魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
デグラス伯爵領の視察から戻って、暫くの時間が経っている。
デグラス領は王家から代官さまの派遣により現状はマシになっているそうだ。王家からの支援や各領主からの支援も入り、領民の皆さまの飢えを満たしてくれたようだ。あとは重税から解放されているから、稼いだお金が手元に残れば普通の生活となるはず。
エーレガーンツ王都はヤーバン王国の支配下になるのかと思いきや、ヤーバン王国と隣接している領主との交渉によって領地の交換を成功させたようである。ヤーバン王国に隣接している領地よりも、エーレガーンツ王都の方が規模や発展具合は上だというのに交換するにいたったのは、飛び地を管理してもお金が掛かるだけというのが理由だ。
『そもそも王都規模の土地を手に入れても、私が統治できる気がしない!』
とヤーバン王は手紙で豪語していた。それならばヤーバンに隣接している小領地を吸収併合した方がマシと考えたのだろう。しかし文化が違うだろうに吸収された領地に住まう方たちが、ヤーバンの風習に馴染めるのか疑問である。同化政策を取るのか、税金だけ巻き上げる土地と化すのかはヤーバン次第か。私が気にしても仕方ない。
王都のタウンハウスである侯爵邸で私たちはとある準備に取り掛かっている。これから登城して新たな爵位を賜る予定だ。侍女の方たちの手により、お着換えを済ませていつもの面子が顔を突き合わせている。
ヴァルトルーデさまとジルケさまも私の側仕えに扮して登城するとのこと。なんだか女神さまと一緒に行動することがデフォになっているなと目を細めていれば、着替えを済ませたジークとリンが私の部屋に入ってきた。
「さて、行きますか。エーリヒさまに会うのは久しぶりだね」
私はそっくり兄妹の顔を見上げる。エーリヒさまも私たちと一緒に爵位を賜る……いや、彼とジークは陞爵という形か。私は新たな爵位を賜って、アストライアー、ミナーヴァを持つことになる。
侯爵位を二つも貰えないし、そもそも空白地となったデグラス伯爵領を分割して拝領するから伯爵位以下となる。侯爵領より管理は容易なはずと気楽に賜るつもりだ。ただデグラス伯爵の悪政により、民の方たちの健康回復に暫くは努める予定であるが。
「そうだな」
「隣領になるんだよね」
ジークとリンが小さく笑う。仲の良い者同士がお隣さんとなるのだし、困った時は協力し合おうと決めている。リンは爵位は必要ないと辞退したため法衣貴族のままだ。リンの場合、ジークのように領地経営の教育を受けていないから真っ当な選択かもしれないけれど。
「うん。ジークとエーリヒさまと私が拝領するところはデグラス伯爵領だからね。他にも賜る方がいるけれど、ご近所付き合いが上手くいけば良いなあ」
本当に近隣のお付き合いが上手くいくと良いのだが。社交に出るならお誘いしたり、されたりするだろうし、仲が悪ければ喧嘩を売られることもある。今まで隣領の方と問題を起こしたことはないが、恨み妬みをいつの間にか買っているかもしれない。
「言い方が悪くなるが、ナイとエーリヒの領地が側にあるなら、二人の領地の動向は気にしなくて良いからな」
ジークが片眉を上げながら笑っている。確かにジークとエーリヒさまの領地の動向は気にしなくて良いし、困っているなら手助けする方針である。逆のパターンであっても彼らは助けてくれるはず。本当にこうした関係が築けたのは奇跡に近いなあと、神さまに感謝……なにか違う……――運命に感謝しよう。
「ナイと兄さんが喧嘩しているところ、想像できない」
リンが声にして、ジークと私が喧嘩しているところを考えているようだった。お互いに駄目だしすることはあるけれど喧嘩までいかない。言っても苦言止まりだし、私がジークを注意することはほぼなく、ジークが私に苦言を呈していることが多い。無茶をする私が悪いし、そっくり兄妹に心配を掛けてしまうことが多いので全面的に私が悪いのである。とはいえ、大喧嘩なんてしたことないし、本当に平和な幼馴染関係だ。
「そういえば、私たち喧嘩したことないね?」
私がそっくり兄妹の顔を見上げれば、彼らは苦笑いを浮かべていた。長い付き合いだけれど思い出す限りで喧嘩したことはない。
「喧嘩する理由がないからな」
「仲良し」
