魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
流石に詰め込み過ぎているから休憩を取ろうとアルバトロス王国に戻って一日お休みを貰い、今日は北大陸のミズガルズの帝都にきている。外は凄く寒いので帝都の中に入らせて頂き、引き渡し式を行うようになっている。
アガレスの帝都も広いし賑わっているのだが、ミズガルズの帝都も広くていろいろな商業施設が並んでいた。今回、竜の皆さまには外で待って貰っている。寒さは感じないので問題ないと聞いているものの、長く待たせると身体に雪を乗せてしまうだろう。
なるべく早く済ませて帰ろうと決め、帝室へと向かっている最中だ。馬車を引く馬もアルバトロスの馬より体毛は長く、脂肪が多いのかずんぐりしていた。脚も太ければ顔も大きい。雪国ならではの光景だろうし、私たちも防寒のために厚着になっている。
ガタゴトと揺れる豪華な馬車の中で、私と一緒に乗っている方たちが声を上げる。
「凄く、変な感じ」
「寒いから仕方ねえぞ、姉御」
ヴァルトルーデさまは厚着をしていることに違和感を受けるようで、片眉を上げながらジルケさまが我慢しろと告げていた。確かに着ぶくれ状態だから動きが制限されているし、なんとなく服の重みで身体がだるいように感じている。ファーのついたフードも背中に違和感を受ける原因だろう。とはいえ着こなして様になっているのだから女神さまである。
「ですわねえ。いつもの格好で出歩けば変な者として周りから見られてしまいますわ」
「暑さ、寒さを感じることはできますが、わたくしたちは死ぬことはないですから」
ナターリエさまとエーリカさまもここぞとばかりに長姉さまのボヤキに突っ込んでいた。なんだか最初に聞いていた姉神さまは少々恐ろしいという話は一体何処に行ってしまったのだろう。
普通に仲の良い四姉妹だし、ご両親とも関係は良好である。神話の神さまの家族は、昼ドラのようにドロドロとした関係が多かった記憶がある。グイー家は平和でなによりと私はヴァルトルーデさまとナターリエさまの間にちょこんと座り、四姉妹の話に耳を傾けている。対面にはジルケさまとエーリカさまが座し、後続の馬車にはソフィーアさまとセレスティアさまが乗っていた。外にはジークとリンと侯爵家の護衛の皆さまが歩いている。
帝都の中ではあるが、普段の格好ではなく外套を纏って防寒している。服の色が黒のため、ジークとリンの赤髪に映えていた。車窓から離れている位置に私は座しているので外を見ることはできないけれど、問題なく警護に務めてくれているはず。ミズガルズの帝都に住まう皆さまは、私たちを帝室関係者と認識しているのか馬車が横切ると頭を下げている。グイーさまのお下知によって来訪した者だとは感じていないようだ。
情報統制されているのだなあと感心していると、帝都の外門から二時間ほど掛けてようやく帝宮へと辿り着く。そういえばミズガルズに赴くのは久しぶりになるなと、私が停まった馬車から先に降りてリンのエスコートを受けてから女神さま方のエスコートを担う。
「おおっ!」
私が女神さま方のエスコートをしていると、待ってくれていた帝室関係者から声が上がった。おそらく北の女神さまがきていると理解しているのだろう。
そして私が他の女性陣をエスコートしていたことにより、彼女たちも女神さまであると分かったのかもしれない。騒ぎにならなければ良いなと頭に過るのだが、今回の各大陸巡りで大変なことになってはいないので大丈夫だと信じよう。
馬車から降りればソフィーアさまとセレスティアさま、ジークとリンと侯爵家の護衛の皆さまが集合する。それを見計らっていたのかミズガルズ皇帝陛下が帝室関係者と沢山の護衛を連れて私たちの前に立つ。
「ア、アストライアー侯爵閣下、ようこそ、ミズガルズへ!」
「お出迎え感謝致します」
白い髭を立派に蓄えているミズガルズ帝は小さく頭を下げているので、私は更に深い角度で頭を下げる。これでミズガルズ帝より私の立場が下だと周りの皆さまに周知できたはずである。頭を深く下げるのは女神さまだけにしてくださいなと祈りつつ顔を上げ、私はミズガルズ帝の次の言葉を待った。
「しかし我々が外まで迎えに行かずに良かったのでしょうか……」
