魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0700:見られた。

 ちょっと気持ち良い……というか横柄な態度を取る自由連合国の代表者に私は聖王国の大聖女兼派遣団の長を務める者として啖呵を切ったわけだけれど。

 うん。こちらの手柄をかすめ取るためにノコノコ出てきた人たちに言い返すのって、こんなに気持ち良いのだなと思い知る。以前、アルバトロス王国の教会がナイさまや聖女さま方のお金を着服していた話で、ナイさまが王都の皆さまを焚きつけた真似をしてみただけだけれど。

 

 今、自由連合国の首都の皆さまは私の言葉に感化されて、上層部の皆さまに対して厳しい視線を向けながら抗議の声を上げている。私の足下では顔をちょこんと出しているヴァナルさんが少し心配そうな顔で見ているけれど、彼らは私に手を出そうと考えてはいないようである。

 逆上してくれればヴァナルさんが助けてくれるし、大手を振ってやり返せる――聖王国ではなく、ナイさまの力を頼ることになるけれど――のに。私の誘導によって首都の皆さまが声を上げていることに、自由連合国の代表は忌々しい顔をして小さく口を開いた。

 

 「貴様……! 皆さま方っ!」

 

 貴様と私に対して小さく漏らし、そして男は広場の列に並んでいた皆さまに視線を移して声を張り上げた。どうするつもりだろうと、私も聖王国の派遣団も彼を見守るつもりのようで誰も止めはしない。そして自由連合国上層部であろう、男と一緒に広場にきた人たちも同様だった。そうして男が両手を広げたあと口を大きく開いた。

 

 「あと少しばかりの辛抱です! 今回、聖王国からの支援を取り付けたことにより、他国も支援を申し出てくれました! 我々は決して、皆さまを見捨てようなどとは考えておりません!」

 

 本当に支援を他国は申し出ているのだろうか。私には確かめる術がなく男の言葉に反論ができない。どうしようかと頭の中で考えていれば、エーリヒさまが聖王国の大聖堂で問題児扱いを受けている宣教師に耳打ちをしている。

 エーリヒさまと凄く距離が近いことがとても羨ましいのだが、一体彼は宣教師になにを伝えたのだろうか。いや、今は目の前の男に集中すべきだと私は視線を前へと向けた。

 

 「聖王国の支援はあと三日で終わります! そして今、この場にいる彼らは国へと戻りましょう! 一時しか居ない者の言葉に振り回されないで頂きたい!」

  

 男は言いたいことを言い終えれば、どうだと自慢気な顔をしていた。そして彼の声に首都の人たちが困惑した顔になり、支援を継続して受けられるのかと安堵している方や男の言葉を信じて良いのか迷っている人がいた。

 確かに私たち一行はあと三日で聖王国へと戻ることになっていた。自由連合国から追加で支援要請がなければ、今回で終わりとなってしまうだろう。気持ち良く言い返せたはずなのに、男は私以上に頭が回る人物だったようである。頭が回るなら、王政打倒したあとのことも確りと考えて欲しいけれど。

 

 むー……と私が口を尖らせていると、宣教師が私の側にやってきて四角い顔をぬっと近づける。

 

 「失礼しますね。大聖女さま、少々宜しいでしょうか?」

 

 「え、ええ。如何なさいました?」

 

 宣教師は私の耳元に顔を近付けた。先程まではエーリヒさまと話していたから、間接耳打ち……なんて変な妄想に走りそうになる。駄目だ。思考をピンク色にしてはいけないと頭を振って、私は真面目に耳を澄ませた。

 

 「彼の言葉は半分嘘とのことです。アルバトロス王国の諜報員から情報を頂くことができたと、ベナンター殿が教えてくださいました」

 

 更に詳しく宣教師が教えてくれる。どうやら聖王国が自由連合国を支援をしたことにより、西大陸の各国は聖王国に物資を送って自由連合国に間接支援をしようとしていると。ナイさまが創星神さまの使者を務めたために、諸外国で女神さま信仰への信憑性が高まっているのだとか。自由連合国上層部を見捨てるのは簡単だが、自由連合国に住まう人々を見捨てたと知れば神の怒りを買うのではという心配が各国で巻き起こっているそうである。

