魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0689:保養先。

 ナイさまにご招待を受け、聖王国からアルバトロス王都にある侯爵邸に私、フィーネ・ミューラーとアリサとウルスラで訪れている。来賓室に案内されて、同年代の皆さまとワイワイお喋りをしているところ。ナイさまによれば日頃お世話になっている方を誘ったとのことで、アルバトロス王国の名立たる貴族家の方もご参加されるとのこと。四女神さまとグイーさまとテラさまもご参加するとのことなので、侯爵邸の料理人の皆さまのプレッシャーが凄そうだ。

 

 でも侯爵家の料理人の皆さまの腕は確かなものだし、エーリヒさまの料理のレシピもあるので凄く楽しみだ。アリサとウルスラも緊張するけれど、美味しい食事を頂けると喜んでいた。立食会をみんなで楽しめれば良いなと、時間を潰していればエーリヒさまが『ナイさまは休暇を取っているのか』とジークフリードさんに疑問を投げた。

 

 最近のナイさまはグイーさまの石配りを終えたばかりというのに、エーレガーンツという国の王冠と王錫がお婆さまの悪戯でベッドの上に置いておかれたとか。

 エーレガーンツ王国はヤーバン王国の手により陥落していたので大事にはならなかったけれど、他の国から妖精のお婆さまが盗んでいれば今頃大騒ぎだったはず。

 ナイさまやアルバトロス王国が責められそうだし、亜人連合国にも矛先が向きそうだ。といってもナイさまと二国に立ち向かえるところはないと言って良いので、歯軋りするしかないかもしれない。とにかく、確かにナイさまには休息が必要だと来賓室に集まってる皆さまは、良いリフレッシュ方法はないものかと頭を捻っている最中だ。

 

 「南の島に遊びに行くといっても、ナイさまが音頭を執ってくださっていますからね……」

 

 「亜人連合国の所領ですので、ナイさまがいらっしゃらなければわたくしたちは足を踏み入れることはできないでしょうね」

 

 アリアちゃんとロザリンデさまが苦笑いを浮かべて視線を合わせます。確かに南の島に向かえるのはナイさまのお陰であり、ナイさまが『行きましょう!』と言ってくれないと辿り着けない地である。他にどこか良さそうな所はないかと考えていれば、ウルスラとアリサがはっとした顔になっている。

 

 「聖王国にきて頂ただくと騒動が起こりそうです」

 

 「アルバトロス王国内に避暑地のようなところはないのですか?」

 

 あははと力なく笑うウルスラにアリサが続いてソフィーアさまとセレスティアさんの方へと顔を向けました。確かに避暑地があるなら別荘やコテージがありそうだ。異世界の貴族がどうやって夏の暑さを凌いでいるのか良く分からないけれど、伯爵家出身であるアリサがいうのであれば別荘地があるのかもと私は期待する。

 

 「自領地となるな……」

 

 「大きな湖でもあればそうなっていたでしょうけれど……アルバトロス国内にありませんもの」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまは肩を竦めていた。貴族の人が過ごす避暑地はどんなものがと気になった――前世では親が持つ別荘で夏休みを過ごしていた――のだが、アルバトロス王国には存在しないようである。

 ちょっと残念と肩を落としているとエーリヒさまが『あ』と小さく声を上げる。相変わらずカッコ良いし、今回のように気遣いのできる優しい人で嬉しいというか自慢の彼氏というか。領地貴族となったため、質の良い衣装を纏っているので以前よりも数段男前になっている。へへへと私の顔が緩くなるのを我慢して、私はエーリヒさまを見る。ああ、カッコ良い。

 

 「あの、フソウに温泉はないのでしょうか?」

 

 エーリヒさまは自信がないようで、少し遠慮気味にソフィーアさまとセレスティアさまに問いかけます。聖王国の官舎で見かけるエーリヒさまはいつもきりりと表情を引き締めていてカッコ良いけれど、今はちょっと情けない顔だ。

 でもそんな顔も様になっているなあとまた顔がにやけそうになるのを我慢していると、ソフィーアさんとセレスティアさんがふむと一つ頷いた。

 

 「温泉か。書物でしか読んだことはないが、落ち着いて過ごせるかと問われれば微妙ではないか?」

 

