魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
謁見場での叙爵式が終わり、アルバトロス城の一室で就任祝いの会が開かれていた。陛下まで参加されており、他にも王妃殿下に王太子殿下夫妻、第二王子殿下と婚約者のご令嬢に、宰相閣下、外務卿、内務卿、農務卿とアルバトロスの上層部の皆さまが集まっている。
他にもアストライアー侯爵と俺とジークフリードと今回爵位を賜っている関係者が集まってくれていた。そのため会場は少々、騒がしくあった。
ナイさまは、ジークリンデさんとハイゼンベルグ公爵令嬢とヴァイセンベルク辺境伯令嬢と二柱さまを引き連れて挨拶回りをしている。俺も先程まで挨拶を済ませて会場の隅っこに控えている。俺の隣には一緒に聖王国から戻ってきたユルゲンと挨拶回りを終えたジークフリードが立っている。俺はイケメン二人に囲まれながら、ナイさまの方へと視線を向けた。
「ナイさまの周りがどんどん凄くなっている……いや、ジークフリードもか?」
俺が目を細めるとユルゲンが『確かにどんどん閣下の周りは凄くなっていますねえ』と言い、ジークフリードは片眉を上げて俺を見ている。
「俺はナイのお陰だからな」
ジークフリードはそう言いながら肩の上にちょこんと乗っているアズに左手を差し出した。ジークフリードに構われることが嬉しいのか、アズは目を細めながらジークフリードの手に顔を擦り付けている。
確かにナイさまがいなければジークフリードの肩の上に竜が乗ることなんてなかっただろうけれど、賢い竜が人間に簡単に懐くとは思えないからジークフリードの人柄もあるはず。
「影の中にはヴァナルとフソウの神獣さまにスライムがいて、腰元には喋る錫杖……侯爵邸には天馬とグリフォンだろ。それにエーレガーンツ王都を三日で落としたヤーバン王からエーレガーンツ欲しくないかって打診がきたとも聞いているし……本当に凄い方だよ」
俺がジークフリードと視線を合わせると彼が肩を竦める。
「本人は国の統治なんて興味がないと言っていたな」
「国も領地も変わったものじゃない気がするから、できそうだけれど……どうなんだろ?」
ジークフリードが真面目な顔を浮かべてナイさまの方を見た。そういえばジークフリードとナイさまのデート――ナイさまはお出掛け認識――は途中で切り上げたと聞いている。
堕ちた神さまが現れて、グイーさまの命により石配りを大陸中に配り歩いていたから仕方ないと言えば仕方ないけれど……どうしてジークフリードの恋路を邪魔するのか。ナイさまのトラブル体質が原因なのか、ジークフリードに運がなかったのか。どちらか分からないけれど、次になにかある時は誰にも邪魔されないで欲しい。
小さな領地も大きな国家も統治するという意味では同じである。ただ規模が大きくなれば大変かもしれないが、ナイさまならやってのけるはず。彼女自身、確りとしている――偶に抜けているけれど――し、周りの方たちも有能なのだ。特に問題なくエーレガーンツ王国を統治できそうである。
「確かに規模が大きくなっただけですが、責任も一緒に大きくなりますからね。新興の侯爵家で国規模の統治は荷が重いかと」
ユルゲンが眼鏡のフレームに触れて位置を直した。確かにアストライアー侯爵家は人手が足りていないところがある。以前、領地の子爵邸完成祝いの際には王家から騎士団と軍から人を借りていた。
ジークフリードによれば、侯爵家お抱えの騎士を増やしているもののゆっくりとしたものなのだとか。他から引き抜けば問題が起こるだろうとナイさまは慎重に侯爵家のメンバーを選んでいるようである。
もちろん知り合いからの推薦があれば面接の上で雇い入れているとか。他の貴族家を慮って雇い入れを考えているのはナイさまらしい。ロステート伯爵家から購入する豚肉も無理のない範囲でとお願いしているとのことだ。
