魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
お城の謁見と報告会から王都のタウンハウスである侯爵邸に戻り、デグラス伯爵領や領主さまご本人について調べてくれた報告書に目を通した。ロステート伯爵さまから教えて貰った通り、デグラス伯爵領では重税が課され民衆の皆さまに苦労を敷いているそうだ。
なにをやっているのやらと言いたくなるが、他国の政治に口を出さないという内政不干渉と一緒で、他領の運営に他の者が口を出さないのは基本である。放置するしかないし、デグラス領はデグラス伯爵さまの好きにして貰うしかないのだ。
ボルドー男爵さまは根回しをしていれば、煮るなり焼くなり私の好きにしろという。執務室で分厚い報告書を読んでいるのだが、デグラス伯爵さまの行動は食べることに特化していた。
美味しいと噂されている品があれば高値で買い取ろうとしているそうで、彼が払う金額に目が眩み売ってしまう方もいるようである。商売人であれば高い値段を提示した方に売るのは当然のことだし、契約を取り決めていないなら問題ない行為である。とはいえ他人様が欲しがっている商品を高値を付けて横から攫うという方針に賛同はし辛い。
私は報告書を読み終えて、ふうと長い息を吐く。
「豚肉の恨みを晴らすよりも、デグラス領の方が苦労していることの方が気になりますね」
執務机に置いた書類が小さく音を立てると部屋にいる皆さまが私に視線を向ける。執務室にはいつものメンバーと珍しくヴァルトルーデさまとジルケさまがいて、デグラス伯爵さまが気になるようだ。
豚肉もどうにかしたいが、デグラス領の方が重税を課されて苦しんでいることの方が重要かもしれない。どうにかしたいけれど、どうにもならないものであり私が動けば騒ぎになる。うーんと悩んでいるとソフィーアさまがじっと私を見つめていた。どうしたのかと私が彼女と視線を合わせれば、整った口をソフィーアさまが開く。
「どうにかしてやりたいが口は出せないからな。なら裏で手を回せば良いだけだろう」
「ですわねえ。相手を潰したいのであれば、裏で動けば良いだけですわ。デグラス伯爵もナイの豚肉を掻っ攫っていったのです。特に気にすることはない……というよりも面子を潰されている形となりますから、やり返したところで他の貴族家はデグラス伯爵が失敗したとしか考えないでしょうね」
ソフィーアさまの言葉にセレスティアさまが良い顔をして助言をくれる。確かに面子を大事にするお貴族さまであれば、デグラス伯爵さまの豚肉横取りはかなり悪質な行為だ。やり返しても良いけれど豚肉を買い付ける方法は別にあるし、特に困っているわけではないと今まで無視を決め込んでいたが、彼が私に絡んでくるなら話は別だ。
『やりすぎないでね~』
クロが私の肩の上で気を付けるべきことを伝えて、顔を私の頬にすりすりしている。私の足下では毛玉ちゃんたち三頭が『やりゅ?』『やっちう?』『やっちゅえ!』と小悪魔的な顔で訴えている。
随分と好戦的だと苦笑いを浮かべれば、床にごろんと転がっているヴァナルと雪さんと夜さんと華さんが『元気だ』『喧嘩を売られたならば買ってもよいのでしょう』『ええ。食べ物の恨みは怖いものですねえ』『ナイさんはどう出るおつもりでしょうか』とのほほんと告げた。
雪さんたちの中で私の評価がどうなっているのか気になるが、本当に絡んでくるなら堂々とやり返せる。まあ今後の展開次第だし、セボン子爵から定期的に晩餐会への招待状はまだ届いているので、参加してみても良いだろう。ご飯の中に毒を盛られる可能性もあるが、ご飯の神さまを冒涜するような真似をすればヴァルトルーデさまとジルケさまが怒り狂いそうである。私も怒るけれど、二柱さまの方が先にキレそうだ。
「とりあえず、デグラス伯爵さまにやり返すかもしれないとハイゼンベルグ公爵家とヴァイセンベルク辺境伯家と王家に話を通してみます」
「それなら父に報告しておこう」
「わたくしも父上に報告しておきますわ!」