凄く参っていますよと言いたげな顔にミズガルズ帝はなっていた。今回は私たちの都合で帝室で引き渡し式を行いたいと打診して、帝室関係者の外門への出迎えは必要ないと伝えていた。
「帝都の外で引き渡し式を行うには寒さが身に染みるので、我が儘を申しましたが帝室で行う方が良い式になるだろうと判断させて頂きました。迎えを固辞させて頂いたのは、帝都の皆さまをお騒がせするわけにはいきませんから」
アルバトロス王国という温暖な地域から移動してきた者としてはミズガルズの寒さは身に染みる。おそらく厚着をしていても三十分もしない内に身体が冷えてしまうはず。
そんな単純な理由から帝室で式を執り行いたいと願ったわけである。おそらくミズガルズ帝室は西と東大陸での状況をある程度知っているため、出てきた言葉なのだろうと私は皇帝陛下と視線を合わせて笑みを浮かべる。
「なるほど。そのような意図があったのですね」
陛下がびくりと肩を動かしたような感じを受けるが、さっくりと引き渡し式を行おう。ミズガルズと魔人の村とフソウにグイーさまの石を渡せば南大陸へと赴かなければならない。南では黒髪黒目は恐れられているしジルケさまも恐れられているから、少々手間が掛かりそうなのだ。
「アストライアー侯爵閣下、お久しぶりです」
若い男性に声を掛けられて一瞬誰だとなるのだが、ミズガルズ帝と入れ替わりで立ったお方は皇太子殿下である。アルバトロス王国の謁見室でご尊顔を見ていたし帝室でも拝見していたが関わりが薄いので記憶の奥深くにしまい込まれてしまったようだ。
思い出した私の頭は良い仕事をしてくれたと褒めつつ、口から勝手に言葉が出てきて『お久しぶりです、皇太子殿下』と礼を執っていた。慣れてしまうと勝手に口と身体が動くのだなと感心していると、次は皇女殿下が入れ替わる。
「アストライアー侯爵閣下、陞爵おめでとうございます。本来であればご挨拶に向かうべきですが、何分大陸を渡るには随分と手法が限られておりますので」
ベルナルディダ第一皇女殿下は二年前より色気が増えているような。年を重ねて少女とういより女性という雰囲気が強くなっていた。羨ましいと歯をギシギシしたくなるのを我慢して私は口を開く。
「いえ。殿下から丁寧な祝いのお手紙と祝いの品を頂いております。あまりお気になさらないでください」
皇女殿下とは手紙で連絡を取っていたし陞爵祝いを頂いている。移動手段が乏しいし、アルバトロス王国に向かうとなればそれなりの時間を掛けなければならない。飛竜便を向かわせることもできるけれど、お願いはされなかったので申し出なかったのだ。
高い爵位を賜り交友関係維持のために私は夜会を開くこともある。前回私が主催した子爵領領主邸完成披露パーティーにはお誘いの手紙を送らなかったし、次に行う夜会では皇女殿下を誘っても良いだろう。ついでに飛竜便は如何ですかと打診するのもアリか。少し値段が張ってしまうが、相手は大国の頂点に立つお方たちである。払えないことはないはずだ。
「皇帝陛下、皆さま、こちらのお方が北の女神さまです」
私がナターリエさまの方を向きミズガルズ帝の皆さまに紹介すると、北の女神さまは私の後ろに立ちふふふと笑う。そうしてナターリエさまは私の肩に手を置いて、少しだけ屈んだようだ。なんとなく彼女の顔の位置が私に近い。
「お父さま……創星神の下知を見た者であればお嬢ちゃんが使者というのは理解していて?」
「も、もも、もちろんでございます」
ナターリエさまの言葉にミズガルズ皇帝陛下がつっかえながら答えた。ナターリエさまはなにを言いたいんだと身構えていると、私の頬に片手を添えて親指の腹で撫でる。
「粗相があればどうなるか、分かっていらっしゃるわよね?」
北の女神さまの声が私の頭の上で響いているのだが、割と厳しい表情を浮かべているのではないだろうか。完全に面白がっていると私が目を細めていると、帝室の皆さまがナターリエさまに頭を下げた。
「は、はいぃぃいいいい!!」
ミズガルズ皇帝陛下が戦々恐々と言わんばかりの声を上げている。私の背後からジルケさまの視線を感じて『どうにかしてやってくれ』と聞こえたのは気のせいだろうか。
