魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0682:怪力。

 毛玉ちゃんたちと一緒にボール遊びをしているのだけれど、私がだんだん疲れてきてボールの飛距離が短くなっていた。最初こそ山なりにボールを投げれていたのだが、どんどんヘロヘロなボールになってしまっている。

 そんな私に毛玉ちゃんたちの視線が刺さっており、なにか言いたげな顔をしていた。いつもであれば桜ちゃんが突っ込みを入れてくれそうであるが、なにも言わないので私が首を傾げていると雪さんと夜さんと華さんが愉快そうな顔をして口を開いた。

 

 『少し飽きてきたようですねえ』

 

 『ナイさんも疲れていますから』

 

 『ボールを投げる方を交代しても良いのでは?』

 

 確かに雪さんたちの言う通りだと、私は一緒に庭に出ていたジークとリンの顔を見る。私がボールを握った手を差し出せば、ジークが受け取ってくれた。そうしてジークは毛玉ちゃんたちに『いくぞ?』と声を掛ければ、三頭は『おもいっきりにゃげて!』『とおきゅ、とおきゅ!』『はちる!!』とテンションを上げている。ボールを飛ばせなくてごめんと私が目を細めると、ジークは足を前後に開き、足から腰、腰から肩へ、最後に腕に力を込めてボールを思いっきり放り投げた。私が投げたボールより十倍近くは飛んでいるのではなかろうか。

 

 毛玉ちゃんたちは地面をぐっと蹴り上げて、小さくなったボールを追いかける。凄い勢いだと感心していると、ヴァナルがボールを見ないように地面に伏せて目を瞑っている。

 次はヴァナルも参加しようと私が声を掛けると、嬉しそうに『そうする』と言ってくれた。随分と小さくなった毛玉ちゃんたちは地面にバウンドするボールの動きが予測できないようで、三頭がじゃれ合っているように口で食もうとしている。

 

 「誰がボールを咥えられるかな?」

 

 私が毛玉ちゃんたちを見ていると、肩の上に乗っているクロが声を上げる。

 

 『元気だねえ』

 

 「クロもする?」

 

 のほほんとしているクロに私は参加してみるかと聞いてみた。

 

 『ボクは遠慮しておくよ。ボールが大きくて口に含めないしね~』

 

 つれない返事だなあと苦笑いをしつつ、別にボールは口に咥えなくても問題ないとクロと視線を合わせる。

 

 「脚、使っても良いんじゃない?」

 

 『あ、そっか。でも、毛玉ちゃんたちの楽しみを奪うのは申し訳ないからねえ』

 

 脚でボールを掴めば良い気がするが、クロは毛玉ちゃんたちと合わせなければならないと考えていたようだ。まあ興味が薄いなら無理に遊ぶ必要はあるまいと、私は前を向けば毛玉ちゃんたちが戻ってきている。口にボールを咥えているのは桜ちゃんで、島で徒競走で勝った時と同じ結果になっている。

 

 『いちにゃん!』

 

 『にばにゅ……』

 

 『しゃんびゃん……』

 

 桜ちゃんが自慢げに口に咥えたボールを空へと掲げる。楓ちゃんと椿ちゃんはしょぼんとしており、桜ちゃんに勝てなかったことが悔しいようだ。単純な脚の速さを競っていないし、ボールを取らなければならないから、椿ちゃんと楓ちゃんにも勝機はあるはず。桜ちゃんは『投げて!』と言いたいのか、ジークの足下にボールを転がした。ジークは次はリンの番だと言いたいのか、彼女にボールを渡している。

 

 リンもジークと同じフォームでボールを投げると、凄い勢いでボールが遠くへ飛んでいく。毛玉ちゃんたちがまた三頭揃って走り出し、桜ちゃんが先頭を行くものの、ボールに追いつけば誰が取るかが勝利の鍵となっていた。

 三頭が地面を転がるボールに群がっている。桜ちゃんが口を大きく開けてボールを咥えようとするも、タイミングが悪かったのか食み損ねていた。コロコロとボールが転がる先には椿ちゃんが丁度いて、彼女は嬉しそうに口を開けてボールを食んだ。楓ちゃんは凄く残念そうに、桜ちゃんは次は勝つと言いたげに、椿ちゃんを先頭にして戻ってきた。

 

