魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0692:年齢の差。

 ユーリはお眠の時間だと、会場から自室へと戻っている。

 

 そろそろ本来の目的を果たして良いだろうと、後ろで控えているリンになにか摘まもうと伝えれば、なにが食べたいと声が掛かるのだった。テラさまとヴァルトルーデさまとジルケさまはまだ食べており、私が彼女たちの中に交ざればたくさん食べても誤魔化せそうである。

 

 それは冗談として、数々の料理が並ぶ場所に辿り着き、私とリンは目の前の料理を眺めていた。豚肉料理を披露しますということで、豚肉を使用した料理がたくさん並んでいる。

 

 目の前で調理してくれる場所もあり、そこではポークステーキにとん平焼きにリクエストすれば、料理人の方が即興で作ってくれる。ほとんどの料理は出来立てのあつあつを食べるのが美味しい。

 でも目の前で調理をしてくれる場所は人気のようだから、少し間を置いて赴こう。少し冷めていようとも、料理人の方と食材を作ってくれた方に命を捧げてくれたもの、そして侯爵家まで運んでくださった皆さまのお陰で十分美味しいのだから。

 

 「提供されている品が、どれも美味しそうだから困る」

 

 むむむと目を細めた私は横に控えているリンを見上げた。リンは私と視線を合わせて目を細める。腰元にいる錫杖さんが『ご当主さまの好みを把握しなければなりませんね』とぼやいているのだが、料理について錫杖さんは分かるのか謎だった。

 

 「だね。ハズレは本当に少ないから」

 

 リンが私から視線を外して料理の方へと戻す。個人の好みもあるため、時折、口に合わない料理というものが存在する。フソウの緑茶を渋いと言って砂糖を投入する方もいるのだから、口に合わない品があるのは当然だろう。

 とはいえリンが食べたくないと口にしたことはない。強いていうならば納豆くらいで、美味しそうに食しているフィーネさまをリンは尊敬していた。

 

 「リンはなにが食べたい?」

 

 私がリンを見上げると、彼女が小さく右に首を傾げる。ネルも一緒に右に首を傾げて、リンの真似をしていた。可愛いなあと私が見ていると、リンは真面目な顔を浮かべて答えてくれる。

 

 「ナイが食べたいもので良い。あと私は護衛だからナイは気にしなくて大丈夫」

 

 「んーリンにも美味しい料理食べて貰いたいし……。外で護衛の人が食べるのは問題だけれど、私が主催している立食会だから良いんじゃないかな?」

 

 流石に誰かが主催の夜会に参加して護衛とつまみ食いはできないが、今日は身内しかいない場だし問題は少ないはず。あとでご飯を食べられるとは言っても、美味しいお料理を一緒に食べられないのは悲しいのである。リンは片眉を上げて苦笑いを浮かべて『なにか食べよう』と料理を指差してくれた。それじゃあと私は歩を進め、食べたい料理の前を陣取る。

 

 「クリームチーズと豚フィレ肉のパイ包み。レシピを見たときから美味しそうだったから、食べてみたかったんだよね」

 

 クリームチーズを塗ったパイ生地の上に、炒めたほうれん草ときのこを置いて、更にその上にオリーブオイルで焼いた豚フィレ肉を包んでオーブンで焼き上げた品である。

 レシピを見ているだけでも美味しそうだったのに、実物を見るとパイ生地には料理人の方が丁寧に模様を付けて目で楽しめるようにもなっていた。流石、料理人の方は細やかな気遣いができている。私は食べてしまえば分からないと、適当に済ませる口なので本当に腕の立つ料理人さんたちには足を向けて眠れない。

 

 「外がパイ生地だから、ご飯ってイメージできないかも」

 

 「確かに。匂いも閉じ込められているからね」

 

 リンがパイの包み焼きを見つめて、ぼそりと呟いた。ほんのり小麦の甘い匂いがするけれど、お肉の匂いは感じ取れない。きっとナイフで切れば、クリームチーズと豚肉とほうれん草ときのこの匂いが芳醇に香るはず。

 私はひとつパイ生地をお皿に乗せ、側に添えられていたフォークを手に取る。綺麗に装飾されているパイ生地を崩すのは忍びないが、そうしないと食べられないとフォークをぷすりとパイ生地の真ん中に入れる。

