魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0690:調理場大忙し。

 侯爵邸の会場内では神さま方と貴族の方たちに綺麗に分かれている。お誘いした貴族の皆さまは神さま方とどう接すれば良いのかと困惑しているようだ。グイーさまが『儂らもナイの客人だ。普通に接してくれれば良い!』とカラカラ笑っていたので、少し緊張は解けたようだけれど。

 

 ボルドー男爵さまと亜人連合国の皆さまと南の島の面子は比較的落ち着いており、会場内の料理に手を付け始めていた。豚肉料理が少々物珍しいようで、なにを取れば良いのか迷っている。

 

 そんな彼らを、どんな料理で、どんな味なのかをエーリヒさまはさりげなくフォローしていた。彼の姿を見ていたフィーネさまは嬉しそうに笑っている。仲が良いようでなによりと私は王太子殿下夫妻のお相手を務めていた。王太子殿下はグイーさまとテラさまと四女神さまが揃っている同じ場に立つのが初めてとなるため、緊張しているようである。他の貴族さま方もちょっと遠慮気味のようだった。

 せっかく美味しい料理がならんでいるのに食べないのは勿体ないし、料理人の方も悲しんでしまうので、あとで皆さまの下に行ってみよう。先ずは王太子殿下と妃殿下の緊張が少しでもほぐれますようにと彼らの顔を見上げる。

 

 「殿下、陛下にはいつもお世話になっていますとお伝えください。あとご迷惑をたくさんお掛けして申し訳ありませんと」

 

 私が小さく頭を下げれば後ろに控えているリンが『謝らなくても良いんじゃないかな』という雰囲気を醸し出している。私の側にいた毛玉ちゃんたち三頭は良く分かっていないのか頭の上に疑問符を浮かべていた。

 私の肩の上に乗っているクロは『いろいろと起こったからねえ』と過去を懐かしんでいるようである。セボン子爵さまとデグラス伯爵さまの一件の前にはエーレガーンツ王国の件があり、その前はグイーさまの石配りを務めていた。本当に怒涛の時間で、アルバトロス王国上層部の皆さまも大変だったはず。私で対処できないことは上層部に丸投げしているので申し訳ない限りである。まあ、申し訳ないと思うだけで、私はなにもできないが。

 

 「侯爵。迷惑なんてとんでもない。しかしながら、今の貴女の言葉は陛下に伝えておきましょう」

 

 王太子殿下が少し困ったような顔になりながら陛下に伝えてくれるようである。私が主催する夜会等に陛下をお誘いしても、陛下はいつも王太子殿下を名代として寄越してくれていた。

 王太子殿下を寄越してくれるということは最大限の配慮をしてくれているのだが、陛下が直接アストライアー侯爵邸にきてはくれない。あまりにも私がやらかし過ぎているから、嫌われているのだろうか。ただでさえ忙しい陛下を忙しくしているから仕方ないけれど、ちょっと落ち込みそうになる。アンニュイな気持ちになりそうなのをぐっと堪えて、私は妃殿下にもご挨拶をしなければと口を開いた。

 

 「妃殿下、マグデレーベン王国から美味しい牛肉と乳製品を購入できる環境にしてくださったこと感謝しております。西と南の女神さまは王国のお肉やチーズを気に入りたくさん食しておりました。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんの仔たちも喜んで食べております」

 

 妃殿下の母国であるマグデレーベン王国からは牛肉と乳製品を取り寄せている。基幹産業が牧畜のため、国を挙げて力を入れているようだ。本当に美味しいお肉が侯爵邸に届き、使用人の方――もちろん質は落ちる――たちにも好評なのだとか。

 料理人さんたちも肉やチーズの質が良いと目を細めているので、マグデレーベンの牛肉は本物なのだろう。毛玉ちゃんたちが食べている手作りジャーキーも妃殿下の母国の牛肉で作っている。それを理解しているのか毛玉ちゃんたちが妃殿下の前でわちゃわちゃし始めて、最後に彼女の前に三頭が並ぶ。尻尾をふりふりしながらお座りをして穢れなき眼を上へと向けている。

 

 「閣下、嬉しいお言葉ありがとうございます。マグデレーベン陛下も店の者も生産者も喜んでくれましょう。皆にお伝えしておきます」

 

