魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0666:いびり倒そう。

 若干、引いているエルフの方たちを前に引き渡し式を執り行う。村程度の規模のため、渡した石はたった一つ。とはいえグイーさまが創り給うた石はエルフの皆さまにとって貴重なものであり、凄く丁寧な扱いをしていた。

 私がペタペタ触れたり、ツンツンしていたと知れば、彼らから人外認定を受けそうである。女神さまたちが私を人間かと疑っていることを気にしてはいけないと頭を振って、石の取り扱いについての説明をエルフの方々に行う。すると長老さんが困り顔になり、私がどうされましたと聞けばおずおずと理由を教えてくれた。

 

 「もし仮に石が黒く染まった時、また人間の国を頼らねばなりません。その時はどうすれば良いかと考え込んでしまいました」

 

 確かに現状の彼らではG国の王家に頼るしかない。G国と接触しないまま私かアルバトロス王国と彼らが繋がる方法はと考えてみる。

 

 「頼りたくないのですね……エルフの皆さまの中に魔法に長けた方は? 私と直接通信ができれば良いのですが」

 

 エルフの皆さまはどうやら人間が苦手なようだ。数が多いし、今まで隠れ住んでいたのだから、頼りたくないという気持ちは理解できる。しかし西大陸のエルフの方たちよりも魔力が低そうだ。

 南大陸の人間の皆さまよりも確実に魔力は多いけれど、西大陸の魔力が多いと言われている人間や亜人連合国のエルフの方には届いていない気がする。となれば魔法で連絡を取ろうという手段は使えないはず。そういえば亜人連合国には魔法具があったけれど、彼らは魔法の技術を持っているだろうか。

 

 「超長距離通信を行える魔術具や魔法具は?」

 

 「大陸内部であれば可能ですが、海を渡るとなれば無理がありましょう」

 

 私は困り顔になっている長老さまを見てどうしたものかとジルケさまを見た。

 

 「南の女神さま、なにか方法はありませんか?」

 

 「忘れたのかよ。石が黒く染まれば大陸を管理しているあたしらが感知するって親父殿が言っていただろうが」

 

 ジルケさまが片眉を上げ呆れた声も一緒に上げる。

 

 「あ……」

 

 「たく。ナイは肝心な所で抜けてるよなあ」

 

 ジルケさまの声にヴァルトルーデさまと侯爵家一行の一部の方、というかジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまが同意している。確かに今回は私が間抜け過ぎたと反省するしかないが、普段もそんなに抜けているだろうか。ちょっとしたポカをやらかす時はあるけれど、凄く残念そうな顔をして私を見ないで欲しい。

 

 「すみません。石が黒く染まれば南の女神さまが察知してくださり回収する手筈となっております」

 

 「なるほど。そうでございましたか。それは安心できます」

 

 私が説明すれば長老さまは胸を撫でおろしていた。ジルケさまは私の横で呆れたままだけれど、なにも突っ込んでこないので説明に問題ないようである。

 

 「では、引き渡しはこれで終了となります。あと別のお話となってしまうのですが、少しお時間を宜しいでしょうか?」

 

 「創星神さまの使いの方から話があるとは光栄です。して如何しましたかな?」

 

 私が話を切り出せば長老さまは快く受け入れてくれる。有難いと心の中で礼を述べ、私はふうと息を吐いた。

 

 「西大陸には亜人連合国という国家が存在し、その中にエルフの方がおられます。亜人連合国のエルフの皆さまは他にエルフが住んでいないかと探しているのです。もし可能であれば、亜人連合国の皆さまに南大陸にエルフの方がいたと伝えたいのですが……可能でしょうか?」

 

 「なんと! 同族が生きているのですか!? 少しお待ちを!」

 

 くわっと目を見開いた長老さまがエルフの皆さまの下へと急ぐ。長老さまが私の言葉をそのままエルフの方へと伝えれば『本当に!?』『我々以外にも!』『なんという奇跡!』と口々に声を上げている。

