魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
フィーネさまが聖王国の大聖女として難しい顔をし、一方の元王女殿下は期待に胸を膨らませているような表情である。俺はユルゲンと顔を見合わせて、大丈夫かと目の前の女性二人の心配をしていた。
元王女殿下が持参した物資は首都の民の一日分、腹を満たせれば良い方だろう。一時凌ぎだし、王都の人たちに食料はまだないのかと詰め寄られれば、護衛一人で彼女を守り切れるのか。首都の皆さまを心配する心意気は感心するけれど、自身の存在で首都が騒ぎになる可能性もある。もしかすれば滅んでしまった王家を支持する人がでてきて彼女を担ぎ上げる、なんて展開も考えられるのだ。
フィーネさまが小さく息を吐き、息を吸って言葉を紡ぐ。
「首都の機能は停止しております。各領地から商人がこなくなったことで、ほとんどの方が飢えておられます。街の外縁部では路地裏に亡骸がそのままの状況となっており、とても街の機能が果たされていると言える状況ではありません」
「そんな……そこまで酷いのですか?」
眉尻を下げる元王女殿下にフィーネさまがゆっくりと頷いた。
「はい。中に入って実際に確かめてくださいと言えれば良いのですが、フォレンティーナさまが現れれば騒ぎになりましょうし、自由連合国上層部の方々が貴女をどう扱うかもお分かりでしょう」
確かに首都の人たちに彼女の顔は知れ渡っているだろう。革命が起こる前に側室である母親の領地に追い出された形となるが、一年程度の時間しか経っていない。首都では人気があったという彼女だ。忘れている人は少ないはず。
「ですから、私の身を使い、彼らからお金を取ることはできませんか!?」
元王女殿下は自身の価値を理解しているのか自由連合国に差し出せと願う。もし仮にあっさりと捕まってしまえば身代金もなにも得られないのだけれど……と心配していると、フィーネさまがまた口を開いた。
「せっかく命を長らえたのに、どうして生き急ぐようなことを?」
「父王に邪魔だと言われて追い出された身ではありますが、私は紛れもなくこの国の王女でした。この国の民に尽くす義務があります。だって私はこの国の皆さまによって、高度な教育を受けられていたのですから」
片眉を上げたフィーネさまに、元王女殿下は微笑みを浮かべた。元王女殿下の考えは素晴らしいものだが、今の状況では自殺と変わらない気がする。
それなら領地で伯爵家の皆さまのために働いた方が得策ではないかと俺は考えてしまう。逃げたわけでもなく、父王の無茶な圧政を諫めようとして疎まれたのだ。元王女殿下の高潔な心を無駄に失うのは惜しいだろう。
「それは、そうですが……」
「だからこそ、私の命を差し出す場所は此処だと判断したのです」
フィーネさまが元王女殿下に圧されたのか言葉の勢いがなくなり、逆に王女殿下の声がはっきりとしたものになっていた。元王女殿下の後ろでは護衛の人がなんとも言えない顔で仕える主を見つめている。フィーネさまが困り果てたのか、俺たちや聖王国の人たちへ『どうしましょう』と視線を向ける。気概があるなら首都の新しい顔になって貰うのもアリだけれど、自由連合国の人たちをどうにかするためには取れる手が少ない。
竜のお方とヴァナルと雪さんと夜さんと華さんの力を借り、ナイさまがお金を取られた時のような手法を取れなくもないが……結構な賭けとなるだろう。仕掛けるのは簡単だが、成功しなかった時の代償が大きい。
「しかしお嬢さんと護衛の方、二人で首都に乗り込んだとしても直ぐに捕まるでしょう。その時はどうされるおつもりだったのです?」
宣教師の人がひょっこりと顔を向けて元王女殿下に語り掛ける。確かにたった二人で首都入りしようなんて無理にもほどがある。それなら実家の伯爵家の領軍を借りて首都に攻め入る方が正攻法ではないだろうか。勝つか負けるかは別の話になるけれど。
おそらく元王女殿下は母親の実家である伯爵家に頼るつもりはないから、護衛一人だけを連れて首都を目指したようだけれど。
「ダルは、ダルトンはこの国一番の騎士です。自由連合国の彼らに負けることなどないと自負しております。大人しく捕まる代わりとして、お金を貰おうとしていたのですが……」
ふうと息を吐いた王女殿下は雪さんたちの方へと顔を向ける。
『私たちに先に捕まってしまったと』
『凄く驚かれていましたねえ』
