったあとに問題を起こす方が出てくるのも困る気がする。とりあえずヴァルトルーデさまとジルケさまは聖王国の大聖堂に立ち入るのか聞いておこう。嫌なら青竜さんの背の上で待っていることができるのだから。

 

 「どんなところか興味はあるけれど……私が西の女神と露見すれば面倒なるよね……」

 

 「だなあ。あたしはまだ南の女神だから良いけどよ、姉御がいるってなったらそりゃ大騒ぎになるだろ」

 

 ヴァルトルーデさまは大聖堂に興味があるものの、一部の聖職者の方たちや信者の方たちに不安を抱いているようである。ヴァルトルーデさまが西の女神さまと分かれば、きっと大聖堂は大騒ぎになることは確実だ。ジルケさまは南の女神さまなのでヴァルトルーデさまほど騒ぎにはならないと考えているようだが、それでも女神さまには変わりないので皆さま驚きそうだ。

 

 「ナイの側仕えに専念する……念のためにナイの魔術具一つ外せば私の圧がもっとマシになるはず」

 

 ヴァルトルーデさまが私を見下ろして手元に視線を向けていた。確かに私が魔術具を一つでも外せば、ヴァルトルーデさまの圧は和らぐだろう。まあ騒ぎにならない方が有難いのでヴァルトルーデさまの言を受け入れよう。ジルケさまは長姉さまの発言に目を細めて微妙な顔を浮かべていた。

 

 「姉御……自分の興味を満たすためにナイを犠牲にするな。まあ良さそうな方法ではある」

 

 はあと息を吐いたジルケさまはヴァルトルーデさまを見上げていた。長姉さまのフリーダムさに突っ込みを入れたいようだが、あまり強くは言えないようである。

 

 「…………魔力が漏れて怖がられそうですが今更ですしね。外しておきます」

 

 私は私で言われた通りに指輪を一つ外す。ヴァルトルーデさまが女神さまだと露見して騒ぎになるよりマシだし、聖王国の一部の方に私が恐れられているのは今更だ。

 左手の親指に身に着けていた魔術具の指輪を外せば、なんとなく魔力が身体から漏れているような。あと体内に流れている魔力も増えている気がする。制御はできているけれど、魔力感知に敏感な方がいれば驚かれそうである。それでもヴァルトルーデさまの正体が大勢の方にバレるよりはマシだなと私は苦笑いになった。

 

 「ナイ。それ、借りても良い?」

 

 ヴァルトルーデさまが右手を差し出したので、私は素直に外した魔術具を彼女に渡す。

 

 「どうぞ」

 

 私がヴァルトルーデさまに魔術具を渡せば、左手の中指に魔術具を嵌めていた。副団長さまが知れば凄く喜びそうだし、どうなったのか根掘り葉掘り聞き出されそうである。

 

 「あー姉御の圧が今より下がったか? というか姉御の圧が下がるほどって、一体どれだけ魔力を押さえつけてんだ……」

 

 ジルケさまが感心しているものの、声がどんどん低くなって私の方にジト目を向けた。副団長さまから譲り受けた魔術具の指輪でどれほど私の魔力を抑えられているのかさっぱり分からない。

 とりあえず体内で魔力が暴れることはないし、教会に救われてお世話になっていた頃に起こしてた魔力暴走も起こっていない。全力全開の魔力放出は周囲の環境を変えてしまいそうだし、畑の妖精さんが誕生するし……できずにいるから、正確な私の魔力量を計測できていないのは如何なものだろうか。むーと考え込んでいると私の肩の上に乗っているクロが顔を顔に擦り付け始めた。

 

 『ナイの魔力は増える一方だねえ』

 

 クロはふふふと笑いながら嬉しそうである。まあクロたちは魔力を満たせるから嬉しいようだし、私の余剰魔力は彼らに吸い取られている。クロたちがいなければ畑の妖精さんが大繁殖していた可能性がある。なので彼らが私の側にいてくれるのは有難い。ロゼさんは魔力を吸い取り過ぎるとパーン! してしまうかもしれないが、私の魔力量に比例してロゼさんの魔力量も増えている気がする。

 

 「良いことなのか、悪いことなのか……どっちだろう」

 

 本当に良いことなのか、悪いことなのか判断が付かないが、私の魔力量が特異でなければ聖女にはなっていないし、貧民街で野垂れ死にしていた可能性がある。文句を垂れても仕方ないと頭を振れば、クロがまた言葉を紡いだ。

 

