魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――太洋の宮殿。
豪華な部屋は調度品が取っ散らかっている。先程、ついに姫が本気で怒り、部屋に置いていた壺や花瓶の調度品を海神さまへと投げていたのだ。長らく放置されていた姫の気持ちを理解できるし、しかも他の女に懸想していたと知ればたまったものではないと海竜の我でも分かる。
我の上役である海神さまは姫が投げた物を黙って受け止めていた。まあ、黒い靄になっているのでダメージがあるのかと問われれば微妙な所である。
「今更、今更戻ってこられた所で、わたくしが貴方を許すなどとお思いですか!?」
息を切らしながら姫が海神さまを睨んでいる。海神さまは小さいまま姫と視線を合わせた。どうやら地球という星のテラさまというお方に振られて正気を取り戻したようだ。
姿形は違えど、海から消えてしまう前の海神さまより雰囲気は更に昔のものと同じであった。じーっと姫さまと視線を合わせている海神さまは鬼気迫る姫さまに対してなにを伝えるのだろうか。
彼が次に紡ぐ言葉次第で海の状況が大きく変わる可能性がある。海神さまと婚姻を果たした姫は神格を持っているため、ある程度海の状況に影響を与えてしまうのだ。海神さまほどでないにしろ、怒りに捕らわれ宮殿の周囲にいる魚が死んでしまうこともあろう。大丈夫かと心配しながら我が見ていると、海神さまが少し間を置いて口を開いた。
『思ってない。ただ謝りたい』
「はあ……何故、このような方の口説き文句に乗ってしまったのでしょうか」
海神さまはただただ自身の行動は姫に対して失礼なものだったと理解しているようである。言い訳もせず、ただ謝りたいと姫に伝えている。姫も姫で惚れた弱みなのか今以上に強くは出れないようだ。
どうにかなるかと我が首を捻ると、我の頭の上に乗っている蛸もこてんと頭を傾げているようだ。しかし蛸はナイに治癒をして貰ってから本当に感情豊かになっている。以前まで彼の意思など分からなかったが、ナイの治癒を受けて怪我が治ったあと我には彼の気持ちが凄く理解できるのだから。
本当にナイは変な人間である。今頃は創星神さまから受けた命を果たすため、地上を駆け回っているころだろう。あの子のことだ。いろいろな出来事に巻き込まれているに違いない。
蛸もナイのことが気になるのか、よく我に『彼女はなにをしているの?』と問いかけてくることがある。我は『ナイはきっと地上で楽しく暮らしておるだろう』と伝えれば、蛸は満足したように『幸せならそれで良い。でも、また会いたいなあ』という意思を感じ取った。
どうやら蛸はナイのことが気になるようである。まさか海神さまのようにナイを追いかけるのかと心配している我であるが、果たして蛸はどうするつもりなのか。少し気になるが、今は目の前のことに集中せねば。姫と海神さまの会話に沈黙が訪れ、膠着状態である。
『姫、どうなされるのですか?』
我は話を進めようと姫と海神さまに問うてみた。海神さまは『姫のしたいように』と仰る。姫は姫で複雑な顔を浮かべて我と視線を合わせた。
「エーギル。どうも、こうもありません。戻ってこられたならば、エーギルと共に旦那さまには海の治安を守って頂きとうございます。ただわたくしとの関係を元に戻したいと仰るのであれば無理なこと」
姫は我と海神さまと共に海を守れと仰っている。あれ、おかしいな。海神さまにも海の治安を守るようにと命じられているのに、姫さまからも命じられてしまった。
彼女は元魚人といえど、海神さまから神格を頂いているので我は彼女に逆らうことができない。いや、海神さまから命じられていることなので構いやしないし、海神さまが戻ってきたならば我の仕事は楽になるはずだ。
『もちろん、海の治安を守るのは我の使命。しかし海神さまも宜しいので?』
間違いがあってはならないと、我は海神さまに確認を取る。黒い靄の姿となってしまっているが、海神さまは海神さまであり、我の上役ということに変わりはない。
『ん。一緒、頑張る』
『ナイに名を貰えば、海神さまも元のお姿に戻られるのでしょうか?』
『どうだろ。分からない。でもあの子の力は凄い』
「確かに、アストライアー侯爵の力は凄いのでしょう。彼女の周りにいた方々も人間とは思えませんでした」
姫が『特に銀髪の男』と付け加えると、海神さまが黒い靄の身体をきゅっと縮込める。姫さまは彼の姿を見て『おや、嫉妬ですか?』と海神さまに問うた。
