魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
一度目の中継地へ転移すると、出迎えのお偉いさま方が数名と彼らの護衛であろう騎士の方々の姿が。第一王子殿下と数度会話をやり取りすると、殿下がこちらに振り振り向いて『こっちへおいで』と言うような視線を感じたので、そちらへと歩いて行く。
「アルバトロス王国聖女、ナイでございます」
聖女の恰好をしているのだけれども、教会から借り受けている衣装よりも数段よい生地――てか、絹だろうねこれ。ハイゼンベルグ公爵家が私が亜人連合の代表となった日に、お針子さんたちに無理を言って用意したものである。
二日しか時間がなかったというのに、プロの人は凄い。そしてそれを用意できる公爵家も。試着の際に公爵さまとソフィーアさまに『早業』と漏らすと苦笑していたので、特急で仕事を頼んだ時があったのだろう。
「初めまして。――」
自己紹介をされるのだけれど、どうしよう覚えられない。後で補佐官の人に聞けばいいか。外交に特化している人なので、相手国の人たちの顔と名前は憶えている筈だし。
こんな子供を……とか小声で言っているけれど、ちゃんと耳に届いているからね。第一王子殿下が青筋立てているけれど、今回は魔術陣を利用させて貰っているので抗議はしないようだ。
もう諦めているから良いけれど、せめて十五歳という年齢を伝えることが出来れば、この間違った認識を正せるというのに。
「ではこのまま転移されるのですね?」
「ええ。事態は急を要します故」
相手国の人と殿下の話し合いで、このまま転移するようだ。では次の経由地へ連絡を、と言って魔術陣がある部屋から出ていく人。
暫く待っていると、その人とおそらくこの国の魔術師の人が現れた。魔術師の人は魔術式の書き換えをするのだろう。私は魔術陣の行き先変更は出来ないので、先に知らせておいてくれたのだろう。本当に根回しが凄いなと感心しながら『終わりました』と魔術師の人の言葉で、殿下が私を見る。
「――"覚醒せよ"」
本当に起動詠唱って適当だよねえと、心の中で過去の魔術師の人たちのセンスを問いながら、体内の魔力を練る。
「なっ! 凄い馬鹿魔力っ!」
魔術師の人が凄く驚いているけれど無視無視。今はさっさと転移する方が先決。
「――"我らを誘え"」
ひゅっとお腹の中身が浮く感覚に目を細めた数瞬後、次の経由地へ。また同じようなやり取りを繰り返して、ようやく大陸西方にある亜人連合と隣接するとある国へと辿り着いた。
「ようこそアルバトロス王国、使節団ご一行。よくぞ参られた」
私たちを迎えてくれたのは、まさかのこの国の王さま。ソフィーアさまがそっと耳打ちして教えてくれた。ようするに粗相はないようにということ。
第一王子殿下が爽やかスマイルを張り付けて、この国の王さまと会話を交わしている。今回の件で小麦を融通することになったようで、王さまは感謝の言葉を述べていた。どうやらこの国は食糧事情があまりよろしくはない様子。アルバトロス王国は穀倉地帯で、余剰分は他国へ輸出している。
こちらの国からすれば美味しい話だったのだろう。亜人連合と国交がある為、渡りをつけてくれたそうだ。
次に転移を行えば、その場所は亜人連合。連絡は入れてあるとはいえ、正直な所ちょっと怖い気持ちがある。
亜人の人たちが迫害されて大陸北西部地域へと逃げ込み、元々住み着いていた竜の亜人の人たちが保護したことが、亜人連合国の成り立ちだ。人間を毛嫌いしていてもしかたないが、話し合いの席へと着いてくれるのだから理性的である。
「此度の一件、我々としても他人事でなく……。ご協力を申し出られた際は驚きましたが、ギルドへと確認を取れば事実とのこと」
情報が流れるのが早い気がするけれど、誰か流しているのだろうか。魔術のお陰で情報伝達については、バグっているので不思議はないけれど。
冒険者を重用している国では今回の銀髪くんのやらかしを随分と問題視しており、アルバトロス王国に同情的。
無断で国を跨いで悪さを働いたので、同様の事をまた起こされれば自分たちで解決するには随分と難しいらしい。ギルドにも厳しい追及をするとのこと。本当に大事になっている。
「さあ、皆さまお疲れでございましょう。お部屋をご用意いたしておりますので、ご案内いたします」
亜人連合国に入る為には、ここから馬車で約一日なので、そんなに距離はないみたい。転移で入国できないようなので、馬車か徒歩の移動のみ。転移魔術が使えるならよかったけれど、相手の事情もあるのだろうから無理は言えないか。
朝に出発して、中継地で挨拶やら根回しも行っていたので、結局夕方だ。気持ちを削がれたような気分になるけれど仕方ない。
「では参りましょう」
その声と共に来賓用の部屋へと案内される。アルバトロス王国の王城ほどの広さはなく、こじんまりとしている城。余りに豪華だと落ち着かないので問題はないけれど、殿下とかは大丈夫なのだろうか。
「はあ……」
案内された部屋の机の上に突っ伏す。私の補佐役のソフィーアさまとジークとリン以外にも護衛が付けられているし、滞在国の侍女も居る。妙なことは言えないし、妙な態度も取れない。うう、はよ帰りたい。
「疲れたの?」
「リン。少しだけ。……もう面倒だから一気に飛んでさっさと話を付けたいけど、事情があるから仕方ない」
私はお飾り。心情面なら殿下や宰相補佐さまたちの方が疲れているだろう。この後は晩餐会もあるから参加しろと言われた。ご飯、美味しいかなと現実逃避しつつ、また見目を整えられて迎賓館へと向かうのだった。
◇
