魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0703:信仰心。

 ――えーと……。

 

 どうしてこんなことになっているのだろう。元王女殿下が首都までやってきて聖王国の派遣団と接触して、何故首都にやってきたのかと話を聞いていたら……まさか大陸会議に参加したいと言い出すなんて。

 行動力は認めるけれど、結局は他力本願になっているような気もする。だけれど一人の人間が国を動かしたいのであれば、自国内に期待できない状況ではアリだろうか。

 

 元王女殿下と話していたフィーネさまは大丈夫かと不安気な顔をし、宣教師の人は面白いことになったと笑みを携えている。他の聖王国の方々は政治に関心が薄いのか困惑しているようだった。元王女殿下は首都の状況を改善できるかもしれないと期待に胸を膨らませ、護衛の人は大丈夫かと心配気に仕える主人を見ていた。

 

 明日の配給物資を仕分け終えた俺は仕事の同僚に視線を合わせる。

 

 「ユルゲン。彼女の願いは叶うと思う?」

 

 俺が彼に問いかければ、眼鏡の縁を指で触れて一度掛け直す仕草を取った。

 

 「どうでしょうか。伝手があれば大陸会議に顔を出すことはできるはずですが……各国の王から色よい返事を聞けるのかは微妙なところかと」

 

 まあ、聖王国の教皇猊下が認めてくれるなら参加自体は可能だろう。ただ各国の陛下方が元王女殿下に助力するとなれば話は変わってくる。

 彼女は後ろ盾を得ることで、なにを差し出すのだろう。彼女であれば『私の命を差し出します』とでも言い出しそうだが、各国の陛下は鼻で笑いそうだ。貴様にそのような価値などあるものかと。ただ希望はあると思う。

 

 「ヤーバン王は真っ先に賛成してくれそうだけれどなあ」

 

 俺はふうと息を吐く。ナイさまと懇意にしているヤーバン王国は『面白い!』と言いだしそうなのだ。

 

 「ああ、確かに。アストライアー侯爵閣下に無礼な態度を取った国を支持などしないでしょうからね。賛成だけして、あとは元王女殿下に任せそうですが」

 

 ユルゲンも俺と同じ意見のようだ。

 

 「そこだけが心配なんだよなあ。自由連合国とヤーバン王国は離れているから派兵なんて期待できないし。あと亜人連合国も創星神さまの使者を務めたナイさまに無礼を働いた国と認識しているから力を貸しそうだ」

 

 「そうなれば自由連合国に勝機はありませんねえ」

 

 俺が肩を竦めるとユルゲンも苦笑いになる。亜人連合国が参戦すれば制空権を得られるので話が早い。あれ、ヤーバン王国と亜人連合国が手を組めば、竜に乗ったヤーバンの戦士が自由連合国に攻め入ることができる。

 確か少し前、エーレガーンツ王国の一件で亜人連合国はヤーバン王国に竜の移住を願っていたような。誰かからの報告書で読んだ気がすると俺は目を細める。

 

 「とにもかくにも自由連合国の未来がこれで決まりそうだな」

 

 「政権は一年と持たない可能性が出てきましたねえ」

 

 自由連合国の代表は悪政を敷く王を倒したまでは良かったけれど……そのあとの対応がおざなりだった。せめて元王国に精通している官僚か軍隊か騎士団が謀反を起こしたならば、ここまで首都の状況は悪化していなかっただろう。

 

 その場合は市民が扇動した革命ではなく、政府の内部分裂が引き起こしたクーデターとなるので少々事態が変わってくる。

 

 自由連合国の代表は知識層であっただけで、国の運営にまで詳しくはなかったようだし。せめて城にいたであろうマトモな官僚たちを引き入れていればと考えてしまう。でもまあ城にいた官僚の方たちは革命軍が攻め入った時点で逃げ出している。

 

 「まあ、首都の人たちが飢えているから支持はできないよなあ。天災でもなく、単に情勢不安からくる交通網の麻痺を起こしているだけで、改善しようと試みていないんだし」

 

