魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
大統領閣下は共和国政府高官の皆さまに石を配布する手順を考えている。その間というわけではないが、私たちアストライアー侯爵家一行はアルバトロス王国に治癒魔術の研修生として訪れていた方たちと顔を合わせている。
真っ先にプリエールさんに声を掛けたい気持ちがあるけれど、他の方に示しが付かないので最初は全員に声を掛けることになる。個人的なことで元研修生に会いたいのに、何故か東の女神であるエーリカさまは私の隣に立ったまま微笑みを浮かべていた。なにか面白いことがあるとでも考えていそうだが、おそらくないし、世間話と悩み相談を持ち掛けるだけなので楽しめるかは微妙な所である。
「卒業生の皆さま、お久しぶりです」
「アストライアー侯爵閣下、お久しぶりです!」
元研修生を前にして私は小さく礼を執る。プリエールさんが卒業生代表のようで、彼女が真っ先に返事をして深い礼を執れば他の皆さまも頭を下げている。悩み相談であれば副団長さまやアリアさまとロザリンデさまの方が適任だから、彼らに任せたい気持ちがある。
アルバトロス王国に留まっている皆さまを共和国に連れてくるわけにはいかないから私で勘弁して欲しい。研修生の皆さまの健康状態は良さそうなので、困っていることはあるだろうか。とはいえ彼女たちには仕事があるというのに、私が呼び出す形となってしまった。これを先に謝らないとと私は口を開く。
「お呼び出しをして申し訳ありませんでした。ただ研修生の皆さまが全員揃い、こうしてお会いできたことは感謝しかありません。本日、皆さまに集まって頂いた理由は共和国で実地に入り、なにか悩んでいることや、困っていることがないかと気になりましたので大統領閣下に無理をお願いする形となりました」
私が大統領閣下に申し出て聞き届けてくれたまでは良かったけれど、卒業生の皆さまが全員場に集まっているとは。私が黒髪黒目だから、共和国の方々的に仕事を放り出しても会いたいという気持ちがあるのかもしれない。
とはいえ全員から困りごとや悩み事を直接聞ける機会は少ないし、今回に限っては私が黒髪黒目であることは利点なのだろう。私の言葉に卒業生たちはありがとうございますと口々に感謝を述べているが、さてはてどんなことが彼女たちの口から飛んでくるのか。
「なにか困っていることや、悩んでいることはありませんか?」
私はとりあえず挙手できるかたはいるかなと声を上げる。質問が出切ったならば、次は個々に問うつもりである。言い出せない方もいるだろうし、周りの方たちに聞かれたくない内容もあるだろう。
「不躾なことで申し訳ありません。アルバトロス王国にいた時より、治癒を施せる回数が減っている気がします。体調に問題はないのに何故でしょうか?」
青髪の女性が挙手をして私が頷くと質問をくれた。彼女はプリエールさんと仲が良く、アルバトロス王国の教会で一緒にいる姿を良く見ていた。確か弟さんたちも魔力測定を受けたが、魔術を使える量に達しておらず彼女のみアルバトロス王国へと渡ったと言っていたような気がする。現在もプリエールさんと繋がりがあるようで、隣になって質問を私に投げてくれている。即、疑問を挙げてくれたのは有難いことだと私は彼女に感謝をした。これで次に質問したい方も言い易くなるだろう。
「すみません、一日で何度ほど減っておられますか?」
「初級の魔術であれば十回、アルバトロス王国では発動できておりましたが、二回ほど減っております……二度も術を発動させることができれば、その分、訪れた方に多く施術ができますが……」
青髪の女性が肩を落とす。訪れた患者さんを帰してしまわなければならないことに罪悪感が湧くようだ。確かに二回分減っているならば、二人は救えた可能性がある。
魔力切れを起こして発動できなくなってしまっているため、仕方のないことではある。ただこれはアルバトロス王国の魔素量が多く、一時的に滞在により彼女たちの魔力量が上がっていたのかもしれない。他の方にも同様の症状が出ているようなので、こればかりは土地柄の問題なのだろう。東大陸は魔素が薄い上に、魔術に対しての知識も少ない。
