魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0704:大陸会議開催通知。

 ギド・リームはソフィーア・ハイゼンベルグ公爵令嬢との婚約が決まり、アルバトロス王国でそのための準備を整えているところであるが、今日は母国であるリーム王国へ戻っている。

 

 こちらへ向かう時に見送りにソフィーアから『お気をつけて』との言葉を貰ったのだが、相変わらず彼女は律儀な人だ。アストライアー侯爵の側仕えを務めているのに、俺がリームに向かうと知るや『有給休暇』なるものを取得してくれ、駆けつけてくれたのだ。彼女はアストライアー侯爵領、俺は彼女が賜る予定の子爵領で過ごしているため、なかなか会えないが嬉しい誤算だった。お互いに器用ではないので手探りではあるものの、少しずつ少しずつ距離は縮まっているはず。

 

 少し先の未来で必ず彼女と添い遂げようと誓い、リーム王国へと転移したところだ。

 

 アルバトロス王国よりも田舎の雰囲気が強い母国であるが、良いところなのは確実だ。聖樹が枯れてしまい、一時期王都の民は悲観に暮れていたが、聖樹がなくとも野菜や穀物に家畜は育つと分かり明るい表情が戻っている。

 件の聖樹殿はとある森の奥で穏やかに過ごされていると報告で聞いた。天馬の番がやってきて、聖樹殿の世話になっているという話も耳に挟んだ。良いことだと頬が緩むのを感じながら、俺は王城の長い廊下を護衛と共に歩いて、長兄であるリーム王の執務室の前へと辿り着く。

 

 久方ぶりの母国だが、今日はアルバトロス王の手紙を預かっているためリームに戻ってきた。使者として、兄上の前で無様を晒さぬようにと気を引き締める。執務室の扉の前にいる護衛の者は顔見知りだった。俺の顔を見た途端、少し嬉しそうにするものの直ぐに顔を引き締め礼を執ってくれた。俺も騎士の礼を執ったあと、扉を三度ノックする。

 

 「陛下。ギド・リーム、ただいま戻りました」

 

 俺が声を張り上げると、直ぐに中から『入れ』という声が聞こえ、部屋の中にいた者が扉を開けてくれる。俺は足を進めて執務室の中に入ると奥に長兄の姿があった。次兄も一緒だったようで、笑みを浮かべて俺を迎え入れてくれる。そうして長兄が座す執務机の前に立った俺は懐に納めていた手紙を取り出し、彼の前に差し出した。

 

 「アルバトロス王より手紙を預かっております。直ぐに目を通して頂きたい」

 

 机の上に置いた手紙を、すっと動かして長兄の前へ移動させる。手紙を俺が持ってくることを兄上たちは知っているが、内容まで知らないために少し緊張しているようだ。

 アストライアー侯爵閣下のお陰なのか、アルバトロス王国は西大陸の王たちに一目置かれるようになっている。隣国であるリームでも創星神さまの使者を務めたアストライアー侯爵は街で人気があるそうだ。過去に彼女の身に起こった話も流れているようで噂の的となっている。今は女神さま方がアストライアー侯爵邸で過ごされているという噂が流れており、本当か嘘かと盛り上がっているそうだ。

 

 創星神さまの使いを務めた侯爵が属しているアルバトロス王国も凄いとなっているとか。そして王が侯爵を御しているとなれば、それは神に近しい存在でもおかしくないのではと。

 俺はナイ・アストライアー侯爵という方の人となりを知っているし、彼女がアルバトロス王国に在籍しているのは単に仲間と後ろ盾であるボルドー男爵のためとも知っている。大仰に騒ぐ理由はないのに、街の者たちは聞いた噂を大きくしていくのが楽しいらしい。今はアルバトロス王が凄いと感心しているとか。

 

 そんなアルバトロス王が長兄に宛てた手紙の内容は単純なお願いだ。使いを務めることになった俺にはアルバトロス王から内容を知らされている。

 

 「分かった。ご苦労、ギド」

 

 「いえ」

 

 一先ず、手紙を読んで貰おうと家族との会話は控えておく。長兄は封蝋を開け、中身を取り出した。数枚に綴られた手紙を長兄はすらすらと読み進め、ふうと息を吐いて手紙の一枚を抜き取った。そうして長兄は次兄に手紙を渡して読んでみろと呟いた。次兄が目線を落として手紙を読み始めれば、長兄が俺と視線を合わせてはあと息を吐いた。