『守る意思を見せてくれましたが、彼は魔獣相手では分が悪いと彼女を逃がすように説得していました』
雪さんたちの声にヴァナルが『無理しない』と声を出せば、雪さんたちの尻尾がぶんぶん揺れる。番に心配されたことが凄く嬉しかったようで、雪さんたちが耳を寝かせて照れ臭そうにしていた。
確かに魔獣を一人で相手にするとなれば、相当に腕に自信がなければ打倒は無理だろう。Sランク冒険者パーティーでも難しいと聞くし、国軍を編成して対策を立ててどうにか魔獣一頭を倒せるか倒せないくらいと聞く。
そうなると今、魔獣と呼ばれるフェンリルとケルベロスが揃っているのは、自由連合国にとって相当の脅威ではないだろうか。外には中型の竜の方もいるし、小型の竜の方たちも三頭いる。とはいえ亜人連合国とナイさまから預かっているので、聖王国も彼らを使ってなにかしようとは思わないはず。現にヴァナルと雪さんたちにお願いして自由連合国を倒そうなんて台詞は出てこないのだから。
「目の前に彼女たちが現れて、私とダルトンはこの国はもう終わりだと絶望しました」
元王女殿下と護衛の人がタジタジとしていた。確かにケルベロスがいきなり目の前に現れれば死を覚悟するかもしれない。狼サイズで彼女たちの前に出たようだけれど、彼女たちやヴァナルが纏う魔力はかなり高い。
元王女殿下であれば魔術を習っているだろうし、身を守るために相手の魔力量を推し量ることも教えられているはず。ヴァナルと雪さんたちはナイさまの下で更に強くなっていると言っていたから、耐性のない人が遭遇すれば驚きは仕方ないのだろう。そりゃ死を覚悟するのかもしれない。
『脅かしてしまい、申し訳ありません』
『穏やかに現れたつもりだったのですが……』
『事情を知らない者に分かって貰うのは難しいですねえ』
ぱたぱたと振っていた尻尾の動きをぴたりと止めた雪さんたちは肩を落としながらしょぼんとしていた。三頭が揃って顔を下げて地面を見つめる姿は魔獣とは思えない。いや、まあ、その前にフソウの神獣さまであるのだが、神獣という神々しさはどこかへ消え去っている。雪さんたちの呑気な台詞に呆れていたフィーネさまが、ふいに真面目な顔になる。
「しかし支援物資はどう調達されたのですか?」
確かに元王女殿下は何故物資を調達できたのだろう。各領主は自領地に執心している状況で、大量の物資を出すとは考えづらい。
「伯爵家の当主……私の母の義兄に頼み込みました。伯爵家の特産は小麦ですので、この国の胃袋を支えらえるようにと長年苦労を重ね、病気や天候に左右されない強い品種を開発できたことで随分と安定した量を確保することができているので」
「よく許してくださいましたね」
元王女殿下の説明にフィーネさまがなるほどと納得すれば、元殿下は更に言葉を続ける。
「義叔父を脅しました。母は元々、父王が庶民であった母を街で見初めて王城に連れ帰っただけの愛人だったのです。ですが父王は『私の愛を証明してみせる』と母に伝え、伯爵家に養子入りをさせて側室扱いとしました」
伯爵家は小麦の国内一大生産地であるものの、他の貴族から少し見下されていた。そんな伯爵家から側室入りできる女性がいれば、多少は格が上がろうと父王は丁度良いと閃いたのだとか。元王女殿下が生まれる前までは父王は一応、頭の切れる人であったらしい。それなのに二十年で悪政を敷くようになり、革命軍に命を取られることになろうとは。
伯爵家は美味い話になるかもしれないと彼女の母親を受け入れ、淑女教育を施して王家への輿入れに力を入れたのだとか。側室ではあったが社交界で上手く母親の存在を利用し、女児ではあったが王女殿下が生まれたことによって見下されていた状況を改善できたそうである。
王家からの打診であったが、王家を利用したのは事実。伯爵家に出戻った義理の姪は家の財政状況を調べ上げ余裕があると知り、困窮している首都の民を救うようにと当主に懇願したそうである。
二人で首都に乗り込もうとすることは無茶ではあるが、実家の当主を脅してみたりと胆力は備わっているようだ。箱入りの王女殿下と少し違う気質を見せているのは、彼女の母親が庶民出だからかもしれない。
「よく許可をくださいましたね……しかも貴重な魔石まで提供してくださるなんて」
「当主として優先すべきは自領地の民ですが……今まで王国に仕えてきたのです。自由連合国の方たちの手により、この街が落ちていく姿を義叔父は見たくなかったのかもしれません」