「おそらくですが、西大陸と東大陸では魔素の濃度が違います。身体に吸収される魔素の量が少なくなってしまい、体内に有している魔力が減り易くなっているのかもしれないですね……」
私は疑問に答えたあと、なにか解決策はないだろうかと考える。魔素が多く含まれている西大陸産の食事を摂ればマシになるだろうか。しかし西から東大陸へ輸入となれば食べ物は日持ちするものと限られるし、馴染みのない食べ物なんて食べたくないだろう。小麦が妥当かなとふと考えが浮かび、近くに待機していた政府高官の方へと私が視線を向けるとシャキッと背筋を伸ばす。とはいえ彼にはまだ用事がないので申し訳ないと視線を元の位置に戻した。
「実験になってしまいますが、アルバトロス王国産の食べ物で魔素の回復を図ってみませんか? どれほどの効果があるのかも分かりませんし、施術できる回数が増えるとも限りませんが」
一応、西と東大陸の食べ物には魔素が含まれているが含有量が違うことを皆さまに伝える。しかしながら卒業生の皆さまはどうやってアルバトロス産の食べ物を手に入れるのかと悩んでいるようだ。
個人であれば入手することに凄くお金と時間が掛かるだろう。ただ研修生制度は国家間レベルのやり取りだから、アルバトロス王国へ問い合わせれば問題を解決しようと図ってくれるはず。
私も話を聞いたのだから、個人的に手を回すことも可能だ。だがどうしても共和国では黒髪黒目のお方と捉えられてしまうので、共和国を通した方が無難である。だから政府高官の方に先程視線を向けてしまったわけである。身構えさせてしまったことは申し訳ないことであるが、共和国政府は卒業生たちに手を伸ばしてくれると良いのだが。
「食料については共和国政府の方にお任せすれば良いかと。あとアルバトロス王国と教会にも相談を持ち掛けて頂ければ動いてくれるはずです」
今まで黙っていたのは、遠慮をしていたためだろうか。でもまあ施術できる回数が減ったとは言い出し辛いのかもしれない。東大陸よりも西大陸の方が魔力量が豊富な方が確実に多い。土地柄だと諦めていたのなら、私が彼女たちと面会した価値はあるはずだ。私はもう一度共和国政府高官の方へと視線を向ければ、彼はまたびしっと背を伸ばした。
「申し訳ありません、今の事実を共和国政府の皆さまに周知できますでしょうか? できればアルバトロス王国に食材の融通を図って欲しいと申し出て欲しいのですが」
言葉にするのは簡単だけれど、なにを輸入するのか輸送代や輸送方法はどうするのかと協議しなければならない。それに卒業生たちが輸入代を負担するには無理があるはずだ。できれば国家間か共和国とアストライアー侯爵家でやり取りできると良いのだが。無理だと判断されれば諦めるしかないのだろう。私が卒業生たちに肩入れしても良いのだが、あとから大問題となっても困る。
「承知致しました! 大統領閣下以下、関係各所の者にお知らせいたします!!」
威勢の良い男性の声に安堵するものの、果たして上手くいくのか分からない。取引が開始されたのであれば共和国にとって研修生は価値ある存在と認められているし、開始されないのであれば研修生たちは共和国にとってそこまでの価値はないと言われているようなもの。
難しいなあと私は片眉を上げて、卒業生の皆さまに他に質問はないかと促してみる。するとまた別の方が手を挙げていたので、私は彼女に視線を向けてどうぞと促す。
「あ、あの! アルバトロス王国の教会で教わった治癒魔術に慣れてきました。より高度な術を教えて頂けないでしょうか?」
確かに卒業生はアルバトロス王国から共和国へと戻って半年の時間が経っている。自国で治癒を続けていれば慣れてくることもあるのだろう。怪我を主にして診ているのであれば、場数を随分と踏んだに違いない。
