魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
悠然と空を飛んでいる代表さまの背に乗って、しばしの空の旅に圧倒されていた。
「凄いね……」
「ああ」
「うん」
アルバトロス王国から初めて外へと出たおのぼりさん三人が、目の前の景色の広大さに感嘆の声を漏らす。木々が生い茂っている訳でもなく、湖や街々が眼下にある訳でもないけれど。少し寂しさすら感じる大地だけれど、それでも悠然と広がる景色は魅力がある。
『珍しいか?』
代表さまの言葉が届くことに驚きつつ、きょろきょろと周囲を見渡す。
「はい。こうして空を飛ぶことなんて一生ないですから」
普通はあり得ないよね。希少な竜の背に乗って、短い時間だけれど空の旅を楽しめることって。
『そうか。気に入ったならば言え。また乗せてやる』
「流石に代表さまの背に乗るのは……」
これで最後にして欲しい。だってこの国の一番偉い人だ、そんな人の背に乗ったなんて、後でなんと言われるか……。いや、これ羨ましいと言われる可能性もあるのかな。よくわかんないけれど。
『あの二人も度々乗って、移動手段にさせられている。今更だ』
くつくつと笑っているような感情が流れてくる。あのエルフのお姉さんたち、代表さまをタクシー代わりに使っているのか。二人も侮ってはいけない方リストに勝手に入れておこう。怒らせたら怖そうだし。
『降りるぞ』
代表さまの声に返事をすると、ゆっくりと下降していく。この巨体で滞空しつつ降りるって凄いなあと感心していたら、地面へ降りた。
『すまない、少し待っていてくれ』
そう言って私たちと離れる代表さま。その後ろをジークが荷物を持って追いかけていく。リンと私は真逆の方向へと体を向けた。
『これ、持って行って』
『代表さまの服……?』
『服は魔法でもどうにもならないから』
『そうそう~。戻ると全裸でちん――……ふがっ!』
『それ以上は口にしては駄目っ。全く』
どうやら人型に戻ると丸見えらしい。いろいろと。ジークが居るからジークにお願いすればいいかと、こんなやり取りを交えながらお姉さんズから預かっていたのである。着替えは自ら出来るので問題ないとも聞いていたし。
「待たせた」
「いえ、お気になさらず。――こちらは?」
「彼が根城にしていた場所だよ。少し、待っていてくれ。もうすぐ集まって来るはずだ」
緑も少なく、地が露出している渓谷。そんな場所だった。こんな場所を住処としていたのか。竜でも個体差や属性が違うようで、多様だと聞いていた。ご意見番さまは、こうした枯れた大地でも生き延びることが出来るほど、強い個体だったようだ。そして、追われた仲間を受け入れられる寛容さも。
――え?
空に黒点が現れたと目を細めながら見ていると、どんどん大きくなってくる。同族との面会と代表さまが言っていたので、数匹くらいなのかなとか数人だろうなと考えていたのだけれど、数が多いよ……。
大小さまざま、身体の色もさまざまな竜たちがこちらを目指して集まっているんだもの。え、希少って聞いたよ。こんなに数が居るだなんて聞いてないよ、知らないよ。五十や六十じゃあ利かないよ。百超えていないかな、コレ。
口元が引きつっているのを感じつつ、私の後ろで控えているジークとリンも驚いているようで。
『待たせたな、若』
「いや、今来たところだ。これで全員か?」
『ああ。飛べない者や留守を預かっているものは来れないがな』
「そうか。――始めるとしよう」
小型の竜が私の下へ数匹寄って来て、つぶらな瞳で見上げてる。うっと心にクリティカルヒットさせるけれど、犬や猫とかの動物は飼わないと決めている。竜も同じ。
代表さまに『飼いたい』と言えば『構わんぞ』と気軽に言葉が返ってきそうだから、迂闊に『可愛い』とか口に出来ない。
畜生、可愛いなあと一人で悶えていると、鼻先を私の身体に擦り付ける。可愛さに負けて、つい触れてしまった。小さな竜の口元と目の間にそっと手を添えると、目を細める竜。ううう、と萌えていると代表さまが居直ったので、私も彼に視線を合わせる。