――味、わかんない。
この国における最上級の料理なのだろうけれど、味なんて感じないのだけれど。というよりもカトラリーの使い方とか習っているけど、付け焼刃だからちゃんと出来ているのか謎。
私が恥を掻くだけなら問題はないけれど、他の人の評判にも繋がるからなあ。晩餐会の前にソフィーアさまに泣きついて、カトラリーの使い方とか気を付けることを聞いたけれど、出来ているのやら。
学院でならば『品格がない』と笑われていたであろうから、ある意味で気楽だった。
今この場では、みんな笑顔を張り付けて食事に勤しんでいる。私を責める人や窘める人が居ないので、逆に居辛いというか。
「――聖女さまはドラゴンの浄化儀式を行ったと聞き及んでいますが、真実でしょうか?」
唐突にこの国のお偉いさんであろう人が疑問を投げかけてくる。私が答えるべきなのかと第一王子殿下を見ると、小さく頷いたので任せろということだろう。じゃあ任せようと微笑みだけを浮かべておく。
「ええ。我が国の騎士や軍人からの報告により事実です。疑うのであれば現場に居合わせた者がこの場にも居ります。――確認をしてみては?」
「ああ、いえ疑う訳では……。ただ信じられぬのです。ドラゴンの浄化を行える者が居るのかと」
「我が国では魔力量に恵まれている者が多いですから。この場に居る方は聖女の中でも特出している。何ら不思議ではありませんよ」
ははは、ウチの国の聖女を馬鹿にするな。ふふふ、どうにかして利用してやる。そんな火花が散っている気がする。
「いやはや、これは失礼を。――では治癒魔術の効果も素晴らしいものなのでしょうなあ」
「そこまでにしておけ。殿下、我が国の者が失礼した」
陛下によってお偉いさんが止められた。これ以上喰い付く気はないようで、お偉いさんはスッと引いたのだった。彼も大変だ。お貴族さま全ての意思を統一なんて出来ないもの。こうして飛び込む人が居れば、止めるのがやっとなのだろう。
「お気になさらず。手順さえ踏んで頂けるのであれば、我が国の聖女を治癒師として派遣することも可能ですので」
そうそう浄化儀式なんてあってたまるか、というのが本音。また全裸にならなきゃいけないし。治癒依頼ならば私でなくとも、もっと腕がある聖女さまがいらっしゃる。巻き込まれそうになくて良かったと、小さくナイフで切ったお肉をフォークに刺して口へと運ぶ。
やっぱり味が分からないと愚痴を心の中で零し、晩餐会をどうにか乗り切るのだった。
で、次の日の朝。
用意してもらった馬車に乗り込む。ちなみにメンバーは第一王子殿下に宰相補佐さまとソフィーアさまに私。取りあえずは向こうについてからの予定を聞かされて、残りは時間が許す限り私のお勉強タイムだとソフィーアさまが言っていた。
「なにか分からない所はあるかい?」
第一王子殿下が私に問いかけるのだけれど、何も思い浮かばない。――あ。
「竜の卵は結局誰の手に渡るのかな、と」
王国では私以外に卵を持てる人居ないし、面倒ごとは御免だとなるべく話題に出さないようにしてたようだし。亜人連合国の誰かが触れると良いのだけれど。竜の亜人が代表だと聞いたので、竜の亜人ならば触れる可能性が高そう。
「向こうの出方次第だね。返せといわれれば勿論返さなければならないよ」
「――置いていったら怒られますかね……」
こう滞在していた部屋にこっそりと。ホテルをチェックアウトする際にゴミを置いていくような感覚で。
「それは、止めておいた方が良いと思うよ。卵を無下に扱ったと言われかねない」
「ぬぅ」
私の様子を見て殿下たちは苦笑い。今、卵は私が持っている。
流石に肌身離さず持っておくのは無理なので、私に与えられた部屋で鎮座していた。触らなければ問題はなく、ベッドサイドにあるチェストの上に飾っていたのだ。
雑に扱っていたので、侍女さんたちが顔面蒼白になって色んなものを用意してくれ。小さい座布団のようなものを譲り受け、落ちないように落下防止の木枠とかも用意してくれたので、気持ちを無下にできず。自然に生きる生き物に対して、過保護な扱いだよなあと心の中でぶーたれつつ、二日近く過ごし。
今も今で、ボロボロの麻の巾着袋から絹にグレードアップである。しかも中には綿が仕込まれていて随分と過保護。
「大きくなっていないか?」
「……」
「このように近くで見るのは初めてだから判断が付かないが……」
話題にしたので、超贅沢な巾着袋の中から卵を取り出していた。ソフィーアさまの言った通り、鶏の卵程度の大きさから一回り大きくなっているような。ソフィーアさまと宰相補佐さまに殿下が、私の手のひらの上にある卵に顔を寄せる。
「……」
「割るなよ」
「……」
「捨てるなよ」
「……」
「……投げるんじゃないぞ。ソレは今回の事態説明の為に必要なものだからな」
ソフィーアさまに私の思考を読まれてる。ちくせう。
「拾ったことを黙っておけば……」
「露見した時にアルバトロス王国の立場が悪くなるねえ。聖女さまの気持ちは理解できるけど我慢してくれ、国の命運が掛かっているからね――ん?」
今度は第一王子殿下。笑っているというか、苦笑いに近い顔をしてる。分かっているけど、そう思わずにはやっていけないのである。
「なんだ、これはっ! 殿下っ! お下がりください!! ナイもだ!」
ソフィーアさまと宰相補佐さまが立ち上がり、殿下の前に立つけれど狭い馬車の中では逃げ場がない。というより外の護衛は何しているのだろうか。上を向いているソフィーアさまと宰相補佐さまと同じように視線を上げ、兎にも角にも殿下を守らねば。
「――っ!?」
詠唱を唱えようとした、その時だった。