王女殿下が首都に聳え立つ高い壁を見上げる。彼女の心には街に繰り出して出会った人たちの顔が浮かんでいるのだろうか。彼女を追い払えば、彼女の頑張りが無駄になってしまう。元王女殿下だというのに、ヒッチハイクをしながら、ほとんど徒歩で首都まで目指してきたとも聞いている。フィーネさまも俺と同じ心境なのか、話を聞いて彼女の意思を無下に扱いたくはないようだ。
「どうされますかな、大聖女さま」
「入門の時点で身バレしそうですよね。仮にフォレンティーナさまが街に入ったとして、騒ぎになれば確実に自由連合国の方たちの耳に届きます。短い時間であれば多少は誤魔化せるかもしれませんが……」
宣教師の人の声にフィーネさまが『捕まるのが目に見えている』と言い切った。その声を聞いた元王女殿下が肩を落とす。どうやら首都入りを諦め始めてくれたようだ。
「あの、せめて王都、違った……首都の方たちに私が持ってきた物資を渡すことはできませんか? 義叔父は支援の出どころが露見するのは不味いと分からないようにしてくださいました。聖王国の支援の中に紛れ込ませることはできないでしょうか?」
元王女殿下の声にフィーネさまは宣教師の人を見た。すると彼はコクりと頷いて可能だと判断してくれた。中身に関しては、聖王国の空箱と入れ替えればさらに分かりづらくなる。
少し作業の手間が増えるものの物資はいくらあっても足りていない状況なのだ。聖王国の派遣団の皆さまは元王女殿下の提案を受け入れた。そうして日が暮れ始めて周囲の状況が分からなくなる頃。自由連合国の兵士には明日の準備が遅れていると伝え、元王女殿下が持ってきた物資を配布するための準備に取り掛かるのだった。
◇
私、フォレンティーナはとある国の側室の子として生まれた。
幼い頃から、王家の皆には少し距離を取られていた気がする。母も私のことは乳母任せにして、王である父との関係を繋ぎとめるために必死であった。でもそれは、平民だった母が籍入りした伯爵家の顔を立てるため、王の気持ちを自分に繋ぎ留めようとしていたのだと最近気づくことができた。
正妃さまから母は確実に疎まれていたし、正妃さまの子である兄たちからも嫌われていた。ただ父王だけは母の存在を認め、愛を囁いていたような気がする。
父王は五年前に私の母が病に倒れて亡くなったことで変わってしまった。なにを思ったのか民に重税を課して苦しめていた。私は父王に『母が亡くなったからといって、王としての責務までヤケにならないでください』と申し出ていたのだが、聞く耳を持ってくれなかった。とうとう、私の存在が疎ましくなったのか母の実家――仮だけれど――伯爵家に私は追い出されてしまった。
家族から疎外されていると感じた私には育ててくれた乳母と護衛のダル、ダルトンが唯一の家族と言って良い。
ダルトンは追い出された私と共に伯爵家に一緒にきてくれたけれど、乳母は元気にしているだろうか。もしかすれば革命軍に捕まっているか、最悪の場合も考えなければならない。
ただ私は王家の生き残りとして王都の皆さまの命と生活を守らなければと、王家と繋がりを持ち甘い汁を吸っていた義叔父を脅して支援物資をぶん取ってきた。ついでに伯爵家の家宝と言われていた魔石も盗んで……いや、借りてきたのだが、確かに家宝としているだけのものだ。大量の荷物を小さな小石程度に納めることができたし、重さを感じることもない。
ただ伯爵家から馬車を借りることは無理だったため、王都まで徒歩で移動をしようという無茶な計画を立てた。案の定、体力のない私は道中で倒れて、聖王国の派遣団の皆さまに助けられた。
王都に向かおうとしている私を彼らは止めた。命の恩人である彼らの言うことを無下にはできないと、伯爵家に戻ろうとしたけれど……結局私は王都の様子が気になって引き返し、王都まで無事に辿り着いたわけである。
そうして今、王都の壁の外で聖王国の人たちと一緒に持ち込んだ荷物を仕分けていた。聖王国の皆さまはこういうことに慣れているのか、手際よく動いている。
対して私はなにをすれば良いのかと迷っている状態だ。同年代位の見習い神父の格好をした男性――確か緑色の髪の人にエーリヒと呼ばれていたような――が、優しい声色で小物の仕分けをするようにと申し出てくれたのだ。王都の人たちが大変な状況にあるというのに、何故か私の心は少し温かくなって小さく笑ってしまう。