 「各地の領主が引き籠もったのも不味かったのでしょう」

 

 本当に各地の領主が自領のことだけではなく、首都にも目を向けてくれれば。でもまあ領主には自領地を守るという義務があるので無茶は言えない。それでも、路地裏の亡骸を見てしまえばどうにかならなかったのかと憤ってしまう。

 

 「とりあえず、報告書に漏れなく経緯を記さないとな」

 

 「ええ。少し寝るのが遅くなりますが頑張りましょうか」

 

 俺はユルゲンに頑張ろうと拳を差し出せば、彼が少し照れ臭そうにして拳を合わせてくれるのだった。

 

 ◇

 

 配給作業を日程通りに終えることができた。引き揚げ作業のため、前日より早く切り上げている。

 

 自由連合国の代表は二日目に広場にやってきただけで、あとは顔を見せていない。ムカつく顔だし見なくて済んで良かったけれど、最終日まで頑張って治癒院を開いてくれていた首都教会の方々と聖王国の二人の聖女さまと、配給作業を続けてくれていた人たちに労いの言葉があっても良いのではないだろうか。

 最終日、姿を一向に現さない自由連合国の上層部の人たちに私は鼻息が荒くなっていた。いつもであれば澄ました顔をして外に出て、治癒院に訪れていた方たちに大聖女として声を掛けるのだけれども……少しそんな気分になれず、簡易テントの中から見える城を見上げている。

 

 「ムカつく!」

 

 ギリギリ、ミシミシと歯軋りをしたいけれど、流石に他の人もいる場ではできないと声だけに留めて自重する。すると私のうしろで控えていたフードを深く被った男性とも女性とも分かりづらい方が声を掛けてきた。

 

 「分かります。支援を受けるだけ受けて、挨拶もなにもないなんて信じられません」

 

 正体不明っぽく見える方はフォレンティーナさまである。私たち派遣団一行が母国に戻るまで時間があることと、彼女が確かな目的を持ったため問題は起こさないだろうと、首都入りして中の状況を確かめることを認めたのだ。

 彼女の正体が露見すれば問題だから、宣教師が連れているフードを被っている側仕えに扮していた。広場に集まった方たちは宣教師の関係者だと認識したようで、特に騒ぎになることもなく二日間を過ごしている。首都の寂れた現状に彼女は嘆き、大陸会議で各国の陛下方の支援を受けることに一層の誓いを立てたようである。

 

 「聞こえていましたか。失礼を」

 

 「いえいえ、お気になさらず」

 

 私が彼女に謝罪をすれば、軽く左右に顔を振った。ダルと呼ばれる護衛の人は外で配給作業を手伝ってくれている。騎士の方だから力仕事を率先して受けてくれるので凄く助かっていた。フォレンティーナさまは私の後ろで黙って治癒院に訪れる方たちの現状を噛みしめていた。早くどうにかしないと首都の皆さまの命が危ないと分かっているものの、一人ではなにもできないと悔やんでいる。

 

 諸外国から聖王国に支援物資が届いているので派遣団第二陣が組まれるはずと、彼女に気休めの言葉を掛けたけれど果たしてどうなるのか。

 

 教皇猊下は私が出した手紙と報告書を読んで、フォレンティーナさまを大陸会議の場に連れて行くことに……というか、大陸会議の場を聖王国と定めて各国の陛下方を呼ぶと仰った。

 ナイさまに矢を番えた国というのが聖王国的に許せないようで事を急ぐとか。なので現在聖王国は届いた物資の仕分け作業と各国の陛下方を招待する準備と警備計画を立てているところで、凄く忙しいと。できうるなら、私も大聖女として大陸会議の場に立って欲しいと教皇猊下からお願いされた。

 

 「では引き上げる準備を?」

 

 「はい。あと、経緯を知った亜人連合国の方が直ぐに戻れるようにと飛竜便を寄越してくれるそうです」

 