 

 だが自由連合国に直接支援をするのは憚られる。

 

 ほとんどの国が王政を執っているのに、主権を民間へと移した国に深く関わりたくはないそうだ。だから聖王国を経由して物資を送り込もうと考えたようである。教皇猊下と聖王国上層部の方たちはいきなり舞い込んできたたくさんの物資にてんてこ舞いだとか。

 ちなみに各国の支援物資が聖王国へ経由されると自由連合国には知らせていないようである。ただ、支援をするから、自由連合国は暫く耐え忍んで欲しいと書状を送ったとのこと。

 

 「なるほど。有難いことですが、彼らが聖王国の派遣団を断ると物資が届かず窮地に立たされますね。ですが、首都の皆さまは飢えて心が荒んでおられます。食料が届かないと知れば、絶望の淵に立たされ希望の光が消えてしまいます……」

 

 私の顔が強張っていく。面倒なことになったかもしれないという懸念と、誰が聖王国へ支援物資を運ぼうと音頭を執ったのだろう。西大陸は小国の集まりだから、各国の王さまにより考えがことなる。だから一気に各国から支援物資が届いていることが凄く不思議だ。まあ、聖王国は自由連合国で名を高められ信者獲得に繋がるだろうから有難い話だけれど。

 

 「どなたかが糸を引いているようですねえ」

 

 ふふふと宣教師が笑っているのだが、彼は今の状況を楽しんでいるのだろうか。

 

 「ですね……しかし、この後はどうしましょうか」

 

 「先程、ベナンター殿から違う話を聞いております。我々が道中で助けた伯爵家のご令嬢ですが、本当は元王家の王女さまだそうですよ。あと半日ほどで首都入りするとか」

 

 私の言葉に宣教師が答えてくれるのかと思いきや爆弾を投げ込んできた。まさか派遣団が道すがら助けたご令嬢の本当の身分は王女――失われているけれど――で、領地に戻ったかと思いきや、諦めずに首都を目指しているようだ。

 

 「……は?」

 

 更に面倒になりそうだと頭を抱えたくなって私は我慢をするのだが、口の方が耐えられなかった。

 

 「一体なにを考えて……!」

 

 「助けた方の真意は分かりかねますが、面白いことになりそうですから、是非とも大聖女さまには明日以降も首都に留まれるように善処して頂きたく」

 

 私が自由連合国上層部の方へと顔を向けると宣教師がとんでもないことを口にする。もちろん時間一杯まで留まって配給と治癒院を開くつもりはあるのだが、自由連合国の国内事情にまで首を突っ込む気はない。

 

 「貴方もなにを考えているんですか!」

 

 「私は女神さまの教えを皆さまに広げるために日夜邁進するのみ。今回のことを上手く利用すれば、聖王国の名が上がるはずです」

 

 私が宣教師に抗議の声をあげれば、彼は面白そうににっこりと笑みを深めた。確かに各国から聖王国に支援物資が届いているならば、自由連合国に届けるのは聖王国の役目だ。ただ次は直接乗り込むのではなく、首都の教会を経て送ることになるだろう。人手が足りないと首都の教会から要請されれば人員を派遣する。

 

 確かに上手くことが運べば聖王国の落ちた評判が少し回復する可能性があるけれど。

 

 なんだか聖王国の手柄というよりも、便乗して利を得ることができたようで気が引ける。とはいえ、首都の皆さまの惨状を目にしている私としては各国からの支援は有難い。

 私の名前でお礼の手紙を送ったところで価値はないかもしれないが、首都の皆さまの声を各国に届けることができるだろう。自由連合国の上層部は各国を利用するだけで、見返りを用意していなさそうである。

 

 「ふふふ。各国からの支援が直接届くことはないと知った自由連合国の皆さまの顔は見物でしょうねえ。女神さまの大地で悪いことをすれば罰が下るのは必然」

 

