魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0067:亜人連合入口。

 視線を上に上げ障壁を張るために、詠唱を唱えようと口を開こうとした瞬間、目に映ったもの。

 

 ――何、これ。

 

 一言で表すならば三十センチくらいの光る玉が、馬車の天井近くに浮いている。こちらへと来る様子はなく、とりあえず障壁を張った。

 

 「障壁を展開させたので、大丈夫だと思いますが……」

 

 大丈夫、なのだろうか。心霊現象じゃあないよね、コレ。ほら、死んだ人の魂がウロウロしているとか……。科学的に説明のつかないオカルト系は苦手である。魔術とかあるし、ファンタジーみたいな世界だから竜はまだわかるけど、UFOとか幽霊系はご遠慮頂きたい。

 

 「これは……一体……」

 

 「とりあえず馬車を止めて、様子をみませんか」

 

 「だね。もう亜人の国へ入っているから、何が起こってもおかしくはないし、私たちの価値観で判断する訳にはいかないから」

 

 驚いた様子で声を上げるソフィーアさまと、動く様子のない光の玉を凝視しつつとりあえず避難をと宰相補佐さまに、その言葉に同意する第一王子殿下。

 御者の人に声を掛けて馬車を止めると、外の護衛の人たちが動揺をみせている。陽を見て思わず目を細めると、話し込んでいた間で随分と移動していたようだ。景色が一変してる。 外では何も起こっていないようで、一体何事かと護衛の人たちが騒ぎ始めた。

 

 「どういたしました、殿下っ!?」

 

 「いや……馬車の中に突然光るものが表れてね。聖女さまが障壁を張ってくれたが……手を出す訳にはいかないし少し様子見だ」

 

 「はっ!」

 

 止めた馬車から全員が離れる。暫くすると馬車の中から光の玉が壁を抜けて現れた。その様子に驚きの声を上げる護衛の人たち。

 殿下たちを守る、近衛騎士の人たちの緊張感が一気に高まる。そうして馬車から抜け出て、暫く滞空していた光の玉が動き始めた。

 

 スピードはそんなに速くはない、ゆっくりと私たちの方へとやってくるので、もう一回全員を守るように障壁を展開させた。

 一本道で、左右は壁というか崖である。道幅が狭いという訳ではないが、逃げ場の選択肢がとても少なく動くのもままならない。

 

 「――……嘘」

 

 障壁を抜けられた。脅威はなさそうだけれど、何が起こるか分からない。これ、副団長さまが居れば解説してくれたのだろうか。肝心な時に居ないと愚痴りたくなるけれど、あの人も国からの命令に従ったのだろう。副団長さまなら、二つ返事で使節団に組み込まれていただろうし。

 

 「っ! 逃げてくださいっ! 何が起こるか分かりませんっ!!」

 

 舌打ちしそうになるのを堪えて、逃げて欲しいと告げる。

 

 「殿下、こちらへ!」

 

 騎士の人たちに囲まれながら、光の玉から距離を取る殿下。

 

 「…………あれ?」

 

 なんで私の方に、来るの……。ゆっくりとこちらへと寄って来ている為か、ジークとリンが私の前に出る。

 

 「脅威は全く感じないが……」

 

 「うん。……え」 

 

 ふよふよと空に浮きゆっくりと距離を詰めてくるだけ。ジークとリンが警戒を緩めて、何となく一歩前に出た。手を出して良いものか悪いのかが分からなくて、判断に困ってる。周りの人たちも同じ様子で、状況を見守るしかないようだ。

 

 「ん?」

 

 「は」

 

 「え」

 

 光る玉の中身が見えた。人……羽の生えた小さい人が居る。各々声を上げ、驚きを隠せない。何だろう、妖精っぽいのだけれど。

 マジと思うけれど竜も居る世界だった。しかも亜人も居るし、エルフの双子も見ちゃっているしなあ。見た目で騙される可能性もあるけれど、敵意は全く感じられない。この緊張状態をずっと続ける訳にもいかないなと、右手を伸ばす。

 

