魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0668:派手な出迎え。

 アルバトロス王都の壁の外にある空き地に青竜さんが降り立った。何故かその場には近衛騎士の方が待ち構えており、私は青竜さまの背の上にいる方たちを見てどうしたのかと首を捻る。

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまは『大仕事を終えたから、城からの迎えだろう』『謁見を執り行うよう予定ですので、迎えの者がいるのは当然でございましょう』と当たり前のように言い放つ。

 ご令嬢のお二人が愚問だと言いたげなので、私はジークとリンの方を見る。ジークとリンは『諦めろ』『ナイは凄いんだから、当然』と言いたいようである。ヴァルトルーデさまとジルケさまは『どうしてだろうね?』『いてもおかしくはねえのか』と眼下に映る近衛騎士さまを見ていた。お迎えは有難いけれど、大仰にはして欲しくないなあと私は皆さまに降りようと告げる。

 

 「青竜さま、四日間ありがとうございました」

 

 『いえいえ。ナイさんたちが一番苦労をなさっておりますし、女神さま方を乗せて空を飛べたことは光栄の極み。また御用があればお申し付けくださいね』

 

 私は降りると青竜さんにお礼を言えないと考えて彼の背の上で声を掛ける。魔力を練ると嬉しそうに顔をぐっと身体の方に回して、私たちと青竜さんの視線が合う。

 竜のお方だから多く魔力を譲渡しても大丈夫と、多めに練って放出しておく。青竜さんは目を細めながらお礼を述べて、代表さま方に南大陸にてエルフの方たちを見つけたと伝えてくれるそうだ。私も亜人連合国の皆さまに報告しますと言い残して彼の背から降りれば、近衛騎士の方が近づいてきてばっと敬礼を執った。

 

 「女神さま、アストライアー侯爵閣下、お疲れさまでした! 城へのご案内を陛下より申し付けられております。どうぞ、馬車へお乗りください!!」

 

 ビシッと背を正し敬礼を執った近衛騎士の方は私と視線を合わさずに少し上を見ていた。声が少々上擦っているので緊張しているようである。ヴァルトルーデさまとジルケさまが私と一緒にいるのはアルバトロス上層部の皆さまには周知されていた。目の前の近衛騎士の方と視線が合わないのは致し方ないのだろうと私は口を開いた。

 

 「任務、ご苦労さまです。承知致しました、城まで宜しくお願い致します。女神さま方は城に向かいますか? 行かないのであれば侯爵邸に寄って貰って、そこで女神さま方を降ろして貰おうかと考えていますが」

 

 私は緊張している近衛騎士の方から視線を外して後ろを振り向き、二柱さまにお城へ行くか確認を執る。謁見があるので直ぐに城に向かうと伝えてはいたものの、女神さまがどうするかまでは聞いていなかったのだ。

 王都のタウンハウスである侯爵邸であれば城に程近い位置にあるから、少し時間を食ってしまうけれど移動可能な距離だ。女神さま方が城に行きたくないのであれば、侯爵邸に戻ってゆっくりして貰えば良い。屋敷の皆さまは驚くかもしれないが、女神さま方を知らない人たちではないので対処できる。

 

 「ナイがいるなら行く」

 

 「親父殿の命だしな。アルバトロス王国も関わってるんだから、顔出しといた方が良いだろ。けどよ、あたしらなんかに礼儀を求められても困るぞ?」

 

 ヴァルトルーデさまはお城に興味があるのか即答だった。ジルケさまも問題ないようだし、グイーさまからの命令で動いているから、お仕事の範疇に捉えてくれたようである。

 女神さま方なのだから礼儀なんて気にする必要はないし、むしろ私たちの方が女神さま方に敬意を払わなければならない。そういえば一緒に過ごすようになって敬意というものが少なくなってきていた。

 改めた方が良いかなと一瞬頭に過るものの、おそらく私が恭しい態度を執れば女神さま方には『ナイに似合わない』『気持ち悪ぃ』と言われてしまうだろう。自然体が良さそうだし、場面場面で態度を改めていれば問題なかろうと、私は礼義を気にしているジルケさまに苦笑いを浮かべる。

 

 「それは気になさらなくて良いかと。では、申し訳ありませんが、女神さま方も一緒に城まで連れて行ってくださると幸いです」

 

 「も、もも、勿論でございます!! 乗り心地が悪いかもしれませんが、どうかご容赦を!!」

 