 『今度はツバキが取ったねえ』

 

 「だね。ジークとリンが投げた方が楽しそう」

 

 クロに私は苦笑いを向け、次にジークとリンを見れば微妙な顔になっていた。力に差があるのは当然だと分かっているものの、そっくり兄妹のようにボールを遠くへ投げれたなら楽しいだろう。

 膂力も脚力も足りていないから、ホームラン級のものを私は打てない。適材適所と理解してみるものの、二人のようになれたら良いなという憧れがなくもないのだ。しかし、連投すると飛距離が落ちるのは如何なものだろうか。

 

 『ナイはボールを投げる距離がどんどん短くなっていたからね。仕方ないよ』

 

 クロが仕方なさそうに笑っているが、体力が落ちているのは問題のような。お貴族さま生活を送っているため、机の上で作業をすることが多くなった。以前のように討伐遠征に参加していない。教会にお願いして討伐遠征に参加したいと伝えても、護衛を大勢連れ歩くことになるため迷惑になるだけである。

 

 「運動、しなきゃね」

 

 「屋敷の庭は広い。歩くだけでも良い運動だろう」

 

 「無理に激しい運動をする必要はないからね」

 

 トリグエルさんのようにお腹に脂肪を付けることはないけれど筋肉が落ちているのは確実だ。庭を歩こうと試みているが、忙しくてできていない。やはり庭を歩こう計画をきちんと立てるべきかと目を細めていれば、視界の端に黒と赤が映り込む。

 

 「ん? ルカとジアだ」

 

 低木を陰にしてルカとジアが二頭一緒にこちらをじっと見ている。クロも気付いたようで、尻尾を私の背中にてしてし叩きつける。

 

 『遊んで欲しそうに、こっちをじっと見ているねえ。呼んできても良い?』

 

 「もちろん」

 

 遊びたいなら一緒に遊べば良いだけと、少し離れているためクロにルカとジアを呼んできて貰う。クロは私の肩からぴゅーっと飛んでいき、直ぐにルカとジアの目の前で滞空飛行を始めている。

 肩乗りサイズの小さい竜と大柄な天馬が話している姿は面白いなあと眺めていれば、いつの間にか戻っていた毛玉ちゃんたちがボールを投げろと訴えている。またジークがボールを取って『そら!』と声を上げると、今度は山なりにボールが飛んでいく。毛玉ちゃんたちがまたぴゅっと走り出せば、クロとルカとジアがこちらへきていた。

 

 「ルカとジアもボール投げして遊ぶ?」

 

 私の言葉にルカが鼻をぶるると鳴らす。ジアは私の方へ顔を近付けて撫でて欲しいと訴えていた。

 

 『あんまり興味ないって。最近、ナイが遊んでくれないから寂しいって訴えてるよ』

 

 どうやらその間にクロは二頭の気持ちを汲んでくれていたようで通訳を担ってくれる。確かにルカとジアたちに構う暇がなかったなあとジアの顔にそっと手を当てた。毛玉ちゃんたちが戻ってきて、今度は楓ちゃんがボールを咥えてドヤ顔になっている。ルカとジアの足下でちょろちょろしているのに、毛玉ちゃんたちが踏まれないのが不思議だ。

 

 「ごめんね、ルカ、ジア。少し忙しかったから。大仕事は一旦終わったし、侯爵領ならルカとジアの背中に乗せて貰ってお出掛けしても楽しいかも」

 

 幼馴染組でお出掛けすることになっているからエル一家の背に乗せて貰って、領地の景色が良い場所に行くのもアリか。ないなら絶景を探しに行こうと目的を作っても面白そうである。

 広い土地だし未開の場所もあるから遊ぶにはもってこいだろう。護衛の方たちは大変かもしれないが、飛竜騎士隊のワイバーンさんたちを借りれば一緒に空を飛べる。侯爵領内ならば、人間を襲うことのない天馬さま方には手出し厳禁と御触れを出すこともできるのだから。

 

 『お出掛け楽しみだって。島以外で外に出る機会が少ないからねえ』

 

 「そうだよね。南の島以外にも外に出て遊びたいし、ルカとジアも番の仔を見つけなきゃ」

 