 『ナイが正しくあろうとしているなら、きっと大丈夫だよ』

 

 私がずっと正しく在れるかは分からないけれど、人の道を外れるようなことにはなりたくない。しかし正しくあるだけで大丈夫なのだろうか。

 

 「そういうもの?」

 

 『そういうものだねえ』

 

 私がクロに問えば直ぐに返事をくれる。私たちが話している側で、聖王国に降りるため青竜さんが下降を始めた。

 

 「そうだね。ナイが悪いことを考えない限り大丈夫」

 

 「世界を滅ぼすつもりなんてねえだろ。なら良いんじゃねえか」

 

 ヴァルトルーデさまとジルケさまも軽い調子で大丈夫と言ってくれるが、それなら私の魔力が暴走したら全力で止めてくれるとか約束をくれる方が嬉しいのだが。

 

 「軽い気がしますが……まあ、良いか」

 

 ぐだぐだと考え込むのは私の悪い癖だと女神の二柱さまに返事をすれば、ソフィーアさまとセレスティアさまが『ナイが一番軽くないか?』『ナイですもの』と背後で言っている気がする。

 

 そんなこんなで、大聖堂のある街の外側に青竜さんが降り立てば、少し離れた位置にお迎えの方たちがたくさん揃っていた。これは今までのどの国も同じだから違和感はない。

 違和感はないのだが、聖職者の皆さまは全員訪れているのではなかろうかと言いたくなるくらいに聖王国の面々が多く揃っていた。前には私たちを出迎えるため、教皇猊下とフィーネさまとウルスラさまが待っている。その後ろの女性陣の中にアリサさまも控えており、聖王国の聖女さま方なのだろう。エーリヒさまと緑髪くんはどこにいるのかなと視線を彷徨わせてみるが、お二人の姿は見当たらない。……しかしまあ。

 

 「期待の眼差しが凄い」

 

 他の国よりも皆さまから受ける視線が痛いというか、凄く輝いているというか。物凄く私たちを凝視している。教皇猊下とフィーネさまの顔は引き攣っているが、ウルスラさまは目をキラキラさせているし、他の方たちも目力が凄い。羨ましいという視線も極少数感じているが、女神さま方も一緒だと知れば二柱さまの方へと向きそうな気がする。

 

 「聖王国だからな」

 

 「女神さまを通り越して創星神さまがお告げをしましたもの」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが私のぼやき声に気付き背後で答えてくれた。ジークとリンは妙な方が飛び出してこないかと割と真剣に警戒している。この場で飛び出した方がいるならば王政を敷いている国であれば即首を切り落とされそうだが、聖王国ではどうなるのだろう。警備の方に捕まって投獄が一番有力だろうか。

 しかしまあ、私の後ろを歩いているヴァルトルーデさまとジルケさまのことを聖王国の皆さまは気付いていない様子だ。私たち一行が一歩ずつ聖王国の皆さまに近づけば、どんどん期待の眼差しが強くなっていた。

 

 「ヴァルトルーデさまに気付かないというのもどうかと思いますが」

 

 私は聖王国の皆さまがヴァルトルーデさまの存在に気付いていないことが不思議だった。腕輪と指輪で神圧を抑えてはいるものの、凄く目立つ方なので誰か気付いても良いのに。

 

 「ハインツがくれた腕輪も凄いけど、ナイの指輪も凄いね。誰も気付いてないみたい。あの人は私を知っているから、凄い顔になってるけれど」

 

 ヴァルトルーデさまが私の後ろで、自身のことを誰も気付いていないことに感心している。教皇猊下は女神さまがいると分かり目を白黒させている。ただ騒げば大事になると理解しているので、教皇猊下もフィーネさまもウルスラさまもアリサさまも黙っていた。そして彼らを護衛している方たちも同様である。

 

 「指輪の方も副団長さまと猫背さんが作ってくれた品ですから、私が凄いわけじゃないですよ」

 

 私は前を向いたままヴァルトルーデさまとの会話を続ける。

 

 「でも、ナイの魔力量が多くないと存在しなかった」

 

 「それはそうですが。と、そろそろ」

 

 確かに私の体内に備わる魔力が少なければ、魔力を抑える魔術具なんて身に着ける必要はないけれど。とりあえずもう少しで教皇猊下方と合流するため私語を慎む。お口をチャックして足を進めていると、聖王国の皆さまの前へと辿り着いた。

 

 「創星神さまより賜りし石をお届けに参りました」

 