彼女の要望は当然のことであるし、共和国にいる魔力持ちの方にも治癒魔術を教える機会も出てくるはずだ。他の面々も望んでいるようだから、要望として挙げても良さそうである。
私が困っていることはないかと聞き出しているのに、アルバトロス上層部と教会に丸投げしているのは如何なものかと苦笑いを浮かべそうになるけれど。とはいえ私には誰かに教えるほどの才能はなく、前世の知識が頼みの綱なのだ。共和国やアルバトロス王国に住む方にはまだ少し私の考えを伝えるには、魔術に頼らない医療技術を発展させて貰わないと。
「承知致しました。こちらもアルバトロス王国と教会に掛け合ってみますね」
共和国政府にもお願いを出しておきますと言いたかったのだが、ぐっと堪える。私は黒髪黒目だから彼らに伝えると、要望を叶えようとして無茶をしそうなのだ。とりあえず共和国高官の方が聞き届けているはずなので、大統領閣下や周辺の方たちに卒業生の要望は耳に入るはず。新たな治癒魔術を習いたいという希望も叶うと良いのだが。
「そういえば、治癒活動は捗っておられますか?」
今度は私が共和国の卒業生に疑問を投げる。私の言葉に考え込む方もいれば、心配しないで欲しいと自信満々の顔を浮かべている方に不安そうになる方もいて個人が抱える事情はいろいろとあるようだ。プリエールさんは活動が上手くいっているのか振り返っているようで悩んでいる雰囲気を見せている。真面目な彼女のことだから、治せなかった方に対して過剰な気持ちを抱えていなければ良いのだが。
「上手くいくこともあれば、失敗して落ち込んでしまうことがあります。薬師として活動を始めた方もまだ手探りの状態ですから。あ、でも評判は凄く良いと話を聞いております。怪我や病気によりますが、既存の薬より効くと首都の皆さまの噂になっているんです。あと治癒活動を始めたことも噂となって、治癒院には多くの患者さんが訪れていますから」
プリエールさんが代表して答えてくれた。まあすぐさま結果を出せることではないし、いろいろと悩みながら進むしかないのだろう。でも、共和国も科学的医療技術が発展していないので、魔術での治癒活動は一定の成果を齎しているようだ。薬師の方もいろいろと共和国で同じ効能が得られる植物がないかと探しているとのこと。
「患者さんに治療を施して、治癒代を頂かないままとかありませんか?」
私はもう一度疑問を投げる。治癒院の運営資金としてお金は大事である。ある程度共和国政府から援助を取り付けているだろうけれど、共和国の皆さまにとって魔術という未知のものを受け入れるのは難しいはず。魔力を練って詠唱しているだけに見えるから、お金を払うのは嫌だと言ってしまう方もいるだろうと正直に聞いてみた。
「大丈夫です! 先に料金を頂いて、あとから差額をお返しすることにしておりますから。とはいえ払えない方もいるので、物品で対応もしております。アストライアー侯爵閣下のお話を聞いて、お金で支払わなくても良いかとみんなで答えを出しました」
どうやら先払い方式を採用しているようである。それならばお金の徴収を心配する必要はない。あとは治癒院側が不正を働かなければ済む話だ。ある意味、先払いは最善の手かもしれないと私は卒業生の皆さまの顔を見渡せば、お金は大事という顔を皆さま浮かべている。
とりあえず質問がないようなので、あとは個人の聞き取りとなる。先程、卒業生から頂いた質問と同じような悩みを抱えているようだ。才能がないのかもしれないと悩んでいる方もいるのだが、初級の治癒魔術は使えているのだから自信を持って欲しい。
もしかすれば他の魔術に才能があったのかもしれないが、共和国では治癒魔術以外の魔術は使用禁止という処置を取ったため別の魔術を習える環境ではなくなってしまった。ただ習う気があるのであれば、またアルバトロス王国教会に赴くのも手ではなかろうか。課題はまだまだ山積みだと苦笑いを浮かべていればプリエールさんとの番となるのだった。
◇
プリエールさんと個人的に話す場となった。
クロはプリエールさんと一緒にきていた鸚鵡さん二羽と話すと言い残して、側にあった止まり木に移動して雄の鸚鵡と雌の鸚鵡の間にちょこんと入って話し込んでいるようだ。
