魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0007:問題勃発。説得。

 ――誰か胃薬を下さい。

 

 聖女なんだから胃痛なんてテメーで治せばいいじゃないかと突っ込みが入りそうだけれど、残念ながら己に自分の魔術は掛けられないタイプの人間だった。

 以前、腕を自ら折って教えを施していたデンジャラスなシスターに、小さなナイフで腕を浅く切られ笑顔で自分の魔術で治しなさいと告げられ、魔術を発動したものの自分には効果がなかった。

 デンジャラスシスターにも人の心が備わっていたのか、慌てた様子で治癒魔術を掛けてくれた経緯があったりする。誰かに頼むと依頼料もしくは寄付が必要となるので、我慢できる痛みならば我慢するしかない。

 

 「あーら、ソフィーアさんっ! あなたの寄り子を使ってみっともなく平民を脅していると耳に挟みましたわ。――公爵令嬢としての自覚はあるのかしら?」

 

 ソフィーアさまが自身の机でハードカバーの本を読んでいると、仁王立ちをしながら鉄扇をばさりと広げ、随分と高圧的な態度と言葉をとっているのは辺境伯令嬢であるセレスティアさま。

 いつもテンションが高いけれど、ああ見えて優秀らしい。人は見かけによらないけれど、公爵令嬢に言い寄っている時点で愉快な人認識になってしまったのだけれども。

 

 「は、どういうことだ? 仮に私がそれを命じた所で一体なんの得がある、意味がない。――それに貴様もその私と同じことをしていると聞いたが?」

 

 「は?」

 

 読んでいた本から目線を外し真顔で答えたソフィーアさまの言葉に、きょとんとした辺境伯令嬢さま。

 

 「…………?」

 

 すわ龍と虎の対決かと教室の片隅で静観していた人たちの間と二人との間で時が止まる。あれどうしたのだろうと疑問を浮かべると、辺境伯令嬢さまが片眉を上げて口を開いた。

 というかヒロインちゃんに取り巻きの人たちを寄こしたのはどうやら彼女たちではないようだ。ならば自主的な行動だったのだろう。どちらにしてもその行動の責任は今対峙をしている二人に行きそうだけれどねえ。

 

 「――何故わたくしがそのようなみっともないことをしなければならないのです! コソコソと下の者をやるくらいならば、暗殺や毒殺でも企てた方が手っ取り早いでしょう。それにくだらない者であれば首を叩き斬ってくれましょう!」

 

 傷モノにすると言わなかったのは情けだったのだろうか。貴族の人たちの間では純潔が重んじられているから、結構な問題なんだよね非処女であることは。

 そういえば平民だとそのあたりは少々ガバいのだけれど、大丈夫かなあヒロインちゃん。まあお金持ちの商家出身だから貴族に嫁いだり、婿を取ったりすることもあるだろうから、教育は施されている…………はずだよなあ……。

 

 「確かにそうだがバレた時に不味い、己の権限で勝手に平民を斬るなよ。――まだ学院生なのだから、行動に起こすな」

 

 言っていることが危ない人そのものだった。はあと溜息を吐いて片手で顔を覆って頭を振ってはいるものの、ソフィーアさまは成人したらオッケーのような口ぶりだし貴族怖い。というか平民をそう簡単に殺めないでください。そして周りの貴族の人たちも頷かないで……。

 

 「あら、殿下のお心を引き留められない貴女に言われる筋合いはありませんね!」

 

 「それはお互い様だろう。立場的には貴様の方が不味いのは理解しているのではないか? アレを御せていない時点で無能を晒しているようなものだぞ」

 

 近衛騎士団団長の子息は確か伯爵家出身、そして彼女は辺境伯令嬢である。同じ伯爵位といえど辺境伯となると侯爵位と同じくらいになるから、完全に団長子息くんより辺境伯令嬢の方が立場が上になる。

 だから好き勝手している彼を諫められないのは、彼女自身の資質を疑われてしまう訳で。ソフィーアさまにも刺さるような気もするけれど。王族の方が立場が上だし、殿下が『黙れ』と言ってしまえば黙るしかなくなるしね。

 

 ただ彼女たちも指を咥えて見ているだけではないだろう、家に報告するだろうし周囲に根回しやらして機を見計らっているのかも知れないのだし。私が出来ることなんてほとんどない。

 

 「…………喧嘩ならば買いますわよ。ええ、今ならば格安で!」

 

 「馬鹿を言え、そんなことをしてどうする」

 

 もうやだこのクラス……殺伐とし過ぎてると嘆いていると、外に出ていた男子たちが戻って来たのでこのやり取りは終わりを告げると同時、教室内は一瞬で殺気に包まれた。

 