 彼らの反応が良さそうで胸を撫でおろしていると、ヴァルトルーデさまが私の横に立ち『上手くいきそう』と小さく笑っている。事が上手く運びますようにと願っていれば、話を終えた長老さまがくるりと身体を翻し私と視線を合わせた。

 

 「教えて頂き感謝致します。是非、先方にお伝え頂きたい。我々はどんどんと数を減らし困っていた所です。別の大陸となりますが、同族が見つかったのであれば喜ばしいことでございましょう」

 

 「ありがとうございます。連絡手段が乏しいため、おそらく竜に乗ったエルフの方がG国を飛翔することになるかと……宜しいでしょうか?」

 

 凄く原始的な方法だけれど、人間と接触したくないと願う彼らと接触するとなればそれ以外に道がない。

 

 「りゅ、竜に乗った同族がやってくるのですか!?」

 

 長老さまがまたくわっと目を見開いて驚いている。そういえば南大陸には西大陸ほど竜は住んでいないのだった。

 

 「はい。今回、私が竜に乗ってこられたのは亜人連合国の皆さまの協力のお陰です」

 

 『南大陸にも竜が増えると良いんだけれどねえ』

 

 私の声に肩の上に乗っているクロが珍しく声を上げた。会談の場なのでクロが口を挟む機会はすくないのだが、竜が関係するとなれば別のようだ。

 確かに南大陸にも生息可能であるなら、竜のお方たちの活動領域が増えることになるため悪い話ではないのだろう。ジルケさまを見れば『あたしに聞くなよ。好きにすりゃ良いだろうが』と仰ってくれたので、クロが嬉しそうに尻尾をぺしぺし私の背に叩きつけている。

 

 「りゅ、竜が喋った! 大きな竜であれば喋ることができると聞いたことがありますが、肩に乗れるサイズの竜が言葉を交わせるとは!」

 

 『あ、ボクには前の竜の記憶があるからね~でも所持している魔力量が多くなると喋れるはずだから、小さくてもお話できるよ~』

 

 驚きを隠せない長老さんにクロが呑気な口調で語り掛ける。そういえばアズとネルはまだ喋れないなあと彼らの方を見れば、こてんと首を傾げていた。

 クロは『ん~ナイから漏れた魔力や魔素を貰っているから、普通の仔たちより早いはずだよ~そろそろじゃないかなあ? 多分だけれど』と教えてくれる。アズとネルがジークとリンと会話を交わせるようになれば良いのだが。アズとネルが喋るには今少しの時間が掛かりそうだと長老さんと視線を合わす。

 

 「私の提案を受け入れてくださり感謝致します」

 

 「いえいえ。我々も感謝しております故にお気になさらないでください。同族と会えることを楽しみにしております」

 

 私が礼を執れば、長老さまとエルフの皆さまも礼を執る。彼らとの別れ際、石を配り終え時間があれば里に遊びにきて下さいと請われたため、亜人連合国の皆さまと一緒にこさせて頂きますねと返しておいた。

 滞りなく終わった引き渡し式に安堵し、G国の皆さまとも別れを告げて青竜さんの背に乗る。次のH国で今日の最終訪問先となるため、彼の国に泊る手筈になっていた。青竜さんも人化して一緒にきてくれるので、西大陸ヤーバン王国の北に位置する国の王さまのようでなければ良いなと心底願うのであった。

 

 ◇

 

 ヤーバン王国、王城・執務室。

 

 陽が暮れる時となっており、窓から茜色の光が差し込んでいた。我が執務室で作業をしていれば、鼻が急にむず痒くなり出るものが出そうになったため我慢する必要はあるまいと息を思いっきり吸い込んだ。

 

 「ぶえっくしっ!」

 

 はあ、すっきりしたと執務室の椅子に腰を掛けていた私は良い顔になっていたことだろう。しかし私の有様を見た側仕えが、片眉を上げて厳しい視線を向けていた。

 

