魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0697:事件化するのか。

 私は最近、革命軍――便宜上、今もそう名乗っている――に入ったしがない男である。半年ほど前、城の門に集まっていた民衆を冷めた目で見ていた頃が懐かしい。このままでは国が傾いてしまうと憂い、私は革命軍に参加したいとリバティーと名乗る男に直接願い出たのだ。

 入念な身元確認もされず、革命軍への参加を認められたのはリバティーと名乗る男の信奉者を装ったからだろう。詰めが甘いと言わざるを得ないが、国の状況を逐一把握できるのは有難い。個人的な私の伝手を頼り、各方面に状況を知らせることができるのだから。

 

 元王城の行政区にある執務室で革命軍の長であるリバティーと名乗る男の下に仲間がやってくる。扉をノックもせずに入ってくるのは如何なものかと私は顔を顰めるが、入ってきた者の顔が喜色に溢れ出ていることで、周りの皆は朗報だと分かり取り決めたルールを無視しても構わないと判断したようである。

 

 「リバティー殿、聖王国から支援を受けられるようです!!」

 

 部屋に入ってきた者は数枚の紙を手に持っていた。聖王国からの正式な書類だろうに、手汗に塗れて少しヨレている。リバティーと名乗る男は部屋に入ってきた者の声を聞き、勢い良く机から立ち上がる。

 

 「それは有難い! 有難いが……聖王国が直接支援をすることが条件とはどういうことだっ!」

 

 だが彼の顔色には直ぐに怒りや不信が現れ始めた。おそらく聖王国は私が住む国を信用していないのだろう。国に乗り込んで直接支援をさせて欲しいと条件を付けるのは、革命軍が物資を横領しているのではと疑っているようなものだ。リバティーと名乗る男は聖王国の意図に気付いているのかと、私は彼の顔を真剣に見る。

 

 「けど、良いことでは?」

 

 執務室に入ってきた者がリバティーと名乗る男に対して、肩を落として残念がっている。どうやら彼は政治について詳しくないようだ。まあ、私も毛が生えた程度であり、政治に精通しているとは言い難いが。

 

 「馬鹿を言え! 我ら革命軍を信頼していないと公言しているようなものだ! 各国に知られれば笑い者になる!」

 

 リバティーが怒りに任せて机に拳を叩き込む。指導者として見せてはならぬ部分をさらけ出すのは如何なものだろうか。さて、この場をどう治めるかと私は思案しつつ、成り行きを見守る。

 

 「民は飢えております。現状を変える一手となるのでは?」

 

 「配給があるからと安堵し働かぬ者がいる! 無償で施すにも限界があるだろう! 我々が国を運営、維持するためには民が働き、金を産まねばならぬのだ!」

 

 確かにリバティーの言に納得できるところがある。元王都に住む民は配給があるからと、働かない者が多くいるのだ。最近、働かない者には配給を行わないと触れを出したものの、甘んじた状況下にいた者たちは働く気力を失くしてしまっている。この状況を改善させなければならないのだが、強硬な手段に出れば元王家と同じと民たちに判断されてしまうと革命軍の皆は恐れている。

 

 本当に国を運営するというのは、難儀なことだと私は息を吐いていれば、部屋に入ってきた男が怪訝な顔をしてリバティーへと口を開く。

 

 「しかし……」

 

 「なんだ!!」

 

 なかなか二の句を継がない男にリバティーが苛立ちを募らせ、怒りを露わにする。

 

 「いえ、なんでもないです」

 

 委縮してしまった彼に私は同情しつつ、このままではいけないと口を開いた。

 

 「皆、落ち着きましょう。聖王国から支援を得られるならば有難いことではありませんか。それで、聖王国は見返りになにを求めているのでしょう?」

 

 革命軍で仲間割れをしても更に国が傾くだけである。私はなるべく柔らかい声色で部屋に入ってきた男に声を掛けた。

 

 「え、ああ。女神信仰の教義を広めるために、教会を建て神職者の受け入れをと申し出ています」

 

 「なるほど。リバティー殿。大枚を要求するわけでもなく、土地を譲れと欲を見せているわけでもなく、聖王国として真っ当な要求でしょう。受けては如何でしょうか?」

 