 にこりと綺麗に笑った妃殿下は毛玉ちゃんたちにも視線を向けて『気に入って貰いありがとうございます』と答えている。毛玉ちゃんたちも『おいち!』『ありあと!』『まちゃ、つきゅってもらうの!』と声を上げた。

 王太子殿下と妃殿下は毛玉ちゃんたちが片言を扱えるようになったと知らなかったのか目を丸くして驚くものの、『凄い、喋れるのか』『可愛いですね』と微笑ましそうにしている。毛玉ちゃんたち三頭は自分たちが話題に上っていると理解して、ドヤと顔を上げてもっと褒めてと言いたげだ。

 

 「殿下と妃殿下はグイーさま方と話をしたことがありますか?」

 

 私は殿下と妃殿下にグイーさまを紹介したのは良いが話もないまま終わってしまったため、もう一度会話をする気はないかと聞いてみた。創星神さまと直接話すことができたならば、殿下と妃殿下の箔付けになるはず。

 グイーさまは私を近所の子供くらいにしか思っていないだろうけれど、殿下と妃殿下がアルバトロスのお偉いさんであると知ればなにか言葉を頂けるかもしれない。

 

 「い、いや……挨拶のみだが……もし創星神さま方と私たちが話すとなれば恐れ多くないかな、侯爵」

 

 「え、ええ。女神さまとお話することですら緊張しますのに、更に格が上となる創星神さまと話をするなんて、とても……」

 

 お二人にとってグイーさまとの会話は難しいようである。当の二柱の創星神さまは日頃の鬱憤を吐き出すためなのか何故かテンションが高い。既に料理が提供されている場に立って、いろいろと物色を始めている。

 

 「美味しそうな料理がたくさん! ああ、どこから手を付ければ良いのかしら……!」

 

 テラさまが嬉しそうに声を上げ、数多く並んだ料理に目移りしていた。神さまだから食べ過ぎてもお腹を壊すことはないはずだろうけれど、グイーさまの妻としての威厳はどこへやら。

 そしてグイーさまはグイーさまで創星神さまの威厳はどこにもなく、給仕の方が配っていたお酒を片っ端から手に取っている。大丈夫かと心配するも、私と視線が合ったグイーさまは手に持っていたグラスを掲げた。

 

 「ナイ、この酒が上手い! まだあるか?」

 

 ジルケさまは二柱さまの姿が恥ずかしいようで頭を抱えている。姉神さまたちは『楽しいなら、それで良い』『お父さまの相手を務めずにいられるので楽ですわ』『飲んだくれの相手は嫌ですもの』とご両親は放任するようである。私は給仕の方に視線を向けて、グイーさまが手に持っている同じお酒を用意するようにと無言でお願いした。

 

 「あ、グイー狡い! ナイ、料理のリクエストってできるの?」

 

 「食材があれば可能ですよ。なければ無理ですが」

 

 テラさまがリクエストしたいと凄い嬉しそうな顔になるので、私は了承するしかない。テラさまが望む品のレシピがあると良いのだが……一先ず、料理人の方の下にはレシピがあるし、あとは食材次第とテラさまに伝えた。

 

 「本当!? やった! あのね、前に屋敷で食べたご飯が美味しかったから、それと同じものが出たら嬉しいなって」

 

 はて。以前、テラさまが食した料理はなにを出したのか。いろいろと提供し過ぎていたし、美味しい美味しいと全て平らげてくれたからなにを食されたのか記憶が薄い。

 料理人の方たちか侯爵家の誰かが覚えてくれていると良いのだが。うーんと私が記憶を掘り起こしていれば、いつのまにかヴァルトルーデさまとジルケさまとナターリエさまとエーリカさまが側に寄ってきている。

 

 「ナイ、私も母さんが言ってる料理、食べたい」

 

 私の衣装の袖を掴んだヴァルトルーデさまが神妙な顔で申し出る。どうやら食べれないかもしれないと不安になっているようだ。王太子殿下と妃殿下は四女神さまの登場にびくりと肩を震わせて固まっている。

 材料次第だなと私が苦笑いを浮かべていれば、後ろのリンが『女神さまたちは食い意地が張っている』と言いたげな雰囲気を醸し出していた。毛玉ちゃんたち三頭はビーフジャーキーを食べている所を夢想しているのか涎がぽたぽた落ちている。

 

 「興味がありますわ。お嬢ちゃん、わたくしにも用意してくださるかしら」

 

 「わたくしも食べてみたいですわ」

 