 

 「話には聞いていたが……東で面倒なことが起こっているようだな」

 

 長兄の声に俺は無言で頷く。自由連合国という新興された場所で問題が起こっている。首都では流通が止まり民が飢えているとか。政府の者たちは周辺国へ物資提供の協力を募っているが返事が芳しくない。

 どうにも自由連合国の代表は大陸会議に参加しておらず、各国の王から不興を買っているのを知らず、どうにもならないと聖王国を頼り援助を取り付けた。

 

 ただ聖王国も見返りのない支援はやりたくなかったのだろう。直接、自由連合国へと乗り込んで物資を配給したそうだ。大聖女フィーネさまが向かったあたり、聖王国の本気度合が伺える。

 そして自由連合国は周辺国だけでは支援が足りないと、更に協力要請の範囲を広げて書状を送ったとか。何度も舞い込む支援要請に東地域の各国の王たちは面倒になったようで、聖王国に支援を送りそこから自由連合国へ渡るように都合をつけた。

 

 その間には聖王国の派遣団が首都入りを果たし、自由連合国上層部と一悶着あったようだ。詳しい内容は届いていないが、追って知ることになるだろう。アルバトロス王からリーム王に向けた手紙の最後の内容は『聖王国の大聖女に無礼を働いた自由連合国上層部を潰さないか?』というものである。

 

 次兄が手紙を最後まで読み終えたのか、目を丸くしながら口を妙にもごもごさせていた。

 

 「ぶふっ!」

 

 我慢ができなかったのか次兄が吹いてしまう。

 

 「で、殿下!? 如何なさいました!?」

 

 次兄を心配している者に手紙が前へと差し出される。

 

 「よ、読んでみれば私の気持ちが分かるはずだ……」

 

 次兄の声に心配している者が頷き、失礼しますと声を上げて手紙に視線を落とす。

 

 「……――ぶっ! げほっ、ごほっ! こ、これは……」

 

 心配していた者が咳き込んでいると、長兄が次の者に回せと目で合図をしていた。そうして側にいた別の者に手紙が渡るのだが、読んで良いのか顔を変にしつつも命令には逆らえないと視線を落とす。

 

 「ひぇ……アルバトロス王は本気なのですか?」

 

 確かに平和路線を政治標榜としているアルバトロス王がらしくないことを書いている。でも、自由連合国は創星神さまの使いを務めたアストライアー侯爵に弓矢を番えている。

 侯爵本人は『石を渡して目的は遂げているので、特になにもしない』と言っていたものの、アルバトロス王は従えている諸侯を危険に晒したなら、許せるものではない。きっと虎視眈々と機会を伺っていたのだろう。

 

 「本気だろう。なにせ彼の国はアストライアー侯爵に失礼極まりない態度を取っている。治安が悪いからと言って、創星神さまの使いに武器を向けるなどあり得ない」

 

 長兄が厳しい顔を浮かべて言いきっている。長兄もアストライアー侯爵に助けて貰っていた。だから彼女を無下に扱う者に対して言いたいこともあるのだろう。

 他国を潰すとなれば多大な労力と金が必要になるのだが、各国の王たちと協力してなにか一手を講じているようである。それがなにかは知らないので、俺に聞く権限はないのだろう。兄上が抜き取った手紙の一枚に、重大なことでも書いているのかもしれない。

 

 ざわざわとする室内で長兄が咳払いを一つした。

 

 「少し急ではあるが都合を付け、聖王国で行われる大陸会議にリームも参加する。大恩あるアストライアー侯爵に矢を向けたことを後悔して貰わねば」

 

 長兄が厳しい顔になり、聖王国で行われる大陸会議に参加する表明をした。俺も行って情報を得たいところだが、無理は言えないとぐっと堪える。その代わりに長兄には私的な手紙でどんな様子だったかを聞けるだろう。隠さなければならないことは分からないが、手紙に記された情報でなにか繋がることもあるはず。執務室にいる者たちが確りと頷いて、長兄の予定調整を早速始めるのだった。

 

 ◇

 