 私が前を向けば近衛騎士の方が更に緊張した様子を見せている。隊長格の彼と部下の方であろう人たちが二十人ほどいるのだが、皆さま動きがぎこちない。大丈夫かと私が首を捻っていると豪華な馬車の中へ乗るようにとお願いされる。

 私はヴァルトルーデさまとジルケさまのエスコートを担い中へと入って貰えば、リンが私のエスコートを担ってくれた。恐らく城に着けば人目が多くなるので、ジークより先に彼女がエスコートをしてくれたようである。

 

 「ありがとう。疲れているのに、ごめんね。ジーク、リン。護衛、よろしくお願いします」

 

 馬車に乗り込んだ私は扉の所でそっくり兄妹と視線を合わせる。本当は屋敷に戻って休みたいけれど、お仕事はまだ続く。ジークとリンは馬車移動ではなく、徒歩で護衛に就いてくれるので結構大変なのだ。

 

 「大丈夫。戻ったら、ご飯一杯食べて、ゆっくりしようね」

 

 「そうだな。やることは多いが、屋敷なら落ち着いてできる」

 

 小さく笑みを浮かべた二人には本当に感謝しかない。いつも一緒にいてくれるし、私の護衛のために苦労をしている。お給金見直すべきかと考えつつ、私は座席へと身体を向けた。するとヴァルトルーデさまがぽんぽんと座席を叩いてここに座れと指示したため、私は彼女に言われた通りに腰を下ろす。だが。

 

 「どうして真ん中」

 

 と凄く言いたい。というより勝手に口から言葉が漏れていた。すると少し遅れてソフィーアさまとセレスティアさまが一緒の馬車へと乗り込んできた。お二人は私たちを見て必然と腰を下ろすべき位置を把握したようで、すすすと対面の座席へと腰を下ろす。

 

 「ソフィーアとセレスティアが前に座るから」

 

 ヴァルトルーデさまはお二人の方へと顔を向けてドヤ顔を披露していた。何故ドヤ顔になると突っ込みたい。

 

 「あたしは姉御の隣は慣れねえからな。ナイが真ん中にいてくれると助かる」

 

 ジルケさまは私が真ん中の方が都合が良いそうだが、今の言葉を聞いたヴァルトルーデさまが落ち込まないだろうか。大丈夫かとヴァルトルーデさまに視線を向ければ、特に気にしていない様子である。イマイチ姉妹の仲の良さが分からないと私が首を捻っていると、八頭立ての豪華な馬車がゆっくりと動き始める。

 

 「あれ、八頭立て……凄い人が乗ってるとなりませんか?」

 

 私の声に『そうなの?』と首を傾げたヴァルトルーデさまと『馬を八頭もいらねえだろ』とジルケさまは渋い顔になる。私の声を聞き届けていたソフィーアさまは片眉を上げ、セレスティアさまは鉄扇を開いた。

 

 「当然だ」

 

 「ええ。しかもわたくしたちが乗っている馬車は、王家の関係者が乗っていると示すものですわ」

 

 確かに八頭立ての馬車が王都の道を走ることは滅多にないし豪華な馬車は凄く目立つ。

 

 「おそらく王都の人間が誰が乗っているのかと、道沿いに集まるだろうな」

 

 「近衛騎士の方もいらっしゃいますわ。ナイ、気が向けば窓から顔を出して、手を振ってみては如何でしょう?」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまは小さく笑っているが、私が窓から手を振っても仕方ないような。グイーさまがご降臨して代わりに手を振ってくれれば良いのに。

 

 「陛下ではありませんし、止めておきます。恥ずかしいですしね」

 

 私は窓から手を振ることはないと、ソフィーアさまとセレスティアさまに伝えておく。日本の象徴の皆さまのように、私は王都の皆さまから尊敬や畏敬されているわけではない。

 グイーさまからたまたま神の御使いとして選ばれただけだから、仕事を粛々と捌いていくのみである。ソフィーアさまとセレスティアさまは私の返事を聞いてもなにも言わなかった。

 おそらく私が馬車の窓から手を振るような性格ではないと知っているのだろう。知っていても言葉にしたのは、万に一つの可能性にかけたからなのか。それとも単に話のネタとして出したのか。私より、ヴァルトルーデさまの方が馬車からのお手振りに興味を持ったようである。

 

 「私が手を振れば、女神と分かる?」

 

 小さく首を傾げてソフィーアさまとセレスティアさまに彼女は問うた。

 

 「勘の良い者は気付くでしょう」

 