海神さまは姫から発する圧に震えながら靄の身体を器用に左右に揺らして否定をすれば、彼女がはあと盛大に溜息を吐く。どうやら姫は海神さまに対して惚れた弱みなのか、これ以上強くは出れないようだった。もっと彼女の気が荒ければ力が弱くなっている海神さまを吹き飛ばすことくらいはできように。恋や愛は、海竜である我にとってなんとも理解しがたいものである。
「では旦那さま、さっそくエーギルと共に創星神さまから預かり賜った石を各所へ届けてくださいませ。荒くれ者の魚人以外は問題なく管理してくれましょう」
『分かった。行ってくる』
姫の言葉に海神さまが素直に頷き、我の頭の上へと移動した。蛸は海神さまに礼を執っているのだが、一匹と一柱さまの関係は不思議なものだった。
海を泳げば黒い靄である海神さまは流されてしまうため、蛸が脚を器用に伸ばして海神さまを捉えていたのである。そうして先程大洋の宮殿に戻ってきたのだが、海神さまは蛸に『ありがとう』と礼を伝え、蛸は『ん!』と返事をしていた。以前であれば蛸になど絶対に海神さまは頼らなかった。自身の神力を使用して海の中を爆泳していたというのに、長い年月が彼を変えてしまったらしい。
我の頭の上に乗った海神さまを姫は見上げて口を開く。
「二千年近く海を留守にしていたのです。海の者たちに顔を見せてきてくださいな。神格は失われていないので、聡い者は貴方と分かるでしょう」
『うん。行ってくる』
姫は海神さまを体よく宮殿から追い出したのだろうか。言葉通りであれば、海神さまがいなくなったと心配している者たちを安心させなさいということだ。ただ、もっと派手な喧嘩になって大変なことになると思いきや、ある程度で収まって良かったと我は安堵する。
『では姫。行って参ります』
「ええ。エーギルも気を付けて。力を付けたといえど、海の強者に囲まれれば貴方で対処できるかどうか」
『海神さまがご一緒しておりますから、大丈夫かと』
我が姫に挨拶をすれば、にこやかに笑みを浮かべた彼女が見送ってくれる。蛸は姫に対してなにも感じていないのか、脚を器用に振って別れの挨拶をしていた。
本当に賢くなっておると感心しながら、我は海神さまと蛸を頭の上に乗せて大洋の宮殿を出て各地へ石を届けに行くのだった。この石の数、どれだけの時間が掛かるのだろう……ナイにも手伝って貰えば良かった。
◇
D国から出立した私たちアストライアー侯爵一行はE国、F国へと石を届け終えている。どちらの国の方々も私と南大陸の女神さまに対して平伏していたので、本当にやり辛い引き渡し式となっていた。
ただ、なにも問題はなく終えられることだけは有難い。彼らに石を渡し、今後どうするか伝えれば直ぐに旅立てるのだから。接待をしたそうな顔になっていたけれど、私が『急ぐ旅路故』と告げジルケさまが『行くぞー』と声を上げれば、彼らは口を閉じたままであった。
『さて次はG国ですか。亜人が同席しているということですが、どうなることか』
青竜さんが空を飛びながら私たちに声を掛けてくれた。G国は南大陸に隠れ住んでいた亜人の方が助力を願った国である。グイーさまからは緊急用にと予備の石を預かっているので、想定外の申し出にも対応できるようになっていた。
そのため石を渡すこと自体に問題はない。ただ亜人の皆さまはエルフなのかドワーフなのか、それとも獣人と呼ばれる方たちなのか、全く情報がないのである。
E国とF国の上層部の皆さまも詳しくは知らないと仰っていたので、亜人の方が人間の国と接触し私たちとの邂逅を願っているとしか知らない。本当にどうなるか分からないので、期待半分、不安半分というのが正直な私の気持ちである。
「一応、亜人連合国という国が西大陸にあるとお伝えするつもりです。あとは彼らと亜人連合国がどう判断するかに任せようかなと」
『それで構わないでしょう。私が代表と皆に経緯をお伝えしておきますね』
私の声に青竜さんが穏やかに答えてくれる。無茶を言わないので凄く助かる。相手が仮にボルドー男爵さまであれば、敵意を向けられたらやり返せとか言い出しかねない。
私は誰かと争いたいわけではないし、穏便に物事が進んで欲しいのだ。代表さまたちは南大陸の亜人の方たちをどう捉えるのだろう。青竜さんが反対していないので大丈夫だろうけれど、ダリア姉さんとアイリス姉さんの反応も気になる。もし仮に敵対してしまえばどうなってしまうのか。もし溝ができたとすれば、地理が離れているのでお互いに距離を保って関わらないという選択をしそうだけれど。
