魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0695:平和な時間。

 ユーリの部屋で錫杖さんが魔石の部分をご機嫌そうにぺかぺかと光らせていた。ユーリは錫杖のヘルメスさんとレダとカストルが喋っていることに全く驚いていない。もう少し大きくなって錫杖や長剣は喋るものではないと理解してくれると良いのだが。ヘルメスさんは私の魔力を多く取り込んだのだが変化は見られない。ただ凄くご機嫌に私の腰元でぺかぺかぺかーと光っている。

 

 『ふふふ。名を賜り魔力を頂いたことで、ご当主さまの錫杖としてもっと活躍できるようになるはず……!』

 

 嬉しそうな声を上げるヘルメスさんにジークとリンの腰元にいるレダとカストルが微妙な雰囲気を醸し出している。

 

 『マスターから魔力を賜ったのではなく奪い取ったの方が正解でしょうに……それに凄く奪い盗ったと言っても、使われなければ宝の持ち腐れじゃないの』

 

 『俺らはジークリンデとジークフリードの腰元にいるだけだからなあ』

 

 レダはヘルメスさんが私の魔力を大量に取ったことが羨ましく、カストルは長剣として活躍する場がないことを嘆いている。

 確かに訓練では木剣を使用するため、レダとカストルが鞘から抜かれる機会は滅多にない。ただドワーフさんたちが鍛えたことと貴重な魔石を使用しているため、かなり人目を集めている。特に騎士の方たちから『あれは業物だ』『ああ、凄い気配だ』とお褒めの言葉を頂いている。その時のレダとカストルは凄く嬉しそうにしているが、やはり使わないと長剣として面目が立たないようだ。

 

 『私にはご当主さまの魔力制御という役目がありますので。貴方たちのように活躍の場がない長剣とは違うのです』

 

 ヘルメスさんはレダとカストルに向かって、ふふんと鼻を鳴らす。錫杖の役目を果たしていると二振りに伝えたかったようである。レダとカストルは悔しそうな気配を発し、彼らの使い手であるジークとリンは微妙な顔を浮かべて杖と剣のやり取りを聞いている。

 部屋に居るヴァルトルーデさまとジルケさまも三振りに呆れているのか、話を聞いておらずユーリの相手を務めてくれていた。クロはリンの肩の上から私の肩の上に戻っている。

 

 『みんな、元気だねえ』

 

 クロは三振りのやり取りを見て楽しそうに目を細めた。杖と剣が喋っていることに違和感を抱いていないようで、クロは普通に受け止めている。まあ、クロは竜だし不思議現象の許容値が高いのだろう。私も私で、いろいろなことを体験してしまい、ヘルメスさんが喋っても『ああ、レダとカストルのように意思を得たのだなあ』としか感じなかったのだから。

 

 「賑やかだねえ」

 

 本当にアストライアー侯爵邸は賑やかである。床ではユーリとヴァルトルーデさまとジルケさまが戯れ、それを見ている毛玉ちゃんたち三頭が構えと主張している。

 そんな彼らをフェンリルのヴァナルとケルベロスの雪さんと夜さんと華さんが見守っているのだ。更には私とジークとリンの肩の上には竜が乗り、携えている武器が喋る。本当に賑やかだなあと私が目を細めると、錫杖さんが腰元から浮いて私の目の前で滞空飛行し始めた。

 

 『ご当主さま、ご当主さま!』

 

 「どうしました、ヘルメスさん」

 

 ヘルメスさんのご機嫌な声に私は『いつの間に飛べるようになったのか』という言葉を飲み込んだ。錫杖さんの楽しそうな様子にクロがこてんと首を傾げる。

 

 『ふひひっ……おっと、あまりの嬉しさに変な声が出てしまいました。失礼を。ご当主さまは私を時折持ち運んでくれません。その場合は勝手について行っても宜しいでしょうか?』

 

 ヘルメスさんは私が時々机の上に置きっぱなしにしてしまうことを気にしているようだ。申し訳ないことをしてしまったが、忘れるものは仕方ない。必需品でありながら、つい忘れてしまうスマートフォンのようにヘルメスさんを私は扱っているようだ。

 

 「や、屋敷の中だけなら良いですよ。外で勝手についてくると大騒ぎになると思うので、出掛ける前に声を掛けて頂けると嬉しいです」

 

 私が全面的に悪いのだが、ヘルメスさんに外では飛ばないようにとお願いする。ヘルメスさんは私のお願いに『仕方ありませんね。ですが、置いていかれるよりマシです』と呟いた。