 私とフォレンティーナさまの会話を聞いていた二人の聖女さまと護衛の方たちが驚きの顔になる。そういえば飛竜便の竜に乗れる方は凄く限られているんだっけ。

 大枚を払うか、亜人連合国から信頼を勝ち取らなければ無理だと聞いている。そう考えると気軽に利用しているナイさまって本当に凄いのだなあと改めて思い直す。いや、創星神さまの使者を務めることになった方が遥かに凄いのか。

 

 「……えっと、竜のお方の背に乗って聖王国へと戻るのですか?」

 

 「はい」

 

 フォレンティーナさまがこめかみに手を当てて揉む仕草を見せているが、私は事実なので正直に伝えた。すると『ええ!?』と彼女は改めて驚き、テントの布に背を付けようとしている。壁ではないし後ろに凭れればそのまま転倒すると私は急いで彼女に手を伸ばす。

 

 「も、申し訳ございません、大聖女さま。あまりの突飛な話に頭が付いていきませんでした」

 

 「いえ。驚くのは仕方ありません。アストライアー侯爵閣下が関わる話となるので……」

 

 謝罪をするフォレンティーナさまに私があとは察して欲しいと願えばぴたりと動きを止めた。

 

 「そういえば創星神さまの使いに矢を向けたのですよね? 民の皆さまはどうなりましょうか……? アストライアー侯爵閣下と創星神さまの怒りに触れれば、民の方たちの命がないのでは!?」

 

 フォレンティーナさまが最悪の状況を考えているようだが……ナイさまは自由連合国に馬鹿なことをする人がいるんだなあと捉えているくらいで、特に気にしていない。

 グイーさまも豚肉パーティーの時にご機嫌そうにお酒を嗜んでいたから、きっと『え、そんなことがあったの? ナイはなにも教えてくれんかったぞ』と言いそうである。西大陸を司っている女神さまであるヴァルトルーデさまも不干渉を決め込んでいるので、フォレンティーナさまが想像しているようなことにはならない。

 

 ただナイさまや創星神さまを知らない彼女からすれば、自由連合国の所業はとんでもないことで、神の審判を受けるかもと考えてしまうのだろう。

 

 事実を教えた方が彼女は心の安寧を手に入れられる。でも勝手にナイさまや創星神ご一家のことを喋るのは駄目である。どう彼女に事実を伝えたものかと考えていれば、ひょっこりと宣教師が私たちに近づいていた。

 

 「女神さまは我々の行動を見ておられるはず。祈りましょう。この地に住まう方々に神の怒りが届かぬように、と……!」

 

 宣教師はフォレンティーナさまに向かって、胸の位置で聖王国の印を切る。少し目尻に涙を溜めていたフォレンティーナさまははっとした顔になり、彼に倣って首都教会式の印を切った。

 

 「は、はい! きっと届いてくれるはずですよね!」

 

 そうして首都教会の方へと身体を向けて地面に膝を突き、手を組んで目を閉じている。どうしよう。西の女神さまはナイさまのお屋敷でご飯美味しいと、幸せそうな顔をしているに違いないとは告げられない。

 私は宣教師とフォレンティーナさまから視線を逸らして、撤収作業に取り掛かろうとすれば私の背後で『きっと祈りは女神さまへと届いたでしょう!!』『はい、きっと、王都の人たちを女神さまは守ってくださいますよね!』と某二人が声高らかにしている。

 

 信仰心って便利なものだなあと私が目を細めれば、自由連合国の一団がのこのこと広場にやってきたのだった。

 

 ◇

 

 宣教師の人と元王女殿下が見つめ合い、お互いに感銘を受けたような顔になっていた。

 

 宣教師の人が言った『この地に住まう方々に彼に向けられた怒りが届かぬように願いましょう』という台詞は、自由連合国上層部の人たちは神さまの怒りに触れても良いということなのか。

 

 でも、まあ……俺も領地を賜っているから、領主や上に立つ者がやらかしたなら責任を持つ者が罰せられるべきだろう。やれやれと俺はユルゲンに視線を向ければ『困ったものですねえ、エーリヒ』と目を細めている。フィーネさまも宣教師の人と元王女殿下は大丈夫かという顔になっているし、元王女殿下の護衛の人も『無理はなさらないでください』と言いたげであった。