 「陛下、女性として如何なくしゃみかと。勇猛果敢なヤーバンの戦士であれば豪快な者と笑い飛ばしてくれますが、陛下は国を代表するお方。せめて外でそのようなくしゃみをなさらぬようにお気を付けください」

 

 「出るものは仕方ないと言いたいが……確かに他国の貴族の女がおもいっきりくしゃみをしている姿は見たことがないな。いや、男もか……ふむ。外では気を付けよう」

 

 側仕えの苦言に反対する理由はなかった。確かにアルバトロス王国のアストライアー侯爵の側に控えている貴族の少女がくしゃみをすることはないし、侯爵はくしゃみを嚙み殺して『くち!』くらいに留めていた。

 ジャドさまが可愛らしいくしゃみだと目を細め、侯爵に慈愛の視線を向けていたのをはっきりと覚えている。ジャドさまの慈愛に満ちた視線を受けても全く気にしていない侯爵の態度に私は少々呆れていたが……ジャドさまが落ち着いて暮らせる場所を提供している者だし、私が嫉妬しても仕方ない。ふと、侯爵のことで思い出したことがあると側仕えや部屋に控えている者たちに私は言葉を紡ぐ。

 

 「私のくしゃみはどうでも良いが、隣の国の王は馬鹿なことをしたものだ」

 

 私が皆に告げると殺気がぶわりと零れ始める。普段温和な側仕えの者さえ殺気をありありと醸し出しているのだから、本当に我が国の北に位置する隣国の王は失態を犯したと言っても過言ではないだろう。

 風の噂によれば、創星神さまの使いを務めるアストライアー侯爵に男を宛がおうとしたそうだ。もちろん侯爵が小狡い罠に掛かることはなく、予定を変更して亜人連合国へと向かったとのことである。侯爵がヤーバンを頼ってくれなかったのは残念だが、無事に亜人連合国へと辿り着き難を避けたようだ。

 

 「次の大陸会議で彼の王と話す機会を設けなければな」

 

 ふふふと私が彼の王をどう口で負かそうかと考えていれば、歳若い護衛の戦士がだんと床に足を打ち付け胸に手を当てる。どうやら私に発言をしたいようだと一つ頷けば、彼は勇ましい顔になった。

 

 「陛下、アストライアー侯爵に失礼な態度を執った国など滅びてしまえば良いでしょう」

 

 彼は、あの国を潰すためならば、我々は直ぐに出立できますと言わんばかりの視線を私に向けていた。

 

 「確かにその通りであるが、国の王が馬鹿というだけで民に罪はない。我が父上であれば、話を聞いた途端に激高して攻め入って国を潰していただろうが、我々は変わろうとしている。短絡的な行動をすべきではないだろう」

 

 短気な父であれば兵を集め、彼の国へと直ぐに出立していたことだろう。だがアルバトロス王国が抗議しているし、侯爵は彼の国を見逃して――泳がせている可能性もありそうだ――いる。ならば関係のないヤーバンが攻め入るには理由として少々足りていない。外にも目を向けるようになったのだから、各国の事情や情勢も見て行動しなければ痛い目を見るのはヤーバンだ。

 

 「失礼致しました!」

 

 若い戦士が真面目な顔で私に謝罪をするのだが、彼の気持ちは理解できる。構わない、気にするなと私は告げて執務に取り掛かろうとすると、部屋にいる他の戦士が声に出す。

 

 「しかし我々ヤーバンを野蛮な国だと侯爵殿に伝えたとも聞き及んでおります」

 

 「ほう……しかし我々の格好は西大陸の他国からすれば、品のない恥ずかしい装いと称されるからなあ……なにも言い返せないぞ。でもまあ確かに、我々を蔑んだ責任は取って貰いたいものだな。くくっ!」

 

 困り顔の戦士に私がそう返せば、何故か部屋にいる皆が顔を引き攣らせながら『陛下、ほどほどに』と告げる。まあ私の制裁を他国の王に入れるわけにはいかないし、亜人連合国の代表とアルバトロス王とアルバトロス王国と親しい王たちで彼の国をいびり倒そうと決めるのだった。

