魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0663:南を目指して。

 ――南大陸、C国上空。

 

 南大陸に入った。今回はC国を一番先に訪れ、次にB国、A国と周り、他の国へと足を延ばしていく。アストライアー侯爵家一行の現在地はC国王都上空である。眼下にはC国の王都が広がっているのだが、西大陸の国々よりもこじんまりしている気がする。

 ヴァルトルーデさまとジルケさまも西大陸と南大陸の国々の違いを見つけたいのか、青竜さんの背中の上から下を覗き込んでいる。ナターリエさまとエーリカさまはジルケさまがいれば南大陸の方たちは粗相しないだろうと、侯爵邸で数日過ごすかもということだ。飽きたら島に戻るとも言っていたので、私たちがアストライアー侯爵領に戻れば二柱さまがいない可能性もある。

 

 南大陸のC国はアルバトロス王国王都と比較すると少し趣が落ち着いている。もしかして乙女ゲームの舞台となっていないから、派手さに欠けるのだろうか。アルバトロス城は凄く豪華で敷地面積も凄く広い。眼下のお城は慎ましやかだし、中庭や庭園の規模も大きくなかった。

 

 「んー……なんつーか、西大陸の国より地味か?」

 

 ジルケさまがマジマジと下を見ながら首を捻っていた。隣で一緒に覗き込んでいたヴァルトルーデさまが目を細めながらジルケさまの声に追随する。

 

 「少し寂しい」

 

 ぽつりと零した声はヴァルトルーデさまの本心だろう。確かに眼下の国の王城は少し寂しい雰囲気があるのだから。とはいえ微かに見える人影はかなり多い数だし、私たちを迎え入れるための準備を大忙しで進めていそうである。さて、これから南大陸各国を渡っていくことになる。なにもないようにと私が願っていると、ジルケさまがまた口を開いた。

 

 「西大陸の人間より南の人間は魔力量が低いから魔術的発展が望めねえしなあ。その辺りが原因か?」

 

 確かに魔力量が少なければ力持ちの方が多くないし魔術の研鑽も進まない。科学的進歩があれば魔術の代わりとなるけれど、南大陸では科学を発展させようという気概は低いようである。時代が進めば可能となりそうだけれど、百年くらい無理そうだった。

 

 「さあ?」

 

 「適当だなあ、姉御は」

 

 「末妹も大概適当」

 

 二柱さまの呑気な会話を耳にしつつ地上へと降り立つ。青竜さんの背から降りればC国の王家の皆さまと上層部の皆さまが既に揃っており、地面に伏せて礼を執っていた。

 それは所謂、平伏という奴ではなかろうか。私は今の状況をどうすれば良いとジルケさまへと視線を向ける。ジルケさまは『あー……』と面倒臭そうな顔を浮かべながら後ろ手で頭を掻いている。状況を受け入れてしまっているジルケさまは頼りにならないと諦めた私はC国一行の前に立った。

 

 「女神さま、黒髪黒目のお方、いえ、アルバトロス王国、アストライアー侯爵閣下、ようこそいらっしゃいました!!」

 

 陛下が一番前で頭を下げたまま地面に視線を向けている。どうしようかと後ろに控えてくれているメンバーを見ると、皆さま『やり過ぎでは?』というような顔になっていた。

 とはいえ誰も私を助けてくれる方はいないので自分で対処しなければならない。ふうと小さく息を吐けば、私の肩の上でクロが『頑張ろう』と声を掛けてくれる。騒ぎになりそうだからヴァナルたちは私の影の中に入っていて貰って本当に良かった。

 

 「皆さま、顔を上げお立ちください」

 

 「い、いえ! 女神さまと創星神さまの使いたるお方に無礼を働くわけには参りません!」

 

