魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
妙な空気が流れている。
A国の王族の皆さま――特に男性陣――は顔を引き攣らせて脂汗を掻いていた。私は大丈夫かと声を掛けたい気持ちを抑えてジルケさまの方を見る。南大陸を司る女神さまは凄く面倒そうな表情で地面に膝を突いている王族の方々を見下ろしていた。
先程、顔を上げろという声を上げたジルケさまは黙ったままである。私はどうなるのかと見守っていたのだが話は進みそうもないと、ジルケさまに彼らとの会話を交わすことの了承を貰うのだった。
「創星神さまよりお預かりした石を届けに参りました。引き渡しを執り行いたいのですが、宜しいでしょうか?」
「は、はひ!」
私の問いにA国の陛下が声を上ずらせながら短く答えてくれた。先ずは用件を済ませてしまってから、次の国へ向かう算段を彼らと話し合わなければならない。私たちアストライアー侯爵一行が南大陸で顔が利くのはA、B、C国のみである。
ここから先は未知の領域となり、どんな国なのか治安は安定しているのかなどの情報が全くない。A国を経由して私たちが向かうことを知らせて貰っているのだが、果たして話はどこまで通じているのやら。
A国の陛下が立ち上がろうとすれば、ぐらりと身体が揺れる。周りの護衛の方が支えて地面に転がることはなかったけれど、足が痺れてしまったようだ。足を曲げて地面に膝をつく機会は滅多ないだろうし、ジルケさまが同席している緊張感から解放されて気が緩んだのか。なににせよ地面に倒れなくて良かったと私は安堵する。
「も、申し訳ありませぬ。みっともない所をお見せいたしました」
「いえ。慣れぬ姿勢でしたので致し方ないことかと」
「そう言って頂ければ助かります」
陛下と私が話をしていると、隣にいるジルケさまが微妙な顔になっていた。なにを考えているのか分からないけれど、ごめんなさいをする機会を伺っているのだろうか。私の肩の上にいるクロも気になるのか、大丈夫かなと首を傾げている。
そんなジルケさまを横にして、私たちはとA国王家の皆さまと石の引き渡し式を行った。石の扱いや、黒く染まってしまった時の対処法を説明すれば、あっさりと終了してしまう。さて次の国の情報を頂こうと私が口を開けば、A国の陛下が口を開いた。
「アストライアー侯爵閣下が次に向かわれる国には話を通しております。ただ南大陸には黒髪黒目信仰が根付いておりますし、女神さまも同席なさっております。かなりの騒ぎになる可能性があるとご承知おきください」
A国、B国、C国では民の皆さまと私たちの接触がないようにと手配してくれていたが、次の国からはどうなるか分からないとのこと。グイーさまのお下知を見て信じていない王さまもいれば、凄く期待して私たちがくるのを待っている国もあるのだとか。
漏れず、南の女神さまは怖いという認識なのだそうだが、ジルケさまと赴いても大丈夫だろうか。なるようになるしかないと私は陛下に次の国へ渡る手配を整えてくれたことに感謝を述べると、目の前の彼は更に神妙な面持ちになる。
「あと一つ、よろしいですか?」
陛下の喉ぼとけが動いて、息を吞んだとはっきりと分かった。なんの話だと身構えそうになるが、聞かないわけにはいかない。
「はい。もちろんです」
私は陛下と視線を合わせると、彼は一拍置いて口を開く。
「亜人から侯爵に連絡を取りたいという旨の話を聞き及んでおります。詳細は把握しかねているので、このような形での報告となってしまい申し訳ないのですが……」
どうやらこの先向かう国で、亜人の方と接触した国があるようだ。南大陸に亜人が住んでいるとは考えていなかったそうで、大陸の王さまたちは凄く驚いたとのこと。グイーさまは生き物全てに予知夢を見せたと言っていたので、漏れず亜人の彼らも事態を把握して石を預かり受けたいと願ったのだろう。A国の陛下が大雑把に亜人の方がいることを知らせてくれたので、良かったと私は安堵する。
見逃していれば堕ちた神さまの意識が悪戯するかもしれない。亜人連合国の皆さまは数の少なさを危惧して他の地域に住んでいるかもしれない亜人を探している。西と東と北の大陸では亜人の方からの声掛けはなかったから、亜人の方はいないのかと諦めていた所である。
亜人連合国の皆さまに良い報告ができれば良いと願っていると、ジルケさまが後ろ手で頭を掻きながら『あー……』と短く声を零した。