ジークが肩を竦め、リンがさっと私の後ろに回って腕をお腹に回す。私の頭の上でリンがふふふと笑っているので機嫌が良いのだろう。私の後頭部がリンの胸に当たっているが、彼女は一切気にしていない。
毛玉ちゃんたち三頭が足下で構ってと訴えているけれど、リンの腕がお腹に回っているので動けずにいれば、ふん! と鼻を鳴らしてつまらないと主張している。毛玉ちゃんたちも本当に感情が多彩になってきているなと感心していると、開けていた扉の前にソフィーアさまとセレスティアさまとヴァルトルーデさまとジルケさまが立っていた。
「そろそろ行こう。なにをしているんだ?」
「本当にナイたちは仲が良いですね」
真面目な顔から目を丸くするソフィーアさまと鉄扇を開いて口元を隠して笑うセレスティアさま。ヴァルトルーデさまは片眉をピクリと上げ、ジルケさまはそんな長姉さまの雰囲気に小さく息を吐いている。
「羨ましい」
「姉御、ナイたちに加わりたいなら努力しろ」
ヴァルトルーデさまはそんなに私たちの関係が羨ましいのだろうか。ジルケさまはジルケさまで妙なことを言っている。私たち幼馴染は兄弟みたいなものだから、血が繋がっている姉妹であれば簡単に良い関係を構築できそうだ。
でも西の女神さまと北と東と南の女神さま方が仲良くしている姿を想像すると気持ち悪いというか、お尻がムズムズするというか……とにかく違和感しかない。優雅にお茶をしばいていれば四柱さまは絵になるが、各々の個性が強すぎて色が混ざり辛い上にカオスになりそうである。
「難しい」
「あたしはナイの屋敷で美味い飯が食えればそれで良いからなー」
むーと目を細めたヴァルトルーデさまに軽い調子でジルケさまが本心を答えた。確かに侯爵家のご飯は美味しいし、グイーさまの石配りの件で各国の特産品や食材を手に入れやすくなり、調理部の皆さまが日々研鑽に努めてくれている。
時折、新しいレシピを開発してみましたと言われて、厨房に味見に赴くことがある。どれも美味しいので没になったレシピはなく、充実した食生活であった。
「私は使用人の皆さまの賄料理が気になります」
「あ、だよな。けどよ、あたしが料理長たちに食べたいっつーと渋い顔すんだよなあ」
新しいレシピは侯爵邸と子爵邸で働く皆さまに提供されることもある。もちろん私たち用ではなく使用人さん用に開発されたレシピのため、幻の料理と化しているのだ。
私とジルケさまの会話を聞いていたジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまが呆れ顔を浮かべ、ヴァルトルーデさまは良く分かっていない様子である。使用人さんたちの賄料理はまた今度、調理部の皆さまにおねだりするとして、先ずは登城しようと錫杖さんを腰に差し馬車へと乗り込むことになる。転移で城に向かっても良いけれど、なるべく御者の方の仕事を奪わないようにという配慮からである。緊急時は転移を使用しようと決めたのだ。
「アルバトロス王都は活気がありますね」
馬車の窓から見える景色は貴族街であるものの、エーレガーンツ王都やデグラス領と比較すれば規模は大きいし街に活気がある。重税を敷いていたデグラス領と比較するのは失礼かもしれないが、アストライアー侯爵領もいずれは活気に溢れる街にしたい。
アルバトロス王都は良いお手本だと声を上げれば、私の正面に座しているソフィーアさまとセレスティアさまも外へと視線を向けた。
「平和な証拠だな」
「建国されてから随分と長い時間を要しておりますもの」
確かに平和で穏やかな証拠だし、治世が安定しているからアルバトロス王国の建国から長い時間が経っている。ヴァルトルーデさまとジルケさまも何度も見ている光景だというのに、車窓の景色に飽きることはないようだ。
私を真ん中に挟んでいるのも相変わらずであるが、抗議しても無駄なので馬車で私が座る位置はもう諦めている。城門を抜け馬車回りへ辿り着けば、お迎えの近衛騎士さま方が待ち構えていた。私はソフィーアさまとセレスティアさまに視線を向ける。
「着いた。降りましょう」
私が声を上げれば、ご令嬢のお二人が先に馬車から降り私が立ち上がろうとするとふいに声が掛かる。
「ナイ、先に降りる」
「だな。ナイにエスコートされたらあたしらの正体バレるからな」