 陛下は地面を見つめながら声を上げる。ジルケさまは頭を掻くのを止め盛大に溜息を吐くと、C国の皆さまの肩がびくりと揺れた。私は視線でジルケさまに『一体、どんな恐怖伝説を築き上げてきたのですか?』と問えば『そんなつもりはなかったんだけどな……』と無言で答えてくれる。

 私の言葉では彼らを説得できないし、ジルケさまにどうにかして欲しいと再度視線で訴えると仕方ないとばかりに南の女神さまは口を開いた。

 

 「おい、別に獲って喰おうってわけじゃねえんだ。全員、顔上げろ」

 

 ジルケさまがぶっきらぼうに言葉を述べてくれるのだが、今の投げ掛けでは目の前の皆さまは怯える一方ではないだろうか。いつもよりジルケさまの声は固く感じたので状況を良く思ってはいないのは明らかだ。

 南大陸の皆さまが怖がっていることに不満を感じているようだけれど……今までの行動では仕方ない気がする。だが敵意を持っていない今のジルケさまは、南大陸の方たちに謙られるのは状況的に嫌なのかもしれない。なにか良い方法はないだろうかと思案するものの、直ぐに解決する方法は浮かばない。でも南大陸の皆さまの気持ちを少し楽にするにはジルケさまに対して持つイメージを軟化すれば良いはず。

 

 「南の女神さま……もう少し物腰柔らかくして頂ければ有難いなと」

 

 南の女神さまが恐れられている要因は口調にもあるのではなかろうか。何故か姉神さま方と違って『べらんめえ口調』だから、初めてジルケさまの言葉使いを聞けば怖いと感じる方が多いはず。私は関西弁等を聞き慣れていたし、喧嘩早い方やぶっきらぼうな方と接していた機会が多い。目の前の方たちは王族や貴族だから女神さまの口調に恐怖を抱いてしまうのは仕方ないことではなかろうか。

 

 「つってもよ、これがあたしの喋り方なんだから仕方ねえだろ」

 

 「理解はできますが、体面というものも必要では?」

 

 ふんと鼻を鳴らすジルケさまにもう一押ししなければ無理かなあと私が言葉を付け加える。

 

 「面倒くせえなあ……」

 

 凄く面倒そうに後ろ手で頭を掻くジルケさまは『皆さま、顔を上げお立ちください』と先程の私の真似をした。私から願い出ておいて申し訳ないが、ジルケさまには似合わないというのが正直な感想である。

 こうお尻の辺りがもぞもぞするというか、据わりが悪いというか。いの一番に反応を見せてくれたのは南大陸の皆さまではなく、ジルケさまを良く知るヴァルトルーデさまだった。

 

 「うわ……妹が変だ」

 

 片眉を上げ、変な生き物を見るような目でヴァルトルーデさまの視線がジルケさまに注がれている。私もおそらくヴァルトルーデさまと同じ視線を南の女神さまに向けているかもしれない。ジルケさまは顔を少し赤くさせてヴァルトルーデさまと私を見てむっと口を伸ばした。

 

 「西の姉御、本心だったろ、今。あっ! ナイまで思ったな!!」

 

 ヴァルトルーデさまと私の心の内はジルケさまにバレバレのようである。とはいえ口には出していないのでセーフのはずだと、ジルケさまの言葉を否定しておいた。

 すると目の前の皆さまが恐る恐る顔を上げて状況を確認し始めた。顔を上げてもジルケさまの神罰は下らないと分かったらしい。ホッと胸を撫でおろしている面々に私はようやく顔を上げてくれたと安堵する。ジルケさまはジルケさまで彼らの行動を咎めることはなく、妙な顔を浮かべた。

 

 「んだよ、調子狂うなあ……」

 

 はあと盛大に溜息を吐いたジルケさまに私は苦笑いを零し、せめてC国の陛下には立ち上がって貰いたいとお願いを出した。恐々と立ち上がった陛下に続いて他の方たちも顔を上げ、立ち上がる。