私でも扱える物を仕分ける場に就いて作業を開始していた。近くにはダルが控えてくれながら、彼もまた聖王国の方のお手伝いをしている。ふいに私の近くにきたダルが『大丈夫ですか、お嬢さま』と聞いてくれた。
四十歳を過ぎた騎士のダルは全盛期の頃と変わらない強さを維持しているとか。重そうな荷物もひょいと抱えて、顔色一つ変えずに運んでいる。私は彼に大丈夫と答えて話題を変えた。
「ダル……少しでも王都の人たちの役に立つかな?」
「一時のものでしょうが、必ずや」
私の自信のない声に気付いたのか、ダルは力強く頷いてくれる。聖王国の方たちに迷惑を掛けるわけにはいかない――倒れた私を助けて貰った時点で迷惑を掛けているけれど――から、大人しく壁の外で王都の人たちが喜んでくれるのか報告を待つつもりである。本当は王都の街に入って、よく顔を出していたお店や知り合いの人たちがどうなっているのか気になるけれど。私が中に入れば確実に騒ぎとなる。
騒ぎとなれば自由連合国の人たちに見つかって、ダルと戦って貰って負けた彼らに私の身柄を得るにはお金だと交渉を持ちかけるつもりだったけれど。
世の中、思い通りにはいかないなあとダルを見つめて笑う。
「お嬢さま?」
「なんでもないわ。作業を続けましょう。聖王国の皆さまが王都の教会に戻れるように、早く終わらせなくちゃ」
ダルは私がまたお転婆なことを考えているとでも思ったのか『無茶はしないでくださいね』と言いたげな顔となるのだが、無理無茶は今更である。それより王都の人たちの方が大変な思いをしているのだ。泣き言なんて言えない。誰かに甘えることなんてできない。この国の元王女として毅然としていなきゃ。そう考えながら私が作業を続けていると、聖王国の大聖女さまが近くにきていた。
「フォレンティーナさま、大丈夫ですか?」
銀色の長い髪を揺らした大聖女さまが私を気遣ってくえれる。そういえば同年代の人に優しく言葉を掛けられるのは初めてかもしれない。王国の学園では側室の子として腫れもの扱いを受けていたし、十代になっても婚約者を据えられない私を指を指して嗤っていた。王家のお荷物と私が言われていたことも知っている。
「はい。慣れない作業で皆さまのように上手くできていませんが……これで王都の、いえ首都の人たちが少しでも生き永らえて欲しいと」
「そうですね。聖王国には各国から自由連合国に向けての支援が届いているそうです。少し時間が掛かるでしょうけれど、教皇猊下が必ず差配してくださりましょう」
私が言い終えると大聖女さまは小さく微笑んで、凄いことを教えてくれた。各国からの支援が何故届かないと憤っていたけれど、きちんと動いてくれていたようだ。良かったと私が安堵の息を吐けば、側にいたダルも少し雰囲気を柔らかくしている。
「本当ですか!? 良かった……本当に良かったです!」
涙が流れそうになるのを堪えながら、私はふと思ったことを口にしてしまう。いけない。身分の高い方と話をしているというのに、時々こうして思ったことが直ぐに口に出てしまう。私の悪い癖だと乳母に何度も叱られ随分とマシになったけれど、感情が高ぶると駄目みたいだ。
「どうして自由連合国政府に届けないのでしょう……?」
ふいに口から出た私の言葉に大聖女さまが、フィーネさま――心の中ではこう呼ばせて貰おう――が困ったような顔になる。私と合わせていた視線を右へと逃して、ぽりぽりと右手人差し指で頬を掻いている。
「そ、それは、事情がありまして」
「大聖女さま。迷うことはありますまい。創星神さまの使者を務めたアストライアー侯爵に自由連合国政府は矢を番えたのです」
理由を継げるか迷っているフィーネさまの隣に宣教師と名乗った大柄な男性がぬっと立ち言葉を紡いだ。
「へ?」
「は?」
私とダルトンの口から短い声が漏れる。半年ほど前、もう少し前だったかもしれない。突然見た夢で創星神と名乗るお方が堕ちた神さまの意識を集めるため、方々に石を配ると宣言なされた。
そして彼の使者としてアルバトロス王国のアストライアー侯爵閣下が選ばれたと。無事に全ての大陸にある国へ石を届け終えて、今は堕ちた神さまの意識が石に回収されるのを待っている状況だとか。そんな方に自由連合国の上層部の者たちは矢を向けたって!? 本当にそんな馬鹿なことをしたの!? え、正気なの!? と私の頭の中には思いつく限りの罵詈雑言が浮かんでくる。
――なにをしているの!!