やることは凄く派手なのに、細かいところは本当に細かい。
「エーリヒかユルゲンがやりたいと言えば、ヤーバン王からエーレガーンツを貰い受けて代官として派遣されそうだ」
「え?」
「まさか」
ふっとジークフリードが笑って俺とユルゲンを見ている。確かに『統治してみたい』なんて言い出せば、ナイさまは『良いですよ』と気軽に与えてくれそうではある。
あるのだけれど外務部の外交員としてしか働いていない俺たちが、エーレガーンツ王国を統治できるのか疑問だ。圧倒的武力でもあれば、恐怖によって支配できるけれど……俺では無理である。ユルゲンも侯爵位を継ぐ予定だったから、領地運営は学んでいただろう。でもやはり一国となれば忙殺されそうだ。
「まあ、ヤーバンとエーレガーンツの戦後交渉は終わって、ヤーバンに隣接している領地を自国に編入させたからな。仮の話だ」
「あ、ナイさま、挨拶回り終わったっぽい。ジークフリード、戻るか?」
ジークフリードに揶揄われていると俺の視界の端でナイさま方が軽食コーナーの方へと歩いて行く。ご本人は凄く嬉しそうな顔をしているし、ヴァルトルーデさまとジルケさまも機嫌が良さそうだ。
ジークリンデさんも挨拶回りを終えたことに息を吐き、ご令嬢二人は食べ過ぎるなよと言いたげである。ただ主を咎めるつもりはないようで、側で見守ることに徹するようだ。ジークフリードは自由の身となったナイさまの下へ行かなくて良いのだろうかと俺は彼の顔を見る。
「いや。今日は流石にナイの護衛として後ろにいるわけにはいかない」
確かに叙爵祝いの場だから、ジークフリードがナイさまの後ろに控えているのは変な話か。主役の一人となるから壁の染みを務め上げようと笑っていると、ユルゲンも小さく笑う。
「侯爵閣下とジークフリードとジークリンデさんは一緒にいるというイメージが強いですから。なんだか少し可笑しいです」
「確かにジークフリードが一人でいるのは珍しいよな」
「偶には良いだろう。ナイだって俺から離れたいことがあるかもしれない」
三人で雑談を繰り広げていれば、不意に誰かが俺たちの近くにきたようだ。一番最初にジークフリードが気付いて俺たちから視線を離し、やってきた人の方へと顔を向けた。ジークフリードは小さく頭を下げ、俺とユルゲンは誰がきたのだろうとジークフリードの視線の先へと顔を向ける。
「エーリヒ」
「父上、どうしました?」
親父、メンガー伯爵が俺の名を呼べば、ジークフリードとユルゲンが一歩、二歩と後ろに下がった。親父はそんな二人に『気にしなくて良い』と視線で訴える。とはいえ俺に話があるのだろうとジークフリードとユルゲンは動かないので、邪魔をするつもりはないようだ。
「いや。先程、挨拶を交わしたが伝え忘れていたことがあってな。偶には我が家に戻ってきなさい。忙しいかもしれないが、母がお前に会いたいと零している」
最初こそ伯爵位持ちの怖い親父と捉えていたのに、最近はナイさま関連のことで肝を冷やしている親父だというのが俺の認識となっていた。長兄も親父と一緒にナイさまの功績に驚いているようで、俺と同じ立場になればナイさまに不興を働くだろうと考えているようである。
そういえば母上に暫く会っていない。仕事が忙しくて王都と聖王国の往復を繰り返していたし、ここは一度メンガー伯爵領の領主邸に戻るべきか。
「承知しました。時間を作って一度、領地へ戻ろうかと。しかし……俺が戻って大丈夫ですか?」
次兄は俺のことを妬んでいる。次期メンガー伯爵のスペアとして育てられた次兄は自身で得たものは、親から与えられた次期メンガー伯爵補佐という椅子だけだ。
学院での成績が俺の方が良かったことで余計に彼の自尊心を傷つけてしまい、どうして俺だけと嘆いていたようである。次兄から妬みを買っている俺が家に戻っても、屋敷の雰囲気を悪くさせるだけとアガレス帝国に拉致されたあとは戻っていなかった。