 「ですわね。湖の水が火山の熱で温かくなっている所では『温泉』として観光地になっておりますが、人が多いのでは……?」

 

 西大陸にある温泉は観光地として人が多く集まっているようだ。そんな所にナイさまが赴けば大騒ぎになるのは確実だ。

 

 フソウに温泉があるならば静かに過ごせそうである。ナイさまはドエの街に銭湯があると教えてくれたけれど温泉は聞いたことがない。銭湯は銭湯で男女混浴のため、恥ずかしいから行けないとも教えてくれている。

 確か江戸時代は随分と性に寛容で男女に分かれていないものが多かったと聞いたことがある。フソウもおなじであるならば温泉も混浴ではないだろうか……エーリヒさまと一緒にお風呂……。駄目、駄目! 想像しちゃ駄目! なんだかいろいろ聖王国の大聖女として品格を失いそうだ。貴族であるなら貸し切りとか可能だろうし、男女に分けることもできる。そう、できるはず!

 

 「フソウなら人里離れた場所にあるでしょうし、宿も併設されているでしょうから」

 

 エーリヒさまが落ち着いて過ごせそうですと二人に付け加えている。リヒター子息とギド殿下とクルーガー子息はエーリヒさまが博識なことに感心していた。

 ジークフリードさんとクレイグさんとサフィールさんは『水が温かいところなんてあるんだな』と不思議そうな顔になっている。サフィールさんの腕の中にいるユーリちゃんは良く分かっていないようで、お菓子を強請っている。

 ジークリンデさんは忙しいナイさまの側で護衛を務めているので来賓室にはいない。でもジークリンデさんなら『ナイと一緒』と喜んでいそうである。エーリヒさまの提案にソフィーアさまとセレスティアさまは異論はないようだ。二人は視線を合わせて頷き、エーリヒさまの方を見た。

 

 「ふむ。問い合わせてみても良いかもしれないな」

 

 「フソウであれば、ナイ以外にも連絡を取れるようになっておりますからね」

 

 フソウへの連絡手段はナイさま以外にも持っているようだ。急いではいないし、きっと帝さまや征夷大将軍さまに直接問い合わせるのではなく、外務部のような部署に問い合わせを入れるのだろう。そこから帝さまや征夷代将軍さまに伝わって大騒ぎになりそうだけれど……まあ、心配は必要ないだろう。お忍びでと伝えれば、待遇もそうなるだろうから。

 

 「もし温泉があるのであれば、ゆっくり過ごす場に適しているかと」

 

 小さく笑うエーリヒさまに、新婚旅行は温泉も乙だなあと私は目を細めるのだった。

 

 ◇

 

 アルバトロス城から出発した馬車の中で、ワシの正面に緊張した面持ちの青年と少女がいた。ワシの横には愛する妻が座しているのだが、彼女も普段より硬い顔になっていた。

 ナイの後ろ盾を務めていたこともありワシはアストライアー侯爵邸への訪問を苦にしていないのだが、馬車の中にいる皆は一様に緊張しているようだ。確かに神さま方も同席なさるとナイから知らされているので、重く受け止めてしまうのは仕方ないのかもしれない。

 だがナイの屋敷の混沌振りに慣れておけば、なにが起こっても動じなくなるはずだ。現にナイも舞い込んでくる厄介事に慣れてきたのか、報告が早くなったり、誰かを動かすことを覚えてきているようだ。相変わらず少々抜けていることがあるものの、大間抜けな失態はしないので問題ない。

 

 「そう、緊張されますな。他国の王冠と王錫が殿下の下へ舞い込むなどないでしょうからな!」

 

 「ボルドー男爵、そう面白そうな顔をして言わないでください」

 

 ワシが手で膝を叩けば、王太子殿下は微妙な表情で力なくワシを見ている。本来は彼ではなく陛下である甥が向かうはずであったが、名代として王太子殿下夫妻を向かわせることにしたようだ。

 ヤーバンの戦後処理がほぼ終わり、協力していたアルバトロス上層部も落ち着きを取り戻しているのに甥はナイの招待から上手く逃げたようである。毎度、名代を寄越していればナイが『陛下に嫌われている?』とか言い出しかねないので、そろそろ甥は腹を決めて参加して欲しいところであるが……。まあ、ナイが音頭を執る催しはこれで最後というわけではないので甥もいつかは参加するだろう。兎小屋からきちんとした屋敷に移り住んだのだ。一度くらいは甥も顔を出しておかねば。