悪政を敷いていた父王より性質が悪いかもと私は頭を抱えそうになる。ダルも本当かと宣教師の言葉を疑っているけれど、特徴的な四角い顔には怒りの感情が灯っており彼は自由連合国政府を信用していない様子だ。女神さまを篤く信仰している聖王国の皆さまだ。自由連合国を見捨ててもおかしくない状況なのに、こうして王都の人たちを救おうと頑張ってくれているとは。
「大陸会議に参加なされていれば、各国の王から嫌味を言われながら支援を受けられていたかもしれないのに、自由連合国の代表殿は顔を見せておられません。信用ならないと、聖王国を介して支援を行うというわけですねえ」
宣教師が言い終えると怒りの感情は消えて、呆れが露わになっている。確かに西大陸の各国の王が集まる場に参加していれば、少し状況は違ったのかもしれない。
「それは仕方ないですね……政府の方たちがもっとしっかりしてくださると良いのですが」
私がはあと深い息を吐けば、フィーネさまも深い溜息を一つ吐く。もし政府が国の代表として大陸会議に参加しないといのならば、支援を打ち切られる可能性もありそうだ。
支援を受けるだけで自国で自浄しようとしない姿を晒していれば、各国の王は呆れて自由連合国を見捨てるはず。そして隣国の王がこれみよがしに攻め入ってくるに違いない。そうなれば王都に住む人たちや各地の領に住んでいる人たちが奴隷のように扱われる可能性も出てくる。
「私に力があれば……」
支援物資を守っている竜のように力があれば、周りの皆さまを説得して父を退けることができたかもしれない。けど今更考えてももう遅い。
「おや。力をお望みなのですか?」
「そうですね。私に力があれば王都の皆さまや各地の領の皆さまを救えたかもしれません。悪政を取り続ける父を諫めていただけで、私は彼の首を落とすという覚悟は持てなかった……」
四角い顔の宣教師を私は真っ直ぐ見つめて答える。力というよりも、国を背負う覚悟がなかっただけだろう。結局私は、側室の子という地位に甘んじていただけだ。
「あの! 聖王国の教皇猊下は大陸会議に参加なされているのですよね?」
「はい。政治的なことは口にしませんが、各国の教会の様子を伺うために会場へと足を向けておられます」
私の疑問にフィーネさまが律儀に答えてくれた。きっとフィーネさまは、誰かを騙すとか嘘を吐くとか苦手な人なのだろう。でも今は彼女の素直な心根が有難い。
「大聖女フィーネさま。唐突なお願いとなりますが、教皇猊下に私が大陸会議に参加できるようにと取り計らって貰えませんか?」
「伝えることは可能ですが、各国の王や代表者だけが参加を許されている場にフォレンティーナさまが立ち入りできるとは限りませんよ」
唐突な私のお願いにフィーネさまが一瞬だけ驚くけれど、言葉を直ぐに咀嚼して私が参加できるか否かを考えてくれた。
「駄目元で構いません! 各国の陛下方が自由連合国に支援を申し出ているならば、この国はまだ亡びるなという証明です! そして自由連合国政府は各国の陛下方から嫌われている……! きっとそこに光明があるはずです!」
「なにをなさるおつもりですか?」
うん。自由連合国は各国からの信用なんてものはない。そりゃ創星神さまの使いに矢を番えれば、情勢の安定していない首都を守るための苦肉の策だと主張しても無理筋過ぎる。
「各国の陛下を説得して、私がこの国の王となれるように直談判してみます!」
「ひ、姫さま!?」
私の無茶にダルが少し前まで呼んでくれていた呼称になっていた。私には王になるような学びは受けていないけれど……今から学んだとしても遅くはないだろうし、誰かを頼っても良いはず。王として正しくあり、仕える人たちを適切に采配する。一応、領地経営学は学んでいるから転用できることがたくさんあるはずだ。
「命など惜しくありません! 自由連合国に捕まって命を散らすくらいなら、各国の陛下方に無礼な女だと首を斬られる方がマシですから!!」
戦争は当事国同士だけで済まない場合もある。勝って欲しい国へ裏ルートで支援することもあれば、負けて欲しくてなにもしないこともある。もし各国の陛下方が私に価値を見出してくれたなら。自由連合国政府よりマシだと思わせることができたなら。そしてあとは王都の皆さまの支持を受けることができたなら。夢ではないと私は困惑している聖王国の皆さまに視線を合わせるのだった。