私がこれからのことを口にすれば、ソフィーアさまとセレスティアさまが即返事をくれた。私が手紙を記すより、彼女たちが二家に直接説明してくれる方が状況を掴みやすいはず。本当に有難いと感謝していると、家宰さまが私と視線を合わせた。
「王家にはどうされますか?」
「私が手紙を認めます。報告書も上げなければなりませんし、一緒に届ければ手間が少ないかと」
王家には私が手紙を認めれば良いだろう。タウンハウスであれば直ぐ近くに王城があるため今すぐにでも可能である。危急の案件ではないので報告書と一緒に届ければ一石二鳥である。
女神さま方も気にされておりますと記しておけばスムーズに事が進むかもしれないと一瞬頭の中に浮かぶものの、それは駄目だと直ぐに心が拒否をした。確かにヴァルトルーデさまとジルケさまの名を出せばデグラス伯爵さまの件と豚肉の件は直ぐに解決するだろう。でも、二柱さまは人間社会に影響がでるようなことはしないはず。ならば記さない方が正解だろうと私はこっそり頭を振る。
「手紙は用事を済ませてからとして……次は亜人連合領事館に赴きます」
私は執務机から立ち上がると、椅子に腰かけていた方は立ち上がり、ジークとリンは小さく頷いてくれた。ヴァナルと雪さんたちもよっこらしょと立ち上がり、毛玉ちゃんたちは『どきょいくにょー?』『たのちいとこ?』『どこどこどきょー?』と前脚をぴょんぴょん上げながら楽しそうにしていた。
元気だなあと私は笑って王都の子爵邸の隣にある亜人連合国の屋敷だよと伝えれば、毛玉ちゃんたちは頭の上に疑問符を浮かべる。伝わっていないことが分かり、代表さまやエルフの方がいるお屋敷だよと私が言い直せば、感嘆符を浮かべて更にきゃっきゃと三頭で騒ぎ始める。
『毛玉ちゃんたち、元気だねえ』
「クロが老成しているだけじゃない?」
『ボクには前の記憶があるから。ナイだって凄く渋い考えをしている時があるから、ボクのことは言えないよ~』
「そんなことないし……」
クロと話しながら、家宰さまにいってきますと告げて執務室を出る。私の後ろでは当然と言わんばかりにジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまが歩いている。どうやらヴァルトルーデさまとジルケさまも亜人連合国領事館へときてくれるようだ。
暇なのか、面白いことが起こりそうと期待しているのか分からないけれど、最近、二柱さまが私の後ろを歩いていることに違和感を受けない。それより普通の光景と化しているのは気のせいだろうか。気にしていると引き籠もらなくてはならないと私は前を向き、侯爵邸の地下にある転移魔術陣へと移動した。亜人連合国側には既に連絡を入れているし、先方からも『分かった』と返事を貰っている。
魔術陣に魔力を通せば、相手方も魔力を通してくれたようだ。この感じはダリア姉さんかなあと笑っていれば、身体がふわりと浮く感覚を受けるのだが……アイリス姉さんの魔力まで感じる。エルフである彼女たちが二人分の魔力を通すとは一体と首を傾げると、亜人連合国領事館の転移部屋に辿り着いていた。
「まさか魔力が足りないとは思わなかったわ、ナイちゃん」
「女神さまがいらっしゃると結構魔力を消費するんだね~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんの声が響き、そちらへ視線を向ければお二人は苦笑いを浮かべている。あ、ヴァルトルーデさまとジルケさまが同行していたから、普段より必要魔力量が多かったようだ。
ヴァルトルーデさまとジルケさまは『ごめん』『悪いな』とエルフのお姉さんズに謝っていた。するとお姉さんズは『いつも通りで大丈夫と思っていたのですが』『うん。驚きました~』と軽い調子で返している。ダリア姉さんとアイリス姉さんは女神さま方が気にしないようにと務めて軽く言葉を返したようだ。
「お久しぶりです。ダリア姉さん、アイリス姉さん」