 聖王国として普通の要求である。他国の様に多大な金を要求していないし、土地の一部を譲れとか、特殊な技術を寄越せとも言っているわけではない。窮状に苛まれている国にとって、本当に有難い申し出だ。まあ教会を新しく建てるには金が必要となるので、既存の教会を改修して今よりマシにするしかなさそうであるが。

 

 「しかしな……聖王国は我が国を舐め腐っている!」

 

 リバティーが怒りを露わにするのは理解できる。国と国を通さずに、国と民とでやり取りをしようとしているのだから。これで王都の民たちが聖王国を認め、革命軍を批判するようになれば大打撃だろう。

 この辺りは聖王国とよく話し合って、余計なことをしないように監視を付けるなりすれば随分とマシになるはず。

 

 「良いではありませんか。舐められて、あとで痛い思いをさせれば良いのです。そもそも聖王国は問題を起こした国。きっと今回の支援物資を我が国へ寄越し、名誉回復を狙っているのでしょう」

 

 彼を宥めるため、都合の良い言葉を頭の中から引っ張り出す。全て事実だから、私がリバティーの怒りを治めるために口にした言葉とは誰も思うまい。

 

 「致し方ないのか……」

 

 「他に支援の申し出を頂いている国はありません。ここは指導者として堪えるしかないかと」

 

 「分かった。支援を受けよう……だが! 聖王国に勝手はさせん!!」

 

 ぐっと顔を下げたリバティーが一転、顔を上げ口の端を歪に伸ばして聖王国の提案を受け入れた。彼はどうするつもりだと私は訝しみつつ、一先ず難を逃れられたと息を吐くのだった。

 

 ◇

 

 ――ナイさま、どうしましょう~!!

 

 と、フィーネさまから私の下に個人的な手紙が届いていた。どうやら石配りの際、私に矢を番えた国が瀕して聖王国に助けを求めたようである。民が飢えて苦しんでいるという申し出だから、聖王国も嫌だとは言い辛かったそうだ。

 教皇猊下や聖王国上層部に大聖女さま二人は条件付きで彼の国に支援をすることに決めたようである。私はアストライアー侯爵邸の執務室でみなさまの意見を聞こうと、フィーネさまの手紙を机の上――もちろん、読まれても問題ない部分だけ――に出しているところだ。

 

 「どう思われますか?」

 

 私がソフィーアさまとセレスティアさまと家宰さまに問う。すると彼らはフィーネさまの少し丸っこい字から視線を外して私へと移る。

 

 「聖王国が断り辛い状況ではあるな」

 

 「ええ。民が飢えて困っているとなれば、協力せざるを得ない状況でしょうから」

 

 「ふくよかな女神さまの所以故に手を貸さざるを得ない、というところでしょうかねえ」

 

 食糧難に陥っているから助けて下さいと請われれば、聖王国は宗教国家として支援をしなければという判断になるのだろう。

 

 「ただ支援物資を送るだけで済ませず、彼らが乗り込んで民に直接配るのは強かだな」

 

 「ナイが創星神さまの使者を務めていた際に矢を番えた国を助ける必要があるとは思えませんが?」

 

 「だからこそ、彼の国を通さず直接支援という手間が掛かる形を選んだのでしょう」

 

 お三方が口々に語ってくれる。度々忘れそうになるけれど、私や他の方たちに矢を番えていた国だった。リバティーと名乗った男は適当に理由を付けていたから、石を渡してそそくさと次の国へ向かったのだが……今になって面倒なことになっている。

 とはいえ、その面倒は私ではなくフィーネさまに向かったので、彼女にはご愁傷様と手を合わせるしかない。でもまあ、頼られたのだからなにもしないという手段は取れないだろう。

 

 「フィーネさまが大聖女として出向くので、大丈夫か心配ですね」

 

 私が唯一心配していることを口にする。聖王国が行うことを邪魔すれば外交問題となるので、彼の国へ食糧支援に向かうことに反対などしない。むしろ、神の使者に矢を番えた国へ行くという決断をよくしたなあとさえ思う。