 ようやくマトモに話ができる態勢が整ったと私はグイーさまから預かった石の引き渡し式を執り行おうと願い出るのだった。

 

 ◇

 

 伝承に残る女神さまの話と目の前に現れた女神さまとでは、私の中で抱いていた幻想に違いがあった。伝承に残る女神さまは過激で恐ろしい方なのだが、今、目の前にいらっしゃる女神さまは口調こそ乱暴であるが至って普通の女性という雰囲気がある。

 もしかすると創星神さまの御使いであるアストライアー侯爵が同席しているからだろうか。南の女神さまに我々が恐れぬように『乱暴な口調は控えて欲しい』と願い出ていたし、女神さまは彼女の願いを聞き届け丁寧な物言いを心掛けていた。直ぐに元の口調に戻られてしまったが、我々の緊張は侯爵と女神さま方とのやり取りを見て少しだけマシになったのだから。

 

 引き渡し式を終えアストライアー侯爵一行を見送った我々は城に戻り、皆で雑談に興じていた。集まった皆は先程のことを熱く語っていたり、恐れながら語っていたりといろいろだ。

 

 「今回のことで、女神さまの伝承が変わるやもしれぬな」

 

 私は王として席に腰を下ろし声を発すれば、王太子を務める息子が戸惑いの表情を浮かべて口を開く。

 

 「ですが、A国の男性王族に呪いをかけたのは事実でしょう?」

 

 まさかと言いたげな我が息子はA国の王族の顔を思い浮かべているようだ。数代前の王子が女神さまの容姿に対して言及してしまい神罰を受けている。呪いの内容は男の王族が聞けば、いろいろと縮こまってしまうものだ。

 だからこそ同じ過ちを繰り返さぬようにと、我がC国では容姿を安易に口にするものではないと教えている。効果があるのか定かではないが、それ以降女神さまから罰を受けた者はいない。

 

 「女神さまを怒らせた者の失態だな」

 

 元々恐れられていた女神さまに対して無謀にも暴言を吐いてしまった者が愚かなのだ。呪いを掛けられても仕方ないと私は首を振る。

 我が息子は理解はできるが暴力的ではないかと言いたげだった。超常の存在である女神さまに逆らおうとすることの方が無謀である。まだ若い故に超常の存在にも対抗できるという自信が息子の中であるのかもしれない。いずれ歳を重ねれば世の中には絶対に敵わないものがあると悟るだろう。

 

 「それは、そうですが……A国の王族は大丈夫でしょうか?」

 

 懐疑な表情をしつつ、我が息子はA国の心配をしているようだ。

 

 「確か、アルバトロス王国で一度南の女神さまと邂逅なさったと聞いている。どうなるのか分からないが、馬鹿なことを言い出さなければ無事に石を引き受けることになるはずだ」

 

 先程のアストライアー侯爵一行を見るに、馬鹿なことをしなければ命までは取られまい。もしかすれば南の女神さまを怒らせても侯爵であれば止めてくれるのではないか、という希望さえある。

 だが、またA国が女神さまに対して失礼な物言いをすれば救いようがないと周りの王たちは判断するだろう。

 

 「さて、指定された場所に石を設置せねばな。あと馬鹿な者がでないように厳しい監視と護衛を付ける。各々、馬鹿なことは考えぬように!」

 

 A国のことより、自国で馬鹿なことをする者がでないようにする方が先決だと集まった皆に私は声を掛ける。欲深い者であれば創星神さまから賜った石を宝にしたいと狙う者もいるだろう。

 売り飛ばして一儲けしようと考える輩もいるかもしれない。封じ込めた玉から抜け出た堕ちた神の意思を集める品だと聞いているが、果たして堕ちた神の意識は回収されるのか。いつまで時間が掛かるのか分からないが、創星神さまからの命である。きちんと命じられたことを守り通せば、アストライアー侯爵一行と神さま方がなんとかしてくれるはずと目の前の石に願うのだった。