 「アルバトロス王国、アストライアー侯爵閣下。よくぞ参られました。では大聖堂へ参りましょう」

 

 私が教皇猊下の前に立てば、聖王国の皆さまが恭しく頭を下げた。凄く落ち着かない感じがするけれど致し方のないことである。流石に聖王国はこの場で引き渡しをする訳にはいかないと、大聖堂へと赴く手筈となっている。

 大聖堂には直ぐに辿り着く距離のため、このまま大名行列宜しく歩いて行くことになる。そうして凄く豪華な大聖堂の中に踏み入れれば、ヴァルトルーデさまは祭壇の前にあるステンドグラスに目を向けていた。

 

 「やっぱり、似てない」

 

 「良かったじゃねえか。似てねえから気付かれていないぞ、姉御」

 

 「それはそれで少し複雑」

 

 誰にも聞こえないように二柱さまが呟けば、教皇猊下の耳には確り届いていたようで顔を青くさせているのだった。直ぐ後に執り行われる、引き渡し式は無事に終えることができるのだろうか。

 

 ◇

 

 私たちアストライアー侯爵家一行は大聖堂に赴いて、グイーさまから預かった石を教皇猊下方に無事引き渡すことができた。彼らも漏れずグイーさまの夢を見ていたために、誰も疑わず石を受け取ってくれた。堕ちた神さまが悪さをすれば人間が敵うはずもないと考えているようで、グイーさまのお告げをきっちりと守ってくれるようである。

 

 大聖堂に石を一つ、他の場所に二つ聖王国では設置予定だ。小さな国のため預ける石の数は少ない。その方がトラブルにならないだろうと考えてしまうのは、今までの聖王国のやらかしが酷いからだろうか。

 大聖堂の祭壇前に石が三つ並んでいるのだが、興味深そうに覗き込んでいる方がいる。そう先程受け渡しを終えた教皇猊下とフィーネさまとウルスラさまである。少し離れた場所にアリサさまもいるのだが、大聖女さまではないので他の聖女さま方と一緒に祭壇上を興味深そうに見ているだけだった。

 

 「本当に創星神さまがお創りになったものなのですか?」

 

 フィーネさまが首を傾げながら私に問えば、教皇猊下がなんてことをと言いたげに口を開く。

 

 「大聖女フィーネ、そのように疑いを掛けては失礼だろう」

 

 「分かってはおりますが、普通の水晶に見えてしまうので……つい」

 

 フィーネさまの言い分は理解できる。私もグイーさまから直接受け取っていなければ、加工をしていない天然の水晶だと判断するはずだ。ウルスラさまはグイーさまから預かった品ということで、先程から無言で目に焼き付けていた。

 触れても大丈夫なのだと私が伝えれば、彼女は首がもげそうな勢いで左右に振っていた。ヴァルトルーデさまとジルケさまも『遠慮しなくて良いのに』『触れてもなにもなんねえんだがなあ』と言いたげであるが、側仕えのフリを続けるようで無言のままである。ふいにフィーネさまと視線が合い、私のことをじっと見つめている。どうしたのかと私が少し首を傾げると、彼女が言葉を紡いだ。

 

 「というか、ナイさま。魔力が漏れていませんか?」

 

 「魔術具を一つ外しているので、いつもより漏れているかもしれません」

 

 フィーネさまは私から魔力が漏れているのを感じたようだ。微妙な顔になっているので、割と漏れてしまっているのかもしれない。魔力量が多過ぎて魔術具に頼っているが、魔力制御を学んでも効果が薄いので本当に私の魔力はどれほどのものなのか。

 

 「何故、そんなことを……?」

 

 「お二人の存在を露見し辛くさせようということで」

 

 怪訝な顔で問うフィーネさまに私は後ろに控えてくれているヴァルトルーデさまとジルケさまの方を見た。彼女も釣られて二柱さまの方へと視線を向け目を細める。

 

 「あ。確かにヴァルトルーデさまから受ける圧が弱いですね」

 

 どうやら私の魔力が漏れ出ている効果があるようで、フィーネさまは以前よりもヴァルトルーデさまから感じる圧がマシになっていると感じたようだ。ウルスラさまも話の内容に興味を持ったのか、女神さま方へと視線を向け周りの方にも視線を向けた。

 

 「そういえば、他の方が気付いておられません。ナイさまの漏れ出ている魔力に隠れているのでしょうか」

 