 レダとカストルは自分たちの立場が追いやられてしまうと危惧しているのか、やいのやいのと野次を飛ばしている。ジークとリンなら私のように得物を忘れることはない。

 

 外で錫杖が空中を飛行すれば、誰もがきっと驚くはず。外でヘルメスさんを忘れないようにしようと私は誓い、そろそろ夕ご飯の時間だとユーリの部屋をあとにするのだった。

 

 ◇

 

 ――平穏だ。

 

 アルバトロス王として忙しく日々を過ごしているものの、ここ最近は随分静かに過ごせている。創星神さまがお配りになった石に変化はないし、各国の動向も落ち着いている。元エーレガーンツ王国は新たな王を据え、再出発を試みている。大陸会議で新王と顔合わせをしたのだが、随分と落ち着いた雰囲気のご老体であった。元エーレガーンツ王に嫌われており、辺境の領地に追いやられていたところをエーレガーンツ上層部が彼を頼ったそうである。

 

 『老体に鞭打つことになるが、時代の流れは私を求めたようだ』

 

 と肩を竦めて笑っていた。彼の隣ではヤーバン王が接収した領地についてなにやら話し込んでいたのだが、一体なにを会話していたのか。首を突っ込むのは野暮だろうと聞き耳を立てなかったのだが、話に噛んでおくべきだっただろうか。

 ずっと忙しなく動いていたため、本当にここ最近の執務は随分と落ち着いて捌けている。宰相も問題が舞い込んでこないことに感動を抱き、食事と酒が美味しいと零していた。他の近衛騎士の者たちや官僚の者たちも平和だと城内で呟いているらしい。唯一、外務卿であるシャッテンが『なにも起こらないのは嵐の前の静けさでは』と漏らしていたが、嵐はくるなと願うばかりである。

 

 夜。城の執務室の窓から双子星が覗いている。私は双子星を酒の肴とし、ワイングラスを片手に椅子に深く腰掛けていた。

 

 「陛下、静かですな」

 

 宰相も私と同じようにワイングラスを掲げ一口嚥下している。護衛の者たちも目を細めて、窓の外に浮かぶ双子星に視線をやった。

 

 「静かだな、宰相」

 

 私も部屋に居る者たちもひとつ頷き、ふうと息を吐いた。本当にこの数ヶ月は落ち着いたものである。一番大きな話題はアストライアー侯爵から私が渡した錫杖が喋ったと報告が上がったことくらいだろうか。魔獣も幻獣も現れないし、どこかの組織の者が不正を働いたと耳にすることもない。デグラス領も随分と改善の兆しを見せており、あとは侯爵に任せておけば問題なく領地運営できるだろう。

 

 あとは創星神さまの石の変化があるかどうかだが、私が生きている間に黒く染まることはないのかもしれない。未定の未来を心配し過ぎるのは駄目だ。最近、調子の良い胃がまた痛くなってしまいそうなのだから。

 

 「陛下、そういえばガレーシア王から届いた手紙にはなにが記されていたのでしょう?」

 

 「良く効く胃薬はないかと聞かれただけだ」

 

 宰相は数日前に届いていた個人的な手紙の内容が気になるようだ。私が手紙の中身を告げれば、宰相が微妙に目を細めてガレーシア王国の方角へ顔を向けた。

 

 「ガレーシア王も苦労をなさっているのですなあ」

 

 ふうと息を吐いた宰相が私に視線を戻す。確かに創星神さまの石を受け取った国々は扱いをどうするかと悩んでいるようだった。私はアストライアー侯爵から普通の扱いで良い――普通に扱えるわけはないが――と聞いていたし、失くしてしまっても問題ないと教えて貰っていた。

 流石に失くすような失態を犯すつもりはないが、話を知らない各国上層部は問題が起こった場合はどうするかと頭を抱えていたようである。特にガレーシア王国は石と共に海竜が浜辺に現れて大騒ぎになっていた。アストライアー侯爵だから……というアルバトロス王国上層部では通じるものが、ガレーシア王国ではまだ浸透していなかったため、上層部と王は気苦労を多大に溜め込んだようである。

 

 「創星神さまの石の警備や海竜が現れたことで大騒ぎになっていたからな。騒動を治めるために随分と苦労をしたそうだ」

 

 私は宰相に向かって苦笑いを向けると、彼もまた片眉を上げて答えてくれる。ガレーシア王は石の配布前後に随分と苦労をしたようで、大陸会議で私に愚痴を零していた。そして胃が痛いとも。

 

 「妃殿下を頼らなかったのですね」

 

 「父親としても王としても、娘であるベアトリクスには知られたくなかったのだろう」

 