「私も報告書に上げて、亜人連合国に伝わるように手配します。あと石を配り終えたら、皆さまにきちんとした報告をしたいので亜人連合国へ向かう許可を頂きたいです」
私のお願いに青竜さんが承知しましたと告げる。本当にこの先どうなることやら。まだ回らなければならない国があり、G国で丁度半分回ったと言ったところだ。まあなにか問題が起こればジルケさまが南の女神さまとして口を出してくれるので有難い。私がジルケさまに視線を向ければ、彼女は両手を頭の後ろに回して口を開く。
「南に亜人がいるとはなあ」
「ジルケさま、ご自身が管理している大陸なのに知らなかったんですか?」
本当に適当だなと私は苦笑いになれば、ジルケさまは頭に回していた手を解いた。
「隠れてりゃあ、分かんねえだろ。一番目立っていたのは人間だしな。ま、上手くいくと良いな」
どうやらジルケさまの悪口を叩いていたのは人間が一番多かったようである。亜人の皆さまはきちんと南の女神さまを女神さまとして敬っているようだ。
「そういえば南大陸の方と西大陸の方が交わることを気にしないのですか?」
「姉御が前に言ってた気がするが、自分たちで勝手に交わる分には口を出す気はねえよ。そりゃ、あたしらの力を使って別の大陸に行きたいなんて言えば問題だがな」
確か、西大陸の古代人が東大陸から渡ってきた方たちとの混血により、力が弱まったことをヴァルトルーデさまは特に気にしていない様子だった。大昔のことだし、ジルケさまの考えが変わっているかもと聞いてみたのだが、南の女神さま的に問題ないようである。ヴァルトルーデさまにも視線で問いかけてみれば、なにも言わないので構わないみたいだった。
『また凄い人だかりができていますねえ。降りますよ。お気を付けください』
青竜さんの声でG国王都に着いたと私は知る。彼が仰る通りに眼下には沢山の人が集まって、黒い塊となっていた。その中に亜人の方がいるのかと目を細めてみるが、私には分からない。地上に近くなれば見えてくるだろうと、私は皆さまの顔を見る。さて、また石配りの使者を務めなければとふうと息を吐くのだった。
◇
G国に辿り着いて早々、民の方たちが見守る中で王族の方たちと言葉を交わすことになる。背後では青竜さんが見守ってくれており、彼のお陰なのか沈黙が降りていた。静かな所で挨拶を交わす機会は少なかったため、妙な感じを受けてしまう。
とはいえそそくさと進行するので有難いし、群衆から離れた場所にエルフの方たちがこちらを見ていた。彼らの視線はジルケさまと私に固定されている。凄く注目を浴びているのだが、亜人連合国のダリア姉さんとアイリス姉さん、そして他のエルフの方たちとダークエルフの皆さまから感じる圧より随分と弱い。大陸の魔素が薄く時間を経て弱体化しているのか、亜人連合国の皆さまが強すぎるのか。どちらにせよ、エルフの方たちが見つかったという話は本当だったので胸を撫でおろす。
G国の陛下方が名乗りを上げて深く頭を下げた。陛下以外の方は平伏しているため顔は良く見えないが、ジルケさまを慮ってくれているようである。
「南の女神さま、アストライアー侯爵閣下、よくいらしてくださいました」
「おう」
「お初お目に掛かります。アルバトロス王国にて侯爵位を賜っております、ナイ・アストライアーです」
ジルケさまは短く、私は彼らと初対面なので名乗りを上げた。陛下はまだ頭を下げたままなので、こちらから声掛けしない限り姿勢を正すつもりはないようだ。どうしましょうかと私がジルケさまに視線を向ければ、少し面倒臭そうな顔をしつつ彼女は口を開く。
「顔、上げろ。目、合わせて話さねえとお前らがなに考えているのか分かんねえだろ」
ぶっきらぼうな言葉と南の女神さまということで、G国の皆さまは多大な圧を感じているようである。ジルケさまの声にびくりと肩を震わせてから、陛下と他の皆さまがおずおずと顔を上げた。
目を合わせれば心の中まで読み取ってしまわれるのではという不安が彼らの中にあるようだが、果たしてジルケさまは他人の心の中まで読めるのか。私は女神さま方と視線を合わせて喋るので、私の内心はバレバレかもしれない。
時折、馬鹿なことも考えているので、もし心中がバレバレならば恥ずかしい。まあ大体、食べ物のことで頭を捻らせているから『食い意地の張った奴』と呆れられるのがオチだろうけれど。