 

 「あ、あはは……」

 

 「旦那さまの豪気には本当に驚かされます」

 

 妃殿下と妻が苦笑いを浮かべながらワシを見ている。豪気なつもりはないが、ワシの態度は周りの者からそう取られることが多い。細かいことを気にしていては物事が進まないし、貴族であるならば切り捨てなければならぬものもある。

 皆、優し過ぎると息を吐いて、我々の後ろを走る馬車を見た。後ろの馬車には亜人連合国の四人――正確には二頭と二人である――が乗っており、我々と一緒にナイの屋敷に着く。

 ナイも応対が楽になるし、アルバトロス王国を他国の彼らが闊歩するには少々目立つ。丁度良いと、ワシから一緒に行かないかと誘った次第だ。亜人連合国の代表殿は有難い申し出だと手紙に記していたから、ナイは彼らの移動手段を深く考えていなかったようである。まあ、彼らは竜で乗り付けることもできるから、ワシは余計なことをしたのかもしれないが。

 

 そうして暫く。ナイの屋敷に辿り着く。王城に程近い位置に侯爵邸があるため時間はさほど掛かっておらず、我々と同じくしてリヒター侯爵家夫妻もナイの屋敷に着いたようである。

 

 「降りましょう、殿下、妃殿下」

 

 ワシは殿下と妃殿下に声を掛け先に馬車から降りて妻をエスコートする。何度もこうして彼女の手を握っているが、若かりし頃抱いた彼女に対しての熱は冷めていない。貴族でありながら、冷めない熱を心に抱いているのは幸せなことだ。

 目の前の彼女にワシの気持ちが伝わっているのかは分からないが、いつものようにステップから降りれば『旦那さま、ありがとう』と柔らかい声が耳朶に響く。

 

 「手を」

 

 王太子殿下も妃殿下の手を握って馬車から降りれば、お互いに視線を合わせて微笑みを抱いていた。彼らに将来の不安は少なそうだと髭を撫でていれば、ナイが迎えにきてくれたようである。

 

 「王太子殿下、妃殿下、ボルドー男爵卿、ボルドー夫人。ようこそ、アストライアー侯爵邸へ」

 

 ナイがジークリンデと護衛を数名引き連れて頭を下げた。相変わらずナイの肩の上にはクロさまが乗っており、ジークリンデの肩にも幼竜が乗っている。竜の卵を二個預かっていると聞いているし、まだまだアストライアー侯爵邸では竜が増えそうだ。ナイはどこまで増やしてくれるかなと期待していると殿下と妃殿下が半歩前に出る。

 

 「お招き頂き感謝するよ。今夜は宜しく頼む」

 

 「閣下、お招き頂き感謝致します。今宵はよろしくお願い致しますね」

 

 馬車の中での緊張はどこへやら。殿下と妃殿下はナイと言葉を交わしている。女神さま方が席を外されているので緊張感が少ないのかもしれない。彼らが挨拶を終えたならワシもとナイの前へと出る。

 

 「アストライアー侯爵閣下。数々の料理、期待しておりますぞ」

 

 「閣下、ご招待ありがとうございます。よろしくお願い致しますわ」

 

 ワシがふふんと笑えばナイが『呼称に対して違和感が……』と言いたそうな顔になっているが堪えているようだ。妻も礼を執ればナイは小さく笑みを携えて、案内役の者と交代をする。そうしてナイはジークリンデを連れて亜人連合国の者たちの方へと、ちまちまと歩いていくのだった。

 

 ◇

 

 珍しくお父さまが屋敷の部屋の鏡前に立って御髪を整えています。わたくし、ナターリエ、違う……北の女神は創星神たる父の姿に苦笑いを零し、隣に立つ東の女神のエーリカと視線を合わせて肩を竦めました。御髪を整えられたお父さまは鏡に向かいにっと笑い、歯が汚れていないか確かめておられます。出掛ける機会が滅多にないためか、ナイのお屋敷に向かう際や南の島とやらに向かう際のお父さまの機嫌は頗る良い。