「――改めて。彼を安寧の空へ貴女が導いてくれたこと、我々一同感謝する」
代表さまの言葉の後に続いて、集まった竜たちが咆哮を上げる。それはきっと彼に向けた別れの挨拶なのだろう。生命力に溢れ、力強く、雄々しいというのに、どこか少しだけ寂しさを孕んでいるのだから。これ、何か一言あった方が良いのかなあ……。
「この度は、死出の旅へとついた御仁を不慮の出来事で、尊き願いを無為に帰したことは真に残念でなりません」
傍に居た竜がまた私の身体に鼻を寄せる。本当なら『安寧の空』ではなく『大地への帰還』だったはずなのに。
「非才の身ですが彼の葬送に携われたことは生涯忘れぬことでしょう。代表さまに、彼が残した卵をお預けいたしました。きっとまた偉大な方となるのでしょう」
ある意味で亜人連合国を建国した傑物だ。卵さまも偉大な方となるに違いない。
「人の身故、見守ることは出来ませんが、皆さまにお預けいたします」
うん。彼を見守るのは人間ではなく同族である彼らが適任。きっと良き道を示してくれるはずだ。――言いたいことは言い切ったので、長めに息を一つ吐く。
「承ろう」
『ああ、任せて下さい』
代表さまと真っ白な巨大な竜が受け取ってくれたようだ。変なことは口走らなかったようで安堵する。
すりすり、すりすり。周りの小竜が、すごく体を擦りつけてくる。匂い付けでもしているのだろうか。わたしゃマタタビではござらぬよと思いつつ、頭を撫でたり体を撫でたり。私が持っている卵さまの匂いを嗅いだりもしている。
「ああ、卵を渡して貰っても?」
「勿論です」
そう言って代表さまに手渡すと、受け取ってそのまま空中へ放り投げた。凄い勢いで投げちゃった……。良いのかな、卵さまを雑な扱いして。
「洗礼だ。構わぬよ。あれは彼が残したものだ、皆が喜ぶ」
空中へ飛んで行った卵さまは、集まった竜たちが遊んでた。遊んでいるとしか言い表せない。口に咥えられたり、前足でキャッチされたり、翼でさらに遠くに飛ばされたりと。竜のしきたりって理解できないけれど、そういうものだろうと納得させて。
そうしてまた中型の竜がおもむろに飛んできて、私の前に降り立った。そうして口の先を突き出しす。
「これは?」
小さな花だった。器用に切り取って咥えてこちらまで来たようだ。
「彼が気に入っていた花だな」
「それを私に……?」
「礼のようなものだろう。受け取ってやれ」
代表さまに言われて、おずおずと手を出して花に触れると、ぱかっと口を開いた。牙、凄いと普通の感想を抱きながら、花を見つめてふと思う。
「あ……」
「どうした?」
「もう少し同じ花を頂けませんか?」
「珍しいものでもないから構わないが、理由を聞いても?」
「浄化儀式を執り行った場所へ、この花を添えられたら、と」
辺境伯領のあの場所へ行って、花を手向けるのも悪くない。夏休みはあと一ケ月残っているのだし、小旅行も兼ねてみんなで行こう。花は状態維持の魔術を施せば、十分に持ってくれる。
「そうか……、そうだな。手配させよう」
『ねえ、僕も行きたい!』
『ああ、そうだな。私も希望しよう』
連れてってーとまた別の幼そうな竜が騒ぎ、代表さまを若と呼んだ白い巨竜も言い始める。背がかなり高い代表さまの顔を見上げると、何とも言えない表情を浮かべていた。
「わかった。しかし勝手に大陸の空をこの数で飛ぶのは問題があるな」
どうしたものかと考えている代表さま。
「殿下にお伺いを立ててみましょう」
多分、各国の伝手はあるはずだから、殿下から陛下へと話は行くだろう。何だか凄く話のスケールが大きくなっているなあと、遠い目になるのだった。
◇
ご意見番さまが住処にしていた場所で、数多くの竜と戯れていた。幼い竜は好奇心が高いのか、慣れてくるとジークとリンにも絡み始めていた。困ったような顔をしていたけれど、なんだかんだで幼い竜の可愛さに根負けしたらしい。最初はおっかなびっくりな感じで触れていたけれど、どんどん手が慣れていた。
『これをやろう』
『なら、これも~』
一匹の竜さまが口に咥えていたモノをぽいっとこちらへと放り投げると、後に続く他の竜さま。