 

 『美味しそうな匂いがするねえ』

 

 「本当に」

 

 クロがこてんと首を傾げて声を上げ、私はパイ生地の中を見つめる。白磁に輝く豚フィレ肉とほうれん草の緑が美しい。クリームチーズの香りと仄かにオリーブオイルの匂いも感じ取ることができた。このレシピは料理人の方たちが考えた品である。私では思いつかない洒落たご飯で味が楽しみだと笑っていると、横に控えているリンの鼻にも香りが届いたようである。

 

 「良い匂いだ」

 

 ふふふと笑った彼女は『早く食べないと』と私を急かした。確かに早く食べなければ匂いも美味しさも逃げてしまいそうだと、私はもう半分に切り分けてパイ生地とお肉と野菜を口の中に運んだ。

 外はパイ生地のサクサク感に、中はほうれん草ときのことお肉が絶妙に重なりあって個を主張している。でも、激しい主張ではなくお互いの良さを消さないものだった。十分に落ち着いて噛んで、味を脳に刻み込みながら咀嚼する。

 

 「……美味ひい」

 

 ふふふふと笑いながら目を細めて、私の口から勝手に声が漏れていた。

 

 『良かったねえ、ナイ』

 

 「クロもあとで果物たくさん貰おうね」

 

 クロは人間の食事を摂らないので、あとで果物を頂く予定である。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちも人間の食べ物を欲しがったりしない。

 人間用だと彼らには塩分が多いだろうし、欲しがらないのは有難いけれど似たようなメニューで飽きないのかという疑問があった。ヴァナル曰く『生肉より美味しい』とのことなので、焼いただけのお肉でも贅沢品に含まれるようである。

 クロも果物の種類がたくさんあるから大丈夫なのだとか。毎日、同じ木に生えている果物を食べていたので、屋敷で出される果物に対して飽きがこないそうである。少し羨ましいような、寂しいようなとまたパイ生地の包み焼を口の中に運ぶと、クロが機嫌良さそうに答えをくれた。

 

 『うん』

 

 「私は食堂で他の人たちと食べるから気にしないで良いよ」

 

 リンは立食会が終わり次第、使用人の皆さまと一緒に食べるようだ。立食会で出された品も提供される――使用する肉や野菜の質は少し落ちているけれど――ので、そちらで楽しむつもりらしい。私がリンと一緒に赴けば他の人たちが気を遣うから、行けないなと苦笑いを浮かべた。

 

 「リン。中身、違うもので試したければ、料理人の方に申し出てね。豚肉じゃなくて、牛や鴨肉だって美味しいはずだから。あと、食べたいものがあったならリクエストしてみて」

 

 私が今リンに伝えたことは、屋敷で働く皆さまにも言ってある。もしかすれば新しいレシピが誕生するかもしれないという期待を込めているのだが、果たしてどうなるのか。リンは私を見下ろしながら小さく笑っている。

 

 「ありがとう。今のものでも美味しいはずだから、十分だよ、ナイ」

 

 リンは新しい料理や味というものに、興味はそそられないようである。私が求め過ぎているだけかもしれないと笑っていると、ヴァルトルーデさまとジルケさまとナターリエさまとエーリカさまとテラさまがこちらにきた。

 グイーさまはどこに行ったのかと会場を見渡せば、一柱さまだけでお酒を美味しそうに飲んでいる。放置して良いのか気になるところだが、側にはエーリヒさまとフィーネさまが付いているので構わないだろう。ヴァルトルーデさまとジルケさまとテラさまは機嫌が良さげであるし、ナターリエさまとエーリカさまも普段より少し雰囲気が軽い気がする。

 

 「ナイ。目の前で焼いて貰ったお肉美味しい」

 

 ヴァルトルーデさまがお皿を片手に持ってにこやかに告げた。ジルケさまとテラさまも気に入ったようで『珍しいよな。目の前で料理してくれるなんてよ』『本物を初めて味わったわ』と嬉しそうに二柱さまで話している。

 ナターリエさまとエーリカさまは三柱さまの健啖ぶりに肩を竦めながら会話を聞いている。女神さまが五柱揃えば後光が凄いなあと私は目を細めた。

 