「嫉妬をしているようだが、エーリヒの実力だと認めるしかないだろう。エーリヒが持ってくる各国の土産に肩を落としているからな」
むうと親父が難しい顔になる。次兄が俺に会いたくないのであれば、会わないように立ち回るだろう。それに母上が俺に会いたいと願っているならば戻った方が良いはずだ。平民でも貴族でも……いや、関係ないか。命を懸けて俺を産んでくれた人なのだから。
一度、聖王国に戻ってアルバトロスに帰国すると挨拶回りがあるから、なにか土産物を買えると良いのだが。母上は甘い物が好きだから本当は共和国の土産を買えれば言うことなかったけれど仕方ない。あ、ナイさまは共和国と連絡を取り合っているし、チョコレートが余っていないだろうか。
次兄は俺が各地から土産物を持って帰ったり、贈ったりしていることが気に食わないようである。家に土産物を贈るのは少し控えて、俺が実家に帰る時だけ持ち込むようにしよう。
「まあ、次兄については心配するな。私が言い聞かせておく」
「分かりました。では、予定が決まり次第お知らせ致します」
親父が真面目な顔になり、俺と確りと視線を合わせた。情けないところを見せる時もあるが、やはり親父はメンガー伯爵家の当主である。領地で一番偉い者だと感心していれば、彼の肩がぴくりと動く。
「ひゃ、あ、ああ、アストライアー侯爵閣下っ!?」
親父が妙な声でナイさまの名を呼んだ。ナイさまが俺たちがいる壁際にきたようだが、軽食コーナーを陣取らなくて良いのだろうか。疑問に感じて親父の視線の先に身体を向けると、アストライアー侯爵家の女性陣と護衛の方が続いていた。
「話のお邪魔をしてしまいましたね。メンガー伯爵卿、申し訳ありません」
困り顔で笑うナイさまに俺たちは小さく礼を執る。親父は緊張からなのか顔を引き攣らせていた。
「い、いえ! むちゅこと少しばかり世間話をしていたところでっす! も、問題ありません!」
ぴしっと両手を横につけた親父が直立不動になっている。ユルゲンはその場に留まり、ジークフリードはすっとナイさまの横へと移動していた。しかし本当にどうしたのだろうか。でも聞きたいことがあったのでタイミングが良かったかもしれない。男爵位の俺が侯爵位を持つナイさまに公衆の面前で安易に話しかけるわけにはいかないのだから。
「錫杖さんが卿にご挨拶がしたいと仰っていまして。お話をよろしいでしょうか?」
「しゃ、しゃくじょうさん、ですか?」
ナイさまが喋っている意味を理解していない親父ははてと言いたげであるが、唯一理解できた言葉を鸚鵡返ししていた。
「はい」
ナイさまが短く返事をすれば腰元の錫杖を抜き出して両手の上に置く。謁見場控室で錫杖は元の長さより短くなってくれていると聞いていたため俺は驚かないが、親父は錫杖が短くなっていたことで陛下がナイさまに下賜した錫杖だと分かっているだろうか。
『初めまして、メンガー伯爵閣下。貴殿は私を制作する際に助力をして頂いたと聞き及びました。真に感謝いたします』
「も、もしかして陛下がアストライアー侯爵閣下に下賜したあの時の錫杖っ!? え、短っ! しゃべ、喋ってるぅ!?」
喋った錫杖に驚きの声を上げる親父に『元の姿になりますね、ご当主さま』と言って錫杖が長くなる。凄く魔力を放出しているのか、錫杖の周りが靄が掛かったようになった。そうして靄が晴れるとナイさまが両手に長くなった錫杖を抱えて苦笑いを浮かべている。
『そう驚かれなくとも。凄く早い期間で喋れるようになりましたが、魔力を多く含んでいる道具は私のように年月を経れば喋る可能性がありますよ。ご当主さまの側にいられるのは、皆さまのお陰ですからね。関わって下さった方に、ご挨拶をさせて頂いておりました』