今更のような気もするが、ヴァルトルーデさまとジルケさまは私が二柱さまをエスコートするのは不味いと気付いたようだ。外で待ち構えている侯爵家の護衛の方たちが驚くかもしれないが、ジークとリンであれば無難に対応できるだろう。
私は分かりましたと声を上げると、二柱さまは席から立ち上がりゆっくりと扉へと近づくと、リンが少し驚いた顔になったものの拒否すると不味いと理解したのか二柱さまのエスコートを担っていた。私が最後に扉の前へと立てば満面の笑みを浮かべるリンが待ち構えていた。私はステップに足を降ろしつつ、手は彼女の方へと伸ばして重ねる。
「気を付けてね。ナイは偶に危なっかしいことがある」
リンがステップを降りている私に声を掛けた。確りと手を掴んで貰っているし、仮に転倒しそうになっても助け船が出ることは分かり切っている。ただ周りの方たちの視線が痛いので、なるべくみっともない姿は見せたくない。
「十分気を付けているんだけれどね」
『何故か転びそうになるよねえ』
本当に気を付けているのに何故足がもつれるのか。肩の上に乗っているクロまで苦言を呈しているので、危ない時があると認識しているようだ。
「クロまで言っちゃうか」
私が馬車から降りれば影の中にいた毛玉ちゃんたちがひゅばっと飛び出てくる。いつものことと化しているのか、近衛騎士の方が動じなくなっていた。
毛玉ちゃんたち三頭はドヤと登場したのに、近衛騎士の方たちの反応が薄くて『なんで?』と首を傾げている。不思議に感じているもののお城では屋敷の中のように自由に動けないと理解しているため、私の横に三頭が並んでお座りをした。それを見届けたお迎えの近衛騎士の方が敬礼を執り、挨拶を交わして私たち一行を謁見場控室へと連れて行ってくれる。
城内はまた私が爵位を得ることで騒がしくなっているようだ。
私が爵位をまた賜ることに異論はない――石配りの件で――ようだが、ジークとエーリヒさまが領地を賜ることに不満を抱いているようで、アストライアー侯爵のおこぼれに預かっていると噂が流れているとか。
何気にエーリヒさまは私を通じて王家に料理のレシピを融通しているし、ジークも邪竜殺しの英雄として法衣ではなく領地を賜ってもおかしくはない。
決して私の威光で彼らも輝いているわけではないと言いたいが、余計なことを言って火に油を注ぐ必要はないし、二人は王家が認めて領地を賜る。堂々としていれば、いずれはみんな認めてくれるはずだ。それにジークは周りの言葉に惑わされていない。エーリヒさまと話ができていないので分からないけれど、彼も腹を決めれば立派に領主として務め上げるはず。
毛玉ちゃんたちが気配を感じてピッと耳と尻尾を立てていた。近衛騎士の方も下世話な視線を向けるなと気を張ってくれている。認めてくれる方が認めてくださるなら、有象無象にはなにを言われても問題ないはず。そんな視線を浴びながら、私たちは謁見場控室へと入れば久方振りにエーリヒさまと直接顔を会わせるのだった。
◇
謁見場控室に入れば、先にいたエーリヒさまが椅子から立ち上がって頭を下げた。ぴしっと様になっているのは、彼が外務部員として勤めている時間が長くなったからだろうか。今なら身内しかいないので気楽にして欲しいと私は苦笑いを浮かべながら口を開く。
「お久しぶりです、ベナンター卿、ジータスさま」
「アストライアー侯爵閣下、お久しぶりです。皆さまも、お元気でしたか?」
顔を上げたエーリヒさまが小さく笑い、ジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまには目線を下げ、そしてヴァルトルーデさまとジルケさまには少しだけ頭を下げていた。
なんとなく、エーリヒさまは精悍になったような。私の気のせいかもしれないが、以前より落ち着いているというか。毛玉ちゃんたち三頭もエーリヒさまと挨拶を済ませて、少し話をしようと席に腰掛けた。
席に着いたメンバーは私とジークとエーリヒさまのみで、リンとソフィーアさまとセレスティアさまとヴァルトルーデさまとジルケさまは私の後ろに控えている。
二柱さまが腰掛けないことにエーリヒさまは驚いているが、最近、アストライアー侯爵家にとって普通となっているためか特に疑問視していない。女神さま方も気にしておらず、エーリヒさまとジークと私の話に興味があるようだ。