 「それは良かったです」

 

 美味しかったのであれば料理人の方たちが喜ぶだろう。私の言葉より女神さま方の方が価値があるのだから。でもあとで、目の前で焼いてくれるパフォーマンスは好評だったと料理人の方たちに伝えておかねば。女神さまが気に入ったならばと、目の前で調理してくれることに抵抗がなくなるかもしれないのだ。いろいろ考えていれば、ヴァルトルーデさまの視線が私の手元に刺さっていた。

 

 「ナイのそれはなに?」

 

 随分と崩れてしまった私が持つお皿の上の物体にヴァルトルーデさまの視線が注がれている。ジルケさまとテラさまも『美味そうだな』『ね。どこにあったのかしら?』と覗き込む。

 

 「クリームチーズと豚フィレ肉のパイ包みです。食べてみますか?」

 

 私の声に少し考える仕草を見せるヴァルトルーデさまが顔を近付けてきた。

 

 「少し頂戴」

 

 一柱さまはお皿の上の物体の中身に興味津々のようである。ヴァルトルーデさまは手を出すつもりはなく、口を開けて場に留まっている。少し冷めてしまったから匂いは落ち着いているが味は変わらない。

 

 「食べ掛けで良いんですか?」

 

 ご本人、ご本神さまが気にしないのであれば、私がヴァルトルーデさまの口に運んでも問題ないのだろう。ジルケさまとテラさまはきょとんとした顔で長姉さまに視線を向け、ナターリエさまとエーリカさまは『あら』『まあ』と小さく声を上げている。リンは横でむっとしており、ヴァルトルーデさまの行動が気に入らないようである。とはいえ文句を言えば、立場上問題があると認識しているようだった。

 

 「気にしない」

 

 「それじゃあ、どうぞ」

 

 私は『ほれ』とヴァルトルーデさまの口の中にパイ包みを放り込む。お肉が一番詰まっていた所なので、少し惜しいが致し方ない。なにやっているんだかという四柱さまの視線とリンの『今度は私』というオーラを浴びながら、ヴァルトルーデさまが咀嚼するのを待つ。

 

 「美味しい」

 

 ヴァルトルーデさまは味を噛みしめつつ、ぽつりと一言呟いた。本心のようなので、料理人の方も嬉しいだろう。今日は立食会のため豚丼や生姜焼きは用意していないが、なにかの機会に食べたいところである。

 

 「梅が入っていたやつが、あたしは気に入った」

 

 「豚肉も美味しいのよねえ。歳を経ると牛より豚が良くなるのは悲しい定めだけれど」

 

 ジルケさまとテラさまが肩を竦め、ナターリエさまとエーリカさまは母親であるテラさまの言葉に反応する。

 

 「お母さま、お年を召したのですねえ」

 

 「味が薄いものの方が良くなるのでしたか」

 

 ふうと二柱さまは息を吐き、テラさまは『貴方たちもあたしと同じくらい生きれば分かるわよ』と年長者の風格を見せている。そんな中、ヴァルトルーデさまは新しいクリームチーズと豚フィレ肉のパイ包みをお皿の上に置いて、一人黙々と食べ進めているのだった。

 

 ◇

 

 立食会を無事に終え、帰路に就く皆さまを見送ったところである。

 

 が、お泊りメンバーもいるため、居残り組もいるわけだ。主な面子は南の島の女性組である。フィーネさまとアリサさまとウルスラさまは滅多にアルバトロス王国にこれないし、一泊してから聖王国に戻ろうとなったのだ。

 お風呂や歯磨きを済ませたメンバーは私の部屋に集まっている。男性陣はエーリヒさまとユルゲンさまとギド殿下がお泊り組で、ジークたちと一晩過ごすとのこと。マルクスさまは明日、仕事があるので早く戻るとのこと。真面目に働いているのか、マルクスさまは騎士団で何人か部下を持っているとのことである。セレスティアさまは当然のように言っていたが、部下の命を預かっているのだから十分に立派なことだろう。

 

 ベッドの端に腰を掛けている私は、大人の階段を上っているなあと目を細めた。

 