「こちらは?」
『鱗と牙だな。人間には貴重と聞く』
竜の数が減った理由に、鱗や牙、血肉を手に入れたい人間によって狩られて個体数を減らしていったそうな。
そして手に入れた素材を飾ったり加工をして武器にしたりと。魔力が宿っているので、どれも業物となるそうだ。鱗は自然に取れるものだし、牙も生え変わるし、亜人連合国内ではその辺に落ちているとのこと。貴重でもなんでもないし、気軽に持って帰って好きに使えとのこと。
「……ありがとうございます」
手渡してくれた竜さまたちに頭を下げる。
「どうした?」
礼を述べるのに少し間が空いたことを、不思議に感じたのか代表さまが問うてきた。
「あ、いえ。頂いても有用に使える方法がないなあと……」
伝手もなにもないし。目の前にどんどんと溜まっていく鱗と牙。どうしろと言うのだろうか。
「ならドワーフの職人連中に頼めばいいだろう。彼らの加工技術は本物だ。剣でも鎧でも作って貰えばいい」
これだけあれば何でも作れるし、制作代金は余った鱗と牙をドワーフの方たちに渡せば、嬉々として作ってくれるそうだ。
亜人連合国内では落ちている鱗や牙を勝手に他種族が取っちゃ駄目だそう。竜は元々そんなものには興味ないからゴミにしかならないとも。私も用事ないんだけれどなあと、どんどん話のスケールが大きくなっていることに、胃が痛くなる。
『ならば質の良いものの方が良いな』
そう言って首を背中に回してぺりっと一枚鱗を齧り取った白い巨竜さま。彼に倣って他の巨体の竜からも、ぽいぽい投げられている。
「なら私の鱗もあとで送ろう。ドワーフには話を付けておく。――何か希望はあるか?」
「不躾で申し訳ないのですが、私の護衛の二人に両刃の剣をお願いできませんか?」
ジークとリンが持つ剣は王都の鍛冶屋さんで、自分の手に馴染むものを買っている。良い装備が手に入るなら、そっちの方がいいだろう。ドワーフの職人さん達が作ってくれるというなら、使い心地とか良さそうだし。
「ふむ。君の守り手というならば、きちんとしたものを持っておく方が良いな。わかった。他には?」
「いえ、これで充分です」
「そうはいかぬ。二人の剣だけでは足りんよ、もう少し欲を持て」
そう押し切られたので『じゃあみんなのお土産に』と伝えると快諾してくれた。いいのかな、と思いつつ遠慮するなと言われたし、気にしなくてもいいか。亜人の人たちと比べれば短い命だけれど、いつかお礼が出来るかも知れないし。
「さて、あまり長くなって皆を心配させてもいかぬ。戻ろう」
『若、私の背に乗ると良い』
「頼めるか?」
『勿論』
簡単に話がついて白い巨竜さまの背中に乗って戻ることになる。しかも多数の竜を引き連れて。で、エルフの街へと戻ったのだけれど。
「あら、引き篭もりの白竜さまがどうしてエルフの村へやってきたのかしら?」
「珍しいね~」
『相変わらず喧嘩腰なのか。若たちを送り届けただけだ』
「ふーん。で、何故こんなにも竜たちが居るの?」
小さい竜は降りてきているけれど、巨体を持て余している個体は空をゆっくりと旋回しながら飛んでいる。どうやら珍しい光景のようで、エルフのお姉さんAが問いかけてる。
「騒がせて済まないな。少し我々でやりたいことが出来た」
白竜さまに代わって、代表さまが答えた。
「やりたいこと?」
「ああ。彼が息絶えた場所へ行こうと皆で決めた。聖女殿がその場所に彼が気に入っていた花を添えたいと申してな。ならば我々もとなった」
花を手向けるという文化はないそうだ。けれど竜が息絶えることは滅多になく、私が言い出したことを甚く気に入ったようで。白竜さまの背に乗って移動している間に、代表さまといろいろ話してた。
どうやら彼は亜人連合国が引き籠っていることを、そろそろ止めようと考えているらしい。賛同してくれているのは空を自由に飛ぶ竜族とエルフの若手。ドワーフのみなさまは職人気質で頑固者多いようで里が無くならない限り『好きにせい』と宣言。他種族は人間に交じるのは……と否定している方も居れば、前向きに考えている方も。