 宣教師の声にヴァルトルーデさまは基本手出しをしないから自滅しただけ……という気持ちを私はぐっと堪える。とはいえ今回ばかりは宣教師の言葉を信じたい。お天道さまの下で悪いことをしてはいけないと教えられている身としては、彼が口にした言葉の意味を理解できるのだから。

 

 はあと私が溜息を吐いていると、自由連合国の代表である男がくるりとこちらに振り返る。どうやら広場に集まっていた人たちの説得を終えたようだった。

 

 「大聖女さま、我々自由連合国上層部は聖王国の支援に大変感謝しております」

 

 「感謝など。それより今の現状を解決する気は貴方方にあるのでしょうか? 状況は刻一刻と悪い方へと進んでいるのですよ? 路地裏の惨状を貴方方は知っておられますか!?」

 

 また疑問を投げれば、男はふっと笑い私を見下ろす。私は直接見ていないけれど、首都の入り口直ぐの場所にある路地裏には亡くなった方がそのまま放置されていたそうだ。元王城に近くなるほど街の惨状はマシになっているそうで、広場は兵士の目があるためか綺麗だし、宿となっている教会も少々ボロさを感じる場所だけれど問題なく寝泊りできるところである。

 

 「人手が足りないため、止むをえず放置しているだけ。貴方方が口出しできることではありますまい。では、残りの三日間、よろしくお願い致します。約束の期限が過ぎればお早く国へとお戻りなさい。では我々は失礼致します」

 

 自国民の方が路地で亡くなっているのに、どうしてそんな平気な顔をして言ってのけるのか。腹が立つけれど、私たちは結局聖王国の人間であり部外者だ。これ以上彼らに食って掛かって、街を追い出されては本末転倒である。私はこれ以上男に突っかかることを止め、小さく礼を執るのだった。

 

 宣教師と一緒に簡易テントに戻って、私は治癒師としてやってきた方たちに魔術を施していく。聖王国で治癒院に頻繁に参加しているからか、魔力量の配分やコストカットにより随分と多くの方に術を施しているはず。

 二人の聖女さまも休み休みで施術をしてくれている。宣教師も穏やかに患者さんを迎え入れて、話を聞きながら治癒を施し『女神さまのご加護を』と最後に言葉を付け加えていた。

 

 終了時間となって、簡易テントから聖王国の関係者以外が去っていた。私は簡易テントの隅に置かれていた水を入れている瓶――ほとんど水は消費している――に顔を突っ込む。

 

 「うーーーーー!! ムカつく、腹立つ、なによ、あのスカした馬鹿男ぉおおおおおおお!!」

 

 叫ぶだけ叫んで、私は瓶の中から顔を出す。

 

 「ちょっとスッキリ」

 

 心の中に溜め込んでいた淀を少し吐き出せたような気がして気持ちが少し楽になる。身内しかいない場だし、聞かれてしまっても問題のない面子ばかりだ。さて、宿である教会に戻ろうと一息吐いて、みんながいる方へと顔を向けた時だった。

 

 「それは良かったです。フィーネさま」

 

 片眉を上げながら私を見ているエーリヒさまが声を掛けてくれた。彼の横にはジータスさまも一緒だ。

 

 「え、え、え、え、え、え、え、え、エーリヒさま!??? 見ていたのですか!?」

 

 私は慌ててしまい後ろにあった瓶にぶつかる。するとエーリヒさまは私が倒れてしまわないようにと、そっと手を伸ばしてくれた。一応、エーリヒさまとの関係を知っている方ばかりだし、宣教師は人間関係に興味を持っていないので放置で構わない。私の顔がどんどん赤くなるのを自覚していると、エーリヒさまが困ったように笑い始めた。

 

 「はい。フィーネさまの気持ちは痛いほど分かりますから。少しでもスッキリしたなら安心です」

 

 ふふと声を上げた彼は『今日のことや明日以降のことを相談したい』と真面目な顔になるのだった。

 

 ◇

 

 派遣団に同行し、自由連合国の首都へと入って二日目の夜。

 