 「――……えーと。初めまして、でいいのかな。言葉、分かるといいけれど」

 

 右手の先までやって来た光の玉もとい妖精さん。私の右手中指にそっと小さな手を乗せたので、挨拶をしてみた。

 

 『匂うっ! 匂うっ!』

 

 臭うって失礼なと鈴が鳴るような声をだしている妖精さんをよく見ると、腰から下げている巾着袋に視線がいっている。

 私じゃなくてこっちかと安堵しながら、袋を手に取って中身を晒すと、竜の卵の周りをくるくると何周か回る。

 

 『――だ! ――だっ!!』

 

 恐らく名前を呼んでいるのだろう。不思議なことに名前の部分にノイズが掛かったり、ワザと音が消された動画の修正のような感じで聞き取れない。魔術的なもので隠されているのだろうか。名前を知られると困るとか、そんな感じで。

 

 「っ――消えた……」

 

 騒ぐだけ騒いで姿を消した妖精さん。一体何がしたかったのだろうと、ジークとリンの顔を見る。外の護衛の人たちが、何も気づいていなかった理由の一端を見た気がする。多分、転移で急に馬車の中へ現れたのだろう。

 

 「二人とも見えた? ……物語に出てくる妖精みたいだけど」

 

 学院の図書棟に蔵書してある創作系の話に登場し、挿絵も入っていたことを思い出す。面白かったから読んでみなよ、と二人に進めて読んでいたので知っているはず。

 

 「ああ。何か喋ってるようにも思えたが……」

 

 「見えたけれど、言葉までは聞き取れなかったね、兄さん」

 

 困惑した顔で状況を確認する。どうやら二人には妖精さんの姿は見えても、言葉まで聞こえなかったようだ。

 

 「私は『におう』って単語は確実に聞こえた」

 

 「他にも聞こえたのか?」

 

 「うん。卵の名前を叫んでいたぽいんだけど、肝心な名前の部分は聞こえなかった。――多分魔術的なもので聞こえなくしてるのかも」

 

 「ナイ、平気か?」

 

 落ち着いたのを見計らって、近くに居たソフィーアさまがこちらへとやって来る。

 

 「はい、なにもありません」

 

 「そうか。――……妖精だろうか」

 

 「おそらくは」

 

 「こういう時に先生が居れば良かったんだがな……」

 

 困ったような顔で私を見るソフィーアさま。彼女も国からの命令とはいえ、まだ年若いのに使節団のメンバーに選ばれたのは幸か不幸か。

 

 「ええ、本当に」

 

 副団長さまは人選から外れてしまったのだから、嘆いても仕方ない。とりあえずは時間もあるのだから先へ進むべきなのだろう。ソフィーアさまが殿下方に声を掛けて出発を促すと、殿下も先へと進むつもりだったらしい。

 

 「え……?」

 

 また眼前に妖精さんが、ふっと現れる。

 

 『一緒、行く』

 

 そう言って私の服の裾を掴む妖精さんが一匹。多分、さっき現れた個体だろう。顔かたちが同じだった。

 

 「なっ!!」

 

 数が増えて再び私たちの前へと現れた妖精さん。ざっと三十匹くらいいるのではないだろうか。いや、三十人……の方が適切なのだろうか。

 

 「……どうしましょうか。一緒に行こうと言われているのですが……」

 

 ジークとリンは言葉は聞こえないと言っていたので、おそらく彼女も聞こえていない可能性の方が高いので通訳しておく。これ私だけ先行した方が良いのかな。でも殿下たちを放って行くのも駄目だろうし……ソフィーアさまに聞いてお伺いを立てるのが一番だろう。

 

 「少し待てるか?」

 

 「恐らくは。服を掴まれていますが、怒る気配や敵意は感じられません。ただ急かされている感じがひしひしと……」

 

 不思議な感覚だった。言葉を聞いたわけではないのに、相手の感情がなんとなく分かるというか。それに他の妖精さんたちは気ままというか自由というか、私の頭の上に乗ったり肩に乗ったり。