「話の邪魔して悪い。一応、解いておいた。また次にあたしのことを馬鹿にする奴がいたら、そいつには容赦しねえからな」
ジルケさまは明後日の方を向いて言葉を紡いだ。どうやらA国の男性王族の皆さまに掛けられている神罰を解いたようである。え、と呆けた顔になる男性王族の皆さまを他所目にジルケさまはもう一度口を開いた。
「次の国へ行くぞ!」
少し恥ずかしそうに歩き始めたジルケさまの背を見た私は、A国の皆さまに頭を下げ南の女神さまの背を追う。その背を見ていたヴァルトルーデさまは私の服の裾を引っ張り見下ろす。
「末妹、頑張った」
へらりと笑ったヴァルトルーデさまに私が一つ頷くと、ジルケさまがこちらを厳しい視線で見ている。
「うっせーよ、姉御。西と一緒で南は小国の集まりなんだ。早くしねえとな」
そんな言葉を放ったジルケさまは再び前を向いて歩き始めた。私は侯爵家一行の皆さまに行きましょうと声を掛け、A国の王族の皆さまに礼を執り歩き始める。ジルケさまの仰る通り、南大陸は三ヶ国を回っただけなのでまだまだ先は長いと気合を入れ直すのだった。
◇
アストライアー侯爵家一行と南の女神さまが次の国へと旅立たれた。別れる間際に南の女神さまが放った言葉を私は反芻する。解いておいた。また次に南の女神さまを蔑めばその者には容赦をしないと。少し言い回しが遠くて直ぐに女神さまの言葉を理解することができずに、アストライアー侯爵へ頭を下げていたのだがようやく頭が働いてきたようだ。
「え? 嘘……だろう……?」
私がふいに漏らした声に王太子を務める我が息子が視線を合わせた。彼もまた信じられないという表情になって私の目を覗き込んでいる。
「ち、父上、本当なのでしょうか?」
そう。女神さまは我々に課した神罰を解いたと仰り、次にあれば今回より酷くなるぞという警告を受けたのだ。ただ次は女神さまの悪口を放った者のみが対象になるようであるが。
次に馬鹿な者が現れれば、彼らは女神さまからどのような神罰を受けるのだろう。気になるような、気にすれば凄く怖い話を聞くことになりそうな……一先ず、神罰がようやく解けたことを喜ぼうと我が息子に私は語り掛ける。
「か、確認……する、か?」
神罰を受けていた我々は他国の男より随分と小さい。なにがとは口にはしないが、もし本来の姿に戻っているならば、この上なく嬉しいことである。失われていた我が魂の半分が戻ってきたと言っても良いだろう。
「確認、し、した方が良いのでしょうか……」
確認をして元に戻っていなければどうしようという不安と元に戻っているという期待がせめぎ合う。隣に立つ我が息子も私と同じ心境なのだろう。ただ周りには女性の目がある。この場で確認すれば私たちは彼女たちから白い目で見られることは確実だ。はやる気持ちを抑えて、私はごほんと一つ咳払いをする。
「どうかアストライアー侯爵一行が無事に南大陸の各国を渡り歩けるように願おう。さて、皆。城に戻り、指示通りの場所に御石を設置せねばな!」
私の指示に『はい!』と元気に答えてくれる男の王族と微妙な顔になっている女の王族に分かれているが……致し方のないことだと私は一度目を瞑り、いつもより少し早い足取りで城を目指すのだった。
◇
A国王都の外で私たちアストライアー侯爵家一行は青竜さんの背に乗る前に報告があると、彼の正面に私は立っていた。青竜さんは不思議そうに首を傾げているのだが、クロが首を傾げている時は可愛いだけれど彼の場合はカッコ良いという言葉が似合っていた。様になっているなあと私は青竜さんを見上げて、伝えたかったことを告げるべく口を開いた。
「聞いてください、南大陸のどこかに亜人の方が住まわれているそうですよ!」
『おや、本当に?』
私の声を聞いた青竜さんは今度は逆の方向に首を傾げる。でも目を細めて少し嬉しそうな雰囲気を醸し出している。喋っていると次の国への到着が遅れるからと、一先ず私たちは青竜さんの背に乗って移動を開始した。
空の上でA国の陛下から聞いたことを私は青竜さんに伝えた。本当に亜人の方たちが見つかって良かった。グイーさまから面倒なことを頼まれたと考えていたが、亜人連合国の方が喜んでくれるならば骨を折った甲斐がある。まだ南大陸の各国に石を届け終わっていないし、美味しいものを探し切れていないけれど、一番の朗報だったかもしれない。