 お酒を飲み過ぎてしまうのは如何なものかと娘として心配しておりますが、今日はお母さまもご一緒するので酔い潰れるまで――神なので酔わないが気分で酔える――飲むことはないはず。

 

 「お父さま、お母さま。そろそろ参りましょう」

 

 「ナイの屋敷では皆さまが揃ったようですわ」

 

 わたくしたち二姉妹が声を掛ければ、お父さまは鏡から視線を外して勢い良くこちらを向きました。丁度、お母さまが部屋にきて眉尻を下げているお父さまを見た。

 

 「もっと気合を入れた格好の方が良いか?」

 

 変になっていないかと心配しているお父さまですが、神の力により衣装が乱れることはないですし、勝手に元へと戻りますし、汚れてしまっても勝手に綺麗になる。なにをそんなに身嗜みを気遣っているのかとお母さまの方を見れば、彼女も彼女で腕を組み肩を竦めた。

 

 「普段通りで良いんじゃないの? グイーがそんなこと言っちゃうと私も衣装を変えなきゃいけないんだけれど……あれ、あまり好きじゃないのよね」

 

 お母さまのご衣装は管理をなさっている星の人間たちが着ている衣装なのだとか。ぴっちりとした黒のパンツに、黒革のジャケットと白いインナーが――お母さまがそう仰っていた――最近のお気に入りなのだとか。

 数千年前は女神の衣装を纏っていたというのに、いつの間にか俗世に染まり地上で生活をしているとのこと。お母さまが楽しければそれで良いけれど、お父さま的には良いのであろうか。まあ、娘であるわたくしたちが両親のことに口を出すべきではない。ないけれど、わたくしはお母さまの女神の衣装を久しぶりに見たい気持ちがある。

 

 「お母さまの創星神としてのお召し物、素敵ですのに」

 

 「ええ。暫く見ておりませんから、見たい気持ちがありますわ」

 

 どうやらエーリカもお母さまの衣装を見たいようである。やはり纏う衣服で雰囲気は変わるので、創星神たるお母さまが見たい。

 

 「んー……グイーの島ならそっちでも良いけれど、ナイの屋敷でしょ? 参加者はナイだけじゃないから、今の格好で良いかなって。だからグイーも今のままで良いでしょ」

 

 お母さまは気持ち的に微妙なようである。ならば仕方ないと諦めていると、お父さまも残念と肩を落としている。

 

 「ま、あの格好はまた今度ね。今日はナイの屋敷でたくさん美味しい物を頂きましょ!」

 

 お母さまは肩を竦めて、ナイの屋敷に想いを馳せているようです。確かにナイの屋敷で提供される料理の数々に不味い品はなかった。変わった品には手を出していないので、不味い品はないというのは語弊があるかもしれないが。

 糸を引いている豆は見た目も臭いも変わっていて、わたくしとエーリカは口を付けていない。末妹が食べていると美味しくなってきたと、平然と食べている姿を見て驚いたけれど。流石に立食会で糸を引く豆は出ないだろうと苦笑いを零していれば、お母さまの声を聞いたお父さまがにかっと笑う。

 

 「だな。美味い酒もでるはずだ!」

 

 またお父さまの悪い癖が発揮されている。際限なく飲むせいでお腹の調子が変だと零しているのに、どうして酔おうとするのだろうか。神だから酔わないのに、酔うことを楽しんでいるのが悪いのか。

 北大陸の北端にあるオーロラの帯はお父さまの機嫌とお腹の調子を表している。こんなことが人間に露見すれば、恥ずかしいことこの上ない。だからエーリカには黙っていて欲しいとお願いしている。

 お姉さまと末妹は北大陸の北端のオーロラのことは知らないはずなので、わたくしとエーリカが口を滑らせなければ良いだけだ。お母さまも知らないだろうし、やはり口は閉じておくべきと二人のやり取りを黙って見ている。

 

 「グイーはお酒を飲み過ぎよ。お腹が垂れたら別れるからね」

 

 「え?」

 

 相変わらずお母さまはお父さまに手厳しいし、お父さまはお母さまに強く出られない。とはいえ今の両親の夫婦仲はわたくしは嫌いではない。凄く仲の悪い神夫婦もいると聞いたことがあるし、なんなら兄弟姉妹で仲が悪いところもあると聞いたことがある。

 お父さまとお母さまが仲違いしているところは想像付かないし、姉妹でじゃれ合うことがあっても本気の喧嘩をしたことはない。穏やかで暇な時間が続くようにと願っていれば、ふっとなにかを感じ取った。

 

 ――グイーさま!!