 ジークとリンの周りにもそれなりの数が飛んでいたし、暫くすると私と同じように肩の上に乗ったり、興味があるのか佩いている剣の柄に座ってた。

 

 「話してくる」

 

 「はい、お願いします」

 

 そうして私たち三人から離れ、ソフィーアさまが殿下の下へ行くと、協議しているのだろうか。直ぐには戻ってこなかった。

 

 「うーん。ちょっと待って欲しいかなあ……」

 

 私の髪や巾着袋の紐に服の裾。急かされてるよなあと目を細めるけれど、一人で勝手に進めないのです。

 

 待って欲しいと伝えると、仕方ない待ってやろうという感情が流れてきた。う、上から目線……とは思うものの普段は人間が入ることのない場所である。言っちゃ駄目、我慢我慢と自分に言い聞かせていると、ようやくソフィーアさまがこちらへ戻ってきた。

 

 「どうやら、あちらの集落まであと少しらしい。済まないが歩いて貰えるか?」

 

 「それは勿論です。私が馬車に乗り込めばこの方たちもついて来るでしょうし」

 

 殿下の安全を考えると、私たちは歩いて移動一択である。

 

 「そうして貰えると助かる。――ナイ、殿下たちは妖精ではなく光の玉としか見えていないらしい」

 

 ソフィーアさまは殿下方の方へ向いて頷くと、合図だったのだろう。殿下と宰相補佐さまは馬車へ乗り込もうとしていた。

 

 「え……」

 

 何が違うのだろうか。取りあえず歩きはじめると、ソフィーアさまも歩くようだ。護衛の人たちも殿下方を守る人と、私たちの周りを固めてる人で分かれていた。

 ちなみに最後尾には檻の馬車が見え、銀髪くんたちを乗せている。その前には彼の所属国の使者とギルド長の姿も見える。

 

 「どうして……ん?」

 

 「気が付いたか?」

 

 「…………まさか」

 

 そう、まさか。でも可能性としては捨てきれないよなあと、私の周りを気ままに飛んでいる妖精さんたちを見るのだった。

 

 ◇

 どうやら殿下方には妖精さんの姿は見えておらず、光の玉という認識しかないようだ。私を先頭にして妖精さんたちの案内で道を進んでいるけれど、こんなにはっきりと視認しているのに。不思議である。

 

 「いや、でも…………」

 

 「諦めたらどうだ。気付いているのだろう」

 

 認めたくないなあと遠い目になる。見えていない殿下方と見えている私たちの決定的な違いって、私の祝福を受けていないかどうかくらいだ。

 みんなアルバトロス王国出身だし、お貴族さま出身の人が多いので魔力は備わっているし、それなりに多い。殿下とソフィーアさまなら、多分だけれど殿下の方が魔力量は多いはず。

 

 「……私の祝福」

 

 「だろうな。――他に思い当たることがない。軍や騎士の連中ならば、偶然掛かったヤツがいるかもしれんが少数だろう」

 

 私は浄化儀式の時に受けているからな、とソフィーアさま。あれも一種の祝福だからなあ。私の魔力を纏わせたというかなんというか。

 まだ効果が続いていたことに驚きだけれど、まあ結果オーライだろう。殿下たちに光の玉が妖精だと説明できる人が必要だ。真実だと疑われないのは公爵家という箔を持っている、ソフィーアさまの言葉である。

 

 「――"神の加護を"」

 

 歩きながら魔力を練って、詠唱した。距離は離れているけれど、殿下たちアルバトロス王国の面々に掛かるようにしておいた。一節しか詠唱していないけれど、ある程度の効果は認められるはず。これで見えないと言われたら、上書きするだけだし。

 

 「いいのか?」

 

 「一番効果が薄いと言われているものです。事後報告になってしまいますが、今回は見えていた方が良いでしょうから」

 

 「助かる。代表の方々が見えないのは不味いからな」

 

 どんな粗相につながるか分からないからなあ。周りを固めている護衛の人たちに聞いてみたいけれど、勤務中だし声を掛け辛い。

 

 「は?」

 

 「え……」

 