 目の前には寝間着姿の女性陣が揃っている。皆さま、各々の趣味の衣装を着込んでいるため随分と景色が賑やかだ。私は侍女の方から勧められるネグリジェは断固拒否させて頂いている。似合わないし、教会宿舎時代の寝間着が一番楽で寝心地が良い。侍女の方たちは文句を言いたそうにしているが、寝間着の布の質を上げたためなにも言えないようである。しかし、まあ。

 

 「部屋、狭くないですか?」

 

 私はベッドの端から皆さまに声を掛けた。アストライアー侯爵邸二階は土足禁止としていること、床がふかふかの絨毯のため皆さま揃って腰を下ろしている。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちに、仔猫たちも集まって皆さまと戯れていた。

 

 「気にしないぞ」

 

 「気になりませんわ! ヴァナルさんたちがいらっしゃるのですから!」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまはヴァナルのお腹を撫でたり、大きい脚を堪能している。セレスティアさまの顔が緩みまくっているのだが、今のソフィーアさまは注意をする気はないようだ。

 

 「聖王国の宿舎より広いですよ。ナイさまの部屋は」

 

 フィーネさまの膝の上には仔猫が一匹欠伸をしながらまったりしている。勝手に膝の上に乗った仔猫をフィーネさまは撫でながら、ふふふと笑みを浮かべていた。

 一応、侯爵家当主の部屋なので広いけれど、今のような人数が集まる機会は少ない。いつもより狭く感じてしまうのは、私の感覚が屋敷に慣れてしまったからだろうか。私の隣で腰を掛けているリンはぼけーと皆さまを見つめているのだが、なにを考えているのだろう。

 

 「きちんとした寝床がありますし、床でも問題ないですから」

 

 アリサさまの膝上にも別の子猫がちょこんと乗って、喉の下を撫でられてゴロゴロと音を立てて気持ち良さそうにしていた。

 

 「ですね。地面に寝転ぶより全然マシです」

 

 ウルスラさまの膝上にも仔猫が乗って寝息を立てている。聖王国の聖女さま方だし、彼女たちの魔力に引き寄せられたのだろうか。

 終生飼育を約束してくれて、なおかつ仔猫が懐いてくれるなら彼女たちが家族になっても問題なさそうだ。なにも確認を取っていないので決まった訳ではないが、そういう未来もアリだろう。トリグエルさんは『勝手に巣立つ』と言っているものの、やはり仔猫の譲渡先は信頼を置ける方の下でないと。

 

 「ナイさまの部屋は久しぶりですし、皆さまがいらっしゃるので問題ないです!」

 

 アリアさまは桜ちゃんの相手を務めながら、にこりと楽しそうに笑う。久方ぶりに会ったけれど、彼女は教会で精力的に筆頭聖女として活動しているようだ。王都では、新たな筆頭聖女さまは優しく、隔たりなく接してくれると話題になっているそうだ。前筆頭聖女さまが年齢を理由に表舞台から暫く去っていたため、王都の皆さまの喜びもひとしおなんだとか。

 

 「ようやく、大人数で一緒に寝ることに慣れてきましたわ」

 

 ロザリンデさまは楓ちゃんと椿ちゃんを相手にしている。彼女の前で二頭は伏せをして、片方の前脚をちょこんと出して『きゃまえ!』『あしょぶ!』と言いたげだ。

 ロザリンデさまはそんな二頭の脚を手に取って、がっしりとした脚に驚いていた。毛玉ちゃんたちは仔狼とはいえ、狼なのである。貴族の家で飼っている小型犬とは違うし、狩猟で共に狩りをする猟犬ともまた違う。野性味の強い脚に驚きつつも、毛玉ちゃんたち二頭の構え攻撃に少しオロオロしつつも以前より随分と彼女はマシになっている。

 

 部屋には南の島組の女性陣の他にもいて、ヴァルトルーデさまとジルケさまとテラさまが揃っている。ナターリエさまとエーリカさまは神の島に戻って過ごすと言って、早々に戻っている。

 グイーさまはテラさまが屋敷に泊ると聞いて寂しかったようだ。南の島組の男性陣と共に過ごしているので、今頃彼らはなにを話しているのだろう。まあ、グイーさまなら変わらずお酒を飲んでいそうだけれども。

 

 「みんな、きてくれない」

 

 「姉御のオーラが凄いからじゃねえか?」

 