 

 ◇

 

 私たちアストライアー侯爵一行はH国でお泊りをさせて頂いているのだが凄い接待を受けていた。晩餐会も開かれ凄く豪華な料理が提供されており、味付けは濃いもののお腹を満たすことができた。魔素が少ないので少し寂しい気がするのはご愛敬だ。

 

 ジルケさまは管理している大陸の食事が懐かしいようで、目を細めながら食べていたし、ヴァルトルーデさまは珍しい料理に興味を引かれたようである。人化した青竜さんとジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまも随分な接待を受け少し引き気味であった。でもまあ女神さま方が一緒に行動しているので、これが普通の対応だよなあと西大陸のヤーバン王国の北に位置する国で受けたことを思い出し苦笑いになる。

 

 豪華な賓客室の中にあるベッドに私は腰を掛ける。

 

 側には夕飯を終えたジークとリンが護衛として控えてくれていた。ジークとリンが食べた食事もアルバトロス王国で提供される料理よりも味付けが濃かったようである。

 お城の料理人さんからレシピを頂きたいけれど、ご迷惑になるだろうか。アルバトロス王国では珍しい品がたくさんあって、香辛料を使った料理は本当に珍しい。香辛料の量を控えれば、私やアルバトロス王国の皆さまの口にも合うはずだ。エーリヒさまはカレーの作り方は知っているだろうか。なんとなく前の世界で良く聞く香辛料の名を耳にしたのだ。

 

 どこかお店に立ち寄れば良いけれど、南大陸の国々を三日で回るという強行スケジュールだから我が儘は言えない。むーと私が考え込んでいるとジークとリンが不思議そうな顔を浮かべ、肩の上に乗っているクロが私の顔を覗き込んだ。

 

 『随分と沢山の国を回ったねえ、ナイ』

 

 「そうだね、クロ。南大陸の国々もあと二日で回る計算だし、竜のお方のお陰だよ」

 

 クロが疲れていないかと私の体調を気にしてくれる。ジークとリンも無理はするなと言いたげであるが、私より一緒に付いてきてくれているそっくり兄妹とご令嬢のお二人と護衛の皆さまの方が大変だろう。

 私や女神さま方に問題が起これば彼らの責任となってしまうこともあるし精神的に疲れそうである。私も私で各国のお偉いさんを相手にしなければならないが今回の件で慣れてしまったし、南大陸はジルケさまが協力してくれているので、西大陸より物事の進みが早い。移動も超大型竜のお方のご協力で快適なのだ。堕ちた神さまがなにをするか分からない以上、石配りは必須だし我が儘は言えない。

 

 『そう言ってくれるとボクは嬉しいなあ。まあロゼは不満みたいだけれど……』

 

 クロがロゼさんの名を呼ぶと私の影の中からぴょーんと出てくる。ロゼさんは私の影の中で護衛を務めると張り切っていたので、手を出した方がいれば消し炭と化していたかもしれない。

 そういう意味では男性を宛がおうとしていた国の方々は命拾いしている。まあ今頃ヤーバン王国とアルバトロス王国と周辺国から嫌味や嫌がらせを受けているかもしれないが。

 欲を出した王さまのために、民の方が苦しむ姿は見たくはない。ないけれど……無謀な王さまをトップに据えている時点で政治として失敗しているのだ。

 民主主義なら落選運動やデモに発展しそうだけれど、民の皆さまはそこまで深く考えていないはず。そういう意味ではリバティーと名乗った方が統治している国の方が自由なのだろうか。うーんと考えているとクロとロゼさんが頭の上に疑問符を掲げているので、話を続けなければと私は口を開く。

 

 「転移を利用する機会は少ないかもしれないけれど、ロゼさんが転移できる地点が増えているから有難いかな。私は領主で治めている地の発展に尽力しなくちゃね。今回はグイーさまのお願いで動いているから仕方ないけれど」

 

 『創星神さま直々のお願いだからねえ。ナイはグイーさまに対して普通に接しているよね』

 