とはいえナターリエさまは少々やり過ぎではという気持ちもあるし、帝室の皆さまが北の女神さまに恐れ戦いているのも如何なものだろう。今後、帝位に就くであろう皇太子殿下や未来の皇太子殿下と皇族関係者もナターリエさまと関わることもあるはず。
「北の女神さま、皆さまを脅すのは如何なものかと」
私は顔をどうにかナターリエさまの方に向けて彼女を視界に捉える。いつも暇そうな表情を浮かべている北の女神さまであるが今は楽しそうだ。思いっきり帝室の皆さまを揶揄っているのだなあと私が目を細めると、彼女もまた目を細めて『楽しいでしょう?』と言いたげであった。
「あら。でもお嬢ちゃんから聞いた話だと、貴女を利用して問題解決しようとしていなかったかしら?」
ナターリエさまの声に帝室の皆さまが『うぐっ』と言葉を飲んだ。反論しても分が悪いと判断したようである。勇者さま(笑)の時は確かにアルバトロス王国と北大陸の立地関係を利用したものだったし、私の名声を聞いて帝室が願い出たことである。いろいろとあったけれど数年前のことをぐだぐだと引っ張るつもりは私にはなく、今、お互いに良い関係を築いているならば水に流せば良いことではないだろうか。
「終わったことですし、私は気にしていませんから。それに帝室の皆さまは便宜を図ってくれ、神さま方が住まう島に辿り着けたのは帝室の方々が手配をしてくれた結果でもあります」
神さまの島に辿り着けたのは帝室が通行を許可してくれたからである。妨害して許可を出さないこともできただろうし、本当に今は普通の関係を築けているはず。
私の言葉に帝室の皆さまの顔がぱっと輝く。まあ女神さまに突っ込みを入れられれば黙り込むか、きちんとした反論をするしかないわけで。帝室の皆さまが勇者さま(笑)や勇者さまを支援していた貴族の方のような方たちであれば私は黙り込んでいた。やはり人間関係は持ちつ持たれつとかギブ&テイクとかの関係が一番なのだろう。
「お嬢ちゃんが言うなら良いかしら」
ナターリエさまが肩を竦めて私から少し離れる。でも私から半歩程下がっただけで後ろから見守る気のようだ。帝室の皆さまは気が気ではないだろうが、一先ずグイーさまから預かった石を引き渡さなければと私はソフィーアさまとセレスティアさまに顔を向けた。彼女たちは既に石を用意しており、私の後ろに近づいて引き渡し式が行われるのを待つ態勢を取っている。
「では引き渡し式を行いましょう」
「承知致しました!」
二十歳になっていない私と白髪のミズガルズ帝とは随分年齢が離れているはず。私が指揮を執っているのは妙な感じだけれど、話が進まないので仕方ないと諦めてグイーさまから預かった石を五十個ほど帝室へと譲渡するのだった。
◇
無事にナイ・アストライアー侯爵閣下から石の引き渡し式を終え、彼女たちが魔人の村へと旅立つ姿を我々ミズガルズ神聖大帝国上層部が見送った所だ。灰色の空を飛ぶドラゴンの姿は雄々しく美しいものであるが、ひとたび彼らが本気を出せば我々人間など簡単に命を奪われてしまう。
そんなドラゴンをアストライアー侯爵は四頭も引き連れ、肩の上には小さなドラゴンを乗せている。彼女の専属護衛である赤毛の双子の肩の上にも小さきドラゴンが乗っているので、侯爵は一体どうやってドラゴンを手懐けたのか。
彼女と学院で共に時間を過ごした我が娘であるミズガルズ神聖大帝国の第一皇女ベルナルディダは『手懐けているわけではなく、仲良く一緒に過ごされているだけです』と言っていたが……誠に信じがたい事実であった。
しかし、まあ……ミズガルズの頂点を務める者として、引き渡し式に携わったのだが本当に生きた心地がしない。今でも創星神さまから賜った石は本物なのかと疑ってしまいそうになる。堕ちた神の残滓を石が反応して吸収するそうだが、果たして本当に事が起きるのかと半信半疑であった……――それはともかく。
「い、生きている……私は生きているぞ……!」
そう。私は今『生』というものを実感している。今回の引き渡し式はなによりも緊張した。私が若かりし頃に執り行われた戴冠式も緊張していたが、女神さまは会場にいなかったし大型のドラゴンが四頭も揃っていない。