某お方が珍しい光景に特徴的な御髪をぶわっと広げているようで、某公爵令嬢さまが落ち着けと声を上げていた。私は貴重な時間を無駄にしてはならないとプリエールさんと視線を合わせてから口を開く。私が頭を下げればプリエールさんの方が格が上と勘違いする方も出そうなので、あくまでフランクに。私の方が上の存在であると振舞わなければ。慣れないような、慣れてきたような……良く分からない感覚に苦笑いが出そうになる。
「再度になりますが、プリエールさん、お久しぶりです」
「お久しぶりです、侯爵閣下!」
私は笑みを浮かべられているのか分からないが、プリエールさんは天真爛漫という言葉がとても似あう笑顔を浮かべている。元気そうで良かったと安堵するものの、共和国での治癒活動は順調なのだろうか。
「研修を終えて半年以上の時間を経ておりますが、プリエールさんになにか問題は起こっておりますか?」
「特に問題はありません! ソルくんたちのご飯もずっとご用意してくださっていますし、本当にアストライアー侯爵閣下には感謝の言葉を述べるしかないのです」
私の疑問にプリエールさんは答えてくれるものの、真面目な彼女のことだから心配させまいと出たものではないかと疑ってしまう。うーんと私はどうしたものかと悩みつつ次の言葉を投げた。
「治癒院での活動は順調のようですし、貧裕会の方たちも精力的に動いてくださっているようですね」
「はい! 治癒院の場を利用して、勉強をしたい子供たちに文字の読み書きや簡単な計算を教えてくださっていますから。教わった子たちの将来が広がれば嬉しいです」
治癒院では勉強をしたいけれど学校に通えない方や通えなかった方に文字の読み書きと簡単な計算を教える講座を開いているそうだ。字を書けないため選挙の投票に行けなかった大人が、次からは参加できると喜んでいるとか。
もしかして富める方と貧しい方たちを分断していた理由は選挙で勝つために、昔の方がなにか一手間掛けて状況を作り上げたのだろうかと勘繰ってしまう。まさかと私は頭を振って気になっていたことを聞いてみる。
「プリエールさんは治癒活動に重きを置いているのですか?」
彼女なら治癒活動をしつつ勉強の方も誰かに教えていそうだ。無理をしなければ良いのだが大丈夫か心配になる。私の背後でジークとリンが『人の心配より自身の心配をしろ』『ナイも無茶をしている』と言いたげな雰囲気を醸し出している。
確かに無茶をしていることは多々あるけれど、周りの皆さまが気遣ってくれるので私は問題ない。プリエールさんの場合、周りに彼女の無茶を止めてくれる方はいるのかと単に心配になっただけ。
「はい。治癒師と名乗っているので、勉強の方は貧裕会の皆さま方に任せております」
私が本当かどうか疑わしいなと目を細めると、プリエールさんは気まずそうな顔になっていた。もしかして仕事が終わったあとで勉強会の方に参加しているのではなかろうか。
でもまあ彼女らしいのか。そういうことであるならば魔力の回復が早くなるかもしれないアルバトロス王国産の食べ物をたくさん食べて貰えば体調の維持がし易いかもしれない。プリエールさんから困りごとを聞き出すのは困難そうなので、違う方から聞く方が早そうだと私は苦笑いになる。そんな私に東の女神であるエーリカさまが私の服の袖を軽く引っ張った。
「どうされましたか?」
私が隣に立っているエーリカさまを見上げると不思議そうな顔になっていた。そうしてエーリカさまは私を見下ろしながら言葉を紡ぐ。
「お嬢ちゃん、この人たちは貴女とどのような関係なのかしら?」
エーリカさまの言葉に卒業生たちは『侯爵閣下にそのような言葉を!』と驚き、私の背後でヴァルトルーデさまは『そんなことも知らないのか』とドヤっている雰囲気を醸し出している。
ジルケさまは『聞いちまったのか』とはあと小さく溜息を吐き、ナターリエさまは『わたくしも気になります』と言いたげだった。私の隣に立っていたエーリカさまのことを卒業生たちは側仕えと認識していたのだろう。彼女たち卒業生が驚くのは仕方ないと私はエーリカさまの顔を見上げる。