「確実とは言えませんが、嘘を吐く必要のない場面なので情報の確度は高いかと。亜人連合国の皆さまが喜んでくれると良いのですが」
A国の陛下が嘘を吐く可能性は限りなく低いだろう。嘘を吐けばジルケさまの怒りを買うし、アルバトロス王国にも睨まれることになる。南大陸の亜人の方々も同族の方を探していると良いのだが。もしかすれば他の亜人を受け入れないという可能性もあるから、嬉しいけれど複雑な気持ちも少しだけある。
『血が濃くなることを危惧していましたから、エルフかドワーフであれば喜ぶでしょうね。我々はあまり心配の必要はないので少しばかり彼らの不安を理解しかねていますが……でも、良いことです』
青竜さんの話によれば、やはり亜人連合国の皆さまは近親になることを危ぶんでいたようである。エルフもドワーフの方も数自体が少ないし子供の出生率も低い。今回の件が起爆剤のようになれば良いのだが。
竜のお方は単独で卵を残すこともできるし、血の濃さは気にしなくて良いようだ。本当に竜は不思議な生き物だとクロに視線を向けると、えっへんと胸を張ってドヤ顔になっていた。クロは凄い竜だと認識しているけれど、ディアンさまやベリルさまたちにポチとタマたちも凄いのではなかろうか。竜の方たちの数は順調に増えているし、次はエルフの方かドワーフの方たちの番のようである。
「亜人連合国の皆さまと会って欲しいですが……私が勝手に約束を取り付けるのは違いますし、一先ず南大陸の亜人の方には西大陸に亜人の国があると伝えてみますね」
『はい。よろしくお願い致します』
さて次の国となるD国はどうなるかなと、皆さまと一緒に空の旅を楽しむのだった。
◇
南大陸にも亜人の方がいると知ったのだが、南大陸を司る女神さまであるジルケさまも『いたのか』と驚いていたので亜人の方は人目を避けて隠れて住んでいたのだろう。どんな方たちだろうという期待と不安を抱きつつ、私たちアストライアー侯爵一行は南大陸四ヶ国目となるD国へと辿り着く。
青竜さんの背から降りれば、王都への出入り口となる大門の前には多くの人が集まっていた。人だかりの前には豪華な衣装を身に纏った方が私たち一行を視認した途端に膝をつき頭を下げる。すると彼らの後ろに控えている騎士の方や集まった方たちも一斉に平伏する。私が状況に驚いているけれどジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまは特段気にした様子はない。
一緒にきて側仕えのフリをして控えているヴァルトルーデさまも彼らの行動に驚きつつも、特に突っ込むことはない。ジルケさまも『まあ、そうなるよな』と言いたげな顔をして私の隣に控えた。青竜さんまで当然でしょうと言いたげなのだが、私は誰かに平伏されるのは苦手である。そんなに偉い人間ではないし、自分の実力で誰かに崇められている訳ではないのだから。
目の前の異様な光景に私は息を吐き、D国の皆さまに石を引き渡さなければと気を引き締める。私はグイーさまのお使いで、神さまの御使いとしてきちんと礼節を持ってして彼らと接しなければと足を踏み出した。
すると横に並ぶジルケさまと後ろに控えている侯爵家の面々も歩き始める。暫く歩を進めて、D国の王族の皆さまを前にする。彼らとの距離は三メートルほどあり、もしもなにか不審な動きをすればジークとリンが即対応できる間だ。D国の方たちは私たちが立ち止まったことに、小さく肩を揺らしてどうすれば良いのか迷っている様子だった。
「皆さま、顔をお上げください」
私が声を掛けてもD国の皆さまは顔を上げないが、おそらくD国の陛下が肩を揺らして地面を見つめたまま声を上げる。
「よ、よろしいのでしょうか? 神の御使いたるアストライアー侯爵閣下の御前で無礼があってはなりません……我々のような者が貴女さまのご尊顔を拝謁するなどと……」
大げさ過ぎると言いたいけれど、私はグイーさまのお使いを頼まれたのだから創星神さまの偉大さを下げる行為は避けるべきだろう。言葉にしたい気持ちをぐっと堪えて、自身の顔に笑みを張り付ける。隣に立つジルケさまが私を見てぎょっとしたのは気のせいだろうか。失礼だなと言いたいのもぐっと堪え、私は目の前の彼らに告げる。
「創星神さまより使者として命を受けましたが、わたくしは皆さまと同じ人間です。地上で生きる者なのです。社会的地位の差はあれど、神さま方の前では無意味。ですから皆さまもどうかお気になさらぬようにと願います」