 俺は聖王国の派遣団の皆さまと話がしたいと、首都にある教会の一室を借り話し合いの場を設けた。話し合いというよりは、報告の場と言った方が正しいのかもしれない。

 

 少し気になっていたことをアルバトロス王国の諜報員――俺たちが自由連合国の首都入りしていると話が伝わっていたようで、彼らから接触があったのだ――の方に調べて貰い、直ぐ報告となったのは自由連合国の情報管理が甘いのか、アルバトロス王国の諜報員の方が優秀なのか。どちらか分からないけれど、聖王国の派遣団の方たちと情報を共有しておいた方が良いと俺とユルゲンは判断したわけである。

 

 俺の横にはユルゲンが席に腰を下ろし、聖王国の護衛役の格好をしたアルバトロス王国の護衛騎士の方が四人控えている。目の前の席には真ん中にフィーネさまが座し、彼女の左横に二人の聖女さま、右横には宣教師の人が腰を下ろしている。他にも派遣団の主だった方たちも数名部屋にいるし、聖王国の護衛の人たちも多くいる。そして自由連合国首都教会の方たちも数名控えていた。

 

 俺たちがなにを話すのか興味があるようで、話に加わりたいと打診があった。聖王国側と俺たちが協議した結果、問題ないとし彼らの参加を認めたのだ。

 首都の教会の方々は新政府からマトモな扱いを受けていないようである。支援を要請しても返事はなく困り果てていたとか。教会に助けを求めてくる首都の人たちに手を差し伸べられず、苦い思いを味わってきた。だから今回の聖王国からの派遣団は有難いことだと笑ってくれていたのだが、彼ら教会が出した聖王国への支援要請が届いていないと知るや新政府にブチ切れた。

 

 そんな経緯があるからこそ、首都教会の皆さまに話し合いの参加を認めたのだ。さて、なにから話したものかと俺は息を吐く。

 

 目の前には真面目な顔を浮かべているフィーネさまがおり、昼間の出来事を気にしているようである。二人の聖女さまも俺たちからどんな話が齎されるのか気になっているようだ。宣教師の人は相変わらず四角い顔に笑みを携えており、なにを考えているのか読み辛い。

 

 とはいえ、宣教師の人とは俺たちは良く話をしている。他愛のないことから、どうしたものかと疑問を彼から俺たちに投げられることもある。逆に俺たちも彼にどうしようかと相談することもあった。

 何気に場数を踏んでいるのか、自由連合国の代表がしゃしゃり出て……派遣団の様子を伺いに広場にきたときも、彼は冷静に対処していたようにみえる。本当に読めない人だと俺はもう一度息を吐いて口を開いた。

 

 「お忙しい中、お集まり頂き感謝致します」

 

 俺が頭を小さく下げれば、聖王国と首都教会の人たちが驚いている。男爵位という貴族位を持つ俺が頭を下げたことに驚いているようだが、目の前には聖王国の大聖女さまがいらっしゃる。友人でありこ、恋人でもあるけれど、きちんと場所は弁えなければ。今は公的な場だし、頭を下げておいた方が上手く回ると判断した次第である。フィーネさまは少し照れ臭そうに笑って小さく頭を下げた。

 

 「いえ。ベナンター卿から情報が頂けるのであれば、我々聖王国も自由連合国の地で動きやすくなりましょう。こちらこそ感謝致します」

 

 「話に割って入り申し訳ありません。我々、首都教会も他国の状況や自国の内情が聞けるなら有難い限りです。本当にご迷惑を掛けてばかりですが、よろしくお願い致します」

 

 フィーネさまが言い終えると、首都教会で一番偉い枢機卿の人が頭を下げる。彼らは俺たち一行を受け入れてくれているし、自由連合国に不信感を募らせているから問題ない。しかしグイーさまの使いを務めたナイさまに自由連合国の兵士が弓を引いていたと知れば、彼らはどんな反応をするのだろう。怖くて言えていないのが現状だし、この話はある意味切り札なのでまだ伏せておく。

 

 「あまり気になさらないでください。私たちも自由連合国の内情を知りたいと聖王国の皆さまを頼ったのですから。持ちつ持たれつで行きましょう。それと、王政が倒れる前のこと、あとのことは聞きたいことの一つになりますので」