ふふふと笑う錫杖と苦笑いのアストライアー侯爵に真顔で待機している侯爵家の面々、そして驚きながらどうしたら良いのか分からず固まったままの親父がいた。俺とユルゲンは視線を合わせたあと、親父殿に肘鉄を入れて正気に戻ってくださいと念じる。
「はっ! そ、そうでしたか。珍しいことなので慌ててしまい申し訳ありません。侯爵閣下のお役に立てているならば、援助した甲斐があったというものです」
あははははと乾いた笑いを出した親父は『では、また』と言って場を去って行く。途中で足を縺れさせて倒れそうになっていたが、そこは貴族の矜持があるのかどうにか堪えていた。
「父がすみません」
「いえ。驚かせたようで申し訳ないとお伝えいただけますか?」
俺がナイさまに頭を下げると、錫杖も『驚かせてしまい、申し訳ないことをしてしまいました』と少し落ち込んでいる。慣れないことで驚いただけですよと俺は錫杖さんに伝えて、チョコレートが余っていれば融通して欲しいとナイさまにお願いするのだった。
――チョコレートは大量のストックがあるそうだ。
◇
西大陸の東に位置する我が国は、王族や貴族の圧政に立ち向かい自由を手に入れた。私、リバティーは自由を手に入れた一番の立役者であり、今は王に代わりこの国の行く末を握っている。
治安維持に食料確保、反乱貴族の処分にと忙しい日々を送っているものの、王を倒したことにより自由を手に入れた私たちの未来はきっと明るい。
王族が使用していた城をそのまま政府官邸と決め、我々革命軍の拠点となっている。アルバトロス王国のアストライアー侯爵から受け取った創星神の石も城内に安置して警備を敷いているのだが、神の夢は真実なのだろうかと私は疑っている。
本当に神という存在がいるのであれば王の悪政を正してくれていたのではないか。王の判断により無実の罪を着せられた者などいなかったのではないか。そう何度も過去を振り返ってしまう。
失ったものは取り戻せないし、今は前を向かなければ。
聖王国も正直胡散臭い国だと私は考えているのだが、周りの者たちは信じているようだ。だから私は無粋なことを口にはしない。自由を標榜している国ならば、神を信じても良いだろう。そして神など信じなくても良いのである。
皆が皆、同じ夢を見たというが、魔術で集団幻覚を見せられただけかもしれないのだから。
ふうと私が王が使用していた立派な執務机で息を吐けば、扉からノックの音が四度響いた。野暮用があれば四度響くソレに私は返事をして、やってきた者を執務室に迎え入れる。私とは真逆の体躯が良く顔の濃い歳近い男が執務机の前に立つ。彼は警備を担っている責任者のため、何故野暮用で執務室にくるのかと私は疑問を抱く。私が視線を合わせると、彼はふっと力を抜いて口を開いた。
「リバティー殿、首都の者たちが城前に集まり、貴殿の名を呼びながら感謝を捧げております」
どうやら城の前に民衆が集まっているようだ。悪政により重税や飢えから解放された者たちは私たち革命軍に感謝をしているようである。辺境の地で立ち上がり『打倒、王家』を掲げて王都まで辿り着く頃には、反乱軍の規模は随分と大きくなっていた。
王家に不満を持つ貴族もいたため彼らも私たちに協力を惜しまなかった。王都の民衆も同じで、私たち革命軍が王城へと攻め入る時には一緒に王家に立ち向かったのだ。
「おや? 嬉しいことですねえ。少し顔を見せておきましょうか」
彼らが私を讃えてくれているのなら、私は外に出て顔の一つでも見せるべきだろう。ふふふと私が笑みを浮かべれば、目の前の男が片眉を上げた。
「群衆の中へと向かえば、揉みくちゃにされてしまいましょう。城壁の上から手を振るくらいに留めておいた方が良いかと」
「本当は民の皆さまに困っていることや、我々政府に対して要望がないか直接聞きたいのですが」
確かに揉みくちゃになるだろうが、王都の民衆が望んでいることを聞ける良い機会でもある。腹は空かせていないか、自由を謳歌しているか聞いてみたかったのだが。