 アルバトロス王に嫁いだ娘が我が国であるガレーシアに戻ってきている。少し前にアルバトロス王が記した手紙を持って戻ってくると聞いていたから驚きはない。驚きはないのだが……執務室で私の目の前に立つ娘が愉快そうな顔をしていることが不安でならない。

 私の執務室に立つ我が娘はふふと妖艶な笑みを携え、胸元からアルバトロス王が記したであろう手紙を取り出した。

 

 「父上、いえ、陛下。我が夫であるアルバトロス王から預かった手紙を届けに参りました」

 

 「また、胃の腑がいたくなる内容か?」

 

 娘が手紙を机の上に置き細い指先で触れ私の前に差し出す。アルバトロス王家の封蝋が施された手紙を見て、自身の片眉がまるで生き物のようにぴくりと動いたことが分かる。執務室にいる他の者たちも手紙に警戒をしていた。

 

 どんな内容が記されているんだ、と。私の胃の腑に衝撃を与えるものでなければ良いのだが、アルバトロス王国にはアストライアー侯爵がいる。

 

 また彼女が我が国であるガレーシアを頼りたいと申し出ているのだろうか。そして海竜さまが王都近くの港に姿を現すのだろうか。また王都の街中が騒ぎ出し、不安に駆られる者や、吉兆の現れだと喜ぶ者が増えるだろう。なにも起こらないと王都の彼らを説得しなければならない、ガレーシア王国の騎士たちが不憫でならなかった。

 

 はあと深い溜息を吐いて胃を抑えた私に娘がくすりと笑う。

 

 「どうでしょうか。むしろ楽しんできてはとわたくしは言いたくなりますわ」

 

 「? まあ、良い。見せてくれ」

 

 娘は面白そうな顔を浮かべて私を見ていた。渡された手紙を読まねばなるまいと私は手紙に手を伸ばし中身を取り出す。丁寧な文字で綴られた手紙には『自由連合国が大聖女フィーネに失礼な態度を取ったし、アストライアー侯爵にも無礼を働いている。いっちょ、大陸会議で弄んでみない?』とお伺いの手紙であった。もちろん意訳である。

 

 確か自由連合は王が悪政を敷き民が立ち上がり、国の頂点に立つ王と王族を排除した国である。王政を執っている我々にとって彼の国の王が倒れたと知った時は衝撃が走ったものだが、新しく興った自由連合という国の内情は良くないそうである。

 物流が止まった首都の民は飢え、聖王国が支援に入ったものの十分な量は得られていないはず。他の国の王たちは自由連合国の代表が大陸会議に姿を現さなかったため、不満を募らせている。

 

 ましてやアストライアー侯爵に矢を番えたことをチクチク言ってやろうと期待していたのに、件の者が現れないことに残念がっていた。特にヤーバン王と亜人連合国の代表はただならぬ空気を醸し出していた。私はその空気を感じ取って胃が痛くなったし、もし自由連合国の代表が次回の大陸会議に姿を現すならば、我が胃の痛みを思い知って貰う良い機会かもしれない。

 

 「父上、悪い顔をなさっておりますわ」

 

 「偶には王として新参者へ忠告をしても構わんだろうとな。よし、少し予定が詰まっているが、どうにかなるはず。私も次回の大陸会議に参加する!」

 

 胸を張って言い切ると、執務室にいた者たちが承知しましたと落ち着いた声色で告げた。そうして娘がまた胸元から紙袋を取り出して私の前に置く。

 

 「わたくしは参加できませんし、詳しいことをお聞かせくださいね。あとこちらを。アルバトロス王国のフライハイト領で採れた薬草を煎じたものですわ。胃の痛みに良く効くそうです」

 

 どうやら我が娘は私が胃の腑を痛めているとどこかで知り、薬を持ってきてくれたようだ。

 

 「おお、すまん! まさか、アストライアー侯爵の関係者か? ……目を逸らすな!」

 

 まさかと問い質してみれば、我が娘は私から視線を外して明後日の方向を見る。だが気持ちは有難いので、遠慮なく受け取っておこう。さて、次回の大陸会議が楽しみだ。

 

 ◇

 

 聖王国、大聖堂。

 

 大聖堂の大扉から祭壇前まで歩いていく案内役の聖職者の後ろを、私たちヤーバンの者も歩を進めている。私は物珍しさにきょろきょろと周りを見渡しているのだが、凄く派手な場所だというのが正直な気持ちだ。ヤーバン王国という田舎から出てきた王なので、大聖堂内の意匠に驚くばかりである。