顔を上げたG国の皆さまはなにを喋って良いのかと困惑している。やはりジルケさまか私が音頭を執るしかないようで、私は先んじて口を開いた。
「我々の受け入れを感謝致します」
「いえ! 創星神さまのお告げを聞き届けているのです! 受け入れぬ国などありますまい!」
陛下が緊張しながら答えてくれる。確かに私たち一行を受け入れない国はないけれど、矢を番えていたり、ハニトラを仕掛けようとしたりする国もあったので、南大陸の方々はある意味神さまの信徒として立派な方々なのかもしれない。ジルケさまは過去に大陸の方たちに神罰を下している。そのため黒髪黒目を信仰しながら、恐れている辺り本当にジルケさまの神罰は南大陸の皆さまの心の中に刻み付けられているようだ。
私は陛下に『あはは』と誤魔化した笑いを出すしかなく、更に誤魔化すために『さっそく、引き渡し式を行いましょう』と申し出る。すると彼らは凄く緊張しながらも、グイーさまが創造された石を受け取ることに感激しているようだ。厳かな雰囲気で執り行われた引き渡し式は無事に終わり、一通りの説明を私が行ってG国との用事を済ませる。そしてエルフの方たち――五十人くらいの一団――に視線を向ければ、G国の陛下が言葉を紡ぐ。
「創星神さまのお告げがあった暫く後に、彼らは我々と接触してきました。亜人が珍しく王都は凄い騒ぎとなりましたが、彼らもまた創星神さまのお下知を知り、堕ちた神の影響を受けたくはないと恐れております。故に彼らにも石の引き渡しをお願いできないでしょうか?」
どうやらG国とエルフの方たちとの接触は穏やかに済んだようだ。争いになっていなくて安心したけれど、五十人規模となれば『村』程度の規模である。今まで人間に見つかっていないのであれば、本当に隠れ住んでいたのだろう。
今回、彼らの存在が明るみになったことで、活動領域が広がれば良いのだが。果たしてどうなるのか。一先ずは彼らが希望している石の引き渡しを行わなければと私は陛下と視線を合わせる。
「もちろんです」
本当はG国の方たちは亜人である彼らをどう捉えているのか気になるので話を聞きたいけれど……内政干渉となり得るから聞けずにいた。ただ、お願いという前振りをして私の考えを伝えることはできるはずだと、私は再度陛下と視線を合わせる。
「エルフの皆さまは石を受け取ったあと、どうなされるのでしょうか?」
「分かりません。必要最低限の言葉しか交わしておりませんので。どうにも我々は彼らに警戒されているようです」
陛下が眉尻を下げて申し訳なさそうな顔になる。これはエルフの方たちと話をしなければ、彼らのおかれている状況が分からないだろうと私はジルケさまを見た。ジルケさまもエルフの方たちと話をするのは問題ないようで、早く行こうと言いたげである。それならばと陛下との会話を切り上げ、少し場を離れることの許可を取ってエルフの一団を目指すのだった。
G国王都の壁の外にある広場には多くの民衆が集まっているのだが、彼らと離れた位置にエルフの皆さまがいる。五十人という規模は多いのか少ないのか分からないが、長命な方たちなので人間より数が少なくても問題ないのかもしれない。穏便に会話ができますようにと願いながら、ジルケさまと私とアストライアー侯爵家一行の皆さまはエルフの方たちの前に立つ。
一人、凄く髭を蓄え、しわくちゃ顔のエルフの男性が私たちに向かい礼を執る。すると彼の後ろに控えていた皆さまも恭しく頭を下げていた。礼を尽くされているならば敵対することはなさそうだと安堵して、私はジルケさまの方を見る。
ジルケさまは私が彼らと話をしろという顔になっているので、私は息を軽く吐いたあとに大きく息を吸い込んだ。
「お待たせして申し訳ありません。西大陸、アルバトロス王国にて侯爵位を賜っております、ナイ・アストライアーです」
私が名乗るとエルフの方たちが『おお、創星神さまの御使いのお方!』『この目で見ることができるなんて!』などなど、感慨の言葉を口に出していた。立派な髭を蓄えたエルフの男性が後ろへと振り返り『黙りなさい』と小さく手を上げる。そうすると声を上げていた皆さまはぴたりと言葉を発するのを止め姿勢を正す。
「エルフの里にて長老を務めております、エラシアンドリル・フェンリオナス・カルミアリエル・セリュヴァーナ・ダル=セリオンと申します」