 「グイーさまのお下知でナイの姿は皆に知られていますもの。その隣にいらっしゃるのが女神さまだと聡い者は分かりましょう」

 

 ヴァルトルーデさまのお姿は王都の人たちにはあまり浸透していない。けれどお二人が仰ったように、私が一緒にいることを気付けたならば女神さまかもと分かるのではなかろうか。

 

 「じゃあ、止める」

 

 西の女神さまはまだ王都の門へと入っていない景色を見つめているのだが、ジルケさまが肩を竦め、ソフィーアさまとセレスティアさまは苦笑いを浮かべていた。そうして王都と外を隔てている大門を抜けて、真っ直ぐ続く道が現れる。

 その道を進めば王都へと辿り着くのだが、馬車に乗っていても結構な時間を要する。流石にアガレス帝国の帝都規模ではないけれど、アルバトロス王都は結構広い。ジークとリンは大丈夫かなと窓の外に私は視線を向けた。周囲を警戒しているそっくり兄妹と近衛騎士の方たちは真剣な表情だ。有難いと目を細めれば、また馬車がゆっくりと進み始める。

 

 暫くすると、人が集まってきたのか外が騒がしくなってきた。なんとなく『侯爵閣下ー!』『女神さまはおられないのか!?』『邪竜殺しの英雄がいるなら、アストライアー侯爵だ!』と外の声が馬車の中まで聞こえてきた。

 外を確認したいけれど女神さま方が窓側に腰を下ろしているので距離があるし、私が馬車の窓から顔を覗かせれば更に外が盛り上がりそうだ。うーん……騒ぎにするつもりはなかったのに、まさか王都の皆さまがここまで盛り上がっているのは想定外である。

 

 「誰かが情報を流したのか?」

 

 ジルケさまが片眉を上げながら不思議そうに声を上げる。確かに誰かが私が王城に向かっていると漏らした可能性もあるけれど、先程ソフィーアさまとセレスティアさまが言っていた通りのことが起きていそうだ。

 

 「近衛騎士の方が多く、都の外へ向かった所は見ていましょう。それに先程、竜の方が外の広場に降り立ち、亜人連合国の方へと飛んでいかれましたから。馬車も八頭立てと随分と立派ですもの、乗っている者は自ずと限られてしまいます」

 

 セレスティアさまが再度ジルケさまに説明をしている。私も彼女と考えは同じだし、ソフィーアさまもなにも言わないので同意しているのだろう。ヴァルトルーデさまは外の騒ぎを『凄い』と感心しているようである。

 

 「必然、私となってしまいますね……」

 

 こうも条件が揃ってしまえば、私しかいなくなる。しまった。ロゼさんの転移で一気に王城へ行っても良かったか。もしくは魔術師の方に転移をお願いしても良かったかもしれない。とはいえ、もう馬車に乗り込んで王都の中へと入ったのだから覚悟を決めるしかないのだろう。最悪の場合、私が外の皆さまに手を振る場合もあるなと覚悟を決めお城を目指すのだった。

 

 ◇

 

 アルバトロス城へ入る直前も人だかりができていて、馬車の中に外の声が届いていた。警備の方たちは凄く大変だっただろうと馬車から降りると、ジークとリンが珍しく疲れた表情を浮かべている。

 早く戻ってゆっくりしようと言い、ヴァルトルーデさまとジルケさまとソフィーアさまとセレスティアさまにも用事を済ませてしまおうと伝えれば同意の言葉が返ってくる。しかし王城の中も人が集まってきており、こちらも人だかりができ始めていた。揉みくちゃにされることはないだろうけれど、早く建屋の中に入って陛下との謁見を済ませたい。

 

 「お城の中まで……」

 

 私は道を歩きながら、集まった方々の視線を受けている。自然とぼやいてしまったのは仕方のないことだろう。ヴァナルとユキさんと夜さんと華さんは余計に騒がしくなると私の影の中で待機してくれていた。毛玉ちゃんたちは周りの方々に興味があるのか、私の隣を歩いてみたり、後ろへ移動して女神さまがたに鼻ちょんを強請ってみたり、ソフィーアさまとセレスティアさまに笑顔を振りまいていたりと忙しい。

 ジークとリンに絡まないのはそっくり兄妹が真面目に護衛を務めているからだろう。偶に毛玉ちゃんたちはきちんと空気を読むなと感心していると、桜ちゃんがてててと私の方へと走ってくる。なんだと私が彼女を見ると『しちゅれい!』と言いたげに、お尻でアタックをかましてくる。痛くないから良いけれど器用なことをするものだ。