 私の護衛を務めている者たちも高い天井に描かれた絵画の数々を見上げたり、祭壇上にあるステンドグラスに視線を向けていた。そうして各国の王を参集させた聖王国で一番偉い者が祭壇に立っていた。彼の横には大聖女が二人控えており、彼女たちはアストライアー侯爵と親交があると聞いている。恥を掻かぬようにせねばと気を引き締め、私は祭壇に立つ男と対面した。

 

 「ようこそ、聖王国へ。ヤーバン王国国王陛下」

 

 「大陸会議にはなるべく参加した方が良いとアルバトロス王から聞いている。少し場違いな我々であるが、受け入れてくれたこと感謝する。教皇……猊下」

 

 教皇という各国にある教会の頂点を務める者に挨拶をした。私たちの格好に少し驚いていたが、直ぐに鳴りを潜めさせて落ち着いた声色で挨拶をくれたので、場数は踏んでいるようだ。彼の声と共に大聖女二人も礼を執っている。個人的には彼女たちとアストライアー侯爵の話をしたいのだが、流石に勝手をすれば教皇の顔に泥を塗ることになると私は我慢を選択した。

 

 しかし教皇という慣れぬ言葉に敬称が直ぐに出てこなかったのは仕方ない。私の側仕えが『呼び捨ては駄目ですよ! 猊下と敬称をお付けくださいね!』と教えてくれていたので恥を掻くことはなかった。

 ただでさえヤーバンは他国より文化の成長が遅れている。田舎者の野蛮人とそしりを受けることはなるべく避けたい。まあ、そう呼ばれたならば、口にした者を殴って言い聞かせるが。

 

 「自由連合国の代表とやらはくるのかな?」

 

 「ええ、意気揚々と」

 

 私の質問に教皇が楽しそうな口調で答えつつ、厳しい目になっていた。私も私でアストライアー侯爵に矢を番えた馬鹿者に直接会えるのはすこぶる嬉しい。

 

 「陛下、顔、顔っ!」

 

 側仕えの者が私の顔が不味い物になっていたようで、小声で注意をしてくれるのだが……元々声の大きいヤーバンの者である。教皇たちに確りと聞こえていたようで、彼ら一行は苦笑いを浮かべていた。

 

 「と、失礼。あまりにも驚いてしまったのでな」

 

 流石に聖王国の面々に殺気を向けるのは違うと、怒りの気持ちを抑えた。教皇は小さく口の端を伸ばして言葉を紡ぐ。

 

 「気持ちは理解できます。創星神さまの使いを務めるアストライアー侯爵に無礼を働いたばかりか、聖王国の大聖女フィーネに大きな口を叩いたことも許しがたいこと。少し仕置きをしなければと、自由連合国の周辺国と相談した上で此度の会議となりました」

 

 教皇が大聖女フィーネという少女へ顔を向ければ彼女は小さく頷いた。どうやら聖王国の象徴である大聖女に自由連合国の者たちは無礼な態度を取ったようである。支援に向かい食料を配りつつ、治癒院を開いていたそうだ。そりゃ、自由連合国の要請で向かったというのに大聖女に無礼を働かれたならば教皇の怒りは理解できる。

 

 「ふむ。では気兼ねなく暴れても良いのかな?」

 

 「言葉でならば。流石に国を滅ぼすとなれば、自由連合国に住まう多くの民が困りましょう」

 

 私が教皇に問えば少し肩を竦めながら答えてくれた。もしかして彼はエーレガーンツ王国の顛末を知っているのだろうか。とはいえエーレガーンツ王国王都陥落は歯応えなく終わってしまっている。

 もう一つくらい胸躍る戦いがあっても良いのだが、流石に自由連合国へと攻め入るのは距離が開き過ぎている。確かに言葉で攻めるのが常道だろう。だが、自由連合国を今のまま放置するのは得策ではない。民は飢え、支援を各国に要請するほど疲弊しているのだから。

 

 「しかし、どうするのだ?」

 

 「策は用意してあります。あとは各国の陛下方に許可や支援を頂ければと」

 