 そして大聖女フィーネさまを向かわせると決めたことも。なにか目的がある気もするが、フィーネさまの手紙には記されていなかった。妙な方を派遣して、妙な教義の解釈をされても困るという判断がありそうだが……まあ、聖王国のことだ気にするまい。

 

 「フィーネ嬢が向かうのか。聖王国も思い切ったな」

 

 「ウルスラさまだと無茶し兼ねない、というのが一番大きな理由だそうです」

 

 ソフィーアさまが少し驚いたと言わんばかりに目を丸くしていた。そんな彼女に私は肩を竦めながら理由の一端を告げる。

 

 「ああ……さもありなん、ですわね」

 

 セレスティアさまが鉄扇を広げて口元を隠した。どうやらウルスラさまが彼の国へ向かい無茶をしている姿を思い浮かべているようだった。家宰さまは苦笑いを零しながら、どうしたものかと考えているようである。

 

 「一先ず、フィーネさまの身が心配です。聖王国の護衛の方を信用していないわけではないですが、情勢が安定しない国へ乗り込むのは勇気が必要ですからね」

 

 聖王国では魔物の出現が少ないため、護衛の方の戦闘経験が必然少なくなる。流石にジークとリンをフィーネさまに宛がうわけにはいかないため、ヴァナルに彼女の護衛をお願いしよう。

 となれば雪さんと夜さんと華さんも付いていくから、フソウにも話を通すことになる。アルバトロス王国にも知らせ――おそらく聖王国からも連絡が入っているはず――て、なにかあった時に協力できるようにしておこう。

 

 「ヴァナルさん以外にも侯爵家の者を帯同させますか? 情報は必要でしょう、ナイ」

 

 「それなら陛下に相談してみようかと。侯爵家は人手が足りないので、王家に頼るのが一番良いのかと」

 

 セレスティアさまが鉄扇をばさりと閉じ、私は王家を頼ることにした。王家ならばエーレガーンツ王国の件の時と同じく、優秀な方をフィーネさまの帯同者として選んでくれるはずだ。早くした方が良いだろうと、上質な紙を用意して貰って私は王家に手紙を記すのだった。

 

 ◇

 

 アルバトロス城、外務部・執務室。

 

 俺、エーリヒ・ベナンターは聖王国の派遣任務を終え、アルバトロス王国王都へと戻り、通常業務に就いている。アルバトロス王国は平和そのものなのだが、諸外国の動向に目を光らせていたりと外務部は割と忙しい。暇で時間を持て余すよりも、勤務時間内に頑張って仕事を終えた方が楽しいなと執務机で作業をしている時だった。

 

 「ベナンター卿」

 

 「どうしましたか、シャッテン卿」

 

 ふいにシャッテン卿が後ろに立って、俺を呼び止める。俺はなんだろうと椅子を動かして彼と視線を合わせた。

 

 「聖王国がとある国に支援をするために、大聖女フィーネさまと共に乗り込みます。君も彼らに帯同しなさいと陛下から下命されました」

 

 にこりと笑う俺の上司のシャッテン卿が羊皮紙をぺらりと広げて見せてくれた。確かにそこには陛下の直々の文字で聖王国の派遣団に帯同せよと記されている。なにか問題が起こればアストライアー侯爵の名を出して良いこと、向かう先の国が『神の使者に矢を番えたこと』を堂々と宣言し責め立てても構わないと。

 

 もしかして俺、ナイさまに矢を番えた無礼な国へフィーネさまと共に乗り込むことになるの!? とシャッテン卿と視線を合わせる。

 

 「頑張ってくださいね。ベナンター卿」

 

 うふふと笑うシャッテン卿の横にハートマークが浮かんでいる気がしてならないなと、はははと俺の口から声が漏れる。そして俺が聖王国と帯同するならば、ユルゲンも一緒だなあと、巻き込むことになってしまった友人に申し訳ないと心の中で謝るのだった。

 

 ◇

 

 ナイさまに聖王国でこんなことが起こっていると連絡を取れば、何故かヴァナルさんとフソウの神獣さまが寄越され、アルバトロス王国からは外務部に勤めているエーリヒさまとユルゲン・ジータスさまがこられて聖王国の派遣団に帯同することになった。身分を明かせないため、お二人は聖王国の聖職者見習いの格好をしている。