 

 ◇

 

 ――果たしてどうなるのか。

 

 創星神さまからのお告げを夢見て、西大陸のアストライアー侯爵一行が大陸巡りをしながら堕ちた神の意識を回収するという石を配り歩くと知った我々はアルバトロス王国へ事実かと問い合わせた。

 向こうから返ってきた答えは事実であるという短いものだった。南大陸にある我々A王家は、そうなると南の女神さまもご同行される可能性があると頭を抱えたのだ。私たちは南の女神さまを怒らせているし、アストライアー侯爵にも南の女神さまの怒りを受けて怪我を負わせてしまっている。

 

 「平身低頭、謝るしかないのか……命を懸けて」

 

 私は一人、謁見場の玉座の上で天井を見上げながら呟いた。私以外、誰もいない謁見場はやけに声が響く。自業自得かと乾いた笑いが出そうになるのを我慢していると、王太子である我が息子が姿を現した。

 

 「父上、私もご一緒に頭を下げます。どれだけ価値が私にあるかわかりませんが、アルバトロス王国で怪我を負ってしまったアストライアー侯爵にも申し訳が立ちません」

 

 困ったような、全てを悟ったような顔になっている我が息子に『すまない』と私は一声掛ける。確かに女神さまの怒りを受けてしまったアストライアー侯爵には詫びるしかない。本来であれば我々が受けるべきものだったのだから。右腕から痛々しく血が流れていたあの時のことを思い出す。

 女性貴族が怪我を負い傷が残れば、婚姻先を失う可能性がある。彼女は侯爵家当主であるから問題ないが傷を嫌う男もいるだろう。

 

 南の女神さまも同席するのだろうか。侯爵が傷を負ったあと、女神さまにより彼女は神の島へ向かい傷を治して貰うとアルバトロス王国から聞いている。ただ治ったのか、治らなかったのか結果を聞いていないし、女神さまが我々に対してどのような感情を抱いているのかも分からない。

 

 他国は女神さまとアストライアー侯爵一行を迎え入れるために盛大な準備をしているそうだが、我々にそのような資格はないだろう。ふうと長く深い息を吐いた私に我が息子がもう一度口を開く。

 

 「既に覚悟は決めております」

 

 「そうか。貴様の命、私が預かるぞ」

 

 「はい。父上」

 

 私と我が息子は互いに頷き合い謁見場をあとにする。これから女性王族を連れて王都の外へと我々は向かい、アストライアー侯爵一行を迎え入れるのだ。

 

 ◇

 

 B国へと――B国も皆さま平伏していたので、どうにか顔を上げて貰った――無事に石を引き渡しを終えてA国王都上空に辿り着いていた。ジルケさまはA国王家の男性陣に神力を使ったことが少々気まずいのか、先程から黙りこくっている。

 ヴァルトルーデさまは末妹さまの様子が変だと気付いて首を傾げているのだが、そういえば長姉さまは末妹さまが起こしたことを知っているのだろうか。A国の男性王族になにが起こったのか私から伝えるものではないし、黙っておくほうが無難だと二柱さまを見守っていれば、ヴァルトルーデさまの顔がぐるんとこちらへ向いた。

 

 「末妹が変」

 

 「先程から黙っておられますね」

 

 ヴァルトルーデさまがなんとも言えない顔をして、ジルケさまの違和感を私に伝えた。アストライアー侯爵一行はA国でジルケさまが神罰を下したことを知っているので苦笑いを浮かべるしかない。

 とはいえジルケさまが怒っておらず、過去を省みているなら良いことではないだろうか。もしかすればA国男性王族の皆さまの罰が解ける可能性だってあるのだから。私は答えるわけにはいかないと苦笑いを浮かべてヴァルトルーデさまにジルケさまの様子だけを返した。

 

 「なにかある?」

 

 「私の口から伝えて良いのか判断がつきません」

 