「リバティー殿。以前の貴殿とは違い、今は立場があります。命を落とされては我が国の者たちが路頭に迷う。今、貴方を失うわけにはいかぬのです。群衆の中に貴殿に恨みを持った者がいれば好都合となるのですよ?」
「確かに君の言う通りですね。分かりました。話し合いの機会はまた別で設けましょう」
小難しそうな顔になる男の意見は尤もだろう。今、私が倒れればこの国を纏め上げる者がいなくなる。仕方ないと諦めて私は席から立ちあがり、執務室を出て王城の壁を目指す。壁の近くになると外の声が届いていた。はっきりとしたものではないが、私の名を首都の民たちが叫んでいる。警備に就いている者が私を見るなり嬉しそうな顔を浮かべた。
「リバティー殿! 凄い人だかりですよ!」
「皆、貴方に感謝しております!」
まだ歳若い彼らは、先程の男のような威厳はない。ないが可愛らしい者たちであると私は手を上げ、壁の上に向かい外の皆に手を振ると伝えれば『お供いたします!』と声を張った。
「リバティーさまー!」
「ありがとう!」
「お陰で毎日ご飯が食べられる!」
「怖い騎士がウロウロしていない!」
首都の民たちの明るい声が私の耳に届く。壁の下には大勢の者たちが集まり顔を輝かせている。城の備蓄庫を開放し食料を配給したから皆は飢えていない。春になればまた小麦や野菜が採れるようになるだろう。今少しの辛抱だし、隣国に支援を頼んでいるので色良い返事がくると良いのだが。皆の前に立っているというのに難しいことを考えるのは止めよう。私は笑みを浮かべて城の壁の上で集まった皆に手を振った。
「きゃー! 素敵ー!」
「リバティーさま、万歳!」
「国を救いしお方ー!」
わっと響く声に、私は王家を打倒して良かったと口を伸ばすのだった。
◇
リバティーという男が城の壁の上に立ち、集まった民衆に手を振っている。俺たちは物陰に隠れて、瘦身の男を見上げていた。
「……呑気なものだな」
俺と一緒に見上げていた仲間が厳しい顔でぽつりと呟いた。
「ああ。国庫を開放して食料を配っているが、王都の者たちの腹を何時まで満たせるのか。確かに王家は悪政を敷き民に苦労を掛け、貴族たちにも随分と重い税を払わせていたが……いきなり王政から民が国家を運営するって可能なのか?」
今は食べることに困っていないが、食料を手に入れる用意はあるのだろうか。王都だけで王都の者たちを満たせる食料を作れるとは思えない。春がくれば麦が採れるものの、王家や商家が他領から買い付けていたはずだ。
「どうだろうな? 上手くいけば良いが、革命軍に参加していた貴族たちは自領に引き籠っている。王都に残っているのは革命軍の本隊だけと聞いた。仲間割れやらをしなきゃ良いんだがな」
仲間の男が首を傾げる。王を倒したことは喜ばしいが、本当に革命軍が政を行って大丈夫なのかという心配がある。王家に忠誠を誓っていた貴族たちは革命軍に加わるか、王家と共に亡きものにされている。領主不在となっている民たちはどうなっているのだろう。情報が入ってこないため、俺たちが知るのはもっとあとになるはずだ。せめて革命軍が領地の管理をしてくれると良いのだが。
「病気になったらどうするんだ? 治療代を払う金はないし、聖女さま方も王都から逃げてんだぞ?」
教会の聖女さま方は戦になれば身に危険が迫ると王都を脱出している。どこに逃げたのかまで知らないが、戻ってくるのであれば治安が安定してからだろう。王都の治安は良いとはいえないが、王家から解放された高揚感で民は知らぬ存ぜぬを決め込んでいる。
「本当に呑気だな」
俺は視線を王城の壁へと移して、リバティーという男を見た。嬉しそうに笑っている男は果たして、この国をより良くできるのだろうかと目を細めた。
◇
爵位授与式から二ヶ月が経っている。
――豚肉料理祭り、開催!