お二人と会うのは石を引き渡した時以来である。少しの時間しか経っていないけれど、何故か久しぶりと勝手に口から出てしまった。魔力消費で思い出したが、侯爵邸から子爵邸へと転移して領事館に向かっても良かったなと別案が浮かんだ。まあ、気にしては駄目だろうとダリア姉さんとアイリス姉さんと視線を合わせる。
「はい、久しぶり。ナイちゃん」
「久しぶりだねえ、ナイちゃん。超大型竜の連中はナイちゃんに頻繁に会っていたから羨ましかったんだ~」
お姉さんズは私に声を掛けて、女神さま方にも上に行きましょうと伝えれば私の身体をくるりと回して出入口の扉へ向けた。相変わらず、エルフのお姉さんズは軽い調子で接してくれるので有難い。
良い報告となりますようにと願いつつ、初めて訪れた亜人連合国領事館の転移部屋の独特さを目に焼き付けつつ私たちは階上へ向かった。来客部屋へと導かれ部屋の中に入れば、ディアンさまとベリルさまに赤竜さんと青竜さんと緑竜さんも一緒だ。代表さまへの話は青竜さんが担ってくれたし、超大型竜の方が五人揃うのは当然か。
「ディアンさま、ベリルさま、お久しぶりです。お三方には物凄くお世話になってしまいました。改めてお礼を申し上げます」
私が頭を下げると、顔を上げてくれと声が届く。ディアンさまが私に手招きをして椅子に腰掛けるようにと無言で伝え、女神さま方も椅子へ腰掛けて欲しいとお願いしていた。私とヴァルトルーデさまとジルケさまは素直に頷き、応接用のソファーに腰を掛ける。何故か二柱さまにサンドイッチされ、正面に座る亜人連合国の皆さまが苦笑を浮かべていた。
「久しぶりだ。朗報が届いてなによりだ」
「お久しぶりです。ええ、若。竜が増えて喜んでいましたが、他の種族の者たちにも増える可能性が出てきたことは喜ばしいことですね」
ディアンさまとベリルさまが背を正して挨拶をしてくれる。竜のお方たちが増えるだけではなくなったので、本当に朗報と捉えてくれているようだ。ダリア姉さんとアイリス姉さんもうんうんと頷き『問題が解決すれば良いけれど』『上手く馴染めるかなあ~?』と期待と不安が入り混じっているようである。
「ナイさんからは魔力を頂いておりますから。あまり気になさらないでくださいね」
「ええ。随分と頂いてしまいました。有難い限りですよ」
「代表と白竜は、自分たちは参加できなくて拗ねていますがねえ」
赤竜さんと青竜さんと緑竜さんとは各国を渡り歩く際に私たちを送り届けてくれたのだ。本当にお世話になったし、グイーさまのお願いを短い期間で叶えるには彼らの存在が鍵だった。
私の魔力で満足してくださっているけれど、グイーさまからねぎらいの言葉があっても良いのではなかろうか。今度グイーさまと話ができた時にでも伝えてみよう。直ぐに忘れる性質だから、頭にちゃんと刻み付けねば。
さて、お互いに用意は整ったので伝えるべきことを伝えよう。体裁は大事と私は背を伸ばして、ディアンさまと視線を合わせる。
「では……南大陸のG国にてエルフの方たちと接触することができました。彼らは亜人連合国のエルフの方と会うことを望んでおられます。如何なさいますか?」
「エルフの皆の見解は?」
如何なさいますかと私が問うと、ディアンさまが後ろに控えていたダリア姉さんとアイリス姉さんに顔を向ける。
「もちろん」
「会うに決まってるよ~」
ふふふと笑うダリア姉さんとアイリス姉さんは本当に嬉しそうであった。亜人連合国のエルフの皆さまも人口問題を抱えているようで、今回の件は本当に良いことなのだとか。
グイーさまの命に従って全大陸の国々を回ったけれど、他に亜人の方は見つからなかった。ただ見つからなかっただけの可能性があるため、他の亜人の方がいる可能性を諦めてはいない。エルフの方以外にもドワーフの方や他の亜人の方が見つかりますようにと願っていれば、ディアンさまが凄く綺麗に笑って口を開いた。
「とういことだ。済まないが、G国に知らせて貰えれば助かる。我々もG国上層部に使いを出し、エルフの者たちと接触できるように取り計らおう」