 ルカとジアはエルとジョセよりも外に出る機会が凄く少ない。大陸内であれば危険はないはずだから、屋敷に留まる理由はないだろう。今なら各国の上層部の方と縁ができたから、ルカとジアを見たら見守ってあげてくださいとお願いできる。

 足下で毛玉ちゃんたちがボールを投げろと要求しているため、リンが『いくよ』と声を上げて一投目より凄く遠くにボールを飛ばしている。毛玉ちゃんたちはピューと走り出し、ヴァナルが羨ましそうな顔をしていた。

 

 『ルカは乗り気だけれど、ジアはまだ考えていないんだって』

 

 変顔をしてみんなを楽しませているルカよりジアの方が番探しに消極的なのは意外だ。でも外に興味があるとのことなので、ルカと一緒に旅に出る日が近いかもしれない。また襲われてしまうかもという心配もあるが、いつまでも過保護では駄目だし、エルとジョセが許可を出せば構わないはず。

 

 「とりあえず、みんなで遊びに行こうね。近場だけれど……――どうしたの?」

 

 私がみんなと遊びに行こうねとルカとジアを誘っていると、首をくるっと回して屋敷の方へ視線を向けている。彼らの視線の先にはユーリの部屋があり、窓からユーリを抱っこした乳母の方が顔を出していた。向こうに行ってみようかとみんなに声を掛ける前に、ユーリと乳母の方の姿が消えていた。すると丁度、毛玉ちゃんたちがボールを咥えて戻ってくるのだが、彼女たちの息が随分と上がっている。

 

 「お水飲もうね」

 

 私が毛玉ちゃんたちに声を掛けると喉が渇いていたのか、お水が貰えると喜んでいた。一旦、屋敷に戻ろうかとみんなに声を掛けていると、ユーリを抱いた乳母の方がこちらへ歩いてきている。ユーリが成長して屋敷の中であれば彼女が行きたいと主張した場所には自由に行き来できるようになっている。もちろん従業員の皆さまの生活エリアや危ない場所には立ち入り禁止となっているけれど。

 

 「ご当主さま、ユーリさまが毛玉ちゃんたちが遊んでいる姿を見て、交ざりたいようだったので……」

 

 「構いませんよ。ユーリ、みんなと一緒に遊ぼうか」

 

 乳母さんが少し困り顔になって私たちに告げた。名前を呼ばれた毛玉ちゃんたちはどうしたのと尻尾をぶんぶん振りながら、ユーリと乳母の方を見つめている。ルカとジアもユーリに興味があるのか熱視線を向けていた。

 ユーリはみんなに人気だなと感心しつつ、私は乳母の方に腕を伸ばせばユーリをゆっくりと安全に気を付けながら渡してくれる。ユーリは私に抱き留められることを嫌がりはせず、左腕にお尻を乗せ、右腕で彼女の身体を支える。

 

 「外は気持ち良いよね。日光も浴びて元気に大きくならなきゃ。ご飯も沢山食べようね。あ、でもトリグエルさんみたいに間食しちゃ駄目だよ」

 

 『ナイは注文が多いねえ。小さい子は放っておいても大きくなるよ~ね、ユーリ』

 

 私の心配を他所にクロはお気楽なものである。そりゃ竜の方は勝手に育つかもしれないが、ユーリは人間の子供なのだ。ある程度大きくなるまで誰かの庇護が必要だろう。ユーリは私の肩の上で動いているクロに視線を向けて右手を伸ばした。

 

 『ふぐぅ!』

 

 なんとなく伸びたユーリの右手がクロに当たってしまい妙な声が漏れている。ジークとリンはユーリの逞しさに苦笑いを零し、ヴァナルと雪さんたちはお昼寝を始め、毛玉ちゃんたちは足下で早くボールを投げてと急かし、ルカとジアはユーリに興味津々でクロにしたように触れて貰いたいようである。

 現場がカオス状態だけれど、これがアストライアー侯爵家の日常だと私が感心しているとクロがふうと息を吐いた。

 

 『ユーリの力は強いねえ』

 

 「クロ、女の子に失礼だよ」

 

 ユーリはまだ幼いから力は強くない。私がクロは大袈裟だと冗談を言いながら笑っていればこてんと首を傾げる。

 

 『え? そうなの?』

 

 「ユーリはまだ小さいし、言葉を理解していないかもしれないけれど、怪力だなんて言われたくないよねー?」

 