 ナターリエさまとエーリカさまも食べたいらしい。料理人の方たち急に対応できるかなと私が考えていれば、いつの間にか隣に立っていたジルケさまと視線が合う。

 

 「すまん、ナイ。あたしの分を作れるなら頼みてえ」

 

 ジルケさまは控え目に主張をしているようだが実際は食べたいようである。食材足りるかなあと給仕の方を呼んで、作れるかどうか確認を取って貰うのだった。

 

 ◇

 

 フライパンとお玉が当たって小気味良い音が鳴っている。

 

 本日、アストライアー侯爵邸ではとんでもない方たちがお集まりになっており、俺は料理人として腕を振るっていた。神さま方に俺たちが作った料理を食べて貰うのは正直、生きた心地がしなかったが最近は慣れてきていた。ただ、まさかまた創星神さま方に料理を提供することになろうとは。

 

 本当にご当主さまの人脈……神脈はどうなっているのか。余計なことを考えていては美味しい品が作れないと目の前のことに集中する。フライパンにかかる火が熱いけれど、あと少しで仕上がるものだ。

 ご当主さまが持ち込んだレシピに俺たち料理人が改良を加えたもので、屋敷のみんなが合格点を出してくれている。王太子殿下夫妻や高位貴族の皆さまが気に入ってくれるのか、神さま方が美味しいと喜んでくださるかわからないが今更である。出来上がった料理を盛り付けて、調理場で待っている侍女のお嬢ちゃんたちに皿を差し出した。

 

 「よーし、温かいうちに食べて貰おう! お嬢ちゃんたち、運び出してくれ!」

 

 「わあ……美味しそうですね!」

 

 年若いお嬢ちゃんが顔を綻ばせていた。隣には同僚であるもう一人のお嬢ちゃんも料理を覗き込んで、ごくりと喉を鳴らしていた。

 

 「あとでお嬢ちゃんたちにも出してやるからな! ご当主さまが今日はお疲れさまでしたってよ!」

 

 俺がそう言えば彼女たちは更に顔を緩ませる。ご当主さまは夜会等を開いたあとは手伝いをした者たちに同じ料理を提供していた。俺たち料理人には欲しい食材や道具があれば取り寄せるし、有給休暇とやらを半日付与してくれる。まだ若いというのにできたご当主さまだと俺が笑っていれば、彼女たちと視線が合った。

 

 「本当ですか? 嬉しいなあ!」

 

 「ね。会場は高貴な方ばかりで緊張するけれど、頑張ろう!」

 

 きゃっきゃと騒ぎながらお嬢ちゃんたちは調理場を出る手前で真面目な顔になっていた。この辺りは若くともきちんとした侍女だと感心していると、入れ替わりに男の給仕がやってくる。

 

 「ご当主さまが、創星神さまの奥方さまがやってこられた日に食べた料理を作れるかと、五人前……」

 

 「い、今忙しいのに……誰がそんなことを!?」

 

 彼の声を聞いた途端に俺の口から本音が漏れた。料理長も本気かという顔になり、むっと口を伸ばして考え込んでいる。

 

 「創星神さまの奥方さまです。それに乗じて女神さまがたも食したいと仰っておられて。食材がなければ提供できませんとご当主さまがはっきりと仰ってくれましたが……如何でしょう?」

 

 男の給仕の声に料理長がはっとして口を開いた。

 

 「……少し待ってくれ! みんな、あの日のことはよく覚えているな! 急いで食材の確認を! 五人前いけるかどうかもだ!」

 

 流石に創星神さまの奥方さまと女神さま方の願い出であれば、なるべく叶える他ない。

 

 「はい!」

 

 「へい!!」

 

 料理長の声にすぐさま手の空いている者たちが冷蔵庫や保管庫を確認しに行った。俺もなにかできることはないかときょろきょろしていると、料理長に『お前は続きを!』と頼まれるのだった。

 

 「料理長、食材あります! いけます!! ご当主さまが念のためにと、いつも材料を多めに発注してくれるので助かりました!」

 

 「おお、そうか! よし、手の空いている者で前に作った品を用意しよう! 粗方料理を運び出していて良かった」

 

 はあと大きな溜息を吐く料理長に『頑張りましょう!』『女神さま方に食べて貰うのですから!』と答える者たちの声に押されて料理長も俺も更に気合を入れるのだった。

 

 ◇

 