適当にそれなりなことを伝えてみたのだが、ジルケさまが『似合わねえ……』と引いているし、ヴァルトルーデさまも後ろで微妙なオーラを醸し出している。
ジークは『思いついたことを口にしたな』と私の気持ちがバレているし、リンは『もっとナイを崇めれば良い』と言いたげである。ソフィーアさまは『言い過ぎるとあとで大事になるから気を付けろ』という気配を出しているし、セレスティアさまは『口八丁が上手いですわね』と感心しているようだ。クロは『大丈夫かなあ……』と私の肩の上で小声でぼやいていた。
「で、では……!」
「顔を上げ、お立ちください。創星神さまからお預かりした品をお渡しせねばなりません」
D国の皆さまは私の声におずおずと顔を上げると、目の前に黒髪黒目が一人と一柱さまがいるためか感嘆の息が漏れている。驚いて固まっている方に、教会の印なのか不思議な動作を取って目尻に涙を溜めている方もいる。
D国の陛下も同様に『まさか拝謁できるとは……!』と目を丸くして、私たちの姿を目に焼き付けているようである。ジルケさまが『どうすんだよ、この状況』と言いたげな顔になっているのだが今更である。私はふうと息を吐き、話が進まなそうだとまた口を開いた。
「ようやく視線を合わせることができました。アルバトロス王国、ナイ・アストライアーと申します。貴国に受け入れられたこと感謝致します」
「とんでもございません! 創星神さまよりのお告げを見、貴女さまが我が国へ来られることをお待ちしておりました! D国国王……――」
やはり目の前のお方はD国の陛下である。緊張した面持ちで名乗りを上げてくれるが、私がやってくることを心待ちにしていたのか心なしか嬉しそうである。握手を求めたいようだが、目の前の陛下は少しばかり動かした右腕を直ぐに引っ込めた。
「しかし黒髪黒目のお方をこの目で拝見することになろうとは! それもお二方も……感慨深いです……!」
私とジルケさまが黒髪黒目の者であるというのも彼の内なる喜びに拍車を掛けているようである。南大陸では崇められつつ恐れられている存在の黒髪黒目の者を怖がらないとは驚きだ。
とはいえ、黒髪黒目を崇拝する方がいたとしてもおかしくはないはず。実際に南大陸からガレーシア王国へと逃げてきたとある一族は黒髪黒目を崇拝していたのだから。それにしてもジルケさまのご尊顔を彼らは知らないようである。
陛下以外にもD国上層部の皆さまや護衛の方、更に後ろにいる平民の皆さまは私とジルケさまの姿を直接見れたことで喜んでいる。しかしジルケさまと私を目の前の皆さまは姉妹とでも勘違いしているのだろうか。陛下はジルケさまと私を交互に視線をやり、頭の中でどういう関係なのかと考えているようだ。
「あ、悪い。あたしは人間じゃないぞ。あんたたちの言う創星神の娘で、南大陸の管理を任されている者だ。ようするに南の女神だな」
ジルケさまがあっさりとご自身の正体を明かす。南大陸ではジルケさまの顔を知られている場合が多いので、隠す気はあまりないようである。私の隣に女神さまとして控えてくれているのだから当然だけれど、D国の皆さまはジルケさまの正体を知らないままでいた方が幸せだったのではなかろうか。
「え……失礼ですが、ほ、ほ、本当に南の女神さまなのでございましょうか?」
D国の陛下が凄く驚いた顔になりつつ、ジルケさまを見下ろしている。見下ろされていることにジルケさまはなにも感じてはいないようで、彼の問いに答えるべく言葉を紡ぐ。
「嘘吐いてもしかたねえだろ。あ、力を抑えているから分かり辛えのか……」
するとジルケさまの身体から神圧が漏れ出し始める。うっすらとジルケさまの身体が光を発し、微かに彼女の黒髪が神圧によって揺れていた。D国の皆さまが驚いた顔になりながら、腰が砕けたのかペタンと地面に尻餅を搗く。
はくはくと口を動かしているが、声にはならないようである。私は神力を解放したジルケさまに視線を向ける。うっすらと神力に覆われた女神さまの身体に、言葉にならない不思議な感覚に襲われる。温かいというか、懐かしいというか……とにもかくにも変な感じである。ジルケさまを見つめているのがご本神さまにバレたようで、私は気恥しくなって勝手に口から言葉が漏れていた。
「凄いですね」