「そういえば、プリエールさんたち研修生のことをご紹介していませんでしたね」
私の言葉にエーリカさまがこてんと首を傾げている。研修生がアルバトロス王国にやってきた経緯を説明すれば、エーリカさまはなるほどと納得していた。
「アストライアー侯爵閣下、失礼ですがお隣の方は……?」
プリエールさんが凄く聞き辛そうな顔をしながら私に問いかけてきた。大統領閣下方と顔を合わせた時は紹介した時にプリエールさんたちは離れていた場で待機していたので、エーリカさまを東の女神さまと知らなくて当然だ。
「東の女神さまです」
「お嬢ちゃんと仲が良いのねえ。ちなみに後ろにいる背の高い二人とお嬢ちゃんと同じ背丈の黒髪黒目の子たちは西と北と南大陸を司っている女神ですわ」
私が東の女神さまを紹介すると卒業生たちは頭を下げようとするのだが、エーリカさまが先に口を開いて彼女たちの行動を阻止した。ついでに爆弾を投下していた。余計なことを伝えて卒業生たちの緊張を増すことをしなければ良いのにと思ってしまうのは無粋だろうか。
まあ、大統領閣下たちが知らないままでいた三女神さまについて、あとで知ったならば共和国上層部は凄く驚くであろう。暴露された三女神さまの中から、ジルケさまが溜息を吐き頭の後ろを掻きながら私の隣に並ぶ。東と南の女神さまに私はサンドイッチされていることになるのだが、場所を変えても良いだろうか。でも動けないと、私はジルケさまの方へと視線を移す。
「あのなあ……言わなくて良いことを言っちまうのは東と北の姉御の悪い癖だぞ」
「あら、おちびちゃん。良いじゃない。面白そうだもの」
呆れ声のジルケさまはエーリカさまが東大陸で自身が女神と名乗るのは自由だけれど、ジルケさまたちまで巻き込むなと言いたいらしい。エーリカさまは末妹さまが今後置かれる境遇の心配よりも、面白ければそれで良いというスタンスである。
卒業生は黒髪黒目のお方が側にきてくれたと、喜んでいるか驚いているかのどちらかだ。側に控えていた共和国政府高官の方は『ひえっ!』と声を漏らしている。
「貴女方が困ったのならば、お嬢ちゃんを遠慮なく頼りなさいな。きっとなにかしら動いてくれるわ」
エーリカさまはジルケさまから視線を外して卒業生たちに声を掛けた。エーリカさまに丸投げされているような感じだが、東の女神さまの言葉を頼って私に困りごとが届きやすくなるなら僥倖か。
私が彼女たちの悩みを聞き出せるか、頭の中で問答していたことはエーリカさまにバレバレだったのかもしれない。一瞬、エーリカさまはなにを言っているのだと抗議したくなったが、東の女神さまからの言葉であればプリエールさんたちは聞き届けてくれるかもしれない。
「は、はい! 承知致しました!!」
プリエールさんが驚いている研修生たちの中で一番先に状況を理解し慌てて言葉を発していた。私もエーリカさまの言葉に信用性を追加しようと口を開く。
「連絡は共和国政府を経由することになるので少し時間が掛かりますが、相談に乗ることはできますので」
よろしくお願いします、と最後に付け足した。あまりプリエールさんだけと長々話し込めば問題が起こりそうだと話を切り上げる。クロに『戻ろう』と視線を向けると、私に気付いたクロが止まり木から脚を踏ん張って翼を広げ肩の上に乗った。そして私の視界の端に映っている方が気になったので、卒業生たちに問いかけた。
「泣き崩れていらっしゃいますが、大丈夫でしょうか」
卒業生たちからまた離れた位置にいる方たちが目元にハンカチを当てて泣いている方や堂々と大泣きしている方がいる。お一方は目が見えない男性のようで、介助者が就いていた。
「お、おそらく黒髪黒目のお方と視線が合い、侯爵閣下が私たちに礼を執ったことで感極まってしまったのかと……申し訳ありません、共和国から出たことがない方だとそうなってしまうのは仕方のないことかと」