 私の妃であるベアトリクスを頼らなったのは、単に王と父親としての威厳を落としたくなかったのだろう。聡いベアトリクスのことだから、既に気付いているかもしれないが。

 

 「フライハイト領で獲れた薬草茶と亜人連合国の薬茶を送る手筈を整えてくれるか?」

 

 「宜しいのですか、陛下」

 

 宰相が怪訝な顔になる。大量に用意することはできないが、一人分くらいであれば余裕がある。最近、私の胃の調子が良くなっているし、少し融通するくらいなら大丈夫だろう。

 

 「同じ痛みを抱える者を放置できるはずがない」

 

 「話を聞きつけた他国の王まで陛下を頼るようになれば、如何なさるのです? 足りるのですか? というか、私も欲しいのですが……」

 

 私は真剣に宰相と視線を合わせていれば、彼の本音が最後に漏れた。宰相も私と同様に胃を痛めていたようだ。叔父上、ボルドー男爵が特殊なだけで、普通はアストライアー侯爵のやらかしに胃を痛めるものだと安心する。

 

 「フライハイト領の薬草茶は足りるが、亜人連合国の薬茶は無理だろうな。あれはアストライアー侯爵がいるからこそ、我々が買い付けられているものだ」

 

 大量にとなれば、手に入れられない代物だ。そもそも定期購入しているだけで、突発的な買い付けはできない。侯爵を頼れば可能かもしれないが、私たちが胃痛に悩んでいると知れば、女神さま方や創星神さまに話が伝わる可能性がある。

 アストライアー侯爵は女神さまや創星神さまに『陛下の胃の痛みをどうにできませんか?』と相談しそうなのだ。まるで親に相談するかのように。 

 

 「良く効く胃薬探しが流行りそうだな……」

 

 「……否定できないのがまた」

 

 お互いに視線を合わせて長い息を吐き、私はもう一度窓から見える双子星に視線を向けた。

 

 「いっそ、悩んでいる王たちと一緒に探してみるか」

 

 「それも良いかと」

 

 淡く輝く双子星に『どうか良い胃薬がみつかるように』と私は願いを込めて、グラスに入ったワインを飲み干すのだった。

 

 ◇

 

 穏やかな日々が続いていたのに。久しぶりに胃の調子も良く、宰相と私、アルバトロス王は余裕を持って良い胃薬を探してみるかと先程まで笑っていたのに……。

 

 アルバトロス城の執務室に四度のノックが鳴り響いた。

 

 部屋に居た者たちは『何事だ!?』と刹那で目を厳しくさせて、出入口である扉を見つめた。私は護衛の者に取次ぎを頼んで、扉の向こうにいるであろう人物は誰かと考える。

 アストライアー侯爵になにかあり、内務卿が執務室に飛び込んできたのか。聖王国が創星神さまの石に不敬を働き怒りを買ったと、外務卿が跳び込んでくるのか。

 はたまた、魔獣や幻獣がどこかで暴れているのだろうかと、一瞬にしていくつもの可能性を思い描いた。なににせよ、入室の音が四度鳴れば『急ぎの連絡』であるという証拠だ。私は執務室の椅子に深く腰を掛け、やってくるであろう者に威厳のある態度で挑もうと一度目を瞑る。取次いだ者が足早に執務机の前に立ち礼を執った。

 

 「陛下、外務卿殿が……陛下の耳に急ぎ知らせておきたいことがあるそうです」

 

 「分かった。入れ」

 

 私は急ぐようにと頼めば、直ぐに外務卿であるシャッテンが少し慌てた様子で執務室に入り私の前に立つ。

 

 「陛下、夜分に申し訳ありません」

 

 「構わん。どうした?」

 

 シャッテンが至極真面目な顔で私を見ていた。彼は数年前まで左遷部署の長としてくすぶっていたのに、今ではアルバトロス城内で肩で風を切って歩いている。

 アストライアー侯爵に頭を悩ませつつも、外務部が花形部署となったことが相当に嬉しいそうだ。私の胃の腑の痛みに気付いて薬を融通してくれているのだが、シャッテンは飲んでいないそうである。なんと羨ましいことかと声を零しそうになるのを我慢しながら、一体何があったと私は先を促す。

 

 「先程、密偵から情報が入ったのですが、大陸の東に位置する国……リバティーと名乗る者が統治を始めた国が助けて欲しいと周辺国に乞うているそうです」

 

 「何故?」

 

 シャッテンの言葉に案外持ったというのが私の本心であるが、一応理由を聞いておこう。

 