 私の疑問を軽く返した教皇の目には静かな怒りが灯っている。これは修羅場を潜り抜けてきた者の目だと私は判断した。

 

 「なるほど。今、聞いては楽しみが減ってしまう。教皇猊下の策、期待しよう!」

 

 となれば話は今聞くのではなく、現場で事態を知った方が面白いはず。私は笑みを浮かべて教皇との挨拶を終える。後ろには他の王たちも控えており、大聖堂の祭壇に祈りを捧げるためにやってきているとか。私に信仰心なんてものはないので、祈ることはなかった。大陸会議で知り合った王たちが数多くいるなあと感心しながら大聖堂を抜け、隣にある官舎へと我々は移動するのだった。

 

 ◇

 

 各国の王が聖王国に集まり、会議室で話が始まる前のことである。大聖堂で教皇と挨拶を終えた各国の王たちは各々、隣にある官舎へと移動していた。

 仲の良い王同士で歩いていたり、一人で歩いていたりと様々であるが、私、アルバトロス王は供を控えて一人で歩いている最中だ。決して、親しい友がいないというわけではなく、遠巻きに私を見ている王が多いだけである。

 

 歩いていれば不意に気配を感じれば、リーム王が笑みを携えて私に小さく頭を下げる。

 

 「アルバトロス王、お久しぶりですな」

 

 「久しぶりだ、リーム王。少しは執務に慣れてきたかな?」

 

 リーム王は照れ臭そうな顔になり『まだまだ慣れないこともありますが、国は確実に良い方へと向かっております』と言い切った。それならばアルバトロス王国がリーム王国に協力を申し出た甲斐があったと私も笑みを浮かべる。

 リーム王国の芋が美味しいとアストライアー侯爵が頻繁に買い付けをしているようだが、リームに負担になっていないだろうかと少し気になってきた。私の横に並んだ彼に問うてみる。

 

 「いえ。重荷になどなっておりませんし、アストライアー侯爵のお陰でリームは立ち直った。彼女と取り交わしている契約には、天災に遭って飢饉に陥れば取引は停止すると記されています」

 

 ふふふとリーム王が笑い、第三王子が侯爵に贈った芋の次代を王家が育てているとのこと。成長が早く、病気にも強い上に、味も悪くないそうだ。

 ただ代を経るごとに成長が普通になっているものの、味は変わらないそうである。やはりアストライアー侯爵の下で育つ『なにか』は特殊になるようだ。とはいえまさか契約時にそこまで彼女が考えているとは。

 

 「そうか。そういうところは、アストライアー侯爵だな」

 

 「ええ。侯爵は一手、二手、先のことを確りと考えているようですから」

 

 私の声にリーム王が同意する。食べ物関係は抜かりないのだなあと感心するが、その執着を少しでも事件に巻き込まれた際に発揮して欲しい。侯爵は時折報告内容がすっぽ抜けるのは如何なものだろう。側仕えと護衛の二人からも報告書が提出されているので問題ないが、侯爵は起きた事件の中での小さな出来事を報告し忘れたり、本題と関係ないところで大事を仕出かしていることもある。

 私が彼女が記した報告書を読む度に抜けはないのかと、他の者の報告書をしかめっ面で眺めることになる。二人で歩いていると、後ろから大きな足音を立てて歩く者たちがいる。独特なこの歩様は……と考えていれば丁度、彼らから先に声を掛けてくれた。

 

 「おお、アルバトロス王! っと、ご歓談中でしたかな?」

 

 「ヤーバン王か。紹介しよう、こちらはリーム王だ」

 

 朗らかな笑みを浮かべながらヤーバン王が私に声を掛ける。ただリーム王がいたことに気付き、申し訳なさそうな顔になった。とはいえ会議でお互いに顔は知っているだろうが、話すのは初めてだろうとヤーバン王に向き直る。

 

 「確かアルバトロス王国の隣の……! アストライアー侯爵の側仕えを務めているハイゼンベルグ嬢に第三王子が嫁ぐと聞いておりますな」

 

 「ヤーバン王、直接お会いするのは初めてですな。小さな国だが貴国と良き縁ができると嬉しい」

 