 

 話が一段落して、広場で撤収作業に取り掛かろうとした時、何故か件の自由連合国上層部の人たちがやってくる。

 

 相変わらず代表の人は自信満々な顔をしているのだが、首都の現状をなんとも思っていないのだろか。細身ではあるものの、首都の人たちのように顔色が悪いわけでもなく頬がコケているわけでもない。

 彼が連れている他の自由連合国上層部の人たちも顔色は良いので、首都の人たちのように飢えているという気配は一切ない。聖王国の派遣団一行は今頃現れた彼らに『なにしにきた』という顔で出迎えている。自由連合国の代表は派遣団一行の雰囲気に気付いていないのか、ふふふと笑いフィーネさまと相対する。

 

 俺は元王女殿下がなにかしないかとハラハラしているのだが、フードを目深にかぶった彼女と護衛の人は黙って状況を見守るつもりのようだ。

 

 「大聖女フィーネ。五日間、貴殿の働きに感謝します!」

 

 良い顔を浮かべた代表の人は両手を広げてから、片腕を胸に当て大仰な礼を執った。フィーネさまの口の端が引き攣って見えるのは気のせいだろうか。

 この五日間、フィーネさまだけが頑張ってきたわけではない。もちろんフィーネさまは派遣団の代表として指揮を執っていたが、二人の聖女さまも宣教師の人も他の方々も人手の少ない中、ずっと首都の人たちのためにと働いていたのである。

 食事だって、支援に入った者が温かいご飯を食べていては首都の人たちは良い気がしないと、教会の狭い一室を借りて簡単な食事で済ませていた。支援物資の小分け作業もあるので、力仕事もたくさんあった。なのにフィーネさまと相対している代表の()は、フィーネさまだけを労うなんて、周りが見えていなさすぎる。

 

 「……私への感謝より、街に住まう方々の状況をご心配ください。貴方方はいつまで彼らを空腹にさせるつもりなのですか? 王の圧政により立ち上がった貴方方が、打倒した王と同じことをしていると何故悔やまぬのです!?」

 

 いつも柔らかい表情で笑みを絶やさないフィーネさまが厳しい顔をして代表の男に言い放つ。聖王国のほとんどの面子が彼女の言葉に同意するように頷いている。

 

 「方々に手を尽くしておりますよ。そして我々の血の滲む努力が実り始めている。支援物資を各国から受けられることになったと先日申したでしょう?」

 

 確かに自由連合国の要請は受け入れられて各国から支援物資が用意されているのだろう。だがその品が届く先は聖王国である。もしかして彼らは荷物の届き先を知らないようだ。

 で、なければ国の面子を潰されているようなことを各国からやられているのに、自慢話として声高らかに宣言しないだろう。広場に残っていた数少ない首都の人たちは食べ物がまた届くようだと安堵していた。

 

 堂々と語る代表の男にフィーネさまは言葉は届かないと諦めたようで、男の目の前で大きな溜息を隠さず吐く。すると代表の男が彼女へ一歩近づいて少し背を屈めた。

 

 「ふふ。なにも言い返せないようですなあ。しかしながら大聖女殿の憂い顔も美しいとは。如何ですかな、聖王国を出て自由な国を標榜する我が地へこられては? 貴女のご尊顔を毎日見られるならば活気が湧きます!」

 

 代表の男の言葉にフィーネさまは大きく二歩下がり、二人の聖女さまと並ぶことになった。先程のフィーネさまの表情は憂い顔というよりは、怒りで無表情になっていたか、代表の男に呆れかえっていたかのどちらかだろうに。勘違いの凄い男だと俺は訝しんでいれば、横にいたユルゲンが『正気でしょうか』と割と厳しいことを言っていた。気を取り直したフィーネさまは半歩だけ前に出る。

 