 あ、急に見え始めて驚いたようだ。大きな動揺ではないけれど、それぞれ急に見えはじめた実像を咀嚼するのに時間が必要なのだろう。

 

 「聖女さまが祝福を掛けて下さった。――その影響だ。妖精が見えても驚くな。我々は亜人連合国へ参っているのだ、王国の価値観で物事を量るなよ!」

 

 周りに聞こえるようにと声を張るソフィーアさま。近くに居た護衛の人に声を掛け『殿下方にも知らせてこい』と伝えると、走っていく騎士の人が一人。こちらの言葉を理解しているようで、妖精さんたちはその声にきゃっきゃしてる。どうやら驚かせたのが面白かったらしい。

 

 「……気ままだなあ」

 

 ちょっと羨ましいと思わなくもないが、私は人間である。寿命とか長そうだし、そうなったら暇を持て余しそうだ。

 死に方なんて、周りに迷惑を掛けないようにピンピンコロリが一番だ。前世はどういう死に方をしたのかは、覚えていない。死ぬには随分と早かった位の認識で。前世でも孤児だから家族も居ないし、日々の生活を送る為に必死で恋愛なんてする気も起きず。話を聞けば、寂しい人生だという人もいるだろうが、後悔はしていない。それが運命だったのだろうし、そして今生きているのも運命なのだろう。

 

 「羨ましいか?」

 

 私が呟いた言葉が聞こえたのか、ソフィーアさまが苦笑いを浮かべつつ質問を投げた。

 

 「え、ああ。どうでしょう、妖精になってみないと分からないでしょうね。ソフィーアさまは?」

 

 価値観とか全然違って苦労するかも知れないし、性に合って生きやすくなるのかも知れない。

 

 「確かにな。私は、考えたこともなかったな。私はソフィーア・ハイゼンベルグであってそれ以上でもそれ以下でもないと考えている。だからこそ、国に尽くすべきだとも」

 

 「強い、ですね」

 

 「強くはないな。貴族としてそう育てられたということもあるが……心に決めたことがある。それが私の支えになっているからな。――お前もそういうものが見つかるといいが」

 

 確かに信念とか目標があれば、考え方や捉え方は変わるのだろう。私はまだ孤児仲間が無事に生きていけば良いと願っているだけだ。みんな自立してて、私の助力などもう必要ないというのに。

 

 「前にも言った気がするが、ゆっくりでいい。探してみろ」

 

 殿下へ報告を終えた護衛の人が戻って来たので、少し離れた。聞いては駄目な内容かもしれないし。

 

 「――……ああ、分かった。殿下が感謝する、とのことだ……あちらに妖精は居ないそうだがな」

 

 「……卵に誘因されているのでしょう」

 

 そうとしか考えられないかな。卵を見て喜んでいたし。

 

 「進むしかないな。少し急ごう」

 

 「はい」

 

 歩幅を広くして回転数を上げるけれど、身長差がモロに影響されている。ソフィーアさまの一歩は、私の一歩半。同じ回転数で歩いていると、差が開くのは当たり前で。さらに足運びの速度を上げて、歩く。

 

 「大丈夫か?」

 

 「大丈夫です」

 

 早いスピードだけれど付いていくしかない。ソフィーアさまの言葉を苦笑いで返し、足を進める。早めに出発したとはいえ、時間に遅れる訳にもいかないし。

 

 「増えていないか……」

 

 歩いて暫く時間が経っているのだけれど、ソフィーアさまが零した通り妖精さんの数が増えているような。

 私たちに興味があるというよりは、私が腰から下げている巾着袋の中身なのだろう。頭の上で遊んでいる個体も居るので、個性があるようだけれど。『早く』『行こう』『戻ってきた』『――だ』そんな声が聞こえたり、感情が流れていたりと忙しない。

 

 「増えているようですね。集落が近いと解釈してもいいのでしょうか……」

 

 「そうだといいが。こちらの国の情報は全くないといっても過言ではないからな」

 

 進もうという言葉に頷き、また歩きはじめるのだった。一人だけ早足で。

 

 ◇

 