 戻ってきた男子たちの真ん中にはヒロインちゃんが居たのだ。

 

 これを視認したこのクラスの女子たちから殺気が駄々洩れた。それに気付いていない男子の鈍さにも困りものだけれど、殺気を平然と受け流しているヒロインちゃんの肝は太い。何故この騒動を引き起こしている人たちではなく、私が胃痛を感じねばならないのだろうか。むーんと考えつつ予鈴が鳴ったので、とりあえずこの場は凌げたのだった。

 

 ここ、頭のいい人たちが集まる特進科だよねえ、頭緩すぎじゃないかな。いや若いから、気持ちはわからなくはないけれどね。イケメンたちにちやほやされて逆ハーレム築いている状態。でも婚約者である立場の人たちの事を考えると、きっちりと清算してから男女の付き合いをしろと言いたくなる。

 

 しかしまあこのままこの緊張感を抱えている訳にはいかないよなあと考えて、ちょっと動いてみるかと自分を鼓舞し。

 

 「メッサリナさん、ちょっといい?」

 

 授業が終わり休み時間となったので、ヒロインちゃんに声を掛けた。

 

 「……どうしたの?」

 

 少し警戒した様子を見せるけれど、彼女の反応は仕方ない。おそらく何度か女子に諭されているのだろう。彼女の行動は貴族の常識を超えているのだから、諫めるのは当然である。

 

 「うん――話したいことがあるんだけれど、時間取れる?」

 

 「今からだよね、かまわないよ」

 

 席を立つ彼女に笑みを返す。

 

 「…………」

 

 彼女を連れだした私の行動にどんな波紋が起きるのか、この時は知る由もなかったけれど。人気の少ない特進科の校舎にある階段の物陰へと入るのだった。

 

 ◇

 

 物陰になっている所為なのか、階段横は少し薄暗い。

 

 「こんな所で、なにを?」

 

 警戒したように私に問いかけるヒロインちゃん。この場所は死角になっているし、密談をするには丁度良いスポットになる。逆に相手を問いただしたり締め上げたりする時も、好都合な場所になってしまうので彼女の警戒は理解できる。

 

 「んー……聞きたいことがあって。ごめん、あまり人に聞かれたくはないからこんな場所になった」

 

 同い年だし、彼女は貴族ではないのだから、タメ口でも構わないだろう。口調が上から目線になるのは良くはないだろうけれど。

 

 「そっか。それで、なにかな?」

 

 中庭で貴族の女子に囲まれたことがある所為なのか、随分と警戒している。その様子は子猫が逆毛を立てているみたいで微笑ましくはあるけれど、私が今から問いただす内容が内容だった。私が本気でボコるならばジークとリンを連れている。武力に関してなら二人の方が、圧倒的に強い。

 

 「婚約者のいる人と、どうして仲良くしているの?」

 

 仲良くなるのは悪いことじゃない。ただ貴族と平民である以上、節度や距離感は大事な訳で。

 

 「え、どうしてって。――仲良くなっちゃ駄目なの?」

 

 ああ、問題は彼女が貴族のルールを認知してないことがそもそもの発端なのか。彼女に詰め寄った人たちは、婚約者のいる人、というより異性と安易に触れないのが当たり前で、目の前の彼女も知っていると勘違いしていたのだろう。

 そりゃ諭す人がいないならば仕方ないけれども、彼女が侍らしている男子たちも注意しないのはどうだろうと疑問を呈してしまうが。

 思春期真っただ中の男の子が可愛い女の子に無邪気に言い寄られたらほだされるのも仕方ないけれど、ハニートラップの可能性を導き出せないのは貴族としてどうなのだろう。ワザと引っ掛かっているかもしれないけれど、周囲に根回ししている様子はないから、演技や彼女を騙しているということはなさそうだった。

 

 「学院だからダメってことはないだろうけど、相手は貴族の人たちだよ。住む世界が違うから、常識やルールも違ってくるのは分るよね」

 

 王立学院じゃなくて、普通の……王都にある他の教育機関であれば良かっただろうね。彼女自身もこの学院に通うより、そっちに通った方が良かったのかも知れない。

 

 「え?」

 

 え、って……。自然に口から漏れた彼女の言葉に頭を抱えそうになるけれど、ぐっと我慢する。私が呆れた様子をみせれば、彼女も不快に感じてしまう。出来れば穏便に諭したいのだから。

 

 「貴族の女子たちがメッサリナさんに怒ってる理由って、異性にみだりに触れてはいけないってルールがあるからだよ。婚約者が居る人や既婚者なら特に敏感になる問題だから」

 