 私がユーリに同意を求めると、何故かクロにしたように右手を伸ばして私の頬にヒットする。

 

 「痛い。どうして……」

 

 何気に痛いし、ユーリが私に手を出した理由が分からない。ジークとリンは大丈夫かと心配そうにし、乳母の方はひいと青い顔になっていた。私は青褪めている乳母さんに気にしないで欲しいと首を振っていると、肩の上のクロが翼を広げて飛び立つ。

 

 『ナイもユーリに変なことを言っちゃうからだよ』

 

 一言クロは告げれば、ユーリのパンチから逃れるべくジークの頭の上へと避難するのだった。

 

 ◇

 

 エーリヒさまはデグラス領の一部を拝領すると決めたようである。まだ正式に発表されてはいないが、アルバトロス王家も上層部も認めているため決定事項だ。ジークも騎士爵位規模の地を拝領し、リンは管理できる自信がないと言って話を蹴った。

 内々に済ませているため、リンに対して王家に不敬な態度を取っていると咎める方はいないはず。リンのためにと用意していた土地は功績を上げている他の方が王家から拝領するとのこと。

 

 私もセボン子爵さまとデグラス伯爵さまに手を出した責任はあろうとデグラス領領都を拝領することになり、子爵位規模の土地を管理運営する予定だ。とはいえ侯爵領で手一杯のため代官の方に任せる形になるけれど。

 

 まだ正式に爵位を頂いていないが、視察に行っても構わないと王家から許可を頂いたため、アストライアー侯爵一行はデグラス領領都へと赴いていた。

 

 少し小高い丘に立っているデグラス伯爵邸の屋根裏から私たち一行は街を見下ろしていた。元伯爵位規模というだけあってデグラス領都は結構な広さがある。領都の外には大きな川が流れているため水源を容易に確保できていた。

 領都の周囲には小麦畑と森が広がり、狩猟へと出かけている方を探してみるものの確認できなかった。街の中は通常であれば商業活動が開始されている時間というのに、広場には露天商が少ない上に買い物に出ているお客さんも少なかった。重税を敷いていたことで悪循環になっているのかと、私は窓から出していた顔を一旦引っ込める。

 

 「領都なので活気があるとおもいきや……」

 

 私は屋根裏部屋にいるソフィーアさまとセレスティアさまを見た。もちろんジークとリンも一緒にいるが、政治的な話となればご令嬢さま方に声を掛けてしまう。ソフィーアさまとセレスティアさまもデグラス領の現状には問題があると微妙な表情を浮かべていた。

 

 「あまりよろしくない状況だな」

 

 「街並みは小綺麗ですが、住んでいる皆さまの顔に生気がありませんわ」

 

 計画していたことなので移動は侯爵領から馬車でデグラス領領都まで向かっている。デグラス領に入り途中の町に立ち寄った際には領都同様に経済活動が鈍化していた。

 宿の主はやる気がない上に身形が整っていないし、提供されたご飯は質素なものだった。侯爵家の食事に慣れてしまった身としては物足りないし、質、量ともに足りていない。同行していたヴァルトルーデさまとジルケさまも『文句はないけれど、寂しいね』『ナイの屋敷の飯に慣れ過ぎたかもなあ』と微妙な顔になっていた。

 

 一泊しただけなので領地の現状を完璧に掴めたわけではないが、早急に改善していかなければ領地の方たちが病んでしまいそうである。

 

 とはいえ、デグラス伯爵さまが失脚し、新しい領主を迎えるという報は領地の方たちにとって嬉しいことのようである。身形が整っていない宿の主人は生きることに希望が湧いたと仰っていた。

 ちなみに私がデグラス伯爵さまの後釜だとは領地の方は誰も知らない。今日、デグラス領領主邸に立ち寄っているので気付いた方がいるかもしれないが。公式発表はまだ控えているためデグラス伯爵家が失墜したことを知っているが、私が次の領主とは知らない。領地の皆さまは不安と希望の板挟みになっているようである。

 

 「一応、代官さまが派遣されるとお知らせはされているようですけれど……」

 

 「誰がくるかわからないし、元領主と変わらず重税を敷けば状況は変わらないからな」

 

 「ナイがくると分かっているので、その心配はありませんが……過去に実行した者がいますから」

 