 目的地と妖精さんたちが進む方向は、奇しくも同じ。途中から歩くことになったので時間が心配になるけれど、このままのペースならば大丈夫とのこと。王都で生活しているだけだと体力不足に陥りやすいから、ある程度行軍で慣れていて良かった。道路事情はあまりよろしくはないし、あのまま馬車で揺られるのもきつかったし。

 

 『急ぐ』

 

 『大丈夫?』

 

 『待ってる』

 

 『早く』

 

 また増えているような気がして、冷や汗が流れ始める。妖精さんたちは一体どこまで数が増えるのだろうかと。

 ちなみに肩に乗ったり、頭の上に乗っている妖精さんの数が一番多いのは私。次いでジークとリンとなり、最後にソフィーアさま。他の護衛の人たちに興味はあるものの触れたり肩に乗ったりはしておらず、妖精さんと接触出来ているのは四人だけであった。

 

 「そろそろだな」

 

 ソフィーアさまの言葉でおもむろに巾着袋を取り出して、竜の卵を手に取る。このまま『お返しに参りました』というアピールも込めて、私が持っていろと言われてた。不思議の塊だし目に見えていなくとも、亜人の方々は感知してくれそうだけれど、確実に事を運びたいのだろう。

 

 もう少し我慢すれば、ようやく肩の荷が下りるなと深く息を吐くと、木の柵で囲まれた村が見えてきた。

 亜人連合国と隣国を結ぶ一本道の果て、亜人連合国の最初の村らしい。長閑……というよりは寒村とでも表現した方が正しいくらいの、慎ましい村だった。ちなみに亜人連合国と隣国の交易がある人たちは、この村より奥に立ち入ることは出来ないらしいので、この村で連合国のお偉いさんとの会談となるだろう。

 

 村の少し前で殿下たちを乗せた馬車を待っていると、直ぐに追いついて馬車から殿下と宰相補佐さまが降りて、砂利石を踏みしめながらこちらへとやってきた。

 

 「凄いね。祝福のお陰で私たちも見えるようになったよ。――感謝する」

 

 「いえ、お気になさらず」

 

 見えていて欲しいという下心があるので、本当に気にしないで欲しい。

 

 「さて、行こう。――聖女さま、よろしく頼む」

 

 「はい」

 

 亜人連合側とのファーストコンタクトは私の役目となっていた。最初の村に使者を寄越すから、その方の案内に付いていけと向こうから連絡があったそうな。増えている妖精さんたち、軽く数えて五十匹くらいを引き連れて村の門へと辿り着く。

 

 『待ってて、呼んでくる』

 

 他の妖精さんたちよりも随分と確りした喋り方で言葉を残して、この場から消えた。

 

 「何と?」

 

 私以外の人は妖精さんが何かを喋っているのは感じ取れるけれど、内容までは分からないらしい。

 

 「待っていて欲しいと。誰かを呼んでくるそうです」

 

 「そうか、では待つしかないね。――それにしても凄い数になったものだ。信じてはいなかったが、こうして目にすると信じるしかないね」

 

 物語や空想上のモノだから、殿下の驚きも仕方ないのだろう。亜人が存在しているのは事実だけれど、王国だと妖精さんは空想上のモノだった。殿下の言葉にソフィーアさまと宰相補佐さまは、どうしたものかと考えている。妖精さんに殿下が手を伸ばすと、すいっと避けられた。

 

 「嫌われているのかな、私は」

 

 嫌われているというよりかは、関心がないとでも言うべきか。現に後ろの馬車で待機している檻付きの馬車には、並々ならぬ感情を流しているもの。妖精さんに嫌われているのならば、竜の眷属というか派生系であろう竜の亜人たちにどう思われるのか。

 

 あ、卵の扱いもう少し丁寧にすべきだったかと、改めなおすけど今更である。

 

 雑に扱っても割れないという、何かしら予感めいたものは感じていたし、放り投げた所で手元に戻ってくるだろうとも。儀式の際に使った魔術は『浄化』と『葬送』だったのに、何がどう転じて卵になるなんてミラクルを起こしたのか。

 

 「……そのようなことはないと思いますが」

 