 街中で無邪気にじゃれ合う子供じゃないし、平民同士ならばああして男の人を連れまわしても大丈夫だろう。何人も男の人をキープしても問題はあまりない。彼女、可愛いし。まあ常識的には周囲から冷めた視線でみられるだろうけれども。

 

 「でも私は貴族じゃあないよ」

 

 「確かに。でも相手の人は貴族だよ。この学院に居るほとんどの人がそう。その人たちには立場や義務があるからね」

 

 どう伝えれば、彼女が納得して正確に理解してくれるのだろうか。私には社会人としての経験があるし、時間は短いけれど公爵さまとの付き合いもあってその時にいろいろ学べることがあったから、ある程度は貴族というものを知っているけれど。

 

 「学生なのに?」

 

 「学生でも、だよ。言葉はすごく悪くなるけれど、領地の人たちから税金を取って、そのお金で暮らしている人たちだ。もちろんお金を取るだけじゃなくて、有事の際は命を懸けて領民の為に戦わなきゃいけないこともあるけれどね」

 

 「命を懸ける……?」

 

 王都育ちだからその危機感は薄いのだろう。魔物や魔獣の脅威は辺境領の方が高いし、隣国が攻めてくるのも辺境からだ。仮に王都が火の海に包まれてしまえば、王国は終わりといっても過言ではない。だからこそ国境沿いや、地政学的に危ない場所は爵位の高い軍事に長けた家が領地を護っている。

 

 「魔物や魔獣の被害から領地を護らなきゃいけないし、隣国が攻めてくれば指揮官として現場に立たなきゃいけないよ」

 

 この場合は爵位持ちの人や嫡子の人だろうけれど、領地が危機となれば親族一同呼び戻されるだろうから、危険な場所へ向かわなければならないのは一緒である。

 

 「カッコいいんだね……!」

 

 ズッコケそうになった。

 

 確かに騎士服や鎧を纏っている人たちはカッコいいけれども……! 彼女のズレた感覚に頭を悩ませこれ以上は無理なのだろうかと諦めそうになるけれど、もとよりこういうタイプの子に言葉が伝わり辛いのは経験済みである。頭にお花を咲かせている場合じゃあないんだよと心の中で愚痴りながら、もう一度気合を入れなおした。

 

 「そうだね。――覚悟を決めてる人はカッコいい。ならその人たちの顔に泥を塗る訳にはいかないよね?」

 

 「泥なんて私は塗ってないよ! それにみんな私に優しくしてくれるものっ! 笑顔が可愛いねって、無邪気な君が好きだよって! 家でもパパとママはそう言ってくれるよっ!!」

 

 パパとママときたか。十五歳ってこれくらいの幼さだっけ。反抗期を迎えて、糞親父とか糞婆とか口にしそうだけれども。擦れた子供時代を過ごしたものだから、どうにも一般的な十五歳がよく分からなくなってきた。

 

 「家ならそれでいいけれど、学院だからね。人目もあるし十分に気を付けた方がいい。実際、クラスの子たちに詰め寄られて嫌な思いしてるでしょ?」

 

 「でもっ、詰め寄られたからって優しくしてくれるお友達を突き放したくないよっ!!」

 

 「気持ちはわかるつもりだよ。でもその友達の立場を悪くしてるって考えたことはある?」

 

 理解したならゆっくり彼らからフェードアウトすることもできる。今ならまだ間に合うんだよ。長くなるほど、目の前の少女と殿下を始めとする男子生徒の立場がどんどん悪くなっていく。

 

 「え?」

 

 思ってもいなかった言葉が彼女に刺さったのか、目を丸く見開いた。

 

 「メッサリナさんはそれでいいかも知れないけれど、相手の人は立場を悪くする時だってあるから」

 

 この国の王太子は既に決まっており第一王子殿下だから、第二王子であるヘルベルトさまが立太子する可能性は天変地異でも起こらない限り低い。

 貴族だから派閥があって第一王子殿下を引きずり降ろそうと企んでいる人も居るかもしれないが、こちらも成功する可能性は低いだろう。

 

 それに第二王子殿下にも政に関しての仕事はあるだろうに。その為に今現在、乳兄弟である側近や将来の重役に就くであろう年の近い人が彼の周りを固めて、予行演習をしているのだろうし。

 

 「…………そう、なんだ」

 

 「少しクラスでの立ち回り方を頭を冷やして考えた方が良いよ」

 

 「うん、考えてみる」

 

 下を向いてスカートの裾を力強く握りこんでいた。本当は家同士の確執や女子特有の派閥やらも伝えるべきだろうけど、考えることが出来るのならば全てを説明する必要はないだろう。

 

 「説教臭くなってごめん。でも、このまま続けてもお互いに良いことなんてないだろうから。――それじゃあ」

 

 頭を軽く下げて踵を返すのだった。

 

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