息子と娘はまだ幼かったので、果たして私の戴冠式のことを覚えているのやら。風の噂では、西大陸の小国がアストライアー侯爵閣下に馬鹿なことを言ってしまったとか。今、その国は他国から厳しい視線を向けられて肩身の狭い思いをしているそうである。我が国にもおかしな者がいればそうなっていた可能性がある。
無事に引き渡しが終わり石を預かって、己の命があることに本当に安堵している。
不敬を働けば神さまのお力で私の命が尽きていたかもしれないのだ。他の者たちも引き渡し式は生きた心地がしなかっただろう。数年前にアストライアー侯爵の名を頼り、アルバトロス王国の王立学院に娘を預けて良かった。今回でアストライアー侯爵と初対面であれば私は彼女の圧に気圧されて、帝として振舞えたかどうか怪しい。私が大きく息を吐くと、隣にいた皇太子も緊張を解いていた。
「父上、お疲れさまでした。アストライアー侯爵は北の女神さまのみならず、他の大陸の女神さままで一緒にミズガルズまで参られるとは……」
皇太子は口を開きながらアストライアー侯爵が飛び立って行った方向へと顔を向ける。確かに北の女神さまが同席するかもしれないとお告げで知っていたが、まさか他の大陸の女神さままでご一緒されているとは。
誰も粗相をせず無事に引き渡し式を終えられたことは奇跡なのかもしれない。自称勇者がいた頃に起きなくて良かったと心底安堵する。もし奴らがいれば今頃アストライアー侯爵一行は、自称勇者たちの言動に激怒していたのかもしれないのだから。これから石を設置せねばならぬし忙しくなると私は皇太子と顔を合わせた。
「本当にな。しかし女神さま方と魔人の村へ一緒に赴くとは。なにもない辺鄙な所であるが良いのだろうか」
魔人の者たちが住む村は随分と復興が進んでいるのだが、帝都を『街』と称すれば魔人の村はまさしく『寒村』という表現がしっくりする。私は赴いたことがないのだが、向かった者の話では自給自足の生活を行っており女神さまを歓待できる場所もないのではと心配していた。大丈夫かと私が片眉を上げると皇太子が口を開く。
「気になされるような方ではないのでは? 女神さまが嫌だと仰れば侯爵閣下も無理には行かず、我々に石を魔人の者たちに預けて欲しいと願い出そうです」
確かに女神さまは弱き者たちの味方である。魔人の村の者たちを差別などしないだろうし、困っているならば助けるだろう。彼らの心配よりミズガルズがこれから確りと創星神さまからの務めを果たせるように差配すべきか。さて、周りの者たちに式の片付けや報告を命じようとすると、第一皇女であるベルナルディダが私と皇太子の前に立つ。
「侯爵閣下のお姿は変わられておられませんが、魔力量が増えていらっしゃった気がします」
彼女が苦笑いを浮かべながら、懐かしい学友のことを口にした。女神さま方の圧も凄いのだが、アストライアー侯爵から感じ取れる圧が強かった。以前より圧迫感があり私という存在が搔き消されてしまうのではという不安を抱きそうになったくらいだ。
おそらく魔術や魔法を嗜んでいる者であれば、もっと顕著に感じていたかもしれない。実際、ベルナルディダの側に控えている護衛役の魔導士が微妙な顔を浮かべている。
「やはりか……成人を迎えて尚、魔力量が増えているとは」
「凄いお方です」
私と皇太子が唸る。魔力量は成長と共に増えるか、鍛錬を積んで増やすもの。成長が止まれば魔力の総量が増えることはないのだが、アストライアー侯爵は例外のようである。アストライアー侯爵とアルバトロス王国は敵に回さないようにしようと心に決め、私たちは預かった石を配りに行くのだった。
◇
久方振りに会う黒髪黒目の少女、ナイ・アストライアーは以前と変わらぬ姿で我々魔人の村に姿を現した。夢で見た創星神さまのお告げの使者として魔人の村に彼女がきたのだが、なにもない小さな村に高貴な人間が立っている姿はなんとも面白い。
面白いが、彼女の後ろには女神さま方がおり興味深そうに魔人の村を見渡していた。石の引き渡しを早々に終え雑談に興じている所であるが、少女はミズガルズ神聖大帝国から派遣された役人のように大きな態度でもなく、至って普通に接してくれている。
我々魔人の村に顔を出す機会がなく、今になってしまったことの謝罪を受けたのだが、彼女からはミズガルズからの助勢と資金援助を受けている。それだけでも有難いことなのに、顔を出すという約束を果たせなかったことが気になるらしい。必要以上に気に病む必要はないと私は魔人の村の代表者として少女と顔を合わせた。