 

 私、フィーネは聖王国の大聖女としてリバティーと名乗る男の国へと向かうことになった。何故、わざわざ情勢の安定していない場所に向かうかと言えば、私が何も言わなければ、ウルスラが行きますと立候補するだろうし、彼女が向かえば無茶をする可能性が多大にあるから……これに尽きる。

 

 聖王国から彼の国――最近、自由連合国と名乗り始めた――までは間に三つほど国を挟む。教皇猊下はナイさまを経由して亜人連合国にお願いして飛竜便を頼んだのだが、人道支援であれば安くしておこうと代表さまが告げられて随分破格な値段になったようだ。

 私たち派遣団一行は飛竜便に支援物資を積み込んで、先に出発して貰っている。載せられるだけ載せるようにとなって、人は転移を使って移動と決まったのだ。自由連合国と隣接している国へと飛び、そこから馬車で移動となる。

 

 大聖堂の地下にある転移陣に派遣団が集まって、自由連合国の隣国から魔力供給が始まるのを待っている。待っている人たちの中にはもちろんエーリヒさまがいて、いつものぴしっと決まった礼服姿ではなく、神職者見習いの服を纏っている。少し若く見えるけれど、エーリヒさまはエーリヒさまなのでカッコ良い。ふふふと私は笑い、床に描かれた転移陣に目を向けた。

 

 「これから転移……アルバトロス以外には初めて赴くから、少し緊張しますね……!」

 

 向こうから魔力供給が始まると、転移陣が淡く光り始める。そこから私が魔力を供給すれば転移陣に乗っている面子が移動するのだ。本当に不思議なものだし、よく事故にならないと不安になるのだが、転移事故は今まで一度も起きたことがないそうである。ゲームが舞台の世界だから、こういう所は凄く適当だ。なんだかグイーさまの適当さがゲームに現れているような気もするけれど。

 

 緊張している私に横で待機してくれているヴァナルさんとフソウの神獣さまたちが私を見上げる。彼らの今の姿は狼サイズなので私の方が背が高い。

 

 『フィーネ、無茶しない』

 

 『ええ。気を張る必要はないかと』

 

 『いつも通りで良いのですよ』

 

 『御身が危なくなれば、わたくしたちが守りますから』

 

 ヴァナルさんが尻尾を揺らしながら落ち着いた声色で、雪さんと夜さんと華さんがふふふと笑って答えてくれた。彼らはフェンリルとケルベロスだけれど、物語に出てくるような凶暴さを全く持っていない。凄くフレンドリーであるし、こうして私の身を案じてくれる。個体差なのかなあと私はヴァナルさんに手を伸ばしてもふもふの頬を撫でた。

 

 「ありがとうございます。またお世話になりますね。ナイさまにもお礼を言わなきゃ」

 

 『主はトモダチが大事って』

 

 私がヴァナルさんの頬を撫でれば、彼は目を細めながら受け入れてくれる。尻尾の動きが激しくなったので気持ち良いようだ。もふもふのダブルコートは凄く柔らかくて、ずっと撫でていたくなる。でも番である雪さんたちの前であまりヴァナルさんを撫でない方が良いだろうと私は手を離した。

 

 『仔たちは留守番となったので、今頃屋敷で不貞腐れている頃でしょうか』

 

 『早く問題が解決すると良いですねえ』

 

 『飢えるのは本当に辛いことですもの』

 

 そういえば毛玉ちゃんたちはナイさまのお屋敷で留守を務めるようである。松風と早風がフソウに渡ってしまい、三頭になっているけれど姦しい女の仔たちがナイさまの下に残っている。

 確かに彼女たちならば『いっちょにいきゅ!』と言いそうだけれど、まだ幼いため無理をさせられないのか。私が毛玉ちゃんたちを御せるか自信がないし、ちょっとホッとしているのが本音だ。ヴァナルさんと雪さんたちがいるけれど、私と毛玉ちゃんたちだけになってしまいなにか起これば責任を取れないのだから。

 

 そんなこんなで転移陣に淡く光が点り始める。暗い部屋には転移陣から漏れ始めた光が周りを照らしている。

 

 「あ、光りましたね」

 