凄く長い名前を紡いでくれたのだが、私は彼の名をきっちりと覚えられるだろうか。私が顔を引き攣らせていたのが分かったのか、ジルケさまが相手に分からないように肘打ちを軽く入れる。ただでさえ名前を覚えるのが苦手なのに、こんな長い名を告げられることになろうとは。せっかく教えて下さったけれど、既に脳味噌が覚えることを拒否している気がしてならない。
「よろしくお願い致します」
長老さんをなんと呼べば良いのだろうかと考えつつ私は礼を執る。エルフの皆さまはグイーさまの使いである私が頭を下げたことに凄く驚いているけれど、円滑に物事が運ぶのであれば私の頭くらいいくらでも下げるのだが。そう畏まらなくてもと言いたいものの、エルフの皆さまは私を殿上人のように捉えているようだ。
「いえ、突然申し出る形となりましたこと、お詫び申し上げます。そしてお忙しい中、我々の要望を受け入れてくれたことに感謝を」
「気にすんなよ、爺さん。親父殿は生き物に告げたと言っていたし、石を渡す相手は人間だけじゃねえからな」
申し訳なさそうな顔を浮かべる長老さんとエルフの皆さまにジルケさまが軽い調子で答えるのだが、エルフの皆さまは『誰だろう?』と不思議な顔になっていた。どうにも神格を最低限まで抑えているためか、エルフの皆さまに南の女神さまだと分かり辛くなっているようである。私はジルケさまが南の女神さまだと分からないのは問題だろうと口を開いた。
「南の女神さまです」
私が声を発した途端に長老さん以下エルフの皆さまが『え?』と目を丸く見開いて、地面に膝をついて両手を前に出して平伏している。
ジルケさまは私に余計なことを言うなと言いたげな顔を向けているが、親父殿と言った時点で南の女神さまと確定しているようなものだ。私を睨むのは間違いではと言いたいのを我慢して、事の行く末を見守ることにする。
「はあ。そう畏まらなくて良いぞ。あたしは親父殿に使いを頼まれたナイと一緒に回っているだけだしな。過剰に扱われるのは好きじゃねえし、敬うならナイにしておけ」
ジルケさまが大問題な発言をする。ジルケさまより私を敬えと申しているが、エルフの皆さまが勘違いして私を持ちあげるようになったら、彼女はどう責任を取ってくれるのか。
絶対、面白がって責任なんて取ってくれないと後ろに控えているヴァルトルーデさまに『末妹さまをどうにかして欲しい』とお願いすれば、即、視線を逸らされた。なんで、と声に出したいのを我慢して私は仕方なく前を向く。ジルケさまに私の気持ちがバレバレなのか、にやりと笑って更に言葉を続けた。
「構わねえだろ。親父殿に頼まれて石を運んでいるのはナイだし」
「確かに石を各国、各所に届けろと創星神さまから命を受けましたが、貴女さまが南の女神さまであることは変わりありません」
良くないですと私が否定するとジルケさまが怪訝な表情になって眉根を寄せた。一体なんだと身構えると、彼女が大きな声を出そうとする。
「うわ、ナイに『貴女さま』なんて呼ばれるの気持ち悪ぃ!」
「失礼ですね! 時と場所を考えて発言しているだけですよ!!」
本当ならジルケさまと呼びたいが、彼らの前でその名を呼んで良いのか確認を取っていない。不用意なことは言いたくないので畏まった言い方になってしまっただけと私はジルケさまに抗議しておく。
「あのう……人の身でありながら女神さまと対等な会話をしているアストライアーさまは一体……」
「普通の人間です!」
つい長老さまの声に私は勢いそのままで返してしまう。エルフの方は少し驚いているが私の言い分を聞き届けてくれるようだ。でも何故か意外な方たちが不思議そうにしていた。
「え?」
「嘘吐くなよ……ナイの魔力は人間が有せる量を軽く超えてるんだぞ。自覚ねえみたいだが」
ヴァルトルーデさまとジルケさまが私が人間ではないのではと疑惑の視線を向けている。いや、ちゃんと人間として生まれて人間として生きているので人間です。確かに備わっている魔力量が多大過ぎて、双子星の片割れに傷を付けたりしているけれど。
それは魔力量の多さが原因であって、決して人間から逸脱はしていないのだ。ただ今回はグイーさまが私を使いとして命じたから、他の方たちに人間なのかと疑われそうだけれども。事情を知っている女神さま方には言われたくない。
――アイアムヒューマン!!
と再度叫びたくなるのを我慢して、どうにか場を収めないとと私は平静を努めるのだった。