 「革命を起こして成功したまでは良かったのでしょうねえ。ただ彼の政治手腕は周りの期待に応えられず、食料不足に陥ってしまったようなのです」

 

 眉尻を下げてシャッテンが困ったような顔をしているが、名前が挙がった国のことは気にしていないはず。アルバトロス王国や関係国が無事であればそれで良いというのが本音であり、離れている国に助力をしたところで旨味が少ない。ヤーバン王国に関しては女王に相談されていたから、私は相談役を派遣したのみ。大陸会議にも顔を出さない国の長に、支援を名乗り出る王は一体何人いることだろう。

 

 「言わずもがな……というか、我々の予想通りの展開か……」

 

 「ですな、陛下。上手くいくとは思えませんでしたから」

 

 私と宰相が視線を合わせて肩を竦めると、シャッテンは苦笑いを浮かべて口を開いた。

 

 「各地の諸侯が不満を持ち始めているようです。内戦に陥ってもおかしくはない状況だとか」

 

 王を打倒したとはいえ、各地には王に仕えていた諸侯がいる。リバティーの後釜を狙う者がいてもおかしくないし、自領地を王都と定めて新たな国を興そうと躍起になる者もいるかもしれない。

 

 「我々は見守るしかないな」

 

 随分と離れた位置にある国である。創星神さまの石があるため、関係ないとは言い難いが状況を逐一見ているに留めるのが一番だろう。変に口出しをすれば内政干渉となるし、ここぞとばかりに頼られても困る。シャッテンが『それが一番でしょうね』と声を出したあと私に視線を定めた。

 

 「アストライアー侯爵に関わろうとすれば、どうされますか?」

 

 シャッテンはリバティーと名乗った男がアストライアー侯爵を頼ることを危惧しているようだ。本来であれば遠い国が食料難に陥ろうとも、なにもしないというスタンスである。

 だが、リバティーと名乗る男は侯爵との面識があり『神の御使いを務めたアストライアー侯爵が必ず助けてくれる!』などと無責任に叫ぶ可能性もあるのだから。そうなれば、亜人連合国辺りが凄い顔になってリバティーと名乗る男に圧を掛けそうだが。確かにリバティーと名乗る男が侯爵を頼ろうとすることもあるだろう。私はシャッテンの声にふむと考える仕草をしてから言葉を紡いだ。

 

 「アルバトロス王国経由で侯爵を頼るなら、情報を伏せることもできるが……彼女の耳に入らないとも限らぬし、話をしてどうするか聞いたあと我々もどう動くか決めた方が良さそうだ」

 

 「念のために侯爵にもお知らせしておかれますか?」

 

 情報を伏せ、あとから知るよりは良いはずだ。創星神の使いに矢を番えた国の信用などないに等しいし、侯爵にどういう態度で挑むか予想が難しい。

 

 「そうだな。突然、リバティーと名乗る男の使者が侯爵邸を訪れることもあるやもしれん」

 

 私は外務卿と宰相に視線を合わせて、リバティーと名乗る男の国が最悪の行動に出た場合を告げた。侯爵に会えずとも、街中で『侯爵閣下に助けに貰いにきた!』と吹聴されれば迷惑極まりない。感情に流された王都の民や領民が、使者の味方に就くこともあるかもしれない。そうなるとアストライアー侯爵とアルバトロス王国は動かざるを得なくなる。

 

 「では、亜人連合国、ヤーバン、リーム、ヴァンディリア王国にも知らせておきましょうか」

 

 シャッテンがいくつかの国を挙げるが、私は足りない気がすると口を開いた。

 

 「そうだな。念には念を入れてアガレスと共和国とミズガルズとフソウにも連絡を入れよう……南の主だった国もか」

 

 事が大きくなれば、必然と名を挙げた国にも話が届くだろう。大事になる前に知っておけば、いろいろと考えることができ無茶な行動にでないはずだ。

 

 「承知致しました、陛下。では、我ら外務部は各国に知らせを」

 

 「ああ。好きに動いて貰って構わんがアストライアー侯爵と関わる時は知らせて欲しいと、各国には頼んでおいてくれ」

 

 「はっ!」

 

 シャッテンが足早に執務室から出て行った。私と宰相はふうと息を吐き、机の上の書類の山に視線を向ける。今日はもう雑事は止めても良いかもしれない。明日はリバティーと名乗る男の国に更に密偵を送り込んで状況を調べさせねば。

 

 「関わる国が多くなってしまいましたな」

 

 宰相が苦笑いを浮かべ、アストライアー侯爵のことになると関わる国が多くなると暗に告げた。

 