 私がそろそろかと魔力を練れば、見送りにきてくれていた方たちが各々声を上げようとしていた。

 

 「大聖女フィーネ。気を付けて」

 

 「はい! 行ってきます、猊下」

 

 教皇猊下が無理をしないようにと私の肩に手を置いて聖王国式の印を切る。よし、頑張ろうと気合を入れると、いつも一緒に過ごしている二人も声を上げる。

 

 「フィーネさま、お気をつけて!」

 

 「お姉さま、無理をしないでくださいね!」

 

 アリサとウルスラは心配そうな顔をしているけれど、ヴァナルさんと雪さんたちとエーリヒさまたちと護衛の皆さまや他の聖職者もいる。東大陸に赴いていた宣教師の方――今回、支援に同行すると息巻いている――に気合が入っているのが気になるが、ナイさまが初めて聖王国に訪れたような大問題にはならないはずだ。

 あの件があって私は随分成長できたと思えるし、どんなことがあってもあれ以上に怖いことはないと言い切れる。今だから言えることだが、ナイさまが冷めた目で私たちを見ていたのは凄く肝が冷えた。私はふうと息を吐いて、魔力を放出する準備を整える。気配を察知したのかヴァナルさんと雪さんたちが私の影の中へと潜り込んだ。

 

 「では、行ってきます!」

 

 私が魔力を放出すれば転移陣を設置している部屋に光が満ちる。次の瞬間には自由連合国の隣国にある王城の中の転移陣へと辿り着いていた。

 

 ◇

 

 ――ようこそ、お越しくださいました聖王国の皆さま。

 

 恭しい態度で、自由連合国に隣接している国の官僚が頭を下げている。俺、エーリヒはユルゲンと共に陛下の命を受けて、聖王国の派遣団に帯同していた。流石に俺たちアルバトロス王国が関わっているのは不味いので、聖王国の見習い神職者の格好をしていた。

 黒い衣装はシンプルなカソックと言ったところだ。神職の位が上がるにつれて衣装の趣が派手になる。ユルゲンと共に無事にみんなが転移したことに安堵の息を吐いて、聞こえてきた声に背を正した。

 

 「出迎え、感謝致します。聖王国で大聖女を務めているフィーネと申します」

 

 「これは、これは! 私は一度聖王国の大聖堂へと赴いたことがありますが、何分昔のことでして。今代の大聖女さまに会えるとは光栄の極み」

 

 聖王国の派遣団代表としてフィーネさまが銀糸の長い髪をサラサラと肩から落としながら礼を執る。出迎えの彼は熱心な女神教の信徒なのか、目の前の大聖女であるフィーネさまにほうという感嘆の息を漏らしていた。

 彼女に変なことをするなよと俺は警戒をしてしまうが、なにかあればヴァナルがフィーネさまの影の中から現れる。俺が気を張ったことがバレているのか、隣に立つユルゲンが『大丈夫ですよ、落ち着いて』と俺に小さな声を掛けてきた。

 

 俺ははっとしてユルゲンに無言で『ごめん』と伝える。そうするとユルゲンは苦笑して前を向いた。仕事に集中しなくちゃと俺も彼と一緒に前を向けば、穏やかに女神教を讃えるフィーネさまと出迎えの人の声が届く。ナイさまの屋敷で女神さまが過ごしているという事実を知っているため、なんだかなあと思わなくもない。でも人々の間には女神さまを崇めていれば飢えないという信仰が大陸各地で根付いている。

 

 今回の件は西の女神であるヴァルトルーデさまも知っていて、聖王国の行動を認めてくれていた。自由連合国の上層部はどうなっても良いけれど、民が困るのは見たくないそうである。

 

 「城での謁見や歓迎の晩餐会を開けないのは誠に残念です」

 

 「申し訳ありません。わたくしたちを待ってくれている皆さまがいるので……」

 

 出迎えの人が眉を八の字にして落ち込んでいるが、フィーネさまは大聖女らしく待っている人々がいるのだと告げる。困っている人たちがいるのは事実だし、急いでいるのも事実である。出迎えの人はフィーネさまを困らせてはいけないと真面目な顔に直ぐ変わった。この辺りの切り替えの早さは、一国の上層部で働いている人だなと俺は感心する。