 

 私のぼやきは二柱さまとソフィーアさまとセレスティアさまの耳に確りと届いていたようで、ヴァルトルーデさまとジルケさまは『凄い人』『飽きねえなあ』とぼやき、ご令嬢のお二人は私を見ながら小さく肩を竦める。

 

 「当然だろう。四大陸のすべての国々を短時間で渡り切ったからな」

 

 「ええ。皆さま、ナイと女神さまのことが気になって仕方ないのでございましょう」

 

 ふうとソフィーアさまは小さく息を吐き、セレスティアさまはふふふと良い顔を浮かべて笑っている。道から建屋の中に入れば、視線の数が随分と減っていた。

 

 確かに私は四大陸の国々を短時間で渡り歩いたのだが、東と北大陸は国の数が少ない。

 

 もし西と南のように小国の集まった大陸であったならば、もっと時間が掛かっていたに違いない。グイーさまの予知夢のお陰で皆さま協力的だった――取り繕っている方もいるだろうけれど――ので凄く手間が省けたはず。

 神さまに対して信仰が強いお陰ということもある。現代の地球であれば、凄い国の数を回り、協力的な国や受け入れ拒否をする国とかあるのだろうと意識が遠くなりそうだった。なんとなく天井に視線を向けると私の手に冷たい感覚と水気を感じ、なんだろうと右手の方に視線が勝手に移動する。そこには桜ちゃんが強気な顔を浮かべて私を見上げていた。

 

 『にゃい!』

 

 「どうしたの、桜ちゃん」

 

 桜ちゃんに名前を呼ばれたので私が首を傾げると、彼女は歩きながら尻尾をピンと立てる。

 

 『にゃえ、むく! あぶにゃい!』

 

 桜ちゃんも私を見ているので前を見ていないのだが、突っ込むのは野暮だろうか。桜ちゃんは言い終えると、前を向いて建屋の中の廊下を真っ直ぐ歩いている。私が天井を見ていたから悪いのかと片眉を上げ、後ろ手で頭を掻きながら素直に言葉を紡いだ。

 

 「はい。ごめんなさい」

 

 私が桜ちゃんに謝ると、ちらりと彼女が私を見て『どやあ……!』という雰囲気を醸し出す。私は桜ちゃんのご機嫌が良いなら構わないかと小さく笑っていれば、後ろを歩くソフィーアさまとセレスティアさまが笑いを堪えていた。

 

 「サクラに怒られたな」

 

 「羨ましいですわ」

 

 見事に怒られたのだが、某辺境伯令嬢さまは毛玉ちゃんたちに怒られたいようである。そんな機会はなさそうだけれどと私が苦笑いを浮かべると、ヴァルトルーデさまとジルケさまは呆れながら肩を竦める。

 

 「前を向いていないナイが悪い」

 

 「毛玉に注意を受けるなんてな」

 

 皆さま、私に手厳しくないですかという言葉を飲み込めば、謁見場の隣にある控室へと辿り着く。恐らく今頃は謁見に参加する方は会場の方へと移動しているだろう。

 近衛騎士さまに案内され椅子に腰を下ろす。私の左右にヴァルトルーデさまとジルケさまが座っているのだが、間にちょこんちょこんと毛玉ちゃんたちが床にお尻を降ろしていた。

 ソフィーアさまとセレスティアさまは立ったままで待機するようである。ジークとリンは護衛としてもちろん立ったままだ。ふと近衛騎士の偉い方が私に近寄ってきて敬礼を執る。本来であれば立って答礼するのが筋ではあるが、必要はないはずとそのまま私は彼と視線を合わせた。

 

 「陛下から閣下にお伝えすることがあります」

 

 彼は真面目な顔で伝え、私は私で続きを促す。陛下から一体なにを言われてしまうのだろうと身構えてしまうのは、多分きっと癖のようなものだろう。

 

 「謁見場にはいつもより多くの方が集まっているので、少し窮屈かもしれないとのこと!」

 

 なんだ、そんなことか。謁見場は窮屈かもしれないが、陛下と謁見をする私にはあまり関係のないことである。花道には誰もいないので、両サイドのお貴族さま方が控えている場が混みあっているはずだ。その中に入りたくないなと小さく片眉を上げた私は返答すべく声を紡ぐ。

 

 「承知致しました。問題ありません。お気遣いありがとうございますと陛下にお伝え頂けますか?」

 