 フィーネさまとウルスラさまから呆れた視線を私に向けている気がするが、流石にヴァルトルーデさまが身に着けている魔術具の腕輪を外せば意味のないものになるだろう。

 まあ、ヴァルトルーデさまとジルケさまが西と南の女神さまと分からなければ良いのだ。大騒ぎになって収拾が付かなくなるより、断然私の魔力が漏れていることの方が些末事である。フィーネさまとウルスラさまは私から魔力が漏れていることが気になるものの仕方ないと判断してくれた。そろそろ撤収して他の国へ行こうかと考え始めた頃、教皇猊下が遠慮気味に私に尋ねる。

 

 「あ、あのアストライアー侯爵」

 

 「如何されました、猊下」

 

 目の前の彼はほとほと困り果てた顔になっているが、一体どうしたのだろうか。アルバトロス王国の子爵邸完成披露パーティーで場違いそうな顔をしていた時よりも更に酷いものになっている。大丈夫かと私が片眉を上げれば、困り顔になっている理由を話してくれた。

 

 「……さまがステンドグラスを見上げ、似ていないと仰っておられました。今すぐ改善した方が良いのかと……」

 

 彼は西の女神さまと言いたかったのだろうが、周りの方に聞こえては駄目だとかなり抑えた声だった。私の耳にも届かないので、他の誰かに聞かれることはないはずである。これに関してはご本神さまに問うた方が早いと私が教皇猊下に伝えると、マジでと引いた顔になっていた。ステンドグラスに描かれている西の女神さまが本物と乖離しているのはアルバトロス王国の教会で周知済みだ。

 一応、ヴァルトルーデさまはアルバトロス王国教会のステンドグラスはそのままで良いと仰っていたが、聖王国の大聖堂の場合はどうなるのやら。

 

 「お、お願い致します」

 

 教皇猊下が顔を青くしているが、ヴァルトルーデさまが怒るとでも考えているのだろうか。そういえば彼の右手は常に胃の辺りに置かれているような。

 フィーネさまとウルスラさまも教皇猊下が顔を青くしていることに気付いたようで大丈夫かと心配していた。最近、私の周りでは胃に手を当てている方が多い気がするのは気のせいだろうか。良い胃薬か痛み止めがあると良いのだが……見つかるだろうか。今度、ダリア姉さんとアイリス姉さんにエルフ印の薬がないか聞いてみよう。魔人の村にも赴くから、彼らに聞いてみても良いのかもしれない。

 

 私は胃薬か痛み止めを手に入れる決心をしてから、ヴァルトルーデさまとジルケさまの方へと顔を向けた。二柱さまはなんだと不思議そうに私と視線を合わせてくれる。

 率直にステンドグラスの西の女神さまが似ていないことを告げると、教皇猊下が『ぎょえ!』と変な声を上げた。彼にフィーネさまとウルスラさまが落ち着くようにとお願いしているが、気が気ではないらしい。

 

 「複雑。でも仕方ない」

 

 「このままで良いんじゃねえか。姉御の姿を知られたら騒ぎになるだけだし、今のままの方が好都合だろ」

 

 ヴァルトルーデさまは気になるけれど、直せばバレると理解しているためそのままを希望のようである。ジルケさまも特に異論はないようで、ヴァルトルーデさまが西大陸をウロウロする時のことを考えてくれているようだ。確かに修正が入るとヴァルトルーデさまのお姿が分かってしまう。まあ修正する職人さんによっては、明後日の方向へ直される可能性もあるけれど。私は二柱さまの意見を聞いて、教皇猊下に向き直る。

 

 「だそうです」

 

 「で、では、今のままということで……!」

 

 教皇猊下が安堵しているのだが、何故そんな態度なのだろうか。女神さまを信仰しているのだから、お姿の描写を間違えてはならないとなりそうなものである。

 しかし目の前の最高権力者はほっとした様子を見せている。女神さまがふくよかであるということに意味があるのか、それとも何か別の所……もしかして聖王国の財政状況が宜しくなく、ステンドグラスの修正費を捻出できないのだろうか。それであれば納得できるが、フィーネさまとウルスラさまから聖王国はお金に困っているという話は全く聞いていない。

 

 「石は人目につく場所に置いても良いとのことなので、大聖堂の祭壇に設置させて頂こうかと考えておりますが問題ないでしょうか?」

 

 「特に問題はありません。確かに人通りが多いですし、いろいろな方がいらっしゃるので適切な場所かと。警備は大変かもしれませんが……」

 