 

 「ですな。では馬車回りまでご案内いたしましょう。我が国の馬車ではないという偽装は完了しております」

 

 「感謝致します。教皇猊下も今回の話を貴国の陛下が受けてくださり、感謝の意を示しておりました」

 

 「なんと! 有難いことを聞けました。聖王国を不審に思う方はまだたくさんおり、ご苦労なさるかもしれませんが……信じている者も多数いると知って頂ければ、教会信徒として嬉しいことはありません」

 

 俺は出迎えの人の声を聞き、少し嬉しくなる。問題を何度も起こした聖王国だけれど、やはり人の心を支えている国として信じてくれている方もいるのだと。

 聖王国の上層部が全ての膿を流せたなら、もっと良い国となるのだろう。一時、滞在していたためなのか、俺の心の中に情が湧いてきているようだ。とはいえそれはフィーネさまがいるからという大前提があるけれど。

 

 「いけませんな。勝手に一人で盛り上がってしまいました。失礼を。直ぐに向かいましょう」

 

 そんなこんなで馬車に乗り込み、王都から数日を要して自由連合国と隣国との境界線に辿り着く。今いる場所を超えれば自由連合国の領土内となり、各領主が自治を行っている。

 聖王国もアルバトロス王国も革命軍から離れた諸侯が自領地に引き籠っていると知っているため、支援物資を寄越せと無茶を言ってくると踏んでいるのだが……これからどうなるのだろうか。

 

 「皆さま、これから情勢が不安定な地域へと赴くことになります。護衛の方には苦労を掛けてしまいますが、王都まで各自の命を優先にして道中を進みましょう」

 

 フィーネさまが派遣団の代表としてみんなに声を掛けているけれど、隣国の境界線には荷物を運んでくれる竜が到着していた。隣国の皆さまは珍しい竜に驚いているものの、亜人連合国の記章と飛竜便の旗を掲げているため敵ではないと理解しているようだ。大量の荷物を運ぶことに適しているのは超大型竜の方であるが、今回は広場に移動することもあるだろうと中型の竜のお方が荷運び役として選ばれ、細々とした作業は小型の竜の方が担うことになっていた。

 

 「しかし大聖女フィーネさま……?」

 

 「はい?」

 

 派遣団の中にいた聖職者の人が恐る恐ると言った感じでフィーネさまに問いかける。問われた彼女が小さく頭を傾げると、長い銀糸の髪がサラサラとまた肩から流れ落ちていた。

 

 「巨大な竜が同行する時点で、己の命を考えなければならない状況に陥らないのでは……?」

 

 聖職者の方の疑問に、まだ大きな竜が存在するとは言えない。フィーネさまも彼の疑問に突っ込みを入れたそうだが、それよりも皆さまの疑問を払う方が先と考えたようだ。

 

 「そうですね。一般的な考え方だとそうなりますが、人間は追い込まれるとどういう行動に出るのか分かりません。それに大勢いれば中には突飛な考えを持つ方がいるかもしれません」

 

 道中、野盗に襲われる可能性だって十分にある。竜の方を引き連れていることで野盗や荷を狙う妙な輩に絡まれる可能性は減っているけれど。俺たちのやり取りを見かねたのか荷運び役の竜のお方がくっと顔を俺たちの方へと近付ける。

 

 『代表たちには敵いませんが、私は荷運びだけではなく、皆さまを守るようにとも言い付けられております。ですので、皆さまが襲う者がいれば私が打ち払いましょう。とはいえ大事な荷を背負っているので無理はできませんが、小型の竜の仔たちもいますから。大抵のことは対処できましょう』

 

 飛竜便の荷物を預かる竜は随分と穏やかな方である。隣にいた小型の竜の方たちも声に合わせて、尻尾を振りながら声を上げる。

 

 『がんばるー!』

 

 『人間には負けないよ~!』

 

 『小さいけど、強いからね~!』

 

 ケタケタと笑っている小型の竜の方たちであるが、きっと強いのだろう。なににせよ境界線の地から自由連合国の王都、いや、首都までは馬車で五日間を要する。それまで何もありませんようにと願いながら、派遣団一行は出発するのだった。

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