 テラさまが所望した品を料理人の方たちが作ってくれている頃だ。挨拶を済ませれば各々、食べたい品や談笑に興じている。

 

 ボルドー男爵さまがエーリヒさまに声を掛ければ、年功序列でエーリヒさまがビシッと背を伸ばしていた。彼らがなにを話しているのか分からないけれど、未来のことでも語り合うのだろう。

 私は美味しい料理の話が聞ければ嬉しい。今ならば大陸各国の方と連絡を取れるので、美味しい料理や食材とレシピがあるならどこへでも向かうことができる。グイーさまはお酒を、テラさまと女神さま方は料理に張り付いているので、お相手を務めなくても良いだろう。

 

 私は皆さまにユーリを紹介――済ませている方もいるが――しようと、彼女がおねむになる前に会場に連れ出している。南の島に赴いている面子はユーリを知っているし、ボルドー男爵夫妻とハイゼンベルグ公爵夫妻とヴァイセンベルク辺境伯夫妻も知っているので特に問題はない。

 

 ユーリは私の足下で初めて立ち入る部屋に興味を持っているようだ。きょろきょろと周りを見ながらなにか考えている。彼女の後ろでは乳母さんが転倒しないようにと気を張り、毛玉ちゃんたちは隙があれば遊べないかなと狙っていた。

 話をする先はユーリに任せれば良いかと私は彼女が歩きたい方へ進んでいれば、亜人連合国の皆さまの前でぴたっと足を止めた。ユーリは亜人連合国の皆さまに興味を持ったのだろうか。お相手である皆さまは私の出方を待ってくれているようでなにも言わない。ただユーリに向けている彼ら彼女らの視線は興味に満ち溢れているようだ。

 

 「ユーリ。亜人連合国の皆さまだよ。ご挨拶できるかな?」

 

 私はユーリの側で膝を突き視線を合わせた。彼女は亜人連合国の皆さまが珍しいようで、ぐっと首を伸ばして見上げている。

 

 「こんにゅちわ」

 

 ユーリは私の言葉をきちんと理解ができているようで、こてんと大きい頭を下げた。乳母さんとアンファンとサフィールの教育の賜物だなと感心していると、アイリス姉さんとダリア姉さんも膝を突きユーリに視線を合わせてくれた。

 毛玉ちゃんたちがユーリの横に並んで『こんにゅちゅわ!』『ちぎゃう、こんばんにゃ!』『こんばんちゃ!』と真似をしていた。凄くドヤ顔だし、亜人連合国の皆さまに相手に構って欲しいようで尻尾を扇風機のように旋回させている。

 

 「こんにちは~可愛いねえ~」

 

 「こんにちは、ユーリちゃん。今夜はよろしくね。小さい子供は特に可愛いわよね。ナイちゃんにもこんな頃があったのねえ」

 

 へへへ、ふふふと笑うお姉さんズの長い耳が動いたことで、ユーリはじっと見つめ、ディアンさまとベリルさまは少し顔を青くさせていた。何故と私が首を傾げていると、半歩後ろに下がって彼らは目を細める。

 

 「小さいな……」

 

 「ええ、若。小さいです」

 

 あ、今の反応はどこかでと記憶を掘り返せば、ヴァルトルーデさまがユーリと初めて会った時と同じだと気付く。でもディアンさまとベリルさまなら卵から孵った竜の面倒をみたことがあるだろうし、エルフやドワーフさんたちの子も見ているのではなかろうか。人間の子供だから対応に苦慮しているのかと私が彼らに大丈夫ですと伝える前に、エルフのお姉さんズが口を開いた。

 

 「そういえば代表たちは人間の子供もエルフの子供も今まで興味がなかったものねえ」

 

 「エルフの街で小さい子を見ていれば、そんな感想抱かなかったよね~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが半歩下がったディアンさまとベリルさまににやにやとした顔を向ける。どうやら子供に接し慣れていないようで、竜の小さい仔たちは平気であるが、他種族の子供は苦手なようである。

 まあ、二メートル近く身長のあるお二人とまだ幼いユーリとでは体格もなにもかも小さいから畏怖するのは当然か。ユーリは彼らのことを怖がってはおらず、両手を伸ばして『おいで』と訴えているアイリス姉さんに疑問符を浮かべていた。

 

 「うーん。あまり会えないから懐いてくれそうにないなあ~」

 

 「そうねえ。滅多に会えないものねえ。ナイちゃんとはなにか事件が起これば会えるのに」

 