 毛玉ちゃんたちと仔猫たちがきてくれないと絨毯の上でヴァルトルーデさまがふくれっ面になり、そんな顔をした長姉さまをジルケさまは肩を竦めて揶揄った。

 ヴァルトルーデさまの神圧は魔術具で随分と抑えているので、毛玉ちゃんたちや仔猫たちであれば気にしなさそうだから単に気が向かなかっただけだろう。気にする必要はないのに、ヴァルトルーデさまは自身の方へ彼らがきてくれないことで、今はしょんぼりとした顔になる。

 

 「抑えているのに……母さん、直ぐ寝たね」

 

 ヴァルトルーデさまがふうと息を吐き、ベッドの上で寝ているテラさまを見た。私も後ろを振り返れば、テラさまがうつ伏せになってすやすやと静かに寝息を立てている姿を捉えた。

 お酒が入っているため、随分と深い眠りに就いているようである。周りの喋り声でテラさまが目覚めることはない。

 

 「ナイのベッドなんだがなあ……ほんと、場所を選ばねえのはすげえわ」

 

 ジルケさまがテラさまに呆れた視線を向けながらボヤいている。確かに地球を創り給うた女神さまだというのに、寝息を立てているテラさまには威厳や神格が凄く薄い。

 ウルスラさまが凄い顔をして最初は見ていたけれど、神さまも寝るんだと納得したようである。他の皆さまも創星神さまなのにという気持ちを抱いていたが、グイーさまの伴侶だしなと納得したようである。決して口にはしていないけれど、皆さま考えているに違いない。

 

 「ごはん……もっとぉ……」

 

 テラさまが悩ましい声色で寝言を放つ。相変わらず地球の日本のアパートで質素な暮らしを続けているようだ。テラさまはゲームのために粗食で済ます傾向があるので、今日も随分と料理を胃の中に納めていた。グイーさまは『食べ過ぎではないか?』と気にしていたが、テラさまは『美味しいご飯はいくらでも入るわ!』と力説して彼を納得させていた。テラさまの横ではヴァルトルーデさまとジルケさまも凄い勢いで料理をお腹の中に納めていたのだが、ナターリエさまとエーリカさまは控えめだった。

 

 提供した料理が不味いとかではなく、食べる習慣があまり身に付いていないためヴァルトルーデさまとジルケさまのように胃に納められないとのこと。

 おそらく胃を動かすことに慣れてしまえば同じ量を食べられると教えてくれたけれど……四女神さまが揃って大食いファイター以上に食べる姿を見るのは微妙な心境に陥ってしまう。うーんと私が唸っていれば、ヴァルトルーデさまとジルケさまがテラさまに呆れた視線を向けた。

 

 「母さん。恥ずかしい」

 

 「ナイと姉御じゃあるまいし、寝言でなにを言っているんだか」

 

 ヴァルトルーデさまが目を細め、ジルケさまが私と長姉さまの名を上げているがご本神さまも数に入れないのは如何なものか。他の皆さまも『ご自身は含まないのですね』と少し呆れていた。この場にナターリエさまとエーリカさまがいればジルケさまに突っ込みを入れてくれただろうけれど、役目を担える方がいない部屋では心の中に留めておくしかないのだった。

 

 ◇

 

 何故か俺たち同年代男組が集まっている部屋に、創星神であるグイーさまが同席している。応接用の椅子にどっかりと腰を掛けたグイーさまを前にした、俺たち――俺、エーリヒとジークフリード、クレイグ、サフィール、ギド殿下とユルゲン――は彼に視線を向けた。

 

 「むさ苦しい部屋だのう」

 

 部屋を見渡したグイーさまがぽつりと声を上げる。咎めるでもなく、ただ思ったことを口にしただけのようだが、流石に創星神さまの言葉を無視するわけにはいかない。しかし、男しかいないのは分かっているのに、どうしてグイーさまは呟いてしまったのやら。

 

 「……申し訳ありません」

 

 「女性がいた方が良いでしょうか?」

 

 俺とジークフリードが代表して声を上げた。ギド殿下とクレイグとサフィールとユルゲンは、特殊な状況に少し緊張しているようだ。ナイさまと今後も関係を続けていくならば、グイーさま一家だけでは終わらないはず。宇宙人が同席していることだってあるかもしれないのだから、グイーさまで驚かされていては身が持たない気がする。