 

 俺の声に枢機卿の人が『なるほど』と頷いた。自由連合国が新政府となったことは理解しているけれど、その前の悪政を敷いていたという王さまがどんな人だったのか。どう自由連合国が王家を打倒したまでは分からない。丁度良い機会だし情報交換と言って差し支えないだろう。だから、あまり気にしないで欲しい。

 

 「聖王国の皆さまは自由連合国の振る舞いをどう考えられますか?」

 

 「私たちの支援を利用して、首都の皆さまに自由連合国が手配したものだと勘違いさせようとなさっておりました。確かに自由連合国の打診を受けて派遣が決定しましたが、支援のみでは新政府の方たちは信頼に足らないと判断し首都入りをしたわけですが……」

 

 どうやら聖王国は自由連合国政府を信頼しておらず、届けた支援物資を民の皆さまに渡さない可能性があると判断していたようである。確かに政府の人たちの中に痩せ細った人や不健康そうな人はいない。

 身に纏う服も綺麗だし、代表の人は広場で元気に声を上げていたのだ。聖王国の判断は間違っていなかったのだろう。国庫を開放して空になってしまったと各国に支援要請をしているが、自分たちの分はきっちりと確保しているようである。

 

 聖王国の人たちも俺と同じ考えを持っているようで、首都入りしたことに後悔はないようだ。相変わらず、外で当て布をしている状況は変わらない。

 首都の人たちは支援の手が入ったことにより少し安心しているようだが、聖王国の支援はずっと続かない。一応、各国から聖王国に自由連合国に向けての支援物資が届いているそうだが……いつになれば届くのか分からない状況だ。そりゃ、首都の人たちは不安に苛まれたまま希望なんて見つけられない。

 

 「各国からの支援はいつ届くのか分からないですよね?」

 

 「中身の確認もありますし、届いた量が多くなれば各国との政治的兼ね合いも考えなければなりません……今回、私たちが持参した支援品はあと三日分……首都の方たちがまた不安に陥ってしまいますね」

 

 俺の疑問にフィーネさまが答えてくれた。首都教会の人たちが『そんな』と項垂れているが、俺たちや聖王国を責める人はいない。ただ他国からの支援に関しては、本当になるようになるしかない。

 せめて大陸会議に参加してくれていれば、各国の陛下方と顔合わせをして縁を取り持ち直接支援をと申し出てくれた方がいたかもしれないのに。自由連合国の代表は国の顔としてサボって――理由はどうであれ――しまったのだ。

 

 「聖王国の上層部の皆さまの働きに期待しましょう。各国からの支援は届いているのですから」

 

 深く考えても仕方ない内容だと俺は話を切り上げた。他の方も理解しているようで頷いてくれる。二人の聖女さまは少し政治的なところに疎いのか『早く届きますように』『首都の皆さまの不安が取り除かれますように』と願っていた。宣教師の人は相変わらず笑みを浮かべたまま話を聞いているだけ。彼が大人しいことに不安になってしまうが、話を続けなければと俺はまた口を開く。

 

 「えっと……先日助けた伯爵家のご令嬢についてですが、何故、あんな場所で倒れていたのか気になり諜報員の方にお願いして調べて頂きました……彼女は元王女だそうです」

 

 あんな辺鄙な場所で倒れているのはおかしいし、護衛の『ダル』と呼ばれた人の眼光は普通のものではなかった。例えるならばアルバトロス王国の陛下の側を固めている近衛騎士の方たちのようなものであり、普通の護衛が持てるものではないと。

 そして俺たちと接触を果たした諜報員に調べて貰ったのだが、報告を聞いた時の俺は腰を抜かしそうになった。部屋にいる皆さまが目を丸く見開いて驚いているのだが、一番驚いていたのは首都教会の方たちである。

 

 「い、生きておられたのか……!」

 

 「王家の皆さまは疎まれていたのでは?」

 

 枢機卿の人が目尻に涙を溜め、俺の疑問に首を左右に思いきり振る。

 