 「お断りいたします! 私は聖王国の大聖女。貴国に所属することは一生ないと宣言いたしましょう」

 

 「おや、残念です。しかし気が変わることもありましょう。私たちは貴殿をいつでも迎え入れましょう」

 

 フィーネさまの宣言を男は聞いていないのか、それとも敢えて聞こえないフリをしているのか……分からないが、失礼な男だと派遣団一行の顔に出ていた。

 建国して一年くらいしか経っていない国が、長年続いている聖王国の、しかも大聖女さまに良く言えたものだと感心してしまう。自尊心のすこぶる高い鈍い人物となるにはどうすれば良いのだろうか。分かり兼ねるが、目の前の男の様にはなりたくないので気を付けよう。

 

 うふふ、はははとなんとも言い難い空気がフィーネさまと代表の男の間に流れている。すると宣教師の人が四角い顔に笑みを浮かべ、代表の男にゆっくりと近づいた。

 

 「貴方さまは聖王国の大聖女の価値を見誤っているようです。女神さまがお認めになった聖痕を持つ方に失礼なことを言わないで頂きたいものですねえ」

 

 「確か聖王国に大聖女は二人いるはず。一人が国を出たところで、問題ないのではないかな?」

 

 宣教師の人が抗議の声を上げれば、代表の男はふっと鼻で笑って勝手なことを言っている。フィーネさまはさきほど自由連合国所属になるつもりはないと宣言したのに、本当に失礼なことを男は口にしていた。

 自由連合国上層部の他の人たちは代表を止める気はないのか誰も男に注意をしない。一人ほど手を青くさせた顔に当てているが代表の男を諫める立場にないようで、本当に申し訳ないと言いたげな視線をフィーネさまと派遣団に向けている。

 

 「そうもいきません。沢山の信者の方から大聖女さま方は尊敬を集めておられます。聖王国や西大陸各地にいらっしゃる信徒の皆さまの怒りを買ってしまいましょう」

 

 確かに宣教師の人が口にした通り、フィーネさまが自由連合国に所属すれば『何故?』となるに違いない。聖王国の大聖堂で日夜活動を続けてきたフィーネさまと大聖女ウルスラは信徒の人たちから絶大な人気を誇っている。いきなりそんなことになれば怒りだす可能性は十分にあるだろう。宣教師の人と代表の男の話はどうなると見つめていれば、くつくつと男が笑う。

 

 「脅しかな? 武力を持たぬ聖王国に言われてもなんら響かないのだがねえ」

 

 「武力は確かに持っておりませんが信仰はあります。時に武力よりも強いものになることもありましょう」

 

 代表の男が聖王国は恐れるに足りないと言っているが、各国の教会から信徒の人たちを募れば戦力の供出はできるのではないだろうか。民が飢えている国よりも聖王国の方が勝ってしまいそうだ。

 

 「試してみるか?」

 

 「いえいえ、恐れ多いですし、戦えば死者が出てしまいましょう。罪なき者が倒れた姿を見るのは忍びないですからねえ」

 

 男の声に宣教師の人が胡散臭い困り顔を浮かべているが、罪なき者が倒れている首都の外縁部へなにも対策をしない男に向けた皮肉なのだろうか。宣教師の人が話を躱したから、フィーネさまが再度口を開いた。

 

 「我々聖王国が、この度用意した物資は底をつきました。撤収作業が完了次第、引き上げ致します」

 

 「ご苦労さまでした。また貴女と出会える日がくることを、私は待ち望んでおりますよ」

 

 少し目つきの厳しくなっているフィーネさまが代表の男に冷たく言葉を返すものの、言われた本人はさほど気にしていない。革命を企てた男は切れ者かと思いきや、単に自分勝手なだけのような気がしてならない。件の男は話は終わったと言わんばかりに仲間を連れて踵を返し、城の方へと向かっていった。小さくなる彼ら一段の姿を見て思う。

 

 「なにしにきたんだ、あの人」

 