 リーム王がヤーバン王に手を差し出した。それは……うん。差し出された手をヤーバン王が確りと握り上下に振る。するとリーム王が少し困惑したような顔をしていた。

 私も彼女と初めて握手をした時は驚いたものである。女性らしからぬ握力の強さで手に痛みが走ったのだから。ヤーバン王は振り終えて満足したのかにっと笑みを浮かべ、リーム王はこっそりと握られた手を見えない位置で振っていた。

 

 「リーム王国は農業が盛んでな。興味があるなら、誰か赴かせても良いのではないか? もちろんリーム王の了承も必要だが」

 

 「構わないのか! 我が国は力自慢が多くいるが、如何せん腕っぷしで解決しようという節があるからなあ。叶えば嬉しい!」

 

 私が提案をすれば真っ先にヤーバン王が声を上げる。リーム王は少し勢いに押されるも、特に問題がないようでヤーバンの者を受け入れると了承してくれる。縁を取り持つことができたと私が笑えば、丁度会議室の前に辿り着く。

 

 「さて、どうなるか」

 

 「楽しみだ!」

 

 「ええ。きちんと馬鹿なことを仕出かしたことに反省をして貰わねば」

 

 私が声を上げれば、ヤーバン王が機嫌良く、リーム王が珍しく威勢の良いことを言っていた。ともかくアストライアー侯爵と聖王国の大聖女に無礼を働いたツケを払って貰わねばと扉を潜るのだった。

 

 ◇

 

 大聖堂の祭壇で各国の王との挨拶を終え、官舎にある大会議室へと向かう。私は教皇として多くの聖王国の者たちを率い長い廊下を歩いていた。ふと私の隣に並んだ一人の枢機卿が少し困ったような顔を浮かべながら声を掛ける。

 

 「猊下、このような事態は聖王国建国以来初めてのこと。どうか無事に終わるようにと願うばかりです」

 

 私に話しかけた枢機卿は聖王国始まって以来の状況に戸惑いを隠せないようである。聖王国に西大陸の各国の王が集まるのは初めてのことであるし、王たちから参加表明がたくさん上がったのも意外であった。

 自由連合国の周辺国とアルバトロス王国の王が手を挙げてくれれば私的には十分だったのだが、他の国からの参加表明が凄く上がって驚いたものである。ただ参加理由が面白そうだから、というのがなんとも言えない気持ちになってしまう。それでも各国の王たちが集まれば場の雰囲気はかなり特殊なものとなり、自由連合国の者たちは気が気ではないはず。

 

 「無事に終わるかは分かり兼ねるが、彼の国にはきちんと責任を取って貰わねばならぬ。大聖女フィーネに対する無礼、アストライアー侯爵に働いた愚行も問い詰めねばな」

 

 彼らが犯した罪と、現在も重ねている愚行にきっちりとけりを付けて貰わねば。上手くことが運べば自由連合国には新たな代表が据えられるか、新しい国が興るはず。

 

 「しかし時間が経っておりますので、しらばっくれる可能性もありましょう?」

 

 「それならそれで構わない。大陸会議に参加したことがない自由連合国の者たちが各国の王の圧に耐えられるか……見物だぞ?」

 

 亜人連合国の代表も参加しているので、会場は本当に異様な雰囲気となるはずだ。自由連合国が興ってから、彼の国の代表は大陸会議に一度も顔を出したことがない。値踏みされる視線を各国の王から受けてみろと願うばかりである。

 

 「げ、猊下? 貴殿はいつの間に好戦的になられたのですか!」

 

 「違う。好戦的ではなく当然の行いだ。宗教国家が政治に介入するのは悪手である。だが信仰を蔑ろにされ、そのままでは聖王国の面子が立たないからな」

 

 まあ、アストライアー侯爵の屋敷には女神さまが過ごされているので、聖王国の価値は下がっているかもしれないが。それでも侯爵は私に箔を付けようと、女神さまとの邂逅を叶えてくれている。

 ならば私は聖王国の教皇として務めを果たさねば。平和な世が一番であるが、面子も大事なのだ。私たち一行は各国の王が待つ会議室の前に立つ。上手く事が運ぶかは分からないが、駒は揃っている。あとは私の差配次第だと顎を引く。

 

 「さあ、気を引き締めていくぞ。議長国なのだからな」

 

 「ど、どうかご無理をなされませんよう」

 

 汗を拭う枢機卿に大丈夫だと笑い、部屋の扉を開くのだった。

 

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