 お茶を濁した回答になる。流石に殿下と後ろに居る銀髪くんと、比較するのは不味い気がするし。

 

 「すまんすまん、困らせる為に言った訳ではないんだ。単純に君くらいの魔力が私にあれば、今回の件を私自身で背負うことが出来たからね」

 

 出迎えがきたようだと殿下が門の中の村を見る。

 

 そこには私よりも小柄な……小柄で長い白髪を後ろ手に撫でつけ、眉毛がぼさぼさで下へと垂れ下がり髭を長年剃っていないご老人の姿。彼の周りにも数人居て、こちらへと一緒に来ているけれど、彼らも白髪のご老人と同じくらいの背丈で。身体つきは随分と肉質なので、ドワーフ系の人たちだろうか。

 

 彼らに言葉を掛けられるよりも先に、深く礼を執る。

 

 「ようこそ、亜人の国へ。話は代表から聞いておる。転移で案内しようぞ、ワシについて参れ。――戻ってこられたのだな」

 

 最後の方は小声で、聞き取ることが出来ず。

 

 挨拶とか良いのだろうかと、殿下と二人で首を傾げるのだけれど、相手方は気にした様子もなくそそくさと踵を返して村の中へ。この妖精さんたちについて聞きたかったのだけれど、彼について行くしかないのだろう。

 

 「転移と先の案内は彼女たちに任せる」

 

 「ここまでの先導、ありがとうございます」

 

 そうしてご老体はまた踵を返して、集落の方へと消えていった。他のドワーフの人は見送りなのか、残っている。

 

 村の奥の広場へと案内されると、エルフっぽい耳長の女性が二人。陽気そうに笑って手を振って出迎えてくれた後、顔色が急変した。しかめっ面となったエルフの女性たちは、ハーフエルフの双子へと視線が固定され魔力が上がっていた。

 

 「本当に、人間って……」

 

 「……愚かな」

 

 迫害されて大陸北西部へと逃げてきた歴史があるから、よく思われていないのは理解しているけれど、こうしてはっきりと口に出されるとキツイものがある。ハーフエルフの扱いについて、怒りを顕わにしているのだろう。

 

 「あ、ごめんごめん。ちょっとイラっときちゃって。――というか魔力酔いしないんだね」

 

 しかめっ面を瞬時に笑顔へと変えた、エルフの女性Aさん。

 

 「珍しいわね、私たちの魔力に酔わないなんて……貴女の魔力、人間にしては多いわね。魔術具で誤魔化しているみたいだから正確には分からないけれど……」

 

 人間とエルフだと魔力の質が違うから充てられて酔う人間が殆どだと、エルフの女性Bさん。亜人の方たちに名乗る習慣がなさそうなので、心の中限定で勝手に仮名を付けさせてもらった。

 エルフの人たちは長身の人が多いのか、目の前の案内役の女性二人は私と目線を合わせる為、両膝に手を付いて屈んでた。

 

 「あまり自覚はないのですが……周りの方々は私の魔力量に驚かれます」

 

 治癒を施せる回数や儀式魔術を行えるし、障壁に魔力補填している回数は断トツなんだけれど、魔力量が空になる前にぶっ倒れるからなあ。これを乗り越えられなきゃ、凄いと言われても納得が出来ないと言うべきか。

 

 「でしょうね。その魔術具を作った人間の腕が良いみたいで、貴女の魔力の凄さがはっきりとわからないもの」

 

 「そういえば、他の人たちが酔っていないのって貴女の魔力を纏わせているから……かな」

 

 むむむ、と懐疑な顔のエルフのお姉さま二人は、私の顔へとぐっと近づけた後に離れる。

 

 「ま、いいわ。――代表が首を長くして待っているでしょうから、行きましょう」

 

 「ではアルバトロス王国使節団のみなさま、各長が集まる場所へご案内いたします」

 

 「――よろしくお願いいたします」

 

 お飾りだけれど代表ということなので、第一王子殿下より先に礼を執ると、遅れてアルバトロス王国側全員が頭を下げるのだった。

 

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