かねてから考えていた豚肉料理祭りを開催することになった。参加者はアストライアー侯爵家のメンバーとフィーネさまとアリサさまとウルスラさまとエーリヒさま、アリアさまとロザリンデさま、ユルゲンさまとマルクスさまとギド殿下である。
南の島に参加している面子ということで副団長さまと猫背さんに招待状を送れば、直ぐに返事が届いて参加の旨が記されていた。大人組も参加するならとハイゼンベルグ公爵夫妻とヴァイセンベルク辺境伯夫妻にリヒター侯爵夫妻にも招待状を送ったのだが、暇なのか皆さま参加するとのこと。
ボルドー男爵さまにも招待状を送り、夫婦で参加させて頂くと返事がきているし、この面子であれば陛下方もとお誘いすれば名代で王太子殿下夫妻がきてくれるとのこと。亜人連合国の皆さまにも声を掛ければ『是非』とお返事がきている。お婆さまにもきて欲しいとお願いしているのだが、きてくれるかは謎である。しょぼんと悲し気にしていた姿から元気になっていると良いのだけれども。
で。ヴァルトルーデさまとジルケさまは絶対に参加するとなり、ナターリエさまとエーリカさまは気が向けば参加するそうだ。ヴァルトルーデさまにはテラさまへ声を掛けて頂き、ジルケさまにはグイーさまへ参加するか聞いて頂いた。
テラさまは『ナイ
開催場所を領地の屋敷か王都のタウンハウスにしようか迷ったが、皆さまの移動を考えれば王都のタウンハウスが無難となり、侯爵家一行は領地から王都へと移っていた。
ルカとジアも空を飛んで王都へと移動してきている。ジャドさん一家はヤーバン王と一緒に過ごしているのでいないが、今回はトリグエルさんと仔猫三匹も私の影の中に入って移動していた。
子猫の引き取り先を探しているので、ユーリと一緒にお披露目会をしようとなったのだ。セレスティアさまは、母であるアルティアさまが粗相をしないか心配していたが、アルティアさまはセレスティアさまそっくりの行動を取るため問題ない。辺境伯家的には恥かもしれないが私は一向に気にしないため構わないし、魔獣や幻獣に生き物を大事にしてくれる証でもあるのだから。
昼下がり。タウンハウスのアストライアー侯爵家の自室で、昼ご飯を終えた私とジークとリンとクレイグとサフィールとユーリにクロとアズとネルとロゼさんとヴァナル一家がのんびりしている。
トリグエルさんと仔猫三匹は毛玉ちゃんたちと戯れていた。トリグエルさんは毛玉ちゃんたちに巻き込まれたというのが正解かもしれないが。私の膝の上に乗っているユーリが目の前で戯れている毛玉ちゃんたちに手を伸ばしながらなにか声を発していた。聞き取れなかったので耳を澄ませてみれば、またユーリが口を開く。
「ごはにゅ」
本当にユーリはご飯を確りと食べて成長しているし、ご飯に関しての語彙が多い。まんま、ごはん、たべもにょ、おかち、等々、本当に食に関しての言葉を多く発していた。
みんなは私に似たんだと微妙な視線を向けてくるけれどユーリ本人の特性だろう。私は食い意地が張っているけれど、ご飯と口に出して連呼することはないのだ。ご飯を食べ終えたばかりというのに、またなにか食べたそうにして右手を伸ばしているユーリを私は覗き見た。
「ご飯はまだまだ先だよ、ユーリ。ユーリでも食べられそうな豚肉料理があると良いね?」
私がユーリに声を掛けると、くりくりお目眼を合わせてくれて『ぶちゃにゅく?』と小さく右に首を傾げる。流石に豚肉はどんなものか分からないだろうし、牛肉とか鴨肉とか伝えても味を見分けられるのかも怪しい。
とはいえ本当に言葉数は多くなったし、行動範囲が広くなっている。乳母の方たちが少し大変ですと苦笑いを浮かべていたのも頷ける。ユーリがウロチョロし始めれば、延々と徘徊しているので運動不足気味な乳母さんたちには大変だろう。
人のことは言えないが、私は乳母の方たちよりも体力はある。ユーリが両手を必死に動かして、目の前にいる毛玉ちゃんたちの所へ行きたいと訴えているので私は膝の上から降ろした。
ユーリは少し危なげに歩いて、毛玉ちゃんたちへと合流した。毛玉ちゃんたちの意識がユーリに向いて、トリグエルさんが今がチャンスと速攻で逃げ出す。ユーリは毛玉ちゃんたちの身体をべしべし叩いているのだが、べしべし攻撃を嫌がりもせず毛玉ちゃんたち三頭は受け入れていた。微笑ましいなと私がにやけていれば、クレイグとサフィールが声を上げる。
「ユーリは大食いなのに太らねえよなあ」
「そうだね。食事の量は同じ年頃の子たちより食べているのに横に大きくならないねえ」
確かにユーリの食事量は多いけれど……太らないのは私と同じ性質を持っているからではという疑問は一先ず置いて、夜の豚肉料理祭り開催準備に取り掛かるのだった。