今回、亜人連合の代表者が三人しか居なかったのは、その辺りが関係しているらしい。
対応は任せると全権を委ねて、自分たちの里へと戻ったそうだ。そんな適当でいいのかとも思うけれど、裏を返せば信頼の表れ。三人がおかしな対応をする訳がないと、信じているのだろう。
「珍しい。外になんて最近出ていなかったのに。でもまあ、花を添えるのはいい案ね。私も行くわ!」
「じゃあ私も行く~!」
はいはーいと陽気に挙手するエルフのお姉さんズ。
「わかった。少し先方と話してくる」
待ちぼうけを食らっていた殿下たちの下へ代表さまは歩いて行く。やり取りを交わすこと暫く。
「……え」
どうやら殿下のキャパシティーを超えたらしい。目が点になっている。殿下とお偉いさん方の動揺が激しいし、ソフィーアさまも頭を抱えている。
「各国へ連絡を急ぐようにと陛下へお伝えします。ただ時間があまりにもなく……」
ごめんなさい殿下と心の中で謝っておく。王城の皆さまも不眠不休になるのでは……。
「時間はどれほど必要か?」
「一晩は欲しいかと」
一晩で対応できるものなのか。魔術で連絡取れるから、数時間あれば大丈夫なのかな。時刻はそろそろ陽が沈み始める頃合いだ。
「ならば明日の朝一で出発しよう。問題がないのであれば我々が貴殿らを送って行こう」
「なっ! よろしいのですか!?」
「構わんよ。転移も出来ようが、いくつか中継せねばならんだろう。ならば我々が飛んだ方が早い」
ギルド運営の是正改革とかは、後になるのかなあ。各国に連絡を入れてからだろうし、草案を考えないといけないし、各国も対応して口を挟まなければならないか。
なら直ぐに話が付く訳はない。ならご意見番さまの下へ行っても問題はなさそう。殿下が凄く驚いた顔をして喜んでいた。竜の背に乗るなんてロマンだし、男の子なら喜ぶのは理解できる。
「さて、次だ。ドワーフ連中の下へ行くか、聖女殿。あと、ドワーフの技術が必要ならばいつでも申し出ろ」
「私自身は予定がないので、ドワーフの方々とアルバトロス王国との契約を結べると嬉しいのですが……」
目を付けられる前に国に転嫁しておこう。うん。それに騎士団とか軍の人の装備が良いモノになれば、国益に繋がるからその方が良いだろう。
「……外資を得られるな。わかった、我々にとっても悪い話ではない。偏屈な者が多く口が悪い、そこだけは許せ」
国と国との契約になるのか、ドワーフさんたちと国との契約になるのかは分からないけれど、上手く纏まるといいなあ。
殿下たちが顔を引きつらせながら、代表さまの言葉に頷いているけれど。口が悪いのでそこだけは目を瞑ってくれということか。契約内容に盛り込んでおけば、亜人連合側のドワーフさんたちが責められることではないだろう。その辺りは上手く契約を結びそう。エルフのお姉さんズとか交渉事は上手そうだし。
そんなやり取りを終えて、ドワーフの村へと行く。大量の鱗と牙に喜色満面の笑みを浮かべているドワーフの方々。制作依頼をお願いすると、沢山の素材は十分で制作分を考慮しても余り余るからお金は必要ないし、浄化魔術のお礼だと快諾してくれた。
「良いものが出来るといいね」
二人の手に馴染むものができればいいけれど。ジークとリンは職人さんたちと話し合って、手に合うものをと言って打ち合わせを綿密にしていた。他にも小型のナイフやら予備の剣とかをお願いしたけれど、流石に直ぐには出来ないので、出来たら届けてくれるそうな。竜の方が。
「不相応な気もするが……良い物を手にできるなら騎士として有難い話だな」
「うん、楽しみ」
今日は一晩エルフの街に泊まることになった。殿下や宰相補佐さま疲れた顔をして竜の背に跨り、亜人連合国の隣の国へすっ飛んでいった。
これまでは人間相手だったのに、亜人でしかも力を持っている方々とのやり取りだ。
疲れても仕方ない。頑張れ、と無言で応援して見送りを済ませた時、ふと思い出した。
――あれ、卵さま。
何処に行ったのだろう……。ま、まあ竜の集落に帰ったのだから、世話をする方が居るだろうと一人で納得し、本日の宿へと案内されるのだった。