毛玉ちゃんたちはリンの横に座りドヤと顔を上げているので、私の護衛のつもりのようである。聖王国の様子はフィーネさまから聞いているものの、エーリヒさまから見た聖王国の状況を耳にしていないので気になっている。フィーネさまとエーリヒさまの関係が前進したのかも気になるし、この際だから聞いてみようと私はエーリヒさまと視線を合わす。
「外務、お疲れさまです。巻き込んでしまい申し訳ないのですが、今回、良い機会かなと考えてエーリヒさまに領地を一部授けることはできないかと陛下に打診いたしました。聞き届けてくれたようで良かったです」
「やはり、ナイさまでしたか。美食倶楽部の晩餐会にナイさまが誘われたと聞いておりましたし、セボン子爵とデグラス伯爵のことも聞き及んでいたのでどうなるかと心配していたのですが、まさか俺にまで話が波及するとは予想外です」
私の言葉にエーリヒさまが苦笑いを浮かべながら答えてくれ、おこぼれに預かっているようで申し訳ないと後ろ手て頭を掻いている。
私的にはこれからも末永くお付き合いして欲しいというお願いであり、料理関連で大変お世話になっているからお礼も兼ねていた。エーリヒさまであれば領地運営は問題なくできるという確信めいたものがあるし、隣領はジークが当主を務めるのだ。きっと良好な関係が築けると期待している。
「グイーさまのお使いとして石を各大陸へ届けた功績だと陛下が仰ってくださったのですが、伯爵位規模の領地を運営するには私では少々力不足となりますから。分割して頂き、子爵位規模と男爵位規模の領地にして頂いたのです」
私の説明を聞いたエーリヒさまは少し驚くものの、直ぐに表情を元に戻して背を正した。
「アストライアー侯爵閣下、感謝致します。これから末永く、よろしくお願い致します」
「こちらこそ、よろしくお願い致します。ジークも一緒にお世話になります」
エーリヒさまが頭をまた下げて、私も目線だけを下げる。そして一緒に領地を賜るジークに視線を向ければ、妙な顔になっていた。
「……閣下。妙なことを言わないでください」
ジークは私に苦言を呈すけれど、冗談の範疇だと分かってくれているはず。その証拠にエーリヒさまも軽く笑っているのだから。
「エーリヒ、これからよろしく頼む」
「こちらこそよろしく。ジークフリード」
ジークとエーリヒさまが挨拶を済ませたので、少し本題に入らせて頂こう。聖王国では石を大聖堂の祭壇で公開しているのだが、警備面やらいろいろと心配なことがある。
「聖王国では石を一般公開しているようですが、いろいろと大丈夫でしょうか?」
私がエーリヒさまに問えば彼は真面目な顔になる。彼曰く、警備は本当に厳重に敷いているので一般の方が悪さをできる状況ではないとのこと。それに石を見にくる信者の方が多く、身動きが取り辛い状況の中、違う動きをする人がいると凄く目立つそうだ。
そんな動きをした方は警備の方に連行されて、目的を吐かされ、出身国と名前を聞き、次になにかやらかしたら出禁となるそうである。聖王国にしては確りとした内容だなと感心していると、エーリヒさまが苦笑いを浮かべる。
「大聖女ウルスラさまがはりきっているようで少し心配です」
ウルスラさまが張り切っているとはこれ如何にと私が首を捻れば理由を教えてくれる。石の効果で信者の方が多く参拝にきてくれているのだが、同時に治癒院に立ち寄る方も増えているそうだ。
ウルスラさまは多くの方の役に立てると鼻息を荒くして治癒を施しているとか。以前のような行動は取らないけれど、根が真面目なため一人でも多くの方に術を施そうと試みていると。彼女らしくはあるけれど、自身が倒れると元も子もない。私はエーリヒさまと視線を合わせて、ふうと息を吐いた。
「フィーネさまとアリサさまがウルスラさまの側にいらっしゃるので、大丈夫だとは思いますが無理と無茶をし過ぎるなら……」
ヴァルトルーデさまに説教をして貰おうと私は後ろを振り返る。ヴァルトルーデさまは私が視線を合わせた意図を掴めていないけれど、ジルケさまは『なるほどな』と納得していた。
荒療治となるが、効果はばつぐんである。効き過ぎを心配しなければならないかもしれないが、ヴァルトルーデさまもウルスラさまをキツく叱ることはあるまい。
ソフィーアさまは私の手法を大丈夫なのかと心配し、セレスティアさまは致し方ないのでしょうと言いたそうだ。リンは相変わらず我関せずだし、毛玉ちゃんたちは警備に飽きてワンプロを始めている。ウルスラさまが倒れたり、何度も限界寸前まで治癒を施そうとするなら教えてくださいとエーリヒさまにお願いしておく。フィーネさまにも伝えておこうと決めて、私は次の話題を口にした。