 本当になにをしにきたのかという疑問が俺の心の中で渦巻いている。フィーネさまを口説いているようにも見えた。そもそもフィーネさまの隣に立つなら先程の男では不釣り合いだ。俺が彼女と釣り合うかと問われれば正直微妙なところであるが、きちんと俺たちの心は通じ合っている。むうと顔を顰めていると、ユルゲンが小さく笑いながら俺を見た。

 

 「分かりませんねえ。大聖女さまの顔を見にきたと言われれば、納得できてしまいますが……エーリヒ」

 

 「ん?」

 

 ユルゲンと視線を合わせれば、彼はフィーネさまの方へと視線を向ける。

 

 「彼女に労いの言葉でもかけてきては?」

 

 ユルゲンに倣って俺もフィーネさまを見れば、なんとも言えない……チベットスナギツネのような顔を披露していた。彼女の側にいる二人の聖女さまは『失礼な方ですね』『フィーネさまを自国に呼び寄せようなんて』と怒っているようだ。宣教師の人も『おそらく女神さまを信じておられないのでしょうねえ。悲しいです』と悲壮に満ちた顔となっている。

 

 確かにフィーネさまは大聖女として代表の男と相対していた。ただのフィーネさまとして話を聞いてみた方が良いだろうと俺はユルゲンに『そうする。ありがとう』と伝え、撤収作業を終えて彼女の下へと急ぐ。

 俺はアルバトロス王国の外交官として聖王国の派遣団に付いて行っているだけの身だ。大聖女であるフィーネさまと長話はできない。でも何故か俺とフィーネさまが話そうとしていると、二人の聖女さまたちは場から少し距離を取ってくれたりして気を使って貰っていた。

 どうしてそうなるんだと言いたいのだが、俺がフィーネさまの近くへ行って声を掛ければ屈託のない笑みを見せてくれる。おそらく二人の聖女さまはフィーネさまの顔を見て分かっているのかもしれない。とはいえフィーネさまと直接話せる機会は貴重なので有難く彼女たちの気遣いを受け取っておく。そして満面の笑みで迎えてくれたフィーネさまの前に俺は立った。

 

 「フィーネさま」

 

 チベットスナギツネの顔はどこか遠くへ飛んで行ったようで、今はもういつものフィーネさまのようである。とはいえ面倒な人に絡まれたことはストレスにもなるだろう。一先ずはお疲れさまでしたと無難に声を掛けるべきかと俺は彼女を見る。

 

 「どうしましたか、エーリヒさま」

 

 「あ、その。啖呵を切るフィーネさまはカッコ良かったのですが……大丈夫ですか?」

 

 俺がフィーネさまに声を掛ければ、二人の聖女さまはすすすと後ろへ下がり、近くにいたユルゲンも話が聞こえ辛い位置へと移動してくれる。

 

 「恥ずかしいですね。つい、腹が立って口にしてしまったので、もっと落ち着いて行動しないと……あ、私は大丈夫です。最初にナイさまと対面した時より全然、怖くもなんともなかったですからね!」

 

 フィーネさまがぐっと握り拳を作って大丈夫と教えてくれるのだが、フィーネさまとナイさまの初っ端に出会った時になにがあったのだろう。ある程度は把握しているけれど、当人たちの気持ちは報告書では知る術がない。ナイさま、もしかして怒りで魔力が駄々洩れだったのだろうか。それならフィーネさまがナイさまと対面した時に怖かったと感じたことに納得できる。

 

 「いえ。長旅となりましたし、どこかで休みが取れると良いのですが」

 

 「近々で休むのは少し難しそうですね。大陸会議が聖王国で開催されますから。各国の皆さまの参加表明が次々に舞い込んでいるそうですよ」

 

 俺が休日を設けられると良いのですがと伝えれば、フィーネさまが小さく笑いながら『返事が早かったと猊下が教えてくださいました』と教えてくれた。忘れていたわけじゃないけれど、聖王国で近々大陸会議が開催される。本当にどうなるやらとフィーネさまと俺は肩を竦めて、首都の外を目指すため、派遣団一同は馬車へと乗り込むのだった。

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