 ロゼさんが転移できる地点が増えていて嬉しい限りだ。でもまあ勝手に不法侵入はできないので、移動先の国へ事前に連絡を入れるか緊急用となるけれど。私はグイーさまを敬っているけれど、余りにも人間臭い所がある神さまだから普通に突っ込んだりしている。

 確かに傍から見れば驚くべきことかもしれないが、グイーさまたちが神さまっぽくないのがいけないのである。彼らの娘であるヴァルトルーデさまとジルケさまはベッドの側にあるテーブルに置かれた果物を美味しそうに頬張っている最中だし。アルバトロス王国よりも南に位置しているためか南国系のフルーツが多く用意されていた。ヴァルトルーデさまはそれらが珍しいようだし、ジルケさまは懐かしいなと食しているようである。本当に人間臭いというか、良く食べるなあという気持ちが大きい。

 

 「そうかな……どうなんだろう? そもそも神さま方に対してどういう態度を執れば正解なのか良くわかっていないかも」

 

 『まあ前のボクも西の女神さまと気付かずにお話していたし、そんなものなのかもしれないねえ。あ、ソフィーアとセレスティアはお話できているかな?』

 

 一応、グイーさまと女神さま方を慮っているし、神ではないと否定する気持ちは一切ない。クロもご意見番さま時代にヴァルトルーデさまと普通に会話していたようなので、あまり人のことを言えないと照れ臭そうにしている。クロが気にしているソフィーアさまとセレスティアさまはH国上層部の方たちと外交関係の話をしている最中だ。私も参加した方が良いのではと問うてみたが、女神さま方を頼むと言われたし、良く分からない話になれば私は力になれないことの方が多い。

 それならソフィーアさまとセレスティアさまに任せてしまった方が良いだろうと、お二人に会談の場に立って貰うようにお願いしたのだ。だから今、ソフィーアさまとセレスティアさまは部屋にいなかったのである。

 

 「心配は必要ないはずだよ。護衛の方たちとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんが影の中で待機してくれているしね」

 

 彼女たちの身になにかあればハイゼンベルグ公爵家とヴァイセンベルク辺境伯家に顔向けできない。そのためヴァナルと雪さんたちに護衛をお願いしていた。もちろん侯爵家からの護衛も忘れてはいない。

 お二人だけで赴けばH国の皆さまは驚くだろうし、なにかしてやろうと画策する方も出てくるかもしれないのだから。護衛の方には強面の方を選んであるし、我が家の精鋭ですとも説明している。

 ジークとリンにお二人の護衛をお願いしても良かったのだが、私付きの護衛としているので体面上向こうへは行けない。さてはて、会談の場でどんな話をしているのやらと、美味しそうに果物を食べているヴァルトルーデさまとジルケさまに私も交ぜてくださいとお願いするのだった。

 

 ◇

 

 ――H国王都・王城会議室。

 

 広い会議室にはH国上層部の多くの者たちが集まっていた。三年前の私、ソフィーア・ハイゼンベルグであれば今のような場面では凄く緊張していたに違いない。私が仕えているナイのやらかしに慣れてしまったのか、国家を運営している大勢の者たちに囲まれ自営の面々が私とセレスティアだけ――もちろん護衛はいる――しかいない場面でも堂々と胸を張れている。

 

 セレスティアはヴァナルとフソウの神獣さまが影の中で警護を務めてくれていることが嬉しいことなのか、凄く良い顔をして私の隣に座している。彼女もまた眼前の大勢の者たちを前にしても、臆していない。元々の彼女の性格もあるのだろうが、ナイの側仕えを務めヴァナルたちが護衛を担ってくれているため恐れる必要はないと考えているようだ。

 むしろH国の者が馬鹿な態度を執れば、ヴァナルと神獣さまを彼らに見せつけてアストライアー侯爵家の威光を翳したいと思い描いている可能性がある。そうならないようにと私は願いながら前を向けば、相手の国の王が脂汗を掻きながら視線を合わせた。