プリエールさんがまた私の問いに答えてくれる。どうやら彼らが貧裕会のメンバーなのだとか。会場入りできたのは大統領閣下の計らいであるとのこと。大丈夫なのか気にはなるものの、プリエールさんたちが苦笑いを浮かべているので突っ込むのは止めておこう。
貧裕会の方々の涙は止まりそうもないので、そそくさと撤退した方が良さげである。私はプリエールさんたち卒業生に別れを告げると、東の女神であるエーリカさまも『気が向けば、また会うことになるでしょう』と言って私と一緒に大統領閣下の下へと戻る。
「エーリカさま」
「どうしたの、お嬢ちゃん?」
歩きながら私がエーリカさまに声を掛けると不思議そうな顔を浮かべて視線を合わせてくれた。
「先程はありがとうございました」
「あら、なんのことかしら」
私のお礼にエーリカさまはとぼけているけれど、きっと私の言葉の意図は理解してくれているはず。とぼけられたならば良いかと前を向き、大統領閣下たちに別れの挨拶をして、私たちはアルバトロス王国に一度戻るのだった。
◇
――大きな、大きなドラゴンが三頭、青空を飛んでいます。
アストライアー侯爵閣下を乗せて空を飛んでいるドラゴンは豆粒のような大きさになってしまいました。久しぶりにお会いして変わらないお姿に安堵してしまったのは、黒髪黒目のお方を信仰している東大陸の者であれば当然のことでしょう。
アストライアー侯爵閣下に心の内を明かしてしまえば引いてしまうかもしれませんが、根付いた信仰を払拭するのは凄く難しいことであると、研修生の誰もが感じているはず。
その証拠に会場にいた貧裕会の皆さまは、黒髪黒目であるアストライアー侯爵閣下と南の女神さまのお姿を見てとめどなく涙を流しておられたのですから。侯爵閣下が心配していたと伝えれば、嬉しさが溢れ出してまた涙が止まらなくなるのではないでしょうか。
私の隣に立っている青髪の友人がふうと長い息を吐いています。アストライアー侯爵閣下が共和国を去り、緊張から解き放たれ一心地ついたのでしょう。
「相変わらず侯爵閣下は雰囲気が凄いけれど優しい方だよね。あたしたちの心配なんて本当ならしないはずだよ」
「そうですね。話す機会の場を設けてくださったことは閣下の優しさなのかなあと」
青髪の友人が苦笑いを浮かべながら私に聞き答えます。彼女のいうとおり侯爵閣下が私たち卒業生を気にする必要はないのですが、こうして連絡を取ってくださるのは本当に有難いことです。
報告書では記せなかった悩み事を侯爵閣下に相談することができましたし、解決の道も示してくださいました。本当に恐れ多いことですが、私たちが閣下にできるお礼は共和国で困っている方を助けることで恩を返しましょう。きっと閣下もその方が喜んでくれるはずですから。
「でも、東の女神さまと他の三女神さままでご一緒しているなんて……東の女神さまが一緒かもしれないっていうのは分かっていたけれど、他の女神さまもご一緒だとは。創星神さまのお下知ではなにも言っていなかったよね?」
青髪の友人が頭を掻くのを止め、また深い溜息を吐きます。確かに東の女神さまがご一緒にこられるかもしれないと共和国上層部は慌てておられましたが、他の女神さままでご一緒だとは全く考えていませんでした。
「はい。ですがアストライアー侯爵閣下ですので、どんなことが起こっても不思議ではないかと」
でも私はアストライアー侯爵閣下であれば、四女神さまが揃うこともあるのだろうと納得できてしまいます。私の言葉に青髪の友人は『それはそうかも』と納得をして、ぱっと顔を緩くさせました。
「確かに。さて、明日からまたお仕事だよ、プリエールさん!」
「ですね。頑張りましょう!」
青髪の友人の言葉に答え会場を出ようとすれば、大統領閣下や高官の方たちが集まっている場がざわりと声が上がっています。
「は? 他の大陸の女神さまもこられていただとーーー!?」
大統領閣下の大音声がグラウンドに響き、とんでもないことをわたしたちは悟りました。もしかして侯爵閣下は東の女神さましか大統領閣下たちに伝えていなかったのか、と。