 「は! ご了承、感謝致します!」

 

 私が分かりましたと伝えれば、近衛騎士の方はまた礼を執り場を颯爽と去って行った。陛下に伝えに行くのだろうけれど、私にそこまで気を使わなくても良いような。でもまあ、事前に知らせてくれるのは有難い。もしかすれば私宛の言葉ではなく、同席している女神さまに対してのものかもしれないのだから。

 

 「貴族の皆さまも興味津々なんですね。忙しいはずなのに」

 

 領地運営や官僚務めの方には仕事がたくさんあるはずだ。私も留守にしている間の分の仕事が溜まっているので、少し休めばすぐに執務に戻る予定である。ユーリと遊びたいけれど、溜まった書類を捌いてからだ。

 ユーリはアンファンのことを『ねーね』と呼び、サフィールのことは『にーに』と呼んでいる。ユーリは私のことをいつ『ねーね』と呼んでくれるのだろうか。それとも大陸を駆け回っている間にまた距離が開いてはいないだろうか。ユーリに『だあれ?』と言われた日にはショックで立ち直れないはず。家宰さまが仕事をなるべく減らしてくれていることを期待しよう。私がいろいろと悩んでいればソフィーアさまとセレスティアさまが苦笑いを浮かべていた。

 

 「それはそうだ」

 

 「諦めてくださいませ」

 

 謁見場が騒がしいことは諦めよう。この世界の神さまの地位は凄く高いのだから。そういえばヴァルトルーデさまとジルケさまは謁見場でどう振舞うつもりなのだろうかと、私は気になったことを聞いてみる。

 

 「ヴァルトルーデさまとジルケさまは謁見場に向かいますか?」

 

 陛下方と一部の方は二柱さまのご尊顔を知っている。ただ知らない方もまだ多いので、正体を隠すつもりなのだろうか。

 

 「謁見場には行く。ソフィーアとセレスティアの隣にいる」

 

 「側仕えのフリしとくぞ」

 

 ヴァルトルーデさまは念のために私の魔術具を身に着けるようだ。そういえば側仕えを四人も控えさせているのは高位のお貴族さまか王族の方くらいである

 私が四人も侍らせれば不自然ではと思い至るが、侯爵位は高位貴族となるためなんらおかしいことではなかった。ヴァルトルーデさまとジルケさまを側仕え扱いしているのはおかしいけれど、控室にいる近衛騎士さまに事情を話して陛下方に私たちの側の状況を伝えて貰う。これで大丈夫だろうと暫く待っていれば、謁見場へどうぞと案内役の近衛騎士の方がやってきた。凄く緊張しており大丈夫かと心配になってくる。

 

 「で、では、陛下の前へとお進みください」

 

 礼を執りながら近衛騎士の方たちが大きな扉を開いてくれる。赤い絨毯が敷かれた先には大きな玉座が鎮座しており、陛下は既に腰を下ろしているようだ。待たせてはいけないと私は歩を進めれば、毛玉ちゃんたちとジークとリンが続き、更に後ろにはソフィーアさまとセレスティアさま、側仕えに扮しているヴァルトルーデさまとジルケさまも一緒だ。

 

 会場は静まり返っている。いつもであれば誰かの喋り声がしていてもおかしくはない。でも今日は本当に誰もなにも口にしていないようだ。

 

 歩き始めて直ぐ、下座になる位置にボルドー男爵さまが面白そうな顔を浮かべて人並みの中に紛れ込んでいる。隠れているつもりだろうが、覇気があるので凄く分かりやすい。

 愉快そうな顔をしないでくださいと私が視線を飛ばせば、彼は報告期待しているぞと言いたげな顔になる。引退しても変わらないなと前を向き、また歩を進めて真ん中あたりを見つめると、メンガー伯爵さまが青い顔を浮かべ、フェルカー伯爵さまが目線を下げている。ふいに凄く体型がふくよかな方が視界にはいるのだが、少しくらい痩せた方が健康に良さそうだと視線を外した。

 

 更に進んで上座の辺りを歩いていると、ハイゼンベルグ公爵閣下とヴァイセンベルク辺境伯閣下が目を丸くしながらこちらを見ている。リヒター侯爵閣下もおり、顔を引き攣らせていた気がした。

 彼らは二柱さまを知っているから、そんな後ろを歩かせて良いのか!? と言いたいようだが、女神さま方の希望なので諦めて欲しい。玉座の前へと辿り着けば、玉座には陛下が真剣な顔を浮かべ、彼の後ろには王妃殿下と王太子夫妻と第二王子殿下と婚約者の方が一緒に控えている。