「あ? ナイ……今更、あたしたちのことを女神だと信じたとか言うなよ?」
私の顔を見たジルケさまは片眉を上げて怪訝な顔になった。決して、私が彼女を女神さまと疑っていた訳ではなく、漏れ出る力に驚いただけ。ふんとジルケさまが鼻を鳴らせば、ヴァルトルーデさまがひょっこりと前に出て私たちの顔を見る。
「平気で立ってるナイが変」
「だな」
二柱さまが私を見ながら苦笑していた。D国の皆さまは腰を抜かしているけれど、アストライアー侯爵家一行の皆さまは割と平気な顔をしている。護衛の方たちは足を震わせながら気合で立っていた。
「変って……ジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまも立ってますし、クロも動じてないです」
私は変ではなく普通である。魔力量は多いけれど、趣味嗜好、物事の捉え方は至ってマトモなはず。私が名を挙げた皆さまを見ればジークとリンはなにも言わず、ソフィーアさまは『力を抑えて貰え』という顔をしており、セレスティアさまは『我慢の限界ですわ』と言いたげである。
私がジルケさまの方を見れば解放していた神力を抑えてくれる。ホッと胸を撫でおろしている侯爵家の面々と驚いたままのD国の皆さまとの対比が凄い。クロは驚いてはいたけれど耐えることができたようで『力を抑えてくれて良かったねえ』と呑気に声を上げていた。
「ま、早く親父殿の石を引き渡して、次の国へ行こうぜ」
「そうですね。南も小国の集まりですし、情報が少ないですからなにかあった時のために早めに動いた方が良さそうです。では引き渡し式を行いたいのですが、宜しいでしょうか?」
ジルケさまの要望に応えた私は地面に座り込んでいるままのD国陛下に手を差し伸べる。陛下は驚きつつもおずおずと右手を差し出し私の手を握った。成人男性を立ち上がらせるにはある程度の力が必要だろうと手を強く握り腕に力を込めた。
陛下はご自身の力でどうにか立ち上がれば、暫しの間私のことをぼーっと見下ろしていた。なんだ、と不思議に思うものの時間が惜しいため石の引き渡し式を割りと無理矢理に執り行う。
呆然とグイーさまの石を見ている方や凄いと感心している方に、石を見て『宝具……では?』と呟いている方もいる。いや、宝ではなく堕ちた神さまの意識を集めるための道具であると言いたくなるのをぐっと堪えて、南大陸D国への石の引き渡しを完了する。
「で、では王城に一つ、人の多い領地に配り、魔力的要素が高い地にも配置いたします! 管理は我々王家が責任を持って行いましょう」
D国陛下が緊張した面持ちで告げ、石を掲げているD国の騎士の方は顔を青くして凄く緊張している。落としても割れないと伝えたのだが、彼らは石を凄い存在として捉えているようだ。割れませんよとデモンストレーションで壁にぶつけるのもアリだが、実行すればきっとドン引きされるだけ。きっとそのうち石の存在に慣れてしまうはずと私は陛下に礼を執る。
「ご迷惑をおかけいたしますが、宜しくお願い致します」
私が顔を上げると、陛下方は凄く慌てふためいていた。大袈裟だなあとジルケさまは呆れ、ヴァルトルーデさまは彼らの反応が面白いらしい。
彼らと別れる前に次の国の情報と亜人の方たちについてなにか情報を持っていないかと私が聞けば、彼らは快く教えてくれた。次の国は黒髪黒目を恐れている国なのだとか。またA国とB国とC国のような反応で迎え入れられるのだろう。D国も大概だったけれど、彼らは恐れつつもきちんと女神さまを崇めている。
そして亜人の方が名乗り出たという国はGという名の場所だそうだ。ここから然程遠くなく、E国とF国を回れば辿りつくとのことである。彼らもC国と同じく亜人の方が南大陸に住んでいると聞き、凄く驚いたとのこと。G国は至って普通の国だし、普通の王さまが治めているとのことで亜人の方も紹介されるであろうということである。
「お話、ありがとうございました」
「いえ! 堕ちた神となれば、我々人間では到底敵いますまい。創星神さま、そして女神さま方のご配慮感謝致します! アストライアー侯爵閣下もこの先、十分にお気をつけて!」
陛下の言葉を聞き届けるとジルケさまがくるりと彼らに背を向ける。
「行くぞ、ナイ」
「はい」
ジルケさまは私の名を呼んですたすたと歩き始めた。そうして彼女を追うべく私たち一行もD国陛下方に頭を下げ、歩みを進めるのだった。