彼の願いに私は承知しましたと返し、今回の旅の話に移るのだった。
◇
私が亜人連合国へ南大陸でのエルフの一件を正式に報告したことにより、彼の国ではエルフの街でお祭り騒ぎになるようだ。受け入れて頂けて良かったと安堵し、エルフの方たちの繁栄を願うばかりである。
ヴァルトルーデさまとジルケさまも『好きにすれば良いよ』『大陸越えるのは自由だからな』と言ってくださっているため西と南の女神さま公認でもある。私たちは亜人連合国の皆さまが喜んでいる姿に目を細め、さきほど王都の侯爵邸に戻ってきたところである。
帰りは子爵邸から侯爵邸を経て戻っている。子爵邸に寄り家庭菜園でちょこっと魔力をドパーしてきた。解放した魔力は随分と絞ったものだから、畑の妖精さんに『モットクレ』と請われてしまった。でも放出し過ぎると妖精さんたちに変化が起こりそうなので『これで終わりだよ』と私は彼らに告げてほどほどにしておいた。
魔術陣のある地下から一階へ上がれば、何故か家宰さまが立っている。仕事は良いのかなと私が首を傾げれば、家宰さまが小さく笑みを浮かべる。
「ご当主さま、おかえりなさいませ。城からお届け物を預かっております。確認をお願いできますか?」
城から荷物ってなんだろう。んん、と首を傾げて荷物の内容を考えるのだが思い浮かばない。
「届け物ですか?」
「はい。各国からアストライアー侯爵家に石を届けてくださったご当主さまへと労いの品が届いているのです」
私の顔を見た家宰さまは表情を苦笑いに変えて、届いた荷物の中身を教えてくれる。贈り物なんて届いているとは露知らず、まさかの言葉に驚いてしまった。ソフィーアさまとセレスティアさまが私の後ろで肩を竦めている。
「顔、引き攣っているぞ」
「受け取っておけば宜しいではありませんか。それだけナイは偉大なことを遣り遂げたのですから」
私の顔、引き攣っているのかと両手を頬に当てて、ぐにぐにと揉み込む。毛玉ちゃんたちが不思議そうに私の顔を見上げ、後ろ脚で体重を支え前両脚を使い顔を撫でている。三頭揃って同じことをしているし、可愛い姿をしている毛玉ちゃんたちを見た一同は『あ』となった。案の定、某辺境伯令嬢さまが『ぐはっ!』とダメージを受けながら舞い上がっている。
私は頬に当てていた両手を外し、某辺境伯ご令嬢さまが喜んでいるのか負傷しているのか分からないが器用なことをしているなと目を細めれば、いつも突っ込み役の公爵令嬢さまは『はあ』と溜息を吐くだけに留めていた。彼女が諫めないなんて珍しい。某辺境伯ご令嬢さまが立ち直るのを待っていると、クロが私の顔を覗き込んだ。
『グイーさまのお願いを聞いて、頑張ったんだから良いんじゃないのかなあ?』
クロは気楽に言うが、私はお仕事だから遣り遂げただけである。ただ私と一緒にきてくれた方たちに贈り物で欲しい品があるのであれば、渡しても良いのかもしれない。
超大型竜の皆さまも欲しい品があれば貰って欲しいものである。某辺境伯令嬢さまが持ち直したため私は贈り物の確認をしようと、家宰さまが教えてくれた一階のとある部屋を目指すことにした。ちなみに毛玉ちゃんたち三頭は私が手を外した時に一緒に止めていた。私が廊下を歩き始めると、皆さまが後ろを歩いて着いてきている。
「興味ある」
「確かにどんな品が届いてんだ?」
ヴァルトルーデさまとジルケさまも贈り物がどんな品なのか気になるようだ。私もとんでもない品が届いているのではないかと気が気でない。早く確認した方が良いし、交流のある国から贈られているのであればお礼状を認めないといけない。
早ければ早いほど良いだろうし、いずれにせよ確認をして当主である私が目を通しておくべきである。あとは宝物庫に保管して、必要な方がいるならば譲れば良いだろう。
考え事をしながら歩いていれば、一階にある一時的荷物置き場に辿り着いた。普段は大量に買い付けた品を一時保管している場であるが、今回お城から届いた荷物が大量だったため、この部屋に運ばれたようである。
「凄い量ですね」