 ヴァルトルーデさまは苦笑いを浮かべたままの私はなにか知っていると分かったが、無理矢理聞き出す気はないようだ。そうかと納得したのか彼女は、下界を覗き込んでいるジルケさまの方へと向く。

 

 「なら、末妹に直接聞いてみる」

 

 青竜さんの背の上をヴァルトルーデさまがすたすたとジルケさまの下へと歩いて行く。そういえばヴァルトルーデさまは下の話は大丈夫かと不意に気になった。

 長く生きている女神さまだし、人間に知恵が薄かった頃から関わっているので大丈夫か。なんとなく私がクロに視線を向ければこてんと首を傾げている。とりあえず二柱さまのやり取りを見守ろうと、私たちは長姉さまと末妹さまに視線を向けるのだった。

 

 「さっきから黙ってる。どうしたの?」

 

 ヴァルトルーデさまの問いかけは凄くストレートなものだった。なにか別の話から黙り込んでいる理由を聞き出すのかと思いきや、流石西の女神さまである。ジルケさまは長姉さまの声掛けに顔を上げた。

 

 「姉御、なんでもねえよ」

 

 視線を合わせて直ぐジルケさまはまた下界へと視線を向ける。

 

 「なんでもないはずがない」

 

 「うっせえなあ。なんでもねえっつったら、なんでもねえんだよ」

 

 ジルケさまはA国でのことを言いたくないようだ。私がヴァルトルーデさまに伝えなくて良かったのかもしれないが、なんだか姉妹喧嘩が勃発しそうな雰囲気である。

 大丈夫かと侯爵家一行の皆さまに視線を向ければ、心配そうに二柱さまのやり取りを見ていた。青竜さんの背の上で盛大な姉妹喧嘩を始めるには危なすぎるだろうか。とはいえヴァルトルーデさまとジルケさまの姉妹喧嘩がどんなものか全く想像が付かない。

 

 「雲行きが怪しそうだが……」

 

 「大丈夫でございましょうか?」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが心配そうな声を上げる。ジルケさまがヴァルトルーデさまの面倒を見ているパターンが多いので、今回は逆転しているから珍しい光景だ。

 お二人の心配は当然だろうし、他の護衛の面々は荒事にならないかと凄くヒヤヒヤしながら見守っている。ジークとリンは肝が据わっているのか、いつも通りの表情であった。動揺していないそっくり兄妹が羨ましいが、酷くなりそうなら止めに入らなければ。しかし……女神さま同士の喧嘩に仲裁に入る私は一体なにをしているのだろうか。いや、深く考えないでおこうと思考を止めて二柱さまを見守る態勢になる。

 

 ヴァルトルーデさまはジルケさまのそっけない態度に驚くも、語りたくない末妹さまが気になるようだ。普段であれば引き下がるだろうに、なにかあると心配しているのかもう一度ジルケさまに踏み込む。

 

 「なんでもないわけがない。変な顔してる」

 

 「…………あのなあ」

 

 結局、長姉さまの言葉に末妹さまは逆らえないようだ。A国でのことをジルケさまはヴァルトルーデさまに語っている。ジルケさまの言葉に耳を傾けているヴァルトルーデさまは、なにかを考え込んでいるようだ。

 

 「末妹の容姿を馬鹿にした人は許せない。でも可愛いのは事実」

 

 「あたしを小馬鹿にしている奴と受け入れてくれる奴の差はちゃんと分かってるての」

 

 私も背丈の低さを指摘されると瞬間湯沸かし器になるからジルケさまの気持ちは理解できる。それにリンのように受け入れてくれている人たちもいると知っている。

 私もジルケさまの気持ちを理解できているのだが、まあ気分や言われ方、いろいろと重なって怒りが頂点に達すればそりゃ怒ることもあるだろう。最近は侯爵位を賜って私の背を指摘する方はいないけれど。聖女になって暫くの間は『こんな奴が聖女ぉ?』と疑いの目を持たれていた。ジークとリンが睨みを利かせてくれていたけれど、口にする人は口に出してしまうのだ。ああ、懐かしいと昔を思い出していると二柱さまの会話が進んでいる。