 私がもう一度ソフィーアさまとセレスティアさまを見る。彼女たちは苦笑いを浮かべながら肩を竦めていた。確かに代官さまに悪意があれば碌な領地運営をしないだろう。

 とはいえ王家から派遣される方である。妙な政策を敷けば王家から怒られてしまうため、普通はまともな治世をと望む。ただアルバトロス王国の長い歴史の中では碌な代官さまではないと判断された方がいるようだ。いつの時代も悪い考えを持つ方はいるのだなあと目を細めて、屋根裏部屋にいる皆さまの顔を見る。

 

 「では、領都の教会へ向かいましょうか」

 

 「そうだな。早く行った方が良さそうだ」

 

 「ですわね。話は教会に通してありますから、向かいましょう」

 

 私が声を上げるとソフィーアさまとセレスティアさまが答えてくれ、ジークとリンは無言で頷く。クロもロゼさんとヴァナル一家も問題ないし、ヴァルトルーデさまとジルケさまも女神さまとしてではなく侯爵家の一員として一緒にくるそうである。

 屋根裏部屋から出て階下を目指して歩いて行く。領主邸は随分と広いのだが、侯爵領の屋敷には及んでいない。慣れは恐ろしいと廊下をきょろきょろと見渡しているのだが、元バーコーツ公爵家のような派手で目立つ美術品が随分と少ない。廊下の壁に飾られている絵画も落ち着いたものだし、デグラス伯爵さまは本当に食費にお金をつぎ込んでいたようである。

 

 「所々、手入れが行き届いていませんね」

 

 一見、綺麗に見えているが目を凝らすと壁紙に皹が入っているし天井の角には蜘蛛の巣が張っていた。どうやら使用人の方たちのやる気も落ちていたようだと私は肩を竦める。

 

 「修繕を怠っていたのだろう」

 

 「一家揃って放蕩三昧だったようですし、本当に救いようがありませんわ」

 

 ご令嬢さま方も廊下を点検していたようで少し呆れていた。ヴァルトルーデさまとジルケさまはアストライアー侯爵邸と比較して楽しんでいるようである。ジークとリンは視線を前に向け私を気にしつつも、安全確保のために逃走経路とかを把握しているようだ。

 一階に辿り着いて玄関を出て馬車回りへと歩いて行く。そこにはアストライアー侯爵家の馬車と数台の荷馬車が待ってくれていた。荷馬車の方には小型の竜の方が落ち着きなさそうに周囲を観察している。小型の竜の方たちは私たちを見つけてへらりと笑う。べしんべしんと尻尾を左右に振りながら私たちが彼らの下へ辿り着くのを待ってくれていた。

 

 『女神さま~聖女さま~みんな~早く行こ!』

 

 『お仕事、頑張る!』

 

 『おっきい竜じゃなくて、僕たちが選ばれた!』

 

 『嬉しいねえ~楽しいねえ~』

 

 ケラケラと笑いながら四頭の小型の竜の方たちが私たちを迎えてくれる。荷を引く馬よりも小柄なのに、彼らより小型の竜の方の力は強い。荷馬車はドワーフ職人さんが彼らでも荷を引けるようにと作成してくれたものであり、結構な量を積める仕様になっていた。

 彼らの馬車には大量の小麦を載せていた。侯爵領の備蓄食料なのだが今回のことでデグラス領にと持ってきていたのだ。備蓄麦は入れ替え時期となり家畜飼料に転化されるものだが食べられる代物である。

 昔を思い出して、教会で炊き出しをしようとなったのだ。教会には連絡を入れているし、領都では腹を空かしている方が多くいると聞いている。なので馬に荷を引いて頂くより、亜人連合国の飛竜便を利用した方が量を運べると判断した。

 

 「荷物運び、ありがとう。もう少し頑張ってね。あとは荷物が軽くなるから」

 

 アストライアー侯爵領からデグラス領までは五日の期間を費やしている。またユーリに会えない日が続くけれど、デグラス領の方を放置できないと視察と称してやってきた。教会に辿り着けば荷は空になるからと小型の竜の方に伝えれば、彼らはまた面白そうに顔を綻ばせる。

 

 『竜だから平気ー!』

 

 『毛玉じゃできない~!』

 

 『僕たち力持ちー』

 