 

 「冗談だ! 冗談っ! 女子がいれば出来ぬ話もあるだろう? 偶には猥談や愚痴を言っても良い気がするぞ!」

 

 グイーさまは膝をぽんと手で叩いてにかっと笑った。確かに男同士でしかできない話をしようと彼らと打ち合わせをした所なのに、こうなってしまうとは。

 テラさまがナイさまの屋敷に泊ると言いだしたのは想定外で、グイーさまも驚きつつテラさまが一泊するならご自身もと屋敷に留まることになったのだ。そして男性と女性で綺麗に分かれることになっているから、グイーさまは必然俺たち男組の枠に入った。

 

 「ほれ。そう緊張せんと、座れ、座れ! 今日は無礼講で良いし、いつでも気楽に儂に話しかけてくれて構わんぞ」

 

 グイーさまが座れと椅子を手で叩く。俺とジークフリードはグイーさまの隣に座り、ギド殿下とクレイグとサフィールとユルゲンは床の絨毯の上に座る。

 

 「ありがとうございます。しかし俺たちはナイさまほど魔力量に優れていないので、グイーさまと話すのは難しいかと」

 

 「そうですね。流石に魔力量が全く足りず、念じるだけで終わってしまうでしょう」

 

 気軽に話しかけて欲しいと請われても、流石に神の島にいらっしゃるグイーさまに俺たちの声は届かないと、ジークフリードと説明をする。グイーさまは『あ』と声を上げ、しまったと眉根を寄せた。

 

 「まあ、ナイは例外中の例外か。それに儂らと普通に接してくれる人間は本当に珍しいからのう。でも、お前さんたちも珍しい部類に入っているのではないか?」

 

 「それは……ナイさまがいたからだと」

 

 「ええ。ナイがいなければ、今の状況になっておりません」

 

 確かにグイーさまとこうして話す機会を頂けているのは、星全体を見回しても俺たちくらいしかいないだろう。でもそれはナイさまがいたからこそ可能であって、彼女がいなければグイーさま方を知らないままで過ごしていたはず。

 本当にナイさまは凄いし、とんでもないことを成し遂げているとジークフリードと俺は肩を竦めた。ギド殿下もクレイグもサフィールもユルゲンも俺たちと一緒の気持ちのようだ。

 

 「で。お前さんたち。意中の女子や相手とは上手くいっているのか? 儂はテラに放置されて寂しいんだが、どうにかならんかの?」

 

 グイーさまがじっと俺たちを見つめた。誰もなにも言わないので、言いたくないのか、知られたくないのか。俺が一番槍を務めるしかないのかと、意を決して口を開く。

 

 「上手くいっているはずです。テラさまには手紙を出したり、なにかマメに贈り物をしているとか……グイーさまの気持ちをお伝えしておられますか?」

 

 「ぬう。なんだか恥ずかしくないか?」

 

 グイーさまが腕を組んでむうと唸る。なんだか本当に神さまらしくないけれど、テラさまとは夫婦関係を上手く運んで欲しいと願ってしまう。

 

 「女性は喜ばれますし、グイーさまの素直な気持ちをお伝えするのは大事なことかと」

 

 「照れ臭いのう」

 

 「照れ臭いからこそ、贈り物や手紙で気持ちを表してみては?」

 

 アドバイスになっているのか分からないが、無難な答えだろうし、きちんと思いを伝えることは大事である。俺がジークフリードの顔を見ると、告白しようと決意したところで堕ちた神さまの一件に遭遇したそうだ。

 

 「お前さん、運がないの……いや、すまん! 儂が管理を怠ったばかりに、ジークフリードの邪魔をしてしもうた」

 

 「いえ。また機会を伺います」

 

 グイーさまがジークフリードに平謝りをし、話を詳しく知らないギド殿下は目を丸くして驚くも、ジークフリードに同情を寄せているようだ。しかしナイさまは本気でジークフリードの気持ちに気付いていないのだろうか。ただ。

 

 「しかしなあ……――」

 

 ――ナイだからなあ。気付いてくれるか……と、部屋にいるみんなの気持ちが重なるのだった。

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