「エーリヒさま、フィーネさまもお誘いするのですが、豚肉パーティーに参加しませんか?」
「以前、仰っていましたね。よろしいのですか?」
ロステート伯爵さまから豚肉を買い付けてすぐにデグラス伯爵さまの邪魔が入ったから、豚肉は試食会のみで止まっている。もう暫くすれば豚肉が侯爵家に納入されるので、せっかくなら
「ロステート伯爵さまが反故になった契約があるので豚肉を融通できるようになったと教えてくださいました。一応、昔から贔屓にしている方を優先にと伝えたのですが、両方優先させますとのことで豚肉が侯爵家に納入されるようになりました」
「新たな爵位を賜るとのことで王都勤務が決定しております。あとは予定が合うかですね」
どうやらエーリヒさまは聖王国勤務から王都勤務に戻るようである。フィーネさまと遠距離恋愛を再開することになるけれど、二人なら上手くことが運ぶはず。
エーリヒさまの勤務地が元に戻るなら、尚のこと豚肉パーティーを開催しなければ。あと、フィーネさまに着物に詳しいか聞いてみたい。着付けは風魔と服部のご老体が知っているかと思いきや、女性ものはさっぱりだと呵々大笑された。
「せっかくなら、夏のメンバーを誘いましょうか。きっと楽しくなります」
エーリヒさまとジークがいるなら、緑髪くん……もといユルゲンさまがいた方が良いだろうし、それならばマルクスさまとギド殿下も参加して欲しくなる。
ヴァルトルーデさまとジルケさまも確定だし、お肉が大丈夫なら亜人連合国の皆さまもお誘いを掛けてみよう。ボルドー男爵さまも暇だとボヤいていたので、招待状を送ってみようか。楽しくなりそうだと笑っていれば、エーリヒさまがじっと私を見ていた。
「ということはグイーさまも?」
「あ……夏の面子となればグイーさまも同席されていましたね」
そういえばグイーさまもバーベキューに参加していた。決して忘れていたわけではない。グイーさまを呼ぶならナターリエさまとエーリカさまもご招待しなければ失礼だろう。あれ? となるとテラさまも呼ばなければご家族が揃っているのに仲間外れとなってしまう。ヴァルトルーデさまに通信を頼んで話をして頂ければテラさまも知ることができるか。フットワークの軽いテラさまだから、ゲームに嵌っていなければきてくれるはず。
「じゃあ創星神さま方も誘うとして、他にお誘いしたい方はいますか?」
「俺は夏に一緒にいた方たちがいるなら大丈夫です」
分かりましたと私がエーリヒさまに答えると一つ頷いてくれた。豚肉パーティーはいつ頃が良いだろうかと考えていると、私の腰元に差している錫杖さんがぺカーと魔石の部分を光らせる。
『ご当主さま、ご当主さま』
「錫杖さん、どうしましたか?」
なんだかソワソワした声の錫杖さんが私に問いかける。
『私もブタニクぱーてぃーに参加したいです!』
「構わないですが、錫杖さんは食事は必要ないですよね?」
問題ないけれど、食物を食べられない錫杖さんはつまらないのでは。
『皆さまがいる場に加われることが重要なのです!』
錫杖さんは皆さまに認知して貰うことが目的のようである。確かに喋れるようになったし、誰とでも会話できる錫杖さんであれば問題はないと私が顔を上げると、やり取りを見ていたエーリヒさまが目を丸くしていた。
「え?」
短く抜けた声を漏らしたエーリヒさまに私は腰元の錫杖さんを抜いて机の上に置いた。
『初めまして。ご当主さまの錫杖です。名前はまだありませんが、これからよろしくお願い致します』
錫杖さんが魔石をぺかぺかと光らせながら名乗りを上げる。エーリヒさまは驚いているけれど、暫くすると気を取り直して口を開いた。
「ご丁寧にありがとうございます。エーリヒ・ベナンターと申します。ナイさまとは仲良くさせて頂いております。よ、よろしくお願い致します」
男性が机の上の錫杖さんへ頭を下げている光景は凄く不思議だと私は苦笑いを浮かべる。長剣のレダとカストルがお喋りすることをエーリヒさまは知っているため直ぐに飲み込めたようだ。まだ聞けていないことがあると、私はフィーネさまの近況や新たに仕入れることができた品の一覧をエーリヒさまに見て貰ったりと充実した叙爵式前となるのだった。