 『けむくじゃらに負けないよ~』

 

 小型の竜の方に名前を呼ばれた毛玉ちゃんたち三頭は頭の上に感嘆符を浮かべている。毛玉ちゃんたちは小型の竜の方たちの前に立って『まけにゃい!』『ぎゃんばればできりゅ!』『あたちたちもひきゅ!』と抗議の声を上げていた。

 某辺境伯ご令嬢さまの喉から『ぐはっ!』となにかが漏れているけれど、いつものことだとみんなは見て見ぬ振りである。唯一、某公爵ご令嬢さまだけが律儀に『みっともないぞ』と突っ込んでいるのも普段通りだ。

 

 「毛玉ちゃんたちは小型の竜の方たちより身体が小さいからね。馬車を引くのは諦めようか」

 

 私が毛玉ちゃんたちにやんわりとできないと伝えれば『にゃんで!?』『おっききゅなればいいにょ!?』『くやちい!!』とぷんぷん怒っている。小型の竜の方たちは『毛玉が怒ったー!』『怖くない~』『小さいからね~』『仕方ないね~』と声を上げた。雪さんと夜さんと華さんが毛玉ちゃんたち三頭を諫めれば、しょぼんと毛玉ちゃんたちが顔を下に降ろしてとぼとぼ歩いて小型の竜の方の前から移動した。

 

 「ぐふうっ! いえ、悲しんでいる姿など見たくないのですが、しかし……しかし……!!」

 

 セレスティアさまが鉄扇を広げて顔を隠しなにかに耐えている。ジルケさまとヴァルトルーデさまが某ご令嬢さまを見ながら苦笑いを浮かべていた。

 

 「セレスティアは大変だな」

 

 「ソフィーアも大変」

 

 ほぼ、呆れに近い気がするものの、彼女の魔獣愛にはそのうち慣れるはず。行きましょうかと私は声を上げて、四頭の小型の竜の方たちにも声を掛けて馬車に乗り込むのだった。

 馬車に揺られながら領都のメインストリートを走っているがやはり人気が少ない。時折、外を歩いている方は疲れているようである。表情の明るい方もいるのだが、痩せていないし身形も良いので他領地からきた方だろう。暫く馬車に揺られていると教会に辿り着いた。ジークのエスコートを受けて馬車から降り、女神さま方のエスコートは私が担う。そうして降りた先にある建屋を私は見上げる。

 

 「……えっと……教会ですよね?」

 

 随分とボロボロの教会である。信仰の場であるため領主の方は教会に対してお金をケチることはない。ないけれどデグラス伯爵さまは教会へのお金を惜しんでいたようだ。教会の階段には痩せ細った方たちが腰を掛けている。纏っている服が襤褸(ボロ)だから貧民街の方であろうか。本当に教会かと御者の方に視線を向けた。

 

 「ち、地図によれば教会です」

 

 困り顔になる御者の方に責はない。ないけれどつい、問い質したくなったのだ。それくらいにボロボロの教会なのだが凄い蝶番の音を響かせて正面の扉が開いて、人の姿が数名見えた。階段の上にある正面扉から神父さまと数名のシスターが急ぎ足で階段を降りてくる。そうして私たち一行の前に立った神父さまとシスター数名は深々と頭を下げた。

 

 「初めまして、ナイ・アストライアーです。本日は突然の話を受け入れてくださり、教会の皆さまにはお礼申し上げます」

 

 私が名乗れば、教会の皆さまがまた深々と頭を下げた。そんなに畏まらなくてもと言いたくなるが、身分差が絶対の世界では致し方ないのだろう。我慢だ我慢と私は耐えて、話が進みますようにと願う。

 

 「あ、アストライアー侯爵さま!! この度はこのような寂れた教会に赴いて頂き感謝いたします!」

 

 「炊き出しの申し出まで……本当に、本当にありがとうございます!」

 

 恐る恐る顔を上げた教会の皆さまには、過度な態度は必要ないと伝えておく。今日は貴族としてではなく聖女として教会を通じてデグラス領の皆さまの腹を満たせればと話しているのだから。小型の竜の方たちが引いている荷を下ろしましょうと告げ、教会の階段に力なく座している方々に『もう少し待ってくだされば、炊き出しが開始されますよ』と伝えると彼らの目に光が宿るのだった。

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