広い荷物置き場というのに、中には贈り物がひしめいている。積みあがった品たちは大きな箱に入っていたり、小さな箱に入っていたりと様々だ。目録も付いているようで、中身を見ないままでも構わないようになっている。
「ナイは創星神さまの使者として全ての国家を渡り歩いたからな」
「奇跡の体現者と言われていても不思議ではありませんわねえ」
私が荷物を見上げていると、ソフィーアさまとセレスティアさまが苦笑いを浮かべていた。確かに全ての国を周り終えたけれど、堕ちた神さまの意識が回収されたという報告はきていない。
いつになれば解決するか分からない事案に頭を抱えそうである。とはいえ対策を執らないまま放置はしていないので、グイーさまには感謝しなければ。
ヴァルトルーデさまとジルケさまも『凄いね』『すげー量があるな』と少し引いている。私は早速確認をしようと箱の前に立ち、家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまにも手伝って欲しいとお願いする。
先ずは付き合いのある国の贈り物がないか探し当てることから始めた。暫くすればお三方がリーム、ヴァンディリア、ヤーバン、アガレス、ミズガルズ、フソウからの品を探し当ててくれる。私は亜人連合国から贈られた品を手に取って何故と首を傾げていれば、大きな荷物を整理してくれているジークとリンがどうしたと側に寄ってきた。
「亜人連合国の方からも届いてる。直接渡してくれて良かったのに……どうしてアルバトロス上層部を通したのかな」
「正式な品だからじゃないか?」
「亜人連合国にもナイは石を届けてる。多分、竜の方とは別扱い」
私の疑問にジークとリンが答えてくれる。確かに正式な品であればアルバトロス上層部を通した方が良いだろう。先程、亜人連合国の皆さまと私は会ってきたからむず痒さを感じてしまう。
確かに亜人連合国にも創星神さまの使者として私たちは向かったから、贈り物を受けるのは当然だろうか。ちなみに内容はエルフの街で獲れたお野菜さんたちに反物、ドワーフ職人さんたちが鍛えた逸品、竜の方たちの鱗や爪である。
凄く沢山詰め込まれているし、丁寧な文字でご苦労さま――意訳――と記されていた。お野菜さんは早く消費した方が良いので、ジークとリンに調理場に届けて貰い、料理長さんに使って欲しいとお願いして貰う。そっくり兄妹は分かったと告げ大きな箱を軽々と掲げ部屋を出て行き、残りは宝物庫に納めておこうとなった。
「さて、次は……」
私の口から自然と言葉が漏れる。そうして目に留まったのはアガレス帝国の紋章が誂えられた箱である。大きな国家から届いた品のため周りの贈り物より目立っていた。どんっ! という擬音が似合いそうな箱に私は近寄り目録の手紙に目を通す。文字はウーノさまが記したもののようで綺麗な文字で書かれていた。箱の中身はアガレス帝国で獲れたお野菜さん――新種のさつま芋がメイン――とアガレス帝国で貴族女性が纏うドレスや平服が納めらているそうだ。
ソフィーアさまとセレスティアさまが『流石だな』『わたくしたちの苦労をご理解なさってくれているようですわ』と少し明るいトーンで話していた。フソウも似た内容であり、帝さまとナガノブさまからの直筆で帝家と幕府からは、凄く細かい刺繍が入っている振袖と化粧道具にフソウ刀の大小と鎧の一式が納められている。帝さまは、いつか私がフソウの着物を着た姿を見たいと記しているため、次にお出掛けする時は着物を纏っても良いかもしれない。しかし、着物の着付けはできない。ご老体は知っているのか分からないし、男性と女性では帯の締め方も違うはず。
うーんと私が悩んでいると、家宰さまが次に行きましょうと私に声を掛けた。
確かに荷物が多いので考え込んでいるわけにはいかないと次に行こうとすると、フソウの品は女神さま方には珍しく映るようで、中を見て良いかと問われた。私は問題ないと告げれば女神さま方は箱を開いて着物と刀と鎧を眺めている。触れる気はないのか見て楽しむだけのようだ。二柱さまが覗き込んでいる姿は微笑ましいなと横目で見ながら、今度はリームからの贈り物である。