 

 「何故、人間が創星神さまの御使いという使命を請け負っておられるのですか!?」

 

 「いろいろな経緯があり、我が主であるアストライアー侯爵を創星神さまが選ばれたというだけです」

 

 彼が驚くのは仕方ない。ナイが創星神さまの御使いとなったのには奇跡が重なったとしか言えないのだが、目の前の彼らに説明をしても信じて貰えないだろう。勝手に詳しく語るわけにはいかないし、伝え方は随分と暈したものとなる。

 

 「創星神さまのお告げを皆さま見たはずでは? 我が主を疑うということは、創星神さまを疑うも同義でございましょう?」

 

 セレスティアが強めの言葉で相手に牽制を掛ける。まるで余計なことをすれば神から罰を受けるとでも言いたげに。南の女神であるジルケさまは愚かな人間に罰を与えていたので、南大陸の者たちには恐れられている。

 彼女の言は目の前の彼らに効果が絶大なようで、ぐっと息を呑んでいた。ふふふと好戦的に笑っているセレスティアに私は『やり過ぎるなよ』と小声で制す。とはいえ馬鹿な真似をされれば国を潰す勢いの抗議をしなければならないので、抑止となるのであれば丁度良いのだが。加減が難しいなと少しばかり目を細めていると、またH国の王が声を出す。

 

 「南の女神さまだけかと思いきや、西の女神さままで同席なされているとは……何故、教えてくれなかったのですか!?」

 

 うぐぐと歯噛みしている王の顔色は優れない。まあ確かに南の女神さまだけでも緊張するというのに、西の女神さままで同席しているとなれば驚くだろう。その点を踏まえればアガレス帝国と共和国、そしてミズガルズ神聖大帝国の上層部の皆さまは肝が据わっていた。四女神さまが揃って登場なされても、驚き緊張しているものの、こうして我々に愚痴を吐くことはしなかったのだから。

 逆に考えてみるとアストライアー侯爵邸の環境になれてしまい、普通に女神さま方と時折屋敷を訪れるグイーさまとテラさまを受け入れている私も私であるが。

 セレスティアと屋敷の者たちも環境に慣れて受け入れているため、感覚が麻痺しているようである。とはいえ過剰に女神さまを恐れている彼らの姿は、ある程度神さま方の存在に慣れた私たちには大袈裟に見えてしまう。

 

 「お伝えしていれば過剰な歓待を受けてしまう、と西の女神さまと我が主が黙っていようと決められたのです。貴方方が妙な態度や考えを見せなければ、問題なく石の引き渡し式を完了できましょう。本日は宿を求めて貴国にお願いをした形となりますので、我々と共に西の女神さまがいることを告げたまで」

 

 「う、うぅ……」

 

 どうやら眼前の陛下もH国の上層部の者たちも、今回の出来事は想定外だったようである。とはいえ一国の王が他国の者の前で情けない顔をしながら鳩尾を押さえないで欲しい。

 虚勢で良いから、胸を張り王として務めて欲しいと願うばかりである。周りの者たちも『陛下、おいたわしや……』と困り顔になっているのだが、これから始める協議をきちんと終えることができるのか。私は誰にもわからないように小さく息を吐いていれば、セレスティアが鉄扇を広げて口元を隠した。普通の扇では鳴らない音にH国の者たちは目を丸くしている。

 

 「陛下、そう悩まれずとも。南の女神さまが王城で一泊されたと周辺国が知れば貴国の価値は上がりましょう。過剰に女神さまを利用するのは頂けませんが、自然と貴国の評価が上がるのであれば良いことです」

 

 セレスティアが眼前の王に状況を利用しろと告げる。眼前の王は『ええ……』と引いているのだが、お爺さまであれば完全に状況を利用して、周囲の国から頭一つ抜けようと画策するだろう。おそらくアルバトロス王も。眼前の王には胆力が足りないと私はまた小さく息を吐き、我が主が求めている香辛料の新規購入ルートを築き上げようと話を進めるのだった。

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