 アイリス姉さんとダリア姉さんは一歩も動かないユーリに苦笑いを浮かべる。しかしダリア姉さんの物言いに私は反論をしたくなるものの、事実のためなにも言い返せない。言い返すよりも未来を語った方が建設的かなと私はエルフのお姉さんズと視線を合わせる。

 

 「それなら気軽に屋敷に遊びにきて頂ければと。お忙しいかもしれませんが、ユーリも喜ぶでしょうし、彼女にいろいろと教えて頂けたなら嬉しいです」

 

 私がエルフのお二人に伝えるとディアンさまとベリルさまが微妙な顔を更に微妙にさせている。何故、そんな表情になるのか分からないが、お姉さんズは凄く良い顔になってにっこりと笑う。

 

 「え? いいの~?」

 

 「あら、遠慮はしないわよ?」

 

 わーいやったあと笑うアイリス姉さんとふふふと笑うダリア姉さん。私は彼女たちに言ってはならぬことを口にしたのかとディアンさまとベリルさまを見上げた。彼らの顔には諦めろという文字がありありと浮かんでいる。

 言い出しっぺは私だし、ダリア姉さんとアイリス姉さんが遊びにくることに問題はないのだ。で、あれば。次に私が紡ぐ言葉は決まっている。

 

 「私が対応できない時もあるでしょうけれど、それで宜しければ」

 

 私が屋敷にいないこともあるけれど、お姉さんズなら転移できそうだし竜の方たちをタクシー代わりにできるだろう。アルバトロス王都から侯爵領であれば飛竜便を使用すれば、かなりの時間が短縮できる。屋敷が賑やかになりそうだしユーリも喜ぶのであれば良いこと尽くめだ。

 

 「ナイちゃんから言質を貰ったわ! でもユーリちゃんだけじゃなくナイちゃんとも遊びたいし、いろいろとやってみたいこともあるんだけれど」

 

 「ね~。ナイちゃんに魔力ぶわーして欲しいところがあるし、エルフの料理も伝えたいしね~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが不味いことを言っている気もするが、大事にはならないと信じたい。毛玉ちゃんたちはお姉さんズは構ってくれないと悟り、ディアンさまとベリルさまの方に顔を向け『構って!』と主張し始める。

 彼らは仕方ないと言いたげに背を折って毛玉ちゃんたちの背をわしゃわしゃ撫で始める。少し時間が経てば毛玉ちゃんたちは気持ち良さでお股パッカーンするかなと見守っていると、不機嫌そうな顔になっていた。

 

 『ざちゅ!』

 

 『ちゅからまきゃせ!』

 

 『ゆっきゅり!』

 

 どうやらディアンさまとベリルさまの撫で心地は毛玉ちゃんたちはお気に召さなかったようである。自分たちから撫でてと要求していたのに、ぷんぷんとご立腹だ。珍しいことがあるなと感心していると、ディアンさまとベリルさまが情けない顔になっていた。

 

 「難しいな……」

 

 「ええ。撫でているのに、力任せとは心外です」

 

 竜である二頭の方がしょげているのは本当に珍しい。ダリア姉さんとアイリス姉さんも彼らを見てくすくすと笑っていた。馬鹿にしているのではなく、仲間故の付き合いの長さからくる笑いなので問題ないだろうけれど。

 ユーリは毛玉ちゃんたちが怒っていると理解して、一歩二歩と前に進んだ。彼女はなにをするつもりかと、周りの皆さまが見つめている。

 

 「けじゃま! にゃでる!」

 

 そう言ったユーリは桜ちゃんの背に思いっきり手を乗せた。子供なので力はなく桜ちゃんも『なにをしているの?』と言いたげな顔をして、ユーリの行動を受け入れている。なんども背を叩くユーリに、桜ちゃんはどんどん顔を微妙にさせていく。楓ちゃんと椿ちゃんは身の危険を察知したのか、桜ちゃんから離れてディアンさまとベリルさまの後ろに回っていた。

 

 『へちゃくしょ!』

 

 桜ちゃんはユーリのなでなでも気に入らなかったようで、一言言い残して身体をプルプルさせた。ユーリは桜ちゃんの行動に驚いて振っていた手を止め目を真ん丸に見開いている。

 あ、泣くかもしれないと私が不味いと気を張れば、ダリア姉さんとアイリス姉さんがすっと前に出て、また両腕を伸ばしているた。

 