 教皇猊下が続けて私に問いかける。グイーさまによれば人が多く行き来する場所の方が効果が高いかもしれないとのこと。堕ちた神さまの意識の破片は下手をすれば誰かに憑依して悪さをするかもしれない。そんな時、憑かれた方と石が近くに寄れば反応を示すのだとか。

 

 「聖王国の威信にかけ、石をお預かりいたします」

 

 警備とか、いろいろな心配事はあるけれど、先ずは散ってしまった堕ちた神さまの意識を回収することである。まだまだ配布しなくてはならないし、聖王国に留まり過ぎるのも問題だろうと私は教皇猊下に向き直る。

 

 「では、あとのことは聖王国の皆さまにお任せ致します。大聖女フィーネさま、大聖女ウルスラさま、聖女の皆さまもよろしくお願い致します」

 

 私が教皇猊下に礼を執り、フィーネさまとウルスラさまにも礼を執る。アリサさまにも声を掛けたかったのだが、流石に個人の名を上げるわけにはいけないと纏めて聖女さま方とさせて頂いた。

 真面目な聖職者の方にも伝えたいことがあるけれど、ヤバい聖職者の方が明後日の方向へ物事を解釈しても困るため黙っておく。どうにも黒衣の枢機卿さまなんて方と会ってしまったためか、聖王国に対してイマイチ信頼できないところがあるというか。まあ、今回の件で各国からの監視員が増えている時点で聖王国に信用という文字はないに等しいから仕方ないのかもしれない。

 

 でもやはりフィーネさまとウルスラさまとアリサさまは信用できる方だし、教皇猊下も信頼はしている。

 

 「はい。承りました」

 

 「お任せください! なにかあれば直ぐにお知らせ致します!」

 

 フィーネさまとウルスラさまが私に返事をくれると、聖女さま方も一斉に礼を執った。そうして私は教皇猊下に頭を下げて、大聖堂の正面扉を目指して侯爵家一行と歩いて外へと出る。すると直ぐにエーリヒさまと緑髪くん、もといユルゲンさまが並んで立っている。どうしたのかと視線を向ければ、彼らがゆっくりと礼を執る。

 

 「お疲れさまです」

 

 私たちはお二人の前で立ち止まって少しだけ話すことにした。同郷人のため、聖王国の護衛の方たちは特になにも言わない。ただ彼らは聞き耳を立てているから、仕事関係の話しかできないだろう。

 

 「閣下、ご苦労さまです。本当は一緒に同行したいのですが、聖王国の監視に注力せよと外務卿から命を下されまして」

 

 「ええ。他国の皆さまと協力して、皆さまの動向を注視しております」

 

 エーリヒさまとユルゲンさまも私と同じ考えのようで仕事の話に留めるようだ。お二人は外務卿さまから命を受け、聖王国で馬鹿なことをしない方が出ないか見張っておくようである。ついでに他国の監視員の皆さまとも協力体制を執っているようで、聖王国の信頼度が凄く低いと苦笑いを浮かべたくなる。聖王国の護衛の方たちはお手数を掛けて申し訳ないと言いたげであった。

 

 「そうでしたか。わたくしたちは創星神さまからお預かりした石を他の国の皆さまに届けて参ります」

 

 私がそう告げると聖王国の護衛の方たちが驚いている。西大陸は小国の集まりとなっているから、割と足を向けなければならない場所が多い。聖王国でようやく七割近く回った所だ。

 あとは西大陸の東側方面へ行き、北大陸と東大陸、最後に南大陸へと足を運ぶ。大変だけれど、私に付き合わされているアストライアー侯爵家の面々の方が疲れているだろう。いろんな国を回るということは、それだけ気を張っておかなければならないのだから。

 

 「他の大陸にも渡るのですか?」

 

 「はい。どこへ散ったのか分からないので、念のため広範囲に配り渡ることになりましたから」

 

 エーリヒさまが大変だと言いたげな顔になり、ユルゲンさまも全大陸を回るのかと驚いている。グイーさまに任されてしまったのだから致し方ない。それに堕ちた神さまの影響で誰かが犠牲になるのは避けたいことだ。

 海神さまが既に巻き込まれてしまい、黒い靄と化してしまっていたが彼は今後どうなることやら。とりあえず地上の皆さまのことを考えて、まだまだ方々を回らなければと私はお二人に別れを告げる。

 

 「閣下、お気をつけて」

 

 「ご無理をなさらず」

 

 「ありがとうございます。お二方も健康には注意を払ってくださいね」

 

 立ち話は一分も経っていないけれど、次の国へ向かうため足早に聖王国を去るのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。