 「いいえ! 王女殿下は我々のことを案じておられました! 陛下が重税を課したことや、罪を犯した者に厳しい罰を下すことに、王族の皆さまの中で唯一抗議をしてくださっていた方!」

 

 側室腹であったために元王女さまは城内での地位が低く、護衛を連れ街に出て現首都を良く視察していたそうだ。そのため民の皆さまから人気が高い上に、陛下に盾突いたことで革命の一ケ月ほど前に城から追い出され、母親の実家である伯爵家に戻ったとか。

 なるほど。王族でありながら生き残れた理由は彼女の運の強さのようである。倒れていたご令嬢は王都を目指していると言っていたが、王都に辿り着いたところで自由連合国政府に捕まりしかるべき処置を受けるはず。何故、無茶をしたと俺は考えるのだが、同じことを考えた人がいるようだ。

 

 「どうして身分の高い方が道端で……しかも護衛を一人だけ連れて倒れていたのか……伯爵家から見放されてしまった、とかでしょうか?」

 

 フィーネさまが小さく首を傾げる。確かに伯爵家から見放されていれば彼女が道端で倒れていた理由に納得できる。

 

 「そ、そんなっ……!」

 

 枢機卿の人や首都教会の方たちが悲壮な顔を浮かべ、ご令嬢の身を案じているようだ。しかし、ご令嬢が王都に戻れば高確率で命を失う。情勢を知らないわけではないだろうし、何故王都に固執しているのだろう。民を案じていたというから根は善良な方だろうけれど、政治的な力はないと言っても良い。というか今、王都入りされても騒ぎになるだけだし、下手をすれば病気に掛かって倒れてしまう。

 

 道端で助けたというのに、またご令嬢は首都を目指していると報告が入っているので引き留めないと。

 

 「元王女殿下は首都を目指しています」

 

 「な、なんと! まさか、今の自由連合国政府を……!?」

 

 俺はあのご令嬢を止められないかと意見を貰おうとすると、枢機卿の人や教会の方たちが喜びの顔を浮かべる。喜んでいるところに申し訳ないが、現実を知って貰わないと。

 

 「真意は分かりませんが、彼女が首都入りすれば、なにもできず政府に捕まってしまうだけかと」

 

 すると彼らは力なく肩を落として残念がっていた。

 

 「今、彼女がここにきてもできることは限られていますよね。あと、なにかできたとしても噂を聞きつけた政府に捕まるだけでしょうし……」

 

 フィーネさまは困り顔で答えてくれる。外で支援物資の警備に当たってくれている中型の竜の方にご令嬢を止めて貰うとすれば、荷物から離れなくてはならないし……うーんと悩んでいると、フィーネさまの影の中からヴァナルと雪さんと夜さんと華さんが顔だけ出した。

 枢機卿の人や首都教会の方たちは『ぎゃ!』と悲鳴に近い声を上げて驚いている。中には肩を抱き合って震えている人もいた。俺とフィーネさまは大丈夫だと告げるのだが、なかなか信じてくれない。仕方ないと俺とフィーネさまはヴァナルたちの方へと顔を向ける。

 

 『フィーネ、エーリヒ。ユキとヨルとハナがその人を止めようかって』

 

 少したどたどしくヴァナルが俺たちに声を掛けた。止めてくれるなら有難いけれど、護衛の騎士に魔獣だと勘違いされそうである。ヴァナルや雪さんたちなら喋れるので大丈夫だとは思うけれど、最初は腰を抜かしそうなほど驚くだろうなあ。俺も学院一年生の時の合同訓練でフェンリルが出たと知った時は凄く怖かったのだから。

 

 『役に立ちそうな方であれば、中に入って頂いても宜しいかと』

 

 『壁くらい越えられますしねえ』

 

 『大柄な護衛の男性も乗せるとなれば少々問題ですが……まあ、どうにかなりましょう』

 

 ドヤと胸を張る雪さんたちに俺とフィーネさまは、ご令嬢と接触できれば壁の外で待っていて欲しいとお願いするのだった。

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