 「ユーリちゃん、お姉さんたちと遊びましょ?」

 

 「そうだよ~毛玉を構うより楽しいよ~?」

 

 彼女たちの声にユーリがこてんと右に首を傾げた。桜ちゃんはユーリから逃げおおせて、ふんと鼻を鳴らし楓ちゃんと椿ちゃんの下へ行っている。今のユーリの仕草はジークとリンに似ているなあと目を細めていると、涙を溜めこんでいたユーリの瞳がきらりと輝く。

 さきほど、お姉さんズの声掛けに固まっていたユーリはどこへ行ったのか、腕を差し出しているお姉さんズの方へとゆっくりと近づいていく。腕を伸ばしているダリア姉さんとアイリス姉さんのどちらにユーリは向かうのかと見ていれば、手に触れる寸前でくるりと身体を回したユーリはディアンさまとベリルさまの方へ向く。当のディアンさまとベリルさまは少し驚いており、無言を貫くディアンさまにベリルさまがどうしましょうかと小声でぼやいていた。

 

 「むう」

 

 ディアンさまがよたよたと近寄るユーリにしかめっ面になっていた。彼が子供を苦手とするなんて意外だ。亜人連合国で初めて彼と対面した時に私は抱き上げられたのだが。

 私より小さいユーリは言葉を操る力は未熟で気持ちを伝える方法が偏っている。もしかして泣かれたりすることがディアンさまたちは苦手なのだろうか。そういう理由であるならば彼らが固まっていることも理解できる。とはいえ構って欲しいと寄って行くユーリを放置しないで欲しいけれども。さて、竜のお方はどう出るかなと眺めていれば、彼らもまた床に膝を突いた。

 

 「だこー」

 

 ユーリが短い言葉で抱っこをして欲しいと強請れば、ディアンさまは観念したのか腕を伸ばして彼女の脇に手を挟んだ。ディアンさまは立ち上がり、腕を器用に動かして片腕にユーリのお尻を乗せると彼女は上機嫌である。

 ユーリは視界が高いのが新鮮なようで、顔をあっちへ向かせ、こっちへ向かせてディアンさまの腕から見える景色を楽しんでいる。腕を伸ばしていたダリア姉さんとアイリス姉さんも苦笑いをしながら立ち上がり、長い髪を手で掻き分ける。

 

 「なんだか複雑だわ」

 

 「ねー代表に負けるなんて」

 

 むっと頬を膨らませているエルフのお二人であるが、仕方ないかと笑っているようだ。ベリルさまはフォローを入れるためなのか、ダリア姉さんとアイリス姉さんと視線を合わせる。

 

 「貴女方の圧が、彼女には怖かったのでは」

 

 ベリルさまの声に『そんなはずないわ』『そうだよ~失礼だなあ~』とお二人がぼやいていれば、ユーリはディアンさまの角に手を伸ばしてぎゅと握り込んでいた。

 

 「ユーリ、お客さまに失礼なことをしちゃ駄目だよ」

 

 私は彼女の行動に驚いていれば肩の上のクロが『気にしなくても良いんじゃないかな』と助言くれるが、流石にディアンさまの角を握るのは駄目だろうと私はユーリに腕を伸ばす。

 

 「構わない。痛くないしな」

 

 ふっと笑ったディアンさまは平気なようだが、本当に良いのだろうか。亜人連合国のお三方が『気にしないで良いわ。代表が言っているのだし』『ナイちゃんは私たちに気を使い過ぎだよ~』『若の角が折れることはないですよ。大丈夫です』と軽い調子である。

 今の状況に気付いた周りの方たちは『ひえっ!』と息を呑み、某ご令嬢さまはユーリに嫉妬の視線を向けていた。混沌としているなあと私が目を細めれば、テラさまが所望した料理が運ばれてくる。給仕の方が列を成して会場に運んでくれるのだが、私はひとつ言いたいことがあった。

 

 「多くないですか……?」

 

 「女神さまもナイもたくさん食べるから、用意してくれたのかも」

 

 私が気付いたことに後ろで沈黙を守っていたリンが珍しく口を開くのだが、フォローになっているのか、なっていない台詞を吐いた。テラさまは『やっときたー!』と喜び、グイーさまは『酒をくれ』とまた給仕の方にお願いをし、女神さま方もテラさまと一緒に運ばれてきた料理を囲むのだった。

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