震える文字でリームの陛下が目録を記してくれたようだ。ギド殿下からお芋さんを贈れば私は大層喜んでくれると聞き、彼の助言通りお芋さんとリームで収穫したお野菜さんを贈ってくれたようである。
「お礼の手紙を早く送った方が良さそうですね」
「そのようですな。随分と緊張されているようですから」
私が苦笑いを浮かべていれば、家宰さまも片眉を上げリームの陛下の心情を慮ってくれている。確かに他の国は貴金属関連が多そうだから、リーム王が恐縮していることが理解できる。私的にはリームのお芋さんを気に入っているし、屋敷の皆さまにも評判である。気軽に食卓に出せるし、じゃがバターやポテトサラダ以外にも使い道はたくさんあり、最近はフライドポテトにポテトチップスなども調理部の皆さまに作って貰っていた。
じゃがバターにも味変として醤油マヨを提案して、屋敷の皆さまから感想を頂いている。苦手な方もいれば、気に入った方もいて賛否があった。ホワイトソースも存在しているので、機会があればグラタンを作って貰いたいところである。
私たちは楽しんでいるし、お芋さんとお野菜さんがたくさんあっても困らない。侯爵家で使いきれないのであれば、教会や孤児院に寄付をすれば良いのだ。リームの陛下の気遣いは有難いし、助言を行ってくれたギド殿下にもお礼を伝えねば。
「そうか。彼が喜ぶ」
私がギド殿下にお礼を伝えたいとソフィーアさまに申し出ると、彼女は短く笑い目を細めている。お二人の関係は順調そうでなによりだ。
セレスティアさまとマルクスさまとの関係は大丈夫かと視線を向ければ、当のご本人は全く気にしていないようである。大丈夫かと不安になるが貴族同士の契約結婚だろうし、今までどうにかなっているのだから、これからもなんとかなるはずと自分に言い聞かせる。そうしてヴァンディリアやマグデレーベン王国の贈り物を確認――中身は宝石類が主――をし、次はヤーバン王国の番となる。目録には凄くゴツイ文字で『槍、一本』と記されていた。
「ヤーバン王らしい、のかな?」
ヤーバン王が認めたものだと私は苦笑いを浮かべ、長方形の箱の蓋を開けてみる。価値は良く分からないが、刃は鋭く尖り、窓から差し込む光を反射してキラリと輝いている。
「まさか槍を贈ってくるとは」
「業物ですわね」
ソフィーアさまとセレスティアさまが肩を竦めているが、特に悪い感情は含まれていない。恐らくお二方も私と一緒の気持ちだろう。フソウの大小の刀と鎧、そしてヤーバンから届いた槍は屋敷のどこかに飾ろう。
侯爵領の領主邸に置くか、タウンハウスに飾るかはまだ決めていないけれど。まだまだ続く贈り物の中身の確認に飽きたのか、毛玉ちゃんたち三頭は大きな欠伸をして、床にごろりと寝転がり寝息を立て始める。少し煩いのに堂々と寝ている姿は大物感があった。さて、次に行こうと届いた品を確認していくのだが、各国から届いた品は宝石類が殆どである。
貴族として相手に贈る品として無難であるが、素人目には逸品なのか普通なのか粗悪品なのかは分からない。もちろん各国の上層部から贈られているので、価値のあるものだろう。
でも私に目利きはできないし、頂いた品を本物かどうか判定する技量もない。鑑定士の方を雇う方が良いかと家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまに相談を持ち掛けてみた。
家宰さまは『鑑定士の方が腰を抜かしそうですが』と仰り、ソフィーアさまは『一人の鑑定士で足りるのか?』と疑問を抱き、セレスティアさまは『妙な者から頂いた品は見て頂いた方が良いのでしょうねえ』と呟いた。お三方の言葉を纏めてみれば、鑑定士の方を雇用するか、必要な時にきて頂ける契約を結んでも良さそうである。
必要な時には鑑定士を呼ぼうとなり、共和国やミズガルズから届いた品も確認し、他の国からの品の確認を終えれば、お昼から夜になっているのだった。ふいー、流石に疲れた。