 

 なにかと思えば、ナイがお父さまを呼んだようである。準備ができたら教えて欲しいとお父さまはナイにお願いしていたので当然だ。お父さまはご飯前の皆が揃ったところに『どどーん!』と登場すると息巻いていた。

 だからナイから声が届けば地上に降りると決めていたのだ。わたくしもエーリカもお母さまも『ナイの声が島に届くなんて、でたらめね』と驚くものの、何度かナイの声が届いているので当たり前のようになってしまっている。

 

 「お、ナイだ。行っても良いか~?」

 

 お父さまもナイの声が届くのが当たり前のように受け止めている。ナイは星に大量の魔力を流したことでお父さまと繋がり易くなっているようだが、声がきちんとわたくしたちにも聞こえている。本当に変な子だと笑っていると、またふっとなにかを感じ取る。

 

 ――はい。あとはグイーさま方だけです。

 

 またナイの声が聞こえてお父さまと会話をしている。いや、うん。もう気にしないでおこうと思考を放棄して、これから向かうナイの屋敷ではなにを用意してくれているのだろうか。普段、食が細いと末妹に言われているが、ナイの屋敷ではたくさん食べることができた。提供される料理が美味しいこともあるのだろうけれど、本当に不思議な現象である。

 

 「準備が整ったようだな。あ、護衛とか連れて行った方が良いか?」

 

 通信を終えたお父さまがぽんと手を叩く。護衛なんて必要ないのに突然なにを言い出すのだろう。

 

 「グイーがいるなら必要ないでしょ。どうしたの急に?」

 

 お母さまも訝しい顔で当然のことをお父さまに向けて言葉を放つ。

 

 「だってナイたちは皆、連れておるぞ」

 

 ぶすっと頬を膨らましているお父さまはナイたち人間の真似をしてみたかったようだ。真似をしてなにになるのだろうと首を傾げていると、お母さまがお父さまの腕を取る。

 

 「ああ、グイーは彼女たちの真似をしたかったのね。見栄を張らなくても良いじゃない。さ、行きましょ」

 

 ご飯、ご飯と嬉しそうに鼻歌をお母さまは歌い出している。

 

 「お母さまは本当に地上を楽しんでおられますわね」

 

 「わたくしたちも自身が管轄する大陸に向かった方がよいのかしら?」

 

 わたくしとエーリカは楽し気なお母さまを見て目を細め、お父さまはお母さまに対して口を尖らせていた。

 

 「つまらんのう。ナイの驚く顔が見たかっただけなのに。あ、向こうに行った時に派手に光ってみれば良いか!」

 

 「はいはい。迷惑にならない程度にね、グイー」

 

 「えー……」

 

 本当にお父さまとお母さまは仲が良いと目を細めれば、お父さまの力が発動するのだった。

 

 ◇

 

 グイーさまも立食会に参加するのだが、何故か皆さまが揃ってからという不思議な注文を頂いている。王都のタウンハウスであるアストライアー侯爵邸にある晩餐会や夜会用の部屋で皆さまが揃ったあと、私がグイーさまに声を掛けることになていた。

 グイーさま! と強く念じれば神の島にいる彼に繋がったようだ。なんとなくいつもより繋がりやすさを感じたのは、私の腰元にちょこんとぶら下がっている錫杖さんのお陰なのかもしれない。

 

 行っても良いかというグイーさまの問いに、私が大丈夫と返してから暫しの時間が経った。

 

 会場には王太子殿下夫妻に亜人連合国の皆さま、ハイゼンベルグ公爵夫妻にヴァイセンベルク辺境は夫妻にリヒター侯爵夫妻に、アリアさま、ロザリンデさま、フィーネさま、アリサさま、ウルスラさま、ソフィーアさま、セレスティアさまと、エーリヒさまとギド殿下とマルクスさまがいる。

 ヴァルトルーデさまとジルケさまはグイーさまたちがこなければご飯が食べれないと知り、早くこいと手ぐすねを引いて待っているようだ。

 