 

 やはり一国を背負う方には確りとした表情が似合っている。

 

 最近、陛下が鳩尾辺りを押さえているところを良く見ていたが、今日は手を当てていない。調子が良くなったのであればなによりだし、まだ悪いのであれば聖女を頼るか、お薬を探すかした方が良いのではと考えていた。私の杞憂に終われば良いなと目を細めれば、陛下がゆっくりと口を開いた。

 

 「アストライアー侯爵、創星神さまからの命を受け大義を果たしたこと誠に苦労であった。しかしながらまだ問題が解決したわけではない。我々、アルバトロス王国も侯爵家の力になろう。今後も創星神さまの使者として立派に務めを果たせ」

 

 「国王陛下、過分なお言葉痛み入ります。創星神さまから受けた使命を果たすため、全身全霊をかけ邁進して参ります」

 

 「うむ」

 

 私が返事をすれば陛下が短く答えてくれた。陛下方が下がって行くところを見送っていれば、解散の雰囲気を感じ取った謁見場の皆さまが声を上げ始める。流石に陛下がいらっしゃる場ではお喋りは難しかったようだ。

 ふうと私が息を吐けば、ハイゼンベルグ公爵閣下とヴァイセンベルク辺境伯閣下がこちらへきたそうな顔を浮かべて私を見ている。女神さまが同席しているから私に近づいて良いのかと考えあぐねているようだ。私は問題ないと彼らと視線を合わせて上座の方へと進む。私が動けば侯爵家の皆さまも一緒に動く。当然、二柱さまも引き連れるのだが、側仕えのフリをしているのだから問題あるまい。まあお二方は女神さまのご尊顔を知っているので、内心驚いているかもしれないが。

 

 「お久しぶりです。ハイゼンベルグ公爵閣下、ヴァイセンベルク辺境伯閣下」

 

 私が礼を執れば、背後に控えているソフィーアさまとセレスティアさまが妙な気配を醸し出していた。失礼のないようにと心配しているのか、私が親御さんと挨拶していることが気恥しいのか。良く分からないので、一先ず失礼のないようにと後ろ盾である私は彼らと視線を合わせる。

 

 「貴殿に閣下と呼ばれるのは気が引けますな」

 

 「ですなあ。本当に三年間、奇跡を見せて頂いている」

 

 「まだまだ新興の貴族家ですから、二家を頼ることがあるかと。ご助力を頂ければ幸いです」

 

 片眉を上げながら苦笑いをしているお二人に私はまだまだお世話になる気であると伝えておく。急に侯爵位まで成り上がったために人手が足りていないところもあれば、私が貴族としてちゃらんぽらんなところもある。

 頼れる方は多い方が良いだろうと下心丸出しでお願いしておいた。目の前のお二方も私の事情を理解しているため快く引き受けてくれる。そうして何度かやり取りをしつつ女神さま方とも挨拶をして、次はリヒター侯爵さまの下へと向かった。

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまは挨拶回りは大事だと私のことを止めることはないし、ヴァルトルーデさまとジルケさまも私が皆さまと挨拶をしているところが面白いようである。

 ジークとリンには申し訳ないけれど、あと少し耐えて欲しいとお願いしてリヒター侯爵さまと挨拶を交わし、メンガー伯爵さまとロステート伯爵さまとも顔を付き合わせて一言二言交わしておいた。

 そうしてボルドー男爵さまの下へ行こうとしたところに、ふいに影が差し私を見下ろす方がいた。この方は先程私が少し痩せた方が良いのではと直ぐに視線を逸らした方である。伯爵位を持つ方たちの一団の中にいたから伯爵位を持っているのだろう。ぶつかる寸前で止まった私は――はて、なにかようかと彼と視線を合わせた。

 

 「失礼致しました」

 

 「いえいえ、アストライアー侯爵殿。貴殿の道を塞いでしまい申し訳ない。この通りの体型でしてな」

 

 「少し顔色が宜しくありません。運動することをお勧めいたします。では」

 

 短く言葉を交わして場を離れる。少しの間、先程の彼が私を見つめているようだが、一体なんだろうか。不意の出来事だったから彼を視界に捉えておらず、突然現れたことは驚いたけれども。まあ良いかと頭を振ってボルドー男爵さまの下へ行こうとすれば、ロステート伯爵さまが青い顔を浮かべて私の前で礼を執るのだった。

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