 

 「でも過激?」

 

 「そうか? けどよ姉御、姉御の容姿とか性格とか、あたしらのことなにも知らねえ奴に馬鹿にされたらムカつくだろ?」

 

 悪口を言ってしまった本人に神罰がくだるのであれば正当なのだろう。ただA国の男性王族の方たちに神罰の影響が出ている。まあ、それだけジルケさまが怒っていたという証拠なのだが、数代経ているのでもう良いのではという気持ちもある。

 

 「どうだろう。分からない」

 

 「んー……お前の母ちゃん出ベソとか言われたら腹立つだろ?」

 

 確かに身内を馬鹿にされれば自分のことより怒るかもしれないが、ジルケさまの例えは事実なのだろうか。テラさまが出ベソだなんて初めて聞いた。しかしテラさまが出ベソ……似合わないし、凄く残念感が湧いてしまうのは気のせいだろうか。

 

 「母さん、出ベソなの?」

 

 「いや、仮の話だよ! でもまあ……血縁者にもあたしの力が続くのはやり過ぎか?」

 

 なんだ仮定かと胸を撫でおろすのだが、ジルケさまの例えは凄く古臭い。昨今、『お前の母ちゃん出ベソ』なんて例えにする方はいないのではと私が目を細めていると、ヴァルトルーデさまがジルケさまに声を掛ける。

 

 「どうだろう。私は末妹が怒った場に関わっていないから」

 

 「すげえ嫌な奴だったな。あたしを見下ろして『こんな貧相な者が女神のはずがない!』っつってた」

 

 話を聞く限り、女神さまに大口を叩いてしまった数代前の殿下が悪い。とはいえ彼のみならず、あとにも神罰が続いているのはジルケさまの怒りの現れなのだろうか。

 

 「ムカつくね」

 

 「だろ。だからあたしはキレたんだ……でもよ、やり過ぎかとも今考えてた」

 

 「こっそり解けば良い」

 

 「黙って解くのもなあ。後味悪いと飯が美味くねえし」

 

 「なら謝る?」

 

 「流れに乗れりゃあな」

 

 なんだかんだと言って、ヴァルトルーデさまは四女神さまの長女なのだなあと二柱さまが話をしている姿を見て思う。短い言葉で淡々と語っているけれど、ジルケさまの思いを汲み取っているようだ。

 仲が良いなあと私は目を細めていると、青竜さんから『降りますよ』と声が掛かる。そうして王都の壁の外に降り立てば、A国の王族の皆さまと護衛の方々が大勢揃い、私たちの到着を待って平伏をしていた。

 

 私はジルケさまが音頭を切った方が良いだろうと、隣に立つ彼女と視線を合わせた。A国の男性王族はジルケさまが南の女神さまであると知っているのだから。

 ジルケさまは私の視線に目を細めるものの、A国では自身が語った方が話が早いと悟ったようである。ふうと小さく息を吐いたジルケさまは口を開いた。

 

 「顔、上げろ」

 

 「は、はひ!」

 

 ジルケさま乱暴な物言いは控えた方がと心配していると、A国の陛下が彼女の言葉に従って恐る恐る顔を上げた。顔から血の気が引いているのだが大丈夫だろうか。

 ジルケさまも彼らの表情に気付いて、脅し過ぎたと肩方の眉を上げて微妙な顔になっている。ヴァルトルーデさまは神妙な面持ちでA国の皆さまを見ているし、侯爵家一行も黙って様子を見届けている。さて、ごめんなさい、とまではいかないかもしれないが、彼らの神罰が解けるのかと私は見守るしかないのだった。

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