 そして私の幼馴染であるジークとリンとクレイグとサフィールも会場で固唾を飲んでいた。クロとアズとネルとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちもちょこと座って待っていた。給仕役として参加して頂いている侯爵家の皆さまもグイーさまの登場を待っているのだが、南の島の時より姿を現すのが遅い気がする。

 

 一段上がっているステージの床に淡い光が発し始めた。どんどんと強くなる光と共に床には幾何学模様が浮かんでいた。私たちが使用している魔術の模様とは違うもので、なんとなく神々しい気がする。

 副団長さまと猫背さんがいれば凄く喜んでいそうな光景だ。魔術具で光景を収めて彼らに見せれば天へと舞い上がりそうである。流石に魔術具は持ち合わせていない。はっきりと浮かぶ幾何学模様に見ている皆さまが声を上げる。

 

 「な、なっ!?」

 

 「凄い眩しい……」

 

 王太子殿下が目を丸く見開き、妃殿下は幾何学模様から発せられる光に眩しいと目を細め。

 

 「凄いものを我々は見ているのではないだろうか」

 

 「ええ、本当に」

 

 ハイゼンベルグ公爵閣下は驚きの顔を浮かべ、夫人も彼の隣で小さく驚いている。

 

 「なんと……この世のものではないようだ」

 

 「読み解けはしませんわ……」

 

 ヴァイセンベルク辺境伯さまはほうと幾何学模様に見惚れ、夫人は魔術かもしれないと模様を観察していたようである。

 

 「なんという。我々は創星神さまが地上に降りる瞬間に立ち会っているだなんて……!」

 

 「旦那さま、もう二度と機会はないかもしれません。目に焼き付けておかないと」

 

 リヒター侯爵と夫人も驚きを隠さないまま、神の奇跡を味わっているようである。

 

 「ははは。愉快な方だなあ」

 

 「貴方は笑う余裕があるのですね……」

 

 ボルドー男爵さまは私からグイーさまがいつくるのか聞き出していたため特に驚きはなく面白がっている。彼の横にいる夫人は呆れているものの、目の前の光景を確りと記憶に残すつもりらしい。

 南の島でグイーさまと同席していたメンバーは『グイーさまだものな』といった感じで、彼の登場を待っている。唯一、ウルスラさまが祈りを捧げているくらいだろうか。ヴァルトルーデさまがウルスラさまに『父さんに祈りを捧げても意味あるのかな?』と言いたげにしているが、ジルケさまが『信仰心が高い奴だから余計なことを言ってやるな』と長姉さまに突っ込んでいた。

 

 幾何学模様から漏れ出る光が部屋を満たせば視界が真っ白になった。次の瞬間ぶわっと風が舞い、気配が増えたことに気付いた。

 

 「我、降臨!!」

 

 声が聞こえると真っ白な視界が色を取り戻す。ステージの上にはグイーさまとテラさまとナターリエさまとエーリカさまの姿があった。グイーさまはドヤ顔を披露しているけれど、女性陣三柱さまは少し呆れた様子だ。

 

 「はいはい。カッコつけて登場したのは良いけれど、みんな引いているわよ、グイー」

 

 「え? 儂の威厳を見せるために光をたくさん出していたのに? 出し過ぎた!?」

 

 テラさまの突っ込みにグイーさまが慌てている。とはいえ地上にきて貰ったのだから、私は主催者として挨拶しなければと彼らの前に足を勧めた。

 

 「グイーさま、テラさま、ナターリエさま、エーリカさま。アストライアー侯爵邸にようこそおいでくださいました。どうぞ今宵はお楽しみください」

 

 「ナイ! 招待すまないな! 短い時間だが、楽しませて貰うぞ!」

 

 「ナイの家のご飯は美味しいから、話を聞いてからこの日を待っていたの。今日はよろしくね」

 

 「お嬢ちゃん、ご招待ありがとうございます。楽しませて頂きますわ」

 

 「ご招待感謝ですわ、お嬢ちゃん。今宵は楽しい夜となりそうですわ」

 

 私が礼を執れば、四柱さまからそれぞれお言葉を頂くことになる。そうして会場にいる皆さまを紹介させて頂いて、豚肉料理立食会が始まるのだった。

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