「本当に創星神さまの夢が現実になるとは……驚きだ。だがドラゴンが四頭も村に飛来するとは知らず驚いた」
私が笑みを浮かべると少女は小さく頭を下げた。いや、創星神さまの御使いなのだからそう謙る必要はないのだが。北の女神さまは少女の姿を見て面白そうに微笑を浮かべ、他の女神さまは村の様子に目を奪われている。気にする必要はないようだが少々落ち着かないと私が苦笑いを浮かべていると、少女が顔を上げ口を開く。
「申し訳ありません。ミズガルズに立ち寄ったあとなので、こうなってしまいました……」
少女曰く、権威付けと称して亜人連合国の皆さまが大型のドラゴンを寄越してくれたとのこと。創星神さまの使者であれば人間に舐められるわけにはいかないそうだ。
人間社会は面倒なものだと苦笑いを私は浮かべるのだが、少女は我々を驚かせてしまったことを甚く気にしている。普通に魔人の村を見学したかったそうだが、この後はフソウ国という島国へ向かうそうである。
「いや、其方を責めているわけではないのだがな? ドラゴンに魔人が敵うわけがないし、どうしたものかと村の者たちが驚いていたのでな」
「……驚かせてしまい、本当に申し訳ないです」
うぐっと妙な顔になってまた少女が頭を下げる。石の引き渡し式で見せていた真面目な彼女の姿はどこへやら。それに先程までミズガルズの帝室の者たちの相手をしていたのに、私たち魔人には情けない顔を見せるなんて。
変わり者だと言ってしまえば彼女は怒るだろうか。でも人間ではない魔人と普通に接する者は珍しいといえよう。ミズガルズの帝室から派遣された使者は我々魔人を忌諱の目で見ており、魔人を普通の者として捉えてくれるのは亜人くらいであった。本当に少女は変わっていると私は笑って口を開いた。
「貴殿に時間ができれば、また村にきてくれ。我々は暇だからな! いつでも貴殿らを迎え入れよう」
そう。我々魔人は人間よりも寿命が少しばかり長い。村も長閑で、人間の街よりも時間の流れがゆっくりとしている。田舎で穏やかな時間を過ごしたいのであれば魔人の村は適任だろう。
少し寒いが、結界を張っているので外より随分とマシだ。復興も随分と進み、村は元の姿に戻っている。時折、亜人連合国からドラゴンが村へと遊びにきているのだが、流石に今回のように超大型のドラゴンの方がやってくることはなかった。
「ありがとうございます。その時は美味しい食べ物の話を聞けると嬉しいです」
少女は食べ物に目がないようである。凄く嬉しそうな顔になり魔人の食事が気になると告げた。ではまたとお互いに代表者として挨拶を交わしていると、魔人の子供たちが数人走って近くにある木の裏側に隠れた。一体どうしたと私と少女は首を傾げていると、西の女神さまが微妙な顔になって立ち尽くしている。
「逃げられた……」
西の女神さまが小さく声を零せば、少女がどうしたのかと聞いていた。どうやら西の女神さまは子供たちに声を掛けようと試みたのだが、圧が凄くて怖くなり木の陰に隠れてしまったようである。
少女は西の女神さまに『まだ子供だから仕方ない』と苦笑を浮かべながら諭している。西の女神さまは子供たちに逃げられたことにショックを受けているものの、怖がらせるつもりは一切なかったそうだ。私はこのままでは西の女神さまに申し訳が立たない。他の三柱の女神さまは西の女神さまに対してなにも言うつもりはないようである。
「申し訳ありませぬ。魔人以外の者を見る機会が少なく、突如現れた女神さま方に驚いているようでして」
私が西の女神さまに声を掛ければ、女神さまは私と確り視線を合わせてくれた。北の女神さまより圧を感じ難いものの、西の女神さまも相当な力を持っておられるのだろう。
子供たちが逃げてしまうのも仕方ないが、西の女神さまは肩を落として子供たちに申し訳なさそうな表情を向けていた。しかし交流が少ない所為で子供たちに外を知る機会を与えてやれないことは我々の落ち度だろう。どうにか外との交流を広げられないものかと、今回の出来事で強く実感してしまう。魔人も亜人連合国のように外へと目を向けるべきだろうか。