 「なにもなければ良いが」

 

 私は宰相の言葉になにかあるんだろうなあと、飲みかけのワイングラスに視線を向け、今日は解散しようと部屋の者たちに告げるのであった。

 

 ◇

 

 朝、ベッドから起きて身支度を済ませた頃だった。エッダさんが私の私室で遠慮気味に声を掛ける。

 

 「ご当主さま、家宰さまが執務室にきて欲しいと」

 

 「承知しました。珍しいですね、なんだろう?」

 

 家宰さまが朝に私を呼び出すなんて珍しい。私がエッダさんに視線を向けると眉を八の字にさせて困り顔を浮かべる。

 

 「申し訳ありません。私は内容を聞いておらず……少し話があるとだけ」

 

 「あ、いえ、気にしないでください。単に朝一番に呼ばれることが珍しいと感じただけなので」

 

 私が不思議な顔をしていると、部屋に戻ってきたクロとロゼさんとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちも首を傾げている。唯一、一緒にいた仔猫三匹がベッドの上で呑気にじゃれ合っていた。

 私はヘルメスさんを腰に下げ、エッダさんとみんなと一緒に部屋を出て、廊下を歩いていればジークとリンと合流し執務室の中へと入る。すると先に待ってくれていた家宰さまが顔を上げ、私たちを迎え入れてくれた。

 

 「おはようございます、ご当主さま。朝食前に申し訳ございません」

 

 家宰さまが礼を執って申し訳なさそうな顔になる。私がご飯を楽しみにしていることを屋敷の皆さまは知っているため、こうして呼ばれることは滅多にない。

 どうしたのだろうと私が首を傾げると、家宰さまが真面目な表情へと変わる。あ、なにか問題が起きたのだなと家宰さまの口からどんな言葉が出ても驚かないようにと身構えた。

 

 「ご当主さまに矢を番えた国が窮地に瀕しているようで、周辺国に助けを求め始めたようです。アルバトロス上層部から知っておいた方が良いだろうと、先程連絡が届きました」

 

 「なるほど」

 

 真面目な顔の家宰さまに私は短く答える。ジークとリンは『だろうな』『嫌な予感はしてた』と予想がついていたようだ。家宰さまは『おや』という雰囲気になり口を開いた。

 

 「驚かれるかと思いましたが、平然とされておられますね」

 

 「革命が成功した事例って少なくないですか? というかあの国の諸侯の皆さま、納得されているのでしょうか……取って代わられる気がしてならないです」

 

 家宰さまが私の言葉を聞いてふふふと笑う。

 

 「私の予想でしかありませんが、王家が悪政を敷き我慢の限界となった諸侯の皆さまは、リバティーと名乗る男に一時的に助力した、というところでしょうね」

 

 「都合の良いように利用されてる……話が当たっているなら、ですけれど」

 

 家宰さまの予想に私は肩を竦めた。彼の国の事情は詳しくしらないが、情報が入ってきたなら彼の国と周辺国に密偵を送り込んでいるのかもしれない。陛下も抜け目がないと感心するものの、一国を司る方ならば十手先、百手先を読んで行動しているのだろう。私はグイーさまの石を送り届けて、あの国と関わることはないと考えていたのだが。

 

 「ともかく、仮の話となりますが、リバティーと名乗る男の国の関係者がやってきた場合、ご当主さまはどう致しますか?」

 

 「一先ず、招き入れて話を聞き、直接彼の国へ送り届けます。アルバトロス王国や領地でウロウロされれば困るので」

 

 彼の国の方がやってきて助けを求めた場合、国民の方の支援はするが、国には関わらないようにしよう。リバティーと名乗った男性は胡散臭いので信用ならないが、彼の下で生活している民の皆さまを放置できない。

 とはいえ勝手に乗り込むことはできないので、依頼があった場合、直接乗り込んで支援するという確約を貰うことになるだろうけれど。交渉の末、合意に至らなかった場合は使者の方は飛竜便で国元へ送り届けよう。アルバトロス王国や領地で変な噂を立てられても困るのだから。

 

 「話を聞くだけで?」

 

 「はい。聞くだけです」

 

 家宰さまがふふふと笑い、私も小さく笑みを浮かべて頷き合う。なんだか悪代官と手を組んだ商人が『お主も悪よのう』『ふふふ、お代官さまこそ』と言い合っているように見えなくもない。そういえば、芸子や舞子さんの帯を取って『あ~れ~』と戯れるのも楽しそうだと、朝食前に面倒なことから目を逸らして現実逃避するのだった。フソウならできそうかな……?

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